科学技術特別委員会 第6号
- 発言数
- 4 件
- 登壇者
- 2 名
- 会派数
- 1
- 開催日
- 1984/05/09
会議録
○委員長(高木健太郎君) ただいまから科学技術特別委員会を開会いたします。 科学技術振興対策樹立に関する調査のうち、バイオテクノロジーに関する件を議題といたします。 本日は、本件について参考人の方から御意見を承ることといたします。 この際、中村参考人に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は御多忙のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとう存じました。 当委員会は、科学技術振興対策樹立に関する調査を進めているところでございますが、本日はバイオテクノロジーに関する件につきまして忌憚のない御意見を承りまして、本調査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。 それでは、議事の進め方について申し上げます。まず、中村参考人から五十分程度御意見をお述べいただいた後で、速記を中止いたしまして、懇談に入りたいと存じます。懇談に入りましたならば、参考人がお述べになりましたことを中心に委員の皆さんは自由に質疑をしていただき、それに対しまして参考人からお答えをいただくというように取り運びたいと存じます。なおその際、便宜、質疑されます方は委員長から指名さしていただきますので、挙手をお願いいたします。 これより参考人の方から御意見を承ります。それでは中村参考人にお願いいたします。
○参考人(中村桂子君) 中村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 バイオテクノロジーについて、一応基礎的な部分の解説と現状、それから私たちがそういうことをどのように考えているかということを話すようにというお話でしたので、そんなことを、今高木先生からお話しございましたので、お時間をいただいて話させていただこうと思います。 バイオテクノロジーと申しますのは、最近非常に新聞その他で言葉としてはお聞きになることが多くなったと思うのでございますけれども、一つは横文字であること、それから非常に新しいことであること、それから今までこの扱う部分が、これから少しお話しさせていただきますように、非常に広範囲にわたっていること、いろいろな意味でこの分野の方でない方には大変わかりにくい分野になっているような気がします。 それで、きょうは最初に、この分野が、今バイオテクノロジーというのが出てきているのがどういう意味があるのかということ、それはどういうものであるのかということをお話しさせていただいて、次に、それではそのバイオテクノロジー、これはテクノロジーですから技術でございますので、その技術で一体どんなことができるのかということ、それからこういう国のお仕事をなさっていらっしゃる方々でございますので、世界の中で日本が今どういう状態にあるかというようなこともわかっておいていただきたいと思います。最後に、そのことによってこれからどんなふうになるのか、それからバイオテクノロジー自身が持っている今後の課題、そんなことを簡単に話させていただこうと思います。 最初に、バイオテクノロジーとはということなんでございますけれども、バイオと申しますのは、生物学というのがバイオロジーというので英語で言われていますように、バイオというのは生物とか生命とか、そういう意味でございます。それから、テクノロジーはもちろん技術ですので、このまま訳しますと生物技術ということになると思うのです。生物技術と申しますのは、生物というのは非常にいろいろな能力を持っているもので、私どもの回りには分類されているだけでも百五十万種類ほどのいろいろな生物がいて、それぞれがいろいろな能力を持っているということがわかっておりますので、その生物の能力を利用してそれを使っていこうと、非常に端的に申しますとそういうことになると思うのです。 それでは、生物を利用していくということが、なぜ今問題になるのかということになるわけですね。生物を使っていくということになりますと、技術というのは私ども昔から持っているわけですけれども、その中で生物を使う技術というのはむしろ非常に古い歴史を持っていると思うのです。例えば、けさお食事なさったときに和食を召し上がっておみおつけと御飯を召し上がった方もいらっしゃるでしょうし、それからチーズとパンとコーヒーというお食事をなさっていらっしゃった方もあると思うのですけれども、例えば、その場合のおみそ汁というのは、これは昔から日本にある古い食べ物ですけれども、それはまさに微生物、発酵をいたしますコウジカビという微生物を利用した生物技術ででき上がったものですし、チーズも、もちろんこれは欧州の方で伝統的につくられてきた食べ物として、それも同じように生物、小さな小さな微生物ですけれども、そういうものを利用してつくったものです。 そういう形で、実は生物を利用する技術というのは、私どもが例えば今の鉄をつくるとか、一番最新のもので言えば原子力技術とか、そういう非常に新しい技術を手に入れますずっと以前から持ってきたもので、一番私たちが利用してきたものなわけです。それを今私どもは在来バイオテクノロジー、お酒をつくったり、おみそをつくったり、それから農業でお米をつくったり、そういうのを在来バイオテクノロジーというふうに、従来からあるという意味で呼んでおります。 それから、今問題になりますのは、これからお話ししますのは、そこに新規バイオテクノロジーが生まれてきたというふうに今位置づけられているのですけれども、それではその新しいバイオテクノロジーというのは一体何かということになりますと、在来バイオテクノロジーと申しますのは、今のお酒、おみそ、チーズ、お米、いずれにしましても私どもの身の回りにあるものをある意味では経験的にわかったことで利用していく、とにかくそういう生物がある能力を持っていてやってくれるからそれをありがたく利用していくという形だったと思うのですが、新規バイオテクノロジーと申しますのは、むしろそれではその生物がなぜそんなことができるのかという生物の仕組みをきちっと理解した上で、その仕組みを技術として利用していこうと、そういう考え方だと思うのです。 この考え方が出てまいりましたのは一九七三年、これはその年に急にということではなくて、歴史の流れの中でもちろん生まれてきたわけですけれども、何かある時期を明確にするとすればやはり一九七三年という年に、アメリカで遺伝子組みかえ技術、これも言葉としてはよくお聞きになると思うのですが、そういう技術が開発されました。これは、生物の仕組みを解明していく中で遺伝子という生物の一番基本的な物質がありますので、それの研究をする上で開発された技術なのですけれども、この技術が開発されまして遺伝子の仕組みを調べるということと同時に、この技術を使いますと新しい産業技術が生まれるということに科学者や技術者が気がついて、こういう新しいテクノロジーがあるのではないかというふうに思ったわけですね。それがその一九七三年の遺伝子組みかえ技術というものの開発をきっかけにそういう意識が芽生えてきた、これがきっかけだったと思います。バイオテクノロジーは、それでは遺伝子組みかえだけかというとそうではないのですけれども、これがきっかけになったというふうに思います。 それで、実は今遺伝子組みかえ技術がきっかけになったと申し上げたのですけれども、それでは生物の仕組みを理解してそれを利用していくという上で一番何が大切かということを考えてみますと、今おみそやチーズでお話ししましたが、最もわかりやすい例として、例えば蚕というのを考えていただこうと思うのです。蚕というのは桑を食べますと、それをえさにして育って、最後には絹という私たちが、特に女性ですと非常にあこがれます美しい繊維を出してくれるわけですね。ですから、蚕というのを普通考えてみますと、これは桑という原料をこちら側から入れますと絹という製品を出してくれる工場だというふうに考えていいと思うのです。それでは桑を食べると絹ができるのかといって、その辺にいる青虫に桑を一生懸命、まあ普通は食べませんけれども、もし食べさせても、例えば私どもが一生懸命桑を食べたとしても、私どものどこからも絹は出てこないわけですね。 それでは、なぜ蚕が桑を食べて絹をつくるのかというふうに言いますと、非常に簡単に申し上げますと、蚕の中に絹糸腺という場所がありますけれども、その中に絹という糸をつくる命令をしている遺伝子を蚕は持っているからです。それから蚕の中には、そういう遺伝子の命令で絹をつくるときに働きます、酵素と呼びますけれども、このごろは洗剤なんかにも入っていますのでよく御存じだと思いますが、酵素というのは体の中で物をつくるときに非常に決まったものを上手につくるために働く一種の触媒というものなんですけれども、その遺伝子の命令で、ある非常に特定の酵素があるという、そういう条件の中で絹をつくるわけですね。それが生物という工場である。例えばおみそがつくれる、チーズがつくれる、それから稲というのはああいうおいしい穀物がなる、そういうのもみんなそれぞれそれの中に遺伝子という情報源があって、その命令で酵素という触媒の働きで物をつくっている。すべて、ここで割り切って申し上げますと、一つの何かを生産している工場だというふうに考えていい。そういう意味で、遺伝子というのがあるかないかで何ができるかというのが決まるので、遺伝子というものが非常に大切だということがわかってきたわけです。 しかも、その遺伝子組みかえという技術はどういうことを可能にしたかと申しますと、今蚕で申し上げましたけれども、蚕には絹がつくれるけれども私どもには絹がつくれないというのは、蚕にだけその遺伝子があるからだということになるわけですが、そうしますと、その遺伝子というものをうまく使えばいろいろなものをつくらせることができるのではないかということ。になります。 例えば、今具体的にできていることですと、私どもの膵臓というところがインシュリンというホルモンをつくっています。これは血液の中の糖の量の調節に非常に大切な役割をしていますので、例えば非常にこれが不足している方では糖尿病になるというようなことがあります非常に大事な、私どもの血糖値を調節するのに大切なホルモンなわけですけれども、人間のインシュリンは人間しかつくりませんが、それはやはり人間が遺伝子を持っているからです。そういう意味で、今その人間のインシュリンがぜひ薬として欲しいと思いましても、人間を使ってつくるとか人間から取り出すということはできませんので、その遺伝子だけを取り出しまして、先ほど申し上げたお酒づくりとかそういうときに使っております微生物、この場合は最初は大腸菌という微生物の中へ入れましたけれども、そういう中へその遺伝子を入れまして、その中でその遺伝子を働かせて人間のインシュリンをつくるということをできるようにした。 それで、今までのバイオテクノロジーと新規バイオテクノロジーの差は、今申し上げましたように、その仕組みがわかったために、その仕組みを活用して今までできなかったような形での利用ができるようになったことです。その一つの例が今の遺伝子組みかえですが、遺伝子組みかえ以外にも、これは言葉はお聞きになったかと思いますが、例えば細胞融合と申しまして、遺伝子というのは細胞というものの中に入っておりますので、そういう性質を持った二つの細胞を合わせて、そして両方からいい性質を取り入れた細胞をつくる。これも両方の細胞がそれぞれ持っている遺伝子を取り入れるという形で新しい遺伝子の組み合わせをつくって、そのでき上がった生物を利用していこうということですので、今までのバイオテクノロジーとここで非常に違う新しい形のものが出てきたわけです。ただし、新しい形でできてきましたけれども、これはあくまでもやはり生物が持っている能力を使うという意味なわけですね。 それで、その現代的意味を考えてみますと、私は、これは私の意見なんですが、やはり私どもは食べ物とか健康とか環境とか、先ほどの蚕で言いますと着る物とか、非常に身近な技術というのは長い間生物に頼ってやってきたと思うのですけれども、それでは満足できないといいますか、人口もふえましたし、私どもの生活レベルも上がりましたし、その範囲では満足できずに、例えば繊維にしますと新しいナイロン、テトロンというような合成繊維を開発して、そしてこれだけカラフルな豊かな衣生活をつくるという形で、むしろ生物の世界からある意味で脱却して新しい技術を積み上げてきたと思うのです。それはそれですばらしいことだと思うのですけれども、一方でやはり私どもは生き物ですし、地球の中で生き物としてある一つの調和を保って生きている中で、余り生物から外れたことを大きくいたしますとそれなりの影響が出るわけですね。その一つが例えば環境問題というようなことに出てきたのだと思いますけれども、そういうことがありますので、私はやっぱり基本的には、できることなら、人間が生物であるということをやめない限り、生き物というものをうまく使ってその中で生きていく技術というのがむしろ基本だろうと思うのです。 ところが、それでは例えば蚕を飼って絹をつくるのではなかなか間に合わない、みんなが透き通った靴下をはきたいというときには足りないとなると、やはりナイロンというものが大事なわけ ですけれども、もし、生物系の中で十分に供給ができる、そういう系がうまくできるならば、やはり生物系というのは十分利用すべきだと。そこで、今までその生物の、何と言うのでしょうか、限界があったので生物系から逃げていたわけですけれども、むしろそうではなくて、仕組みがわかって今のような新しい技術が出てきたので、もう一度生物系を見直して新しい技術を取り入れて、生物としての人間としてその生物系の中でうまく生きていこうと、そういう意味では、このバイオテクノロジーというものを新しく使っていくということは大きな意味があるのではないかと、私自身はそう思っております。そういう意味ですから、このバイオテクノロジーで急に新しいことをやるというよりは、今まで私たちが求めてきたものをそれなりに上手につくっていくということにまずこのバイオテクノロジーを使うことになるのだろうと思いますし、現実できることはそういうことが多いと思います。 それで二番目の、それではバイオテクノロジーが現実的に今何ができるのかということに入りたいと思うのですけれども、まず第一には、結局、今申し上げましたように、生物をうまく利用していくのですが、ある意味ではそれの効率化を図っていこうというわけですね。 その第一としまして、先ほどのインシュリンという人間しかつくれない人間用のホルモンを大腸菌というものでつくらせるというお話をしましたように、従来、もしとれるとしても微量しかとれないとか、例えば人間しかつくらないからとることができないとか、そういうものを大量に生産するという方法が一つ生まれたと思うのですね。それは主として医薬品それから食品の材料、例えばアミノ酸とかそういうような食品の材料とか、そういうものになると思いますけれども、そういう主として医薬品、今申し上げたインシュリンとか、このごろ話題になっておりますのでお聞きになったと思いますけれども、インターフェロンという、これは私どもが外からものが入ってきたときに自分を防御するために体がつくっておりますものですけれども、そういうものをむしろ外でつくらせて体の防御のために使おうとか、それからワクチンというのがありますが、いろいろな病気の、今話題になっておりますのでは肝炎というのがありますが、例えば肝炎のワクチンというのは今までなかなかつくれなかったのですが、これを酵母とかそういう微生物でつくらせるとか、そういうなかなか今までつくれなかったものを新しい遺伝子を動かすという方法でつくらせるということが第一にあると思うのです。それは現実にもう、主としてこれはアメリカが中心ですが、具体的に技術は確立しまして、製品化、商品化、産業化というところまでいっている技術になっています。 それから二番目が、生物利用の効率化ということでは、先ほど申し上げた食べ物、着る物という、今まで使ってきたものになるわけですけれども、ですから産業で言いますと主として農業という部分になると思いますが、農業での品種改良ということになると思うのですけれども、それに具体的に今使われ始めております。その品種改良の中で使われている技術としては、今申し上げた遺伝子組みかえというのは、研究は一生懸命進められておりますけれども、現実にこういうものができたという具体的なものはできておりませんが、具体的に既にでき上がっているものでお話ししますと、一つは細胞融合、先ほど申し上げました二つの性質を持った細胞を合わせて、そしてその両方のいい性質を取り入れていくというやり方では、既にこれは品種改良に使われています。 この一つの例として、これはまだ具体的になってはいないのですけれども、一番トピックス的に言われましたのでは、ポマトというのがありまして、トマトとポテトの細胞同士を合わせて、そうしましたらば、合わせた細胞から一つの植物体ができてきた。それでこれをポマトと呼んだわけですけれども、これは最初は、上にトマトがなって、下にジャガイモがなるのじゃないかというようなことが言われましたけれども、そうは問屋が卸しませんけれども、この場合に、このポマトという植物が、細胞融合でできた新しい植物がどういう意味があるかと申しますと、例えばジャガイモとトマトの木同士では一緒にかけ合わせをして何か性質を合わせるということはできないわけですけれども、今度、ポマトとポテト、ポマトとトマトですと、これはお互いに近縁関係がありますので、そこからお互いの性質を入れ合うことができるわけですね。 そうしますと、例えばジャガイモというのは寒いところでできますので、多分これは、どこにどういう性質が入っているのかはまだ解明されていませんけれども、とにかくその細胞の中には寒さに耐える耐寒性という性質があるに違いないわけです。そうしますと、そのポマトの中にもジャガイモから耐寒性を手に入れたものがあるに違いない。そうしますと、それとトマトとを合わせますと寒いところでもできるトマトというのができるのじゃないか。そうすると、これは極端な話ですが、シベリアでできるトマトというのが将来できればいいということになるわけですね。そこまでいかなくても、寒いところでもできるトマトというのができれば、寒いところというのは野菜不足なわけですから、そういうところでとれるトマトができる。今度は逆に、暖かいところでできるジャガイモというのもできる可能性はあるわけですね。そんな形で、今までできなかったような品種改良が今試みられるようになっています。またこれは現実の植物としては出てきておりませんけれども。 それから、現実の植物としてもう出てきておりますのは、例えば体細胞培養といいまして一これはヤマユリという、これは神奈川県の県花になっておりますけれども、あのきれいなユリですけれども、このユリの場合にはなかなかふえないで、だんだん少なくなりつつあったのですが、これをユリの体の細胞——植物というのは一つ一つの細胞が、これは皆さん挿し木とか挿し弁とかでもって植物が出てくるので御承知のように、私どもは残念ながら手を挿しておいて何かが出てくるということはありませんけれども、植物の場合には体の細胞から個体が出てくるという能力がありますので、その能力をうまく使いまして、体の細胞をばらばらにして、その一つ一つからユリをつくり出すという技術を開発しました。この場合ですと、一つの球根から理論的には三兆もの植物体がつくり得るという、一つ一つの細胞を全部ばらばらにして一つ一つの個体にできるわけですから、計算でいきますとそのぐらいできる。ですから、ヤマユリがだんだん絶えていきそうなのを救うことができるという、そういう技術になるわけです。 それから動物でいいますと、胚移植といいまして、卵はおなかの中で二つ、四つと分かれていきますが、例えば、四つに分かれた時点でその四つをばらばらにしますと、その一つ一つからまた赤ちゃんが産まれますので、優秀な年とか豚とか、主として羊、牛などで今やられておりますけれども、そういうように分かれたものを入れますと一つの卵から四つできます。この場合の利点としまして、一つは、例えば四つに分かれましたその一つについて、これは雄か雌かということを調べますと、例えば乳牛なんかの場合ですと雌を育てたいわけですが、そうしますと、雄とわかった卵だけを入れるというようなことをすると雌だけが育てられるとか、そういうようなことで胚移植などという新しい技術もあります。これはやはりそういう雌とか雄とかいうこともすべて遺伝子で決まっておりますので、そういう遺伝的な性質を使った技術ですけれども、そんなことでいわゆる農業関係の品種改良というのが非常に大きな分野になると思うのです。 それからその次には、先ほど私は、本来生物で今までやってきたことがだんだん、生物でない工学的なというのでしょうか機械的なというのでしょうか、そういう技術になっていったと申し上げたのですけれども、例えば繊維にしましても、今は石油から出発していわゆる化学的な反応で合成繊維をつくるということがやられているわけで すわ。それはそれで非常に大事な技術だと思うのですけれども、そういう分野にも、例えば材料としまして、石油ではなくて、バイオマスと申しますけれども、いわゆる天然のいろいろな植物、そういうものを材料にして、そして生物を利用した化学製品をつくるというようなことも将来は考えられるのではないかというふうに思います。ただし、現実の問題としては産業になるまでに——これは経済的な問題、ほかの技術との比較、どちらが効率的にしかも安く、それからいろいろなエネルギーとかそういうことから考えてもよい技術であるかという比較の問題ですので、現在のところではまだそういう分野に生物の技術が入り込むところまでは行っておりませんけれども、基礎研究はアメリカなどを中心にしてやられておりますし、将来はそういうことも起こるのではないかというように思います。 それから、コンピューターというような全く生物とは関係ないような分野も、今コンピューターがだんだん素子が小さくなっておりますね。LSI、超LSIというふうにどんどん小さくなっております。これはコンピューターの方に伺いますと、この割合でどんどん小さくなりますと、二〇〇〇年にはこれはどうしても素子が分子のところまでいかないと今発達している線の上には乗らないのだそうです。別に私は何もこの発達している線の上に乗せなければならないかどうかという疑問もありますけれども、技術の方としては次は分子をねらわなければならないという意識がおありになる。そういう目で見ますと、生物というのは、脳にしましても今の遺伝子にしましても、そういう情報というものをうまく動かしている一つの機械であったり工場であったりするわけですから、そういう生物がやっている情報処理を勉強してコンピューターに生かそうという、こういう動きももう既に出ております。これはバイオコンピューターなどという言葉で言われていますけれども、そういう意味で、そういうところへの導入も今後はあると思いますが、これはまだ現実的な問題ではありません。先ほど申し上げた医薬品をつくるとか、従来とれなかった微量なものを大量につくる技術、それから生物を改良していく技術、そういうところは現在現実的な問題だというふうに思います。 それが大体の現状なんですけれども、次にそれでは、そういう分野で今現実に世界の中ではどんな動きが行われていて、日本はその中でどんな位置づけにあるのかということを申し上げようと思います。 これまでお話ししてきましたように、バイオテクノロジーと申しますのは、一九七三年に開発されました技術がきっかけになって起こってきたという非常に新しい技術なわけですね。しかも、生物をうまく使っていくということですので、むしろ生物の基礎研究というのが非常に大事な分野です。それなしては、今の例えば情報の分野などですと、基礎的なところというのはある意味ではでき上がっていて、それをいかにうまく使っていくかというところが割合大事な分野になっていると思うのですけれども、生物の場合は、実はまだ基礎のところがこれから解明されていくことがたくさんたくさんある。それがわかればさらに分野が広がるだろうというところですので、基礎研究が非常に大事ですし、応用をするにいたしましても、基礎と応用とが非常に密接につながっている分野だと思います。 それで、基礎研究がどうなっているかということが非常に大事なんですけれども、この分野の基礎研究というのは、世界の中での日本を見ますと、やはりこれはアメリカが何と申しましても群を抜いてという言葉を使っていいと思うくらい進んでおりますし、その後、欧州のイギリス、ドイツ、フランス、そのあたりがやはり基礎研究を大変熱心にやっておりますし伝統がありますけれども、日本はほとんどそれと同じレベルで、かなりこの基礎研究分野では世界にも大きな貢献をしております。 それから、それではそれを今応用研究に持っていく分野はどうかといいますと、これまた実はアメリカがトップを走っております。 基礎研究を応用研究にする場合に何が大事かと申しますと、一つは、先ほど申しましたように、これは生物の新しい技術には違いないのですけれども、実は遺伝子を入れた微生物を育てるというようなことになりますと、これは昔おみそをつくったり、そういう時代に微生物を育てていたのと基本的には同じような技術になるわけですから、従来これまでにそういう技術をどのぐらい持っていたかということが一つ大事になります。そういう意味では、皆さん御承知のように、醸造技術、発酵技術というのは日本は非常によいものを持っていますので、その既存の技術、それから農業の品種改良などというものでも日本は非常にいい技術を持っていますので、その既存の技術につなげていくという意味では、日本は大変にポテンシャルの高い国だというふうに言っていいと思います。これは世界の中でもそういうふうに見られているように思います。 それからもう一つは、そういう技術の面ではなくて、ある意味では社会の体制といいますか、その国の物のやり方といいますか、そういうことになると思いますけれども、開発研究をどういうふうにしていくか、どうチャレンジしていくかということなのですが、生物技術の場合、バイオテクノロジーの場合は、実はアメリカでは一九七五年ぐらいからいわゆる小さなベンチャービジネスというのがどんどんできてきまして、そこが新しい技術を開発してきました。そのベンチャービジネスというのは、そこで実際に働いた人、頭になった人はどういう人かといいますと、これはもうほとんどの方がアメリカの大学の先生で、そういう大学の先生とそれからそういう新しい会社をつくって開発していこうという人との組み合わせで小さなベンチャービジネスがたくさんできまして、そこが新しい技術を開発していきました。現在はベンチャービジネスで開発されたものが実はだんだん大企業の方へ移っておりまして、ベンチャービジネスの淘汰というのが起こっているのがアメリカの現状なんですけれども、やはり基本的にはそういうものをつくったということは大きかったと思いますし、これは今の応用研究の分野でもやはり今アメリカが先頭を走っている、そういう状態をつくっている一つのアメリカ社会の、ベンチャーをつくってチャレンジをするという、そういう体質によっているように思います。 日本の場合は、むしろそういう小さなベンチャーができるというよりは、大きな会社が会社の中で、むしろある意味ではベンチャー的に、実は今まで生物はやってなかったのだけれども一部分そういうところをつくってみようということで、会社の中に小さな言ってみればベンチャー的な形でそのグループをつくって取り組んだということを日本はいたしました。そういう意味では、外から見ますとアメリカのような派手なベンチャービジネスはないのですけれども、各会社の中にそういう小さなグループができて、新しいことに取り組んでいるというふうには言えると思うのです。 それから、国とか企業とか社会とか、そういうものがこういうものにどういう関心を持っているかということも、この技術をどう育てていくかということに結びつくと思うのですけれども、国という面では、日本はやはりいろいろな、通産省、農林省、科学技術庁、文部省、厚生省、あらゆる分野がそれぞれの、通産省はそういうバイオインダストリーというお部屋をつくってなさいましたし、それから厚生省は医療の分野でライフサイエンス室というお部屋をつくって医療の分野でこういうものを育てていこうとしていらっしゃいますし、それから農林省もやはりライフサイエンス室というところをつくって、先ほど申し上げました農業の分野というのは非常に大事ですので、そういうものを育てていこう、それから科学技術庁は、むしろそういう先導的な基盤技術を育てていくという意味で新しいプロジェクトをどんどんつくっていく、それから文部省はバイオサイエンスというふうに言っておりますけれども、大学などを有機 的につなぎ合わせでこういう分野を育てていこうと、そういうふうに各省庁が割合熱心にこういうことを進めていらっしゃるというふうに思います。 ただし、その場合に、これは後で問題点のところで少し勝手な意見として申し上げさしていただきたいと思いますけれども、もう少し有機的な連携があればいいなというふうには思いますが、各省庁での関心は非常に高いと思います。それから企業の関心も大変に高いように思います。 そんな形で、余り時間がございませんので細かいことは抜かさしていただきますけれども、世界の中での日本の位置づけということを考えますと、バイオという分野ではかなり日本は熱心な国というふうに位置づけられますし、成果も上がっている国というふうに位置づけていいのではないかというふうに思います。 それで最後に、それではこういうバイオテクノロジーというものの持っている問題点とか、それからこれを上手に育てていくためにはどうしたらいいかというようなことを、本当に思いついたままというような形になってしまいますけれども、私なりに思っていることを申し上げたいと思います。 まず第一は、今科学技術というものが非常に大事だと言われていますし、私もバイオテクノロジーというのはそういう科学技術の一つとして育てていく必要があるというふうには思っていますけれども、考えてみますと、科学技術というのは何のためにあるのかと言えば、やはり私たちの生活が本当に人間らしい望ましい生活になるためにあるのだということがまず前提だと思うのですね。そのために使われなければ何の意味もないわけで、まず今私たちは、やはり科学技術が大事だ、科学技術立国だ、科学技術を育てていこう、バイオテクノロジーはなかなかいい技術だということは言っても、一体私たちがねらっている、そういうものを使ってつくろうとしている未来の社会は一体どういうものなんだろうということが、何かまだぼんやりしているような気がいたします。むしろ私は、私たちがこれから求めている社会とは一体何なのかということをきちっと議論して、その中で使っていくということが明確になれば、私はバイオテクノロジーは大変役に立つ技術になるだろうというふうに思いますので、まずそういうことをどうしても考えなければならないと思います。 それで、実はバイオテクノロジーということが出てまいります前に、日本ではライフサイエンスという言葉が言われまして、ある提唱があったわけですが、それは、実はその以前の例えば環境問題とかいろいろな問題を踏まえて、バイオテクノロジーを含めた、生物にもう一度目を向けましょうという提唱だったのですが、そのときになぜライフサイエンスと申したかと申しますと、ライフという意味は、御承知のように命というような意味がございますし、それから生活という意味がありますし、それから一生というような意味があります。それでライフサイエンスというのは、とにかく命というものを大事にする。それからむしろ私たちの生活ということを基本に考えていく。それから一生と申しますのは、これはもう御承知のように、これからは高齢化社会だというふうに言われていますし、それから今子供の問題も教育問題、いろいろな問題が出ておりますけれども、やはり人間というのは赤ちゃんのときから、子供は子供としてどう生きたらいいのかとか、それからこれから高齢化社会になりますと、そういう老人、年とったときの人間の生きがいというのは一体何なのかというようなことは非常に大事になると思いますので、やはり人間の問題を考えますにも長い一生という目で物を見なければいけないのじゃないか。医療の問題にしましても教育の問題にしましてもそういうことがあると思うのですけれども、そういう命とか生活とか一生とかということの思いを込めてライフサイエンスという言葉を提唱したわけですけれども、一九七〇年ごろにそういう提唱があったわけですけれども、その理念というのでしょうか、そういうものを基盤にしてそのバイオテクノロジーをそういうために使っていくという、そういうことが大事だと思います。 それで、特にこういう問題考えますときに、やはり一つは非常に個人的な、生命とか生活とか一生とかいうことですから、これは非常に個人的な問題であると同時に、人類の未来の問題であるわけですね。それから地球全体、生態系ですとか地球がこれからどうなっていくのかとか、エネルギー問題とか食糧問題とか人口問題とか、地球全体の問題であるわけです。非常に個人的であると同時に非常に大きな問題だという、それを両方抱え込んだ一つの問題として生物というものがあるように思いますので、そういうライフとかバイオとかというのはそういう意味づけをして考えたいと思う。そういう中でのバイオテクノロジーとして考える、そういう場をつくって私どもみんなで考えていった上で使わなければいけないという問題があると思います。 それから二番目に、そういう中で使っていくときに、私は在来バイオテクノロジーと新規バイオテクノロジーというような言葉を使わせていただきましたけれども、実は私どもは新しいバイオテクノロジーを使っていくときに、やはり最後には農業、お米をつくるとか、トマトをつくるとか、ジャガイモをつくるとか、蚕を育てるとか、いろいろな今までやってきた知恵、既存の、在来のバイオテクノロジー、生物を使う知恵にうまくつなげなければこれは何の意味もないわけですし、実際には使えないわけです。ですから、既存のそういう技術、今まで私どもが蓄積してきた知恵をもう一度掘り起こしてそういうものと上手につなげていく、そういう努力がこれから非常に大事になっていくだろうというふうに思います。 それから三番目には、今バイオテクノロジーということで新しいものができてきたと申し上げたのですけれども、先ほども申しましたように、これは大変新しい分野です。ということは、まだわかっていないことがたくさんあるということです。しかも、生物というのは研究すればするほどこれは大変におもしろしいし、よくできているし、魅力的なものですけれども、わからないところがたくさんあるなかなか複雑なものですので、私どもが今生物について知っていることというのは、生物が持っているいろいろなその機能の中のほんの一部でしかないわけですね。ですから、本当にバイオテクノロジーを育てていこうといたら、その生物のことをもっともっと学ぶということが非常に大事だと思います。それは生物学の基礎研究でありますし、それから一方ではもっと大きな意味での、心理学とか社会学とか、もっと大きな意味での文化人類学ですとか、いろいろなそういう生物を丸のまま眺めるような学問、そういうものも含めて生物のことをもっともっと知るということが非常に大事で、例えばバイオテクノロジーということですぐに応用に結びつくようなところにだけお金が行くのではなくて、現実にはそういう基礎研究のところが非常に大事で、その基礎研究も、単にテクノロジーにつながる基礎研究ではなくて、今申し上げたような広い意味での基礎研究が大事だというふうに思います。 それから、先ほど国際社会の中での日本の位置づけというのを申し上げたのですけれども、実は今このバイオテクノロジーというようなものを中心にして外国から日本に協力をしましょうとかいろいろなお話があったり、一方では日本は発酵技術が非常に強いからあそこは危ないぞというような警戒心があったり、いろいろな微妙な対応がございます。これは今いろいろな意味で国際社会、これからもちろん国際社会の中で生きなければならないわけですけれども、その中で今のいろいろな貿易摩擦ですとか、科学技術の中でもいろいろな問題が起きているわけですけれども、それと同じことがやはりバイオテクノロジーの中にもあると思います。しかも、バイオテクノロジーの場合には、これは生物とか生命とかというものを考える基本は非常に文化的なものですので、それぞれの国によって生命観とか自然観とかが違うという ようなこともございます。そういう技術の面での協力とか競争とかいう面、それからお互いの生命観、自然観が違ったり共通点があったりするという、そういう両方の面で国際社会の中で日本がどういうふうに進めていくかということは非常に大事なことだと思いますので、そういう意識も持っていかなければいけないのではないかと思っています。 バイオテクノロジーと申しますのは、例えば原子力とか宇宙とかいうのと比べまして、今までの話でわかっていただけたと思うのですけれども、非常に生活的な泥臭い部分に密着した、しかも非常に広範囲にわたっている、人間というものに非常に身近なものですので、これは実は社会の方たちみんながこれをどう考えるかということが一番大事な分野になるわけです。そういう意味で、きょうはちょっと時間がございませんので御報告いたしませんが、私どもは日本の社会の中でこれがどう受けとめられているかというような調査もいたしましたけれども、そこからもいろんな問題点が出てまいりました。そういう日常感覚の中でこの技術をどうみんなが受けとめて、どう育てていきたいか、それは最初に申し上げた未来社会をどう考えるかということと結びつくと思うのですけれども、そういう議論、専門家の中だけではない議論、そういうものも割合大事な分野ではないかというふうに思っています。 それから、その広いという意味で、これは国ということでお願いしますと、先ほど申し上げた例えば省庁というようなものでも、これは別にそれぞれ特徴がありますから、厚生省、農林省それぞれのところの特徴をお生かしになっていらっしゃることも非常に大事だと思うのですけれども、一面お互いに連携して大きな目でこれを、何というのでしょうか、トータルに見ていく、そういうことも非常に大事だと思うので、既存のそういう中で上手にやっていただけるとありがたいというふうに日ごろいろいろな場面で思っております。 まだ幾つかございますけれども、時間がなくなってしまいましたので、思いつくままにという感じで余りまとまりのない問題点の挙げ方でしたけれども、そんなところが幾つかあるのではないかというふうに思っています。 どうもありがとうございました。(拍手)
○委員長(高木健太郎君) どうもありがとうございました。 それではこれより懇談に入ります。 速記をとめてください。 〔午前十時五十四分速記中止〕 〔午前十一時二十九分速記開始〕
○委員長(高木健太郎君) 速記を起こしてください。 他に御発言もなければ、懇談をこれで終えることにいたしたいと存じます。 この際、中村参考人に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は長時間にわたり当委員会のために貴重な御意見をお聞かせくださいまして、まことにありがとうございました。委員一同を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。 本日はこれにて散会いたします。 午前十一時三十分散会