科学技術委員会 第4号
- 発言数
- 6 件
- 登壇者
- 2 名
- 会派数
- 1
- 開催日
- 1984/03/15
会議録
○大野委員長 これより会議を開きます。 原子力の開発利用とその安全確保に関する件、特に最近の原子力問題について調査を進めます。 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。 本件調査のため、本日、参考人として京都大学教授柴田俊一君の御出席を求め、意見を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○大野委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。 —————————————
○大野委員長 この際、柴田参考人に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は御多用中のところ本委員会に御出席くださいまして、まことにありがとうございます。 本日は、最近の原子力問題につきまして、忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。 なお、議事の順序についてでありますが、まず参考人に一時間程度御意見をお述べいただき、次いで懇談に入りたいと存じます。 それでは、柴田参考人にお願いいたします。
○柴田参考人 こういう席にお招きいただきまして、非常に光栄に存じております。ありがとうございます。 私は、戦後我が国が非常に貧乏であったとき、どうしても科学技術の振興以外に立ち直る道はないと考えまして、再開されました大学に入学いたしました。そして、大学院生のころから原子力を意識いたしまして、大体昭和三十年ごろから原子炉の勉強を始めました。また、当時は原子力研究が解禁されていない時代でございまして、まだ単に本の土とかあるいは理論的な計算をするというふうなことだけでございました。ただ私自身は、生まれもそれから生活環境から申しましても非常に貧乏性でございまして質素な生活になれておりますので、私自身はそれほど、生活水準を向上するとかそんなことは余り興味はございませんでした。ただ、日本は非常に貧乏で、アメリカなどと比べますと一けたもいろんなレベルが違う、これは何としてでももっと向上させなければいけない。そうなりますと恐らく原子力をやらなければいけないようになるのではないか。もしそういうふうにやらなければいけないといたしますと、人にやっていただくよりは自分が研究した方が安心だ。安心という意味は、実はこれはいろいろな意味があるわけですけれども、もちろん安全性も含まれておりますし、それから、悪い方向に流れていかないようにする、そういうふうな指導性を発揮するためには自分が最先端でやる方が安心だというふうに考えたわけでございます。 昭和三十六年に京都大学へ移りまして、当時計画されておりました研究用原子炉の設計と建設を担当いたしました。この原子炉は現在も動いておりますが、昭和三十九年に完成いたしました。その後二十年間比較的順調に動いておりまして、自慢になりますけれども、日本の研究用原子炉では一回も大きなトラブルを起こしたことのない原子炉として評価をいただいております。 その研究用原子炉は、実は原子炉を使う方向の研究には有益でございましたけれども、いわゆる原子炉そのものを研究するということになりますと、もうこれは既製品のかっちりした塊でございますので、いろいろとそれをいじって調べるといったようなことは余りできません。もちろん、後ほど申し上げますようにいろんな経験を積んで、それに基づく勉強はさせていただきましたが、やはり原子炉を本格的に研究するためには、どうしても炉心の研究、つまり燃料と減速材を適当に組み合わせて、そうして適当な大きさにいたしますと、これが連鎖反応を起こし始めます。そういう連鎖反応を起こすいろいろな性質をできるだけ詳しく調べる。これは新しい原子炉をつくるときにはどうしても必要な研究でございますが、日本の原子炉というのは大体において輸入品でございまして、でき上がったものを買うものですから、そういった一番もとになる研究というのは実はほとんどなかったわけです。そのために、約十年後つまり昭和四十九年に、その研究のための臨界実験装置というのを設計し、また建設させていただきました。したがって、これも原子炉の範疇に入りますので、私は二つ原子炉を設計して建設させていただきました。 実は、現在、より高性能の研究炉の二号炉を設計してございますが、これは地元と今交渉中でございまして、建設が非常におくれております。これは残念でありますけれども、しかし今まで二つの原子炉についてお守りをしながら、いろんな研究をさせていただいております。法律的にも原子炉主任技術者の資格を取りまして、長年原子炉主任技術者としての務めも果たしてまいりました。 研究用原子炉は、現在出力は五千キロワットで運転しておりますが、この出力というのは動力炉あるいは発電用原子炉に比べますと非常に小さいわけでございます。最近の発電用原子炉ですと、熱出力、私どもの出力というのは熱出力でございますが、三百万キロワットにも達するものでありますので、それに比べますと数百分の一ということになりますが、ただ単位体積当たりの、つまり例えば一リットルといった単位体積当たりの出力の密度というのはほぼ動力炉並みでございまして、そのために、原子炉で起こります特有の現象というのは、実は動力炉並みにいろんなことが起こるわけでございます。したがいまして、そういうふうなことに関連する数々の貴重な経験をさせていただきました。 こういうような経験をもとにいたしまして、きょうは、原子力に関連いたしますいろいろな問題についてお話をいたしたいというふうに考えます。 実は、私のような原子炉経験を持つ大学人、研究者というのは我が国ではほかにはおりませんので、そういう意味では非常に癖がありまして、偏った意見を申し上げることになるかと思いますが、しかしそれは数だけの問題でありまして、私個人としては、私のような行き方というのはある意味では正しい道であったというふうに自信を持って考えております。 それで、大学における原子力研究の意義ということでございますけれども、先ほども関連して少し申し上げましたが、世上、原子力に対しては賛成とか反対とかいうふうなことがいろいろ行われております。これは大学では、そういう賛成とか反対ということを初めから自分で決めてそれで研究を始めるというようなことではなくて、むしろ社会全体が賛成あるいは反対といったようなことを正しく判断できるような資料を自分の研究によって提供する、そういうのが任務であろうかというふうに考えております。 しかし、そうは申しましても、先ほども申し上げましたように資源のない国でありますので、平和的に生存を続けるためにはいろんな工夫をしなければいけません。これは先ほど科学技術の振興という言葉で申し上げましたが、エネルギー問題にいたしましても、やはり頭を使っていろんな手段を考えるということが必要かと思います。石油とか石炭との比較、そのほかいろいろ行われますけれども、そういった割合使いやすい燃料を金に任せて取り合いするというようなことでは、やはり平和的な生存というのはいろいろと危機をもたらすというふうに考えます。 それで、あえて申しますならば、そういう使いやすい燃料はできれば開発途上国、比較的技術がまだ進歩していない国の人々に渡して、技術的に能力の高い国はできるだけ勉強をして、そういう難しいエネルギー源を使って、易しいエネルギー源を取り合うことを避けるということが必要ではないかとかねがね考えております。そういう意味で、原子力の開発利用というのは非常に重要な意味がある。原子力をやりますと戦争につながるという議論もありますけれども、私は、むしろ戦争を避ける意味でそういう新しい分野を切り開く必要があるというふうに考えておるわけであります。 それから、大学の基礎研究というものは、本来は前人未到の分野を切り開いて新しい結果を人類社会に提供する、それが本来の使命であったというふうに考えますが、実は原子力でも、そういう意味では手を汚していろいろ基礎データをとっていくといったような研究こそが重要であります。そして、そういうふうにすることが実は自主技術の基本であるというふうに考えるわけでありますが、現実にはなかなかそうはいきませんで、いろんな議論は、ほとんどすべてが外国の知識であるとかデータ、つまり借り物の知識とかデータで議論が行われるという傾向が非常に強いわけであります。そういった外国の知識とかデータ、つまり本とか論文とかいう形で提供される知識とかデータでは、非常に微妙な現象というふうなものがはっきりあらわれてまいりませんので、本当の意味での判断と申しますか理解というのはとても難しい。やはり自分でみずから体得した知識と申しますか、そういうものこそが大事であるというふうに考えます。現在いろいろ原子力に関して混乱した議論がありますが、これはやはり借り物の知識とかデータで議論しているために起こるものではないかというふうに私は考えております。 さて、具体的な研究に入りまして原子力の研究を行う場合、ずっと昔から、原子炉を使うかあるいは加速器を使うかという議論がございました。現在でもございます。我が国では最初、加速器でもできる、でもできるという、そういうふうな意見がありまして、そういうことがだんだん拡大されるといいますか強まってまいりまして、加速器の方がよろしいというふうなところまで議論が移ってきつつあります。こういうことから、研究炉を強力に進めようという人がなかなかあらわれてこないわけでありまして、先ほど申しましたようになかなかそういう経験者が出てこないというのは、そこにも一つの原因があるわけであります。 加速器と申しますのは、実は私も昭和三十年代の前半、加速器でいろいろ研究をしておりましたが、これはやはりごく基礎的な段階、非常に基礎のデータ、基礎の基礎といいますか、そういう実験に対してはぜひ必要でございまして、それを否定するということはこれはもう間違いでありますけれども、原子炉というのは、そういったいろいろな基礎データが組み合わさって、これがまた総合的に作動いたしますと、非常に微妙な複雑な現象が起こってまいります。ですから、原子炉とか原子力を全体として研究するためには、原子炉に上るいろいろな体験、経験というのが極めて重要になるわけであります。言うなればそういう両方相補うといいますか、両方があって初めて完全な形になるというふうに申せるかと思います。 実は、そういうような事情で、本格的な研究用原子炉、本格的なという言葉は、適当な大きさの出力で、先ほども申し上げましたが、動力炉並みの原子炉の経験ができるとか、あるいはそこから出てまいります中性子を使っていろいろな研究をするためにある程度の強度がないといけませんので、そういう意味での本格的でありますが、そういう研究炉というのは、国立大学では、私どもの京都大学原子炉実験所の研究炉しかありません。ほかに国立大学でありますのは、東京大学の高速中性子源炉、二キロワットのものだけであります。あとは私立大学に三つほど小さな原子炉がありますが、そういうごくわずかの研究用原子炉でいろいろな研究が進んでおる。もちろん原子力研究所にはそれ以外にも幾つかのものがありますけれども、本来の大学の基礎研究のためには先ほど申し上げたものだけであります。それにもう一つ、先ほども述べましたように臨界実験装置というのが加わるわけであります。 それで先進諸国では、実は原子力の開発研究というのは、特に原子炉について申しますと、最初、臨界状態つまり連鎖反応がどういうふうに起こるか、その起こした後炉心がどういう特性を示すかという、そういう研究を臨界実験装置で行いまして、その結果に基づいて研究用原子炉をつくるあるいは試験用の原子炉をつくりまして、それで適当な期間運転をしていろいろな経験をする。これは非常に複雑な、また奇妙な現象がいろいろ起こりますので、そういうふうな研究の結果から大きな動力炉を設計する、そういうふうに臨界実験装置、研究炉それから大型炉というふうな道筋を進んできているというのが普通であります。ところが日本では、全く逆と申しますと語弊がありますけれども研究炉の小さなのから始まった。しかし、その研究の経験というのはほとんどその次のいわゆる大型動力炉には生かされませんで、大型動力炉はいきなり外国から輸入するという形で導入されました。そういうことから、要するに非常に弱い体質になってしまって、いろいろな問題が起こっているというふうに申すことができるかと思います。 それで、研究用原子炉のことでございますけれども、研究用原子炉で実際にどんなことをやっているかという少し具体的なことをこの際お話しいたしまして、もう少し理解を深めていただきたいと思いますが、これは、今申しました原子力とかあるいは原子炉に関する基礎研究ということだけではございませんで、自然科学のというよりも人文科学つまり考古学などを含めたいろいろな非常に広い範囲の基礎研究に大きな貢献をしております。その幾つかを若干時間をいただいて御説明したいと思います。 まず第一は、原子炉ですので連鎖反応を起こしていろいろ働いておりますと、これは連鎖反応の仲介をするのは中性子という粒子でございますが、きっかけになる中性子が炉心に飛び込んでまいりますと、これは天然の中性子でもあるいは実際にアイソトープから発生する中性子でもよろしいわけですけれども、その中性子がウランに入りますとウランが分裂いたします。これはウランの中でもウラン235というものですけれども、そのウラン235が分裂いたしますと、そこで大体二個半ぐらいの数でまた中性子が出てまいります。その二個半出てきた中性子が、その中性子は非常にスピードが速い、非常に高速でありますので、そのままですと、その周りの原子核につかまらないですぐ飛び出してしまう。したがって、これを水とかあるいは黒鉛とかいったような減速材に当てましてスピードを落とす。その落とした中性子がその辺をうろついてまた次のウラン235に入る。ウラン湖に入りますとまた分裂を起こす。そういうふうにして連鎖反応が続いていくわけでありますけれども、一つ分裂を起こして二・五倍にもなると、本当は非常に速いスピードで、非常な速さで出力が上がっていくわけですが、これはやはりロスがありまして、分裂をしない物質に吸収される中性子もありますし、外へ逃げてしまうのもある。外へ逃げてしまうものはだんだん炉心を大きくしていけばまたつかまるわけですけれども、余計なものに吸収された中性子は全くの損失になるわけです。そういった損失を差し引きますと、その二個半のうちの一個半が損失になりまして、辛うじて一個が生き残る。そして、次のウランにまた衝突して吸収されてそこで分裂を起こす。 この一個からスタートしてちょうど一個に戻る状態を連鎖反応と言うわけですけれども、今の過程で申し上げましたように、そういう連鎖反応の仲介をするのが中性子でございまして、中性子というのは電気を持たない素粒子の一つでありますが、これは電気を持ちませんために物質の中などを非常に自由にすり抜けていく。原子核という非常に小さな粒にぽんと当たればそこでまたいろいろな反応を起こしますけれども、これは相当な数飛ばないと、つまり星空の里みたいな感じで点々とあるわけですから、なかなか反応を起こしにくい。逆に言いますと、普通の場合ですとなかなか反応を起こさない。減速してスピードを下げるとその辺をうろついて吸収される。そういうふうな状態になるわけです。 さて、その連鎖反応を起こしております中性子というものは非常におもしろい性質を持っておりまして、なかなか吸収されにくいけれども、吸収されますとその物質、あるいは原子核と言った方が正確ですが、その原子核を放射化いたします。つまり、非常に安定な原子核が天然に存在しておりますけれども、そこに中性子が一つ余分に加わりますと、それがやや不安定になりまして放射能を持つわけです。私どもはそれを放射化と呼びますが、放射化されます。その放射化のされ方、つまり放射化されたそういう原子核が出す放射線というのは、実はその原子核の種類によってそれぞれ微妙に違います。エネルギーが違うし、あるいはその出てくる量が違う。量というのは要するに半減期ですね。時間とともにどれだけ出して減衰していくか。一個一個で見れば出すか出さないかだけの違いですけれども、これが集団になりますと、どのくらいの速さで次々出ていくかということ、そういう速さというのが問題になりまして、速く出すものは放射線は強いかわりに早くなくなってしまう。そういうふうないろいろな特徴がありまして、そういったようなことを利用していろいろな現象を研究しようというわけであります。 まず第一が、その中性子を使った放射化分析という研究であります。これは化学分析とかいうその分析でありますが、ある種のサンプル、試料を原子炉の中に入れますと、先ほど申し上げました連鎖反応の仲介をしております中性子がそのサンプルに途中で飛び込むわけです。それで連鎖反応の若干邪魔をする形になりますけれども、これは非常に微妙な、ちょっとぐらいのことですとそのまま連鎖反応、やや制御棒を引き抜くとかいうふうな操作で問題はありませんので、それでその中性子を吸い込むことができます。その中性子を吸い込んだサンプルは、先ほど申し上げましたようにいろいろな成分を持っておるわけです。特に微量に入っております不純物にも中性子が吸い込まれますと、これが放射能を持ちます。つまり、どういう元素を放射化するとどういう放射線を出すというようなことはあらかじめずっと研究が進んでおりますので、そういう試料を原子炉の中に入れて中性子を吸い込ませて、出してきてその放射線を非常に精密に測定いたしますと、いろいろな放射線がずっとあらわれてくるわけです。その放射線をあらかじめわかっております元素ごとの放射線と比較いたしますと、中の不純物が非常に精密にわかります。これは非常に感度がよくて、物によりますと化学分析の千倍とかそれ以上の感度で不純物を検出することができます。 そういうことで、例えば水の中の有毒物質をはかるとか、あるいは場合によっては環境試料の中にどれだけ何か公害物質が拡散していったかとかいったようなことが研究できますし、あるいは非常におもしろいのは、先ほども申し上げました考古学、人文科学系の考古学というのがありますが、それの鑑定を非常に科学的にできるということであります。具体的に申し上げますと、つまり発掘された考古学資料にちょっと中性子を吸い込ませます。そういたしましてその放射線をはかりますと、その成分は非常に精密にわかります。それを同じようなものをずっと調べますと、形は同じでもその成分というのは、産出したその材質の土地の特徴をそのままあらわしておりますので、焼き物でありますと、例えば中国地方で出たものが近畿地方へどういうふうに流れていったかというふうな、そういう分布が非常にはっきりわかるわけです。見た目はなかなかわからなくて、偉い先生がずっとにらんでこれはどこどこの産出であるというふうな、そういういわゆる勘に頼ることではなくて、今申しましたような非常に科学的な方法で物の流れがわかる。これは、ある意味では自然科学と人文科学との融合というか総合と申しますか、非常に新しい分野が最近開けつつあるわけであります。 そのほか、例えば病気になる人の細胞の中にはある特定の元素がたくさんあるのではないか、例えば虫歯になる人の歯は何か特別な元素が多いのではないかといったような、病理学と申しますか医学的な研究にも盛んに応用されております。そういう研究は最近始まったばかりでありますので、その顕著な結果というのはまだ非常に少ないわけですけれども、それでも例えば風土病などがございますが、それの原因追跡などでは相当な効果を上げております。 それからその次の研究は、やはり中性子を使う研究でありますけれども、中性子回折というのがございます。中性子回折と申しますのはエックス線回折、これはエックス線を使って物質の結晶の構造を調べる。規則正しく並んでおります原子からはね返ってくるエックス線がある角度によっては干渉を起こしまして、そしてその干渉の様子からその原子の間隔であるとか並び方をいろいろと調べる、そういうエックス線回折というのがございますが、それと同じように中性子というのは、これは量子力学の教えるところでは粒子の性質を持つと同時に波動、波の性質を持っておりますので、これが現実にその粒子を結晶面に当てて散乱反射させますと、ある方向ではずっと消えてしまったり、ある方向では強め合ったりいたします。まさに粒子性と波動性が目に見えるわけですが、そういう現象を使っていろんな研究ができます。 どういう特徴があるかと申しますと、エックス線は原子の周りを回っております電子で散乱されて、そして反射されて干渉を起こしますが、実は水素などは原子核が一つ真ん中にありまして周りに電子が一個しか回っておりません。したがって、エックス線は水素に対してはほとんど無力と申しますか、言い方をかえますと、水素はエックス線をはね返す力がほとんどありません。これは、例えば診断にエックス線を使いますが、人体は非常に厚くてもエックス線はすうすう抜けてしまう、それで骨がくっきりと出てくる。そういうことでもおわかりのように、水素の位置を調べるということでは非常に弱いわけであります。それに対して中性子というのは、これはちょうど水素の原子核とほぼ同じ質量、重さと言いかえてもよろしいかと思いますが、を持っております。したがって、そういうこともありまして水素にも非常に敏感に反応いたしましてその原子核から散乱されますために、水素もほかの原子と対等と申しますか、むしろよりよく散乱反射されるというような性質があるわけであります。 そこで、中性子を使いますと、今までエックス線ではすうすう抜けていてどこにおるかわからなかったのが、中性子が散乱されてまいりますので非常に正確にわかる。したがって、最近いろいろ問題になっておりますライフサイエンスの中でも、特にいろいろな生物試料の微細構造といったようなものは中性子でないとわからない。最近、研究用原子炉を使ってそういう水素の位置を追求するという研究が非常に盛んに行われておりまして、中性子散乱によって生物試料を研究する、これは実はほかの方法ではほとんどできませんので非常に特徴のある研究でありますが、それがだんだん盛んになりつつあります。 それからもう一つの特徴は、その中性子がいわば小さな磁石みたいなものでありますので、実体はなくても、例えば磁場によっても散乱される性質を持っております。したがって、ある物質が磁性を持っておりますと、それに中性子をばっと照射して散乱させますと、単に原子核からだけではなくて磁場そのものからも散乱される。したがって、普通のエックス線でその磁性体の回折された像を撮って、今度中性子でやりますと、波長をそろえてやりますと同じような回折像が出てくるわけですが、それと磁場で散乱された回折像がそれに重なるというかプラスして出てきます。したがって、その中性子で出てきた回折像からエックス線で出た回折像を差し引いてやりますと、その物質の磁場から出てくる、いわゆる磁気散乱と言っておりますけれども、磁場で散乱された像が非常にはっきり出てきます。そういうことから、その物質の磁性構造、磁性体としての構造を非常に明らかにするという研究ができるわけでありまして、こういう研究は中性子以外ではできないわけであります。そのほかいろいろな特徴がございますけれども、中性子回折というのはそういうことであります。 その次の研究は、中性子断面積を測定する。今も水素に対しては中性子は非常によく散乱されると申しましたが、そういったある原子核に対してどういうふうに反応するかというようなことは、これはその原子核特有の性質があります。同じ中性子といいましても、速い中性子と遅い中性子があって、遅い中性子は吸い込むけれども速い中性子は透過するとか、あるいはある特定の速さの中性子だけはよく吸い込むけれどもそれ以外はなかなか吸い込まないとか、そういった非常に複雑な性質を持っております。そういう反応の割合、反応の仕方のぐあいですけれども、それを我々専門では中性子断面積と呼んでおります。これは中性子の断面積ということではなくて、中性子に対する断面積、つまり中性子に向かってどれだけの反応する面積があるかというふうな意味で使うわけでありますが、これは実は原子力特に原子炉などの材料その他に使う場合の非常に重要な性質でありまして、中性子を非常によく吸収する材料でありますと、例えば高温に耐え腐食に強くというふうなすぐれた性質がありましても、余りにも中性子をよく吸い込むような材料でありますと、これは原子炉の材料としては使えません。 そういったような意味で、そのほかいろいろ微妙な場所に使う材料については、すべていわゆる中性子断面積というものをはかっておく必要がありますが、そういうものを測定するというのは、これは先ほども申し上げましたが、加速器による測定も当然必要でありますし盛んに行われておりますが、原子炉を使っても、あるエネルギー範囲でありますと、エネルギーといいますか速さの範囲の中性子でありますと、原子炉の方がうまくいく場合があります。そういう基礎研究というのは今でも盛んに行われておるわけであります。 それからもう一つの研究は、中性子ラジオグラフィーといいますか、これは先ほども医療のための診断のところで申し上げましたが、人体に対してエックス線を使って中の異常を検出する、それと同じように、ある工業製品などをエックス線を使って欠陥があるかどうかということを調べますが、鉄とかあるいはそのほかの金属材料でありますと、エックス線あるいは非常にエネルギーの高いガンマ線で透過して、その「す」、つまり鋳物の中に空洞のようなものができることを「す」と言いますけれども、そういうものを検出するのは非常に容易であります。ところが、例えばこれが先ほど申し上げました水素系の材料でありますと、これはエックス線では全くわかりません。 一例としては、例えばエンジンのシリンダーの中の潤滑油がどのように行き渡っておるかといったようなことについては、エックス線は全く無力でありまして、金属そのものの欠陥はわかりますけれども、そういう水素系のものは全くわからない。それに対して中性子は、そういった金属とそれから水素ということになりますと、どちらかというと水素に対しての方の反応が強いものですから、これを中性子で透過写真を撮りますと、潤滑油がどこまで回っているか、非常にはっきりとわかる。これを新しい設備を使いますと、運転中のシリンダーの中の潤滑油がどういうふうに動いているかということまでわかる。そんなような研究が進んでおりまして、既に研究ではありませんで実用の段階まで来ております。日本では比較的そういう研究炉による場がありませんので、あるメーカーでは外国まで出してそういう写真を撮るとか外国の研究炉に依頼していることも多いようでありますけれども、やはり産業のいろいろな意味でのレベルを向上するためにはそういうことも必要ではないかというふうに考えます。 最後に、もう一つ重要な点は、がんの治療に非常に著しい効果を上げている例があります。がんの治療には、先ほどから申しておりますようにいろいろな放射線照射が使われますが、一般の放射線というのは、がん細胞であろうと正常細胞であろうと全く差別なしに照射いたしまして、がん細胞もつぶすかわりに正常細胞もつぶす、そういうふうな傾向が強いわけであります。そこで、がんは消えても副作用で周りの異常が起こるということもありますし、むしろそのためにまたぐあいの悪いことになることも多いわけであります。それからもう一つは、例えば手術ができないような部位があります。また転移しかかっているのを見逃す、手術などで切除する場合でも、ちょっとそばの既に転移が起こっているのを見落とす心配があって、そこからまた再発する、そういったいろいろな問題があります。中性子を使うがん治療は、そういったいろいろなことに対して非常に特徴がありまして、原理は先ほどの中性子の照射を使うわけですが、現在既にかなり成功しておりますのは脳腫瘍であります。 脳腫瘍というのは、これは場所によりましては手術できない場所があります。つまり、メスを入れれば即座に生命にかかわるといったような部位があるそうでありまして、そういうものに対しては、非常に特殊な硼素の化合物、硼素というのは原子記号でBと書きますが、硼素の特殊な化合物、薬品を頸動脈から注射いたしまして、ある時間がたちますとこれががん細胞にかなり集中して吸収されます。つまり、そういうふうに非常に選択的に吸収される薬品を開発したわけでありますけれども、その薬品ががん細胞に選択的に吸収されたころを見計らって中性子を照射いたします。そういたしますと、その中性子というのは、先ほども申し上げましたように、普通のところは比較的反応を起こさないでするすると抜けていきまして、その硼素の化合物に到達したときに、その硼素の中でも硼素の10、ウラン235と同じような感じの硼素の10というのがありまして、これに中性子が吸収されますとそこで分裂を起こします。それでアルファ線を出します。 もう一つは、リシウムの7というのが出るわけですが、非常に重いその粒子線は、これは抵抗が非常に強いためにその付近をほんのわずか飛んですぐにとまってしまう。しかし、飛んだところは、その部分は完全にやっつけるということでありますので、前もってそのがん細胞に選択的に吸収させてありますから、そのかん細胞は完全にやっつける。しかも外の方には飛んでいかない。そういう非常に素人わかりのする、私ども原理的にもすぐれた方法だと思いますが、そういう方法で脳腫瘍の治療が現在がなり行われております。 現在日本では既に六十例に近く治療例があると思いますが、この方法で治療した患者さんは、普通の方法で治療した場合に比べて回復の度合いが非常にすぐれておる、ほぼ一〇〇%まで機能が回復するというふうにその研究の専門のお医者さんは言っておられますが、普通の放射線治療、エックス線を照射するとかそういったような方法ですと、よくて八〇%ぐらいしか回復しない。例えば手にけいれんが残るとか、少し不自由なところが残るとか、目が見えにくくなるとか、そういったいろいろな機能障害が残る。非常によくても八〇%ぐらいと言われておりますが、中性子治療でうまくいった場合は一〇〇%まで治ると言われております。原子炉では、運転いたしますと、批判される方は、わずかながらでも放射能を出す、ですからその放射能が周辺に対して全く影響がないとは言えないというふうな御批判をよくいただきますので、私個人としては、せめてそういうふうに原子炉でないとできない治療法でたとえわずかの人たちでも助けてあげたいというふうに考えておるわけであります。 こういったいろいろな研究、そのほかにも非常にたくさんの基礎研究が行われておりますが、そういう研究はともかくといたしまして、やはり全体として見た場合は、先ほど来たびたび申し上げておりますように、原子炉特有の特殊な現象というものがいっぱい起こりまして、そういうふうな経験というのは、これは私どもとしては何物にもかえがたい貴重なものというふうに感じております。 こういった経験をもとにいたしまして、例えば原子炉の安全性向上に関する基礎的な研究を行うことができますし、よく原子炉の安全性研究で大規模な研究が行われておりますが、あれは、いわば重病人に対する例えば手術の方法であるとか、もう相当末期的な状態になったときにどう処置するかといったような研究でありますけれども、私どもが考えておりますのは、研究炉の経験から、医学でいいますとむしろ予防医学的な、つまりそういうものを起こさないためにはどういうふうな努力が必要であるかとか、どういうふうにすればよろしいかといったようなことについて研究を進めることができるというふうに考えております。先ほど来問題になっております原子力船「むつ」なんかにつきましても、私は、こういったようないろんな経験から、いろいろな意見を申し上げることができました。 それで、さらに言葉を加えるといたしますと、原子力の基礎研究といって図書室へ行って何か本をひっくり返してきて、それからいろんな研究をする人がかなり多いわけであります。傾向としては、非原子炉、非加速器、非実験、つまり原子炉を避けあるいは加速器とか放射線を避け、それから実験を避けて、つまり何も差しさわりのない研究をしようというのは、実は正直に言って大学の体質の強い流れになりつつありますが、現実の原子炉というのは、基礎研究によって解明を待っている現象というのが今でもまだたくさんあるわけであります。 そういうことを私どもとしてはだんだん解明していく必要があるのではないかというふうに考えますが、例えばその一つとしてはダウンストリームという問題があります。これは原子炉でいいますと、燃料を燃やしてその後どうするかといったような、まあ下流に当たる問題の研究でありますけれども、こういう問題も私どもは、これは好むと好まざるとにかかわらず、やはり出てきたその放射性廃棄物を処理するとかいうようなことも、非常にささやかではありますけれども経験しております。ただ大学では、先ほど申しました、手を汚さない方がとうといというふうなのがありまして、あえて言うならば士農工商のそういう考え方、そういう意識がまだ今でもあるわけであります。そういうことから、口ではダウンストリームの研究が重要である、つまり後始末をちゃんとしろ、そういう評論をする人は非常に多いわけですけれども、実際に手を汚していろんな研究を進めるという人は非常にわずかでありまして、その辺は我々としても十分反省する必要があると考えております。 こういうふうな大学の傾向というのは、これはどうも先ごろの、まあ十年前ぐらいに起こりました大学紛争から来る影響と、それから社会的ないろんな環境から、やはり厄介なことから避けようというようなことにあるのではないかと思います。しかし私としては、もっとたくさん原子炉そのものにかかわる、もっと広範囲の経験を積みまして、学生さんとかあるいは若い研究者に、そういう訓練といいますか、そういう場を与える必要があるというふうに考えております。 最後に、ちょっとお願いしたいと思いますが、基礎研究に当たる者は、これはもういろんな可能性を追求するために、従来普通の仕事でやっている以外の変わったことをやりたいというふうな傾向が多分にあります。しかし、実際そういうことをやろうと思いますと、いろんな点で抵抗が強いわけです。現在私どもも、二号炉については地元の方々の了解が得られなくて、せっかく予算を認めていただきながらまだ着工できないでおりますが、基礎研究でそういう好きなことをやりたいと言いながら、私どもとしては、大学人としては、そういうことに携わる人たちはもう全力を挙げて安全確保に努めております。安全確保の面でも最先端の模範になるように努めておるつもりでありますので、各方面ではできるだけそういう面を伸ばして、先ほど申し上げました本当の自主技術の基本を培うそういう努力に対して御援助いただきたいというふうに考えます。 もう一つの問題は、基礎研究の分野と現場とが、これは先ほども例を挙げましたけれども、なかなか連係がありません。基礎研究は基礎研究でやる、それから現場の例えば発電用原子炉とかなんとかでも、恐らく私どもの原子炉で経験しているいろいろな奇妙な現象その他で苦労していることが多いかと思いますけれども、そういうことは、単にその問題を目先の問題を解決するということの意味だけではなくて、それをより追求することによって学問的にもっと一層深い研究の成果を得られるということもあり得るのではないかと思いますので、あえて申しますならば、そういう現場、基礎研究に関連して政界、官界、学界、民間、それが協議するような場ができればよろしいのではないかということを考えております。こういうことについても御一考いただければありがたいと思います。 大体、以上で私のお話を終わります。(拍手)
○大野委員長 どうもありがどうございました。 それでは、これより懇談に入ります。 〔午前十一時二十七分懇談に入る〕 〔午後零時十四分懇談を終わる〕
○大野委員長 これにて懇談は終わりました。 柴田参考人には、本日長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚くお礼を申し上げます。 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。 午後零時十五分散会