商工委員会 第13号
- 発言数
- 75 件
- 登壇者
- 9 名
- 会派数
- 6
- 開催日
- 1992/06/02
会議録
○武藤委員長 これより会議を開きます。 内閣提出、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案並びに竹村幸雄君外十名提出、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。 本日は、参考人として上智大学法学部教授正田彬君及び東京大学法学部教授芝原邦両君、お二人の御出席をいただいております。 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は、御多用中のところを御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、ただいま議題となっております両案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 次に、議事の順序について申し上げます。 まず、参考人から御意見をそれぞれ十分程度お述べいただき、次に、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。 それでは、まず正田参考人にお願いいたします。
○正田参考人 正田でございます。 私は、この独禁法の政府提出の改正案の前提になります独禁法についての刑事罰研究会で座長を務めておりましたので、その研究会の報告書を中心にして意見を述べさせていただきたいと思います。 この独禁法違反行為についての刑事罰に関しましては、独禁法で、それぞれの違反行為についての刑罰を定めると同時に、両罰規定によりまして、行為者である従業者等に加えて、その事業者に対しても制裁を科することができるという定めが設けられているわけであります。従来の両罰規定におきましては、本条で定める刑事罰のうちの罰金刑を科するという形で、そのまま行為者に対する刑事罰が、その行為者が業務等に関して犯罪を犯した法人または自然人である事業者に対しても同じ形、同じ額で科される、こういう仕組みがとられていたのが一般であります。こういうことから、事業者の独禁法違反行為に対して、事業者に対する刑事罰が従業者等に対する刑事罰と同額である、独禁法違反行為の場合ですと最高額で五百万、こういうことになっていたわけであります。 しかしながら、この犯罪行為というのは、言うまでもなく企業としての犯罪行為の典型であり、また、その行為は現在の我が国のいわゆる市場経済体制の基本をなす秩序に対する重大な侵害であって、国民生活に与える影響も極めて大きい、こういうところから、事業者に対する刑事罰を引き上げることが必要であるというふうに考えたわけであります。 その引き上げに関しまして最大の問題になりましたのが、従来、行為者と事業者あるいは法人、この両者に対する罰金額が同額である、連動している、これを一体切り離すことができるのか、この点が私どもが検討いたしました研究会の最大の論点でありまして、この点について非常に集中的に、また突っ込んだ検討を加えたわけであります。この点につきましては、後でお話をされます芝原教授が刑事法の専門でいらっしゃいますので、芝原教授にお述べいただいた方が的確であろうと思いますが、結論といたしましては、どういう考え方、立場に立っても、行為者に対する罰金額の上限とその法人または自然人事業者に対する罰金額の上限を切り離すことが可能である、こういう結論に達したわけであります。したがって、刑事罰が一定の行為者に対して科される場合に、それがいわゆる感銘力のある額であることが必要だ、現在の大企業、巨大企業が極めて多いこの経済情勢のもとで五百万円の罰金というのはほとんど効果を持たないのではないか、したがって、かなり大幅に思い切って引き上げることが必要だろう、こういうことが結論として出てきたわけであります。 どういう法条について刑事罰を引き上げるべきかということに関して検討を加えたわけでありますけれども、独禁法の八十九条で定めてい各犯罪行為の類型は、これは、直接かつ極めて重大な影響を競争秩序に対して与えるという性格のものであり、この行為がいわば現在の独禁法制の基本をなしている、この行為に違反した場合の罰金額を引き上げるということを進めるべきである、こういう結論になりました。したがって、八十九条違反に関して、事業者に対する罰金額の上限を引き上げるということにしたわけであります。 この引き上げる額につきまして、どの程度の額が妥当なのかという点についても種々検討いたしました。検討いたしました時点では、申し上げるまでもないことでありますけれども、この両者を切り離して、事業者に対する刑事罰を大幅に引き上げる場合、その格差が非常に大きいという立法例が我が国ではまだ行われておりませんでしたので、現在でもそうだと思いますが、何を根拠にこの両者を、行為者と事業者の違いを整理していったらいいかということが問題になったわけであります。そこで種々議論をいたしまして、資産の違いというところに着目をいたしまして、いわゆるフローとストックの資産の違いという点を基準にして、これは当然罰金刑でありますから、その影響を考えると、資産を手がかりにすることが妥当であろうというふうに考えたわけであります。その結果、種々の数字が出てまいりました。その数字を念頭に置きながら、独禁法違反に対しましては、全く性格の異なるものではありますけれども、一方では課徴金の制度がございます。したがって、そのことも考慮に入れてということで整理をいたしまして、一応数億円のレベルに上げるということを提言をいたしたわけであります。 それで、その後公正取引委員会から研究会に対しまして再び意見を聞きたいということでございまして、そのときの御意見は、現在のさまざまな条件を考慮すると一億円に引き上げるということにせざるを得ない、あるいは一億円ということが限界である、こういう御意見でありました。それについてどう考えるかという意見を求められたわけであります。 それで、私どもはもちろん一億円が数億円とは違うということは重々認識をいたしまして、数億円でないことについては残念であるということを感じたわけでありますけれども、少なくとも基本的な考え方、先ほど申し上げた切り離しであるとかあるいはかなり大幅な引き上げ、こういう方向については研究会の意向、趣旨を体したものであるという点、さらに、一億円ならば五百万円を維持した方がいいという判断をすることは全く会員が考えていなかったということもございまして、将来また改めて提案の趣旨に沿った検討をしていただくことを希望して了承をし、現在の政府案になっているということだというふうに考えております。 そういう経緯で、研究会としては現在の政府提案の一億円という金額について若干のちゅうちょを感じながら、しかしながら基本的な方向として我々の提言に沿ったものである、こういう認識を持っております。 以上で終わらせていただきます。
○武藤委員長 ありがとうございました。 次に、芝原参考人にお願いいたします。
○芝原参考人 芝原でございます。 独占禁止法に関する刑事罰研究会の座長代理を務めさせていただきました者として、本改正案について意見を述べさせていただきます。 カルテル等の処罰を規定しました独占禁止法八十九条、これの違反の罪で法人事業者を処罰するときは九十五条の両罰規定が適用され、結局五百万円以下の罰金を科すことになります。しかし、これでは違反行為を抑止するに足りる経済的苦痛を与えることにはなりません。そこで、法人に対しては罰金の上限を大幅に引き上げる必要があるということになりました。 現行法で法人を処罰するためには必ず両罰規定を適用して行わなければなりません。そして、現行の両罰規定は法人と自然人であるその従業者に対する罰金刑の上限をいわば連動させて、これを常に同額としているわけです。そのために、法人処罰のために罰金の上限を大幅に引き上げるということになると、今度は自然人である従業者にとって過酷な結果になるわけです。 このために、これまでは当然のように扱われてきましたこの両罰規定におけるいわゆる連動というものを改めて、少なくとも一定の犯罪については、法人事業者あるいは自然人事業者を含めて、これに対する罰金刑の上限とそれから従業者に対する罰金刑の上限を切り離すことが必要であるという結論に達しました。 ところで、両罰規定というのは、従業者が業務に関して違反行為を行った場合にその業務主に責任を負わせてこれを処罰するための業務主処罰規定であります。これは、初期においては業務主と従業者の両方を処罰する両罰規定ではなくて、違反行為をした従業者に対する刑罰そのものを処罰するかわりに、これを業務主に転嫁する転嫁罰規定であったわけです。そして、昭和に入りまして、その処罰の実効性を上げるためには、その業務主だけを処罰するのでは十分ではなくて同時に違反従業者自身も処罰しなければならないということになって、その従業者が違反行為を行ったときはその従業者の雇い主である自然人、法人も両方処罰する、そういう両罰規定があらわれるに至りました。これは昭和七年の資本逃避防止法、これが初めてであります。そして、この法律に定められた両罰規定には既に今言った連動が存在していまして、その規定が現在でもほぼその原形が維持されて多くの行政法規等の現行法となっているわけです。 それでは、この連動というものを切り離して、法人事業主に対する罰金刑の上限と、それから違反従業者に対する罰金刑の上限を異にするということは果たして理論的に可能かということが研究会の主な論点になったわけです。 それでは、この点について若干申し上げますと、まず最高裁判例との関係で見ますと、両罰規定による法人事業主の処罰について過失推定説によるということを判示しました最高裁昭和四十年三月二十六日判決、この判決は、法人処罰が代表者でない従業者の行為に基づく場合には、自然人業務主を両罰規定で処罰すると同様、要するに従業者の選任、監督、その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失がその処罰根拠であるとしています。 これによると、従業者は本来の違反行為をしたことを理由に処罰されるわけですけれども、業務主はこの違反行為をしたことを理由に処罰するわけではなくて、そのような違反行為をした従業者を十分に監督していなかったということを理由に処罰されるということになります。そうしますと、このようにその両者の処罰する根拠が異なるわけですから、それに対する罰金刑の法定刑が異なっても理論的には何ら問題がないということになるわけです。 それから、法人に犯罪能力があるかという議論が講学上ございますが、これを認める説でも、それから否定する説、両方がありますが、そのいずれの立場に立っても、いずれにしても現行法では両罰規定で法人が処罰されているという現実には変わりないわけで、それならばその罰金が自然人と、従業者と法人でそれぞれに十分な抑止力を発揮するためにはどのくらいの額の法定刑を定めたらいいかということをそれぞれについて考えればよいということになって、ここでもその切り離しということは可能である、あるいは切り離して考える必要があるということになるわけです。 それでは、このように両罰規定における連動の切り離しというのは理論的には問題はないわけですけれども、今申しましたように昭和の初めから例外なく行われてきた立法形式であるので、これを変更するということは実務上は大変な大きな変革になるわけです。 また、そのために、法制審議会の刑事法部会はこれと並行してこの問題を検討しまして、両罰規定における罰金額の連動の切り離しについてと題する平成三年十二月二日の法制審議会刑事法部会了承という文書を公表いたしました。この内容は、要するに現行の両罰規定の罰金額の連動というのは理論的に切り離すことができる、それから切り離した場合の罰金額を定めるに当たってどういう要素を考慮すればいいかという一般的基準を示したものであります。それで、この刑事罰研究会の最終報告書の内容もこの法制審議会了承の内容と基本的に合致するものであります。 それから、次に、ここでその罰金の上限を引き 上げるということとの関連で、我が国の独禁法は刑事罰とそれから課徴金制度が併存しているので、その課徴金の対象となるカルテルには刑事罰と課徴金と両方科される、先般課徴金の引き上げがなされたのにさらに今回刑事罰を強化することは実質的に見て二重処罰にならないかという問題があるわけです。それで、その課徴金制度というのは、カルテルによる経済的利得を国が徴収する制度だというふうに理解されておりますが、この刑事罰と課徴金の併科ということを刑法の側面から見ますと、課徴金の性格を不当利得の剥奪と見る限り、これはわかりやすくするために若干大まかも言い方になりますけれども、それは刑事の方から見れば、いわばこの課徴金というのは没収に相当するものである、その部分を行政官庁が剥奪しているというふうに見られないわけではないわけです。そう考えますと、一般に罰金などの刑罰とそれから没収とを同時に科すということは何ら差し支えないことですから、これは、刑事罰と課徴金を同時に科しても、実質的に二重処罰になるという問題は起きてこないわけです。 それで最後に、その両罰規定によって引き上げられる業務主に対する罰金刑の上限についてですが、今回の政府案においてはこれが一億円ということになっております。刑事罰研究会の報告書によると、この点は「数億円程度の水準に引き上げることが必要である。」ということになっているわけですが、私の個人的見解とすれば、さきに述べたその両罰規定における連動の切り離しを実現すること自体、これは、昭和の初めからの立法形式を根本的に変えるということで大変大きな変革である、それから、それが実現した場合には、今後の経済犯罪に対する刑事罰の強化という点からも、極めて効果的である、画期的なことであるというふうに考えることができると思います。そして、この独禁法において最も重大な犯罪類型である私的独占及び不当な取引制限の罪についてこの切り離しか実現する、その法定刑の上限がとにかく億単位にまで達しているということを考えますと、今回の政府案が成立すれば、独禁法における刑事罰の強化という、当初意図された目的のかなりの部分が実現されたと見ることができると思います。社会党案は、この政府による提案を含み、かつ、それ以上の強化策を提案していますので、両案ともに含まれている部分については、ぜひ今国会で実現することを希望いたします。(拍手)
○武藤委員長 ありがとうございました。 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
○武藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。 質疑者にあらかじめ申し上げます。 質疑の際は、質疑する参考人のお名前をお示しください。 なお、念のため参考人各位に申し上げますが、発言の際は委員長に許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきを願います。また、時間の制約がございますので、お答えはなるべく簡潔にお願いいたします。 それでは、質疑の申し出がありますので、順次これを許します。額賀福志郎君。
○額賀委員 自民党の額賀福志郎であります。 きょうは、正田先生には大変お忙しいところおいでいただきまして御意見を開陳していただき、心から御礼を申し上げる次第であります。 ただいま正田先生からお話がございましたけれども、時間も限られておりますから端的に御質問をさせていただきたいと思いますが、正田先生の座長を務めておられました刑事罰研究会におきましては、当初数億円という刑事罰の強化を御答申なされましたが、これを受けた公取では、大方の賛成を得るために一億円ということで政府案を提案なさったわけでありますけれども、この点につきまして今正田先生は、将来、刑事罰研究会で答申をした数億円という趣旨に沿って検討をしていただければいいのではないかというような御発言でございましたが、しかし、若干のちゅうちょさも感じておるということでございましたが、率直に言って今どういう感想なのか、お聞かせ願いたいと思います。
○正田参考人 先ほど申し上げましたように、研究会の結論は数億円ということでございまして、政府提案が一億円ということで、この金額については、やはり研究会の意見との間に違いがあるのが残念であるというふうに考えております。 ただ、基本的な考え方というものが取り入れられていること、及び、少なくともかなり大幅な引き上げが実現したという点については、これは評価できるというふうには思っておりますので、非常にはっきりしないお答えかもしれませんが、現状においてはやむを得ないのではないかというふうに考えております。
○額賀委員 正田先生の御認識は我々自民党内でもいろいろと議論をしてまいりまして、日本の独禁法の特色というのは、昭和二十八年の改正で、大変、中小企業というか、事業規模を考慮した制度になりまして、いろいろと中小企業対策等にも配慮をしながら運営がなされてきたところに特色があるのかと思います。そういったことを考えてみますと、一足飛びに数億円という単位よりは、まずは五百万円から一億円にしてその抑止力の効果を見定めるというのは、適切な判断ではないかというふうに考えているものでございます。 続きまして、正田先生にもう一問お尋ねをしたいと思いますが、これは、独占禁止法の抑止力の強化策というのは、いろいろと審査体制の強化とか、あるいは昨年は課徴金の引き上げとか、そしてまたことしは罰金の引き上げ等が行われているわけであります。なおかつこれは、世界的に独禁法の強化あるいは独禁法の再評価というのが行われている中で、新しい経済秩序をつくるために、世界の共通のルールづくりをしていこうということだろうと思います。そういたしますと、アメリカ型の刑事訴追型の抑止力あるいはヨーロッパ型の行政的な側面を備えた制裁金による抑止力、そしてまた日本の場合は、課徴金と罰金と併存型の抑止力強化という選択をしたわけであります。 本来ならば、共通のルールづくりをしていこうということであれば、世界からわかりやすく、刑事訴追型にしようとか、制裁金型にしようとかした方が日本の経済の仕組みとしてはわかりやすい側面があるのではないかな、これから、もともとそれでなくても、日本の国民性が集団的、協調的、排他的とか言われているさなかでありますから、そういう意味では世界の流れと同じようにした方がいいんじゃないかなという気がしないでもないわけでありますが、その中でこういうふうに罰金を上げて課徴金と罰金の併存型を強化していく形をとったわけでありますが、先生としては、本当は日本はどういう選択をした方がよかったのか、あるいはこのまま様子を見た方がいいのか、あるいはまた、将来はこうすべきではないか、私見も交えて我々に御教示をいただければありがたいというふうに思います。
○正田参考人 世界と申しますか、いわゆる一般に言われております独禁法制を持っております先進諸国の違反行為に対する措置というのは、かなり大きく割れているといいますか、今おっしゃいましたアメリカの刑事罰中心型と、それから、ヨーロッパの場合には、これはそれぞれの国の法制度によりまして、刑事責任を経済犯罪に対して問うということをしないかわりに、制裁金、これは過料といっていいのでしょうか、一種の罰金でありますが、それを科して、しかもこれをかなり高額のものを科す、こういう分け方でそれぞれの国が整理をしております。 どちらがいいかということは、それぞれの国の法的な伝統等がございますので一概には言えないということだと思いますし、それぞれ、例えば罰金の場合でございましても、あるいは過科、制裁金という名の罰金のもとでございましても、不当利得を吐き出させる上に、さらに制裁という形で罰金ないしは制裁金が科されるという形で考えら れているわけでございます。日本はたまたまそれを分けているわけでありますが、やはり昭和五十二年の課徴金導入の経緯等も考えまして、日本の場合にはこの両方の組み合わせで展開していくのが最も素直な展開の仕方ではないかというふうに考えております。
○額賀委員 正田先生、ありがとうございました。今正田先生がおっしゃったように、行政的には併存型で進んできておるわけでありますから、この点については今後世界各国に我が国はこういう方式で努力をしているということをもうちょっとよく説明をしてわかっていただかなければ誤解を受けるおそれがあるのじゃないかというふうに危惧をしております。 続きまして、芝原先生に御質問をさせていただきたいと思います。 ちょうどこの刑事罰強化の独禁法改正が行われようとしているさなかに、埼玉県におきまして談合事件に一応決着を見るというか、告発をしないで勧告をするというような形になったわけでありますけれども、公取側の説明によりますと、要するに違反行為については行為者が特定をすることができなかった、だから告発に至らなかったということでございますが、刑法の専門家である芝原先生におかれましては、素直に言って、この談合事件を見ておられまして、また独禁法改正に携わった者として、どういう御感想をお持ちか、お聞かせいただければありがたい。
○芝原参考人 埼玉の談合事件についての個人的な感想ということでございますけれども、これは生の事件でありまして、公取の調査の具体的内容についてはもちろん知りませんし、証拠の評価の問題となりますので、まことに申しわけございませんけれども個人的に感想を申す立場にはございませんので、御容赦いただきたいと思います。 ただ、企業犯罪の訴追についてその実行をした個人をどのくらい特定しなければならないのかというような問題の一般論でありましたら、私の立場からお答えすることができるかと思います。
○額賀委員 今最後に芝原先生がお触れになっていただきましたが、企業犯罪というか、企業の違反行為というのは、行なうのは個人、自然人でありますけれども、大企業であればあるほどこれは大体組織的に行われるし、あるいは二年や三年で人事異動もあるし、しかもなおかつその行為者が行った利益というものは、個人のものに、懐に入ってくるものではなくて企業に所属するものである。企業の利益のために行っているものであるというようなことからすれば、特定の人が絞り切れなかったから企業犯罪が追求できないということになるといたしましたならば、今のような行政調査あるいは強制捜査との兼ね合いとかいろいろ新しい理論武装をしていかなければならないのではないかというような感じがするのでありますが、芝原先生の専門家としての御教示をいただければありがたいと思います。
○芝原参考人 ただいまの額賀先生の御指摘で、企業ぐるみの犯罪の社会的実態を見れば、違反行為者を特定しなくても企業自体を処罰するべきだというお考え、確かに傾聴に値するお考えだと思います。 ただ、刑事責任の追及ということを純理論的に考えますと、これは例えば排除措置とか課徴金の徴収とかそういう行政措置と違う面がございます。刑事責任の追及というのは、結局ある人間を非難するという要素がどうしても必要になるわけです。例えば、公害犯罪などで、ある企業が有害物質を排出している、だからこれを処罰すべきだということになりますけれども、一方で、場合によってはそれが不可抗力によって生じているということもあるわけで、それはただ違法状態があるということを排除するのでなくて、その人、その会社を非難するということになるとすれば、やはりこれは不可抗力でないということをはっきりさせなければならないわけです。そうしますと、どうしても客観的な行為ということだけでなくて、その内面、人の内面、すなわち故意過失があったかということを考えなければならないわけです。 まず、それでも企業の故意過失ということは考えられるではないか、一定の、公害などの防止措置をしたかどうかということがそれに関係するではないかというふうなことは一応言えるわけですけれども、それもぎりぎり詰めてみますと、やはり企業の中のある人があるいはある自然人の集団でもいいのですけれども、だれかがこれを決定したためにそういうような企業としての決定というのがなされた。そうしますと、その企業の中の個人を特定して、どういう違反行為をしたか、そのときにそれは不可抗力ではなかったのかというところから積み重ねていかないと、刑事責任というのは追及できないわけです。 ただいま申しましたように、排除措置の場合には一定の違法状態が客観的に存在することが認定できればこれを排除すればいいし、それから課徴金の場合でもカルテルによって違法な利益が客観的に生じていればそれを徴収すればいいということになりますけれども、やはり刑事責任を追及するということはそれに比べますと大変なことでありまして、非難という要素がどうしても必要であるということから、やはり個人を特定してからかからなければならないということにどうしても理論的になるということになると思います。 それから、では現在の公取委の体制あるいは権限でもってそういう調査ができないかと申しますと、私の個人的な判断では、現在の間接強制による行政調査というものを最大限これを用いれば、今申しましたことについても調査が可能である。これは具体的な事案によるわけですけれども、それでも告発ということは可能であると思います。ただ、将来にわたって公取委の権限がどうあるべきかということは別でありますけれども、現在の段階で、現在の公取委の権限では告発はできないのだということはないというふうに私自身は判断しております。
○額賀委員 両先生には、大変貴重な御意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。 時間が参りましたので、以上で終わります。
○武藤委員長 和田貞夫君。
○和田(貞)委員 参考人の両先生、お忙しい中出席いただきまして、ありがとうございました。また、刑事罰研究会で私たちの望んでおった結論を出していただいて貴重な提言をいただいたことについて敬意を表したいと思うわけでございます。 ただ、先生方がせっかくそのような議論の中で提言をしていただいておりながら、今回この国会に出してまいりました独禁法の改正案、正田先生も先ほど、全く全面的に賛意を表するということでなくて、ちゅうちょする面があって、将来さらに引き上げを検討してほしいという言葉があったわけですが、私たちの立場からいいましたならば、極めて不満であります。果たしてこのことによって、先生方の御努力がこの改正で全うすることができるんだろうか、いわゆる不正な競争を抑止する力になるだろうか。そのことを通じて経済に及ぼす影響、国民の利益を確保するという点について極めて疑問な点があるわけです。しかも私たちが推測するところでは、この国会が招集されました段階では、去年の年末に先生方の研究会の報告ができておりながら、国会の冒頭ではその報告の内容をつまびらかにしない、公表を要求しても公表しない、しかも今提案されております独禁法の改正案が出てくるのか出てこないのか、これもつまびらかでなかった情勢であります。私たち社会党の提案いたしましたのは、政府が出してきたことに対するところの対案として出したんじゃないのです。どうしてもこの場に及んで先生方の提言を生かした改正案を出してほしい、いわばその水差しの意味で、私たちの方が早く勉強いたしまして、不十分ではございますけれども、その水差しの役目を果たさせてもらおうということで提案させていただいたわけです。したがいまして、提案の時期を見ていただきましても、私たちの提案の方が先に国会に提出しておるわけです。 そういうことを一つ私は考えたときに、この間の本会議でも私は政府に言ったわけでございます が、いわゆる埼玉県の公共工事入札談合事件、この談合事件が、当初は、公正取引委員会が非常に力んでおった、非常に力んで、これこそが告発するところの最たる事件だ、こういうふうに豪語しておった。それが結果的には告発を見送る、排除勧告で事を済ませる、こういうことになったことを、ずっと私たちは推測をいたしますと、どうやらどこかの場所で、独占禁止法の改正案を出せという各般の情勢の中で、その法律を出させるかわりにこの公共事業入札談合の告発をやらないというそういう条件と何か取りかえをしたような気がしてならないわけでありまして、このことをこの間の本会議で総理に追及いたしましたところが、そんなことはない——そんなことがあるということは言うはずがない——そんなことはない、こういうふうに答えておるわけでございますが、これは先生に、非常に酷かもわかりませんが、私たちと同じような考え方に立っておられるかどうか、非常に酷な質問でございますが、刑事問題について非常に熱心に取り組んでいただいております芝原先生、ひとつ個人的なお考え方でも結構でございますので、どんなものでしょう。
○芝原参考人 どのようにお答えしてよいかわからないのですが、私どもの独占禁止法に関する刑事罰研究会は、以前に申しましたように両罰規定の連動というのを切り離す、これを理論的に徹底して、どこから批判されてもそれにたえ得るだけの理論的な検討を行うということを第一の目的にしてまいりました。しかも私は刑事法を勉強する立場にありますので、その点に最も関心があったわけです。その意味では、この研究会の結果というのはこういう形の法案において実現しましたので、これは満足しているわけです。 それから法定刑の問題につきましては、これは確かに数億円程度というのと一億円というのは違いますが、一億円、ともかく億単位にまで達しているということで、個人的に申しますと、それは確かに数億円程度と一億円というのは違うという意味では残念なことではありますが、ともかく億単位に達しているということで、基本的には、少なくともこれが実現可能性があるのであればこの点についてはぜひ実現していただきたいというふうに思うわけです。 それで、私どもはそのように理論的な立場からこの最終報告書をまとめたわけです。ですから、その後でどういう政治的な問題がありましたとかということは報告書が我々の手を離れてからの問題でありまして、それについては感想としては今申しましたとおりであります。 最後にもう一度私どもがそれについて補充的な見解を出しましたが、その趣旨は、これは確かに今言った額の点では十分ではないけれども、基本的には、それでもここで我々の提案というものを法律の形で実現していただければ、それはやはり画期的なことであり、経済犯罪に対する刑事罰の強化としては大変意味があるということからやむを得ないという判断をしたわけでございます。
○和田(貞)委員 先生方、先ほどから正田先生も冒頭にお話が簡単にあったわけですが、この報告書の提言内容として、刑事罰の上限を八十九条を対象にして五百万円を数億円にするという結論に達するに当たっていろいろな角度から研究されて議論をされて検討されてきた。独占禁止政策の国際水準に達するために国際的な平準化を目指して考えたということ、あるいは、とはいうものの課徴金と罰金刑が併存するという日本の特殊事情の中で考慮し勘案したということであります。 ところが、この数億円を一億円に圧縮した理由に、公取がこの議論の中であるいは政府が答弁の中で、依然といたしまして課徴金と罰金刑が併存をしておるということを挙げたり、あるいは事業者に過度の負担になってはいけない、こういうふうに言ってみたり、あるいは中小企業の支払い能力を超える限界ということを考えたとか、国民の各層に広く理解を得るためにだとか、先生方が議論をされて、そして数億円という結論に達した。にもかかわらず、なおその数億円を一億円に引き下げるその理由に、せっかく先生方が議論をされておったことをまた挙げているのですよ。そして、この一億円に達したということを総理も答弁いたします。公正取引委員会もそういうようなことを言うわけなのです。これじゃ先生方のせっかくの提言というものを軽視したというようにとらえるしか道がないと私は思うのですが、正田先生、どうですか。
○正田参考人 先ほど芝原教授もおっしゃいましたように、私どもの提言の一つの基本的な流れというのは、両罰規定を通して連動していた罰金刑、これはもう全部の法律がそういう形になっていたわけでありますが、それを切り離して、そして事業者に対して罰金額を引き上げるというところに非常に重点を置き、議論をしてきたわけであります。そういうことについてはこの政府案も明白にその考え方を採用している、こういうことであります。 なお、数億円という数字でありますが、数億円というのは極めて漠然としているわけでありますけれども、この罰金額の上限というのは、いろいろ議論はいたしましたけれども、ある一定の方程式でもって整理をいたしまして、そうして、その結果ぴしっと数字が出てくるというような性格のものであるとは考えていないわけであります。したがって、数億円ということについても、それぞれの方々の間では、思っておられる数字は若干の違いがあるかもしれないというふうに考えております。 一億円が数億円でないという点はおっしゃるとおりでありまして、その点は私も残念だというふうに考えておりますけれども、基本的な方向ということと、私ども研究会に対する公正取引委員会の説明で、一億円なら可能という、一億円が限度ではないか、こういう御説明があったわけでありまして、そのときに、一億円では趣旨に全く反するからそれならやらない方がいいという判断はいたしませんで、少なくとも億の単位に乗ってかなり大幅に上がるということ自体は実は評価をしたわけであります。ただ、研究会としては、第一段階として一億円、さらにこれを検討して引き上げてもらうということを希望としてつけ加えたということでございますので、基本的に研究会の意見と違うというふうには認識しておりません。この結論の数字に食い違いが出たという点は御指摘のとおりでありまして、私もその点は残念だと思っております。 〔委員長退席、竹村委員長代理着席〕
○和田(貞)委員 先生、しつこいようでございますが、先生の今の御答弁に難癖をつけたりどうするという意味じゃないのですが、この結論を数億円ということに出されたときに、先生方の研究会とそれから公正取引委員会と、これは内々でありますが、極めて抽象的なこの数億円という数字は、大体三億円程度から五億円程度のことを意味するのだという認識で当初一致をしておったのじゃないですか。
○正田参考人 私、座長として研究会の取りまとめをしておりましたものですので、具体的にどういう意見がどういう委員の方から出たということについては記憶も正確ではございませんし、ちょっと今申し上げられないのです。ただ、そういうことでもって一応の約束をしていたというようなことは、研究会の方の意見をまとめる過程ではございません。ですから、委員のみんなからいろいろな意見が出てきたことはもう事実でございますし、さっき申し上げたように、それぞれの委員が幾らを念頭に置いていたかということもこれは恐らくあるだろうと思います。ただ、その数字が、さっき申し上げたように数式でぴしっと出てくるような性格のものではございませんので、したがって、それぞれのお考えというのもまあそれぞれもっともなものだということになってしまいますので、そういうことから数億円ということでまとめたというのが経緯でございます。
○和田(貞)委員 私の言っておりますのは、先生方の研究会が数億円という結論を出された。その数億円という結論が出された直後、直後というか、この法案作成の作業に入る前に、その数億円 というのは、皆さん方の認識と公正取引委員会の認識が、大体数億とは三億ないし五億やなということで、これは約束事できちっとしたというのじゃなくて、認識として大体そういう方向で一致をされておったのではないですかということをお尋ねしているのです。
○正田参考人 今御指摘の三億ないし五億で、大体この線だということで一致していたということはございません。そういうことはございません。三億ないし五億ということで一致していたのじゃないかということは、私どもの研究会の場ではございません。
○和田(貞)委員 いやいや、研究会の場ではなくて、研究会と公正取引委員会と話し合いをしてこれでいこうということになったということを言っているのじゃないのですよ。大体、言う、言わぬにかかわらず、それを受けた公正取引委員会としては、先生方御苦労さんでございましたと言う中で、認識として、皆さん方に御苦労さんと言う言葉の中で、認識として大体数億というのは、これは一じゃないということは、数ということは一じゃないのですから、だから大体三億ないし五億程度だなというような、そういう認識で一致をしておったのじゃなかろうかというように推測するのですが、どうですか。
○正田参考人 具体的に三ないし五ということで公正取引委員会が認識していたというふうに私は考えておりません。まだそこのところは、いわば、何というのか、こちらの考え方はもちろん聞いていらっしゃるわけでありますから、いろいろな意見があることももちろん公正取引委員会は御承知だったと思います。ただ、数億円ということで、あと公正取引委員会がどこをとるかということについては、私どもとしては、さっき申し上げたように、それぞれがこのくらいだろうということを考えてはいたと思いますが、はっきりした形で幾つということをみんなが同じように考えていたということはないのではないかと思います。
○和田(貞)委員 先生方、公正取引委員会は、この改正案作成に当たって、当初この数億というのは大体三億というのを考えておった、大体三億というようなことを原案にしておったのです。ところが、何かがあったのですよ。何かがあって一億になったのですよ。そのために、先生方の報告書を公表しなさいと何ぼ言っても公表しない。その公表しない理由というのは、きょうは今来ておりませんが、私たちの委員が質問いたしましたら、これは議会の方と相談をまだできていないのでということも出てきたのですよ。私は知らぬのですよ、これは。そういうような言葉も出てきたのですよ。極めて、一億になったということは、やはりどこかに何かがあった。私は、不純という言葉をあえて言いたいわけなんです。 そういうようなことで、せっかく先生方が、確かに五億であろうが三億であろうが一億であろうが、今の五百万円をこの一億の水準に上げた。両罰規定の個人と事業者と分離をしたということを御苦労いただいて出された結論は、私はわかります。けれども、やはりそういうような結論を出すに至っての目的というのは、何としても不正な競争、談合、カルテル、そういうような行為が抑止をするということですね。抑止をするということ、抑制じゃないのです。抑制をする目的じゃなくて抑止をするという目的から、先生方、御苦労いただいたのでしょう。 そうすると、その結果、この一億という金額で言われるところの先生方の研究会の報告書の中にうたわれているように、十分な金銭的苦痛を与えるに足りる額であるかどうか、あるいは果たして犯罪の重大性、犯情に見合った制裁に足りる水準の額であるかどうか。あるいは、これに懲りて、今後一切そのような犯罪を起こさない、こういうような認識に事業者が立つに足る上限の水準であるかどうかということを考えたときに、果たしてこの一億というのは、この三つが十分に足りる、抑止の力になる、こういうようにお考えになられるかどうかということを、今度は芝原先生、ひとつお答えいただきたいと思います。 〔竹村委員長代理退席、委員長着席〕
○芝原参考人 今の最後の点の一億円で抑止力になるかという点ですけれども、これは抑止力があるかどうかということは、ある程度幅のある考えであると思います。それで、従来の五百万で抑止力があるかということであれば、それはやはりないと言わざるを得ないわけです。それが一億と三億でどのくらい違うかということは、実は法定刑がそれだけ違った場合にどのくらいの抑止力があるかということは、複雑な要因が絡みますので、実証的には判断できないわけですけれども、五百万から比べれば、たとえ三億でなくても一億でもかなりの抑止力があるということは言えると思います。 それで、先ほど国際的水準の問題も出ましたけれども、これは正田教授が既に述べられたことですけれども、アメリカなどでは刑罰という形で不法な利益の徴収と懲罰的なものをしている。それからECなどでは、むしろ行政的な行政罰という形で、これも不法利益の徴収と剥奪と、それから懲罰的な制裁というのを行っている。日本は不法利益の剥奪という点は課徴金でやって、懲罰的な意味での刑罰というのを刑罰でやって二本立てになっていますが、今までは課徴金という不法利益の剥奪という点では、前回の引き上げもありましたし、かなりの点で国際的な水準になっている。そこで、そうなってみますと一番弱いところ、国際的な水準として弱いところというのは法人に五百万しか罰金が科せないというところで、それを大幅に引き上げようということでありまして、私個人としては、これは一億になったということはかなりの抑止力があるというふうに考えております。もしこの研究会の最後の答申というのが一億を下回ったのであれば、私は到底納得できなかったと思います。ともかく、いろいろな状況があったところで億単位に上がったということは、これは両罰規定の連動の切り離しと並んで画期的なことでありますので、しかも億単位ということでの抑止力ということはある、それで国際的な水準にもある程度達したのではないかと思っております。 ただ、抑止力ということを申しますと、これは法定刑の上限を一億に上げるとか三億に上げるとか数億に上げるということも大事ですけれども、少なくとも億単位にまで上がったのなら、これからは、幾ら法律ができても実際に違反に対する告発が行われなくて、実際にその刑罰が適用されなければ威嚇力、抑止力ということは余りないことになるわけで、恐らくいろいろな状況から考えますと法定刑の引き上げということではある程度一億ということで我慢ができる、あとはやはり実際の告発を行って、そういう意味での抑止力を高めていただきたいと思います。 もっとも刑事法の立場でいいますと、何か経済刑法でも、経済犯罪でもこれを罰すればよいというふうに考えているようにとられがちですけれども、むしろ刑事法の研究者というのは、刑罰というのは非常に悪質な、重大な犯罪にのみ適用するべきである。しかし、そういうものについてはやはり確実に刑罰というのは適用されなければ抑止力がないんだ。ですから、それ以外のものについてはむしろ課徴金でもって利益の剥奪を行う、そういう振り分けということが必要だと思います。そういうこと全体を考えて抑止力ということを考えますと、立法の段階ではこのぐらいでまあまあかなと思うのが私の感想でございます。
○和田(貞)委員 これは国民から見ましたら、消費者から見ましたら、この課徴金というのは罰金刑と併存しておるけれども、課徴金というのはやはり八十九条に違反すれば、これはいわゆる剥奪ですよ、利益を没収するという性格のものでしょう。事によればその額よりも、一億という精神的に苦痛を与える刑事罰、あるいはもう二度とそのような不正行為はやらないというような、そういう企業に反省を与える額の方が、事によればこの五分の一あるいは十分の一というような額になりかねない額なんですね、これ、一億というと。そういうようなことで果たして抑止力になるだろう かということを私はもう一度お尋ねしたいのです。
○芝原参考人 確かに御指摘の点は私自身もわからないではありませんが、これまでの現行法での法人に対して科された罰金の法定刑の上限は、今回の証券取引法の改正は別として、それまではせいぜい最高で一千万円だったわけです。それで、これは薬物犯罪とか一定の犯罪は一千万円が最高で、脱税の場合には上限五百万円ということで、それはいわゆるスライド制で、場合によっては億単位の罰金刑というのが科されていましたが、これはそういうスライド制をとっているということからの例外であります。そういう意味で、これまでのことを考えますと、法人に対する罰金刑の上限というのはかなり低かったわけですね。ですから、我々はそういう状況から出発したということで、そうしますと、この切り離しか実現して、それで億単位の罰金が科せられるようになったということはやはりかなり画期的なことだというふうに私は思います。 ですから、いろいろな御意見があると思いますけれども、やはり刑事法の立場から見た場合には、今申しましたように今までが非常に低過ぎたのだ。だから少なくともこれからは億単位に法人に対する罰金というものを引き上げて、それで実際にそれを契機に適用してほしいというのが私の願いであります。
○和田(貞)委員 仮に一億でもいい、仮に社会党案の五億円であってもいい、こういうことですね。いかがですか。
○芝原参考人 それに直接お答えできるかどうかわかりませんけれども、我々は研究会の報告は数億円ということを言っております。それは現在でも変わりないわけで、最後の報告書においてもそれが実現しなかったということは残念だということは明記しております。
○和田(貞)委員 残念であるというお言葉、両先生方にいただきましたので、一億ということでも五百万円よりも引き上げたという努力をひとつ買ってほしいということでございますが、これは三億であっても五億であっても私はいいと思うのですがね。そういうように理解されておるというように解釈しておきます。 ただ、芝原先生が言われたように、額が一億であろうが五億であろうが、仮に十億であろうが二十億であろうが、要は告発をしないということであればこれは何の役にも立たぬですな。先生方のせっかくの提言というのは無にすることになりますね、これは。それは今日の公正取引委員会の委員長を初めとする委員あるいは公正取引委員会全体のいわゆる正義感というか、これを告発するように持っていこうというような、そういう意思を持つか、持たぬかという、そういういわゆる公正取引委員会の意思決定のこととあわせて、今のこの法律の中では告発できないんだということをにおわすわけですね、これは。そうすると、法律を改正に持っていくしか方法がないわけでしょう。 具体的に申し上げますと、今回埼玉の談合事件、告発しなかった。排除勧告にとどまった。告発できなかったという理由、この埼玉談合事件というのはルール談合だ、こういうことを言っておるのですね。 一つは、ルール談合を形成したという、いわゆるルールづくりに関与したということと、それから個別受注予定者の決定ということに連動させて考えているわけですね。一人の自然人がルールづくりから個別受注の予定者の決定まで、そういう行為が一連して関与したかを検討した。その結果、これは個人的に関与してきたという、そういう証拠をつかむことができなかった、だからこれは告発しなかったんだというように一つは言っておるわけですね。 もう一つは、公正取引委員会が九〇年の六月に告発方針を公表しているんですね。ところがこのルールづくりというのは、九〇年の六月以前からルールづくりが行われてきたということで、だからだめなんだという二つの理由を挙げて今回告発しなかったというように公正取引委員会は言っているわけです。そうすると、そういうふうな解釈であるならば、これからこの種の告発ということは一切できなくなってしまう、そういうことにも尽きるわけであります。 一体今日の独禁法のどこに欠陥があるのか、あるいは今日の独禁法の、現行の法律の中でも先生方が御検討いただいた提言どおりに告発しようと思ったら告発ができるというようにお考えになられるのか、いずれかひとつお答えいただきたいと思います。
○芝原参考人 ただいまの御質問の中で、いわゆる埼玉談合事件につきましては、前に申しましたように、具体的な事案についてはこれは証拠の評価の問題だと思うのですね。私は、どういう証拠があるというようなことについて、それに接するような立場にございませんので、具体的な事案についてこれはどうということは申せないわけです。 ただ、今お話がありました、一つは平成二年、一九九〇年六月に刑事告発に関する方針というのが公表されたこととの関係でございますが、これは確かにその前から罰則の規定はありますので新しい刑事立法がなされたというわけではありませんが、もし告発が従来よりもかなり活発に行われるというようなことになりますと、それは事業者の事業活動に大きな影響を与えるということになります。ですから、これは新しい刑事立法というわけではありませんけれども、やはり公取委の方針が大きく変わったということになりますので、その公表以前のものは一応別にして公表以後の行為について告発をするという方針自身は妥当なことだろうと思うのです。 そうしますとどういうことになるかと申しますと、今のお話は、それより前から長期にわたって続いているようなカルテルなどは刑事告発ができなくなるのではないかというような一つのお考えだと思いますけれども、それは要するに九〇年六月以降に不当な取引制限行為、すなわち相互に事業活動を拘束するような合意があるということが認定されればこれは告発が可能になるというふうに考えております。
○和田(貞)委員 先生、そうすると、一つは九〇年六月以前からルールづくりをやっておったんだ、だからということになってきたら、もう全国至るところの地方自治体を含めてそんなルールづくり、みんな九〇年六月以前からやっておるのですよ、これは。九〇年六月以前からやっておるのです。いまだに続いているのです。一切だめということに、先生、なるのですよ。しかも第一点のルールづくり、あるいはいわゆる落札で受注するという場合はその行為者が、個人の関与したという具体的な事実の証拠がつかめないというようなことは、これは公正取引委員会がそんなこと言うべきじゃないでしょう。公正取引委員会がもともとその捜査権はないんだから、それは検察に任せて検察が個人的に行為者が関与したかどうかということを立件したらいいわけでしょう。公正取引委員会がそこまでやっていたら、この二つのことでは一切、せっかく先生方に御努力いただきましたけれども、刑事告発はできないということになってしまいますよ。どうですか。
○芝原参考人 先ほど申しましたことの繰り返しになりますけれども、その一九九〇年六月以前からずっと続いておるものについては、一たんルールづくりがなされてからそれがずっと実行されているだけであるので、もしそこからの行為について告発するということになれば、それ以前から行われているものについては一切告発ができなくなるではないかということにつきましては、九〇年六月以降にも今申しましたような形での不当な取引制限行為というようなものが認められる可能性もあると思うのですね。すなわち、そのときに何らかの意味で相互にその事業活動を拘束するような合意というのがなされたということが証拠上認定できれば、それについては当該罰則の適用ということは可能であろうと思います。 それからもう一点は、個人の特定というのが難しい、だからそういうことは捜査機関に任せれば よいではないかということですけれども、これは大変難しい問題だと思いますし、それはそういうお考えもよくわかります。私の意見としましては、これはこういうことです。告発ということは、これはやはり告発された事業者にとっては大変な影響力のあることなわけですね。それでもし、告発されたけれども検察庁の方でこれを不起訴にしたということになってもいいから、ともかく公取の方は告発をしろということになりますと、それがその事業者等に与える影響というのは非常に大きいと思うのです。これは独禁法の問題とちょっと離れますけれども、一般の刑事事件でもそれは実際に有罪になるとか、有罪が確定するということがなくても検察官によって公訴が提起されただけでかなり社会的にその者には影響があるわけです。それと一応パラレルに考えても、告発というのは、特に公取の場合には専属告発でありますので、これはある程度の、やはり有罪判決の見通しということを考えて、それで告発するというのが望ましいと私自身は考えております。 それから、その点では公取委は確かに調査権限というのが、捜査機関のようなものはございませんけれども、それでも間接強制を伴った行政調査ということはできるわけですね。かなりのことはそれで実際にできるわけです。それであと、証拠の評価についてはある程度検察当局と相談するということも、これは必要だと思うのです。そういう見通しを立てたものを告発するということにならないと、告発がたくさんなされた、しかし事件はどんどん不起訴になっているというようなことでは、独禁法の刑罰の規定の抑止力というのはむしろ薄れるのではないか。 ですから、私の考えを繰り返しますが、刑罰というのは必要以上に適用するということはかえって弊害がある、しかし、非常に重大な悪質な経済犯罪については的確に適用すべきである、そのためにはやはり十分証拠のそろったものについて告発を行うということが必要であろうと思います。 それで、これも繰り返しになりますが、公取委の現在の調査権限というのは、ある意味では限られていますけれども、じゃ、それでそこまで、私の申しましたような形での告発まで持っていけないかというとそうではないと思うのです。それはスタッフの問題とかいろいろありますけれども、法的な権限としてこれだけしかないから告発に、今私が申しました意味での告発には持っていけないということはないのではないかと思います。あとは、これは個別的な事案についての証拠の評価の問題になるのではないかと私自身は思っております。
○和田(貞)委員 時間が参りましたからやめますが、先生方本当に御苦労さんでございました。しかし、大蔵で審議をいたしました証券取引法ですね、もう成立いたしまして七月一日から実施になる。これは株の操作、そういう事案の法人の最高の上限の罰金が三億なんです。これと比べたら、本当に皆さん方の御提言を無視したこの法案の内容であるということで、私は非常に残念でならないわけであります。これからもどうぞひとつ先生方、頑張っていただきたいと思います。御苦労さまでございました。
○武藤委員長 森本晃司君。
○森本委員 正田先生、そして芝原先生、研究会の報告をいろいろとおまとめいただきまして、御提言いただきまして、大変御苦労さまでございました。また、本日は参考人として御足労いただきましたこと、大変ありがたく思っておるところでございます。 そこで、今回の罰金刑の問題と、それから談合が告発できなかったこと、埼玉談合ですね、こういったことに対して世論が大変厳しい視点で今回見ているということは、先生方もよく御承知のことかと思います。そういった点で数点、私の持ち時間二十分でございますが、お伺いをさしていただきたいと思うところであります。 先ほど来、研究会報告の数億に対する考え方、それが一億になったということに対して先生方のそれぞれの御意見を伺っておりまして、わかる部分もあるわけでございますが、もう一度私の方からお尋ねをさしていただきたいと思います。 そこで、先ほど正田先生から、数億から一億になったということは残念であり、将来に託すという御意見を賜りました。率直なお気持ちではないかと思います。国際的にはアメリカの最高限度額十三億円という状況から比較して非常に少なくなったのではないかと言われている点、それからもう一つ、これは先生方、非常にお答えにくいかもわかりませんが、巷間、大変な政治的圧力があったのではないかと、いろいろとマスコミ等々あるいは国民の中から上がっている声に対して、先生方はどのように今受けとめておられるかという点をお伺いしたいと思います。 それから、先ほど正田先生のお話の中で、数億円を提言した後、公取より意見を聞きたいということがあって、先生方がそれぞれ御意見をお述べいただいたわけでありますが、そのときに、一億円にせざるを得ない、一億が限界であると公取からお話があったというふうに伺いました。このときのやりとり、先生方は一億と言われたときにどうお答えいただいたのか、これは大変お答えにくい質問ではあるかと思いますが、もし聞かしていただくことができれば大変ありがたいと思っているところでございます。両先生、よろしくお願い申し上げます。
○正田参考人 先ほども申し上げましたように、数億から一億にということで研究会の意見よりも低いという点に関しては残念であるということを申し上げたわけでありまして、この数字が果たして国際的にどういう評価を受けるかということにつきましては、我が国は我が国なりのもとがあるわけでありまして、やはり五百万から億単位に罰金刑を上げるというかなり思い切った案が提案されているわけであります。また、課徴金も引き上げる、こういう形で国際水準に合わせるべく努力をしているということは、一応国際的にも理解されるのではなかろうかというふうに思っております。 それから、いろいろ新聞報道等々で書かれていることは私も読んでおりますし、そのことにつきましては、実態を的確に私自身研究者として調査しているわけでもございませんので、その点に関してはどういう認識を持っているかということを研究者としてお答えするということになりますと、正確な認識を持っていないということをお答えせざるを得ないわけであります。 それから、これは公正取引委員会から、数億という提言であるけれども一億ということに諸般の事情からせざるを得ないという話を聞きましたときには、これは先ほどの繰り返しでありますけれども、公正取引委員会が積極的にいろいろな努力をされていたものと理解をした上で、現状においては実現ないしは具体化するためにはやむを得ない判断であるかなというふうに考えたわけであります。
○芝原参考人 最後の点だけをお答えいたします。それ以外は以前に申しましたとおりでございます。 この数億円という報告書に対して一億という話がありましたときに、私はこれがもし一億より以下であったならば明確にこれでは適当でないと申したと思います。億単位に上がったという意味で、ある意味で象徴的な意味がありますし、まあまあというふうな感じで、結局はそれはやむを得ないというふうに思ったわけです。 それは、これは繰り返しになりますけれども、両罰規定の連動の切り離しということは、理論的にはできるということを幾ら、論文に書くことは易しいことですが、それを現実に実現するということは、これはやはり大変なことなわけです。特に、刑事立法を改正するということはいろいろな意味で国民の生活に重大な影響を与えますので、いろいろ大変なことです。それはともかく、その基本が実現しそうだということから、しかもこれは億単位に史で上がっている、だからまあやむを得ないのではないかというように感じたというよりも、私の率直なそのときの印象でございます。
○森本委員 次に、芝原先生にお伺いいたします。 従業者と事業主との罰金の比較が、証取法では百倍になりました。今回独禁法二十倍という政府案のアンバランスについてどのように考えておられるか、その見解をお伺いしたいと思います。 それから、事業主に対する罰金強化の他の経済法への適用の可能性とその範囲についての考え方をお伺いしたいと思います。
○芝原参考人 罰金刑の上限を幾らにするということは、ある程度の目安はありますけれども、必ずこの額にしなければならないということを実証的に主張するということはなかなか難しいわけで、ある程度の幅というのはどうしてもあるわけです。ですから、まず、二つの法律の改正案、刑事立法に関する改正案が出て、それでその法定刑にアンバランスがあるということは、その性質上ある程度やむを得ないということが言えると思います。しかも、それでは、そういう意味で証取法と独禁法とどちらの方が妥当だったのかということも、これはどちらというふうに決めることはできないことなのだと思います。 それで、そういう意味で、先ほど私申しました法制審の刑事法部会の了承事項というものの中でも、ではどの程度の罰金を設定するかということは、抑止力としてどのくらいのことが期待できるかということと、それから具体的には法人と自然人の資力の格差を基礎として、その法令の趣旨・目的、違反行為の性質、対象としている業務主の規模、諸外国における同種の行為に対する刑事罰・制裁金の内容等を総合的に考慮すべきだということになって、これはいろいろなことの総合的な評価ということになると思います。証取法の方は、これは主な適用の対象になるのは証券会社ということになりますし、独禁法の方は、それに限らず非常に広い範囲でのいろいろな規模の事業者ということになります。それを一つとっても法律の性格は大分違うわけで、一概に片方の方が妥当だということは言えないのではないかというふうに思います。 それから、次の御質問で、ではこういう問題をどの程度ほかの経済罰則に及ぼすべきかということの御質問ですが、これは大変難しい問題でありまして、私自身もこれから具体的な勉強をしていかなければならないと思いますけれども、一般的な基準でいえば、法人に対して高額な罰金を科すわけですから、会社ぐるみというか、会社の事業活動の一環として犯罪行為が行われるとか、それからそれによって法人が得ている利益というのは、不正利益が非常に大きいとか、それから規制の対象となる法人の規模というのが比較的大きいとか、こういうようなものについて規制するような法律、それについては今後も切り離しということは可能であるというふうに考えております。
○森本委員 次に、談合の問題でお尋ねしたいわけでございますけれども、今回の埼玉談合が告発できなかったということに対して、先ほど申し上げましたように、いろいろな憶測が生まれているわけであります。公取が方針転換をいたしまして、そしていよいよ本気で告発に踏み切るなというふうに多くの人々は期待しておりました。そして、ラップ事件がございまして、それが告発に踏み切った。しかし一方、セメントやあるいはインキに対する告発は見送られた、それなりの理由はあるわけでございますが。さらにまた、今回の埼玉談合、これはほとんどの人々が告発できるのではないだろうかと思っておりましたし、同時に先般委員会で質問をいたしましたら、四千点に及ぶ証拠書類を押収することができたということであります。それが告発が見送りになったということに対して、大変国民は疑問を持っているわけでございます。 告発について、独禁法第七十三条で、公取は告発の義務を負っております。七十三条の二項で、告発を受けた検察側が、捜査の後、起訴するに値しないとした場合には、その旨の手続まで規定してあるわけでありまして、告発の段階で公取委が、検察側が起訴できるかどうかまで考えて自己規制する必要はないのではないだろうか。もし自粛するとするならば、七十三条の二項を形骸化することにつながってくるのではないかという考え方があるわけでございますが、その点についてどのようにお考えいただいているのか。 また、独禁法というのは、そもそも企業の組織的な犯罪を対象とした法律であります。幾ら刑事責任を問うからといっても、刑法の基本的な考え方である個人の特定や個人行為の特定ができないからということを理由に挙げ過ぎて、本来の企業の違法が確認されているにもかかわらずそれを見逃すような行為は公取委のとるべき立場ではないというふうに思うわけでございますが、それに対する見解を芝原先生にお伺いしたいと思います。
○芝原参考人 一つは、公正取引委員会の告発の件ですが、これも繰り返しになりますけれども、確かに七十三条二項では、公訴を提起しない場合の規定がございます。しかし私の考えでは、運用上は、これはやはりごく例外なものにして運用する方が、結局は独禁法の刑事罰の運用にとって望ましいのではないかというふうに思います。というのは、前にも申しましたように、告発されるということ自身は、やはり関係の事業者にとって大変な社会的影響のあるものである、しかし、それが刑事裁判の場で有罪かどうかということが明らかにされないままそれが終わるということが続発しますと、これは社会的には極めて大きな問題となりますし、それから、公取委の専属告発を持っているというそのことについても、むしろ批判が起こってくるのではないかというふうに思うわけです。ですから、やはりこれは公取委が十分検察と事前に協議をされて、これはある程度有罪判決の見込みがある、無論公取委だけで捜査をするわけでないんで、それは告発を受けてからは、むしろ公取委は調査をするわけですけれども、それだけで刑事裁判の証拠を収集するわけではもちろんないんで、それに引き続き当然検察の捜査ということが行われるわけですが、やはりその告発の段階である程度の見通しというのがあるものについてのみ告発するということを守る方が、結局は運用上妥当な結果が生じるのではないかというのが私の意見でございます。
○森本委員 引き続いて芝原先生にお伺いしたいわけでございますが、談合問題に対する独禁法、これでは適用できないのではないだろうか、今後談合については告発はできないのじゃないだろうかという声も非常に多く聞かれるわけでございます。そういった意味で、独禁法適用の限界の有無があるのかどうか、それからもう一つは、刑法第九十六条の三第二項適用の可能性についてどのように考えておられるか、お伺いしたいと思います。
○芝原参考人 このままでは、今後独禁法違反についての告発ができないのではないかという御質問ですけれども、これも繰り返しになりますが、私は、現在の公正取引委員会の権限のままでも、それを十分活用した場合には、今申したような意味での告発まで持っていけるというふうに思っております。 では、今度の場合はどうかといいますと、これはやはり証拠の評価の問題なので、本当のところ、なぜそれが告発ができなかったかということは私自身もわかりません。それは推測を交えて言うということは、私の立場としては許されないことだと思いますので、御容赦いただきたいというふうに思います。 それから、刑法の談合罪との関係の問題ですけれども、これは非常に似たような犯罪類型でありますが、独禁法の方は、一定の取引分野における競争の実質的制限ということが要件になっていますけれども、談合罪の場合にはその要件が必要でないわけです。それから、刑法の談合罪の場合には公の入札に限られるけれども、独禁法の方にはそういうことがないとか、それから、刑法の方の談合では、公正な価格を害しまたは不正の利益を得る目的というのが必要だ、ところが、独禁法の方ではそういう目的は必要でないとか、それから、独禁法の方は法人の処罰ができますけれど も、談合罪は刑法犯でありますので法人の処罰ということはできないとか、いろいろ似ておりますけれども違うところもあるわけです。ですから、事案によって両方を重なって適用される場合もありますし、一万しか成立しないこともあるというふうに思います。ですから、それはやはり事案によるということになるのではないかと思います。
○森本委員 時間が参りました。両先生には、大変貴重な御意見、ありがとうございました。
○武藤委員長 小沢和秋君。
○小沢(和)委員 両先生には、大変御苦労さんでございます。 まず、正田先生に幾つかお尋ねをしたいと思います。 報告書が昨年末に提出された段階で直ちに公表するのが当然だったと私は思いますけれども、御存じのとおり公表されませんでした。このとき研究会としては、公表しないことについて連絡や相談を受け、了解をされたのか。私は、当然公表を求められたのではないかと思いますが、いかがだったでしょうか。
○正田参考人 その公表されなかったことについて、私が連絡を受けたかな、とにかく、知っているんですから受けたのだと思います。 ただ、その点については、私どもは報告書を提出したわけでありまして、その後の扱いは公正取引委員会にいわば一任されているというか、そういうふうに理解をしておりましたので、公正取引委員会が公表をすることが適当でないという判断をして公表しなかったということに対して、特に抗議はいたしませんでした。
○小沢(和)委員 次に、一億円という罰金の水準が低過ぎるのではないかという点でお尋ねをいたしたいと思うのです。 私は、罰金である以上、企業に実際に打撃になる重さを持たなければ余り意味がないのではないかと思うのです。ところが、この場での先日の議論でも、余り過酷で企業経営に響くようなことではいかぬという配慮もあって数億円を一億円にしたというお話がありました。しかし、これは根本的に罰金についての考え方が間違っているのではないか、特に、巨大な企業にとっては一億円などというのはほとんどこたえも何もしないのじゃないかと私は思うのですが、いかがでしょうか。
○正田参考人 お説のとおり、非常に巨大な企業にとってどの程度の感銘力があるか、こういうことは必ずしもそうではないという御意見もあり得るだろうというふうに思います。ただ、一億円ということで私どもが了承いたしましたのは、五百万円というレベルの罰金額を億単位に乗せて、とにかく一億円というところまで引き上げる、しかも、これを事業者に対して行為者と切り離して引き上げる、こういうところについてはやはり評価をしたこと、それから、五百万が一億になるということは、それ相当の影響を与え得るものというふうに考えております。 ただ、先ほど申し上げましたように、私どもは数億円ということを考えていたわけでありますので、数億円に達していないという点は残念だけれども、とにかく、一億円であればやらない方がいいのじゃないか、五百万のまま残しておいた方がいいという判断はしなかったということであります。
○小沢(和)委員 日本の独禁法上の制裁が課徴金と罰金という二本立てになっていることは先ほどから言われております。私も、この両方を総合的に考えるのが当然だとも思います。しかし、課徴金は昨年強化されたといっても六%という低い水準。ですから、これでは不当な利益がなお手元に残ることが多いのではないかと私は思います。これに今回、罰金も数億円というのが一億円というふうに低く抑えられるということになりますと、課徴金と罰金両方とも低く抑えられ、両方払ってもなお不当な利益が手元に残るというようなケースが多いのではないでしょうか。そうすると、これは実際上はカルテルなどの不当なことをやった方が得と、やり得というような結果になりはせぬでしょうか。
○正田参考人 課徴金は不当な利得を一応六%という形でみなして、この六%という数字が具体的な事案との関係で果たして全部があるいは全部じゃないかという問題は依然として残るだろうとは思いますけれども、少なくとも不当な利得と判断できる部分のかなりの部分については六%の課徴金でもって徴収ができるということが言えると考えております。 それから、確かに金額という面で、一億という数字が果たしてどれだけそれに上乗せした、まあこれはカルテルの場合でありますが、課徴金に上乗せされたことによって経済的な損失、損失といいますか支出になるのかということは、これは具体的なケースによって違うことはもちろんあり得ることだと思いますが、少なくとも刑事制裁という形で一定のかなりの高額の罰金刑が科されるということ自体は、やはり十分な意味を持っているというふうに考えられると思います。
○小沢(和)委員 私も、今回二十倍、一億円に引き上げたということはこれはもうそれで十分意味のあることだとは考えているのです。ただ、今も申し上げたように課徴金も低く抑えられた、今度も一億円ということで低く抑えられたということになると、それは社会的には名前が出たりして企業としてはダメージを受けるにしても、経済的にはペイをするということになれば、厚かましい企業はやはりやるのじゃないか、歯どめが十分ではないんじゃないかということを感じておるということであります。 次に、芝原先生にもひとつお尋ねをいたしたいと思うのです。 先ほど来問題になっておりますように、罰金を引き上げても告発をしなければこれは絵にかいたもちになってしまうわけであります。埼玉の土木工事をめぐる談合事件につきましては、私も告発を期待しておりましたので裏切られたような気持ちでおります。過日のここでの公取委の説明では、だれがどういうことをやったかを特定できなかったので告発できなかった、こういう話でありますけれども、私どもは、捜査権がない、体制も十分でない公取委がそこまで証拠をそろえなければ告発できないということになれば、今後もほとんど告発できないのではないかというふうにその答弁で心配をいたしました。ところが、先ほど来芝原先生のお話を伺っておりますと、間接強制ではあるけれども公取委はかなりの権限を持っておる、権限の不足ということは余りないのじゃないか、こういうお話だったように思います。そうすると結局、公取委の姿勢次第だ、問題は公取委の姿勢にあるのだ、こういうふうに私にはその答弁が受け取れたのですが、そう理解してよろしいでしょうか。
○芝原参考人 私が公取委の現在の権限でもって告発ができないということはないではないかということを申しましたのは、公取委の法的な権限は間接強制に限られているけれども、それを十二分に使えばある程度の告発ができるだけの証拠を集めることができるのではないかというふうに申しました。 ただ、この事情はわからないのですけれども、もう一つは権限だけの問題ではなくて、スタッフ、マンパワーとかそういうものを含めての問題があると思うのです。ですから、それは単に公取委にやる気があるのかどうかということよりも、そこら辺はどうなのか私はわかりませんけれども、もしその点に問題があるのであれば、その強化は必要であろうと思います。ですから、その法的な問題と実質的なスタッフの充実という問題は、一応別に分けて考えることができるのではないかと思います。 それから長期的な問題で申しますと、確かに今回の証券取引法の改正では証券取引等監視委員会ができまして、これはいわゆる行政調査権のほかに国税犯則取締法と同様の裁判所の令状による調査権限というものが認められているわけですが、こういうものが将来公取委にも、従来の行政調査権限のほかにこの租税犯則調査権限に対応する強制調査権、これも与えるべきであるという考えと いうのは、将来の問題としてはあり得ると思います。しかし、そういう権限がないから、現在その権限だけの問題で告発まで持っていけないというふうには思っておりません。そういう意味では、権限の付与だけではなくてスタッフの充実等々いろいろな問題があるのかと思いますが、これは将来の問題としての検討問題であるというふうには私自身も思っております。
○小沢(和)委員 もう一遍、正田先生に一、二点お尋ねをしたいと思います。 一つは、損害賠償請求の問題であります。公的には罰金などによって処罰をされるわけですけれども、そういうカルテル行為などについて民間人によって責任を追求する手段として損害賠償請求というものが認められておるわけです。アメリカなどでは非常にこれは活発に活用されているようですけれども、我が国の場合には余り活用もされてない。実際、今まで一件も勝訴をしたことがないというふうに聞いております。これはどこら辺に問題があるのか。公取委などのもっと積極的な協力などが求められているのではないかというように私は考えますけれども、この機会に先生のお考え、お尋ねしたいと思います。
○正田参考人 確かに、日本で独禁法違反行為者に対する損害賠償請求訴訟というのが皆無に等しいと申しますか、極めて少ないということは事実であります。 原因がどこにあるかという点についていろいろ考えてみるのでありますが、やはり一つは、日本の社会的な風土の中で損害賠償を請求するということについて一般がふなれであるということも一つだろうと思いますし、あるいは、ほかの国では企業による損害賠償請求が非常に多いわけでありますけれども、日本の企業が独禁法違反行為者に対して損害賠償請求をするという行動に出る、こういうこともほとんどないという状況で、そういった裁判ないしは損害賠償請求ということについての一般的な権利意識と申しますか、こういうことが最大の原因だというふうに考えております。 ただ、公正取引委員会は独占禁止法に基づく損害賠償請求制度もあるわけでありますので、そういった訴訟が提起されたときにはどういう形でそれに対応するかということについていろいろ検討を進めているようでありますけれども、いかんせん、その損害賠償請求訴訟が起こらない、提起されないという、ここの問題が最大の問題点だというふうに考えております。制度的にそれを阻害しているような決定的な要因というのは現状では認められないように私は思っております。
○小沢(和)委員 あと一言だけお尋ねをしたいのですが、公取委の勧告あるいは告発などの活動を積極的に今後行っていくようにしていくためには、公取委の委員をどう構成するかということも大きく影響するのではないかと私は思うのです。 先日来、このことについてはここでも大分議論になっておるのですが、今のようにお役所出身のいわば法律実務に長く携わってきたような人たちで固められているというような状況がベストなのか、やはり消費者運動などを長年やってきたような人たちの新鮮な感覚をもっと取り入れていくような委員構成、これが、国民の期待にこたえるような、こういう刑事罰なども積極的に運用していくようなことを含めてやられていくことになる一つのポイントじゃなかろうかというように私は考えるのですが、先生のお考えはいかがでしょうか。
○正田参考人 具体的な委員構成の問題という点については、そのときそのときに最大限の努力をして適任者を選んでいただくということが必要だろうというふうに思います。ただ、公正取引委員会の委員の場合には、法律の運用という一つのかなり基本的な役目がありますし、また、その法律は経済社会と密着している、そういった意味では、いわば、かなり専門的な識見というものが要求されるということであろうと思いますので、そのときそのときに非常に広い範囲でもって委員を選出するような配慮をしていただくということは必要なことだというふうに思っております。やはり、適任の方に委員になっていただく、こういうことは私ども常に希望しているところであります。
○小沢(和)委員 ありがとうございました。
○武藤委員長 川端達夫君。
○川端委員 参考人の両先生、大変御苦労さまでございます。よろしくお願いいたします。 今回国会で審議をしておりますのは、研究会の御答申を受けてのいわゆる罰則の強化ということが中心になっておるわけでありますが、先ほど来の議論にもありましたように、罰則を強化していくという前提は告発があるということでございます。今まで過去二件ということでございますが、告発がなければ、一億円であろうと五億円であろうと十億円であろうとほとんど意味がない、こういうことで告発という問題は非常に大きな問題であります。 かねがね、公正取引、独禁法の運用に関しての流れを振り返ってみますと、今まで、どちらかというと排除措置命令というものに中心を置かれた運用がずっとされてきた。これではやはりいけないのではないかという中で、平成二年六月ですか、公正取引委員会が「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」ということで、これからは悪質なものあるいは繰り返しやられるようなものに関しては積極的に刑事処罰を求めて告発を行う方針である、こういう姿勢を打ち出されたということで、それを受けてストレッチフィルムなんかも久しぶりの告発が行われた。そういう流れを受けて告発がこれから積極的にやられるというのを見て、刑事罰というのは今のままでいいのか、それはもっときちっとした効果があるものにしなければならない、五百万円ではとてもじゃないがいけないというふうにセットとして、流れとして皆さんに御研究をいただき、今回の流れが来ているというふうに私は思います。そういう意味では、そこまでのストーリーというのですか、これは非常に地道であったけれども着実に今日に至ったと私は思います。 そういう中で、残念ながらといいますか、埼玉の談合事件というのが明るみに出た、公取の手が入ったという中で、今日までの姿勢も含めて、かねがね談合というのはいろいろ言われてきた問題でありますし、先ほど御紹介しました平成二年の刑事告発に関する公取の方針の中にも「入札談合」、具体的にそういう項目まで入っているということで非常に一般の関心も強かったし、これは告発に至るのではないかと思っていたら告発されなかったということで、先般来の委員会でもいろいろな議論の中で、報道でもありますけれども、我々としては、最終的に告発見送りの理由の大きなものとして、個人の犯罪行為の立証という部分に非常に困難性があったやに受けとめているわけです。公取の発表では、「独占禁止法の規定に違反する犯罪ありと思料し告発を相当とする具体的事実を認めるに至らなかった。」という表現をされているわけです。 そこで、この案件ということでお尋ねをすると、個々の具体的なことというのはなかなか難しい問題でございますので、そういう一連の流れの中で、刑事告発というものに対して障害といいますか壁が本当にあるのかないのかということについて少しお尋ねをしてみたいと思います。 一般論として、両罰規定の考え方の中で、個人の犯罪行為というものが明確に立証できないというときに、これは法理論上の大きな壁があって告発はできないものなのか、あるいは公取委の現状のいろんな機能をもってして、そして本来の独占禁止法の法の趣旨からいえば、ケースによっては、個人の犯罪行為の立証というものが万全でなくても公取委の判断としては告発し得るものなのかどうかということに関して、両先生の御意見をお伺いしたいというふうに思います。
○芝原参考人 一般論として、独禁法違反の公取委による告発について個人の実行行為というのが認定されない限り告発ができないかどうかという御質問だと思いますが、まず、告発ができるかどうかということの前に、独禁法違反で法人を処罰 するためには個人の実行行為というのが特定されていなければならないということは否定できないことだと思うのです、その理由は前に申し上げましたので繰り返しませんが。それでは、公取委ではそこまで証拠が集まらなくても告発をすることができるかどうか、その後は検察の捜査に任せればいいではないかということかと思いますけれども、それについては、有罪の見通しがまだそれではないわけですので、その段階で告発をするということは適当ではないというふうに私は思います。ただ、公取委がすべての証拠を集めるということじゃなくて、その事件が検察に告発をされて、検察の捜査によって今言ったようなことが立証できる、そういうことを含めての見通し、それがある段階で告発をするべきではないかというふうに私は思っております。ですから、公取委が有罪判決に足るすべての証拠を集めなければ告発できないという意味ではありませんので、その点は、その二つのことは違うことではないかというふうに思います。 それから、若干条文の解釈なんですけれども、これは七十三条をどう解するかということでなかなか難しい問題ではありますけれども、これは、「公正取引委員会は、この法律の規定に違反する犯罪があると思料するときは検事総長に告発しなければならない。」そうすると、この「犯罪があると思料するとき」の意味ですけれども、これは、個人の違反行為というのが立証できるかどうかわからないけれども、企業としてはそういうカルテル行為をやっているというだけで犯罪があると思料することができるか、そういうふうに読めるかどうかという問題がやはりあると思うのですね。それでこれを厳密に解しますと、やはりこれはある程度の証拠はあって公取委は犯罪があると思料するから告発するわけで、その場合に、個人の違反ということの事実についてほとんど証拠が集まっていないという段階で果たして「この法律の規定に違反する犯罪があると思料するとき」と言えるかどうかということが問題になると思います。
○川端委員 正田先生のジュリストのことしの五月の論文を見せていただきました。そこで、今のことに関連して先生の御意見も賜りたいと思うのですが、ここを引用させていただきますと、「独禁法は、事業者(場合によっては事業者団体)に対して一定の行為を禁じているのであって、法人事業者の場合であっても、その従業者等は、直接は独禁法違反行為者とはならない。したがって、刑事責任の追及についてのみ、従業者等の犯罪行為であることを起点とした構成をとることは、独禁法違反行為の実体に対応するとはいえないように思われる。独禁法違反行為者は、法人であると自然人であるとを問わず事業者であり、事業者の違反行為について事業者の従業者等がその違法行為を支えた責任を、あるいは代表者が事業者の違反行為についての責任を問われるとすることが、独禁法の仕組みに合致した捉え方といえる。」というふうにお書きになられています。 あといろいろ書いていただいておりますが、そういう観点で、今芝原先生がおっしゃいました部分に関連するのですけれども、いわゆるこの独禁法の告発という部分、いわゆる刑事罰等の部分で両罰規定というのはいろいろな議論があるのは承知をしていますが、本来の趣旨としていったときに、この告発というものがいわゆる個人の犯罪行為の立証ということに非常に大きく影響を受けてしまうということ自体、私は非常に、まあ解釈の問題と同時にそういう仕組み自体に非常に問題があるのではないかというふうに私は感じておりますし、今回の一般的な批判というのもやはりそこにあるのではないか。排除命令が出ているということはそういうことが実態としてあったということは事実でありますし、これが独禁法の趣旨に反した行為であることは事実だけれども、だれがやったかわからないから何もできないということは本当におかしなことではないかなというふうに思うわけです。 学説的にいろいろなことというのはありますが、そういう意味で、この個人の刑事告発という問題を芝原先生いろいろ言われたのは法理的には確かにそのとおりだという理解はするのですが、独禁法の実体運用という部分で今後どういう問題をクリアしていくべきだとお考えなのか、その点について御意見を賜りたいというふうに思います。
○正田参考人 ただいまおっしゃったようなことを私が書きました趣旨は、現在日本の刑事法の最も基本的な前提というのは先ほど芝原教授がおっしゃったとおりでありまして、私もそういう考え方というものが前提になるということに関しては、そういう考え方を改める必要があるということまで述べているつもりはございません。ただ、今引用していただいたところに書きましたように、どうしても、企業の犯罪行為という性格を中心にして考えてそこから個人を引き出してくる、こういう形をとることが必要なのじゃないかというのが一つであります。ですから、企業の犯罪行為ということについての考え方が個人をもとにして企業ということになると、どうも独禁法の規定の趣旨とうまく適合しない、どういうふうにしてそれをうまく組み合わせたらいいのだろうかということで若干考えていることを問題提起をしたということであります。 ですから、告発の問題については、やはり現在の法律制度のもとでは、これは個人を特定して、そして一定の材料、証拠というものがあって個人の犯罪ということについてのある程度の見通しが立つということが必要なのだろうというふうには思っております。それがどの程度かということについては、これが非常に、私も具体的にここで基準を申し上げることはできないと思いますけれども、やはり個人の犯罪ということが特定できるという前提は必要だろう。 ということに加えて、もう一つつけ加えて申し上げますと、独占禁止法は、先ほど御指摘になりましたように、基本的にというかその中心的な対応というのは、やはり排除措置命令が独禁法の構造の上ではいわば中心的な対応で、公正取引委員会がそれを実施するわけであります。ですから、そういう意味で、刑事告発については公正取引委員会の方針に示されているような、ある意味ではその事の重大性あるいはその悪質性、こういう形でもって、そういうことを基準にして処理するということが必要で、すべての独禁法違反事件は告発、カルテルは全部告発、こういうことは予定していないというふうに考えております。 ですから、そこの告発する部分をどういう形で具体的に判断していくかということは公正取引委員会の運用にかかっているわけですけれども、やはりそういうところに、従来は皆無に等しいというところであったのがある程度比重をかけていって、そして排除措置と、カルテルの場合でしたら課徴金と、そしてそれに刑事告発、この三つをどういうふうに組み合わせて有効な独禁法の実施が可能かという、ここの辺はもう少しこれから検討を進める必要のある点だろうと思っております。
○川端委員 時間が来てしまったのですが、一連の独禁法の運用という行政の流れ、そして皆さん方の今度の罰則強化、罰金強化という流れという部分に、今回の埼玉談合という部分が提起した問題は非常に大きいというふうに思います。 本来の趣旨を含めて、そして法理論的な問題、そして今回のような部分が逆に、例えば六十六社もあるというと立証して全部というわけには、やると大変な労力もかかる、しかし一部だけといったらほかの人はいいのかという公平の問題もあるというふうなことで、何かみんなで渡れば怖くないみたいなことが現認されるようなことになってもいけないし、そういう部分でこの刑事告発に対する法的な部分と運用の部分というのは非常に大きな課題を具体的に提起をしたというふうに私は思います。 どうか先生方におかれましてはまたいろいろといいお知恵をお出しいただくことを御期待申し上げて、終わりにしたいと思います。大変ありがとうございました。
○武藤委員長 江田五月君。
○江田委員 両先生には大変貴重なお時間を我々のために割いてくださいまして、ありがとうございます。 同僚委員からいろいろな御質問がございまして論点はもう尽きているかと思うのですが、私の持ち時間十分ですので、告発の問題に限ってちょっと教えていただきたい、質問したいと思います。 この埼玉の談合事件のことなんですが、結局告発をしないという公取の決定になった。これは普通の国民から見ると、何ともまあおかしなことだということだと思うのですね。ここにこの独禁法違反があるじゃないか、それについて勧告まで出しているじゃないか、それなのになぜ告発できないんだと先日この委員会で尋ねましたら、公正取引委員長は、行為者が特定できないんだ、したがって告発できないんだ、こういうことなんですが、告訴、告発の法理論というのは、私も随分前ですが若干刑法も勉強したことがあるのですが、そのときの記憶を思い出すと、犯人というものを特定までする必要はないんだ、犯罪事実を特定して、そして処罰を求める意思を明らかにすれば告訴も告発も成り立つんだ、こういうふうに理解をしていたのですが、独禁法の告発だけは違うということも私はないんだろうと思うのですね。その点ではそれは同じことで、目の前に人が倒れている、死んでいる、しかも胸にナイフが刺さっている、だけれども、だれがやったかわからない、何月何日、それもちょっとわからない、そこで一一〇番しないというのは、これはいかにもおかしな話で、しかも、公正取引委員会とこういう談合という関係になりますと、これはその公正取引委員会にとっては、公正な競争が行われているということはいわば自分の子供みたいなもので、子供が刺されて胸にナイフが突き刺さっている、死んでいる、なのに親がだれがやったかわからないから一一〇番しないと言っているような、そんな感じを私は国民から見ると受けると思うのですよ。 そこで、まあ具体的事実になりますとなかなか先生方も発言しにくいというのはよくわかりますので、一般論でお伺いしますが、公正取引委員会の言うように、行為者が特定できないんだということで告発をしないということでいいんだろうか。行為者が特定できないというのは、どうしてそんなことが必要なのかと言うと、いやいややっぱりという例の刑法理論、これはもう私もよくわかっていますから、それは言っていただくことはないので、そして、その行為者について構成要件、違法性、責任、これをちゃんと判断しなければ犯罪があると思料できないんだ、こういうことなんですけれども、じゃ大きな矛盾に突き当たるんじゃないでしょうかね。 この「勧告書」、これが手元にあるのですが、事実を認定して、「六六社は、共同して、埼玉県発注の特定土木工事について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにすることにより、公共の利益に反して、埼玉県発注の特定土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって、これは、独占禁止法第二条第六項に規定する不当な取引制限に該当し、同法第三条の規定に違反する」、こう言い切っているわけです。したがってと、こうなっているわけです。じゃ一体公正取引委員会はさらに何を調べることがそもそもできるのかということですね。 独禁法の四十六条、四十条が「調査のための強制権限」ですが、四十六条に強制処分権がありますが、この強制処分権は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」こうなっているわけですね。ここまで公正取引委員会が行政処分として排除の勧告ができて、それ以上さらに何かをするために公正取引委員会は調査をすることがそもそもできない、こうなっているわけですね。にもかかわらず、さらに調査をして告発をしなさい、資料を集めなさいというのはこの法律と矛盾するんじゃないかと私は思うのですね。 既にもうあと五分前という紙が来るわけで……。 そこで、これは一般論ですが、犯罪があると思料するということの意味なんですけれども、行為者を特定する、その行為者について構成要件、違法性、責任まで判断するだけの資料を集め、そういう構成要件、該当性や違法性、責任、これがすべて認められる、こうなって初めて犯罪があると思料するということになるのか、そうではなくて、普通の告訴、告発理論と同様、犯罪の事実が特定できて、これは処罰を求める必要がある、こう判断すればそれで告発ということは成り立つものなのか、この点も明快に答えていただきたい。これは刑法理論ですので、芝原先生にお答えいただきたいと思います。
○芝原参考人 大変難しい問題で、私も、いろいろ考えてみなきゃならないことだと思います。 ただ、今、排除措置はできるのにということがありましたが、それは排除措置は、前に申しましたが、そういう違法状態があればそれを排除することが行政措置としてはできると思うのですね。ですから、同じ構成要件のように見えても、その意味というのは、行政措置の前提となる構成要件と犯罪処罰のための構成要件というのはやはり違うんだと思うのです。 それでは、ここの七十三条一項にあるのは、これは明らかに「この法律の規定に違反する犯罪があると思料するとき」というふうになっておりますので、これは刑法上の処罰を前提とする意味での構成要件だと思うのですね。そうなりますと、これは行政措置の前提になるのと違って、やはり個人の行為というのがある程度特定して、それから法人の刑事責任を問うという形になりますから、当然それをクリアして初めてその犯罪が存在したというふうに言えるんじゃないかと思うのです。殺人なんかで、今の例ですと、それは見たところ明らかに殺人が行われている、あるいはらしいということがわかるわけですけれども、経済法規違反のような場合には、そもそも、その犯罪が成立しているかどうかということをある程度の証拠をもって立証するということ自身が難しいわけです。 それで、排除措置をしているからもうこれは犯罪が成立しているではないかということは言えないということは今申しました。そういうことになりますので、これは解釈として今の段階で私が考えていますことは、今のような設定での事例を前提とすると、これは、いまだこの法律の規定に違反する犯罪があると公正取引委は思料していない、厳密に考えるとそう考えざるを得ないわけです。ですから、犯罪行為はあるじゃないかというけれども、それは行政措置の前提となる構成要件は満たすとしても、その犯罪の処罰の前提となる構成要件を満たすということまでの心証を公取が収集した証拠では判断できない、そういうことになるのではないかと思います。 それからその証拠の問題ですが、これは、その告発の段階ですべて有罪判決をもたらすだけの証拠を公取が集めなきゃならないというわけではありませんけれども、告発するには、今この独禁法における告発ということの意義を考えた場合には、ある程度その後の検察の捜査を含めて有罪判決の見通しがあるというものに限って告発をすべきであるということであります。ですから、解釈論としても、この「犯罪があると思料する」というふうに言えるかどうかというところに問題があると私自身は思っております。
○江田委員 公取委の説明では、この「犯罪ありと思料し告発を相当とする具体的事実を認めるに至らなかった。」と書いてあるのですけれども、具体的事実ですからそれはちょっと幅が広いのですが、ここでお答えになったときには、行為者を特定できなかったとお答えになったので、行為者を特定できないから、だから告発できないというのは、理論として、理屈としてちょっとおかしいんじゃないかと私は思うのですが、もう時間が来ましたというので、最後に、同じ質問なんですが、正田先生、そういうことでいいのか、つまり、行為者を特定できなかったということで、だから告発できなかったということでいいのか、抽象論として、本件特殊の事案じゃなくて、行為者が特定できないから告発できないというのは、そういう 答案を学生が書いたらマルだということになるのですか、それともこれはだめだということになるのですか、そのことだけ最後にお伺いします。
○正田参考人 どちらでもマルをつける、バツをつけると思いますが、私は少なくとも現在の刑事法の仕組みの中で考えると、芝原教授がおっしゃるようなことになるのかなと思っております。ただ、独禁法違反行為ができるのは事業者だという基本的なところの問題というのはこれからやはりよく刑法の先生方の御意見も伺いながら勉強しなければならないなと思っておりまして、やはり常に個人にまず必ず結びつけなければいけないということについて、果たしてそれでいいのだろうかという疑問は持っております。
○江田委員 どうもありがとうございました。
○武藤委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。 参考人各位におかれましては、お忙しい中を長時間にわたり御出席を賜り、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。 午後零時三十一分散会