法務委員会 第5号
- 発言数
- 178 件
- 登壇者
- 21 名
- 会派数
- 6
- 開催日
- 1995/03/28
会議録
○金子委員長 これより会議を開きます。 内閣提出、刑法の一部を改正する法律案を議題といたします。 これより趣旨の説明を聴取いたします。前田法務大臣。 ――――――――――――― 刑法の一部を改正する法律案 〔本号末尾に掲載〕 ―――――――――――――
○前田国務大臣 刑法の一部を改正する法律案につきまして、提案の趣旨を御説明いたします。 現行刑法は、明治四十年に制定された法律でありますが、今日までに十回余の一部改正がなされましたものの、法文は当初のままの片仮名まじりの漢文調の古い文体である上、難解な用字用語が少なくありません。そのため、かねてから、一般国民が法文を読んで内容を十分に理解することが困難であるとの指摘があったところであります。加えて、第百二十回国会で成立いたしました罰金の額等の引上げのための刑法等の一部を改正する法律の審議に際しましても、刑罰法令の現代用語化について政府は努力すべきである旨附帯決議で求められたところであります。 このようなことから、国民の日常生活に深いかかわりを持つ法律である刑法の表記を平易化し、国民にわかりやすくすることは、早急に取り組むべき課題となっているものと認められるのであります。 この法律案は、以上のような事情を考慮いたしまして、刑法の表記を現代用語化して、平易化し、あわせて刑罰の適正化を図るために必要な改正を行うこととしております。 改正の要点は、次の三点であります。 その一は、刑法の表記を平易化することであります。 刑法の表記の平易化が緊急の課題となっており、なるべく早期に実現する必要があることにかんがみ、内容の変更を伴う改正は行わないとの基本方針のもとに、現行刑法の条文を、次に述べます二点を除き、可能な限り忠実に現代用語化して平易化することとしております。 その二は、尊属加重規定の削除であります。 尊属殺人に係る刑法第二百条につきましては、昭和四十八年四月四日、最高裁判所において違憲の判断がなされているところでありますので、今回の改正に当たり違憲状態を解消する必要がありますが、事案の実態や違憲判決後約二十二年にわたり通常殺人の規定が適用され、被害者が尊属である事情を踏まえ、事案に即して科刑が行われてきている実情にかんがみ、これを削除することとし、これとの均衡等を考慮し、尊属傷害致死、尊属遺棄及び尊属逮捕監禁についても、あわせて削除して通常の傷害致死等の規定によることとしております。 その三は、聾唖者の行為に関する規定の削除であります。 現行刑法第四十条は、聾唖者の行為については、これを罰せず、または刑を減軽することとしておりますが、この規定は、聴力及び発語能力を欠くために精神的な発育がおくれることが多いと考えられていたことから設けられたものでありますところ、現行刑法制定後の聾唖教育の進歩拡充等の事情にかんがみますと、今日においては、責任能力に関する一般規定を適用すれば足り、同条を存置しておく理由はなくなったと考えられますことから、これを削除することとしております。 以上のほか、所要の規定の整備を行うこととしております。 以上が、この法律案の趣旨であります。 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
○金子委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。 ―――――――――――――
○金子委員長 この際、お諮りいたします。 ただいま議題となっております本案につきまして、本日、参考人として上智大学法学部教授松尾浩也君、東京新聞・中日新聞論説委員飯室勝彦君、日本弁護士連合会刑法改正対策委員会副委員長渡辺脩君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○金子委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。 ―――――――――――――
○金子委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じます。 次に、議事の順序及び発言について御説明申し上げます。 まず、松尾参考人、飯室参考人、渡辺参考人の順に各十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑できないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。 それでは、まず松尾参考人にお願いいたします。
○松尾参考人 上智大学法学部教授松尾浩也でございます。 刑法の一部を改正する法律案が国会に上程されまして、現在御審議をしておられるわけでございますが、私は、この法律案の上程は時代の要請であり、刑法改正に関するこれまでの動きからしますと、必然的なものであったというふうにさえ考えるものでございますが、本日は、主としてその理由を申し述べさせていただきたいと思います。 先ほど法務大臣の趣旨御説明の中にもありましたとおり、現行刑法は片仮名まじりの漢文調の古い文体で難解な用字用語を含んでいることは、だれしもすぐに気がつくところでございます。そしてこの点は、同じく明治時代の法律である例えば民法の第一編、第二編、第三編、あるいは商法の第三編、第四編というような箇所と比較いたしましてもひとしお著しいというふうに思われるのでありますが、それにはそれなりの歴史的な経過がございまして、明治維新の後、政府はまずもって刑事法の整備に力を尽くしたことは御承知のとおりでありますが、その際、最初に採用されましたのは、律令法系の法典であります。 これはやむを得ないところでして、明治の初年に西洋法に通じている日本の法律家は皆無と言ってもいい状態でありました。これに反して、明律、清律等の研究の蓄積は相当なものがあったのでありまして、とりあえずこれを技術的に利用するということが不可欠であったと思われます。 さらに、明治維新はある程度まで復古的な思想を基盤ともしておりましたから、両々相まって律令系の刑法典がつくられたということになるわけであります。明治三年の新律綱領というのがその代表的なものでございますけれども、これが十数年にわたって日本の法制、司法制度を刑事的側面において支配したということになるわけであります。 むろん政府は、急速に西洋法の継受に努めることとし、フランスの法律家であるボアソナードを招聘して鋭意新しい法典の作成に努めたのでありますけれども、その経過におきましても、結局フランス語で書かれた草案を日本語に訳するという場合に、その作業に従事したのは、極めて漢学の素養のある、そして今の律令法に通じているような人たちであったわけでして、おのずからそこに生まれてきた日本語の法案というものも漢文体の荘重な文革ということになったわけであります。 民法、商法などは、このような意味での前史を持っておりませんで、明治三十年前後に直ちに立案され、公布されたということになるわけでありますが、刑法は、そのような過程を経ながらやがて明治四十年に全面改正を受け、現行法になっているわけですけれども、その際、無論、旧刑法以来の古めかしい用語というものをかなりの程度において削り去ったのであります。しかしながら、反面において古いものも相当に残ったということになるわけであります。 ちょっと前後いたしましたが、ボアソナードの原案をもとにした旧刑法は、明治十二年に成立し、十五年から施行されております。それが明治四十年に現行法に移行したわけでありますけれども、その際にもこの古い要素が残ったということで、際立った例を一つだけ申しますと、いわゆる抽象的な事実の錯誤と呼ばれる規定がございまして、「罪本重カル可クシテ犯ストキ知ラサル者ハ」云々という今では有名な規定でございますけれども、非常にわかりにくい例として挙げられますが、これはほとんど同じ文章の規定が唐律に見出されるという大変古いものであったわけです。 〔委員長退席、斉藤(斗)委員長代理着席〕 しかし、その後、明治から大正、そして昭和の初めの二十年という期間を通じまして、日本の法律あるいは公用の文書というものは文詩体のものがほとんどすべてでありました。この間に当たって、日常の生活は非常に変化を遂げ、文学作品を先頭に法律学者の論文なども、大体大正時代には原則として口語で書かれるという状況になったのでありますが、このような口語化への動きから全く取り残されたのが法律の条文であり、また裁判所の判決文であったということに相なります。 そのような状態に対して、戦前から改革を試みる動きというものも無論見られたのでありますが、これは戦前は実を結ぶに至りませんでした。そのような状況が戦後になりまして一挙に変わったわけでありまして、日本国憲法の制定がその大きな引き金になりまして、それ以後に国会で採択される法律は、すべて口語体の現代の生活に適合した文章ということになったわけでありますが、そこで、取り残された法律というものをどうするかが潜在的には大きな問題であったわけでございます。 刑事法の領域でも、刑事訴訟法は、昭和二十三年に全面改正を受けましたので御承知のとおり現代文で書かれておりますけれども、刑法は、たまたまその内容において現行憲法と抵触するところが比較的少なかったために、ごく一部の改正で済むということに相なりまして、結果的には、明治四十年刑法のほとんど大部分が残ったということになり、同じ刑事法の分野で、実体法と手続法との間で食い違いを来したという状況が今日まで続いているわけであります。 そのような状況がいわば放置されてきたわけでありますけれども、それは無論理由のないことではありませんで、刑法につきましては、内容の改正を含む刑法典の全面的な見直しという作業が昭和三十一年から既に具体的な作業として法務省で進められてきておりまして、その辺の経緯は法務委員会調査室でおつくりになった関係資料の中に手際よくまとめられていると存じますが、この作業が、約二十年を要しまして、「改正刑法草案」という法制審議会の答申という形で一応の区切りをつけたわけであります。この改正が実現すれば文体の現代語化というのはいわば自動的に行われるというのが当時の理解でありましたが、それからさらに二十年余を経まして、これは現実のものとならなかったことは御承知のとおりであります。 このような状況のもとで、とりあえず刑法の表記のみを改めることを先行させた方がいいのではないかという議論は、昭和四十年代の末あるいは昭和五十年代の初頭あたりから学界の一部にございまして、私もその方向で、刑法の口語化についてという論文を書いたこともございます。 さらに、昭和五十年代の半ばごろからは、日本弁護士連合会の方でもその点に思いをいたされまして、日弁連では刑法の現代用語化という言葉を草案されまして、刑法典を現代用語に改めよう、ただ、日弁連の場合にはかなりの程度の実質改正も同時にやろうという御趣旨でありましたので、先ほど申しました学界の一部の考え方とは共通の点もあり、食い違っている点もあったということになるわけでありますが、その後昭和六十年代に、コンピューター犯罪に関する刑法の一部改正が、「改正刑法革案」とは全く別個のところで行われました。このときなども、原案はもちろん現代文で書かれていたのでありますが、それが法律になるときには、わざわざそれを古めかしい文語に戻して刑法典にはめ込んだというような操作があったわけでありまして、これは今後の改正を円滑に行うためにも口語化をする必要が非常に大きいということを感じさせられたわけであります。 そのような状況を見て、法務省で現代用語化の作業を始められまして、その過程で私も最初のたたき台になる試案の作成等に御協力したのでありますが、かれこれ約五年近い歳月を費やしまして法務省としての成案を得られ、法制審議会の審議を経て国会に上程されたという運びになっているわけであります。 その基本的な内容は、先ほど大臣の御説明にありましたとおりで、意味内容を変えないで、しかし表現は平明な現代語にするということであります。この二つは両立するかとおっしゃられれば、それは一〇〇%完全な意味では両立するはずがございません。しかしながら、極力意味内容を変えないで、しかもできるだけわかりやすい日本語にするというのが、現在お手元にある案の趣旨であると考えております。 原案作成の過程でどういう点に気をつけたか、あるいは困難があったかということについて簡単に申しますと、ごく機械的に処理される段階というのもございます。それは例えば、片仮名を平仮名に変える、濁点がないのにそれを補う、あるいは送り仮名をつけるというようなことは機械的な作業であります。それから第二段階として、条文に句読点を打つ、見出しをつける、それからまた文体を改める、この辺になりますと多少難しい点が出てまいりまして、場合によっては句読点の打ち方によって意味が変わりはしないかというふうなことを考えさせられるわけでありますが、最後にこの用語、用字の問題がありまして、用語を現代語に変えるというのが一番難しい部分であります。この点については、資料集等に、どういう話句が変わっているか、あるいはまた、変えようと試みたけれども実行できなかったかということが表の形で示されているとおりでございます。 用字につきましては、現在、常用漢字表という一つの枠がございますために、法律の条文はこの枠をなるべく尊重してつくるということになっておりますが、現行刑法にはこの枠からはみ出している字が約六十ございます。それをできるだけ使わないようにしたわけですけれども、若干どうしても残るというものがございました。これについては、こそくな措置ではありますけれども、現在ルビを振ることになっておりますので、そういうようなことをして何とかまとめたという次第でございます。 以上、専ら平易化という点に焦点を合わせてお話しいたしまして、あと尊属の部分、聾唖者の部分があるわけでございますが、時間の関係もありますので、その点については割愛させていただこうと思います。 以上でございます。(拍手)
○斉藤(斗)委員長代理 ありがとうございました。 次に、飯室参考人にお願いいたします。
○飯室参考人 飯室でございます。 私は、比較的長い間司法記者をやっておりましたけれども、法律専門家ではありませんので、ここでは、改正案にある表記について、新聞記者として見た具体的な意見を申し上げたいと思います。 まず結論を先に申し上げますと、今回の現代語化、平易化というのはむしろ遅きに失した感がありまして、基本的には大賛成です。内容も、私どもが予想していたよりもむしろ易しく向っていまして、ルビなんかも、もっとルビが多くてもいいと思うのですけれども、ルビを振ったなんというところもヒットじゃないかと思います。ただ、個々に見ていきますと、特に我々新聞記者の目で見ますと、もっと何とかなるのではないかなというところがあるわけです。 私、ここへ伺います前に若い記者、それも入社二、三年の若い記者に改正案を実は読ませてみました。そうしたら、いろいろな反応がありまして、腹が立ったという反応もありましたし、何でこんな難しい言葉を使うのですかという話がありました。 なぜかというと、私も含めて、新聞記者になるのは、法学部を出ても、最終的に法律が難し過ぎるからといって逃げた連中が多いものですから無理もないのですけれども、例えば私の個人的な経験から言いますと、今の刑法を読むためには翻訳書が必要なんですね。日本語なのに翻訳書が必要、しかも今生きている法律なのに翻訳書が必要ということで、私なんかよく「口語六法」という本のお世話になりました。今でも大分人気があるようですが、そういうものをみんな読んできている世代が改正案を見て、直してまだこれですかという意見が出てきたわけです。 例えば、幾つか具体例を挙げてみますと、まず総則からいきますと、五条に「更に処罰することを妨げない」という文章があるのですね。これなんか新聞記者の用語でいきますと、「さらに処罰することもできる」という用語ですんなり理解できるわけです。それから、十九条の「犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物」という文章があるのですけれども、これなんかも私どもの感覚では、「犯罪に用いられた物、あるいは用いようとした物」というような文章でもわかるのではないか。それから、三十一条の「時効によりその執行の免除を得る」という文章なんかも、「時効により執行を免除される」となればむしろ簡単にわかる。もちろん、法律的にはいろいろ正確さという点で議論があるのでしょうけれども、これでもわかるのじゃないかと思うのですね。 それから、四十八条二項の「処断する」という言葉に若い記者がびっくりしたのですね、まだこんな言葉が残っているのですかということで。これなんかはこの文章を、ちょっと長いのですけれども読んでみますと、「罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する」と書いてあるわけですから、「罰金を科すときは」云々で「最高額の合計以下とする」とすれば、それでもわかるのじゃないかという意見でした。 〔斉藤(斗)委員長代理退席、委員長着席〕 こういった、今は総則の例を挙げましたけれども、やはりまだ、これは専門家の方たちがつくった、専門家の方たちがお考えになった平易化であり、現代語化であるのだなという感じがするわけです。 なぜこんなことを申し上げるかといいますと、文章を練るとか言葉を選ぶというときには、だれに読ませるかという見地が大事だろうと思うのですね。私ども新聞記者になるときには、まず真っ先に教え込まれるのは、新聞記事というのは小中学生に読まれなきゃだめなんだよ、小中学生に理解できなければだめなんだよと言われるわけです。社説を書くときも、小学生は無理ですけれども、できれば中学生、幾ら難しくても高校生にはわからなければいけないなということで、一生懸命かみ砕いて書きます。時にそのために厳密な正確さを欠くということもあるわけですけれども、法律の場合にもそういうことがあるのではないかという気がするのです。 具体的に刑法について考えてみますと、まず最初に取り上げた総則です。これは、僕自身としては多少難しくてもいいのかなという感じがします。これはある意味では手続法ですから、弁護士さん、裁判官、検察官、そういう法律の専門家が知っていれば、素人が完全に理解していなくても済む部分ではあろうと思います。ただしかし、第二編の罪を定めた部分はそれではいけないのだろうという気がします。 今回、資料集をいただきましたけれども、刑法の機能としてこういうことが書いてありました。「刑法は、どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が科せられるかを明らかにすることにより、国民が犯罪行為に及ぶことを思い止まらせる機能」があると書いてあります。 そうしますと、これは言ってみれば、国民にやってはいけないこと、あるいはどこまでなら許されるのかという限界を教えることだろうと思うのですね。そうすると、言葉や文章がわからないとそれは不可能です。それも、大人になってから突然文章を読んで知るのではなくて、年少のうちから規範意識を植えつけるという意味では、なるべく低年齢の人にもわかるような文章にすることが望ましいのじゃないのでしょうか。 そういうわけで、多少あら探しめきますが、新聞記者の目でまた各論の部分を少し拾ってみました。 例えば百五条の二というのに「面会を強請」という、強く請求するという言葉が残っています。これなんかも、正確かどうかわかりませんけれども、「強いて」あるいは「無理やり面会を求め」ということではいけないのでしょうか。それから同じ条文に、これは僕は全く素人だからわかりませんけれども、ゴウダンと読むのですか、強く断じて威迫するという言葉が残っているのですが、これなんかも「言葉や態度、動作などで強引に要求に応じさせようとする」というかみ砕いた言い方では伝わらないのでしょうか。もう一つありましたね。百七十八条には「抗拒不能」という理解不能な言葉があります。これなんかも「心理的あるいは物理的に、反抗できない」という表現では伝わらないのでしょうか。 実は、僕が今幾つか挙げた言葉は、私が勝手に言いかえた言葉ではなくて、刑法のコンメンタールを見たらこういう意味だと書いてありました。だから、必ずしも完全に正確ではないかもしれないけれども、専門家がこの文章をもう少し工夫していけば正確に伝わる方法があるのではないか、易しく正確に伝わる方法があるのではないかという気がします。 もっと簡単に言いかえられる言葉があります。百六条と百七条の騒乱罪のところにある「多衆」なんというのは、「大勢」とか「大勢の人」ではいけないのでしょうか。百二十条二項にある「自己の所有に係る」というのは、「自分の所有する」というものではいけないのでしょうか。百四十二条の「人の飲料に供する浄水」なんというのは、「人の飲料にするための浄水」で十分伝わるような気がします。これも同じ用法で、百六十一条の二には「事務処理の用に供する」という言葉がありますね。これなんかも「事務処理に使う」で十分伝わるような気がします。 まあ、あら探しめきましたけれども、事ほどさように法律の文章というのは、専門家の言葉というのは案外素人の言葉とは違って――案外じゃありませんね、随分違っているものだなという実例を幾つか挙げてみました。つまり、改正案は大変努力されていますし、私も歓迎はするのですけれども、まだまだ現代語化されていない部分、特に日常生活では使われていない用語が残っているという感じがします。 確かに、単語あるいは熟語をそのまま別の熟語、単語に言いかえるということはなかなかできないというケースはありますね。それは私も承知していますけれども、改正案を見ていると、必ずしもその単語、熟読をそのまま別の単語、熟語に置きかえるということにこだわってはいません。例えば、七十七条の「朝憲ヲ♯乱スル」なんという文章は、「憲法の定める統治の基本秩序を壊乱する」という言葉に言いかえていますね。この「壊乱」という言葉がまたこれ日常生活で使わない言葉だと思うのです。 それにしても、とにかく熟語を文章に置きかえるという努力をなさっているわけですから、ほかのところでもなかなか言いかえ言葉がわからない言葉を文章に直してわかりやすくするということはできるのではないかという気がします。裁判官とか検察官、もちろん弁護士さんも、こういう難しい言葉をストレートに右から左へぱっと判断して適用するのじゃないのだと思うのですね。頭の中で一回言葉を分解して、わかりやすい状態にして弁論なり判決なり論告なりに入っていくのだろうと思うのです。そうすると、その前の段階で条文をもっと易しくする努力というのもしてもいいのではないかという気がします。 もちろん、何でも簡単にしたり仮名書きにすればいいというものではありませんで、例えば言葉にはやはり歴史とか伝統とか文化というものを背負ったものがありますから、言いかえられないものもあります。それから逆に、難しいけれども、その言葉を理解しようと思って一生懸命努力することによって歴史なり文化を学んでいくということも大切だと思うのですね。だから、そこの言いかえられない言葉があるということは僕自身も否定しません。 例えば、百八十八条ですか、「神祠」という言葉が出てきます。神のほこらという言葉ですが、これは辞書を引いてみましたら、大型の辞書には載っていますけれども、我々が机の上で使うような小さい辞書には載っていませんね。その意味では難しい言葉なのかもしれませんけれども、しかしこれは神殿でもないし神社でもないし、やはり「神祠」なのかなという感じがしできます、イメージが伝わっできます。 それから、百八十六条の二項にある「博徒」、これは何か判断によると賭博を常習にする者というのだそうですけれども、賭博の常習者というと何かちょっとしっくりきませんで、やはり「博徒」という言葉だと歴史的な過程をしょったイメージが浮かんでくるのですけれども、そういうところは非常に大切にしなければいけないのですけれども、まだまだ素人、特に若い世代にわかりにくい言葉が多いなという気がします。 そろそろ時間ですから結論を申し上げますと、基本的には僕は現代語化、平易化、関係者は大変努力されておりまして、よくできておると思いますけれども、新聞記者、特に若い人の目で見るとまだまだ難しい。とはいっても、一遍に全部を直すというのもここまで来てなかなか大変でしょうから、むしろ今後もどんどん研究していって、論議を重ねて、もっと易しくした方がいいなという場面があったら随時これを直していくという柔軟性を持ってほしいと思います。 特に、全体としては確かに翻訳本は不要になりましたけれども、まだまだ手元から辞書は放せないなという感じがします。だからせめて、できれば中学生、最低限高校生は辞書が不要になるような文章、法文にしてほしいという期待を持っています。(拍手)
○金子委員長 ありがとうございました。 次に、渡辺参考人にお願いいたします。
○渡辺参考人 日弁連の渡辺でございます。日弁連の立場からの意見を述べさせていただきます。 初めに日弁連の基本的な立場を申し上げておきたいと思うのですけれども、冒頭法務大臣が説明されましたように、平成三年三月十二日の附帯決議では、これは罰金額引き上げのための一部改正の際のですが、この附帯決議の中には、大臣が紹介されました問題のほかに、罰金刑に限らず他の刑罰を含め、現行刑罰の適正化を図ること、それから、罰金刑が選択刑として定められていない財産犯及び公務執行妨害罪に罰金刑を導入すること等を検討することを政府は格段に努力すべきだということを言われております。今回の改正案は、尊属殺重罰規定と現代用語化にいわば絞られておりまして、その意味では日弁連の立場からいいますと、諮問自体が狭過ぎたのではないか、もうちょっとこの附帯決議、国会の意思を尊重した形で検討できるようにしてほしかったという気持ちは強うございます。 日弁連は、昭和四十九年の意見書以来一貫して現行刑法の現代用語化に賛成し、あわせて弁護士会内外の意見が大きく一致すると認められる部分改正を求めてまいりました。昭和五十八年の試案を経まして、平成五年二月にはこの附帯決議に沿った形で日弁連案、現代用語化案を作成して発表しております。今回の改正のための法制審議会の審議の中でも、この平成五年の日弁連案に基づきまして、当面必要最小限度のものと見られる部分改正も含めて意見を述べてまいりました。その点を踏まえながら申し上げていきたいと思いますが、いずれにいたしましても、日弁連の基本的な出発点は次のような考え方にあります。 「刑罰が国家による最終的な独制力の行使であるだけに、犯罪と刑罰に関する基本法としての刑法のあり方は、国民の基本的人権をどのように保障するのかという問題に直接的に深くかかわっている。」したがって、「刑法典は、当然、「何をすれば、どう処罰されるのか」ということが国民の誰にも分かるようになっていなければならない。」ということでありまして、この点から現行刑法の条文自体が早急に改められるべきことはもう当然の帰結でありまして、その意味でいいますと、今回の改正案というのは、本格的な刑法改正問題あるいは刑法改正を実現していくための第一歩であっただろうと思うのです。日弁連の立場からいいますと、もう少し大きな第一歩であったらよかったのにという思いはありますけれども、この第一歩がありませんとそれから先は進みませんので、この第一歩を少しでも早く踏み出すことができますように、先生方のお力をいただきたい次第であります。その意味で、この今回の改正案に基本的に賛成しております。 それにしましても、文語体を現代用語化する作業自体は意外と難しいということを十分に理解しておりますので、今回の案をまとめられるに至った関係者の方々の御苦労と御尽力には敬意を表したいと思います。 その意味で、これから申し上げたいのは、改正案をまとめていく過程で日弁連側が述べた意見、問題点、これがほとんど今後の課題として残されておりますので、これからの課題としてどういう問題が残されているのかということを中心に申し上げさせていただきたいと思うのです。 まず、今回の改正案の枠内の問題点ですけれども、先ほどから説明されておりますように、平易化ということが最大の眼目であり、この目的から外れる提案はほとんど採用されませんでした。確かに、例えば四十二条二項に「告訴ヲ待テ論ス可キ」という規定が現行法ではありますが、大体これは何を言っているのかよくわからぬというのはかねてから専門家の間でも指摘されていたところであります。この部分が、「告訴がなければ公訴を提起することができない」というぐあいに明確に規定されました。それから三十九章の「贓物」というのも、読み方も意味もよくわからないということは言われておりましたけれども、これなども、「盗品譲受け等」というぐあいに改められまして、わかりやすくなっております。 確かにそういう点はいろいろあるのですが、しかし、先ほど飯室さんが指摘されましたように、平易化という面から見てもなお十分なものとは言えない問題が多々残っているというぐあいに私どもも考えております。 その一つの象徴的な事例として、二十八条の「仮出獄」の規定のところをちょっと細分しておきますと、これは昨年九月の法制審刑事法部会で活発に議論されたところでありますけれども、この規定に関する日弁連の提案は、この「仮出獄」というのはいかにも古い表現でありまして、これは「仮釈放」というぐあいに立てかえた方がよろしいと。 そして「改俊の状」という、この「改俊」の「俊」には振り仮名がつけられているということに御注目いただきたいんですが、「改俊の状」ではやはりよくわからないので、「刑の執行を中止してその更生を図ることが相当であるとき」は「仮に釈放することができる。」というぐあいに改めるべきだという提案をいたしました。いろいろな議論があったんですけれども、例えばこういう問題が提起されております。ここは日弁連意見のように社会復帰の思想を盛り込むべきで、明治時代の「改俊の状」をそのまま使うのは問題だという御意見もかなり展開されております。 ここでは用語の問題や表現の問題だけではなくて、考え方の問題を含まざるを得なくなってくるという面があることが端的に示されております。これをどこまでで、どの辺で調整するのかということが実は大変難しい問題だったんだろうと思うんですけれども、結局、日弁連の意見は採用されずに、今のままということで残りました。しかし、私どもの立場からいいますと、やはりこれは規定のあり方として古過ぎる。 さらに、日弁連の立場からこれに反対したもう一つの理由は、振り仮名の問題であります。これは飯室さんの意見とは反対の意見でありますけれども、振り仮名をつけなければ読めないような用語は使うべきではないというのが日弁連の立場であります。その点でいいますと、九条の「禁錮」の「錮」、それから百七十七条の「強姦」の「姦」と「姦淫」、それから百八十五条の「賭博」の「賭」など、いずれも振り仮名がついています。 一方、三十九条の「心神喪失」、「心神耗弱」、これはかねてからやはり難しい表現だということで議論されておりましたが、結局もとのまま残っております。特に「心神耗弱」の「耗」の字はだれもが読めないということは一応認めているのですけれども、これは常用漢字にあるということで振り仮名が振られておりません。だから、読みやすいという基準からいうと、どうもばらばらなんですね。 さらには七条の二以下、各則の方にもありますが、「電子計算機」という用語は依然として残っております。これは時代おくれなんですね。明らかに時代おくれであり、かつ不正確であります。片仮名を使えないというのでコンピューターはどうも使えない。じゃ、片仮名は全部だめかというと、百十七条の「ボイラー」はいいということになっていますので、これもどうも基準がばらばらだ。 やはり読みやすくわかりやすい表現を考えていくということになりますと、今申し上げたような点も含めまして、お役所的な物差してはなくて、何かもっと国民のための刑法を大事にする基準づくりというものをしなければいけないのではないかということを感じております。 採用されなかった問題として当面残されているものにどういう問題があるのか、ちょっと触れさせていただきたいと思います。 日弁連としては、国会附帯決議の趣旨に即して、当面する必要最小限度の部分改正の問題として、例えば窃盗、詐欺罪等への罰金刑の導入、公務執行妨害罪への罰金の導入、強盗致傷罪の法定刑を軽減するなどの提案をいたしました。いずれも今回の改正の目的外ということで採用されませんでしたけれども、問題としては残っているわけであります。 私ごとで恐縮ですけれども、数年前、私は、拾った他人のカードで買い物をしたという、実害十万円程度の詐欺事件を引き受けたことがあります。この被告人は、交通事故による実刑判決を受けまして、その執行が終わってから五年たっていないんですよね。ですから、どうしても執行猶予がつかないというケースでありました。そのために一般的に高い保釈保証金がもっと高くなりまして、このケースの場合、たしか二百万ぐらい積まされたと思いますけれども、一審は実刑一年、控訴してさらに保証金は上積みになりました。 逮捕されて仕事を失うわけです。そしてまた、その執行猶予の見込みがありませんので、新しい仕事につくこともできないという状態で、これは生活費から保釈保証金から全部借金になっちゃうんですね。ですから、最終的に判決が確定した段階では、その保釈保証金を貸したという人だとか、その取り戻しの請求権を譲渡されたと名乗る債権者たちが私のところへ押しかけてまいりまして、一体だれに返したらいいか全然わからないという状態もありました。私はそれを、手続的には供託で済ませましたけれども、これはもう最低の状況ですね。被告人と家族の生活破綻の惨状は、見るにたえないものでありました。 このケースの場合、借金した分を、罰金を払って働きながら返せるようにした方が、はるかに社会復帰の適正な機会を与えることになったと思います。犯した犯罪行為やその責任の程度をはるかに超える処罰が実際に行われていて、救いようがない。これは詐欺、窃盗、十年以下の懲役になっておりますけれども、罰金刑がないからこうなるんですね。重過ぎるんです。軽微な詐欺、窃盗事件の場合、多かれ少なかれこのケースと同じようなことを経験いたしますけれども、やはり軽微な事件に適切に対応できるための罰則の領域は広げるべきだと思います。 公務執行妨害罪について言いますと、公務の執行の適法性が問題になるケースがしばしばありまして、それとの関係で、責任の程度をかなり軽減していい場合もあります。罰金刑がありませんので、当然禁錮以上の刑になってしまいますが、そうなりますと公務員は身分を失います。やはりこれもまた適正な処罰が実現できるように法定刑の範囲を広げる必要があり、罰金刑をどうしても導入することが最も必要とされる部分ではないかと考えております。 強盗致傷罪は、現在七年以上ですけれども、酌量減軽しても三年六月で、執行猶予がつかないという問題があります。多く問題になりますのは、窃盗犯人が逃げる際に抵抗して傷を負わせたという、ごく軽微な強盗致傷事件です。これ、全部強盗致傷罪にされちゃうんですね、実際。逃げるときにちょっと抵抗して、ちょっと傷を与えると、もうそれで強盗致傷になっちゃいまして、もう酌量減軽しても執行猶予がつかないという、つまり、これもまた軽微事件に対応できるシステムになっていない。やはり法定刑は少なくとも六年ぐらいに下げてもらわなければいかぬということは弁護士会の立場から、かねてから主張しておりました。 これは裁判実務の中で、あるいは弁護実務の中から、切実に今要求されている課題でありますけれども、こういうものが全部まだ残っているということになるわけです。これらの点は、今回の改正の第一歩を踏み出した上で、やはり早急に御検討いただきたい。これはもう国会の附帯決議で指摘されている問題でありまして、お願いしたいところであります。 こういうことを見ますと、今回の改正は、基本的には文語体の世界からやっと脱却したという意味での第一歩にとどまるものだろうと思います。それだけに、尊属殺規定だけではなくて、聾唖者の行為に関する規定が削除されたことは、これは平等原則に反するということを含めて論議されていた問題でありまして、これは非常に積極的な意義を持っているというぐあいに考えております。 しかし、そうなってまいりますと、もう必要性がなくなっていることが客観的に明白な十四章の「阿片煙二関スル罪」、それから、何を処罰するのかよくわからないということで批判を受けております百八十二条、淫行勧誘罪、それから、現実に機能していないし、平等原則にも反しているということでいろいろ批判を受けております単純堕胎や同意堕胎罪、これはまあ刑法から外して、特別法できっちり対応するべきだという問題も伴いますけれども、これらの規定についてはいずれもやはり削除しながら、刑法典に本当に必要な規定は何かということを見詰め直していく必要があろうと思います。その意味では、現代社会の諸状況に応じて、真実処罰するべき対象は何かということを改めて検討する必要があるのかもわかりません。そういう意味での総合的な整理も必要になっているということを強調しておきたいのであります。 そして、そのような総合的整理を進め、現代的刑法のあり方を考える上で絶対的に必要な原則が罪刑法定主義だと考えております。今回の改正につきましても、この罪刑法定主義の原則規定を一条に盛り込むように提案いたしましたが、採用されませんでした。私どもが主張しております罪刑法定主義の意味は、つまるところ次の三点であります。 基本は人権保障ということでありますけれども、第一点は、刑罰は必要最小限度にとどまるということです。もうほかの施策ができなくてどうしても刑罰しかないという意味での補充的、そしてまた断片的なものでいいわけで、間違っても時代の要請を先取りするなんということになってはならない。謙抑主義と言われておりますけれども、そういう必要最小限度のものに絞って何が必要かということで考えていく。 第二番目に、当然のことですけれども、構成要件がわかりやすく明確であるということです。今回の改正も、いろいろ不十分な点を伴いながら、この原則に結びつく面を持っているということになろうかと思います。 第三に、罪刑の均衡です。罪とされる行為と処罰がやはりつり合いを保たなければいけない。先ほど来申し上げております窃盗や何かの軽微なケースについては、やはり刑の方が重くなり過ぎている。これをつり合いを取り戻す必要があるという問題だろうと思います。 この原則は、処罰規定の要否、構成要件の定め方、罰則の適正化などについて現行刑法のあり方を検討し、将来的な課題に取り組むための基準として考えられるべきものであって、そういう意味で私どもは罪刑法定主義の原則規定をぜひ設けるべきだということを主張したのであります。今回の改正の枠組みから外れるという理由で採用されませんでしたけれども、新設自体に反対する刑事法部会の委員の先生方の御意見はなかったように伺っておりますし、そのようにも理解しておりますので、こういう原則規定の定め方の問題は将来的な課題としてぜひ御検討いただきたいと思います。 時間が参りましたので最後に一言申し上げておきたいと思いますが、こういう課題がいろいろな形で大きく残されておりますし、いずれも刑法のあり方の基本にかかわる課題である。したがって、これにどう取り組んでいくのかということについては、その体制のあり方についても今回の改正の経過からいろいろ学んでおく必要があるのではないかという気がいたします。 一つは、法律専門家ではない一般市民の意見を聞く機会をもっとつくるべきではないか。先ほど飯室さんから貴重な御意見をいろいろいただきましたけれども、ああいう御意見をやはり改正作業のプロセスの中で十分に聞いていく必要があるのではないか。 それからまた、言葉に関する問題が出てくる場合には、やはり国論、言語の専門家の意見も一方ではよく聞く必要があるのではないか。法律専門家の間だけで議論をして案を決めていくというのでは、やはり両面で非常に不十分になるのではないか。 それから、法制審議会の刑事法部会の構成を見ますと、女性の委員や幹事が一人もおられません。これは審議体制の構成としてはやはり異例なんだろうと思うのですね。法律家で女性がおられなければ一般市氏の方でもいいはずでありますから、そういうことも含めて、これはぜひ女性にも加わっていただいて案をつくっていくような体制というのを考える必要があるだろう。 それから、日弁連が要求してまいりましたことの一つに、部会委員の名簿の公開や議事録等の資料の公開の問題があります。広く国民的な論議を広めていく上で、それからまた委員会審議がオープンにされるという意味でこれらのことは実行していただきたいということを強く考えております。 こういう論議のあり方に関する課題は、国民のための刑法を国民の手によってつくり出し、真の罪刑法定主義を実りある大きなものにしていくという上で欠くことのできないものだと考えております。そのような国民主権と民主主義のもとにおける刑法改正作業の進め方、そういうプロセスをつくっていくということが非常に大事ではないのか。これは明治四十年の時代とは決定的に違うところでありまして、そういうことを実行していくということこそ、現行刑法を本当に現代の社会的諸状況に適応するように改めていくための手続的な面での保障ということにもなるだろうと思います。 私ども日弁連としては、今後とも在野の法律実務家の立場から、刑法改正問題に関する国民的論議にいささかでも役立っていくように努力したいと考えておりますので、よろしく御指導のほどお願い申し上げます。(拍手)
○金子委員長 ありがとうございました。 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。 ―――――――――――――
○金子委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。 質疑者にお願いいたします。質疑の際は、まずお答えをいただく参考人のお名前を御指名の上、質疑にお入りください。 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中島洋次郎君。
○中島(洋)委員 自民党の中島でございます。 参考人の三先生方には、本日は大変に御苦労さまでございます。 今回の法改正は、まさに明治四十年以来八十八年ぶりのいわゆる全面改正であります。その最大の重点が平易化に置かれているということでございますので、まずはその用語の平易化の点からお聞きしたいと思います。 では、まず渡辺参考人にお聞きしたいのですが、日弁連の方ではこれまで数々の試案を出されていらっしゃいます。用語につきましても、先ほどおっしゃった以外にも「心神耗弱」とか「幇助」とかさまざまた言論がより簡便になるのではないかという提案をされているというふうに伺っております。そこで、今回の法改正にどうしてそういった日弁連さんの御意見が取り入れられなかったのだろうか、日弁連さんの立場から考えられる理由についてちょっとお聞きしたいと思います。
○渡辺参考人 基本的には私どもの意見はかなり取り入れられていいはずではないかと思っておりましたし、またいろいろ議論の過程では取り入れてもいいというようなこともあったようですけれども、どうも最終的には、例えば法制局側の御意見がいろいろあるとか、それから日弁連の表現の仕方ではよくわからないとか、やはり私どもの提案にも十分でない点がいろいろあったと思いますけれども、それらが合体しまして、全体として余り採用される度合いが大きくなかったのは残念であるというぐあいに考えております。もう少し政府側にも柔軟に考えていただいてよかったのではないかと考えております。
○中島(洋)委員 それでは今度は、この法改正に深くかかわっていらした松尾参考人にお聞きしたいのですが、今回さまざまな用語を直す際に、大変難解な用語でありますので、通説とか学説とか分かれるものが数々あったかと思います。「焼燬」とか「贓物」とか「勾引」とかいろいろあるかと思いますが、そういった学説また通説、少数意見説、さまざまな過去の歴史の中で意見が分かれてきたもの、そういった意見対立が今回の法改正に与えた影響があればちょっとお聞きしたいと思います。
○松尾参考人 刑法学の分野で解釈がさまざまな場面で対立しているということは御指摘のとおりでございます。 今回の平易化について意味内容を変えないように努力したと先ほど申し上げましたが、その中には、これまで行われている解釈の特定のものを封じ込めることがないようにという配慮も極力いたしたつもりでございます。 したがいまして、今おっしゃったような意味で、対立があったために字句の選定に苦労した点があるのではないかとおっしゃられれば、それは非常にたくさんございました。しかし、字句を改めたためにいろいろな解釈ができなくなったのではないかということについては、それは心配しておりません。 特に、今回の改正の形式は刑法の一部改正ということでございまして、言葉をかえますと、現行刑法が全く廃止されて消え去るのではなくて、現行刑法のいわば延長線上に新しい表記を持った刑法がこれから行われていくということでございますので、その意味の連続性があるというので今のような心配はないのではないかと考えている次第でございます。
○中島(洋)委員 ありがとうございました。 今回平易化が中心であるということでございますが、私は、この平易化は大変意義が大きいと思っている一人でざいます。先ほど参考人もおっしゃいましたように、刑法は難解であってはならない。国民にとって何が犯罪で、何をすればどう罰せられるか、これはまさに罪刑法定主義の観点からいきましても、基本法であり、国民の行動規範ともなる法律でありますから、これはぜひとも国民にわかりやすいものでなくてはならない。今回の法改正の基本方針も、原則として常用漢字以外使わない、また難解な言葉はできる限りわかりやすい言葉に変えるという大方針があったということでございます。 わかりやすいといえば、先ほど飯室参考人がおっしゃったように、義務教育が終わった者が読んで理解できる程度が当然であると私は思っております。その点、今参考人の御意見を伺いましても、多少それが不十分な点があるのかなという印象を持ったわけでございます。 それでは、この改正に至る経過についてちょっとお聞きしたいと思うのです。 この改正の作業は、大部分が法制審議会で進められたというふうに聞いております。先ほど渡辺参考人からの御指摘がありましたように、この法制審議会の情報開示が今各方面から求められております。法制審の審議内容及び刑法部会委員の氏名というのがなかなか公表されていない。刑法学者有志の方も、ことしに入りまして、審議の公開が不十分で学会へもなかなかフィードバックがされていない、さらに刑法学者の意見も広くは聞かれていないということが新聞紙上でも報道されております。また、これは国内のみならずアメリカ側からも、日本の多くの審議会はどうも不透明であるという指摘もされているようであります。 国民にわかりやすい刑法を目的とした改正でありますし、さらに、刑法が人々の生活に深くかかわるという観点からしますと、やはりたくさんの方の御意見を広く聞き入れる体制をつくる意味でも、法制審の公開というのが望まれていると思うわけでございます。この点につきまして、済みませんが、松尾参考人と飯室参考人の御意見を賜りたいと思います。
○松尾参考人 審議会の議事の進め方をどうすべきかということ一般について、私はお答えすべき立場には多分ないだろうと思うのでありますが、今回の刑法改正に限って申しますと、確かに審議会自体は非公開でございますし、委員の氏名についても、先ほど御指摘のとおり、形式的には部会委員の氏名は公開されておりません。 しかし、実質的に見ますと、例えば刑法学者との関係では、平成四年ごろから法務省の方で、あちらこちらの学者グループに説明を行い意見を求めるという過程をかなり丹念に踏まれたと伺っております。また、日本刑法学会という刑法学者がほとんど全員加入している学会がございますけれども、そこでは、平成五年の年次大会におきまして、私がその時点までの刑法改正の経過を皆さんに説明し、資料も提供したというようなことでございます。 しかしながら、委員御指摘のとおり、なお一段とそういう方向の努力をすべきであろうということは、私もまことにそのとおりであると考えます。
○飯室参考人 私も先生のおっしゃるとおりでして、新聞記者としての立場だけでなく一般国民としても、法律をつくる過程の情報をもっともっと公開していただきたいという気持ちがあります。 というのは、審議会の公開をしない理由として、公開するとどうしても圧迫感があって自由な議論ができないという説明をされることがよくあるのですけれども、むしろそこでは公開しても圧迫感を受けないような責任のある議論をしていただきたいという気持ちが私どもの方にもありますし、逆に、新聞も含めた一般国民が、その中の議論がわからないがために誤解をしている部分もあるのじゃないかと思うのですね。 そういう双方の意味で、やはり議論はできるだけ公開していただきたいという気持ちを持っています。
○中島(洋)委員 ありがとうございます。 ちょっと時間がないので次の質問に移りますが、今回、大変少ない内容の改正の中では、尊属加重規定、これが削除されたわけであります。 この問題につきましては、刑法が行動規範という側面も持つという意味合いから、純粋な法理論だけではなくて、日本人としての文化というか、精神論という面からも考える必要を説く方が多くいらっしゃいます。さらに最近、少子家族化、また核家族化、さらに高齢化社会という社会問題の中におきまして、家族のあり方が問われている。そういった今日的な状況の中におきまして尊属加重規定を削除することは、国民の中の道徳観に悪い影響を及ぼすおそれがあるという指摘もあるわけであります。 これは、純粋な法律問題でいいましても、尊属殺人の規定は違憲判決が出ましたが、尊属傷害致死は合憲という判決が出ております。また、その殺人の規定の違憲判決も、量刑が死刑と無期だけで重過ぎることが著しく不合理といった理由も判決文で説明されているというふうに聞いております。 そうであるならば、これはすべてを削除する必要は必ずしもなかったのではないかという意見も当然出てくるわけであります。現実に、今世界でもフランス、イタリア、スペインなどでは尊属加重規定があるわけであります。日本でこれを全面的になくしたということにつきましての御意見をちょっと賜りたいと思います。お三人にお願いしたいと思います。
○松尾参考人 今の問題は、なかなか難しい点であると思います。 平易化に徹するということになりますと、内容の実質的な修正は全く行わないということにすべきであったろうかとも思うのでざいますけれども、他方において、先ほど日弁連の渡辺参考人がお話しになりましたとおり、相当多くの事項について緊急の改正を求めるという意見も強いわけでございまして、その中のいわば最も急速を要するであろうと思われるものとして 尊属及び聾唖者の規定というものが選ばれたことになります。 その理由といたしまして、最高裁判所の考え方は先ほど委員の御指摘のとおりでございますけれども、しかしながら最高裁の判例ももうかなり時間がたっております。尊属傷害致死につきましては、昭和五十年前後にまた判例がございますけれども、それぞれ反対意見をも伴っている判例でございまして、最高裁の考え方も動いている点もあるのではないか。そして、国際的に見ますと、平等への志向というものは、年々強まりこそすれ弱まってはいないというようなことを総合的に判断いたしまして、これは立法府としてはもう削除すべき時期であろう。先ほど申しました「改正刑法草案」も、これは四つの尊属加重規定を全部削除するという形でまとめていたのでございます。 注意すべき点は、それが委員御指摘のように親子の関係を軽視するとか家族的なものを否定するという趣旨では全くございませんで、いわば法律の世界と道徳の世界というものは別個のものである。かつて最高裁判事のお一人の言われた有名な言葉に、親子の情というふうな道徳は法律の手の届かない高いところにあるものだという御指摘がありますが、そういうような考え方がだんだんと世の中でも常識になっていくのではなかろうかと思う次第でございます。 それにしても、難しい問題だという御指摘は、十分に理解いたします。
○飯室参考人 私の個人的な意見は別にいたしまして、削除しても、親子の関係を重視するという考え方は裁判官の刑の選択という中で可能なわけですから、削除しても、もし親子の関係は大変なんだよ、大切なんだよという立場にお立ちになっても、その関係を裁判に反映させることはできるという感じは持っています。 むしろ私は、あの規定を残しておくことによる国民意識への害というようなものを心配しておりまして、最高裁が憲法違反だと言った規定を二十年以上も削れないということに対する司法の権威への揺らぎ、それから三権によるチェック・アンド・バランスという憲法の原則に対する信頼、そういうものを維持するためにも、やはり今回削除することが正しいのじゃないかなと思います。
○渡辺参考人 日弁連の考え方も、今、基本的には飯室さんが言われたようなことですけれども、御承知のとおり、日本弁護士連合会は強制加入団体でありまして、先生御指摘のように、日本古来の道徳や文化を非常に重視する会員の方々も少なくありません。 結論を申し上げますと、そういう会員を含めて、尊属殺規定を削除することには全く異論がありません。これは、やはり平等原則に反する、それからまた、最高裁での判決がその点からいうと控え目過ぎるという見方も含めまして、異論のないところだということを申し上げることができると思います。 さらに、弁護実務の立場から申し上げますと、尊属殺あるいは致死傷のような事件が発生する場合、親の方がひど過ぎるというケースが少なくないわけでありまして、最高裁判決で判断が示されたケースも多分にそのケースだったと思うのですね。ですから、これは、やはり尊属殺という特別な枠組みで考えるべき問題ではないということが事実の関係から実態的にはっきり言える。 それから、もし尊属の方を問題にするのであれば、子殺しに関する親の責任の方も考えなければ、こっちの方がもっと深刻な問題だという議論が弁護士会の中にあります。 全体を総合いたしますと、もう削除する以外に正解はないというぐあいに考えております。
○中島(洋)委員 ありがとうございました。 残念ですが、時間が参りましたので、これで質問を終わります。ありがとうございました。
○金子委員長 佐々木秀典君。
○佐々木(秀)委員 社会党の佐々木秀典でございます。 参考人のお三人の先生方には、お忙しい中を、きょうはいろいろ御教示を賜りまして大変参考になりました。ありがとうございます。幾つか質問をさせていただきたいと思います。 松尾先生は、特に、今度の作業については大変な御尽力をいただきまして、試案もおつくりになっていらっしゃいます。拝見をさせていただいて、いろいろ私も勉強させていただきましたけれども、ただ、先ほども飯室参考人がおっしゃったように、細かく見てまいりますと、確かに問題はあろうと思います。しかし、全体的には、本当によくここまでなすったなという思いが私などはひとしおいたします。 私たちも、最近はこちらの方の仕事が忙しいものですから少なくなりましたが、弁護士時代には時々、やはり講演なども頼まれたり、いろいろな相談事も受ける。そのときに、一般の方に刑法、犯罪と刑罰の関係などについてお話をするときに、どうしても言葉の問題というのが一番ひっかかってまいりまして、これを易しい言葉で説明ということになると、大変手間もかかり、時間もかかるのですね。それを、文語体を口語体に改める、それから言葉自体を改めるというのは本当に大変な作業だったと思います。よくここまでなすったと思いながらも、なおかつ、先ほどのそれぞれのお話のように、さらに平明にする努力をしていく必要があるのではないかなということも痛感をしております。 もともと法律というのは、昔々は、よらしむべし知らしむべからずというような言葉もあったように、権力者の意思が先行していたというようなこともあったのではなかろうかと思いますが、少なくとも、ただいまの憲法ができましてからはそういう観念というのはすっかり改まったはずだとすれば、すべての法律がそうですけれども、とりわけ、犯罪と刑罰を規定する、基本的人権に最も直接に絡む刑法というのは、あるいはこれは特別法もそうですけれども、国民が納得できるものでなくてはならない、そういう思いを強くするわけであります。 そこで、今度の改正作業の過程で、さっき飯室さんからも、あるいは渡辺さんからも、もっと市民の意見、あるいは特に渡辺さんからは女性の参加がなかったではないかという厳しい御指摘がありまして、これは本当に大事なことだろうと私は思うのですね。これは今後の作業にも大変重要な問題提起であろうと思うのです。 松尾先生、この作業の中で専門家以外の一般の方々から御意見を聞くというような手だてはどんなふうに講じられたのか。それから飯室さん、マスコミの方々の御協力といいますか、御意見を聞かれるというようなことはあったのかどうか。その辺についてお知りになっていたらお聞かせをいただきたいと思いますけれども、まず松尾先生からお願いしたいと思います。
○松尾参考人 いろいろ作業をしております過程で、個人的には随分友人その他の意見を聞いたつもりでございますけれども、法制審議会という公式の場で、委員、幹事以外の方がおいでになって意見を述べられたということはなかったと存じます。 しかし、法務省の方では、例えば国語学者の意見も聞いて、その結果を御説明になりましたし、ジャーナリズムとの関係でも、恐らく資料を差し上げて意見を聞かれたのではないかと考えておりまして、不十分ながらその点の手当ては行われたのかなと思っておりましたが、先ほどの飯室参考人のお話を承っておりますうちに、なお新しい感覚で見直す必要もなきにしもあらずという気持ちはしております。 なお、女性という点でございますが、法制審議会の総会には無論女性のメンバーがおられます。たまたま今回の部会は女性のメンバーを欠いておりまして、その点では、男性だけでやったのかとおっしゃられれば、どうもそのとおりでございます。
○飯室参考人 新聞の関係が意見を聞かれたかどうか、実は私もよく存じ上げていません。あるいは先輩の中には個人的に意見を聞かれた方がいるかもしれませんけれども、正確には知っておりません。 ただ、たしか新聞協会を通じてアンケートのようなものを実施したとは聞いております。しかし、新聞協会というのは、実はそのアンケートをだれに答えてもらっていいのかよく把握しでないような組織でして、そこから果たして新聞記者の正確な声を反映しているかどうかというのは多分に疑問だと思います。
○佐々木(秀)委員 今、中島委員からも御指摘がありましたけれども、今度の改正作業は、平易化それから口語化のほかに、従来からの宿題とされておりました尊属殺規定、これの削除、それからまた聾唖者関係、平等違反ということで削除になりました。これは大変意義のあることだったと思います。 特に尊属関係については、本当に、松尾先生もおっしゃるように、最高裁で判決が確定してから二十年ぐらいたっているわけで、言ってみれば国会の方の大きな宿題になっていた。それがやっと今度の改正作業の中であわせて実現することになったということは、国会としての、三権分立の中での一つの責任をやっと果たしたのか。これもまた遅きに失したという感じがあるわけですけれども、積極的に意義づけたいと思いますし、それからまた、純風美俗的な観点から親子の関係ということがいろいろ言われて、それが今度に至るまでにこの改正をおくらせたというようなこともあったようですけれども、この点については先ほど渡辺参考人から御指摘のように、親子の関係の大事さというのは、子の親に対するだけではなくして、むしろ親の子に対するということも大変大事なわけですね。この間もある医師の妻子の殺害事件がありましたけれども、あんなのを見ておりますと、本当に私どもとしては何というか、ぞっとするような思いがするわけでありまして、そういう点からも考えなければならない問題だろうと思うし、いろいろな意味で今度この改正が行われたということは私は積極的な意味を持つものではないか、この点を評価したいと思っております。 それから、先ほど渡辺参考人からも御指摘のように、今度の改正というのはまだ第一弾なんだ、刑法を見直すということの第一弾なんだ、これからもまだやるべきことがたくさんあるということでございますけれども、なお、これをわかりやすくするための努力と同時に、それから、現在の刑法典がこのままでいいのかということもこれまで論議をされてきている、まだこれからの課題になっていくだろうと思います。 この調査室の作成した関係資料の中に、毎日新聞の論説が紹介されて引用されておりますけれども、これはことしの二月十九日の毎日新聞ですが、「平易化の次は改正論議を」という指摘があるわけですね。これについてはどうこれから考えていったらいいのか、お三人の参考人からそれぞれ御意見をいただければと思います。
○松尾参考人 今回のは我が国の刑法を改めていく第一歩であるということは、関係者の共通した認識であると思います。現代語にすれば済むというものでは決してありませんので、今後は実質的な改正が積み上げられていくということになるはずでございます。 ただ、これまで刑法改正といえば、とかく第一章から最後まで全面的に一挙に改めるというイメージが強過ぎて、しばしばそれに非常に大きな困難をもたらしていたのでございますけれども、私の考えでは、今後は恐らく重要な点を選んで個別の改正を重ねていくということになるはずで、何が重要かという点については、今後学会からもいろいろな主張なり論文なりがあらわれてくるでありましょうし、また、法曹三者その他、社会全体からもいろいろな声が出てくるでありましょう。新しい刑法典ができましたときに、それを見ながらいろいろな方面の反応を総合して、具体的には法務省の方で優先順位を付して議論を進めていかれることになろうと思っております。
○飯室参考人 今、松尾先生のお話を大変期待を持って伺いました。随時機会をとらえて議論を重ねて、見直していっていただきたいと思います。
○渡辺参考人 罪刑法定主義のところで申し上げましたように、刑罰法規のあり方は根本的には補充的なものであり、断片的なものであっていいわけで、そうでなくてはいけません。ですから、その意味では、要らなくなったものの整理ですとか、あるいは今あるものの手直したとか、あるいは新しく考えなければならないもの、そういう問題については部分改正を積み重ねていくことによって実行していくべきだ。その方が実際的な議論ができますし、初めから何か全体が整ったものを考えてしまうと非常に危険だと思います。ですから、そういう手法ではなくて、ぜひ、必要に即応した部分改正の積み重ねでじっくり論議しながら進めていくようにしていきたいと思っておりますし、そうしていただきたいと思っております。
○佐々木(秀)委員 時間が大分なくなってまいりました。今、部分改正の積み上げでという渡辺参考人の御指摘がございました。これはその時々の情勢に応じて、必要に迫られて新たな犯罪規定、あるいはそれに対する処罰規定を設ける必要というのは諸所出てくるわけですね。例えば、ハイジャックの防止法なんかもそうだったわけですし、さっきの電算機の問題、これも電算機という言葉がいいかどうかということがありますけれども、これは刑法の方に入れられている。特別法で処理する場合と、それから刑法の中に入れていく場合といろいろ考えられる。今、例のオウム真理教の問題で、サリンの規制といいますか、それを用いた場合の新たな処罰規定、きのうあたりでも大いに論議になっているわけですね。この辺についてはどういうふうに対処したらいいのか、松尾先生、ちょっと御意見ありましたら。
○松尾参考人 社会的な激動の時代でございまして、犯罪現象にも思いもよらなかったようなものが次々にあらわれてきているということは、お話しのとおりでございます。これに対して法律、特に刑法がどのように対応していくべきかという点については、御指摘のとおり、刑法でいくか特別法を考慮するかというのがまず最初の大きな問題になると思います。 この点につきまして最近の一つの特色は、刑事法というのはかっては純粋な国内法であると考えられがちであったわけですけれども、最近は国際的なつながりということが表に出てまいりまして、その意味で、時には思い切った処理をしなければならないという場面も出てきております。そういうことになりますと、むしろどちらかといえば、当面特別法で対応していくというのが原則的な形態であって、それがやや落ちついたところで刑法に取り入れていくということになるのではなかろうかと思っております。
○佐々木(秀)委員 では、渡辺参考人にもその点ちょっと御意見をお聞きしたいと思います。
○渡辺参考人 松尾先生の御意見と同じであります。
○佐々木(秀)委員 では参考人の先生方、大変貴重な御意見をいただきましてありがとうございました。これからも恐らく刑法の全面改正、部分改正を含めてやはりその都度論議をしていかなければならないし、全面改正ということになると、これは「改正刑法草案」はもうできているわけですけれども、この論議のときでもさまざまな意見があって、それがいわば棚の上に置かれているということもあります。しかし、そのままでもいけないのだろうと思います。それと、今御指摘のようなその都度の新たな犯罪、あるいは、これに対する防止あるいは処罰の仕方、これも適切に対処していかなければならない非常に難しい問題が多くあるわけですけれども、どうか、これからも先生方のさまざまな貴重な御体験あるいは御提言というものをその作業に生かしていただきますように、私たちもそれを受けて十分にまた対処していきたいと考えております。 きょうはありがとうございました。終わります。
○金子委員長 冬柴鐵三君。
○冬柴委員 本日は、参考人の三先生におかれましては大変お忙しいところ、貴重な意見を賜りましてありがとうございました。新進党の冬柴鐵三です。 私も実は、本職といいますか、弁護士をやっておりますが、だれも反対しない事業になぜ今日まで時間がかかったのだろうか、同じ法律を学んだ者として本当に国民に申しわけない気持ちがいたします。また、尊属殺につきましても、古くは最高裁で真野先生の少数意見等を拝聴しまして、なるほど、我々の感覚では尊属、卑属という呼び方自体が何か古めかしい。長幼の序というのはわかるのですけれども、年長の方をとうとい属と呼び、自分の子供や孫たちは卑しい者と呼ぶ、そういう言葉が今なお法令の中に残っているということに奇妙な感じを受けたわけでございますけれども、そうはいっても、司法試験を通るためにはこれを読み下し、いつの間にか頭に入ってしまって、そして、自分が書く文革もしゃべる文章もいつの間にか普通の人にはわかりにくい表現とか言葉が多い、いろいろな人に指摘をされるようになってしまいました。 先ほど挙げられました「罪本重カル可クシテ犯ストキ知ラサル者ハ其重キニ従テ処断スルコトヲ得ス」なんて、もう見ずにでもずっと出てくるという奇妙な人間になってしまった感じがするわけでございまして、ただ、勉強しているときも、えっと思ったのがありました。何かクイズ番組に出たような、「刑」のところで、「同種ノ刑ハ長期ノ長キモノ又ハ多額ノ多キモノヲ以テ重シトシ長期又ハ多額ノ同シキモノハ其短期ノ長キモノ又ハ寡額ノ多キモノヲ以テ重シトス」、これは勉強していたときもえっと思いました。それで、今回どれぐらい直ったのかなと思ってすぐ一番に読んでみたところが、「同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。」。 これもちょっと、まことに失礼なんですが、飯室先生、資料なんか行っていますでしょうか。これは「刑」のところで、第十条の二項というところでございますけれども、マスコミで中学生あるいは高校生にわかるような文章をということを心がけていられる先生として、この訳で、要するに今回の目指すだれもがわかるものという、これは刑法総則だからまあいいとはいうものの、これは刑の内容ですからやはり専門家だけが知っておったらいいというものでもなさそうに思いますし、先生だったらこれはこの訳、急に申し上げて申しわけないのですけれども、どう感じられるか、この改正案、率直に感じられたところだけで結構ですが、お聞かせをいただきたいと思うのですが。
○飯室参考人 突然具体的な文章を挙げられまして私の方もうまく答えられないのですけれども、例えば私ならこう書いてみるということでお答えになりますかどうか、ちょっと読んでみます。 同種の刑は、最高刑の重い方を――あれ、よくわからない。同種の刑の場合には、最高刑が重い方をその場合の重い刑として、最高刑が同じ場合であるときには最低の、この場合最高の場合にも法定刑をつけた方がいいのですかね、最高の法定刑が重い方をその場合の重い刑とし、最高刑が同じ場合では最低の法定刑の重い方を――要するに結論としますとよくわからない、むしろそう言うのが一番正確な答えではないかと思います。
○冬柴委員 突然申し上げて申しわけありませんでした。 それで、松尾先生、「寡額」という字、これは読める人は少ないと思うのですよ。これはやはり何か反省があったのでしょうか。
○松尾参考人 この第十条は、法制審議会の部会で非常に時間を費やして幾通りもの案を検討した結果、またここへ戻ってきたというものでございます。 私、教授生活、そろそろ四十年近くになりますけれども、学生の答案を毎年たくさん採点をしましたが、きょうはどうも先生方から採点されて、ここもいかぬ、あそこもおかしいとおっしゃられている。ごもっともだなと思って伺っておるわけですが、条文の性質といたしまして、豊富な内容をぎりぎりに削り詰めてここにあらわしているという性格がありまして、それをわかるようにわかるようにとすれば、これは言葉を補っていけばいいわけですけれども、そうなりますと、いわば俳句や短歌の世界から散文の世界へ移ってしまうということになりまして、どうも条文として成り立たなくなる、そこのぎりぎりのところで時々この種の非常にわかりにくいものが残存するという結果になっていると思います。 しかし、先ほど飯室参考人の御指摘になった項目のほとんどは部会でも頭を絞って考えたものでございますが、それでも知恵が足りなかったとおっしゃられればまことにそのとおりかなとは思うわけでございますけれども、何がしかその辺に立法上の限界があるということも御理解いただければと思います。
○冬柴委員 どうもしつこく言って申しわけないのですが、渡辺先生に、日弁連案では、私が書き直したのに本当に近くてびっくりしたのですね。これは自分だったらどう直すかなと思って、あした質問があるし大変だと思って、ちょっと日弁連案を示して、その点の御苦心が、もし御存じのところがあればお示しをいただければと思います。
○渡辺参考人 御指摘のとおり、もともと難しいところでありますけれども、特にわからないのが「長期」、「短期」の用語ですね。それから罰金についていいますと、「多額」、「寡額」というのがわからない。ですから、日弁連はこういうぐあいに言い直しております。「同種の刑は、刑期の上限の長い方または金額の上限の多い方を重いものとし、刑期または金額の上限が同一であるときは、刑期の下限の長い方または金額の下限の多い方を重いものとする。」という提案をいたしました。
○冬柴委員 実は、私も「上限」と「下限」という言葉を使う方がいいのではないかなというふうな感じでやってみたのですけれども、それでもわかりやすいとは思えなかったのですけれども、何とかたえられるかな。別にこれで改正案に反対するつもりはありませんけれども、一歩前進ですが、そのような考えのもとにこの改正案を見てまいりますと、いろいろ反省、私どもはもう頭の中に入っているから何にも問題意識はないのですけれども、そうでない人は大変だなという部分が見当たります。 例えば、「刑」のところですけれども、「禁錮」という「錮」、何でここへルピをつけてまでこの難しい字を引き続いて使わなければいけないのかな。禁錮刑というのは刑務所の中に閉じ込めて自由を奪って働かせないということですから、それに適切な言葉はこれ以外にないのかなという感じがします。ただ、もうこれは八十八年、その前からすればもっと「禁錮」というのが使われたのでしょうけれども、熟した言葉で、変える必要もないのかもわからないけれども、ルビを振ってまでこの難しい字を引き続き使わなければならないのかな。「錮」という字を、ではもう平仮名にしてしまってもよかったのではないかな。あるいはそれが嫌だったらかねへんを取ってしまってもいいのではないかなという感じまでしたのですけれども、そういうことも考えました。 それから、コウリュウ、カリョウという言葉ですが、刑の方の「拘留」、「科料」ですね。これも、コウリュウという言葉がいろいろ多過ぎると思うのですね。起訴前の「勾留」もコウリュウですし、それから「拘留」刑のコウリュウもありますし、言葉が同じ発言で違う意味がある。カリョウも、刑法の「科料」と行政罰の「過料」と字が違う。それで我々専門家は「とが料」とか「あやまち料」とかそういうような読み方をして、そんな使い方をせぬと一般的に言葉だけではわからないというようなものがあるのに、それをこの改正の際になぜ直そうということにならなかったのか。これはあったのではないかと思うのですけれども、そこらあたり、松尾先生、いろいろ労作をされて、その上でそれが基礎となって今回の改正案ができているというふうに伺っておりますので、先生の方からそこら辺の苦心も伺っておきたいと思います。
○松尾参考人 幾つかの点を御指摘でございますが、「禁錮」につきましては、「禁錮」の「錮」をかねへんのないものにしたらどうかということは部会で検討いたしました。平仮名にするという意見はございませんでしたけれども、「改正刑法草案」でもかねへんはとれているので、とってもいいのではないかという意見もあったのですけれども、しかしながら、事が刑罰そのものの名称であるということで、これを変えるのには慎重を要するというので、やむを得ずルビを振ってかねへんを存置したというのでございます。 同じような趣旨で、「拘留」についても、刑名を変えるということは私ども今回は考えませんでした。ただ、御指摘のとおり、同じ発言の言葉が刑事法の中に多過ぎるではないかということはそのとおりで、手続法などでも、一審に「公訴」を提起し、また高等裁判所に「控訴」するというような非常に紛らわしいことになっておりますので、将来はそこを含めて考え直す必要はあろうと存じますけれども、今回の考慮の対象には必ずしもならなかったのでございました。
○冬柴委員 実は私は、弁護士登録直後の若いころ、ある民放のラジオに出てくれなんて言われて、今は弁護士は随分たくさん出ているんですが、当時暇だったのか、随分長いこと出させてもらいまして、そのときにいろいろと、放送の言葉を聞いていると気になることが多くて、民事訴訟を「提起」したことを「告訴」したとか、その他いろいろな言葉、法律用語と違うことが、刑事の「被告人」と言うべきところを「被告」と、これはもうほとんどそういうふうに言われます。 それで、「間違い易い放送のことば」というのを書いたら何か随分賞をいただいたんですけれども、その中で、こういう今の「あやまち料」とかそういうことを挙げてしたことも、三十年近くになってしまうんですけれども記憶しています。聴衆相手にお話をされるアナウンサーの方でも、法律用語については必ずしも正確には使っておられない。 それで、「仮処分」とか「仮執行」とか「仮の処分」とか、いろいろな言葉が法律にあるにはあります。しかしながら、刑法だけはやはりそれはいかがなものかというふうにはずっと思っていたんですけれども、今回、こういうことでできるものですから、非常に歓迎はしているのです。 ただ、刑の名前もこれはなぜ改められなかったのか。いろいろ協議した結果また落ちついたという話があるんですが、やはりこれは、飯室先生が述べられたように、本当に法律家だけで議論をしているとこういうことになるのかなという感じがしますので、開かれたものというのは難しいと思うのですけれども、今後やはりそういうことはぜひ考えていかなきゃいけない。僕は聞いていて、飯室先生の今即座に訳された方が本当にわかりやすいですね。「供する」というような言葉を「用いる」ですぱっとやったら、その方がずっとわかりやすいと思うのです。 そういう意味で、例えば外患誘致罪、「外患」なんという言葉は、聞いて、普通の人は絶対わからないと思うのですね、「外患」。こういうものを、これは何か、スパイという意味じゃないんでしょうか。総則で、国外犯の規定のところに、三項のところに八十一条で「外患誘致」という言葉でされております。こんなのは先ほどもちょっと渡辺先生からのお話もありましたけれども、普通の人にスパイと言ったら、最近戦争がないですからスパイと、言われてもわからない人がたくさんいるかもわからないけれども、スパイと言えば大体見当がっくけれども、「外患」なんて言われたら、「外患」とスパイときちっと一致しているかどうか知りませんけれども、どうかなという感じがします。 それから、私もこれは改正にかかわって責任を感じるのですけれども、「電磁的記録」、これは普通の人にわかるでしょうか、「電磁的記録」なんてもっとすぱっと言える英語が、みんながわかる英語があるんじゃないでしょうか。 そういう意味で、先ほど「ボイラー」は使ったのに「コンピューター」は使っていないという渡辺先生のお話があったのですが、そこら辺のところは、松尾先生、どういう経過だったのでしょうか。
○松尾参考人 「外患」の方は、確かに戦後五十年一件も起こっておりませんので、これについて考え抜くということは余りしなかったのが正直なところでございます。しかし、そんなのんきなことを言っている時代ではない、これからは何が起こるかわからぬではないかという御趣旨であれば、確かにそのとおりだなと思っているところです。ただ、やはり言いかえが相当に困難なものに属するだろうという気はいたします。 それから、「電磁的記録」の方は、逆に非常に動いている領域で、この言葉を見つけるのがその意味で難しいという感じはいたします。昭和六十二年でございましたか、立法当時も、「コンピューター」といっても日進月歩であり、さまざまなものがあらわれてきているという指摘がありまして、それで、当時は片仮名は余り使えないということでもありましたので、やむを得ず「電磁的記録」というところに落ちついたのでありますけれども、こういうことについては、この改正がもし成立しましたならば、その次に検討すべき事項の一つであろうと思っております。
○冬柴委員 戦後五十年、戦前からの刑法を使って、八十八年変わらなかったのです。口語体に今回直すということは大歓迎なのですけれども、しなかったことにより、先ほどたしか飯室先生が挙げられた「故ナク面会ヲ強請シ又ハ強談威迫ノ行為ヲ為シ」云々というくだりは、これは昭和三十三年に追加改正された部分だと思うのですね。本体が荘重な文語体であって、その後改正を余儀なくされた、そういう言葉を使うのがおかしいわけですけれども、改正しなきゃならないというときに、そこだけ口語体にするわけにいきませんし、そこだけ平易な言葉にしちゃいけないから、後から見ても、明治の人が書いたような文章、「強請」とか「強談威迫」。それから「被拐取者ノ安否ヲ憂慮スル者ノ憂慮二乗ジテ其財物ヲ交付」せしめ云々というくだりも、その後の改正で入れられたものだというふうに承知いたします。 そういうことを考えれば、今回の改正は、今後はそういうことは起こらないわけですから非常によかったと思うのですが、これもしかし、まだまだ反省しなきゃいけないなというところがあるので、これは先生方もおっしゃっているように、改正の本当の第一歩を踏み出したことになるというふうに思います。 そこで、そのように苦心されても、やはり言葉を変えればその意味が微妙に違うことが起こることもあり得ると思います。今回の改正でも、注意深くそれをやられたがゆえに、まだわかりにくいところが残ったわけですけれども、それでも意味が違う部分が生じることはあると思います。 それで、これはたしか松尾先生の論文だったと思うのですけれども、単なる口語訳はそれだけにした法律にして、そして実質改正、例えば今回の尊属殺とか聾唖者の削除というのは実質改正ですからそういうものは別の法律にして、そしてこの法律は平易化、口語化のためにしたわけであって、いささかももとのものを変えるというものではないということをその法律の中へ書き込むか、あるいは刑法の、我々が審議するときにそういう確認をどこかで宣言をするとか、そういう形を残すという配慮もあってもよかったのではないのかなという感じがするのですが、その点は先生はどうでしょうか。
○松尾参考人 今委員がおっしゃいました点は、私が二十年ほど前に書いた論文の一部かと存じますが、そのころ私はニューヨークで刑法の全面改正をやるのを目撃いたしました。そのときは、当時何かアルファベット順で並べてあったのをきちんとした体系に移しかえるというふうな改正であったかと思いますけれども、そういう形式的な部分と、それから死刑をどうするか、責任能力をどうするかというふうな実質部分とを分けまして、同じ議会に三個の刑法改正案を出したというのを見たものですから、これは筋の通ったやり方ではなかろうかと考えたことがございました。 それを今回に当てはめますと、平易化の部分とその他の部分とを峻別するということになりますわけで、私が当初試案を提出いたしましたときにはむしろその考え方に立っていたのでございますけれども、その後日本の国会のやり方というものもあるというような御説明を受けまして、同じ会期に二つの刑法改正案が出るというようなことはおよそ論外であるということを理解してまいりました。ただ、実際上現在の刑法との連続性が保たれればそれでよろしいわけでございますので、その点が刑法の一部を改正する法律案という形で国会に上程されたということになっているかと思います。 それ以上に国会の方でどういうお取り扱いをなさるのが適当かというのは私は十分な知識を持っておりませんけれども、しかし法制審議会を含めましてこれまでのさまざまな経過からして、今度の改正案は、削除の点を別といたしますと現行法の意味を変えるものではないということは、恐らく揺るがないところになっているのではなかろうかと思っております。
○冬柴委員 それは大変大切なところで、明治以来我々が積み重ねてきた判例法とか、あるいはそれに対する評釈とか学説とか、そういうものを維持しながら将来に向かっていく、そういう過去の積み重ね、遺産というものを大事にしていくという意味では非常に大切な視点だと思いますので、きょう、午後も法務大臣に対する質疑が行われますから、その中で法務大臣に今の趣旨をしっかりと確認してまいりたい。いろいろ言葉は変わるけれども内容を変えるという意味ではないということをはっきり国民に後にわかるようにしていきたい、このように思っております。 大きなことを聞きながらまた細かいことに、ちょっとあと二、三分ありますから戻りたいのですが、先ほど渡辺先生もおっしゃいましたように、「仮出獄」とか「監獄」とかという言葉がずっと残っておりますが、これは提出されながらことしで十二年目を迎える拘禁二法と略称される刑事施設法あるいは留置施設法ですか、そういうものがあって、それに即応した使い分けというものができなかったのかなという感じを私は受けるのですけれども、「監獄」と言うところを「刑事施設」とか「留置施設」とか、そういう使い方で改正するということはやはりできなかったのかなというふうにも思うのですけれども、どうも「仮出獄」、「仮釈放」の方が、先ほど渡辺先生がおっしゃったような方が、国民にも当たりもいいし、またわかりやすいのではないかな。それから、「改俊」という言葉も、「反省」という言葉とはまた全然違うのかな、そんな感じも受けました。 その点についても松尾先生と渡辺先生のコメントをいただいて、私の質疑を終わりたいと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
○松尾参考人 この「監獄」、「仮出獄」等、「獄」という言葉をどうするかというのは、部会でも相当に議論になった点でございます。そして、その中には、刑法の方がいわば基本的な地位を占めているのであるから、刑法が主導してまず改めたらどうかという御主張も、日弁連の方からはもちろん、その他の委員、幹事からもなされました。 しかし、やはり事が行刑という実践的な問題でありますし、その分野では現在監獄法が現行法でありますので、それと違った名称を刑法が用いるということは相当の混乱を引き起こすおそれがある。それを防ごうとすれば、技術的には不可能ではなかったかもしれませんけれども、相当たくさんの法規をいじらなければならなくなるというようなことで、今回は遺憾ながら見送ったというのが事実でございます。
○渡辺参考人 ただいま御紹介いただきましたように、基本法としての刑法典の方でその名称等を決めていくということでいいのではないかということが基本的な考え方でありました。 現行の監獄法がそれ自体としては改正されなければならないことは日弁連もはっきりさせておりますが、いろいろな問題が絡まされてしまうものですからスムーズにいかないで、そちらの方の改正も必要な改正だけは早急にやっていただきたいと思っております。 代用監獄だとかあるいは未決拘禁の問題を一緒くたにしてしまうものですから問題になるので、改正すべきは、異論のないところはどんどん進めていいのではないかと思っております。
○冬柴委員 ありがとうございました。
○金子委員長 正森成二君。
○正森委員 刑法の一部を改正する法律案には、私どもは賛成の立場でございます。そういう意味で、資料を拝見しますと、松尾参考人はいろいろ中心的に御努力なさったようで御苦労さまでございました。これから、短い時間でございますが、各参考人に質問をさせていただきたいと思います。順不同でございますが、渡辺参考人に伺いたいと思います。 先ほどの基本的な御意見の陳述の中で、日弁連からの選出された方としてのいろいろ御意見を言われましたが、法制審議会の刑事法部会の審議で、最小限必要であると提案した部分的修正案がございます。私も拝見しましたが、部分的修正案と言いながら、相当広い範囲にわたっているようでございます。そのうち日弁連として、あるいは日弁連を母体として出られた刑事法部会の委員の方として、最も強く実現を望まれた条項はどういうものだったか。重複する点はあるかもしれませんが、お述べいただきたいと思います。
○渡辺参考人 聾唖者の行為に関する削除は大体通るということになりまして、その後の段階で日弁連側として最後まで強く実現を望んだのは二つあります。 一つは、罪刑法定主義の原則規定を設けること。これは先ほど申し上げた趣旨で、これから先のことを考える上にもぜひ必要。それからもう一つは、強盗傷人の法定刑を引き下げること。七年を六年に下げてもらいたい。これは実務上の切実な要請がありましたので。 最後に絞ったのはその二点何とかということで努力をいたしましたけれども、壁が厚かったということでございまして、今後ともよろしくお願いいたします。
○正森委員 強盗傷人について、ぜひ今の刑を低くしてほしいというのは、先ほどの基本的御意見をお述べになった点で、窃盗の後で逃げるときに思わず傷つけたというような、本来は窃盗犯というものについても減軽をしても三年六カ月で、なかなか執行猶予がつかないという点でございますね。(渡辺参考人「はい」と呼ぶ) それでは松尾参考人に伺いたいと思います。 尊属殺の点について伺いたいと思います。この点については他の同僚委員もお話しになりましたが、もちろん先生方もよく御承知のように、昭和四十八年の最高裁判決は、十五名の裁判官が三つの流れに分かれまして、多数説はもちろん石田裁判長裁判官を含む八名でございまして、非常に例外的なのが下田裁判官であります。下田裁判官は一応除きまして、この八名の多数説と田中二郎裁判官を含む六名の裁判官の説について、法制審あるいは松尾参考人の御意見を伺いたいと思います。 多数説は、刑法二百条は尊属殺の「法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限っている点において、立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法百九十九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法十四条一項に違反して無効であるとしなければならず、」云々と、こういうぐあいに書いてございます。 それに対して、田中二郎裁判官初め全部で六名の方の御意見は、「普通殺人と区別して尊属殺人に関する規定を設け、尊属殺人なるがゆえに差別的取扱いを認めること自体が、法の下の平等を定めた憲法十四条一項に違反するものと解すべきである」、こういうように言われまして、こう解しないと、尊属傷害致死に関する刑法二百五条二項とか、あるいは尊属遺棄に関するものとか、あるいは逮捕監禁に関するものですね、こういうものについては死刑または無期だけではないんで有期刑がございますから、刑法上は二回にわたって減軽をすることができますが、十分に執行猶予等をつけることができるわけで、多数説の意見によっては、尊属殺については憲法違反と言えるかもしれないけれども、その他の点については言えないことになるじゃないか、考え方自体に問題があるという御意見のようであります。 それで、法制審の御審議あるいは松尾参考人は、これらの点についてどのように理論的に御考慮なさったのか、伺っておきたいと思います。
○松尾参考人 法制審と申しますよりは、私個人の意見としてお答えさせていただきたいと思いますが、ただいま御指摘の最高裁判所の意見の分布に関しましては、私はこの田中二郎裁判官を含む六名の方の意見に賛成でございます。 ただ、ちょっと委員の御質問を聞きながら感慨を催さないわけでもありませんので、一言つけ加えさせていただきますと、現行刑法の審議がありました明治四十年の帝国議会で、同じようにこの尊属殺の規定は激しい批判の対象になりました。それはどういう意味か。尊属、卑属というようなこの西欧から来たような観念を持ち込むのはけしからぬ、日本には古来の純風美俗があって、祖父母、父母に対する罪というふうにすべきである、独立に一章を設けて祖父母、父母に対する罪をそこに全部集めて厳しく加重すべきであるという議論が当時の帝国議会では展開されたのでございます。 さすがにこれは賛成少数で、法律としては尊属という規定ができたわけでございますけれども、それから八十数年、今日においては日本の国民の考え方あるいは議員の、先生方の御意見もまさに百八十度と申しましょうか、全く違ってきたというのが私の感慨を覚える点でございます。
○正森委員 今沿革にさかのぼっての御意見がございましたが、明治四十年の議事録等を拝見しますと、明治十三年の旧刑法では死刑以外になかったのですね、法定刑が。それを無期を含めて変えるということについて非常な議論が起こり、その中で今先生御指摘のような、言っては悪いですが、保守的な方の意見も述べられたということであろうと思います。私どもは、田中二郎裁判官初め六名の方の御意見に賛成でございます。 それで、その経過で、最高裁で違憲の判決が出ながら、国会でもなかなか刑法改正が、その部分についてさえできない。検察官が実際上、求刑の場合に尊属殺の求刑をしないということで長年きたわけですが、その間、国会におきましても与党などから、最高裁の多数説の意見では死刑または無期もしくは四年以上の徴役というようにすればいいのではないかという意見がございましたが、きょうは参考人意見ですから多くは申しませんが、それにとどまらず、関連の尊属遺棄とか尊属監禁あるいは傷害についても削除されることによって非常に統一的な見解が得られた。しかも、そのことは決して親子の情愛を否定するものではなくて、法律とそれから刑罰法規との違いというものに着目したものであるというように理解しております。 次に移らせていただきますが、今質問の中で、法制審あるいは特に刑事法部会ですね、女性が入っていないという点や、あるいは氏名の公表がされていないでディスクロージャーが著しく足りないという点について御指摘がありました。私が政府にちょっと聞きましたら、氏名の公表はぐあいが悪い、公表されるなら委員を受けないなんというのはめったにないそうで、法制審でも民事法なんかはちゃんと公表されているのですね。何ゆえに基本的人権についても御造詣の深い刑事法の先生方がそういうことをおっしゃるのか、理解に苦しむわけですが、その点についての先生の御見解を伺います。
○松尾参考人 公開の点につきましては、これも私の個人的な意見としては公開賛成でございます。事実上、また例えば刑法学会などでは、だれが委員を務め、だれが幹事をやっているかということはみんな知っております。 ですが、部会として民事法などと違う姿勢があらわれてくるのはなぜかというお尋ねですと、恐らくそれは、ある時期において刑法を論ずることが非常に困難になった時代がございます。御承知の、特に保安処分の問題が表面に出ていた時代でありますけれども、このときは、事実私どもの学会も何度か妨害を受けましたし、大学で開くことが困難で、学外、キャンパス外の施設を使って開いたということが何回かございました。もう今は時期が変わってきておりますので、そのようなことは万々ないわけでございますけれども、まあ若干のその後遺症の記憶というようなものが働いたのかなというように推測いたします。
○正森委員 そういう御見解ですからこれ以上は申しませんが、なるべくその後遺症が早く解消されることを希望しておきたいと思います。 それで、飯室参考人に伺います。 今刑法の条文を相当数引用されて、こういう点はまだまだわかりにくいのではないかという御意見を承りました。私が急いで調査室がつくってくれました対照表で見ますと、飯室参考人の御意見はほとんど日弁連の案に著しく近いというように申しても差し支えがないんじゃないかというように思います。そういう意味で、こういうのを決めるに当たって女性あるいはマスコミあるいは専門家以外の意見を聞くべきじゃないかという御意見も述べられましたが、そういう点について、さらに具体的な御意見があればお述べください。 それから、時間がありませんので一緒に聞いてしまいますが、あなたがおいでになるということでしたので、あなたのお書きになったものを二、三読ませていただきました。 その中で、「「判決文をやさしくする運動」への疑問」というのを書いておられますね。ほかに「悩まなくなった裁判官」ですか、非常に傾聴して読ませていただきましたが、刑法を易しくするわけですから、今の私が初めに言いましたことに一言答えていただいた後、判決文を易しくする運動についての疑問というのの、もう時間がございませんので骨子だけお述べいただいて、終わらせていただきます。
○飯室参考人 実は私、不勉強でして、日弁連の案を余り詳しく読んでなかったのですね。正森先生が似ていると言われたのであれと思ったのですけれども、特に私、今回来るについて、若い記者に意見を聞いてみました。というのは、僕なんかは若干法廷取材しているものですから、もう既にあかがついている。あかとは悪い言葉ですけれども、専門家の癖が少し乗り移っている部分がありまして、そういう若い人たちの意見をこれから聞いていくことが非常に大事ではないかなという気がします。 それから二つ目の、易しい判決文という問題ですけれども、簡単に言いますとあの判決文は、裁判官が自分で勝手に争点を整理して、自分で整理した争点に沿って判断するわけですね。ですから、訴訟記録を詳しく読んでみますと、これは判断漏れじゃないかなというような部分がいっぱい出てきます。 それからもう一つ、今までの判決文というのは、双方の主張を詳しく引用していって、それに沿って判断していったわけですから、裁判官の頭の中で順序を追って精密な思考が組み立てられていくのですけれども、今はまさに箇条書きみたいな争点についてぽんぽんぽんと答えていくわけですから、例えば、私名誉毀損のことを若干勉強しているのですけれども、大前提になる表現の自由の大切さというものに対する留意がなしに、ただ攻撃性、公共性、真実性という三要件だけぽんと当てはめて、ぽんと出してくるという判決が大変多いということを最近憂慮しております。
○正森委員 時間の関係で非常にあれでしたが、あなたのお書きになったものを見ますと、「判決書は「分かりやすさ」と「正確さ」を兼ね備え、「説得力」も持たなければならない」ということを言っておられますが、その辺がお述べになりたいことだろうと思います。 もう少し詳しくお聞きしたかったのですが、時間が参りましたので終わらせていただきます。ありがとうございました。
○金子委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。 参考人各位には貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。 午後一時四十五分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。 午後零時十三分休憩 ――――◇――――― 午後一時四十五分開議
○金子委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。 内閣提出、刑法の一部を改正する法律案の審査を続行いたします。 これより政府に対する質疑に入ります。 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。斉藤斗志二君。
○斉藤(斗)委員 斉藤斗志二でございます。 刑法の改正について、大臣並びに関係に質問させていただきたいと思います。 現行刑法は制定以来八十八年という長きになるわけでありますが、今回、現代用語化による改正を行うわけでございます。表記の平易化も目的としているわけでございます。他の法律の多くはもう既に現代用語化されているわけでございまして、今回の刑法改正はおくればせながらという感か、または遅きに失したか、そんな感もいたすわけでございますが、今国会でぜひとも成立させたいという前田法務大臣の熱意も感ぜられるところでございます。 そこで、内容についてでありますが、尊属加重規定及び聾唖者に関する規定の削除を除いて内容の実質的な変更はないということでございます。言葉を変えても解釈が変わらないという案を作成するについては、専門家の間でもさまざまな議論があったと聞いています。 そこで、まず改正の目的ということでございますが、私、実は三十分しか時間をちょうだいしておりませんので、目的につきましては先ほど大臣の趣旨説明で理解をさせていただいたというふうに思います。それでは、実はどのような作業を経て今回の案ができ上がったか、その点につきましてまず最初にお聞きしたいというふうに思います。
○前田国務大臣 今回の改正案の作成過程でございますが、法務省の刑事局におきまして、刑法の現代用語化を求める国会附帯決議等も踏まえまして、関係資料の収集等基礎的作業を進めるとともに、歴史的には、午前中参考人でいらっしゃっておられました松尾浩也先生、平成二年の十二月に刑法の現代表記化案の作成に関する調査を委託を申し上げました。平成三年六月、松尾教授から調査報告書の提出を受けました。これを基礎といたしまして、裁判所、検察庁、弁護士会、法律実務家、また多数の大学の刑事法学者の先生方との意見交換を行いまして、さらに作業の性質にかんがみまして、国語学者からの意見も聴取しながら検討を重ねてまいりまして、事務局案を作成をいたしました。 この案によりまして、平成六年の六月に、法制審議会に表記の平易化のための刑法改正に関する諮問をいたしたわけでございます。この法制審におきまして、刑事法部会において六回にわたりまして調査、審議が行われまして、ことしの二月に、諮問にかかわる案に修正を加えた案を内容とする答申がなされるに至りまして、今回の改正案はこの答申に基づいて作成をいたしたものでございます。
○斉藤(斗)委員 今回の改正作業のきっかけといたしまして、平成三年の第百二十回国会において、衆参両法務委員会の附帯決議があったわけでございます。それによりますと、現代用語化以外にもいろいろな事項についても検討を求めている。これらの事項について実現したものは何か、また、実現しなかったものについてどのような検討状況にあるのか、お聞きしたいと思います。
○則定政府委員 お答えいたします。 附帯決議の要点は六点になるかと思いますが、順次御説明申し上げます。 第一は、刑罰法令の現代用語化でございます。第二は、尊属加重規定の見直しでございます。これらの二点につきましては、今回の改正において対応させていただくことになりました。 第三は、罰金が選択刑として定められていない財産犯及び公務執行妨害罪につきまして、罰金刑を選択刑として導入することについて検討するということでございます。 これにつきましては、法制審議会に対して諮問をいたしましたところ、刑事法部会の財産刑検討小委員会というものをつくりまして、約二年にわたり審議検討を行いました。その結果、いずれについても積極論と消極論とが分かれまして、現在は、事務当局において基礎的な検討を継続しているところでございます。 第四は、罰金刑に伴う被告人の資力及び自然人と法人の経済力の格差から生ずる不公平を解消するため、罰金刑制度のより適正な見直し及びこれを補完する制度の導入について検討することでございます。 これにつきましても、法制審議会におきます検討事項でありましたところ、法人に対する罰金の問題につきましては、いわゆる両罰規定を切り離して、法人に対する罰金を引き上げることは可能であるとの検討結果が他の検討事項に先立って平成五年二月に取りまとめられまして、これに基づきまして、例えば独占禁止法等の法改正もなされております。罰金刑を補完する制度の問題につきましては、日数罰金制や社会奉仕命令等の代替処分の導入の可否等に関しましてさまざまな角度からの議論が行われましたけれども、それらを含めまして事務当局において基礎的な検討を継続するということになっております。 第五は、逮捕、勾留等のいわゆる限界罰金額におきます刑法等三法の罪とその他の罪との間の法定刑の区別を早期に解消し、一元化を図ることでございます。 これにつきましては、刑法等三法以外の罪については、その定められた罰金額が刑法等三法に比較して低いものが少なくなく、罰則を規定している法律がまた極めて多数に上ることから、一挙にこれを改正することは困難でありますので、法改正の機会をとらえて、それぞれ限界罰金額の一元化が早期に可能になるよう逐次その引き上げを図ってきているところでございます。 最後の第六は、現行刑罰制度の合理化、適正化、例えば、きょうの午前中の参考人質疑にも出ておりました強盗致傷罪等の下限をどうするかといったことを含めます合理化、適正化でございますが、これにつきましては、法定刑相互の均衡や犯罪の動向も踏まえまして検討すべき問題でございますので、その基礎的な調査研究を継続して進めているところでございます。 以上でございます。
○斉藤(斗)委員 先ほど大臣の答弁、また局長の答弁の中で、長年の懸案事項を解決していくというこの法改正であります。大臣からは、大変長い間、また慎重に議論を重ねてここまで来たということ、また局長からは、それぞれの課題につきましても現実的対応をしながら、そして時代に合ったものに変えていったというような御説明をいただきました。 先ほどの午前中の参考人審議の中で、共産党さんも賛成というお話もいただいて、こういう全会一致のケースは少ないのかなというふうな感がいたすわけでありますが、今回の改正で、刑法がわかりやすいものでなければならない、また今後の社会の必要に対するためにさまざまなまた議論も起こるというふうに思っております。例えば、先週起こったサリンによる地下鉄大量殺人事件に対する刑法のあり方なども考えなければならないというふうに思いますが、今後の議論について法務当局はどのように考えておるのか、お答えいただきたいと思います。
○前田国務大臣 今回の改正は、まさに今後の刑法の改正の基盤整備作業というような位置づけになろうかと思っておりますし、けさほども、改正への第一歩、大きいか小さいかという御議論がございましたようでございますが、そうした意味で大きな意味を持つものと考えております。 今回御審議をいただき、この改正が成立をいたしましたならば、御指摘のような、新しいこれからの時代に合った刑法のあり方、内容等についてさらに御議論が活発化することであろうと思いますし、また、そう期待をしておるわけでございます。今後、こうした御議論を踏まえて、まさに社会の状況に合致したよりよい刑法の実現を目指して所要の作業を進めてまいりたいと考えております。 その際には、今回の改正が、明治四十年に制定された刑法の内容を基本的に維持したままの平易化でございますので、現行刑法を全面改正することも検討課題になる、かように考えられております。いずれにいたしましても、刑法は国民生活とかかわりの深い基本法でございますし、まさに国民の行動規範となるべきものでもございますし、また、国家による最終的な独制力を持つものでございますから、なるべく大方の合意が得られるような形で改正が行われることが望ましく、そのような形で改正が実現するように所要の検討作業を進めてまいりたい、かように考えております。
○斉藤(斗)委員 実は、質問を通告してない件なんでございますが、国語とそれから片仮名文化の中で、私は、片仮名というのは余り乱用してはいかぬな、少し日本は乱用し過ぎるのではないかという感がいたすのでありますが、大臣は、伝統的文化である国語、同時に一万片仮名がどんどん導入されることについて何か所見がおありになりますでしょうか。あればお聞きしたいというふうに思いますが。
○前田国務大臣 本来日本語が持っております語彙等、歴史あるまたその趣旨のある言葉もございますが、特に外来語でございますとかいわゆるテクニカルな、これも片仮名でございまして申しわけございませんが、テクニカルなものについては、今日の社会状況からいって、併存することはある意味ではやむを得ないことだ、かように思っております。
○斉藤(斗)委員 それでは、時間の関係も限られておるので、次に、サリン事件について少しお聞きしたいというふうに思っております。 まず、昨年六月二十七日に長野県松本市で起きたサリン事件です。 私が調べたところでございますが、長野地裁松本支部には、オウム真理教が被告となっている事件が一件係属しておるわけでございます。この事件は民事訴訟で、オウム真理教が松本市内で計画した施設に対しまして地元住民が反対して、売却した農地の返却を求めている、そういった内容でございます。 長野地裁松本支部は、平成六年五月十日に弁論終結、次回の判決期日を約二カ月後の平成六年七月十九日を指定しているわけでございますが、その判決日のほぼ三週間前に、ですから、時間の長さでいえばまあ直前と言ってもいいかもしれない、六月二十七日に松本サリン事件が発生しているわけでございます。このサリン事件で、民事訴訟の裁判体を構成する裁判官が三名とも被害を受けたということでございまして、事件当時の風向きが裁判官宿舎に向いていなかった、もし風が裁判官宿舎に向かって吹いていたら、担当の裁判官の死ということも可能性としてはあったわけでございます。 そこで、さまざまな情報、マスコミ報道等を総合いたしまして、特に松本サリン事件並びにその一カ月後に起きた山梨県上九一色村の異臭騒動、さらに先週起きた地下鉄サリン事件、これらにつきましては、共通点として残留物が同一であったということがあるわけでございますが、きょうは警察お越しいただいておりますが、まず、昨日までの捜査状況について説明をいただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 昨年のいわゆる松本サリン事件につきましては、現在引き続き長野県警において捜査本部を置きまして捜査中でございます。 三月二十日に発生いたしました地下鉄駅構内の毒物使用多数殺人事件につきましては、警視庁におきまして、事件発生直後より三百名態勢の特別捜査本部を設置をいたしまして、現在鋭意捜査をしておるというところでございます。現在の捜査におきましては、不審者等についての目撃情報の収集、あるいは、現場に遺留されておりました五件の物件につきましての鑑定というものを主に行っておるという状況でございます。 また、仮谷さん拉致事件に関係をいたしまして、三月二十二日の早朝よりオウム真理教関係施設二十五カ所に対して一斉に捜索を行いまして、その結果、サリンを製造するために必要とされると見られる薬品類多数を発見、押収して、まだ現在これについて鑑定、分析中という状況でございます。 なお、これに関連をいたしまして、殺人予備ということで、二十六日におきまして第七サティアンを中心に再度捜索を行いまして、その結果、化学プラント用の大規模な設備が隠されていたことを発見をいたしまして、現在それについて捜索を続行中という状況でございます。 以上でございます。
○斉藤(斗)委員 捜索が続行中という御答弁をいただいたわけでありますが、もう一度松本サリン事件に触れます。 この裁判、これは裁判所が最終的には判断されることでございますが、もし原告側が勝訴するということになりますと、建物の撤収また土地明け渡し請求というのがなされるわけでございます。そうしますと、現在使っているオウム真理教の施設といたしましては、それをもとへ戻すなり明け渡さなければならないということになりますと、被告側は困るということになるのだという解釈ができる。 そうなりますと、一つの因果関係というのは、この松本サリン事件とその裁判との関係というのは類推できるわけでございますが、また多くの方がそのようなこともあり得るのではないかというふうに見ているところもあるわけでございますが、警察としてはその点どのように見ているか、御答弁いただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 委員御指摘の民事訴訟につきましては、そういう訴訟が行われていることは私ども承知をしているところでございますけれども、これにつきまして、現在私どもの方で具体的にどうだというような形での答弁については差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
○斉藤(斗)委員 先ほどの答弁の中で捜査が続行中という中で、松本にあるこの布教所といいますか宗教施設について、これはまだ捜査の対象になっていないというふうに聞いておりますが、今後捜査継続の中で捜査の対象になり得る可能性があるのかどうか、警察からお聞きしたいと思います。
○篠原説明員 御指摘の施設については、一連の捜索の箇所には入っておりません。今後捜査対象となるかどうかにつきましては、現時点では判断しかねるということでございます。
○斉藤(斗)委員 捜査の過程にありますからいろいろ答弁が難しいというかいただけないということかなとは思いますが、時間の関係もあって、そこで次に、殺人予備罪ということでお聞きしたいというふうに思います。 刑法二百一条、今回の改正の中の一つの条項でもございます。この適用に踏み切ったわけでありますが、殺人の罪を犯す目的でその予備をした者を対象にしたものであるわけでありますが、被疑者不詳のままという捜査令状であるはずだと思います。これは極めて異例なケースだと思うのでありますが、そこで、殺人予備罪を適用した理由、その根拠というものについて御説明いただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 これまでの捜査におきまして、サリンなどの製造に必要であると思われます薬品類が多種押収されたところでございます。なお、特にサリンにつきましては、極めて殺傷能力が高いということで、通常人を殺傷するため以外には他に用途は考えられないということでございます。また、これら、あとほかの状況等を踏まえて総合的に判断をいたしまして、殺人予備の容疑を立証するための捜索、差し押さえ、検証を行ったものでございます。 以上でございます。
○斉藤(斗)委員 国民が大変多く関心を抱いている。またいつ我が身に降りかかるかもわからない、そういった不安におののきながら日々を送っているわけでございます。事件の解明、また犯人の逮捕、これが急がれるわけでございますが、きのう、きょう、またその以前からでもございますが、いろいろな関係者がマスコミを通じて登場してきている、また話題になっている麻原彰晃教祖もテレビにも出演をされる、こういう状況でありますけれども、今証拠の中にテレビに報道された言動、これは十分に考慮すべきものではないかなというふうに思いますが、警察当局は書物のみならず映像についてどのような、証拠等々、参考資料の位置づけをされているのか、お聞きしたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 映像等がなされて、その内容については私ども承知をしておりますけれども、それについての評価につきましては、現段階、捜査の内容にわたる部分になりますので、答弁を差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
○斉藤(斗)委員 それでは、次に行きたいと思います。 不法監禁罪で数名逮捕されて、そして送検もされているわけでございます。その中に医師、お医者さんも含まれているという報道になっております。それらの医師は信者の治療に当たっていたというふうに聞いておりますが、その治療は通常の医療行為、普通の医療行為とされているという説明を聞いておりますが、その治療というのは果たして医師法や医療関係法に準拠した、のっとった治療法であったかどうか。 これは私ども、解明してもらわなければならない、また知りたいというふうに思っているわけでございますが、一方、多くの信者が点滴や注射を受けて、気分が悪くてしばらく動けなかったとか怖くて仕方がなかったというような報道もなされているわけでございます。この患者の病気の状況ということは、実はカルテということの存在も必要になってくるわけでございますが、このカルテの存在、捜査に入られたわけでございますが、その押収物件の中にカルテの存在というのがあったかどうか、最初にそれだけお聞きしたいというふうに思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 御案内のとおり、山梨県内のオウム関連施設におきまして不法に男女六名を監禁しておったということで、医師三名を含みます四名を現行犯逮捕しておるところでございますけれども、御指摘の点につきましては、今後の他の法令違反の捜査の有無を推測させる点もありまして、捜査の個別的内容にわたる事柄でもございますので、答弁を差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
○斉藤(斗)委員 今の答弁ですと、通常の医療行為が行われていなかった、また普通の医療行為でなかったといった場合は、医師法の違反とか医療関係法の違反にも関連してくる、そういうふうに理解してよろしゅうございますか。
○篠原説明員 お答えいたします。 具体的な法律違反等については言及を避けたいと思っておりますけれども、警察といたしましては、捜査の結果、刑罰法規に触れる行為が明らかとなれば厳正に対処いたしているところでございますし、また今回もそうするつもりでございます。
○斉藤(斗)委員 時間の関係で、きょうは人権擁護局長さん、お越しいただいていますか。――今回のこういう一連のいろいろな騒動の中で、人権擁護が十分施されているのかどうかということも国民の皆さんは知りたいと思っています。信教の自由、宗教の自由、もちろんその大前提はございますけれども、しかしながら、その範疇においてお困りになっていらっしゃる方もかなりいるというような報道がなされているわけでございます。その点、人権擁護という立場から、局長にお答えいただきたいと思います。
○筧政府委員 委員御指摘のとおり、この問題は信教の自由に密接に関連する問題がございまして、大変難しい問題を含んでいると考えております。 私どもといたしましては、基本的に、宗教活動の活動の自由というものに対しても十分な尊重を払うべきであるという観点から、まずその関係者からの救済の申し立てというものがあった場合に、個別の事案ごとに具体的な事実関係に即して適切な処理をするという方針でこの種の問題に臨んでいるところでございます。
○斉藤(斗)委員 それは、本人からの申し出がないとできないということになっている、こういうことでございますか。
○筧政府委員 これは決まりということではございませんけれども、またそれが本人というように限られたものではないと考えておりますが、人権擁護機関も国の機関の一つでございますので、宗教活動に関与していくことに対しては慎重であるべきであるという建前から、取り扱い上といいますか、人権侵犯事件の取り扱いの中では、ただいま申し上げましたように、本人も含めた関係者からの申し立てがあった段階で調査活動に入っていくというような取り扱いをしているのが、このオウム真理教に限らず、宗教団体が絡んだ人権侵犯事件の取り扱いの例であるというように申し上げております。
○斉藤(斗)委員 法務省も人権擁護には積極的に対応する、こういうふうにお願いをしたいと思います。 時間の関係で、きょうは文化庁お越しですか。――今回のオウム真理教の施設への捜査に関しまして、海外からも重大な関心が寄せられているわけです。海外に毛布教活動が行われているようでございまして、報道によりますと、モスクワほかにもあるということでございます。そこで、ロシアでは現地法人には解散命令が出た、こういうようなマスコミ報道もあるわけでありますが、日本文化に対する誤解やまた国際文化摩擦というようなことが生ずるおそれがあると私は心配をいたしております。 お聞きしますと、現在十八万四千の宗教法人があって、ほとんどが社会的存在として立派に活動されているわけでございますが、しかし一部には、騒動によっていろいろな誤解とか、また社会的に好ましくないというようなことも起きているわけでございます。大部分の宗教法人が立派にやられているのにそういった一部のもので迷惑するということは困る、こういうようなこともあると思います。 そこで、この機に、文化庁所管ではしかるべき審議会を幾つかお持ちかと思いますので、そのような機関を通じまして、信頼を高めるさらなる努力というのがなされるべきではないかなと思いますが、いかがでございますか。
○中根説明員 お答え申し上げます。 文部省、文化庁を通じまして、宗教法人に係る諮問機関といたしまして、宗教法人審議会が宗教法人法に基づきまして設置されておるところでございます。この宗教法人審議会の職務につきましては、文部大臣の諮問に応じまして宗教法人に関する認証その他宗教法人法の規定によりその権限に属せしめられた事項につきまして調査審議し、及びこれに関連する事項について文部大臣に建議する、こういうふうに規定されているところでございます。 今回の事件につきましては、まだ捜査中ということで事実関係が明らかではございませんが、特異な事件とも言われております。いずれにいたしましても、その事実関係が明らかになった時点で、宗教法人審議会を開催することにつきましても検討してまいりたい、かように考えている次第でございます。
○斉藤(斗)委員 時間がなくなりまして、最後に一言、これは環境庁、お越しいただいておりますね。 今回捜査された場所はかなりの数に上るわけでありますが、大量の薬品、化学物質が発見され、押収されたのは山梨県上九一色村なんです。実は、地元住民はもとより、そこに隣接する人、または河川がたくさんございまして、富士川を初めとするそういった河川の流域にある方々が、今回、ああいった特殊な薬品によって環境汚染とか二次災害があるのではないかと心配をいたしておるわけでございます。 そこで、環境庁におきましては、このような環境汚染の可能性、または、もしあった場合どのような対応をするのか、お聞きしたいと思います。
○福原説明員 御説明いたします。 今回の案件についてでございますが、現在警察当局によります捜査が進められているところでございまして、特定の化学物質の種類でありますとか保管量等につきましては、その詳細な情報を私どもとしては承知していないのが現状でございます。 しかし、環境庁といたしましては、今後の警察当局の捜査の進捗に沿いまして、関係いたします化学物質等についての情報の収集でありますとか地方自治体等との密接な連携に努めるなどいたしまして、地域住民の方々が不安を抱かれることがないよう、化学物質によります環境汚染問題に適切に対処してまいりたい、そのように考えております。
○斉藤(斗)委員 以上で終わります。
○金子委員長 細川律夫君。
○細川(律)委員 まず私も、せんだって起こりました地下鉄サリン事件についてお伺いをいたします。 まず、現在におきます被害状況はどうなっているのでしょうか。 〔委員長退席、中島(洋)委員長代理着席〕
○篠原説明員 お答えいたします。 私どものけさまでの数字におきましては、死者十名、負傷者約五千二百名という数字になっております。
○細川(律)委員 この地下鉄サリン事件につきましては、まさに日本の犯罪史上におきますまれに見る凶悪事件だろうと思いますし、また国民の皆さんも大変な不安に陥っているだろうと思います。 そこで、事件を一刻も早く解決をいたしまして、犯人を逮捕しなければいけないと思いますけれども、犯人を特定できるような手がかりがあるのかどうか。これについては一部マスコミなどで、乗客の犯人の目撃があったとか、あるいは犯人そのものが負傷をして入院をしているというような報道もなされておりますけれども、犯人を特定できるような手がかり、捜査に支障のない範囲でお答えいただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 事件が発生して以来、警視庁におきまして約三百名態勢の特別捜査本部によりまして、現在、主として現場に遺留されておりました物件の分析あるいは目撃情報の入手ということで、全力を尽くしておる状態でございます。 これまでの捜査におきまして、不審者等に関する多数の情報は寄せられておるところでございますけれども、捜査の具体的内容につきましては、答弁を差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
○細川(律)委員 この事件は、いずれも地下鉄霞ケ関を八時九分から十三分までに通過をする、そういう地下鉄の電車にサリンがまかれたわけでありますけれども、まさに霞が関というのは日本の中枢の機関があるところであり、これをねらっているのではないか、こういうことが報道もされております。 そこで、この事件の発生する前に、やはりこの霞ケ関の駅におきまして、リード線の入ったかばんの不審物件が発見をされたということが報道されておりましたけれども、今回のこの地下鉄サリン事件と関係があるのか、あるいは捜査は進んでいるのかどうか、この点についてお聞かせいただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 お尋ねの事案は、三月十五日、地下鉄霞ケ関構内に置かれましたアタッシュケースから白い煙が上がったという事案でございます。 単純ないたずらというふうに思われないところから、現在警視庁におきまして偽計業務妨害ということで捜査が行われているところでございますけれども、現時点におきましては、地下鉄駅構内のサリン多数殺人事件との具体的な関連については把握をいたしておりません。 以上でございます。
○細川(律)委員 今回の地下鉄のサリン事件につきましては、オウム真理教と関連があるのではないか、こういう報道がたくさんなされております。これまでにも、オウム真理教との間で関連があるのではないかというその他の事件もいろいろ出てきているわけでございます。 例えば、坂本弁護士一家の行方不明事件、あるいは松本サリン事件、そしてまた目黒の公証役場の事務長の仮谷清志さんの拉致事件、大阪の大学生の拉致事件、これまでにオウム真理教と関連があるのではないかということでいろいろ報道もされ、関心が集まっているところですけれども、警察庁の方では、こういう世間的にオウム真理教と関係がある事件ではないかということについて、あるというふうに認定している事件、あるいはそうでないというふうに認定している事件、説明をしていただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 オウム真理教関連事件ということで、いろいろな事件が取り上げられておりますけれども、私ども警察といたしましては、現在検挙あるいは強制捜査に着手した以外の事件につきまして、現時点では直接関連性ありと断定できる状況ではないということでございます。 現在、関係都道府県警察におきまして、それぞれの事件につきまして捜査を行って、証拠によって一つ一つ解明していくよう心がけて捜査を尽くしているところでございます。
○細川(律)委員 それでは、別の観点からちょっとお聞きをいたします。 オウム真理教と関連のあると思われるような捜索願であるとかあるいは保護願であるとか、そういうのはこれまでにどういうような内容のものがどれぐらいあるのか、ちょっと説明をしていただけますか。
○篠原説明員 お答えいたします。 現在まで、オウム真理教の信者と見られる方々の親族からの捜索あるいは保護願につきましては、数十件ということで受理をしておるところでございます。 その内容につきましては、やはり入信したまま帰ってこないとか、いろいろなものが、多種多様のものがある状況でございます。 以上でございます。
○細川(律)委員 数十件と言われましたけれども、これはどうですか、百に近いような数なんですか、それとも五、六十件とかそういうような数でしょうか。
○篠原説明員 捜索願あるいは保護願というふうに受け取るかどうかという点のいろいろ微妙なものもございますので、正確な数はお許し願いたいと思いますけれども、大体後の方の真ん中ぐらいの前後の数字でございます。 以上でございます。
○細川(律)委員 いずれにしましても、このサリンの事件につきましては、国民の皆さん方が大変不安に思っているわけでありますから、鋭意捜査をしていただき、ぜひとも犯人を突きとめていただきたいと思っております。 そこで、サリンの規制の問題でありますけれども、前の同僚委員の質問の中では、殺人予備罪を適用しながらやっているというお話がございました。 ずばり、このサリンの規制について、殺人予備罪でいけるのかどうか。いろいろあろうかと思いますけれども、化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律案が今国会でも審議をするというようなことになっております。しかし、これでも十分な対応はできないのではないかというふうに思われます。 そこで、特別立法をもちましてサリンの規制をしようということが準備をされているというふうにも聞いておりますけれども、それではその特別立法の具体的な内容はどういうふうにお考えになっておるのか、いつごろ国会に提案をされるのか、具体的に御説明をいただきたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 現在、サリンを殺人目的で不法に所持をしていたということで強制捜査を行っているわけでございますけれども、現行法におきましては、サリン自体につきましての取り締まり法規、またサリンを製造するために必要な原料物質の所持等につきましての取り締まり法規というものは存在しないところでございます。 現在化学兵器禁止法案が審議中と承知しておりますけれども、同法の行政的な規制に加えまして、警察といたしましては、公共の危険を防止する観点からサリンの不法製造、所持などを重罰化いたしますとともに、サリンの不法製造を目的としました原料物質の不法所持につきましても処罰をすることなどの内容を目的といたします特別立法を今国会に提出をしたいということで、関係省庁とも協議を行っておるところでございます。 国会への提出予定時期につきましては、なるべく早い段階にする方向で検討をいたしております。 以上でございます。
○細川(律)委員 この関係で最後の質問になりますけれども、先ほども申し上げましたように、この地下鉄サリン事件については国民の皆さんも大変不安に思っているところでございます。二度とこういうことが起こらないような、再発防止に向けてのどういう方策があるのか、先ほど特別立法もありましたけれども、そのほかに何か考えておられるのか、お聞きをしたいと思います。
○篠原説明員 お答えいたします。 特別立法につきましては、抑止効果ということで私ども期待をしているところでございますけれども、現状におきましては、同様な犯罪の発生の再発防止策ということで、私どもは、当面公共機関における警戒措置の徹底と、公共機関におきますそれぞれの自主的な管理措置の徹底への協力呼びかけといったものについて、現在総力を挙げてやっているという段階でございます。 以上でございます。
○細川(律)委員 それでは次に、今度の刑法の改正についての方に移りたいと思います。 まずお伺いをいたしますけれども、この刑法の現代用語化によります平易な文体にしたということについては、これは私も結構だと思いますけれども、国の法律というのは刑法だけではないわけでありまして、民法にしろ、親族、相続を除いた部分についてはまだまだ難解でありますし、商法の一部なんかも大変難しい。訴訟法などでもまだ昔のあれが残っているというような、全体として、法律全体を見て平易化をしなければならないと思うのですけれども、なぜ刑法だけ特に今回このような現代用語化による平易化に向けてこういう作業をして提案されたのか、その点を御説明いただきたいと思います
○前田国務大臣 先生御指摘のとおり、大変片仮名まじりの漢文調の難解な法令というのは、御指摘のとおり法務省所管だけでもかなりございます。 そうした中で、特に刑法につきましては、百二十回国会の法務委員会でも附帯決議をいただき、かつまた、まさにこの刑法は国民の行動規範を示す基本的な刑罰法規でございますので、その内容が国民に理解される必要が大変高く、その表記の平易化が急がれる、かような観点から、これまで刑法の全面改正のための作業をしてまいりまして、結局いろいろ意見がまだ整っておりませず全面改正には至っておりませんが、そういう意味では準備がかなり進んでおったということもございますし、それから、刑法そのものの条文がボリュームが比較的少ないものでございますから、今回こうした点もいろいろ踏まえて表記の平易化のための改正をお願いすることになった、こういうような次第でございます。
○細川(律)委員 民法も非常に一般国民に関係ある法律でありますから、その作業の方についてもぜひよろしくお願いしたいと思います。 次に、この現代用語化による平易化というものは刑法全般にわたっておりますけれども、一万条文の削除で提案のある尊属加重規定、それから聾唖者の行為、この二つといいますか、これだけに限って特に提案をされているわけですけれども、これはどういう理由によってこういうふうにされたのでしょうか。
○則定政府委員 お答えいたします。 今回御審議いただいています法案の趣旨は、刑法の表記の平易化が緊急の課題になっておりますことから、これをできるだけ早期に実現していただきたいということでございます。そこで、現行刑法典の条文を可能な限り忠実に現代用語化して平易化し、原則として内容の変更を伴うような改正は今回は行わないということにいたしたいと思ったわけでございます。 ただ、最高裁判所におきまして違憲判決がなされております尊属殺規定につきましては、そのまま現代用語化することができませず、また何らかの手当てが必要でございますが、先般大臣のこの提案理由説明でありましたように、尊属加重規定をすべて削除したものでございます。また、聾唖者の行為に関します規定につきましては、法制審議会の審議の過程におきまして、現在ではそれを存置する合理性が著しく乏しくなってきておりますので削除が相当であるとの意見が出され、これに異論がなかったということから削除することにいたしたものでございます。 それ以外にも、御指摘のように幾つか検討すべき点があることはもちろんでございますけれども、短期に合意を形成して早期に改正法案、平易化法案を出すという点から見ますとなかなか問題がございまして、意見の早期合意形成という点について困難な点もございましたので、今回の改正には含ませなかったものでございます。
○細川(律)委員 今回のこの改正案の提案と刑法改正作業全体との関係についての質問をしたいと思いますけれども、今回の現代用語化による刑法の平易化ということで全面的な改正なのですけれども、これを提案をされたことによって「改正刑法草案」のお蔵入りといいますか、これを確認をする意味があるとか、あるいは「改正刑法草案」の事実上の凍結を確認するものだというように評価をする論評も見られるわけなのですけれども、私もそのように考えたいと思いますけれども、これはこのように考えてもよろしいでしょうか。
○則定政府委員 今回の改正は、用語の平易化とは申せ、字句を全面的に直したという意味では全面改正ではございますが、ただ、内容はあくまでも現行刑法の規定をそのまま現代用語に翻訳するということでございます。実質的な内容の変更を伴います、いわゆる刑法の全面改正の問題は、御案内のとおり、昭和四十九年の法制審議会におきます答申を受けて関係方面等とも意見調整を図りましたけれども、不幸にも意見の一致を見ない点が幾つかございましたことから、今日まで国会での御審議を煩わずに至っていないわけでございます。 ただ、まずもって、今回大臣の趣旨説明にもございますように、全面改正へ向けての基盤整備とでも申しましょうか、用語を現代用語化するということにつきましてまずやりまして、かねてからの刑法改正の草案等で提示されます問題を含めまして、現在あるいは今後の社会情勢あるいは犯罪情勢に合致いたしますよりよい実質的内容を持った刑法典の策定に向けて今後とも作業を進めていかなければならない、こういうふうに考えているわけでございます。
○細川(律)委員 それでは、最後になりますが、今回改正をされなかった事項などで日弁連などの方からもいろいろこれまでに提案がございまして、例えば罪刑法定主義の明文化であるとか、あるいは刑法二十四条二項の問題、あるいはまた公務執行妨害罪への罰金刑の新設、あるいは強盗傷人の法定刑の変更の問題など、こういう点についてもいろいろ提言があったわけなのですけれども、今回改正されなくて大きな問題を残すようなことにもなりますけれども、これらについて今後どういうふうにされるのか、その作業について、もう細かいことは結構でございますが、簡単に説明をしていただきたいと思います。
○則定政府委員 今御指摘ございました何点かのうち、ウエートとして大小幾つかあるかと思います。例えば罪刑法定主義の問題というのは相当大きな問題でございます。これらの問題につきましては、今後全面的な刑法の改正という作業の過程で検討していくべき問題であろうかと思います。 一万また、この強盗致死傷罪等の法定刑の下限の問題等はもう少し至近の問題であろうかという気もいたしておりまして、これらにつきましては、今後いわば時代の要請に合った現行刑法の手当てを行うようなときに検討すべき課題であろうか、こういうふうな感じでおります。
○細川(律)委員 終わります。ありがとうございました。
○中島(洋)委員長代理 枝野幸男君。
○枝野委員 さきがけの枝野幸男でございます。 今回の刑法の改正案につきましては、その用語をわかりやすくするという趣旨、私は、党内でこの法案の了解をとりますときの説明のときには、ようやく刑法が日本語になりますという説明の仕方をさせていただいたのですが、午前中の参考人の方からも遅きに失したぐらいではないかというお話もあったとおりでございまして、大変結構ではないかというふうに思っております。 確かに午前中の参考人の先生のお話にもありましたとおり、まだまだわかりにくい。私も弁護士の端くれでございますので、ある程度難しい方が弁護士の商売にはいいのかなというような気がしないではないのですが、やはり可能な限りわかりやすくするというのが趣旨だと思いますので、今後もそういった努力をしていただくという前提に立ちまして、大変結構ではないかと思っております。 ただしかしながら、先ほどの細川先生の質問にもございましたとおり、内容面も含めた刑法の改正という問題が、いよいよ現代用語化されたことによりましてどうなっていくのだろうかということが大事な問題になってくる。口語化、現代語化ということだけでこれが終わってしまうとすれば、そして当面の間内容面の再検討というものが行われないとすれば、それは決して歓迎すべきことではないと私は個人的に思っております。 そこで、先ほどの細川先生の御質問にもいろいろ出ておりましたが、今後刑法の内容面の検討、議論、調査等について、本当は時期的な見通しというものをいただければ一番いいのでしょうが、それはなかなかいろいろな利害の調整があって困難だと思います。どういった場で、どういった機関で検討していく御予定であるのか、そういった点での見通し、枠組みとしての見通しをお教えいただければと思います。
○則定政府委員 刑法の実質的な全面的改正の問題でございますが、これは先ほど申しましたような従来の経緯をたどりまして、昭和四十九年に法制審議会から答申を得ました「改正刑法草案」というもの、そのもの自体をそのまま法案という形で国会の御審議を煩わすということは非常に困難な状況になっていることは、率直に申し上げて間違いないわけでございます。 その後、また社会犯罪情勢の変化というものもございます。それからまた、国民の価値観の変化というものもございます。あるいは刑罰観、刑罰についての考え方の変遷といったものもございます。 したがいまして、私ども刑事局の中でこの刑法の改正の問題について専門的に担当する部局を設けておるわけでございますが、なお相当長時間をかけて、事務的に、また学者その他の方々の知恵もかりながら、成案をまとめていく必要があろうか、こういうふうに思っておるわけでございまして、ここ数年のうちに国会の場で御審議をお願いしたいというほど、実は大方の合意の得られる内容を取りまとめるには至っていないところでございます。 ただ、今後例えば海洋法条約の批准等々の問題が現実化してきましたときに、やはり刑法の内容についてもそれなりの手当てを生ずると思われます。そういったときに、その時点で特に急いで刑法の内容的な手当てをする事項があるということになりますれば、あわせてそれらも取り込んだ改正ということはまず当面考えなければならない課題であろうというふうに考えているわけでございます。
○枝野委員 大筋としてはそういった方向でやっていただくのかなと思っておりますが、「改正刑法草案」というもの、立派なものが既にあるという事実、これを先ほどお蔵入りという表現が使われておりましたが、もったいないと言えばもったいないのかもしれませんが、時代も大きく変わっておりますので、広い意見を聞きながら、日弁連なども熱心に勉強されておるようですし、学者さんたちもいろいろ検討されておるようでございます。幅広の意見を特にオープンに集めることができるように、聞くことができるように、そうした場をこれはできるだけ早くつくっていただいた方がいいのではないか。そこでさまざまな利害、さまざまな意見というものを表に出して、オープンにした上で議論をしていくという形をぜひつくっていただきたいという要望をさせていただきたいと思っております。 さてそこで、今後この刑法の内容的な変更というものを議論していく上で、先ほど来話題になっておりますサリン事件と関連をいたしまして、若干の質問をさせていただきたいと思います。 まず、客観的な現状の問題といたしまして、例えばこの間、先日の地下鉄のサリン事件で亡くなられた方が出たというようなあの犯罪態様を見ましたときに、現在の刑事法体系上どういった犯罪があれによって、あの事実行為では成立をするのか、構成要件該当性という意味でどういった犯罪の構成要件に該当するのかという、まず現状の事実関係を確認したいと思います。
○則定政府委員 刑法の観点から考えてみますと、最終的には収集された証拠に基づきませんと有権的に成立する罪がこれであるとは決めつけられませんけれども、これまであらわれております事象から見ますと、あのような致死性の極めて高いガスをあのような形でまくということは、当然のことながら殺人なりあるいは殺人未遂なりということになると考えられます。 そのほか、先ほど警察庁の方から御答弁ございましたが、現行法令ではサリンそのものについての規制あるいはその所持等についての罰則というものは、どうも私どもの承知する範囲では見当たらないということでございます。
○枝野委員 そこで、そのサリンというようなどうやらほかの用途というのは考えられないような毒物、劇物というものが、これまで残念ながら取り締まられていなかったという状況の中で、先ほどの質問で、警察庁でこれに対応する取り締まりの法令を準備しているというお話でございました。これは当然罰則を含んだ法令になると思いますが、特に刑法、刑法は法務省管轄、刑事局の管轄でございますが、これを警察庁で検討をされている。どうして法務省の刑事局ではなくて警察庁で議論をすることになるのか、このあたりの仕切りはどうなるのか、法務省と警察庁からそれぞれに御答弁いただければと思います。
○則定政府委員 現在、警察庁におかれて立案中の法案の正確な姿というのは、まだ私どもつぶさに知らないわけでございますけれども、先ほど御答弁ございましたように、一つは、所持なり製造なりのことについての処罰、あるいはそれを散布、発散させた場合の処罰ということのほかに、私どもの承知しているところですと、極めて危険性の高い物質でございますから、それについての各種の規制なり、あるいはそれの所在がわかったときの警察権限、例えば立入禁止その他所要の措置を行うといったようなこと、あるいは高度の科学的知識を要するというようなことで、関係省庁の協力要請についての所要の規定とか、こういったことを置かれるのではないかというふうに考えているわけでございます。 そういたしますと、単に特定の行為について処罰するというだけの法律じゃなくて、関係所管省庁におかれて必要な行政措置なり規制措置なり、あるいは警察権限を発動させる根拠となる規定を盛られた法律でありまして、その一部に、先ほど申しましたような形態について処罰する、こういう規定でございます。 そこで、一般的に申しますと、そのようないわば規制法といいましょうか、仮に刑事罰を含む法案でございましても、各種の規制やその他の行政措置等が含まれ、その一部に罰則があるような場合には、これらの行政措置等を所管される省庁が立案されるというのが従来から多いわけでございまして、刑事罰を含むからといいましても、必ずしも法務省が所管するものではないというふうに御理解いただければと思っております。
○篠原説明員 お答えいたします。 現在、警察庁におきましては、サリン等を取り締まるための特別立法ということで、原材料の不法所持等につきましての取り締まりというものを考えているわけでございますけれども、先ほどの法務省刑事局長の御答弁にもありましたように、不審物発見等の、サリンと思われるものの発見等の場合の行政措置権限等につきましても定めるというふうに現在検討を進めておるところでございます。 そういう点におきまして、警察庁所管においてなじむかというふうに考えておるところでございます。 〔中島(洋)委員長代理退席、委員長着席〕
○枝野委員 非常にわかったようなわからないようなお話なんですが、例えば行政的な取り締まりという側面では、サリンの取り締まりについては通産省所管で法律が一本あって、ほとんど罰則などダブる形で警察庁がなさるということになるわけでございまして、今法務省との関係の説明でいくと、今度は通産省と警察庁との関係がちょっとわけがわからぬなという気がいたします。 ちょっと、これは通告していなかったのでお答えできればで結構ですが、通産省と警察庁との二本の法案の仕切りというか、違いというか、それをお答えいただけますか。
○篠原説明員 お答えいたします。 通産省所管の化学兵器禁止法案につきましては、条約実施法という体系におきまして、基本的に流通規制、行政的な面での流通の無許可あるいは無届けといった面につきましての規制が主になっておるというふうに承知をしております。 私どもの方につきましては、サリン等の毒性自体に着目をいたしまして、これにつきましての公共の危険の防止という観点からの取り締まりという観点での法規制を考えておるというところでございます。
○枝野委員 役所のサイドから物事を見ていくと非常になるほどなという話なんですが、そういった法規制を受ける国民の側から見れば、同じことについて何で二つも法律があって、わけわからぬなという気になるのではないかなと思いますが、ちょっと視点をずらしまして、警察庁の所管で、今度のサリンの取締法のような警察庁所管の法律で、ある面では刑法の特別法的な側面のある法律、刑罰法規が、罰則が設けられているような法律、どういったものがあるのか、全部はきっと挙げられないのかと思いますが、典型的な例を教えていただけますでしょうか。
○篠原説明員 お答えいたします。 警察庁におきましては、現在のところ罰則のみを定めた法律という意味におきます刑事法は所管をしておりませんが、私どもの方で例を挙げますれば、銃刀法がございます。また、いわゆるネズミ講のような無限連鎖講防止法というものが、これが処罰的なものであるという状況でございます。
○枝野委員 さて、そこででございますが、私も弁護士でございますので、司法修習で検察修習をやらせていただきました。そのときに非常に驚きましたのは、日本にはこんなにたくさん刑罰法規がある、罰則を定めた法律があるということでございます。 たまたま私が検察修習中にやらせていただいた事件の中には、宮城県飼い犬条例という条例がありまして、そこで、飼い犬が他人をかんだらその条例に基づいて罰則を科すだなんという、そんな刑罰法規がありまして、こんなもの、だれが知っているんだ、警察がその容疑で逮捕をして送検をされてきた事件ですので、宮城県の警察がそういった条例があるということで逮捕をして送検をしてきたということでございますが、どうもそれが気になりましたものですから、検察庁にあります法令大全というんでしょうか、日本じゅうの法律が全部載っているはずのものをぺらぺらめくっていきますと、本当にさまざまな刑罰法規がある。 これはお答えをお願いするのはちょっと酷だと思いますから、お答えは求めませんが、恐らく警察官の皆さん、検察官の皆さん、何か一つの犯罪的行為が行われたときに、果たしてこれがどの法律のどの条項に違反をしているのかということについて、そういったものを調べずに一通り想像がつく方というのは、恐らくいらっしゃらないんではないだろうか。 しかも、今申しましたとおり、さまざまな法律に分散して今のようなものがある。例えば、今度のサリンが通産省の法律と警察庁の法律ができれば、サリン事件が起こったときに少なくとも二つの省庁の別々の法律の両方を司法当局としてはチェックをしなければならないということになるんだろうと思います。こうした例は、恐らく少なくはないのではないか。 これは、それ自体、検察官の皆さん、警察官の皆さん、こういった複雑な犯罪というものがいろいろ出てくる中で、その事務といいますか、御苦労が多くなるという意味で、非常に煩雑だとも思いますし、逆に、実は今回のサリンの法律が、取り締まる法律がないということを聞きましたときに、全体として、こういった行為が起こったときに処罰をする法律があるのかないのかというのを完備して、把握している部署が実は存在しないのではないか。警察庁、法務省としても、何か事件が起これはそれについてどういう法律、罰則があるのかということはチェックをできるんでしょうが、一般的にふだんからこういった、例えばサリンのようなものが出てきたときに、これについて取り締まる罰則法規、あるのだろうかということを一括してチェックする場がないのではないかということを思ったのでございます。 実は、私、今与党の行政改革というプロジェクトチームに入っておりまして、規制緩和の問題をやっております。規制緩和、その緩和の対象になる規制というものがさまざまな省庁にまたがって行われています。一つの事象、例えば家を建てるなら家を建てるという事象について、建設省が関係したり、農林省が関係したり、通産省が関係したり、消防庁が関係したり、いろんなところで関係をしている。実は、どの省庁も自分のやっている規制はわかっていますが、隣の役所が何をやっているのかわからない。わかっているのは規制を受けている当事者、一般国民だけであるというような事情があって、これが実は余計な規制をたくさんつくってしまったり、規制のすき間に穴をあけてしまったりしているのではないか。 今回規制緩和をやっておりまして、結果についてはなかなか、特に野党の皆さんからは足りないという御批判をいただくのかなと思いますが、規制緩和ということを取り上げて、とにかく全体像を把握しようとしたということで重なりが見えてきたり、重なった結果として穴があいているところが見えてきたりと、非常にそういった意味はあったのではないか。 この刑罰法規についても、実はそういった意味で法務省の刑事局が全体像をきちんと把握するようなシステム、そしてその全体としての刑罰法規体系というものをきちんと、何と言うのでしょう、ブラッシュアップしていくというのでしょうか、そのようなシステムというものが必要ではないだろうかというふうに思っておるのですが、このあたりについて法務省の御見解をいただければと思います。
○則定政府委員 今の御答弁と先ほどの御質問に対する答弁とちょっとダブらせたような形になるわけでございますが、先ほどの御質問のサリンの規制法案等々、これは罰則がついているということでございますが、それは警察庁が現在立案中と。その中に罰則が盛られるという場合には、政府部内におきまして法務省の刑事局、私どもの部局の方にその立案過程で協議を受けるということになっておりまして、そこで先ほどの後者の質問に関連するわけですが、いわば刑罰体系等から見て整合性があるかどうか、あるいは合理性があるか、あるいは構成要件的に問題がないかどうか、こういったことにつきまして実は私どもの方から意見を申し上げておるわけでございます。 そういう必要性もございますので、私ども刑事局におきましては、全法律の罰則一覧というのを実はつくっておりまして、重いものから軽いもの、あるいは両罰規定はどうでありますとか、規定ぶりがどうでありますとか、こういったことを実は執務の必要上、整備しておるわけでございます。そして新しいデータをどんどん加えておりまして、そういう意味では罰則運用官庁という形、これはまあ警察が現場でございますけれども、全法律についての罰則について一元的に把握はさせていただいておるわけでございます。 そこで、最後の質問についての御答弁ですが、できるだけ規制緩和といいましょうか、刑罰体系につきましても国民にわかりやすくしていく努力ということは必要だろうというふうに思っておるわけでございますが、何分行政各分野にわたりましてそれらの規制の担保ということで罰則を盛るという必要性も、これもまた否定できないわけでございます。それらにつきまして、できるだけ簡明にということももとよりでございますが、私ども刑法の周辺部分の法律等につきましても、できればそれを一元的に刑法典の中に盛るという考え方もあるわけでございます。 今後、先ほど申しましたような全面的な刑法典の改正ということが現実化いたす場合には、そういった御指摘のような観点からできるだけ一元的な刑法典といいましょうか、実質的な刑法の内容を一つの法律の中に盛るということについても十分検討していかなきゃならないと考えております。
○枝野委員 ぜひ今のような方向で、逆に、例えば刑法典から外した方が、外すという方向になっているのでしょうが、あのアヘン煙などが刑法典にあって、覚せい剤は入っていないとかという矛盾とか、さまざまな問題、実は整理しなければならないだろうと思います。 ぜひ国民にわかりやすいという意味では、先ほど法務省内部で、部局で罰則、刑罰法規の一覧のようなものがあるというお話でしたが、これは恐らく、例えば六法会書だなんというのは素人でも買ったりしますが、六法全書を買う人のニーズとしては、そういった資料があったりすれば実は本当は便利なのかなというような気がいたします。これは公開をされているのかどうかということ、お答えいただけますか。公開をされていないのであれば、公開できないのか。例えば刑事法などを得意にしている弁護士なんか大変ありがたいのではないかなと思いますが、この点、公開しているかどうかという事実関係、お答えできなければ、ちょっと検討いただけるかどうかということで。
○則定政府委員 今ちょっと確かめてみますと、日本法規、これは大法規集がございますが、そこに「刑罰法令一覧表」というのがあるようでございまして、私どもが日常使っておりますのにやや似たそういうものが現に公刊されているようでございます。念のために。
○枝野委員 さてそれで、時間もなくなってまいりました。もう一つ刑法改正に絡んで、中身の改正に絡んでお尋ねをしたい問題が死刑制度の問題でございます。 当然、刑法の中身の改正というものを議論していけば、罰則としての死刑というのをどう扱っていくのかということが避けては通れない問題ではないのかなというふうに思っております。現在、法務省あるいは法務省の関連する審議会等でこの死刑の制度についての検討をしているような機関が現時点で存在をするのかどうか、もし存在するとすれば、どういった場がそういった場になり得るのかという点についてお尋ねいたします。
○則定政府委員 考えられる場といたしましては法制審議会、特にその中での刑事法部会ということになろうかと思います。場所の設定としてはそういうところだろうと思います。
○枝野委員 法制審の刑事法部会のメンバー、何か非公開というふうに聞いておりますが、具体的なところは余り踏み込まなくても結構ですが、そういった場に例えば矯正、保護の関係、専門家、あるいは法哲学などを中心とする哲学の専門家というものは入っていらっしゃいますでしょうか。
○則定政府委員 法制審議会刑事法部会の委員につきましては、法制審議会令に基づきまして、矯正、保護の分野を含めましての刑事法全般について深い学識と経験を有しておられる委員の方々が任命されておられるわけでございます。 その法哲学という点につきまして、法哲学プロパーということではございませんで、刑事法にいたしましても法哲学を踏まえた上でのそれぞれの刑事法専門分野、こういうことになろうかと思います。
○枝野委員 この死刑の問題というのは、実は恐らく法務省以上に政治家のサイドの方がいろいろと考えているのかなと。実は私の一年半余りの短い議員生活の中でも、いろいろなところからアンケート的なものが参ります。あなたは政策についてどう考えているのですかというようなときに、必ずと言っていいほど、さまざまな政策分野についてお尋ねになるようなアンケートがありますときに、死刑制度についてあなたの考え方はどうですかというのが、本当に必ずと言っていいように実は問われております。原則としてそういったアンケートに私は全部答えるようにしておりますので、非常に苦しいな、お答えが難しいなと思っております。非常にこの問題については、今ここで簡単によしあしを判断できる問題じゃないだろうと思っております。 例えば、私は従来個人的には、死刑そのものは廃止をして、そのかわり無期懲役は本当に無期懲役なんだ、現時点で死刑に該当するような人は一生刑務所から出てこないんですよというような制度を担保するというようなことがいいのかなと。収容しておくということで若干コストはかかるかもしれませんが、そのコストはやむを得ないコストじゃないかなというふうな理解をしておりましたら、実は先日、法律家でも何でもない友人とそんな話をしておりましたら、ダッカ事件みたいなことがあったらどうするのかなと。要するに、現時点では死刑に該当するような事件で、じゃ一生刑務所に入れておけばいいやといって、何かテロみたいな話で超法規的な措置として、死刑に本来なら該当するような刑務所に無期で入っている人たちを出さなきゃならなくなるようなことになったら困るんじゃないかなんという、なるほど、逆に専門家でないからそういった発想というのは出てくるのかな、そういったところまで考えていかなきゃならないのかなというようなことを思ってまいりました。 また、そもそも死刑にすることと、あるいは一生刑務所に置いておくことと、当該被告人にとってどちらがつらいのかどうなのかというようなことは、非常にその人生観といいますか、宗教などとも絡んでくるのかなとも思うような深い問題でございます。 いずれにしても、こういった問題を短期間で結論を出すことは非常に危険なことだろうと思っております。さまざまな側面から、それは刑事政策的な側面はもちろんでございますが、今申し上げたようなさまざまな視点から慎重に議論をしなければならないし、なおかつ、国民のコンセンサスというものを含めて議論をしていかなければならない問題だと思っております。 そうした意味では、恐らく今お話のありました法制審の刑事法部会というのは若干狭いのかな、そしてなおかつ、その性質上、どちらかといえば公開性が余りない部分じゃないかなと。むしろそろそろ広く、その方向性、どちらという方向ではなく、少なくとも死刑の廃止論というのが世論の中で一定の力を持っている現状でございますから、どこかの場でちゃんとオープンで議論をしていこう、考えていこう、勉強していこうという場をそろそろお考えをいただいてもいいのではないかなというふうに思っておりますが、この点についての御見解をお願いいたします。
○前田国務大臣 死刑制度の存廃に関する議論でございますが、国会、なかんずく当委員会でも今日までもかなり議論をいただいてまいっておるところでございますし、また国会全体でも議連等もございまして、活発な御議論をいただいておるわけでございまして、また市長レベルでも幾つかのシンポジウムが行われたり、数多くの議論をされておるところでございます。 死刑制度の存廃については、こうした幅広い御議論に十分配慮をしながら、かつまた、国家の社会正義の実現等々の観点から、また先生おっしゃるような無期で死ぬまで入っている云々等々まで含めた、まさに慎重に検討すべき問題が極めて数多くございます。 そうした中で、昨今の世論調査の結果、ここ数年によりましても、国民の多数の方はやはり極めて凶悪、重大な犯罪者に対しては死刑そのものがやむを得ないという、死刑制度そのものの存置というものを望んでおられる方が大体今まで六割以上七割弱、六割と七割の間を行ったり来たりしております。 その結果を踏まえ、また昨今、けん銃、毒物殺人、それこそ尊属等の、あるいは保険金目当てで子供を殺すなど、極めて凶悪重大事件が発生しておる状況からかんがみましても、国民世論も直ちに死刑を全面的に廃止することは適当でない、かように世論は考えておられる、かように認識をしておりまして、政府として死刑の制度について議論をすべき新たな場をつくるということについては、まだその段階ではないかな、しかし、国会を初め、広く御議論いただくということの中で我々も慎重に対応していきたい、かように考えておるところでございます。
○枝野委員 御趣旨はよくわかりますが、例えば、凶悪犯罪増加とかという問題についても、視点を変えれば、無期懲役と死刑との間があき過ぎていて、無期懲役では軽いんだけれども、死刑にはちょっと重いななどという話が実は現実問題として僕はあると思うのですね。無期懲役、現実問題として十五、六年たてば出てきてしまう。もうちょっと入れておきたいな、だけれどもその上になると死刑になっちゃうなという話は間違いなくあると思いますし、さまざまな見方があると思うのです。 そして、どうしても、政府が音頭をとって、あるいは法務省が音頭をとって何か場を設けるとなると、どちらかの方向で一定期間内に結論を出す、これまでの例が、ほとんどそういった会というのはそういったものでございましたから、なかなか難しいとは思うのですが、むしろ、その方向性とかというものはそんな簡単に出す場じゃない、五年、十年かけて、とにかく議論だけちゃんとしていこうよというつくり方というのはできないものかなということの御提言をさせていただきまして、私の質問を終わらせていただきます。 ありがとうございました。
○金子委員長 山田正彦君。
○山田(正)委員 今回の刑法の改正ですが、今まで私どもは片仮名文語体の刑法でずっとやってきたわけですが、今新しいこの現代用語化された条文をさっと読んでみますと、確かになじみやすいというか、国民 般には受けるのじゃないかな、そんな感じで非常にいいことをしてくれた、そう思っております どうか、この基本的な刑法、刑事訴訟法の条文だけではなくて民訴とか民法、そういったこともひとつぜひ早く現代用語にしてもらい、そして、法律が一般国民に親しみやすいというか、わかりやすい、平易にそれが日常利用される、そういった形になってほしいものだ、これは私ども政治家の責任でもあるかな、そう思ったところでございます。 今回の改正の中で二つだけ、実は刑法第四十条の聾唖者の行為に関する規定を削除することになっておりますが、もともとこれは私どもも一つの差別だなと思っておりましたので、当然のことかな、そう受けとめて歓迎いたしております。またもう一つ、刑法二百条の尊属殺規定について、最高裁判所でこれも違憲判決が出されて二十二年過ぎているということですが、私どもも最初、法律の勉強をするころ、もう三十年近くなりましょうか、そのころから尊属殺についてはいろいろな判例の勉強の中で、確かに非常に悲惨なというか、かわいそうな、涙なしては聞けないような、読めないような、そういう数々の事案を私どもも拝読させていただいておりましたので、これはあれから考えてみれば三十年、むしろこの尊属殺についての加重規定の削除は遅過ぎたのじゃないかな、そんな感想をいたしておるところであります。こういうことで、今回の刑法改正については私は全面的に賛意を表するものでございます。 ところで、今回の改正以外に実は刑法について実質的な改正を行う必要があるのではないかと。私の知っているところでは、法務省では昭和四十九年でしたか、法制審議会から、いわゆる「改正刑法草案」の答申を受けて刑法の全面改正に入った、そういうふうにお聞きしておりますから、それから約二十年たっているところです。そうしますと、一言で二十年といっても大変な期間でございます。それで、今回一気にというのではなんでございましょうが、せっかく現代用語に変える、こういう一つの大改革でございまして、その際に、そういう刑法の全面的改正作業、これも一緒にやらなかったのか、そしてこれが現在どうなっておるのか、それをお聞きしたいと思っております。
○則定政府委員 今回御審議いただきます刑法の改正法案、これは文字は全面的に書きかえてはおりますけれども、中身は現行法と全く同様にすることにむしろ精力を費やしたということでございます。この点をできるだけ早く御審議いただき、成立させたい、国民の皆様方にできるだけ平易化された、現代用語化された法律で、その刑法というものの内容を知っていただきたい、こういうことでございまして、おっしゃいますような実質的な内容の必要性、これもあるわけでございます。しかしながら、昭和四十九年のその法制審議会の答申以降の経過にかんがみますと、比較的短時間に大方の合意を得るということが極めて難しい点もまた事実でございます。 そこで、先ほど別の御質問の機会に御答弁させていただきましたように、今回はまずその表現の平易化を最優先でやっていただきまして、それを踏まえて、今後所要の改正措置について鋭意検討してまいりたい、こういうことでございますので、御理解いただければと思います。
○山田(正)委員 ところで、この「改正刑法草案」の中に治療処分、禁絶処分といった保安処分が盛り込まれて、これが一つの目玉であったと思っておりますが、実は、精神障害者による事件、刑事事件、これはかなり深刻な問題がございます。 私どもが本当に心配し、またよく知った事件としては、平成二年十月に衆議院議員の丹羽兵助先生が名古屋の陸上自衛隊第一〇師団の式典に来賓として出席中に、精神分裂病患者で入院しておった者がまさにナイフで刺した、そして亡くなったという不幸な事件もございました。 こうして考えてみますと、この犯人は、結果として心身喪失で不起訴処分になったと聞いておりますが、平成五年の四月には東京都の足立区で、精神分裂病の男性が隣の部屋に侵入して、ひとり暮らしの六十五歳の女性をバットで殴って殺して、そして同じ都営住宅の別の部屋に侵入して、ナイフで一家四人を脅迫して監禁した。こういった恐ろしい事件も起きておりますが、これもまた心身喪失によって不起訴処分になった、そう聞いております。 また最近、近いことでは、昨年の十月に東京の青物横町駅構内において医師が、かねてから治療を受けていた患者からピストルで殺された、銃殺されたという事件があっておりますが、これもまた、新聞等の報道によりますと、精神病者の行為ではないか、そう言われているようです。 そうなりますと、いわゆる心身喪失で刑事責任能力がないとされるような、そういう人たちが私どもの日常生活にかなり野放しになっておると思いますが、こういう精神障害者の犯罪について、まず実態についてわかれば御説明願いたいと思います。
○古田政府委員 精神障害あるいは精神障害の疑いのある方々が犯した犯罪、これがどの程度あるかということでございますけれども、警察庁の統計によりまして、平成五年につきまして罪種別の人数を見てみますと、凶悪犯につきましては、殺人が百四十四名、これは一一・八%程度になります それから放火が百十三名、強盗が四十五名、強姦が十一名となっております。それから傷害、傷害致死、暴行等につきましては二百九名となってございます。 これらにつきまして、平成元年から平成五年までの五年間の推移を見てみますと、全体としましては、強盗がやや増加傾向があるということが言えるかと思いますが、ほかはいずれも横ばいあるいはやや減少、そういう状況にあるように承知しております。
○山田(正)委員 精神障害者のこういった殺人とか強盗、強姦などの事件が、今のお話によりますと全体で毎年大体七、八百人ぐらいでしょうか、重要犯罪というか、そういうものがいわゆる横ばいで推移しているということでありますが、これだけの犯罪が毎年こうして行われてきているということは、今でも我々まくらを高くして眠れない。ぜひこの問題については早く、慎重にこしたことはありませんが、いずれにしても早くこの予防処分といったものについて、保安処分といったものについてはぜひ法制化の方向で進めていただきたい、そう思っております。 今回の刑法改正についてはそういうところで、実は直接改正とは関係ないのですけれども、私はサリンの事件ではなくて、無国籍者の問題等についてひとつお聞きしたい、そう思っております。 実はことしの一月二十七日に、無国籍のアンデレちゃんという、これはフィリピンかどこかはっきりしないのですけれども、その子供さんに対する最高裁の判決が出まして、そして日本の国籍がやっと認められたわけです。これは私ども大変歓迎するところであります。 これは裁判においては、第一審は、父母ともに知れないと認められるということで、いわゆる無国籍者として日本の国籍を与えるということが認められたわけですが、第二審において高等裁判所では、いわゆる立証が十分でないということで却下された。最高裁において初めて認められた。そして新しい判例として私ども法律家の間でも随分話題を呼んだことでありますが、この作につきましてひとつ、無国籍児、いわゆるアンデレちゃんみたいな、自分の母親もわからない、父親もわからない、ただ日本人の混血であるようだ、そういった子供の数というのはこの日本で今一体どれくらいいるものか、法務省の方で調べられた範囲でお答え願えればと思います。
○塚田政府委員 平成四年十二月未現在で、外国人登録を受けている者で無国籍として扱われている十四歳以下の者、これを無国籍児、小さな子供という意味で無国籍児と考えるわけでございますが、それは二百十八名でございます。 ただ、外国人登録におきまして無国籍として取り扱われる者には、本来の無国籍者のほかに国籍不明の者も含んでおります。その割合がどのようなものになっているかは明らかではございません。なお、大人まで含めて無国籍者の総数は千五百二人ということになっておりますので、参考までにつけ加えさせていただきます。二年に一回、私ども年齢別の集計をしておりますので、今申し上げたこの平成四年十二月が一番最近の数字でございます。
○山田(正)委員 この無国籍児でございますが、いわゆる国籍がない子供、片親は日本人であろう、これはほぼわかると思うのですけれども、その中で、そういった人たちが一体、日本においてはいろいろな、病気になったら国民健康保険とか、あるいは食べられなくなったら一種の社会保障制度がある程度充実されてきておりますが、同じ人間として生まれながら、その点において大変何もできない。そういう形で差別と申しますか、非常に悲惨な扱いを受けているのではないかと思いますが、その点はいかがでございますか。
○濱崎政府委員 日本国籍を有する者と日本国籍を有しない者、これは外国人それから無国籍者も含むわけでございますが、そういう方との間で、いろいろな行政の場面でどういう取り扱いの違いがあるかということを私どもつまびらかに承知しておりませんけれども、無国籍の人あるいは無国籍の子供ということに限って申し上げますと、無国籍者は、これは申し上げるまでもなく、いずれの国にも所属していないわけでございますので、自己の権利として居住することができる国がないということ、また、その居住国において不当な取り扱いを受けた場合においていわゆる外交的保護権を行使する国がないということ、それから、いずれの国の旅券も取得することができないということで、外国への移動が制限される、そういった不利益があるものと承知しております。
○山田(正)委員 しゃくし定規にそう言われればどうしようもないのですが、そういった意味で、本当に私どもと同じ人間として何らの保護も受けられずにいるということになっていると思うのですが、国の責任として、法務省として、そういった二百十八名はいる無国籍児に対して何らか積極的に国籍を取得させるとか、恐らく無国籍というのはそれなりの理由があって、父母がともに知れないとき、アンデレちゃんの場合には裁判ができたのでそうなったけれども、裁判もできない者に対して積極的な救済の方法というのは全く検討されていないものかどうか、その辺、ちょっと一言だけで結構ですが、お聞きしたいと思います。
○濱崎政府委員 御指摘のアンデレちゃん事件の件は、これは委員も御案内のとおり、「父母がともに知れないときこという要件に該当するかどうかという事実認定の問題、あるいはその事実認定に当たっての立証責任の問題ということでああいう判決が出たわけでございまして、私ども国籍事務を所管する立場といたしましては、その判決の趣旨を十分踏まえて、これからの国籍の認定という専務に当たっていきたいと思っております。 これも御案内のところかと思いますけれども、我が国の国籍法は、原則として父、母の一方が日本人である場合にはその間の子供は日本国籍を取得することとしておりますし、また、日本で生まれた子供の父母がともに知れないとき、あるいは父母がともに無国籍であるというときにも、その子供は日本国籍を取得するという制度をとっておりまして、こういうことで無国籍児の発生をできるだけ防止するという国籍法の規定になっておるわけでございます。 しかしながら、極めて限られた範囲内でございますけれども、無国籍児が生ずる場合もあるということでございますので、このような無国籍児につきましては、帰化という場面において、特に要件を緩和した簡易な手続で帰化をすることができる、そういうことで国籍の場面でできるだけ無国籍者の発生の防止あるいはその解消ということを考慮しておるところでございます。
○山田(正)委員 この無国籍児が日本でそれくらい、もっと確かな数字で、不法滞留者だけで二十九万人いるんじゃないか、そう私は考えております。 じゃ、どうしてこういう無国籍児が生まれてくるのか。この問題では、フィリピン女性が日本に興業とかその他の名目でいわゆる出稼ぎにやってくる。そして、日本の無責任な男性との間にこういった子供が生まれてき、そして今フィリピンでは、約二万人の日本人男性による、そしてフィリピン女性との間の子供が存在をして、いわゆるジャピーノ、フィリピン人と日本人とのいわゆるあいのこという形で呼ばれている、そう言われております。 こういった問題にしても、なぜこういうふうになってきたのか、いろいろな問題があると思いますが、一つは、日本で例えば水商売か何かで働いていた女の人をフィリピンまで追いかけていって、そしてその人とフィリピンで結婚する、子供が生まれた、向こうで結婚する。そして、あるとき突然日本に帰ってきた、それで日本でまた新しい日本人の妻と結婚する、そういうことも現実に起こっているようであります。これは、日本の法律で見れば明らかに重婚ということになると思うのですね。 現実に、これは具体的な例が既に重婚として戸籍に記載されている届け出もある。日本の戸籍に日本人の妻としてまず記載されておる、そこに、その方がかつてフィリピンで結婚しておったということがわかって、そしてそれがまた日本の戸籍にフィリピンの妻もいわゆる二重に記載されているということがあるやに聞いております。形だけでも向こうでの結婚が日本の戸籍に記載されればまだいい方でありますが、そうではなくて、実は勝手に向こうでは結婚しておいて、そして日本では結婚していないんだと言って日本人の妻と結婚する、こういう例が多いと聞いております。 そこで、私は、向こうのフィリピンの戸籍上に結婚としての届け出がなされれば、これが自動的に日本の戸籍にも記載される、そうすれば、このような問題は起こらないんじゃないか、そう思いますが、そういったフィリピンと日本人の二世の問題、いわゆる混血児の問題も含めながら、この問題を法務大臣としてどういう姿勢で考えたらいいものか、御見解をお聞きしたいと思います。
○前田国務大臣 ジャピーノ問題は、これは単に日本人男性とフィリピン女性とのいわば婚姻だけの問題ではなくて、今や両国間の大きな政治課題になっておるわけでございまして、私どもとしても、この重大な問題を何らかの形で解決あるいは啓発、啓蒙をしていくことが極めて肝要な大事なことであろう。特に、今日、外交的なレベルにまで至っておるという認識のもとに、厳しく認識いたしておるところでございます。
○山田(正)委員 このジャピーノの問題は、去年、村山総理とフィリピンの大統領との間でも話されておりますが、フィリピンにおいては、上院議員とか下院議員の間でも、この問題をかなり大きく、そして深刻な問題として扱っておるようであります。私どもこの日本の衆議院の法務委員会においても、この問題は人権の問題でもあり、私ども日本の責任でもあり、政府の責任でもある、その点で鋭意ぜひひとつ真剣に取り組んでいただきたい、そう思って私の質問を終わらせていただきます。
○金子委員長 正森成二君。
○正森委員 私ども日本共産党は、今回の刑法の一部改正に賛成でございます。そういう立場でございますが、幾つかお聞きしたいことがございますので、刑事局長や前田法務大臣に伺いたいと思います。 きのう質問を通告しましたときに、刑法改正の経緯についてもお答えいただくことになっておりましたが、経緯といいましてもそれこそ長うございまして、御迷惑をかけてもいかぬと思いますので、そのうち一部をはしょりますが、私の質問に必要な限度で私の方から申させていただきます。 それで、ある程度はしょっておりますが、法制審議会で刑事法特別部会が一九七一年十一月に部会案を決定し、翌年三月に「改正刑法草案」、通称要綱案と言われておるようですが、発表されまして、この年の四月からこれに対する法制審議会の審議が開始されたと承知しております。 この要綱案では、一、現行刑法を現代用語に書きかえること、二、現行刑法を超える処罰範囲の拡大、重罰化、保安処分の新設を実現することを内容ともしておりました。このうち、この二の点が要綱案の実質的内容だったと承知しております。その結果、法制審議会総会は、一九七四年の五月二十九日、法務大臣に対しまして「改正刑法草案」を、「宣告猶予」の部分を削除しただけで、それ以外は要綱案のまま刑法の全面改正として答申したと承知しております。 これに対しまして、各方面から非常に大きな反対運動が起こりました。その中でも、関係者としては日弁連の反対が一番大きかったように私どもは思っております。 それで、日弁連の方といたしましては「改正刑法草案に対する意見書」を採択したと承知しております。その中で、草案に対する意見書の第二版というのがその後出ましたが、その中では、前文で次のような日弁連の基本方針が明記されました。 1 草案のうち、現行刑法を超える処罰拡大・ 重罰化・保安処分新設の部分が草案の実質的 内容であり、日弁連は、その実質的内容の白 紙撤回を求める。 2 日弁連は、草案のうち、現行刑法を現代用 語に改め、弁護士会内外の意見が大きく一致 すると認められる若干の規定を部分改正する ことに同意する。という内容でございました。 それで、こういうような経緯の中で私が承知しておりますのは、法務省との間で刑法改正問題意見交換会というのがたしかできまして、二十三回ぐらいにわたって非常に熱心な論議が行われたと承知しております。 その中で、たしか第四回の意見交換会だったと思いますが、「刑法改正作業の当面の方針」というのを法務省から日弁連側に提起されたようであります。それを見ますと、その基本は、草案のうち「賛否の対立の著しいものは原則として現行法のとおりとする」ということで刑法改正作業から外していくというものであったと思います。それによって、現行刑法を超える重罰化は全部撤回されました。しかし、現行刑法を超える処罰範囲の拡大の問題は検討課題として残され、さらに保安処分についても精神医療に重点を置く形で草案を手直ししようという動きが依然としてあったと思います。 こういうわけで、いろいろ意見交換が行われましたときに、当時の自由民主党でありますが、政権党です。これらの経過を踏まえて日弁連との懇談会を行った結果、一九八五年、昭和六十年の十一月の二十一日に、「刑法全面改正に関する中間報告(案)」を発表いたしました。これは、草案のうち対立の厳しい問題点については「近い将来おおかたの合意を形成することは難しい」と率直にお認めになり、コンピュータ犯罪など必要なものは部分改正で手当てするべきである、こういうぐあいな指摘がございまして、これによっていわゆる草案の実現は事実上当面不可能ということになったと承知しております。 私流のまとめ方ですが、こういう経緯は大筋で誤っておりませんか。
○則定政府委員 そのような経緯であると承知しております。
○正森委員 そこで法務大臣、率直に伺いたいんですが、こういう経緯を見ますと、今回、現行刑法の現代用語化、それから尊属殺関係の削除、それから聾唖者の規定の削除というのが法制審議会を通過して、改正案として提出されておるという経緯から見ますと、かつて日弁連との間の意見交換会の結果、自由民主党もおおむね御同意なさったその草案ですね、その他の部分、これは事実上棚上げされたと承知しておりますが、またまた棚の下におりてくるということはないものと承知してよろしいか。それとも、今回が通ればこれを第一歩として、残る点について再びお出しになろうという気ですか。どちらですか。
○則定政府委員 先に事務当局からお答えさしていただきますけれども、先ほども同様の趣旨の御質問がございまして、草案そのままの形でこれを国会の御審議を煩わすという手続を進めるということは私ども考えていないわけでございまして、今のような、御指摘のような経過を踏まえ、かつまた、その後の社会犯罪情勢の変化を踏まえてまたいろいろと再考すべき点も多々ございますので、そういった形で今後検討してまいりたい、こう思っているわけでございます。
○前田国務大臣 刑事局長から申し上げたとおりでございます。
○正森委員 再考する点もございますのでいろいろ考えていきたいということで、私どもも午前中のきょうの参考人の意見を伺いましたが、その中で参考人がそれぞれ、再考してほしいとか、あるいはできるだけ早く変えてほしいという部分がございました。しかし、私の承知している限りでは、例えば日弁連側の参考人の言いました、できるだけ早く改正していただきたいという方向と、前の草案の、日弁連が非常に強力に反対した法案では、言ってみれば、東京を起点として一方は北海道へ行こうとするのに一方は九州へ行こうとしておるというぐらい違うわけで、その違う方向のものを実行しようということであれば、またまた大方の世論の賛成を得られないことがあるんじゃないかというように思います。 それで、大方の賛成が得られるという点について一言申しますと、例えばよく皆様御存じのことですが、平成三年の三月十二日の、第百二十回国会で衆議院の法務委員会で附帯決議が行われました。これとほとんど同趣旨のものが四月九日に参議院の法務委員会でも附帯決議が決議されております。我々は衆議院でございますから衆議院のものを申しますが、主に四項目ございますが、その中で私はおおむね反対がないであろうと思われるものは、これは罰金の額の引き上げのための刑法等の一部改正でしたが、「罰金が選択刑として定められていない財産犯及び公務執行妨害罪に罰金刑を導入することを検討すること。」これは日弁連のきょうの参考人の一見でもそうでしたし、また衆議院の法務委員会でも各党が一致して附帯決議をしたものです。その次に、「罰金刑に限らず他の刑罰を含め、現行刑罰の適正化を図るとともに、尊属殺重罰規定の見直し、刑罰法令の現代用語化等について検討すること。」これはまさにこの改正案で実行されているところであります。 したがって、今刑事局長や法務大臣が言われました、いろいろ考えていくというのは、この衆議院法務委員会のこういう附帯決議の方向で行われること、前の草案のような、一致を得られなかった方向では進まないことを切に望みたいと思いますが、再度御答弁を願います。
○則定政府委員 この「改正刑法草案」の中の、実は、例えば強盗罪についての法定刑を引き下げるとか、必ずしもすべてが重罰化ということではないことだけはちょっと付言させていただきたいと思います。 私ども、昭和四十九年に答申をいただきました「改正刑法草案」というのは、これは戦後ではございますけれども、長期間をかけて当時の英知をそれなりに結集したと、一つのそういうことでございます。そこでいろいろな問題が扱われ、こなされておるわけでございます。したがいまして、これを全く棚に上げてということではなくて、やはりそれはそれなりにいろいろ勉強させていただく、あるいはそれをたたき台にしていくところも実はあるわけでございます。これらも、もちろん今後全面改正の過程で種々勉強してまいりたいと思いますし、それから、国会の両委員会で附帯決議がなされた指摘事項、これにつきましてもまさに真摯に受けとめて、今後なお検討してまいりたい、こう思っております。
○前田国務大臣 今、刑事局長からお答えしたとおりでございますが、いずれにいたしましても、国会の附帯決議を十二分に尊重いたしまして、所要の検討を進めていかなければならない、かように考えております。
○正森委員 二十年を上回るいろいろな経緯にかんがみて、今回の刑法一部改正案も、大方の同意が得られないものは除くということであるからこそ、私どもも含めて、非常に喜んで賛成していただくということになっているわけですから、そういう点についてはさらによく配慮していただきたいと思います。 それでは、その次の問題について伺いますが、きょう午前中、参考人にも伺ったのですけれども、法制審議会の情報公開といいますか、ディスクロージャーの問題でございます。いろいろございますけれども、やはり国民に知ってもらって理解を求めるということは民主主義社会で一番大事なことですが、きょうも問題にして、大臣は聞いておられませんでしたが、例えば、法制審議会の刑事法部会というのは、部会の委員の氏名さえ秘匿されているのですね。こういうのは各種委員会ではほとんどなくて、法制審議会でも民事法部会などは氏名は公表されております。その点を関係の、きょうの参考人に伺いましたら、大学で紛争が起こりましたときだったと思いますが、いろいろ教授に対して事件が起こるというようなことがあったので、その後遺症もあるでしょうという意見でありました。その方は、私自身は氏名の公表等について反対ではないということを補足的に述べられました。 そこで法務省に申し上げたいのですが、実際上の問題からしましても、日弁連から推薦されている四、五名の委員は、もちろん大っぴらに委員ということであちこちで講演活動をしていますし、それから学界の中でもこの学者、この学者が刑事法部会の委員であるということは、ある意味では公知の事実ですね。ですから、それを委員会の中でやはり氏名は公表しないことにしようということで、公表を求める委員がございましても、いや公表しないんだというようなことは、これは望ましいことではないと思われますが、大臣の御意見を承りたいと思います。
○前田国務大臣 法制審議会の総会におきまして、この部会委員の氏名の公表につきましては各部会の判断にゆだねたという結果がございまして、御承知のとおり刑事法部会におきましては部会委員の氏名を公表しない旨決定したものとなっております。 これは先生御指摘のとおり、いろいろ過去の歴史的な経過がございまして、特に申立、公正な立場から自由な討論を確保したい、こういう趣旨でこられたものと、その結果、部会委員の氏名を公表すべきでないと判断をされた、かように理解をいたしております。法制審の刑事法部会での判断ということでございますのでコメントは差し控えさせていただきますが、今日、若干時代も変わってまいっておりますし、刑事法部会で良識を持って今後対応されるものと思っております。
○正森委員 刑事法部会で、それぞれの部会で決めるということで部会でお決めになったとすれば、大臣をもってしても、こうしなさい、ああしなさいということは審議会の性格上言えないことであろうということはよくわかりますが、国民感情から見ても、これは非常に異例なことであるというように思われるということだけ指摘しておきたいと思います。 時間の関係で最後に一点伺いますが、今回尊属殺関係が、尊属殺だけでなしに傷害の点につきましても、あるいは遺棄の点につきましても、あるいは逮捕監禁というような点についても全文削除されました。御承知のように、昭和四十八年の最高裁の判例におきましては、けさも申しましたが、大きく言いまして意見は三つに分かれまして、石田裁判長裁判官を含めた八名は、これは量刑が死刑または無期ということで、その点で著しく重さに失するという点で、法のもとの平等といいますか、合理的な理由がないということであります。それに対して田中二郎裁判官を含む六名は、そもそも尊属殺のような規定を設けるのが法のもとの平等という点からして問題があり、やはり法律と道徳の問題は区別して考えるべきであるという意見でございました。下田裁判官の意見は、これは従来の考えでございますからあえて申しません。 そういう中で、法務省は、今私が申しました草案の中でも、尊属関係は全部削除するというように法制審の答申の前に既になっておったように承知しておりますし、そうすると結局のところ、これは多少言いにくいことかもしれないのですが、あの最高裁判例の田中二郎説あるいはそれに近い考えでこういう法案をお出しになったのではないかというように思いますが、その点についての御見解を承りたいと思います。
○則定政府委員 私ども法務当局といたしまして、今回尊属殺人の規定を削除いたしましたその考え方といいますのは、御指摘の裁判官のような極めて、何といいましょうか、高尚な道徳観なり人生観なりに基づくものではございませんで、極めて実務的な考え方による判断ということでございます。それは、現に違憲判決後二十数年にわたりまして刑法二百条が適用されずに、実体的に尊属殺でありましても一般の殺人罪であります百九十九条で適用されてきたということでございまして、それは御案内のとおり下限が三年まで落ちるということでございます。 そして、その二十数年間にわたります裁判実務の運営の実態を見てみますと、確かに人倫にもとります悪質な案件につきましては、死刑を含む極めて重い量刑がなされている反面、同情すべき案件がまだ少なくないということで、下限の三年近くに集まっているケースも多々あるわけでございます。そういたしますと、今回仮に尊属殺の規定自体を残しまして、下限を四年なり五年なりというふうに上げますと、実質的には刑の引き上げということで、二十二年にわたります裁判の運用から見ますと大きくそこを変更するということになるわけでございます。個々の案件につきまして、一般殺百九十九条の規定は下は懲役三年、上は死刑まで、極めて広い量刑の幅を持っておるわけでございまして、その中で、個々の案件に適正な量刑を盛ることが十分可能である、また現にそのように運営されてきている、こういうことを踏まえまして、今回あえて下限の修正という形をとらずに削減するという方向を選択したものでございます。
○正森委員 今の説明はよくわかるのですが、そうすると、遺棄とか逮捕監禁も全部削除してしまったという理論的な問題については説明が不十分なんですね。それを統一的に理解しようと思えば、やはり田中二郎氏などの意見に、おおむねやや高尚な意見を法務省もお持ちになってこういう案を出されたのではないかというように、別に褒めるわけじゃないのですが、そう思わざるを得ないのですが、いかがでしょう。これはもう一言で大臣にお答えいただけば、これで質問を終わります。
○前田国務大臣 決して高尚ではございませんで、結論から言えば、バランスを考えた、こういうことだと思います。
○正森委員 終わります。
○金子委員長 次回は、来る四月十一日火曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。 午後四時一分散会 ――――◇―――――