社会労働委員会 第11号
- 発言数
- 270 件
- 登壇者
- 16 名
- 会派数
- 5
- 開催日
- 1980/04/15
会議録
○葉梨委員長 これより会議を開きます。 内閣提出、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案を議題とし、質疑に入ります。 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大坪健一郎君。
○大坪委員 この労災保険法の改正が出ておりますが、これは労働者の職場の安全と衛生に関する法律でございますから、大変重要な法律でございます。私どもは、この労災補償保険法の一部を改正する法律案につきまして、自民党を代表しまして御質問いたしたいと思いますが、特に基本的な労災保険の財政についてまずお伺いをして、それから個別的な条文の中身に入っていろいろ御質問したいと思います。 労災保険は、もちろん事業主の拠出する保険料によって、労働災害に遭われた労働者やその遺族の保護を実施するための制度でございます。もちろんこれを速やかに、そしてちゃんと必要な限度で確実に実施することが必要でございます。しかし、実際上、この労災保険は日本では非常に大きな役割りを果たしてきたのではないかと私は考えております。したがいまして、私どもは労災保険の充実のために今後ともまた努力を続けてまいりたいと思っておりますけれども、少なくとも過去十年間ぐらいを見ますと、日本の労働災害は非常に減ってきたように思います。その辺の実績、それから労災保険との兼ね合いで労働者保護対策、特にその安全と衛生の保護対策にどのような発展があったかということを概観してみたいと思うわけでございます。 労働省ではもう十分広報しておられるところと思いますけれども、まず過去の実績についてお伺いをいたしたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労働災害の状況でございますが、戦後、この制度ができて以来、災害の状況は三十六年をピークといたしまして順次減少に転じているわけでございます。具体的な数字で申し上げますと、休業八日以上の負傷者数でございますが、二十三年当時では二十二万人、死亡者数が二千八百六十九人でございました。それが逐次増加をいたしまして、三十六年には四十八万一千六百八十六人、死亡者数で六千七百十二人に達したわけでございますが、その後順次減少いたしまして、五十年におきましては三十二万二千三百二十二人、死亡者数で三千七百二十五人ということになりました。これが最低でございますが、その後若干増加をいたしまして、五十一年には三十三万三千三百十一人、死亡者数で三千三百四十五人、五十三年におきましては三十四万八千八百二十六人、死亡者数で三千三百二十六人という方々が業務上で死傷または災害に遭われた方々でございます。 このような状況でございまして、私ども災害の防止につきましては、労働省の労働政策の中でさらに重点課題の一つといたしましてこの点の充実を図ってまいったわけでございます。特に災害防止計画というものを柱にいたしまして、本年は第五次の災防計画の実施の中間に当たっておりますが、そういった基本の考え方をとりながら、各第一線機関もすべて監督指導の重点をそういった災害防止に置きながらいろいろな施策を強力に進めてまいった次第でございます。 おかげをもちまして五十四年におきましては、まだ詳細な統計は出ておりませんが、死亡者数は若干の減少を見、また全体におきましても五十三年に比較しますと減少の傾向が予想されているところでございまして、今後もこういった傾向をさらに促進してまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○大坪委員 私は、労働災害の減少については非常に行政効果が上がっておると思っております。これには労災保険制度がいわば労働災害の事後措置だけではなくて、労働災害の予防措置にも大いに働きを示したのではないか、こういうふうに考えておりますけれども、労働災害自体の減少と対応して労災保険制度を見てまいりますと、最近どうも労災保険制度は財政収支の状態が非常に悪くなっておるというふうに伺っておるわけでございます。百億以上、数百億に及ぶ大幅な赤字が出てきておるというような状態でございまして、これはまことに憂慮すべき状態だと思います。 そこで、労災保険財政が実際どういう状況になっておるのかということをこの際克明に御説明をいただきたいと思うわけです。
○吉本(実)政府委員 労災保険財政は、制度発足以来、三十年度を除きまして単年度収支ではずっと黒字を維持してまいったことでございますが、ただいま御指摘のように、最近に至りまして財政収支が悪化をしてまいっておる次第でございます。昭和五十二年度におきましては単年度の収支で百二十三億円、また五十三年度におきましては四百九十六億円の赤字となっておるわけでございます。そのため、従来から剰余金として積み立てられました積立金をこの両年度の赤字補てんのために取り崩した結果、五十一年度末には千二百四十五億円を保有しておりました積立金が、五十三年度末には五十六億円に減少している次第でございます。なお、五十四年度におきましても単年度収支の赤字幅というものは積立金の全額を充当してもなお拡大する見込みでございまして、このまま放置いたしますと、労災保険事業の正常な運営に支障を来す、こういうふうな状況に至っている次第でございます。
○大坪委員 そこで、その原因でございますけれども、労災保険制度というのは、たしか労災保険の会計制度上から言いますと支払い準備金というものをちゃんと積み立てておかなければならないということになっていると思うのです。実際に積み立てられた支払い準備金は法律で予定しておる支払い準備金の額に十分足りておるように思えないわけであります。その辺の経緯をもう少し御説明いただきたいということと、それから労災保険の財政状態が悪化しておるということと、現実に労災に遭う人が減ってきておる、労働者災害予防の実績が上がってきておるということとの対応をどういうふうに説明されるのか。災害が減っておるのに支出が非常にふえておるというのはどうもよくわからないような気もいたしますが、そこのことをちょっと御説明をいただきたいと思うのです。労災の運営に十全な対応策がとれておったのかどうか、昭和五十年以降赤字が出ておりますし、赤字が毎年ふえておりますから、この辺を特に御説明いただきたいと思うのです。
○吉本(実)政府委員 まず、財政の悪化の要因でございますが、これにつきましては私どもの考えとしましては、まず保険料収入の面におきましては、第一次の石油危機以後の景気後退に伴いまして建設業なり製造業等の雇用が停滞し、全般的に賃金上昇率が低い水準で推移したこと、それからいわゆる就業構造の転換と申しますか、第二次産業から第三次産業へというような、たとえば料率の高い建設業、製造業等の第二次産業から低い料率のサービス業等の第三次産業へ労働力の移動等、産業別の雇用構造が大きく変化をいたしているわけでございまして、そういったことで保険料収入が所期の伸びを見せなかったというところが収入面での原因かと思います。 それに対しまして支出面でございますが、保険給付費におきましては、一つは、医療費の単価の上昇によります療養費の増高、それから五十二年に実施の制度改善によります年金等の給付費が急増したこと、こういったことが収入の伸びを超えまして支出が大幅に増加したというふうに考えるわけでございます。またさらに、年金受給者が累増してまいりますので、前回の五十年一月の料率改定の際には三年程度後に再度の料率改定を行う予定でございましたけれども、当時の経済社会情勢にかんがみまして今日までその改定を見送ってきたことも保険財政を悪化させた一つの要因ではないかというふうに考えているわけでございます。 そこで、御指摘の支払い準備金の状況でございますが、五十一年度におきましては支払い準備金の額は約二千九百三十五億円、五十二年度におきましては約三千二百四十一億円、五十二年度におきましては三千四百六十二億円程度でございます。この各年度の支払い準備金の額を当該年度の保険給付額との割合で見ますと、五十一年度におきましては八五・六%、五十二年度におきましては七九%、五十三年度におきましては七二・五%、こういうふうになってきております。 それで、支払い準備金の内訳でございますが、長期分に関しましては従前の一時金給付を基礎として算定いたしました一定額を支払い備金というふうにしているため、年金受給者の平均受給期間という面で見ました場合には十分な支払い備金と言えるかどうかという点につきましてはいろいろと議論のあるところでございます。労災保険としては、御指摘のように、十分な支払い備金を持つということが保険数理上まことに理想的な姿であるわけでございますけれども、これを一挙に実現するとなりますと大幅な保険料収入を見込まなければならないということでございまして、なお慎重に検討する必要があるのではないかというふうに考えているわけでございます。 それから、御指摘の、災害が四十年代に大きく減少しておるのに保険給付額の方は増加しているという点で、これはおかしいではないか、こういうお話でございます。先ほど申しましたように、災害がずっと減ってきながら、この五十年以降若干増加の傾向が出ているわけでございますが、それをさらに保険受給者の観点から新規の受給者数で見ますと、昭和四十三年度の約百七十二万人をピークに減少を続けまして、五十年度には百十万人弱となって、その後若干増加に転じておるということでございます。ところが一方、労災保険給付の支払い額は逐年増加を続けまして、五十三年度におきましては約四千八百億円程度となっておりまして、これは十年前と比べますと五倍を超えるような大きな額になっておるわけでございます。 こういった要因を考えますと、一つは、年金等の現金給付というものが被災労働者の従前の賃金に応じた額となっているために賃金水準の上昇に伴って増加をしておるということが挙げられるわけでございます。それから、給付額の相当部分を占めております療養補償給付、先ほども申しましたように、医療費の上昇に伴いましてこれが増加する性格を持っておるということ、さらに三番目といたしまして、年金給付というのは現在まだ成熟化過程にあるためでございまして、一万人程度の年金受給者が年々累増することに応じまして伸びが大きくなっておるという点、それから年金給付等について改善が行われてまいったということも作用している、こんなふうな点が指摘されるのではないかと思っておるわけでございます。いわば労働災害一件当たりの給付額の増加効果と受給者の累増効果というものが、発生件数の減少による効果をさらに大きく上回っている結果、このような形になったのではないかというふうに考えた次第であります。
○大坪委員 確かに御説明のように、医療費の高騰でございますとか年金制度の問題があると思います。しかし、たとえば医療費の高騰では、二年ごとに健康保険の診療報酬費が改定になっているようですから、二年ごとに波を打って支出が増大しているという感じがいたしますけれども、数字を見ておりますと、どうも長期分の支出に非常に大きな波があって、しかもこれが増高しておるようでございます。これはやはり年金受給者が年々累増しており、年金制度というものの運用をよほど考えないと保険財政というのは大変むずかしくなるのではないか。これは厚生年金にも見られることでございますけれども、特に労災の場合は年金だけが主眼ではございませんから、二の年金制度の運用も含めて労災保険制度として制度の運用を全般的に、これは大臣に見ていただかなければならない点ですけれども、見ていただきませんと、健康保険の二の舞になって、赤字を持ったもう一つの保険制度ということになってしまいます。従来、労災保険は非常にうまく運営されてきておったわけでございますから、この二、三年赤字の続いておる状況に何とかここら辺でストップをかけるような対策を考えていただきたいと思うのですが、いままでこういう状況をどういうふうにお考えになって、今後どういう措置を講じられようとしておるのか。 私どもが心配しますのは、労災保険は事業主のみの負担で財政が賄われておるものでございますから、保険と申しましても言ってみれば一種の社会保障制度でありまして、保険税のような形になっておるのではないかと思うのです。だから、事業主の保険料を引き上げるということを安易に考えるわけにはいかない。特に保険料というものは、支払い能力の非常に強い大企業でも支払い能力にいろいろ問題のある小企業でも、同じように一律負担でかかっていくわけでございますから、この点を特に御検討いただかなければいけないと思う。 それからもう一つは、年金制度というものは、平年化というとちょっと語弊があるかもしれませんが、いわば一種の定常状態になってもうこれ以上ふえていかないという時期をめどにして検討しなければいかぬと思うのですけれども、一体いつごろになったら、年金が毎年毎年ふえていく状態を終えてある定常状態に入るのか、その辺の見通しをどう考えておるのか。年金というものは果てしなく広がっていくとすれば財政の破綻は目に見えていると思いますが、その辺のことはどういうふうに考えておられるのでしょうか。
○吉本(実)政府委員 御承知のとおり、労災保険財政は五十二年度から赤字が年々拡大してまいったわけでございますが、これまで、近時の経済情勢を考慮しまして料率の引き上げを見合わせておりました。給付についての適正化を十分図っていくということ、またそれを取り扱う行政経費の節減、こういうものに努めまして、保険給付の当然支出経費というものの増大に対します財源補てんについては積立金取り崩しということで対処したわけでございまして、やはり出る方をきちっとするということをいままで行ってきたところでございます。しかし、積立金もすべて取り崩されて、将来の年金給付のだめに保有すべき支払い備金も、先ほど申しましたように、所要額を保有し得ないような状況に至ったわけでございますので、このために保険財政を立て直すということで、前前回の改正以来五年ぶりに今年度から保険料率の引き上げを行うことといたしまして、まず、この四月に赤字解消のための財政再建分といたしまして、全業種平均して千分の二・二、つまり二・二厘の料率引き上げを行ったところでございます。今後におきましても、ただいま御指摘のように、支払い備金等について、年金の累増に応じましてその成熟期等をにらんで改善する必要があるのではないかということでございますが、先ほど申しましたように、支払い備金の性格なり現状というものを十分考えながら将来の見通しを立て、この財政の確立に努めてまいりたいというふうに思っている次第でございます。
○倉橋説明員 年金受給者の定常状態に関する御質問でございますが、現在の災害率につきましては、われわれ行政努力によりましてできるだけ低減を図っていくという方針でございますが、仮に現在の災害率を前提といたしました年金受給者の定常状態につきましては、大体昭和百十年を越える時点ごろではないかと思います。なお、その定常状態につきまして九〇%ぐらいというような見方をいたしますと、昭和八十年代に定常状態は九〇%に達するとの推計をいたしております。
○大坪委員 昭和百十年なんて、私どもは生きていないような先の話でございます。つまり、逆に申しますと、この年金というものは実は保険制度と見合うのかどうかという問題が厚生年金の場合も出てくるわけです。ヨーロッパの先進国ではすでにもう保険制度ではなくて、いわば一種の保険税のような賦課制度にしております。必要な給付を賄うだけの財源を料率を上げて賄っていくという形になっておるようです。だから、そういう点でいえば、ずっと年を追って労災保険料率の引き上げということが問題になる事態が今後来るのではないかと、大分深刻にむずかしく考えざるを得ないように思うのです。 ここで二、三御質問したいのは、われわれと同じような形で制度を運用しておる先進工業国で労災保険料率は大体どのくらいになっておるのかということと、今回の場合、保険料率が現行の千分の九・三から千分の十二に上がるようであります。制度改善分が千分の〇・五、そうでない保険料率の引き上げ分が千分の二・二、合わせて千分の二・七の引き上げということになるわけですが、現行が千分の九・三ですから、約三割に近い大幅な引き上げになるのではないか。さっき申しましたように、この大幅な保険料率の引き上げは、賃金にそのまま対応して保険料の引き上げになってくるわけでございますから、中小企業とか零細企業に大変きつい負担増になるというふうに思います。これはよほど政府は気持ちを引き締めて厳正な給付を行う、それからまた事業運営も効率化する、そして特に事務費などでは冗費を節約するということにしないと、この相応の負担に苦しんでおられる事業主に申しわけのないことになるし、必要な労災の局面で労働者の皆さんに十分な給付も将来できなくなるという問題が出てくると思うのです。えてして、こういう大量の資金を動かす政府の制度は、運営に適正を欠くことがときどき出てきます。従来どういう乱給の例があったのか、できればこの際明らかにしてもらって、正すべき点を正す決意を大臣からはっきり御明言いただきたいと思うわけであります。 それから、三割の引き上げというのはちょっときつ過ぎるのではないかという感じもしますが、これを何遍かに分けて実施するということはできないものかどうか、こういう点についても、ひとつ御見解を伺わせていただきたい。
○吉本(実)政府委員 保険料を賦課して保険財政を運営していくための財政方式といたしましては、保険の種類によりまして、保険給付の内容、沿革等が異なることから、いろいろな方式がとられているところでございます。 わが国の労災保険につきましては、昭和四十年の年金制度導入以降、将来の年金受給者の累増に対処していくために、いわば修正賦課方式、段階的保険料調達方式とも言っておりますが、そういう方式をとっているわけでございます。この方式は、保険料率を一定の均衡期間を通じて収入の予想額と支出の予想額とが等しいように定め、当該保険年度の保険給付と事務運営費を賄うのに十分でないと予想される保険年度の前年度までこの保険料率を適用いたしまして、それ以後は、次の一定の均衡期間に応じた新たな保険料率を適用する、こういうような方式でいっておるわけでございます。 保険料率を安定させる期間というものを三年というふうに見込みまして、またその均衡期間を六年、いわば六年均衡、三年安定、こういうような形で労災保険の運営を進めてきているところでございます。そういうことで、いわば年金その他の累増する中で、とういったやり方でもって対処しておるところでございます。 それから料率につきまして、今度の値上げ幅が千分の二・二、それからさらに、今回の御審議いただいております法案によって改善される給付等の所要財源に充てるためには、制度改善以降に千分の〇・五の料率引き上げを予定しております。こういった形で一挙にするのは高いではないか、非常に大変ではないかという御指摘でございますが、私どもとしましては、給付の方についての厳正化を図っていくということはもちろんでございますし、今回の場合も、制度改善分と財政の赤字の解消分とを分けて処理いたしたのも、こういった一挙に負担をすることについては問題があろうということで実は分けた次第でございます。
○小田切説明員 諸外国の先進工業国の労災保険料率の水準というようなお話でございますが、手元にございます資料で御説明申し上げますと、西ドイツの場合には、全業種平均で賃金総額に対しまして一・五、六%、したがいまして、千分の十五、六の水準になっているというふうに私ども承知しております。 先ほどの日本の年金の定常状態の問題でございますが、わが国において、現行の制度を前提にして年金が定常状態に達する時点におきまして保険料率がどうなるかということを推計いたしてみますと、やはり千分の十五、六程度にはなるという見通しを私ども持っております。
○倉橋説明員 保険給付の不適切な事例と申しますのは、具体的に挙げることはなかなかむずかしいわけでございますが、一般的に申しますと、特に使用者側の方から、被災労働者が療養を継続し、相当長期間にわたってすでに治癒等の状態にあるにかかわらず漫然と療養休業を続けているというような指摘が間々なされることはございます。 私どもといたしましては、給付の適正を図るために、もとより必要な療養は行ってまいるわけでございますが、漫然と療養を続けるために労働者の社会復帰意欲が阻害されることのないよう、その他給付の適正化を図る意味からも、関係の医師等に接触いたしまして、その療養方法等の適正または就業可能かどうかの判定につきまして医師にいろいろ意見を聞きましてその改善を求める場合がございます。
○大坪委員 料率引き上げをいきなり三〇%もやるのはひどいではないかという議論に対する答えがないのです。後で答えてください。 いまいろいろお話がありまして、年金制度等については、将来の見込みを相当考えてしっかりした制度運営しないと、私はやはりまずいのではないかと思うのです。もちろん、いままで大変実績の上がってきた制度運営をやっておられた皆さんのことですから、粗漏はないと思いますが、しかし、先進諸国ですでに問題にぶつかっておるところもあるようでございますから、よほど将来を見詰めてしっかりした運営を行っていただきたいと思います。 そこで、今度の法律改正では、実は赤字の解消の問題のための料率の引き上げと同時に、制度の内容改善を幾らか提案しておられるようであります。法文にして相当長い制度改正になっております。財政状況が相当深刻でございますのに制度改善を特に並行して行うというのは、望ましいことではあるかもしれませんが、どうも順序が混乱しておるような感じもするので、制度改善の基本的な考え方、特に今回の制度改善の基本的な考え方をここでちょっとお伺いしておきたいと思います。
○藤波国務大臣 労災保険の制度が戦後非常に大きな役割りを果たしてきたということにつきましては、先生先ほど来御評価をいただいておるところでございますが、同時に、今後これをさらに改善をし、特に運営に十分配慮をしながら進んでいかなければならない。その姿勢につきましては厳正でかつきめの細かいものでなければいかぬということにつきましても、先ほど来の御質疑で御指摘をいただいたところであろうと思うのでございます。 今回の労災保険制度の改善につきましては、労災保険審議会が昨年の十二月十八日に行いました建議の趣旨にのっとりまして行おうとするものでございます。その基本的な考え方は、少し系統だてて申し上げますと幾つかの点にわたるわけであります。 第一は、いま御指摘がございましたように、労災保険経済がここ数年の間に非常に厳しい状態になっている、収支状況が非常に悪化しているという状態の中で速やかにその健全化を図りたいと考えたのが第一でございます。 第二に、国内のいろいろな関係諸制度の整備改善が進められてまいりまして、これらの諸制度と労災保険制度との均衡上適切な対応を図る必要が生じてきたこと、これが第二でございます。 さらに、給付水準につきまして、一般的にはILO百二十一号勧告の水準に達している、こういうふうに今日至っておるわけでありますけれども、重度障害者など特に手厚い措置を必要とする受給者につきましては、個々の実態に即して社会復帰の促進あるいはその他各種の援護措置の充実につきましてさらにきめ細かな配慮を図る必要があるというふうに考えましたこと。 四番目に、最近の労働災害の動向などを見まして、労働力構成の高齢化という傾向などから災害の防止には従来に増してより一層積極的に取り組む必要が生じてきている、こういうふうに考えたこと等がその理由でございます。 このような基本的な認識に立ちまして、全般的な給付改善の成否等につきましてなお突っ込んだ検討を続けてまいる必要がございます。しかし、基本的にこの検討を進めていくと言っておるだけではいけませんので、当面改善を急ぐべき事項、特に次の改正の機会にはぜひこれだけは取り組みたい、こういうふうに従来問題点として浮かび上がってまいりましたこと等をこの際に所要の改善措置として今回打ち出させていただいたわけでございます。その点はぜひ御理解をいただきたいと思うのであります。 そこで、改善の概要について少し触れさせていただきたいと思います。 第一は、年金給付等のスライドの発動要件を緩和すること。第二に、遺族補償年金の給付額を、たとえば遺族数の少ない場合に重点を置いて引き上げること。三番目に、障害補償年金受給者につきまして失権差額一時金及び前払一時金を設けること。四番目に、年金受給者のための年金担保融資制度を設けること。さらに、災害発生割合に応じての保険料に関するメリット制の改善を図ること。六番目に、同一の事由についての労災保険の給付と民事損害賠償との重複給付を避けるための調整の規定を設けること。以上のほかに、法律事項ではありませんけれども、身体に障害を残した労働者や被災労働者の遺族に支給する一時金である特別支給金の額の五〇%の引き上げ、介護料、労災遺家族に対する就学等援護費等の改善を行うことなどが今回の改善で取り組ませていただいてきた主要な問題点でございます。 ぜひ御理解をいただきまして、御審議をお進めいただきますようにお願いをいたしたいと思います。
○大坪委員 大臣の御説明でございます。確かに、いまのスライド制の改善でありますとか、これは一〇%から六%に発動の契機が早められておるというような点、あるいは遺族補償年金が引き上げられておるというような点等、幾つかの必要な制度改善が行われておるということは私どもも法文を拝見しましてわかったわけでございますが、現在の労災保険の給付の水準は数次の改正で大分よくなってきておると私は思うのです。 そこで、われわれがこの法律制度を審議する場合に、ほかの制度と対応してみて労災が劣っておるなら当然改善しなくてはいけない、しかし、余り先に出るのなら調整しなくてはならぬ、特に財政的に問題のある時期でもありますから、そういう感じもするわけでございますので、その給付水準ですとか給付の内容についてはほかの制度と比較して少し説明をしていただきたいと思います。 それから、大臣の御説明にございましたように、今回重度の身体障害者について重点的に考えるような、そういう保護の必要度の高い者に重点的、効率的な手当てを行うという制度の展開が必要であろうと思います。こういう点について具体的に御意見を伺わせていただきたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労災保険の給付水準は数次の改善を経まして、先ほど大臣の御説明にもございましたように、ILO百二十一号勧告の水準を満たすに至っております。 具体的には、まず労働者が業務上の事由または通勤上の傷病の療養のため休業した場合には従前賃金の六〇%の休業補償給付、それから二〇%の休業特別支給金、合わせまして八〇%の給付が行われることになってございます。また、労働災害による傷病が治った後、身体に障害が残った場合には障害補償給付が支給され、それはその障害の程度に応じまして、重い場合には年金が、比較的軽度の場合には一時金が支給されることになってございます。また、これに合わせまして障害等級に応じた定額の特別支給一時金が支給される。たとえば、労働能力一〇〇%喪失に当たります障害等級三級の後遺障害が残った場合には、毎年従前賃金の約六七%の年金が支払われます。それを五十五年度で考えてみますと、平均的なケースでは年金額が百七十二万円、保険給付では百四十七万円で、ボーナス特別支給金二十五万を加えまして百七十二万円程度でございます。それにさらにこの場合、現行では二百万円ですが、この改正の暁にそれに関連して増額をしたいと思っております特別支給一時金が三百万円支給される、こういうことになります。 それから、労働災害によって労働者が死亡した場合におきましては遺族補償給付が御承知のように支給されます。これは原則として年金でございまして、その額は遺族の数に応じて異なりますけれども、たとえば遺族数五人以上の場合には従前賃金の六七%の年金、標準的な受給者、すなわち妻及び十八歳未満の子供二人が残された場合には従前賃金の五八%の年金が支給され、五十五年の平均的なケースで考えてみますと、遺族数五人の場合には百七十二万円、標準的な受給者の場合には百四十九万円程度の年金額となるわけでございます。さらに、これに加えまして特別支給一時金が三百万支給される、こういうことになっておりますし、また災害により労働者が死亡した場合には、このほかに葬祭料も支給されるというような現状でございます。 そこで、他の制度との比較でございますけれども、給付額の算定の方法がそれぞれ異なりますので正確な比較というのはなかなかむずかしいわけでございますが、たとえば基本的な年金制度でございます厚生年金を例にとって考えてみますと、その基本年金は一般的には六割の水準にあると言われておりますし、遺族年金はその半分に一定の加算が行われる、こういうことで、これは五十三年度の実績水準で見た場合には、障害に関する年金では、一級から七級の平均でございますけれども、労災の方が年金で九十万円弱。これに対しまして、厚生年金の方は約七十一万円、労災年金の約八割相当。また、遺族に関する年金では、労災年金が約百七万円でございますのに、厚生年金は約五十一万円、労災年金の約五割。こんなこととなっているということで、そういったことで、労災保険の給付は上回るのは当然でございますけれども、そういった程度上回っておるというのが現状でございます。 また、労災保険の給付は、御承知のように、労働災害により失われた労働能力の回復、てん補を目的として行われるものでございまして、これを基本に給付水準が定められておるところでございます。しかしながら、そういう受給者の必要に応じて、ただいまも御指摘のございましたように、細かい措置も必要だということで、今回、財政的なむずかしいところでございますけれども、基本的なところはさらに労災審議会等で御検討願うこととなっておるわけでございますが、当面措置すべきことといたしまして、先ほど大臣から御説明しましたような給付改善を行っていこう、こういうふうに考えているわけでございます。
○倉橋説明員 重度障害者等の社会復帰に対して特に配慮したという点でございますが、まず、法律的な問題といたしましては、障害補償年金受給者につきまして前払一時金制度、失権差額金制度等を適用するというような法制度の拡大を行いまして、障害補償年金受給者が社会復帰をするための一時金需要に充てるようなことを配慮するとともに、年金担保融資制度を導入いたしまして、これら重度の年金受給者が必要な一時金の需要に対しまして公的な融資制度を導入をしたというのが法律的な問題でございます。 そのほか、療養補償年金受給者につきまして、介護を必要とする場合につきまして介護料を支給する、さらには、特別支給金につきまして、従来の額をさらに五割アップいたしまして、それぞれ相当額の支給を行うという点につきましても、特に重度のものを中心にその拡大を図ったわけでございます。
○大坪委員 給付についてあと二、三お伺いしたいのですが、一つは、それは厚生年金と比較すれば、労災の方が損失労働力補てんという意味もあるから給付額が多少高くなるということでございますけれども、実は最近、日本では自動車事故について自賠責保険が非常に発展してきまして、自賠責保険の給付が相当高額化しておるようです。 運輸省の方がお見えになっておられますか。——その自賠責の、たとえは死亡の場合の給付の最高限度、それから、けがをして動けなくなった場合、特に下半身不随になった場合、それから、骨が折れたけれども、後遺症が残る場合、残らないで治ってしまった場合、こういった場合にどういうふうなことになっておるのか。私の伺っておる範囲では相当高い額であるようですけれども、労災との兼ね合いで考えますと、ちょっとバランスを失するような感じもしますが、ここについて、ひとつ関係の事務当局のお話をそれぞれについて伺いたいと思います。
○渡辺(純)説明員 自賠責保険の保険金の限度額でございますが、死亡の場合につきましては二千万円が限度でございます。それから、傷害の場合は百二十万円、後遺障害の場合は、等級によりまして、一級から十四級まで、これは労災と同じように等級が分かれておりますが、二千万円から七十五万円という限度額を設けておりまして、これが最高限度額となっておりまして、被害者の損害を算定いたしましてその損害額をお支払いするということになってございます。
○小田切説明員 ただいまの自賠責保険の限度額との関連での労災保険の給付水準につきまして、若干御説明したいと思います。 いまもお話がございましたように、後遺障害が残りました場合に、一番重度の一級の場合には限度額が二千万円ということになっているわけでございますが、私どもの労災保険の方では、一級というような重度の後遺障害が残りました場合には、年金という形で給付を行うことにしているわけでございます。 先ほど局長の方から障害三級の例について申し上げたわけでございますが、一番重度の障害一級というような例で申し上げますと、現行の制度を前提にいたしますと、平均的な姿を描きますと、年金の金額が二百二十万円程度になります。当然スライド制がございますから、一般の賃金水準の上昇に伴いましてこの年金額も改善されてまいるわけでございますが、そのような点を一応捨象いたしまして、およそ平均的に労災の年金の場合に三十年前後支給されるというようなことになっているわけでございますが、そういうことで三十倍いたしてみますと、三十年間には名目額では六千六百万円程度のものが支給されることになるというようなことになっております。 他方、障害の程度の軽い場合でございますが、八級以下につきましては、私どもの労災保険の場合には、一時金での給付ということになっているわけでございます。障害の程度の軽い八級以下の労災の方で一時金給付という形態をとっているところで比べてみますと、たとえば八級の場合には、自賠責保険の最高限度額は六百七十二万円というようなことでございますが、私どもの方の現行の制度での労災保険の給付額は約四百万円ほどということになっております。しかし、自賠責の方はいわば慰謝料分も含んでおるというようなことになっているわけでございますが、逸失利益分ということで比較してみますと、今回の制度改善によるアップを含めますとほぼ均衡するのではないかというふうに考えております。 なお、後遺障害が残らないような軽度の障害の場合には、先ほども運輸省の方から御説明がございましたように、医療費、休業補償をひっくるめまして百二十万円というような限度が自賠責の場合にはあるわけでございますが、私どもの労災保険の場合には、必要な医療費につきましては当然全額、また、療養のために休業する期間につきましては、特段の限度はなしに必要な休業給付を行うというようなことになっているわけでございます。
○大坪委員 自賠責の問題については、もう一遍調整のところでお伺いしたいと思います。 それで、もう時間がだんだんなくなってきましたので、各論的なことを若干今回の法律改正についてお伺いしたいと思います。 一つは、遺族補償年金についてつくられておりました差額一時金あるいは前払一時金というものを障害補償年金にも設けるようにしたというふうになっております。この理由をひとつ伺わせていただきたい。 それから、この制度は「当分の間」ということになっておりますけれども、その由来もひとつ御説明いただきたい。
○倉橋説明員 障害補償年金受給者につきまして失権差額一時金なり前払一時金制度を今回設けたわけでございます。御承知のように、すでに遺族補償年金受給者につきましてはこのような制度があったわけでございます。 これの設けました理由といたしましては、一つには、先ほど言いました遺族年金受給者との均衡を図るということもございますが、障害補償年金を受ける方は何といいましても重度の障害を受けて比較的長い療養生活を営んでいるわけでございまして、このぐらいの方が症状が固定していわゆる治癒状態になって新たに社会復帰をする、さらには病院から退院して自宅に復帰するというような場合につきまして、まとまった資金の必要性があるのではないかと思うわけでございます。したがいまして、従来年金でいいますとなかなかまとまった金を調達いたしましてこれによって自立を図るということがむずかしいような状態にもあったわけでございますので、年金をむしろ前払一時金というような形で一時金で支給することによりまして被災労働者の社会復帰の円滑化に資するということが一つの目的でございます。 それからまた、いろいろ受給者の側におきましても、従来労災に年金制度を導入するころにおきましてもやはり年金よりも一時金がいいというような要請もございました。その要請につきましても現在もなおございます。そういうことから、年金制度のよさを残しつつ、それのまとまった金を受給しようという要請にもこたえたいという点が第二の理由でございます。 以上は、前払一時金制度の創設の理由でございますが、失権差額金につきましてもやはり遺族年金受給者につきましての失権差額金との均衡を図るというようなことのほかに、年金受給者に至らない、いわゆる等級八級以下の障害を残された方につきましては一時金で支給しておるわけでございますが、たまたま年金を受給したために、早期で死亡されたというような方につきましては、八級以下の方に比べまして相対的に受給総額が下回るというような関係が生ずるわけでございます。そういうようなアンバラを是正する必要があるのではないかという点が第二点でございます。さらに、残されました遺族の生活の安定に資するというような意味合いを持ちまして失権差額金制度を設けたわけでございます。 なお、この制度につきましては「当分の間」ということになっております。これにつきましては、遺族年金受給者につきましての前払一時金、失権差額金についても同じようなことでございますが、これにつきましては、労災保険につきましては本来年金制度というのをたてまえにしたわけでございます。したがいまして、一時金で支給するというのは現在におきますいろいろな状況を勘案いたしまして暫定的な措置として理解をするというようなことで、前払一時金、失権差額金制度を設けているわけでございますので、当分の間、国民感情等の推移に応じましてこれらにつきまして検討をしてまいりたい、それまでの間、これらの制度につきましては、いま申しました理由に基づきましてその制度を維持してまいりたいと思っております。
○大坪委員 大体いまの御説明でわかりましたけれども、実際、趣旨として年金がたてまえでありましょう。ところが、現実の生活ではいろいろ問題があって苦しい。あるいは新しく職業転換をしたいというような希望があって、一時金の要請が強いということはわかるのですけれども、前払一時金という制度を拡充することにはよしあしがあるように思うのですね。元来年金などというものは労働者がちゃんとそのときそのときに受け取れるように制度化すべきであって、たとえ本人の請求であるにしても前払一時金のような制度を拡充していくということは問題ではなかろうか。本当を言えば、今度新設が予定されております年金担保融資、こっちをむしろ充実して、こっちでいけばよかったのじゃないかと私は思うのですけれども、年金担保融資も前払一時金も両方つくるというのは、特に前払一時金の場合は、前払一時金制度になりますと、その間の年金はもちろん停止されるわけですから、もらう金ももらえなくなる。年金を担保にして一時金を貸し付ける制度も似たようなものですけれども、年金を安易に前払い的に使えるというふうに直すことは問題があるような気がしております。この点、どういうふうにお考えになっておられるか。 それから、年金担保融資を今度つくることにしたというのは、これは厚生年金にも恩給法にもあるような制度でございますから、結構なことだとも思いますけれども、これは利率がどういうふうになっておって、限度額がどうで、償還期間なんかはどうなっておるのかもちょっと中身について教えていただきたいと思います。 それから、前払一時金につきましては、新しい五十九条の六項では国民年金法とか児童扶養手当法とかの間に調整規定がありますけれども、これは前払一時金を奨励するような意味にはとれませんか、その辺どうでしょうか。
○倉橋説明員 前払一時金制度につきましてのいろいろ御指摘でございますが、本来、年金が十分機能し、それによって生活が図られるということは私ども望ましいと思いますが、やはり受給者につきましてのいろいろな生活態様等がございます。したがいまして、社会復帰等に必要な一時金の需要がある場合につきましてはそれの調達を図ることが、われわれとしましては一つの社会復帰制度から言いましていいんではないかと思うわけでございます。ただ、これにつきましては年金そのものを無にするというようなことがあってはならないわけでございます。したがいまして、その限度額におきましても労働基準法に基づく災害補償の額を限度とするということにいたしております。具体的には障害の場合につきましては千三百四十日分を限度といたしておりまして、そのような余り年金に影響のないような配慮をいたしておるわけでございます。 なお、年金担保融資の方がいいということでございますが、年金担保融資につきましてはおのずと額の限度があるわけでございまして、小口の資金需要につきましてはむしろ前払一時金よりも担保融資でいくべきではないかと思うわけでございます。そういうように受給者につきまして選択の余地を残すということが必要ではないかと思いまして、両方の制度を併用したわけでございます。 なお、担保融資の貸付条件等につきましてはまだ具体的には定めておりませんが、現在考えておりますのは厚生年金におきます年金担保融資に準じて取り扱いたいと思っております。 なお、厚生年金の担保融資の内容につきましては年金額の一・五倍相当、かつ百十五万円を限度とするというような限度額、利率につきましては年八%、償還期間は四年というように現在なっております。これらの制度に準じて、労災年金の担保融資につきましても関係当局と折衝の上、内容を詰めたいと思っております。
○小田切説明員 前払一時金に関連しまして、今回改正案として出しております五十九条に関連しての御疑問点でございますが、五十九条の改正の趣旨は、前払一時金を選択いたしますと、先ほどお話のございましたように、当然その期間年金の支給がストップするわけでございますが、国民年金法等における給付との調整の上では、他の制度による年金が停止されているものとしては扱わない、逆に言えば、前払一時金ということで受け取ったことによって支給停止されている期間については、実質的に先取りしているわけでございますから、給付が停止されているというふうには扱わない、給付されているものとして扱うというような規定でございます。その意味におきましては、むしろバランスの確保という観点から所要の規定だというふうに考えております。
○大坪委員 この前払いは両刃の剣的になる可能性がありますから、これは特に事務当局及び担当者としての大臣に、ひとつ運用に当たっては慎重なお取り扱いをお願いしたいと思います。 それから次は、スライドの問題でございます。 スライドは、いままで一〇%賃金水準の変動があるとスライドが発動するということになっておりましたが、これを六%に下げられたわけでございます。これはそれなりの理由のあることだし、また結構なことだと思いますが、この六%という根拠を定めてスライドする方がいいのか、あるいはどのような状況によってでも賃金水準が変動すればそれに応じてスライドしていくというシステムをとった方がいいのかという問題が実はある。西欧諸国などでは三年間の賃金水準の変化を平均してそれに対応してスライドをするというような制度をとっているところもあるようでありますけれども、その辺どうお考えになるか。それから、この六%の根拠は何を基礎にされたのか。ちょうど安定経済期に入ってまいりましたから、なかなか六%の賃金水準変動もないかもしれません。ところが、非常に物価が変動する、賃金は余り動かないというような場合のスライドの根拠がこれでいいのかという問題もあるわけですが、その辺の事情をひとつ御説明いただきたい。
○小田切説明員 労災の年金等のスライドの発動要件は、賃金の変動の一定の幅でございます。厚生年金等は物価の一定の変動幅ということになっておるわけでございますが、労災の年金等の給付の場合には、事柄の性質上、賃金に準拠するというような制度の立て方をとっているわけでございます。御指摘のように、最近の賃金変動の実態はかつての高度成長期に比べますとそれほどの大幅なものではなくなってきたわけでございます。現行一〇%というようなことをそのまま据え置きますと、過去において実例があったわけでございますが、スライド可能になるまでの期間を相当要するというような実態に立ち至ったわけでございます。 そこで、圧縮する必要があるということでございますが、六%というような変動幅を一つの要件としてとりました理由は、いま労災年金の場合に特徴的なことは、障害等級、廃疾等級等において給付水準の間に格差が設けられているということでございます。この平均的な級間の格差を前提にいたして考えてみますと、級間の格差がせっかく設けられているというようなバランスが大幅に崩れないうちに、世の中一般の賃金の動きに伴って古い時点に災害を受けた者の給付についてスライドアップするというようなことを考えると、平均的な級間の給付水準の格差一二%強でございますが、半分程度である六%ということを一つのメルクマールにしてしかるべきではないかというふうに考えたものでございます。 それから、賃金の変動をとるにいたしましても、賃金の変動なりにスライドというようなこともあり得るわけでございますが、長い目で考えてみた場合には、賃金が多少なりとも低下するというような事態があった場合には即座に減額の方に働くこともあるということもその際には考慮しなければいけないのではないか。 それから、物価と賃金というようなお話でございますが、確かに安定経済成長には立ち至っているわけでございますが、相当のロングタームをとってみますれば、長期間にわたって実質賃金が低下をするというようなことは今後のわが国においても前提にすることは不適正である、むしろ長期的に見れば実質賃金は着実に改善されるであろうということを考えますと、直ちに物価をスライドの発動の基準としてとることが妥当かどうかということは問題があるであろうというふうに考えております。
○大坪委員 私は物価をとることはむずかしいと思いますけれども、賃金自体の変動が正確に反映するようなスライド制は、固定的スライド制でなくて検討する価値があるのじゃないかと思うのです。将来の御参考にしていただきたいと思います。 それから、あと二つ問題が残っています。もう時間があと二十分ぐらいしかなくなりましたので、簡潔に質問しますのでお答えもひとつ簡潔にいただきたいと思うのです。 一つは、メリット制でございます。今度メリット制も改善されるようでございます。これは業種別の料率がありますのを個別企業ごとに災害の発生状況で調整するといいますか、一種のあめとむちの政策のような感じもいたしますけれども、このメリットの幅を大きくするということであります。メリットの幅を大きくするということは、保険経済上あるいは保険運営上から見るといい点もあるのですけれども、しかし本来、保険というものはそういうメリット的な運用ではなくて、いわば危険負担を平等にしようという趣旨で始まるものでありますから、事業主の負担をことさらに重くする、それからそういう保険原理を逸脱するというメリット制を余り重視するというのはどうであろうかという感じもするのです。 その点と、それから今度特定の病気、疾病について収支率の計算方法を直すというようなことを聞きましたけれども、どういう病気を考えておられるのか、そしてどうしてこの収支率の計算方法を直すことにしたのか、それをちょっとお答えいただきたい。
○倉橋説明員 確かに保険につきまして保険原理を無視した保険料のメリット制というのは無理があろうかと思います。負担の公平という一つの保険原理があるならば、その中でやはり保険料率を考えるべきだと思いますが、御承知のように、労災保険制度につきましては使用者の災害防止努力、自主努力というものが災害の発生に大きく影響を及ぼすわけでございます。したがいまして、使用者の災害防止努力をより助長するためにメリット制度を導入しております。したがいまして、これにつきましても、そのメリット幅につきまして一定の限度を設けておりますが、ただ現在におきますいろいろ災害の発生状況を見てまいりますと、やはり五%程度のアローアンスの拡大をすることがより災防努力の助長になるのではないか。これは関係の業界からも、災害防止努力をしたことについての財政負担の軽減をより図ってもらいたいという非常に強い要請等もございまして、このような自主努力をより喚起をしたいということで幅の拡大を図ったわけでございます。 なお、収支率の計算方法の改定でございますが、現在メリットをする場合に収支率を算定するわけでございます。たとえば、死亡等の重度の災害を出した場合の分子に当たります支出面の算定方式につきましては、基準法上の一定額を充てまして、年金額につきましては、将来に向かっての年金額を推定するわけにいきませんものですから、基準法上の一定額を分子にもっておりますが、分母であります収入としての保険料収入額につきましては、生に入りました当該企業の収入額を分母としていることから非常にアンバラになる、合理的な収支率の算定にならないという面があったわけでございますので、分母であります保険料収入額につきまして、分子にあります支出に相応するような額にいたしまして、収支率を合理的にしたわけでございます。非常に技術的な改正でございます。 なお、収支の計算上の特定疾病については、その収支の中から除外するという疾病でございますが、これにつきましては、非常に長期的な就労関係で発症いたしますような職業病、たとえば振動病だとか非災害性の腰痛だとか、じん肺というような疾病につきましては、たとえば日雇いの方が一事業場でたまたま発症した、たどってまいりますと、いろいろな事業場を転々とした後に、そういうものが重なって職業性疾病にかかったというようなことになるわけでございますが、最終事業場の企業にその責任の全部を負担させるということは非常に酷であるわけでございます。したがいまして、林業におきます振動障害とか建設におきます振動障害、じん肺、港湾運送の非災害性の腰痛等につきましては、メリットの算定の基礎から除くことにいたしたいと思っております。
○大坪委員 最後になりましたけれども、民事損害賠償との調整の問題でございます。これは法律的にもずいぶんいろいろ問題がありますし、最高裁の判決もあって、実は最高裁の判決をめぐっていろいろ陳情も出ておるようでございます。特に、将来給付さるべきであろう労災保険の額を調整額の中に入れるべきか入れるべきでないかということについては、最高裁の判決では、将来にわたり継続しで保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しないという判決が出ております。ところが、今度の調整をいろいろ読んでみますと、最高裁の判決が必ずしも十分踏襲されてないようにも思うのですが、原則としてどういう観点でどの限度まで調整をすることにしたのかということをお伺いしたいと思うのです。本来、損害補償の性格を持っております労災保険でございますから、民事損害賠償が行われた場合にはこれは当然調整すべきことでございましょう。ただ、労災保険の場合は事業主責任に対する保険でございますから、事業主が労働基準法上の災害補償の義務を負う場合と民事上の損害賠償の責任を負う場合が出た場合に、これを完全に調整していいものかどうかということについても若干議論があるような気もいたすのです。そこで、調整の原則をまずはっきりしていただきたい。これが第一点。 それから、自動車事故の場合、特に通勤途上災害が労災保険に入ってまいりましたので非常に問題になると思うのですが、従来、自動車事故の場合についてはどういう原則だったのか。自賠が先行したのか労災が先行したのか、今後それを制度上どうするつもりなのか、この点について御説明をいただきたいと思います。 それから、通勤途上ではなくて事業場の中で自動車事故が起こった場合、たとえば同僚が運転していて衝突をして同僚が死んだ、あるいは大けがをした、そばにいる友人が普通なら損害賠償責任を負うわけでございますけれども、工場内で業務として行った場合には労災上の問題が出てくると思いますが、それに対しての調整がどうなるのか。 まず、この三点についてお伺いします。
○吉本(実)政府委員 労災保険給付は、御承知のとおり、労働基準法による使用者の災害補償責任を基盤といたしまして、労働災害によって生じた損失のてん補を保険の仕組みによって図ることを目的としております。したがいまして、労災保険給付が行われる場合において、同一の事由について事業主が民事損害賠償責任を負うケース、両者が重複するケースにつきましては民事損害賠償と労災保険給付とのいずれかが損害のてん補を図るものである。こういった面については共通性なり相互性があるということで、両者間においての合理的な調整が行われる必要があると考えておりますし、このことは学説なり判例の大勢が認めているところでございます。 そういう意味で、この両者の関係につきまして、従来は労災保険からの給付を前提といたしまして、民事損害賠償の側で調整が行われてきておりまして、労災保険の実務はそれに基づいて行っておりましたので、労災保険法に保険給付の側においての調整を行うための規定がなくても別段の支障はなかったところでございます。しかし、先ほど御指摘になりました五十二年十月の最高裁判決におきまして、すでに支給された労災年金については損害賠償額から控除されるべきだけれども、将来にわたって支給される労災年金につきましては、本人が一時金としての請求もしておるというようなことから考えましても、民事損害賠償額から控除することは要しない、こういうような判断が下されたために民事損害賠償が行われた以後も引き続いて労災保険給付が行われた、こういうことで同一の損害につきまして経過的にてん補が重複して行われるという不合理が生ずるに至ったわけでございます。その結果、事業主につきましても労災保険の保険料と民事損害賠償との二重負担をすることになった。 こういうような次第で、同一の損害につきまして重複てん補及び重複負担の問題を解消するために、他の立法例も参考にしながら新たに調整規定を設けたということでございまして、この点の基本的考え方は、先ほどの最高裁判決におきましても指摘しているところでございます。
○倉橋説明員 三番目に御指摘になりました同僚等を構内で死亡させたというような事例の民賠との調整問題でございますが、使用者の施設の管理瑕疵責任等によりまして民法上の使用者責任があるような場合につきましては、労災補償給付と不法行為との調整問題が生ずるわけでございます。具体的な事例でないとなかなか細かい法律論はできませんが、通常の場合におきましては、通勤災害については事業主について故意過失、不法行為が成立することはなかなかないかと思いますが、仮にそうでないような、構内に業務上立っていた同僚を死亡させたという場合につきましては両制度の請求権が生ずるわけでございますが、これにつきましては、使用者が不法行為に基づく損害賠償をしたならば、やはり新たな労災補償制度に基づく調整の対象になると考えられるわけでございます。
○大坪委員 いまの件でございますけれども、いまのいろいろな法律とか外国の例なんかから考えますと、調整案のつくり方は保険加入者である事業主の保険の利益が多少犠牲になっておるのじゃないだろうかという感じもするわけなのです。自賠責保険の場合はもうそうなっておりますけれども、民事損害賠償が先行している場合には、場合によったら、支給停止をいたしております労災保険給付分を事業主に払ってやるというふうにした方が本当は事業主の保護になるのではないかというような気もするわけです。あるいは民事損害賠償額から労災保険の将来給付分を全額控除するようにしてもいいのじゃないか、最高裁との問題がありますけれども、そういう感じもするのです。この原則の立て方が非常に問題なのですけれども、これは基準審議会ですかの答申によりますと、実際来年の法律施行のときまでに具体的に決めるというふうになっておるようですが、原則をはっきり立てた上で、いままでの具体例と申しますか、運用の実績に余り背かないような法律運用をお考えいただくようにしていただきたいと思うのです。そこをひとつお答えいただきたいと思います。
○倉橋説明員 調整の方法につきましては、われわれが法案を検討する前、または審議会の段階でいろいろ議論があったわけでございますが、先ほど局長が申しましたように、今回の調整規定の基本といたしましては最高裁判所の判例の趣旨を十分取り入れて制定したわけでございます。すなわち、既支給分及び既支給分と同一視されるような前払一時金相当部分につきましては民事賠償額の方から控除する、残りの部分につきましては、やはり本人が一時金という形で請求を選択した以上、その請求の道を閉ざすべきではないというようなことで、残りの全部につきまして民事賠償請求が可能なようにしたわけでございます。したがいまして、将来の年金給付部分につきまして、重複するという関係で労災給付の方を調整するということによりまして、最高裁の立場を尊重しつつ、合理的な調整を図ったわけでございます。 会社側、使用者側の保険利益を大分なくしているのではないかという先生の御指摘でございますが、その点につきましても、前払一時金制度を拡大することによりまして、保険利益につきましてはその前払一時金をもって保険利益とする、将来につきましては、やはりそのような不法行為等を行いました事業主に対して一定の額を保険財政から還元するということにつきましてはいろいろ社会的な問題等もございますので、その道はとらないで、それにつきましてはむしろ一般的に保険給付のみを控除して、使用者側につきましては保険利益を与えないというような制度を設けたわけでございます。これらの問題につきましては、今後いろいろ長期的に検討してまいりたいと思っております。
○大坪委員 お聞きの同僚議員諸君にも申し上げたいのですけれども、この労災の法律を読みますと、大変むずかしくてわかりにくいのです。特に民事賠償との調整規定は、私は頭をひねって何遍も読んだのですけれども、六十七条などというのは大変むずかしい規定でございます。原子力損害の賠償に関する法律というものがございますけれども、それが労災との関係で補償に触れておるところも、非常に舌足らずのむずかしい文章があるのです。たとえば六十七条について、皆さんお読みいただいて一遍でこれがわかる人がいたら天才じゃないかと思います。これは将来の注文ですけれども、国民の権利義務に関係することでもありますから、法律はなるたけわかりよく書いていただきたいと思うのですね。これは注文というよりもわれわれ自身も自戒しなければならない問題ですけれども、法文をもう少しわかりよく書いていただきたいということをお願いをいたします。 どうも時間が来たようでございますから、最後にひとつ大臣にお願いいたしたいと思います。 労働者の安全確保、衛生の確保ということがいまや労働基準行政の中心問題になってきたのではないかという感じがいたします。安全衛生関係の法規を事業主及びその事業所で働く労働者の皆さんに守っていただくということは非常に重要な問題でありますけれども、ただ守れと言ったところで、これはなかなかうまくいかない。その環境づくりの政策が非常に重要であります。特に中小零細企業では、事業主が、おれのところはそれどころではない、働け働けというようなことになりますと、どうしてもこの安全衛生の問題が二の次になる。しかし、安全衛生問題というものは事業主も本気で考えなければどうしても実行できない金のかかる問題でありますから、国の助成措置というもののほかに、この安全衛生に対する今後の労働行政の進め方について、大臣のお考えをお聞きしたいと思うのです。労働監督の制度がこれで十分なのか、あるいは労働者が相互にチェックできるようなシステムになっておるのか、あるいは労働者が安全衛生の企業内の制度について参加するような行き方をもっと思い切ってとったらいいのではないかというような問題があるように思いますが、この点も大臣にお尋ねいたします。
○藤波国務大臣 今国会でいろいろな御質疑をちょうだいしてきておりますが、その中で、特に労働者の安全と衛生の面から考えた労働行政のさらなる充実を期待する、こういった御意見もたくさんにちょうだいしてきております。従来も、何といってもこの労働者の生命の安全、健康の保全、特にいろいろな労働を進めてまいります中で常にその環境を安全なものに持っていく、そういった施策を充実してまいりますために努力を重ねてきておるところでございますが、今後の労働行政の中でもそのことを非常に重視いたしまして、今後も取り組んでまいりたいと考えておるところでございます。 特に御指摘のありました中小企業あるいは零細企業におきまして、経営基盤が非常に脆弱であることや、人によってでありますけれども、事業者の安全衛生に関する意識が非常に低調であるといったような面もございまして、労働者の安全衛生に関して多くの問題があるということにつきましては従来も指摘をされてきておるところでございます。 こうした現象にかんがみまして、これらを対象といたします監督指導に加えて、職場の環境を改善するための資金等を融資する労働安全衛生融資制度、一定の特殊健康診断の実施に要する費用を助成することによりまして特殊健康診断の定着化を図る中小企業労働者健康管理事業助成制度、さらに作業環境測定法に規定をする粉じん作業場等指定作業場を有する中小企業の事業場を対象といたしまして適正な作業環境測定を巡回して実施をすることによりまして、作業環境測定の定着化を図る委託中小企業巡回作業環境測定制度、さらに、チェーンソーの規格を具備したチェーンソーの買いかえに要する費用の一部を補助するためのチェーンソー買いかえ補助制度といったような助成策を展開して今日に至っておるところでございますが、今後ともこれらの施策をさらに一層充実をする、せっかくこういういろいろな助成の制度をつくりましても、それらが真に労働者の安全衛生のために役立っているということでなければならぬと思いますので、一層こういった制度の充実も期し、かつ関係者にPRもいたしまして、みんなでそういった環境をつくり上げていくように労働省といたしまして強力に行政指導を展開をしてまいりたい、このように考えておる次第でございます。
○大坪委員 終わります。
○葉梨委員長 この際、午後一時まで休憩いたします。 午後零時十一分休憩 ————◇————— 午後一時三分開議
○葉梨委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案に対する質疑を続行いたします。佐藤誼君。
○佐藤(誼)委員 労働災害死傷者数、昭和五十年以降どのような推移をたどっているか。
○津澤政府委員 昭和五十年におきまする休業四日以上の死傷は三十二万二千三百二十二件でございましたが、これが五十一年、五十二年とだんだんにウナギ登りになってまいりまして、五十一年が三十三万三千三百十一、五十二年が三十四万五千二百九十三、五十三年が三十四万八千八百二十六件と相なったわけでございます。 さらに、このうちの死亡災害について申し上げますと、この方は五十年から五十一年にかけて若干減少はいたしておりますけれども横ばいないし増加という傾向でございまして、数字を申し上げますと、昭和五十年が三千七百二十五人、五十一年が三千三百四十五人、五十二年三千三百二人、五十三年三千三百二十六人、このように相なっております。
○佐藤(誼)委員 私が聞いたのは労働災害死傷者数ですよ。
○津澤政府委員 ただいま申し上げました最初の数字が休業四日以上の死傷者でございます。後で申し上げましたのがその中の死亡者数でございます。
○佐藤(誼)委員 労働災害死傷者数というと、昭和五十年が概数で百九万、五十一年が百十三万、五十二年が百十三万八千、五十三年が百十四万、計数的にはずっと累増しておるのじゃないですか。
○津澤政府委員 ただいま先生御指摘の数値は労災保険の新規受給者の総数でございまして、仰せのとおり昭和五十年が百九万九千、五十一年が百出二万一千、五十二年百十三万八千、五十二年百十四万二千九百というような数字に相なっております。
○佐藤(誼)委員 昭和五十年以降、いま話があったように、年ごとに増加してきました。この労働災害のうち建設業、これは最も多いと思いますが、その建設業の死傷者の全体に占める割合、これは昭和五十三年で結構です。及び大規模災害の集中の度合い、これはちょっと表現の仕方はむずかしいと思いますが、その状況どうですか。
○津澤政府委員 ただいま申し上げました労働災害の中で建設業の占める割合は、御指摘のように、年々高くなってまいりまして、従来は製造業が最大の割合を占めておりましたのが、最近は建設業が第一位と相なりました。死傷者におきまして三四%、死亡者に至りましては四七・六%を占めるように相なっております。この数字は五十三年の数字でございます。 なおまた、私ども重大災害と呼んでおります一時に三人以上の死傷者を生じるような大きな事故、これも全体の中で建設業の占める割合が半分以上に相なっております。
○佐藤(誼)委員 いま述べられたように、昭和五十年以降労働災害死傷者数がどんどんふえている、その中で建設業の占める割合が多い。ところが、その昭和五十年以降といいますと、政府の景気対策に沿って公共事業予算、これが伸びてきた時期だと思います。ちょうどそれと軌を一にして労働災害死傷者数が増加している、とりわけ公共関連事業の多い建設業に集中してきている、こういう事態に事実はなっていると思いますが、その点どう考えますか。
○津澤政府委員 景気政策とも関連を持ちます公共投資につきましては、近年、毎年相当額に達しております。建設省の調べによりますと、公共工事着工総工事費評価額というものは昭和五十三年には十億円近い評価がなされておるところでございます。このような公共工事の工事費と、それから公共工事で発生したたとえば死亡災害などの件数とを対比いたしてみますと、工事費が実質で増加しております時期はおおむね死亡災害も増加しているというようなことから、両者の間には、御指摘のように、ある程度の関係があるものと考えております。
○佐藤(誼)委員 相互に関係があるという、そういう判断をされているわけですが、そこで労働大臣に聞きます。 このように労働災害増加の傾向、これはいま申し上げました昭和五十年以降、例の景気対策、経済政策優先、そういう結果持たれたものであり、当然それと並行すべき労働安全や労働政策がそれとの対比の中で非常に不十分でなかったのか、したがって、その結果このような事態を招いたんじやないかというふうに私は思うわけです。そういう意味では、この五十年以降労働災害、とりわけ労働災害死傷者数がふえてきたという、そのことについて、所管の労働省並びに政府の責任も免れないと私は思うのですが、どうですか。
○藤波国務大臣 第一次の石油ショック以来大変な不景気の中に落ち込みまして、暗いトンネルの中をくぐり抜けてこなければならなかった日本経済の姿、状態につきましては御理解をいただいておるところであると思います。その中からとにかく景気の回復を図らなければいかぬということで一連の公共事業を中心とした景気浮揚策が講ぜられて徐々に景気が回復をして今日に至ったということについても御高承いただいておるところでございますが、いま御答弁申し上げましたように、公共事業、建設業のいろいろな事業が増加する中で労働者のいろいろな災害が発生をし、死傷者もふえたということについては、やはり数字の上で無縁ではないということ、非常に関係があるということは、非常に残念ではありますけれども認めざるを得ないと思います。 ただ、一連の経済政策が労働者の死傷者数をふやしたというふうな論理の積み上げ方になると、これは非常に深い関係にありながら、そのことを意図して経済政策を打ったわけでも何でもありませんし、偶然そういうふうな形になって連なったということにつきまして非常に遺憾に存じておるわけでございます。事業が増加をし、そういった一連の労働災害が発生をするということが関連をするということについては、政府としては当然それぞれ安全を確保するための措置を講じてきておるところでございますけれども、もっと厳しい姿勢で臨むべきではなかったかということにつきましては、いまその数字を振り返って非常に大きな責任を痛感している次第であります。 とにかく労働行政の中で最も大事なことは、労働者の生命、健康の保全を図る、安全を守るということでございますから、従来も取り組んできておるところでございますが、今後もその姿勢をさらに強く打ち出しまして、いま申し上げたような政治の責任を、こういった行政指導を強く進めていくことによって、経済政策の結果が労働者の不幸に連なるというようなことのないように今後ともあらゆる努力をしてまいりたい、このように考えておる次第でございます。
○佐藤(誼)委員 申すまでもないことですが、人間の命と健康、これほど尊厳に値するものはないと思います。いまも労働大臣が言われたように、経済政策、言うなれば景気浮揚対策はそれなりに意味はあるわけですけれども、それに伴っていろいろな災害が発生するということは当然想定されるわけですから、それ相応の、あるいはそれに対するだけの力をやはりそこに注がなければ必然的に出てくると思うのです。したがって、その点は今後十分に留意していただきたい、よろしいですね。 それでは、時間の制約がありますから次に進みます。次に、簡単に言えば調整事項について質問していきます。 労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案要綱、その調整規定、つまり社労参考資料第一八五号、これによるとページ五十三、(三)イ、ロ、これに調整規定が当たると思いますが、ここに述べていることを要約するとどういうことですか。先ほども法律の文章は非常にむずかしいということはありましたけれども、端的に要約してわかりやすく言ってください。
○小田切説明員 法律の規定の説明ですから私の方から説明させていただきます。 使用者に賠償責任がございます民事賠償と労災保険給付との調整に関する規定でございますが、中身は大別して二つございます。一つは、民事賠償側において調整し得るという規定でございます。もう一つは、民事損害賠償がなされた際の労災保険給付側が給付を行わないことができるという調整の規定でございます。 前段の規定は、前払一時金であるとか失権差額一時金であるとかいう制度が設けられております年金につきまして、要は前払一時金の最高限度額の範囲内であれば労災保険の給付があるということを前提にして民事損害賠償額が調整され得るという内容でございます。 後段の民事損害賠償がなされた際の労災保険給付の調整でございますが、相当する民事賠償が行われましたその価額の限度で、労災保険からの給付を行わないことができるという規定を設けようとするものでございます。
○佐藤(誼)委員 法律条文の説明、解釈ですからなかなかすとんと理解しづらい点もそこにあると思うのです。私なりに常識的に言いますと、次のようになるのじゃないかと思うのです。 これは災害補償給付に新たに前払一時金制度を設け——これは設けていますね。労災保険制度から前払一時金を給付した場合、事業主はその分を損害賠償から差し引くことができる。一方、これは口の方ですが、また、一時金相当額を超える損害賠償が行われれば政府は保険給付をしなくてもいい、このように私は理解しているのです。間違いありませんか。
○小田切説明員 私、先ほど御説明しましたように、大別して二つの内容があるわけでございますが、前段の方につきましては、前払一時金制度それから失権差額一時金制度というような制度が新たに障害の年金につきましても導入されるわけでございます。そういうこととの関連におきまして、選択すればあらかじめ前払いとして一括して受け取ることができたであろう金額の限度額、すなわち前払一時金の限度額でございますが、また、失権差額一時金というような制度によりまして、早期に年金受給資格者が失権することがございましても、そこまでの金額につきましては給付が保証されているということになると思うのでございますが、その前払一時金として受け取ることができます最高限度額までは、仮に受給資格者、したがいまして民事損害賠償の場合には被害者ということになろうかと思いますが、前払一時金を選択して受け取っていなくてもそこまでの金額につきましては民事損害賠償の方を調整し得るというような規定でございます。
○佐藤(誼)委員 説明を聞けば聞くほどややこしくなりますので、私が述べたこととあなたがいま言われていることと、理解の度合いにおいては大筋、大体合っていると思いますので、それ以上、時間もありませんから言いません。 そこで、いまもありましたいわゆる調整規定を制度化した、あるいは制度化しようとする根拠となる考えは何ですか。 私の方から申し上げますが、口で言ういわゆる二重てん補論あるいは二重払い論といいますか、こういうものに基づく考えなんですか。
○倉橋説明員 いわゆる調整規定を設ける理論的な根拠でございますが、労災保険給付につきましては業務上による災害または通勤災害によりまして生じました損失の補てんを図ることを目的として制度が組み立てられているわけでございます。こういうような労災保険給付が行われた場合におきまして、それの同一事由におきまして片や事業主に故意または過失がある場合に事業主が民事損害賠償責任を負うケースがあるわけでございます。そういうように使用者に民事賠償責任が生じるような場合におきまして、民事賠償につきましては、いわゆる賠償でございますから損失の補てんの性質を有することは論をまたないわけでございますが、先ほど言いましたように、民事賠償と労災保険給付につきましては損害の補てんという共通性または相互に補完するような性質があるわけでございます。したがいまして、同一の部分の損害について一方でその補てんが行われれば、片方の方でその補てんを行う要がないというようなことで相互の調整が行われるべきものであるということから出発しているわけでございます。従来は、この両者の関係につきましては裁判上の調整が行われておりまして、民事賠償請求を起こした場合におきましては、労災保険給付は事故発生と同時にすでに支給を開始してまいります。その途中で裁判が確定するわけでございますが、すでに支給された労災保険給付部分につきましては、当然その損失補てんの性格から民事賠償額から控除する。さらに、将来保険から給付されるであろう年金相当部分につきましても、一定の評価をいたしまして損害額から控除し、他の控除されました残りの部分を逸失利益として民事賠償額として判決が下されていたわけでございます。 したがいまして、労災保険給付と民事賠償の判決額との間に相互重複するという関係がなかったわけでございますが、昭和五十二年十月に最高裁の判決が出まして、それによりますと、すでに労災保険の方から支給されたものにつきましては、損失の補てんをするという、同一の性質上、その部分については民事賠償額の方から控除するけれども、請求者が将来の損失について一括して履行を求めた場合につきまして、労災保険給付が将来に支給されることが法的に約束されても、それは民事賠償額の方で控除すべきではないという判決が出たわけでございます。 そういうような結果、われわれの保険実務におきましては、従来、将来の年金部分につきましては裁判上調整が行われたというような関係で法的な整備が行われていなかった関係上、重複支給というようなことが結果的に発生いたしまして、当初に申しましたいわゆる損失の補てんが二重に行われるというような不合理が生じたわけでございます。また、片や事業主にとっては、労災保険につきましては、労働基準法に基づく使用者の損失補てん義務を保険形式によって負担する、保険料を支払うことによってそういうものを代行させるような制度になっておりまして、保険料の負担と個別の賠償責任の負担が二重に生じるというような矛盾が出たわけでございます。 そういうようなことから、今回の調整措置におきまして、同一損害におきまして重複給付なり重複負担の問題を解消するため、他の立法例にならいまして、それを参考にいたしまして調整規定を設けたわけでございます。
○佐藤(誼)委員 なかなかむずかしい内容になりますから、答弁も長くなると思いますが、時間も制約されていますから、なるべく端的に答えるように努力してください。 それで、労災補償制度、損害賠償制度、この二つは同質の側面を持っている、したがって重複する部分については調整する、簡単に言えばそういうことだと思うのです。だけれども、私はおかしいと思うのです。つまり、両制度は制度目的が異なる、したがって異なった目的を持つ両制度からそれぞれ支払われても二重てん補にはならないというのが私の考えです。どうですか、端的に答えてください。
○倉橋説明員 御承知のように、労災保険制度は近代法におきます過失責任主義から発展いたしまして、無過失賠償責任理論を基礎に置きます法的な整備、さらにはそれを社会保険形式をもって実施をしようというような制度でございますが、その本質におきましては、使用者の損失補てん義務を労災保険制度によりまして行おうとするものでございまして、民事賠償におきます損失の補てんにおきまして、その部分につきましては全く共通性、性格の同一の部分があるわけでございます。私どもそういうようなことで、この両者の間におきましては制度を異にするというような理解ではございませんで、むしろ労災補償制度につきましては、基準法に基づく使用者の賠償義務の代行的機能を果たしているものと理解しております。
○佐藤(誼)委員 今回改正の重要な調整規定の根拠となる考え方についてですから、私の方の考え方を述べて、あなたの所見を聞きたいと思うのです。 労災補償保険制度は、被害者及びその遺家族の生活を使用者に保護させることを目的とする労基法上の法定補償制度を、保険制度を利用することによって集団として補償する制度であると私は考えます。つまり、この被災者及び遺家族の生活保障という考えは、労災補償保険法第一条、つまり目的です、そこに被災者及びその遺族を援護し、その福祉の増進に寄与すること、こう書いてある。これは一貫した考え方だと思うのです。したがって、労災補償保険制度は損害のてん補を直接の目的にしたものでないことは、これらの経緯から見て明らかだと私は思う。つまり、損害のてん補を直接の目的にしているんじゃない。あえて言うならば、生活保護であり、労働者の人たるに値する最低の基準を定め、そこから発生する発想によって被災者並びに遺家族の生活を保障し、保護する、こういうことだと思うのです。 ところが、一方損害賠償制度は、市民相互間において発生した損害をてん補することを目的に置いた制度である。損害のてん補であるのか損害のてん補でないのか、ここが明らかにならないと、異質か同質か、あるいはダブるかダブらないかという問題が出てくると思いますので、私はそう考えます。つまり、労災補償制度は、端的に言えば生活の保護であり、損害賠償制度は損害の補てん、てん補だ。そこに基本的な違いがある。したがって、被災者の権利から言えば、同一人の労災保険給付請求権と損害賠償請求権とは異質の権利だ。また、両制度は先ほど述べたように、制度目的を異にするので、両者は本来相互補完の関係にあるのではない。したがって、両制度によってそれぞれ利益を得ても相互に排除する関係にはない。以上の被災者の権利あるいは排除関係にないという、このことを考えれば、労災補償保険制度と損害賠償制度の双方から支払われても、二重払いでもないし、二重取りでもないというふうに私は考えるのです。 その点、どういうふうに考えますか。
○倉橋説明員 先生の御指摘につきまして、いろいろそういうお考えもあろうかと思いますが、労災保険制度につきましては、先ほど言いましたいわゆる保険給付に当たる部分につきましては、やはり損失の補てん、労働者が業務上の疾病または負傷、死亡等によりまして稼得能力を喪失する、そういうことに伴う損失の補てんの意味を持っているわけでございます。従来、労働基準法に基づく使用者の労災上の補償義務を保険形式で行ったということから生じたものでございます。 ただ、保険制度につきましては、単に保険給付のみならず、福祉事業その他によりまして罹災者等の援護措置を講じておりますから、保険制度の中の労災給付を除く部分につきまして、先生の御指摘のような側面があることを私どもは否定するものではございませんが、現在問題となっておりますのは、保険給付と民事賠償との調整の問題でございまして、この点につきましてはやはり損失の補てんという性質は両方ともあるんだ、また、それが同一事由にある場合につきましては、相互の補完関係があるということにわれわれは理解しております。
○佐藤(誼)委員 制度目的も違うし、制度の内容も違うという点は、具体的な事実、両者の制度上の内容を比べれば明らかだと思うのです。これは時間がありませんから多く述べませんけれども、たとえば労災補償給付の方は無過失責任であり、片一方は故意または過失が前提になっていますね。それから、給付については、労災の方は生計依存者に直接支給されるということですね。片一方は請求人の相続人。労災の方は、その額は死亡者の賃金を基準にしているわけです。片一方は、つまり民事損害賠償は死亡者の得べかりし利益の相続、こうなっているわけです。事項も違いますね。非常に内容的に違うと思うのです。それは制度目的も違うし、制度の中身も違う。それを無理に重ねて調整部分だとして調整するのはおかしいのではないかと私は思うのです。どうですか。
○倉橋説明員 損害賠償上の損害額の算定と労災保険給付との内容につきましていろいろ違いのあることは事実でございますが、私ども何回も申しますように、労災補償であります保険給付につきましては、労働者の稼得能力の喪失に伴う損失の補てんでございまして、これにつきましては、労働基準法につきましては一定額の最低基準という形で定めておりますが、それの代行的機能を果たす労災保険制度につきましては、労働基準法の最低基準にとどまらず、使用者の責務として最低基準を上回る補償を保険制度を利用して実施しようというものでございまして、その内容が基準法と違ってきたからといって、決して損失補てんの性格が変わるものでないと思うわけでございます。 なお、民事賠償との関係でございますが、民事賠償の中では、たしか慰謝料等につきましては、その損失につきましては労災給付の対象になっておりません。そういう問題につきまして、私ども、性格が同質であるというようなことを申しているわけではございませんが、逸失利益の中で、稼得能力の喪失に伴いまして生ずる逸失利益と申しますか、そういうものについては共通性、共通の基盤があると申しているわけでございまして民事上の損害賠償の中の逸失利益、そういうものについて重複される共通の部分があるということでございます。
○佐藤(誼)委員 引き続いて質問していきますが、前払一時金に関連して質問します。 具体的に申しますと、前払一時金の限度額相当分を控除しない民事賠償が行われた場合、意味がわかりますか、前払一時金の限度額相当分を労災給付の方で調整するのかどうか。
○倉橋説明員 御指摘の事案につきまして私の理解の範囲でお答えいたしますが、前払一時金の限度内で民事賠償が行われるということは、先ほど管理課長から説明がありましたように、今回の調整につきましては、民事賠償のいわゆる得べかりし利益の中から前払一時金相当分を除いた額が民事賠償額として判決されるわけでございます。その判決された額というのはすでに前払一時金相当額を減じているわけでございまして、したがいまして、さらにその減じた額が前払一時金相当額を超えているかどうかというようなことであれば、それにつきましては後段で説明いたしましたように、それにつきましての一定部分につきましては、労災保険給付との相当部分がある場合につきましては、労災給付の調整の対象になるわけでございます。ただ、その将来の得べかりし賃金相当額が前払一時金に見合わないような場合につきましては、すでに第一項におきまして労災給付の前払一時金制度によりまして控除されるというようなことになりますので、裁判上におきましては請求が棄却になるというようなケースではないかと思うわけでございます。これにつきましては、従来の最高裁の判例が出ます前の高等裁判所段階の判決におきましても、労災給付の既支給部分が非常に多くなった場合につきまして、賠償額が少額な場合につきまして請求が容認されないケースと同じように考えてしかるべきではないかと思うわけでございます。
○佐藤(誼)委員 私の質問しているところに触れて回答していないのですよ。つまり、調整規定で言いますと、これの五十三ページで見ますと(三)のイの後段の部分ですが、結局前払一時金というのは保険の方から必ず出るわけです。それにもかかわらず損害賠償の方でそれに相当する分をダブって支払った、その場合に改めて保険の方で前払一時金の分を調整するのかということです。はっきり答えてください。
○倉橋説明員 いま先生の御指摘の点で、裁判上事業主が前払一時金制度の控除の抗弁を出さない結果、裁判上前払一時金相当額の損害賠償の履行があった場合につきましては、労災給付といたしましては、その部分につきましては調整する考えはございません。
○佐藤(誼)委員 そうすると、その部分は調整する考えがない、こういうことですね。そうすると、民事損害賠償の方で支給する、これにも賃金相当分があるわけです。そうでしょう。それから、調整しないのですから、労災保険給付の方にも、つまり逸失利益、賃金相当分があるでしょう。これは二重になるんじゃないですか。
○倉橋説明員 民事賠償上、使用者が前払一時金部分につきまして控除の抗弁が出せるにかかわらず、それを抗弁を出さないで賠償額が確定した場合につきましては、私どもといたしましては、それはすでに事業主が保険利益を放棄し、かつ、それは使用者側が損害額がすでに保険を上回っても支給するという意図によるものと推測いたしまして調整をしないわけでございます。 さらに、将来の給付分につきましては、今回の調整規定におきましても、事業主がそれに対して調整を云々するようなことができない立場になっております。したがいまして、これにつきましては、私どもは、その部分につきまして使用者におきまして民事賠償の履行があった場合については調整をするということでございまして、保険上重複支給ということにはならないと理解しております。
○佐藤(誼)委員 重複支給にならないと理解しているというのはあなたの理解であって、これは現実の問題として、労災保険から支払っている部分には逸失部分、賃金部分が入っておって、そうして民事損害賠償のそれに相当する部分だって逸失部分、賃金部分が入っているんですよ。本来それを調整するというのが今回の調整規定でしょう。ところが、この部分については調整しないと言っている。そうすれば、同じ法律で、今度はあなた方は同質だと言っているのですが、同質のものを相互に調整しないで、ほかの部分の超えた部分については調整するというのは、法の趣旨から言っても一貫していないじゃないですか。
○倉橋説明員 前払一時金相当部分につきましては、使用者に調整することができるような裁判上の仕組みになっているわけでございます。前払一時金を超える部分と申しますか、将来の年金部分につきましては、使用者がいかにそれを控除を抗弁いたしましても、それは請求者が一時金で希望する以上、それに対しての履行責任は生ずるわけでございまして、その点で両者の取り扱いを異にする。また、保険の面からおきましても、前払一時金相当につきましては、すべての労働者に一律に保険を給付するというようなたてまえに今回仕組んでいるわけでございまして、そういう点で、すべての者に対して保険給付を平等にといいますか、均等に与えるという趣旨から見まして、私どもそのような扱いにしてまいりたい、その点が私ども取り扱いの差異を求める理由にしているわけでございます。
○佐藤(誼)委員 まず、先を急ぎます。 次は、具体的に聞きますけれども、改正案の調整規定では、民事損害賠償とありますね。民事損害賠償訴訟とは言ってない。その意味するところは何か。これが一つ。 二番は、調整の対象になるものは何か。たとえば見舞い金、示談金、和解金、また労使間協定による上積み補償などはどう取り扱われるのか。意味わかりますか。
○小田切説明員 改正案の規定につきましてお尋ねでございますので、御説明いたしたいと思います。 まず、御指摘のように、改正案の規定中、損害賠償というような言葉を使ってございまして、訴訟による場合というふうな表現は使ってございません。これは訴訟によらない場合であっても、法律上損害賠償の性質を持つものについては同じように考えるということでございます。 そこで、先生二番目の御質問ということになるわけでございますが、その場合に、法律上の損害賠償の性質を持つものにつきまして、慰謝料とか示談金とか、場合によっては企業内の上積み協定による上積み補償というのはどういうことになるのかというお尋ねだと思います。 まず、慰謝料につきましては、今回の改正案の規定の中におきましても、同一の事由についての損害賠償であるというような規定になっているわけでございますが、これは同一の事故についての損失補てんであるということに加えまして、経済的損失に対する補てんであるか、精神的損害に対する補てんであるかというような、そういう点も加味しました同一性でございます。したがいまして、労災保険給付におきましては、精神的損失に対する保険給付というものはございませんから、相当する損害賠償がなされるということはない。見合う損害賠償がなされるということがといいますか、損害賠償の方で慰謝料がなされております場合に、それに見合う保険給付が労災の方ではないということでございますから、調整の対象には慰謝料はならないということでございます。 それから、規定をごらんになっていただければおわかりかと思いますが、調整の対象になります損害賠償は、労災保険の給付によっててん補する部分に限るということになっております。労災保険の方から出る部分に相当する部分に限るということでございます。したがいまして、たとえば企業内労使協定によります上積み補償、これは労災保険から一定の給付があることを前提にいたしまして、それを上回るものとして出すわけでございますから、労災保険の方からの給付に相当する部分ではないわけでございます。そういうものは調整の対象にならない。 また、示談等におきましても、法律的な損害賠償としての性質を持つ示談金が払われるというケースがあろうかと思いますが、その場合にも、労災保険の給付に相当する部分を超えてなすものだ、全面適用である労災保険の給付があることを前提にいたしまして、それを超えるものとしてなすものであるというような場合には、労災保険からの給付に相当するものではないわけでございますから、調整の対象にはならないということでございます。
○佐藤(誼)委員 おおよそ考え方はわかりましたが、そこで、具体的なケースとして示談の例をとって質問します。 ここに示談書一通あるのですけれども、その示談書の内容を見ると、こういうふうなことが最後に書いてあるのです。「労災保険金を除き次の通り損害賠償について示談する。」金額何々、こうありますね。こういう例もあるわけです。 しかし、考えてみると、いまのように「労災保険金を除き」というふうに明示している場合もあると思いますが、その示談によっては、「次の通り損害賠償について示談する。」という場合もあると思うのです。つまり「労災保険金を除き」とは書いてない。 その次に、もう一つのケースは、「次の通り示談する。」と、何も書いてない場合もあると思うのです。 私、いま三つのケースを挙げました。御理解いただけますか。一番最初は「労災保険金を除き次の通り損害賠償について示談する。」次の第二番目のケースは「労災保険金を除き」とは書いてないのです、「損害賠償」とは書いてあるけれども。次のケースは「損害賠償」も書いてない、「次の通り示談する。」とある。 その場合、いまの説明によりますと、第一番目のケース、これは調整の対象外になると思うのです。まず、その点どうですか。
○倉橋説明員 いま一番のケースは、完全に労災の相当分がございませんから対象外でございます。
○佐藤(誼)委員 そうすると、二番のケース、つまり「労災保険金を除き」が書いてない、その場合には、これは対象になるのかどうか。対象になるとすれば、何も書いていないのですから、賃金や慰謝料の区別はどうなるのか。 それから、「次の通り示談する。」という第三のケースの場合には、「損害賠償」とは何も書いてないわけです。その場合は対象になるのかどうか、対象になるとすれば、賃金や慰謝料の区別はどこでやるのか。どうですか。
○倉橋説明員 第二のケースでございますが、これは損害賠償であることが明白でございますが、労災保険が込みで入っているのかどうか明らかでないわけでございます。私ども、このようなケースにつきましては、具体的な本人の内心の意思決定によって決定いたしたいと思いますが、三番目の問題を含めまして、どういうように損害賠償としての性質を持つものにつきまして、労災部分が含まれるかどうかにつきまして明らかでないような場合につきましては、できるだけ被災労働者の有利なような取り扱いを考えていきたいと思いますが、さらに、具体的なケースによりまして、その内心的意思決定に努めてまいりたいと思っております。
○佐藤(誼)委員 いま第三のケースについて、明らかでない場合には被災者が有利になるようにということを言われました。有利になると言ったって、線の引きようがないのじゃないですか、こういう場合。何が有利であるか。たとえば一番は、この場合は、被災者が有利になると言ったら、完全にこれは慰謝料だ、「次の通り示談する。」とあるんだから、これは慰謝料だ、これが一番この被災者にとって有利だと思うが、あなた方の考えから言えば、そういうように断言できる客観的根拠があるのかということですよ。どうなんです。
○倉橋説明員 具体的なケースにおきましてそれぞれ処置してまいりたいと思いますが、一般的に申しますと、当該示談が成立しました内容によりまして不明確な場合につきましては、私ども、本人の罹災時におきます賃金、それの稼働年齢等によりましてさらにホフマン方式等によりまして一定の損害賠償額を算定いたしまして、それによる逸失利益をもって損害賠償額として予定をしていきたいと思います。その損害賠償額の一定部分につきまして労災保険との調整を行っていくというようなことを実務上は考えてまいりたいと思いますが、これらの問題につきましては、今後労災審議会におきまして調整の実施の内容につきましてはいろいろ御審議をいただくことになっておりますので、その段階におきましてこういう点の取り扱いにつきましても明らかに基準をつくってまいりたいと思っております。
○佐藤(誼)委員 審議会で検討すると言ったって、たとえば、次の通り慰謝料を払う、次の通り示談するとして込みになっているケースの場合に、仮に調整の対象にしたところで、それじゃ賃金はどこまでであって、しかも保険料の部分が三分の二だとすればどこまでであって、さらに、賃金の上積み部分がどこまでであって、慰謝料、物損がどこまでであってなんて、これは調べようがないじゃないですか。そうなれば結局、私は、当局といいますか、労働省といいますか、これの判断と自由裁量、そういうことになってしまうと思うのです。そうなったらこの人にとっては大変な影響を与えてしまうという問題が一つあると思うのです。 それから、もう一つの問題は、いま示談の場合の三つのケースを述べましたけれども、この三つのケースで同じ金が出た、同じ金が示談されたという場合。示談の内容によって同じ金が示談された。一千万なら一千万と同一事件について三つのケースについて決められた。そうすると、ただ示談書の中身によって年金が継続されたり年金は打ち切られたりさまざまなことが出てくるわけです。こんなようなことが行政の一貫性から言ってあってしかるべきことであるのかどうか、どうも疑問を抱かざるを得ないのですが、どうですか。
○倉橋説明員 三つのケースで同額が出た場合ということでございますが、やはりいろいろなケースがあり、この三つの場合でも、具体的な内容につきましては、慰謝料の多寡の問題、いろいろ中が違うかと思います。非常にこの調整につきましては問題があろうかと思いますが、私ども民事損害賠償の内容を恣意的に解釈いたしまして調整を行おうということを考えているわけではございません。やはり合理的な調整を行うということがこの調整の趣旨でございます。この民事賠償の調整と同じような趣旨で設けられております労災保険法十二条の四という規定がございます。これにつきましてはすでに行政上の経験等もございますし、自賠保険の調整の基準なども経験もございます。こういうようなことの経験を踏んまえまして一定の適正な原則を立てていきたいと思っています。特に、先ほど申しましたように、労災審議会の答申の際に意見として付されているわけでございますが、調整の具体的な実施の上での基本的な考え方につきましては、審議会の議を経て定めるということにいたしております。私ども、審議会の議を経て合理的な基準、恣意的にわたらないような調整の運営を図ってまいる考えでございます。
○佐藤(誼)委員 今回の改正の目玉というこの調整事項ですね。具体的なケース、私はほんの一例を挙げたのだけれども、いろんな場合を想定するとたくさんの矛盾なり問題点が出てくると思うのです。きょうは時間がありませんからその程度にして、そこのところはわが党の議員が質問されると思いますから、そこできょうは打ち切ります。 次に、私は非常に矛盾に思いますのは、たとえば使用者に対する責任追及、具体的には訴訟ということでありますが、使用者に対する責任追及を放棄して見舞い金等の名目で金を受領した者は、いま言った損害賠償金ではない、その理由で年金は給付される。つまり年金給付は続けられる。反対に、責任を追及して勝訴した者は、その金は損害賠償金であるという理由で年金が打ち切られる。そうでしょう。これは私は社会正義に反すると思う。いわばこの年金給付の打ち切りは、後段で述べた提訴した被災労働者に対しては懲罰的なものとして機能すると私は思うのです。もっと端的に、短絡的に言うならば、提訴するならば年金は切るというような、そういう機能になって働いてくると思うのです。私はどうもこの点が矛盾だと思うし、社会正義に反すると思うのです。どうなんですか。
○倉橋説明員 使用者から見舞い金をもらった場合には調整にならないということでございますが、一般的に見舞い金につきましては、あくまでも見舞い金でございますので、損害賠償とみなすわけにまいりません。したがいまして、そういう性質から調整の対象には一般的にはならないという理解でございますが、見舞い金をもらったからといって本来民事賠償請求権が消滅するわけでございませんし、本来民事賠償で請求すべきものはその請求権に何ら変更を及ぼすものではないわけでございます。私ども考えておりますのは、損失の補てんという性質を有するものについての重複部分を調整するということでございまして、請求者が使用者の責任を追及するために民事賠償請求を行うということは、これによって請求権が、不法行為に基づく損害賠償請求をしたからといって、また、しないからといって、そのような機能が何ら変わるものでない、あくまでも、民事上の手続または示談等によりましてそれ相当額を受けた者につきましても、損害賠償であれば当然調整をするということでございますので、私どもその調整規定が懲罰的機能を有するような運営にはならないというふうに理解をしております。
○佐藤(誼)委員 確かに見舞い金は損害賠償じゃない。ですから、民事訴訟を起こすということと何も矛盾するものではない。これはそのとおりだと思うのです。ただ、具体的なケースで見た場合に、たとえば見舞い金を三千万円もらった。これは調整の対象になりませんね。これは当然年金が支給されていくわけです。ところが、民事損害賠償訴訟を起こして判決が出た。そして、仮に四千万円出た。そうすると、これは調整の対象部分になりますから、逸失利益、賃金相当部分、それは年金が停止になるわけです。仮にこれが一千五百万だ。停止される。そうすると、実質的に訴訟によって得るものは二千五百万円であり、見舞い金で得るものは三千万だ、いまの数字を仮に仮定すればそういう結果になると思う。そうすると、わざわざ金と手間と労力をかけて訴訟を起こすよりは見舞い金で手を打ってあと年金もらった方がいい。裁判にかけると手間暇かかる上に調整されてしまうのだ、こういうような常識的な意味で影響を与えてくるのじゃないか。それはとりもなおさず損害賠償訴訟を起こすことを結果的に抑える方向に作用していくのじゃないかというように私は思うのです。どうなんですか。
○倉橋説明員 何回も申しますように、逸失利益の補てんをするということが損害賠償のいま問題になっている主要な部分でございますが、それにつきましては、逸失利益というのは一定額でございますから、これが一方で履行されてまた他方であわせて履行されて逸失利益分がふくらむということは全く理論的にもおかしいわけでございます。一方で履行されれば片方ではすでに補てんをする要がないというような性質を有するものでございます。見舞い金というものは、その逸失利益に当たらないいわゆる精神的な損害の補てんなのか、さらにはもっと金一封というような性格のものか、いろいろあろうかと思いますが、少なくとも逸失利益に相当しないような性格のものであるというような理解に立ちますれば、その間に金額的にたまたま同一であっても逸失利益の調整上について違いがあってもやむを得ないのじゃないか。むしろ逸失利益相当分は両方とも同額であるようなことになるわけでございます。その同額である民事賠償請求権を本人が見舞い金をもらったから行使しないというようなことはない。やはり見舞い金は本来逸失利益とは別の性格のものであれば労災訴訟としての民事賠償の請求ができるわけでございます。したがいまして、御指摘のような作用を営むということはあり得ないのではないかとわれわれは思うわけでございます。
○佐藤(誼)委員 あり得ないということを言いますけれども、見舞い金というのは明確に民事損害賠償等で調整規定に触れてないことは、先ほどの答弁もありましたが、明らかだと思うのですよ。とすれば、これは慰謝料に相当するのか、あるいは物損に相当するのか、あるいは社会常識的なおわびになるのかわからぬけれども、とにかくこれは対象にならぬとすれば年金は支給され、継続されていくことは明らかです。ところが、同じ事件について、見舞い金などというもので打ち切るということでなくて、それをけって民事損害賠償を起こした、こうなりますと、たとえば先ほど言ったように四千万円の支払い命令が出た、そうなりますと、この部分はまるまる逸失部分とか、あるいは賃金相当部分ではありませんから、一部年金から減額されるのでしょう。それを千五百万円と見れば残が二千五百万円になるのではないか、こういうことだと思うのです。これは高松高裁五十年三月二十七日の判決などを見ますと、逸失利益が千六十七万円、慰謝料が千三百万円になっているでしょう。大体大筋均衡していると考えますと、若干、賃金相当部分を四千万を二千万としないで千五百万としたわけです。たとえばそうなりますと、先ほど言ったように、わざわざ損害賠償訴訟を起こすよりは見舞い金で手を打った方が実質的に利益も上がるし、そしてまた早く片づく、年金をもらえるということになるのだと私は思うのです、こういうケースをとりますと。したがって、この点は非常に大きな問題を今後招く点ではないかという点を指摘しておきます。 そこで、ちょっと質問を変えます。 次に、労働安全にかかわる問題ですが、この民事損害賠償訴訟はずっと年々ふえてきたと思うのですが、これは使用者側の故意または過失責任を問い、また使用者側の安全履行義務を追及することによって使用者側の安全責任を明確にし、また職場の労働安全に一定の役割りを果たしてきたと思うのです。この点どうですか。
○倉橋説明員 労災訴訟におきまして判決が出て、使用者の安全衛生責任が明確化される、職場の安全管理確保義務の点が明らかになるというような判決によりまして、個別の使用者が安全確保義務の自覚を高めるという効果があったことは私どもも十分認めるところでございます。
○佐藤(誼)委員 効果を認めるということですが、先ほどから事実経過の中で、あるいはケースを挙げて説明しているとおりで、皆さんの改正案の中心になっている改正規定は、意図いかんにかかわらず結果として訴訟を抑える効果を生んでくるのではないか。そうすると、この調整規定によって訴訟の数が少なくなっていくと私は想定しますから、そうなりますと、今日まで積み上げられてきた訴訟の結果、積み上げられてきた使用者側の安全責任をこのことによって後退させ、職場の労働安全に手抜きを与えるということにずっとつながっていくのではないか。それはつまり労働安全の手抜きということは、ついては労災や職業病の誘発ということにつながっていくのではないか。このたびの調整規定はいろいろ先ほど言った矛盾もあった。しかし、最大の問題点は、結局効果としては民事損害賠償訴訟を抑えるというところに効果があらわれ、それは民事損害賠償訴訟が果たしてきた役割りを減殺させて、結局使用者側の責任というものを後退させ、職場の労働安全に手抜きを与えて、いまでさえ多くなっております労働災害をますます誘発し、加速させていくのじゃないかというふうに私は思うのです。その点どう考えますか。
○吉本(実)政府委員 今回の調整規定が施行されることによりまして事業主に対する損害賠償請求がやりにくくなるということは、私どもはそうならないというふうに思っておりますし、また事業主の労働安全衛生上の義務がこれによって緩和されるものでもございません。したがって、これによって災害の誘発につながるというようには私どもは理解しておらないわけでございます。もとより職場の安全衛生ということを当然確保することは私どもの重点でございまして、今国会におきましても労働安全衛生法の改正、建設業等を含めまして、そういった片方の改正案も準備をしてお願いしておるところでございます。そういうことで私どもは対処してまいりたいと考えております。
○佐藤(誼)委員 時間が制約されておって十分詰め切れませんけれども、労働大臣、調整規定については、具体的なケースを想定すれば、矛盾もかなりあると思うのです。しかも、私の見解によれば、調整規定が民事損害賠償訴訟を抑えるという効果を結果的に生むであろう。そうなれば、私の想定から言えば、最大の労働省の課題である労働災害、職業病の多発につながっていくんじゃないか、こういう問題が一つあると私は思う。 もう一つは、私は常識的な言い方をすると、この調整規定がない状態といまつくった状態を考えますと、この調整規定ができることによってどっちに利益を与えるかと言えば、私は使用者側だと思う。労働者側は常識的な意味で言うと、いろいろ問題を含んでいる問題だと私は思うのですよ。そういうもろもろの問題があるわけです。したがって、今後もこの問題は十分検討することにして、そうしてこれは本日提案しているわけですが、この点については今後継続的に検討していこうというような考えは、労働大臣、ありませんか。
○藤波国務大臣 いろいろと御質疑をいただきまして問題点を明らかにしていただいておりますことを心から感謝いたしたいと思います。 民事賠償との調整の規定につきましては、労働災害による労働者の損失の補てんに関しまして、民事賠償と労災制度との法制上の不備から生じた不合理さを解決するためのものでありまして、ぜひこの際改正をしたいということで従来から取り組んできておるところのものでございます。この規定の有無によりまして訴訟の提起が左右されるものではないと私どもは考えておりますし、またこのような調整規定の導入によって、いま先生御指摘になられましたように、事業主の安全義務を軽減するものでもない、局長がお答えをいたしましたように、私どもはそのように考えておるわけでございます。 労働災害につきましては、従来から労働行政の最も重要な柱の一つとして私ども取り組んできておりまして推進をしてきたところでございますけれども、今後とも全力を挙げて安全対策を講じていくようにしなければいけないというふうに考えますが、いま委員から御提案のございました、この際は調整の規定に関しては継続的に検討するようにしてはどうかということにつきましては、私どもといたしましてはいろいろ検討いたしました結果、他の仕組みとのいろいろな整合性等も考えまして、この改正の機会にぜひ不備な点を補強したい、正しい方向に持っていきたい、このように考えまして御提案を申し上げておる次第でございますので、どうか慎重に御審議の上、ぜひ今回の改正の中でこの調整の規定をお認めをいただきますように心からお願いを申し上げる次第でございます。
○佐藤(誼)委員 時間になりましたから、以上で質問を終わります。
○葉梨委員長 次に、田口一男君。
○田口委員 いままで労災保険による給付と、それから民事損害賠償による賠償金との調整の問題で佐藤委員が具体例を挙げておったのですが、私もそれに関連をして二、三質問をしたいと思います。 その前に、この委員会の調査室からいただきました資料一八五号の百ページに「労働災害に係る損害賠償訴訟一審係属件数」というのが、昭和四十四年度から五十三年度まで十年間にわたって数字が出ております。ごらんいただきたいと思うのですが、昭和四十四年度は三百四件、それが五十三年度には千百九十八件と毎年毎年ふえてきておるわけです。この係属件数がふえてきておるということについて、いままでの佐藤委員とのやりとりをお聞きになったそれらを踏まえて、大臣はふえてきておることをどう見ておられるのか、まず冒頭にお伺いしたいと思います。
○藤波国務大臣 御指摘のように、民事損害賠償訴訟が非常にふえてきている、このことについてどのように考えるかという御質問でございます。 最近における地方裁判所に提起されて係属中、未処理の労災事案に関する損害賠償訴訟の件数は約千二百件程度とせられておりまして、非常に大きな数字でございます。各年末における係属件数を見ますると、昭和四十年代は急増いたしましたが、五十年代に入ってからは微増程度にとどまっておるのが数字の傾向になっております。さらにまた、新規に提起される件数は年間数百件程度、そして係属中であるという件数が非常に多い、こういうふうになっておるわけであります。 これは被災者側の権利意識の高まり等も反映をしておるものであると考えておるところでございます。件数が非常に多いわけでありますけれども、少し長期に見てみると係属中のものが多い、こういうふうなことで、一つ一つこれから結果が、それらの係属中のものから出ていくということになります。長期に見るとそれほどでもない、非常に突き放したような言い方になりますけれども、数字の上ではそういう見方もまたできるわけでありまして、労災保険の権利意識などが高まってそういうような訴訟問題として提起されて今日に至っていると思います。 労災の件数そのものも非常に多いではないか、さっき佐藤委員の御質問にもございました。特にその中で経済政策、景気対策等々と労災の事故との関係が非常に多い、労働者の死傷者の数とも関係が非常に深い、こういうようなこともございました。一概に私どもとしてこれを申し上げることはなかなかむずかしいわけでありますが、いろいろな経済の動きとともに死傷者の数もふえ、その中で非常に訴訟の件数という形も出る。できる限り私どもとしては安全性を確保するために従来も取り組んでまいりましたものを今後も力強く充実をしていくようにしなければならぬと思いますし、さらに労災そのものにつきましてもいろいろ改正をし、充実をしていくことによって、もしそういった労働災害に遭うということであれば、御心配にならないような方向に向かってこの仕組みを充実することによって、結果としては労働者が非常につらい思いをしていくことがないように、損失の補てんが十分に行われていくような形に持っていくのでなければいけない、このように考えておる次第であります。 〔委員長退席、越智(伊)委員長代理着席〕
○田口委員 いま大臣は労働者の権利意識の高まりと言われたが、一面私は正鵠を射た見方をされてみえると思いますが、そこのところの見方は、今度の調整規定は目玉という表現もあったのですけれども、立法論的にいうと、この十年間に毎年毎年ふえてくる労災訴訟、労災裁判、これの見方を正しくつかむことによって道が二つに分かれると思うのです。確かに大臣おっしゃったように、労働者の権利意識が高まってきたことは否定できない。二つ目は、いま経済的云々ということもこういうことを指してみえると思うのですけれども、他の類似の訴訟、たとえば公害裁判、それから薬害、さらに自動車事故、こういった裁判によって賠償額は比較にならぬほど高くなってきております。となると、同じ人間の命を金で換算するということはちょっと変な言い方になるのですけれども、労災保険給付は交通事故や公害に比べて安いじゃないか、こういうこともあると思うのです。したがって、訴訟の方に行く。それからもう一つは、労災保険給付が、損害賠償として裁判の方からとった場合に一時金としてとっておる、その一時金が比較的高いものですから、たとえば労災の遺族や、それから労災にかかった労働者の生活を支えるという点については裁判の方がよりメリットといってはなんですが、まあメリットが大きい。そして、さっきもお話がありましたけれども、企業の安全確保ということについて、こういう裁判を通して意識がだんだん高まってくる、こういうことから、一面的な見方かもしれませんけれども、この十年間に労災裁判の数がふえてきた一つの原因ではなかろうか、私はこう思っておるわけです。 そこで、今月の一日に、全国の民有林で働く山林労働者の方々が労働省や林野庁と交渉した。それから、今月の十日には、全国の脊髄損傷者の連合会という組織があるのですが、そういった代表の方々が労働省に陳情に行く。それから、十一日には交通労働者、主としてハイヤー、タクシーの運転手の方々ですが、その方々が労働条件の改善について労働省に陳情に行く。こういう三つばかりの要請行動に立ち合ってみましたが、そこでつくづく思うことは、いま言う調整の問題、保険給付と民事損害賠償との調整の問題についてどうも労働省は、いま私が冒頭に申し上げたように、立法論的に言って労働者側を抑えるというふうにちょっとウエートをかけ過ぎているんではないか、そういう気がしてなりません。たとえば、いま言った三つの要請行動の具体的事実は時間の関係であれこれ申し上げませんけれども、純経済的に言って、さっき逸失利益という言葉がございましたが、たとえばなぜ裁判に持っていくのか。そうしますと、大体いま定年が五十何歳、六十歳というのは珍しいのですが、普通六十七歳くらいまでの稼働年数ということについて逸失利益云々をしておる。収入の減少分を損害賠償しようじゃないか、こう言っておるわけですね、普通の裁判例をずっと見てみると。 それから、労災の方はどうかといいますと、たとえば休業補償なんかを例にとってみましても、平均賃金の六〇%、定型です。それから、障害補償年金だって第一級の場合を例にとりましても三百十三日分、これは一年三百六十五日飯を食っているのですけれども、そういうと八五%分しか障害補償年金としては出てない。ということは、裁判で取った賠償金と労災保険給付とを比べると、労災保険給付の方はいずれも労働者の事故当時の賃金というものを一〇〇%補償していない。こういうところから、私がさっき立法論的に労働省は間違っているんじゃないかという言い方をしたことは、たとえばそういう労働者の状態、ずっと調べた上で、そんな裁判なんかしなくても、その不幸にして亡くなった被災労働者の遺族の方々の後顧の憂えのないような保険給付がされるのであれば、この労災、これは一つの権利ですから、どうこうは言えぬと思うのですが、経済的な面から見た場合に、そうそう訴訟件数ということがふえてこないんじゃないかと私は思うのです。 この点、基本的な立場としてそういうふうにやるべきじゃないかと思うのですが、大臣どうでしょう。
○吉本(実)政府委員 ただいま御指摘のように、損害賠償件数というものが急増しているのではないかという点でございますが、四十年代に急増した理由が給付水準の低さにあったということは言い切れないと思いますが、労災保険制度におきましても昭和四十五年、四十九年、五十一年とたび重なる改正を経まして、現在はILO百二十一号勧告の基準も満たすように相当の水準になっておるというふうに私ども理解しておるわけでございます。また、諸外国等西欧先進国と比較いたしましても、外見的には、給付水準について若干いろいろ部分的に見劣りする点もございますけれども、全体としまして、いろいろ非課税であるとかあるいは厚生年金給付との併給があるとか、そういった点を考慮いたしますと、決して西欧先進諸国と比較しても劣ってはおらないというふうに考えるわけでございます。 しかしながら、先ほど御指摘のような点もございます。そういうことで、私どもは対処していこうと思っておりますが、この損害賠償の問題等との関係につきまして、要するに、稼得能力、逸失の補てんをするという意味におきまして、その関係においては民事賠償の場合もあるいは労災保険給付の場合も同質であろうというふうに考えておりますから、いろいろ訴訟の関係で出てくる問題につきましては、それをさらに労災保険の問題につきましては、たとえば先ほど御指摘のように、三分の二程度のところに基本を置いておりますから、その裏の三分の一の問題、あるいはそれを上回る問題、あるいはいわゆる慰謝料的な問題、そういったことを求めて訴訟も行われているのではないかというふうに私どもは理解している次第でございまして、基本的な損害賠償の中身の逸失利益についてのそれぞれの相互補完性というものについては、私どもそこは一つの調整の対象として重複している部分については整理をしていかなければならぬ、こんなふうな考え方でおるわけでございます。
○田口委員 後で具体的な例を申し上げたいのですが、やや抽象的な言い方ですね。いま局長おっしゃったように、いままでの労働省の努力が、労災保険給付水準の改善をサボったとかどうとか私は思いません。そのときそのときの改正案によって相当程度改善をしてきたことは評価いたします。ただ、そうは言っても、たとえば上積み補償というのをずいぶん労働組合なんか持っておると思う。法定外の上積み給付、こういうことが起こる原因は何かと言えば、いまの法定給付では不十分だということですね。いまの法定給付で一〇〇%満足をしてなお多々ますます弁ずるという意味で上積み給付なんかをするということは労働者じゃないと思うのですよ。いまのあれが不満足だからそれを一〇〇%に近づけようとして上積み給付がある。ところが、えてして組織のあるところはそうなんですけれども、未組織の労働者の諸君であるとか、この間、十日に会った脊損患者の方々の大半は未組織なんです。そういった事情を聞いてみると、上積み給付はそういうことができないから裁判を求めたのだと言っておる。 こういう状態を私は一口で言うと、言うならば最低生活保障というものに労災補償給付がまだ達していない。だから、これは仮定の問題のような言い方になるのですけれども、少なくともいまの労災補償給付が労働者の遺族、本人も含めて最低生活保障の域に達すればこういった損害賠償という訴訟が減っていくのじゃないか。そこのところの努力がなお不十分である。その努力をしないというとちょっと皆さんの方に言い過ぎになりますけれども、しておるのでしょうけれども、こっちの方はちょっと軽く、そして調整の方にきつくということはうなずけぬということですね。ですから、さっきから私は立法論的ということは、それはいずれは裁決をするのでしょうけれども、そういう調整の方ばかりにやるのじゃなくて中身を濃くしろ、そのことの方が先決問題ではないのか、このことをまず基本的に私は申し上げたいのです。その点についてお考えがあれば聞きたいのです。 ちょっと資料が古いのですが、おたくの方で出した労働省婦人少年局、労働災害遺族の生活実態に関する調査というものがある。御存じでしょうね。これを見ましても、いろいろと細かく調査をされております。私から申し上げる必要はないと思うのですが、おたくの方の調査ですから。労災についてどういう要望事項があるか、労災年金や葬祭料の増額六四%、それから年金受給資格制限の緩和、そういう点について労災の遺族が強く望んでおる。こういうことから見ましても、私は調整規定云々というととは学者先生、弁護士の方々が多く反対をしておりますから法理論はここでは避けますけれども、やはり中身を濃くするというふうに労働省としては考えるべきではないのか。この点についてどうお考えですか。
○吉本(実)政府委員 ただいまお聞きのように、確かに先生おっしゃるように、私ども労災給付の内容につきましては、先ほど申しましたように、その都度いろいろと検討し、可能な限り給付の充実に努めているところでございまして、先ほど申しましたように、一般的な水準はかなり上がってございます。しかし、それにいたしましてもいろいろそういった御要請もあることでございます。今回の場合におきましても、保険財政の赤字の中でできるだけそういった点にも配慮しながら給付の当面の措置ということで、実は今回御審議願っている内容も給付改善を行うというふうに考えているわけでございまして、なお、基本的な全般的な水準等のあり方につきましては労災保険審議会におきましてさらに検討もすることにいたしておりますので、そういった点の御審議の経過も踏まえつつ、さらにこういった点についての改善もしてまいりたいというふうに考えるわけでございます。 そこで、調整の規定につきまして、それに大変重点を置いているというような御指摘でございますが、私どもといたしましては、いわゆる五十二年の最高裁の判決以来経過的にそういった点が出てまいりましたので、一番早い改正時期にその点の法的不備を整理するという意味でこの規定を考えたわけでございまして、決してこの点が何か大変なことであるというふうな意味では理解しておらないのでございます。そういう意味でひとつ十分御理解していただきたいと思います。確かに私どもといたしましても、本体はやはり給付の内容そのものにあるし、そのもとにある最近の保険財政の確立をした上でそういった点についての配慮をしているのが今回提案している内容でございますので、ひとつ十分御理解していただきたいと思う次第でございます。
○田口委員 抽象論ではあれですから、具体例をこれから申し上げたいのですが、この四月一日に全国山林労働組合、山で働いてみえる労働者の皆さん、そこでも出ておったのですが、労災の遺族補償、民事損害賠償の判例と労災の遺族の範囲とを労働省は検討してみたことがあるかと私は言いたいのですね。労災法の方では子、孫とか配偶者とか、遺族の範囲を決めてありますね。ところが、先般の山林労働者の方々がこういう話をしておったのですが、これは広い世間ですから間々どころではなくてたくさんあると思うのですが、実の親ではなくておじざん、おばさんに小さいときから育てられて成人をする、その成人をした山林労働者の方が不幸にして災害に遭う、その場合に、育ててきたおじさん、おばさんには養子縁組みをしていませんから遺族補償はいかぬのですな。実の、戸籍上の親にいく。これで、婦人少年局が調べた調査にも載っておるのですが、トラブルが多いのですよ。大岡裁判じゃないですけれども、どっちが手を引っ張るかという裁判をしなければならぬ。そういう点が労災補償保険法ではぴしっと、血も涙もない言い方をしている。わずかに内縁の夫についてはどうこうということですけれども。そういうおじさん、おばさんといったような育ての親に対して一体どうするのか。損害賠償の場合、それが請求人として勝てば損害賠償がある、ところが労災の方ではない、こういうところをすきっとした方法で法律改正をすべきではないのか。それは私は損害賠償の状態から、ひとつ整理をしようということにもなると思う。これは一つの例ですよ。 それから、夫婦共働きの場合に、夫が死亡する、ところがその奥さんには一時金しか出ない、こういう例もあるのですね。こういったようなことが損害賠償を起こす一つの原因でもあると私は見ておるのです。そういう教訓を今度の法改正で中身を濃くするという方に入れるべきではないか、それが一つ。 それから、今度スライドが六%云々ということになりました。私は一定の前進と評価をしています。ところが、六%といったって、昨年の厚生年金の物価スライドが特例として三%、厚生年金法では五%云々ということが四十八年改正でできておる。となると、六%云々の賃金スライドということは一〇%から見れば一歩前進ですけれども、少なくとも五%という厚生年金法、国民年金法の物価スライドに横並びすべきではないか、こういう問題がやはり生かされていない。これをもって、前に比べて改善したのですからと言うのでしょうが、十分ではない。この辺どうですか。
○倉橋説明員 ただいま遺族補償の遺族の範囲についての問題でございます。生計維持関係にあったおじさんが遺族の範囲に含まれないということでございますが、先生御承知のように、労働基準法に基づく使用者の補償をすべき遺族の範囲につきまして、労働基準法及び施行規則におきまして、主として死亡労働者の生計維持関係を中心に、かつわが国におきます国民感情における相続との調和を図って一定の範囲を定めているわけでございます。 御指摘のように、おいの死亡によりまして生計維持関係にありますおじにつきましては基準法上の遺族範囲に含まれないということになっているわけでございます。この遺族の範囲をどこにするかという問題でございますが、やはり労災補償は先ほどから言っているように、労働者の負傷、疾病、死亡等によります稼得能力の損失ないしは遺族の生計維持利益の補てんというようなことに着目いたしまして、一定の限度内の範囲にせざるを得ない。それも生計を中心とした一定の範囲ということにせざるを得ないわけでございます。その方がより遺族の援護に厚くなるわけでございます。ただ、現在のところ、おじにつきましては、生計維持関係が含まれておりませんが、それらのおじまでの親等関係まで広げることにつきましては諸制度との関係、国民感情等の問題もございますので、この点につきましてはいろいろ中で他制度との均衡等も考慮いたしまして、今後の検討の課題といたしたいと思うわけでございます。 また、夫婦の共働きの問題で、主人が死亡した場合、妻に一時金しか出ないという問題でございますが、これもやはり夫が生存中に妻が夫の収入によって生計維持関係にある場合につきましては遺族としての年金が支給されるわけでございます。そういう関係のない妻につきましては、従来の労働基準法ないしはそれを直接受けました趣旨から、妻については一時金ということになっておりまして、やはりこれも労働者の死亡によりまして生活利益、扶養利益を喪失したという面の補てんでございますので、この点につきましては制度的な問題がありまして、この拡大についてはいろいろ問題があるわけでございます。 三番目のスライドの問題でございますが、現行一〇%の賃金スライドを六%に下げたわけでございますが、この趣旨につきましては、障害の等級間格差に求めまして、それの合理的な調整を図るために行ったわけでございますが、先生御指摘のように、厚年等の五%のスライドにしたらということでございますが、厚年等は物価スライドを予定しておりまして、やはりこれは一つの生活援助的な色彩が非常に強い社会保障でございますが、私どもの制度は、生前におきます賃金の損失補てんを中心に考える以上、やはり賃金スライドにするのがそのたてまえではないかと思いますし、この点につきまして、いろいろできるだけスライド率を低くするというような御議論もございますが、私ども今回は一〇%から六%に引き上げることによりまして、できるだけ一般の賃金水準が年金受給者の受給年金額に反映できるように措置したわけでございます。
○田口委員 いまの遺族の範囲、スライドの問題でやれば、ちょっとまた時間が欲しいのですけれども、スライドの問題だけ再度言います。 いま景気が悪いですな。賃上げも、いよいよあしたストライキなんですけれども、何%になるか、来年がことしのように六%、八%いくか、経済の低成長ということを考えるとちょっとむずかしいんじゃないかという気もするわけです、これはやってみなければわかりませんけれども。しかし、客観的に見た場合に六%、一〇%というのは望めぬだろう。したがって、厚生年金の方は物価ということに主眼を置いておるのですが、去年は五%という法定数字がありながら特例として三%にした。それから、共済年金や恩給なんかのスライドも、人事院勧告がことしも何%出るか知りませんけれども、三・六から三一八ですね。それに基づいて本年も恩給法、地方職員共済組合、国家公務員共済組合、全部共済年金をスライドしておる。こういう例から考えると、ここ二、三年、四、五年先まで見通しても六%、七%という水準はちょっと無理なんじゃないか。となると、私は去年の特例のように三%にせよとは言いませんけれども、少なくとも厚生年金法で決めておる五%に横並びをしてとる根拠が示されるのだ。六%の根拠を示せと言ったって、これは水かけ論ですね。そういう点で、私はスライドの数字は少なくとも厚生年金法の数字に横並びをすべきではないのか、これを再度申し上げたい。いますぐ返事をもらえますか。
○吉本(実)政府委員 私ども、賃金稼得能力の補てんを目的として、賃金を基準にしましてスライドの発動要件を考えているわけでございますが、その場合の六%がどうだろうかということでございますが、私どもが現在いろいろ知っている範囲の賃金水準動向によりますと、おおむね毎年まずこの六%でスライドできるだろうというふうに考えております。どういう形で六%にしたかというのは先ほど審議官からお答えしたとおりでございますが、全体の動向から見まして、まずいけるのではなかろうかというふうな理解に立っているところでございます。
○田口委員 この問題は後でまたいろいろとやりたいと思うのですが、同じような発想に立って言いますと、労災保険の給付基礎日額というのがあるのですね。いま労災保険法の規則第九条で、何か本年四月から若干上がったそうですけれども、現行の給付日額が二千百八十五円。これなんかも先般の山林労働者の皆さんの発言を聞いておりますと、これは林野庁ちょっと参考までに聞きたいのですが、ある程度高い賃金を取ってチェーンソーで働いておった。それが振動病でだんだん仕事ができぬようになった。軽易な仕事につく。金額で例示しますと、一番高く取っておったところが一日五千円としますね。ところが、だんだん振動病がえらくなって働いても五千円を取れぬ、二千円くらいになってしまう。その二千円くらいを基礎にして給付基礎日額というものを決めるものですから、大変生活の実態からいって困っておる。こういう意見がこの間、四月一日に出されました。私はそれは確かだろう、事実だろうなと思うのですが、そういった給付基礎日額の算定の方向について現状に即した改善の仕方があるんじゃないか。雇用保険法の基本手当が現行の労働省告示を見ますと、日額二千百八十五円から二千二百二十円が千七百五十円ということになってちょっと低いのですけれども、これとの関連があるのかどうか知りませんが、労災家庭の生活を支えるという、そういう意味合いからいけば、この給付基礎日額ということをもっと上げるべきではないのか。脊損患者の方の要求は四千円と言っておりましたけれども、これは古い患者ですから、その辺の四千円という額の妥当性がどうこうは知りませんけれども、少なくともいまの給付基礎日額算定の方法は改善の余地がある、こう思うのですが、どうですか。
○吉本(実)政府委員 労災保険給付は、先ほどから御説明しましたとおり、労働災害によって損失をこうむった稼得能力の補てんを目的とするものでございます。したがいまして、この最低保障額を決める際におきましては、給付日額の算定の基礎は原則として過去三カ月間の賃金額ということを基準にしているわけでございまして、それから余りかけ離れた最低保障額を設けることは困難でございます。しかしながら、従来からいろいろ最低賃金額とか、あるいはただいまのお話もあるように雇用保険の関係とか、あるいはそのほかの社会保険の最低保障額等のいろいろな事情を考慮しまして従来も改定してございましたし、今後もそういった動向を見ながら適宜引き上げを実施してまいりたいと思っております。 なお、先ほどもちょっとお触れいただきましたように、本年の四月一日からは従来二千百八十五円でございましたのを二千六百七十円に引き上げたところでございまして、今後もまたそういった動向を見ながら適宜引き上げをするように考えてまいりたいと思っております。 もう一つ、振動病につきまして、いろいろ稼得能力がすでに低下している期間があって給付基礎日額が著しく低くなる、こういうような事例も先生御指摘のようにございます。そういう意味で、稼得能力がより適正に反映されるような給付基礎日額の算定方法につきましては、さらに私ども検討してまいりたいというふうに思っております。
○田口委員 もう一つ重ねて言いますが、最近の業務に起因する病気、職業病というものは複雑になってまいりました。そういう点から、いまの給付基礎日額と同じ考え方なんですけれども、障害等級なんかについても相当矛盾があるんですね。 これは労働省の関係じゃありませんが、ひとつ参考までに聞いていただきたいのです。腎臓が悪くなって人工透析をしてもらう患者なんですが、これは厚生年金で三級の障害年金がもらえます。そうすると、あたりまえのような話なんですが、当人にとっては大変なことなんですけれども、初め傷病で休む、健康保険の方で傷病手当給付金を一年半もらえるんですね。一つの例ですが、働いておったとき四千七百三十円もらっておって、健保の傷病手当金はその六割ですから二千八百三十八円もらう、もちろん一年六カ月しかもらえません。それが人工透析で症状が固定をしたとして、障害年金の三級になりますと年額五十七万三百円、日に直しますと千五百六十二円というふうに半分になります、傷病手当に比較をすればですよ。 こういう例がありますが、それと同じようなことで、この障害等級の見直しをやる必要があるんじゃないか。たとえば、労災の施行規則に一級からずっとありますけれども、障害等級の第七級をとってみますと「神経系統の機能又は精神に障害を残し、」云々、それから「胸腹部臓器の機能に障害を残し、」云々とあります。これで百三十一日分ですね。最近職業病が多発する。種類が多い。こういったことでこれを見直す必要があるのじゃないか。全盲になるとか下肢を切断するとかということに比較すればという話もあるのですが、やはり見直していく必要があるのではないか。そういう点についての御見解はいかがですか。
○倉橋説明員 先生御承知のように、障害補償給付につきましては、被災労働者が障害を残して治癒をしたという場合に、障害の程度に応じまして、その障害による労働能力の喪失に対する補てんを目的として給付を行うものでございます。それで、障害の程度につきましては、さっきお触れになりましたように、労働能力の喪失の程度に応じまして一級から十四級までに等級がランクされるわけでございますが、昭和四十二年に労働省におきまして障害等級専門家会議というものを発足いたしまして、学識経験者に委嘱いたしまして、あらゆる角度からこの問題について検討をしていただいたわけでございます。その会議の報告をいただきまして、とりあえず昭和五十年の九月に労災保険法の施行規則別表の障害等級表の一部改正を行ったところでございます。 なお、同専門家会議には引き続き当該等級の全般について検討いただくことになっておりますが、先生御指摘の内臓臓器、胸腹部臓器の障害等級の位置づけの問題につきましては、障害等級の全般の決定と深く関連する問題でございますので、同会議の検討の結論を待って行政としても検討していきたいと思っております。
○田口委員 大臣、私がいままで申し上げたことは十分お考えいただきたいのですが、労災保険給付と民事損害賠償の賠償金を調整しようということがいま議論の中心になっておるのですけれども、それをやる前に、いま二、三の例を挙げましたように、障害等級の見直しとか基礎日額の見直しとか、判例に出てきた一つの教訓といいますか、これをもっと取り入れて、調整の強化ではなくてむしろ労災補償の強化の方に力を入れるべきではないのか。さっき佐藤委員の最後の御質問で、継続して検討しようじゃないかという御注文に対して、大臣は、出してあるからむずかしいという御答弁でございましたけれども、こういう社会問題になった、まあこれはちょっと思い過ぎな言い方になりますが、これだけ国会で調整の問題を論ずる、後の委員の方も大なり小なり調整の問題に触れられると思うのですが、それに対して政府側は、いや調整しなければならぬ、こういう議論があることによって、現に係争中の一審の判決に労働側から見て余り好ましくない結果を招くのじゃないか。裁判ですからこういう言い方は失礼になると思うのですけれども、やはり裁判官も人の子ですから、国会でああいうふうに議論しておるのだなということになると多少の影響は出てくるのじゃないか。私はこの間もあるところで聞いたら、国会で議論することが判例に影響を及ぼすから、労働省にとっては一定の成果を上げますねということを言う人もおったのですが、私はそれもそうだと思うのです。したがって、もうしばらくこの問題は検討課題としてこの改正案の中から抜き出すべきではないかと思います。その点だけ再度要望しておきます。 次に、そういった労災の係争関係に関連をして、労働基準法第十九条に解雇制限の規定があるのですが、これはまた別の機会に深く言いますから、ちょっとさわりだけ申し上げて局長以下審議官の御見解を承りたいのです。 このけがは労災になるだろうか、労働者の私傷扱いになるだろうかというはっきりしない例が多いわけですね。業務上、いや私的な問題である、そういうはっきりしないことを理由にして、就業規則なんかあるのですが、労働者を解雇する。解雇された労働者は労災だ、業務上のことだと言って裁判に持ち込む。幸い裁判の結果それは業務上と認定される。ところが、首を切られた労働者の原状回復はなかなかむずかしい。行政の側が原状に回復しなさいと言ってもなかなかできない。こういう例がたくさんあるのです。特に中小企業の労働組合なんかに多いのです。したがって、労働基準法第十九条の解雇制限を本当に機能させるためにはこういうくだりでいいのか、私は疑問に思うのですが、どうでしょう。
○倉橋説明員 先生御指摘のように、労働基準法十九条におきましては、労働者が業務上の疾病、負傷等によりまして休業中の場合及びその後一カ月間については解雇をしてはならないという規定があるわけでございます。労働者が現にかかっております負傷、特に疾病の場合につきまして、それが業務上であるということが明白な場合につきましては特段の問題が生じていないわけでございますが、それが業務に関連するかどうかについてはなかなか客観的な判断がむずかしいということで御指摘のような事案が生じているわけでございます。明白な場合に、仮に使用者が労働者を解雇するような場合につきましてはわれわれ必要な行政指導、監督指導によりましてそれの改善を求めることができるわけでございますが、明らかでない場合に監督機関がこれに対して事実関係を確定することがなかなかむずかしいケースがあり、それが労使関係に影響を及ぼしている事案でございますが、私ども、少なくとも使用者が十九条を悪用して労働者に不利になるようなことをする場合につきましては必要な行政指導、監督指導を行ってまいりたいと思います。ただ、明らかに法律上の違反という問題については私ども権限の行使が可能でございますが、それ以外の問題、特に民事問題についての判断につきましては最終的な決着はできない立場にございます。明白でない事実関係の判断については、最終的には当事者間ないしは裁判所において解決されなければならない問題でございますが、さきに出ました労働基準法研究会の報告にも労働者と使用者の民事問題についてできるだけ早い解決手段等を研究すべきではないかという御指摘もあるわけでございまして、そういう意味で、十九条問題を含めて労働基準法上に関します民事問題の早期解決等の方策についても今後研究してまいりたいと思っております。
○田口委員 それはひとつ早急にやっていただきたいのです。これを悪用して労働者を解雇するという例が相当出ておりますから、ましてや行政に原状回復を強制する力がない、こういうことですから、やはり十九条の中に、紛らわしい場合は解雇はできないという、そういう機能を強めるような条項を入れるべきでないのか、ひとつ急いで検討していただきたいと思います。 次に、先ほどから何回か申し上げておりますように、私は、四月一日に山林労働者の方々の振動病の対策で労働省なり林野庁の方々との折衝に立ち会ってみたのですが、労災に絡んで大変な問題ですね。これは毎回本委員会でわが党のだれそれの委員が取り上げてきておりますが、私は、この振動病の予防ということ、それから健康診断ということ、補償の問題はきょうは取り上げませんけれども、依然として不十分である。しかも、数字で言いますと、この間その折衝の場で発表しておりましたけれども、国有林に働く山林労働者の振動病認定患者、それから民有林、これは国有林で働いておっても民間の人という意味のように理解をしてほしいのですが、民有林で働いておる山林労働者の振動病認定患者、このここ数年の動きを見ると、国有林の直用労働者は年々減ってきておる。ところが、逆に民有林に働く山林労働者の方はふえてきておるのですね。これを一体どう見るかということです。私は、国有林に働く直用労働者の場合には労働省、林野庁、それぞれ、また関係労働組合が寄り寄り協議をし、指導のよろしきを得て予防なり治療なりというものに努めた結果、減ってきていると思うのであります。ところが、同じような山林労働者で民有林の場合はふえてきている、これはどこに原因があるのでしょうか、同じ山林労働者でありながら。これを労働省、林野庁、それぞれどう見ておるのか、まずお聞きをしたいと思います。
○津澤政府委員 民有林の振動障害につきましては、どちらかと申しますと、その健診等の対策が国有林に比べてやや立ちおくれたということもございます。また、御承知のように、大変規模が零細でございましたり、あるいは山間僻地にばらまかれておるということがございまして、私どもこういった面についてのPRや何かには努めておりますけれども、まだ努力が足りませんで必ずしも十分徹底していないというようなことがございまして、いまごろになって非常にふえておるということもあろうかと存じます。また私ども、こういった林業関係者の振動障害防止にかかわる特殊健康診断というものを事業者の責任においてやるようにというPRに努めてまいりましたけれども、それだけではなかなかむずかしい面もございますので、御承知のように、四十八年からそういう健康診断の定着化を促進するという意味で委託巡回方式による健診をやってまいりました。これも四十八年からスタートいたしましたが、年々その対象をふやしてまいりました。 〔越智(伊)委員長代理退席、委員長着席〕 五十五年には一万四千七百を予定いたしておりますが、こういうことによりまして、過去においていろいろそういった有害な業務にさらされておりました振動障害の患者がある意味では発掘されてくるというようなこともあるのではないかと考えております。
○渡辺(武)説明員 お答え申し上げます。 民有林につきましての振動障害患者がふえてきておるということでございますが、それにつきましての判断、先ほど労働省の方からお答えになりましたとおり私たちも認識しておる次第でございます。
○田口委員 いまさら私がここで乏しい時間の中で振動病の原因云々を言う必要もないと思うのですね。チェーンソーの使用ですね。ちょうど一年前なんですが、去年の五月に私ども和歌山県の実態調査に行きました。これは民有林が主なんですけれども、そこでわかったことは、これは和歌山の労働基準局も調査をしましたら、これは労働省の主管で見えておるのですが、一日のチェーンソーの使用時間は、二時間未満が二九%、三時間未満が三五%、四時間未満が二三%、四時間以上が一一%という数字が出ております。ということになると、二時間以上云々という通達も出されておるし、それに準じてやられておるというのですが、現実は七割以上の職場が労働省のそういった通達を守っていないということですね。こういうところに林野庁あたりもっと、また労働省も一片の通達を出せば事足れりということでなくて、もう少し指導を強めることが必要なんじゃないかと思います。聞いてみると、一年に一回山へ、そういう山林現場に監督指導になかなか出られないという話も聞いておるのですが、予防対策の上から何か妙案というか手当てはないか、双方、どうでしょう。
○吉本(実)政府委員 振動病の問題につきましては、かねがね委員会におきましても御指摘をいただいておるところでございまして、私どもとしましてできるだけの手を打つようにいろいろできる限りのことをやってきておるわけでございますが、御承知のような実態であることは確かでございます。それで、昨年もそういったことで実態等についてじかに現地に行くということで、前大臣も関係のところの二県に参りまして、いろいろ関係者全員が集まりまして、一体どういうふうにしたらよろしいかというような協議も行ったところでございます。今後そういった協議会等も逐次実施をいたしまして、要するにこの問題につきましてはひとり労働省だけの問題でもなく、林野庁その他関係業者、労働組合も含めまして本当にこれに対する予防措置を講じていかなければならない、こんなふうに感じて、そういった方向でやはり定着指導をするような仕組みをとっていかなければならぬのではないか。また、第一線機関といたしましても大変手不足な中でございますけれども、林業主管の局におきましてはこれを重点の事項で取り上げまして、関係業界あるいは労働者等の相談に応じながら実態的な指導に当たっていくというふうな姿勢で現在対処しておるところでございます。
○渡辺(武)説明員 先ほど申し上げましたように、最近ふえております振動障害をできるだけ早く撲滅といいますか、その発生をなくしていくというために、林野庁といたしましては予防対策といたしまして、一つは、ほかでもございませんが、労安法に基づきますいろいろな規制といいますか、指導につきまして、私たちといたしましてもそれを徹底させるために、予算的にもいろいろな措置を講じましてその徹底を図っておるところでございます。たとえて申し上げますと、一つは、各林業の伐採の現場あるいは林業事業体に、安全点検パトロール事業ということでパトロール員を設置いたしまして、そこへ回っていきまして、振動障害を初めといたしますいろいろな労働災害の防止につきましての具体的な指導をしておるというのが一つでございますし、またチェーンソーの目立てということでございまして、チェーンソー自身をしっかり整備した形で使いませんと振動が多くなるわけでございまして、そのようなことを現場で、これも巡回指導員が回りまして、目立てをしっかりとやるようにというような指導等もやっておるわけでございます。 またもう一つは、振動の少ない機械、あるいは振動を起こさない機械といいますか、代替的な機械につきましても、その開発、あるいはその機械が現場に導入されますようないろいろな融資面での措置も講じておるところでございます。 またもう一つは、健康診断あるいは治療というような面につきまして、各県ごとにその県の実情に応じまして、ネットワークづくりに努めていただくということで指導を各県に対してやっております。そのようなネットワークづくりをやりますために県に林業振動障害健診治療推進会議というのが置かれることになっておるわけでございますけれども、そのような会議につきましての経費、このようなものについての助成も行っておりまして、いろいろ申し上げましたけれども、振動障害の予防という面につきまして、単なる指導、通達の徹底ということだけじゃなしに、いろいろな面での予算措置等も講じまして、その万全を図るように努めてまいっておるところでございます。
○田口委員 私は林野庁に重ねて聞きたいのですけれども、さっき申し上げた数字、国有林で働く直用労働者の方々については、幸いなことにだんだんと減ってきておる。ところが、国有林野で働くいわゆる民間の山林労働者はふえてきておる。この厳然たる事実を見ても、ちょっときつい言葉で言いますと、自分のところの守備範囲ならば、労働組合もあっていろいろなことでやるけれども、民間に委託をしたらもう私のところは手が及びませんと言って、それをいいことにして、たれ流しなんていう言葉もあるのですけれども、そういう姿勢があるんじゃないのかと私は思うのですね。 これは大臣も御存じだと思うのですが、三重県は山国ですから、振動病の患者を見ると、悲惨というよりも大変です。先々月熊野で猟銃のああいった自殺事件も起こったのですが、聞いてみると、あれも振動病の患者だったらしい。 ですから、私はもう時間がありませんからただ一つ最後に聞きたいのですが、いろいろな具体的な事実を林野庁にも言いたい。労働省にも言いたい。振動病一つをとっても、それから脊髄損傷患者の言い分をとっても、いろいろと問題はあるのですが、私は全部一〇〇%満足な状態にせよ、でなければこの調整規定云々なんていうことをするなと、そこまでは言いませんけれども、まだまだ労働災害でかゆいところに手が届いていない。その一例として林業の問題も出してみたのですけれども、そういう現実の中で調整規定ばかりに余りこれをクローズアップさせることはどうかと思うのです。もっともっと時期を置いて、労働基準法なり公務災害が調整規定もありますから、その辺のことは承知をしておるのですが、ここまで裁判で問題になっておるのですから、これはもう少し冷静なときにじっくり時間をかけるべきではないか、これを注文したいと思います。 そして林野庁に、ついでで申しわけないのですが、こういった振動病認定患者が、もとのような仕事はできぬ、軽易な仕事をさしてもらいたい、また、リハビリを兼ねて仕事をしたい、こういったことは今日の雇用状態から無理もあると思うのですけれども、やはり林野庁の責任でそういう軽易な仕事をさしていく、探していくということもやらすべきではないのか。そういう努力が災害防止ということと両々相まって、労災のこういう問題は消えていくんじゃないかと私は思うのです。 そういう意味で、最後にひとつ大臣の御所感、それから林野庁、いま言った具体的な職業病の問題なんかについてお考えがあればお答えをいただいて、終わりたいと思います。
○藤波国務大臣 最後に、特に林業に携わっておられる方々の職業から来る振動病といった悲惨な実態等についていろいろ御指摘をいただいたわけでございます。申し上げるまでもなく、そういった状態に置かれた労働者の悲惨な生活というものを想像してみましても、事前に予防を十分講じて、そういった事態が起こらないように努力をしていくことが行政の一番大事なことである。しかし、起こりがちな地域等につきまして、あるいは業種等につきましては、重点的に強く行政指導をいたしまして、関係者それぞれ知恵を出し合って、そういった事態に陥らないようにあらゆる手だてを講じていかなければならぬと思います。昨年来、特に林業従事者の方々の振動病に関するいろいろな御指摘もちょうだいをしておりまして、林野庁としてもいろいろ御心配をいただいていると思いますが、労働省としても重点的に取り組ませていただきまして、そういった実態を絶えず把握し、かつ対策を講じて進んでまいりたいと思います。 いま、その一例でも御指摘をいただきましたように、本来、労働災害というものは起こってはならないものだと思うのです。そういう意味で行政の一番大事なことは、労働災害が起こらないようにあらゆる予防の措置を講じ、行政指導を行い、かつ、その環境が整えられていくように関係者にあらゆる呼びかけをし、対策を講じてもらうように措置していくことが基本的には大事なことでございます。その労働災害が起こりましたときには、先生御指摘をいただきましたように、そのことから来る損失が補てんせられるように十分労災の制度が充実をしておって、不幸な事態でも大難を小難で防ぐ、十分その補てんをするという構えができるように労災の仕組みをさらに前進をさしていかなければならぬと思います。 局長からお答えをしましたように、先進諸国と比較をいたしましても、わが国の労災の仕組みはだんだんと充実をしてきておりまして、あるところまでは改善をしてきているというふうにはお互いに申し上げていいと思うのでありますけれども、きょういろいろな角度から御指摘をいただきました労災の中身をさらによりきめ細かく充実をしていくことにつきましては、今後審議会等の意見も求め、かつ労働省といたしましても十分検討を重ねまして、できる限り機会を多く、改善充実の措置を講じていくようにあらゆる努力をしてまいりたい。先進諸国並みなどと言っていないで、起こってはならない労災事故が起こった場合には、それを十分補い切れるような構えをつくるように一日も早く努力をしてまいりたいと思います。 特に御指摘をいただきました調整の規定につきまして、私どもの方が浮かび上がらせているわけではないのですが、今回の引き上げで特に浮かび上がらせていただくことになりまして、私どもも恐縮をいたしておるわけであります。しかし、それだけやはり大きな関心が寄せられておるということであるというふうに考えまして、御指摘をちょうだいをしておることには私どもは感謝をしておるわけでございます。 最高裁判所の一つの判決が出ましてから、類似の制度などはその不合理なところはすでに解決をしてきておりますけれども、法制上非常に不合理であるというような立場から、意図的に労働省が何か裁判を労働者側に不利に持ち込むようにするとか、あるいはできる限り訴訟を少なくするように、心理的にこういった法改正の中で持ち込むとかといったような意図は全くございませんけれども、仕組みとしての他の類似制度等いろいろにらみ合わせてみまして、法制上の不合理が関係者各方面から指摘をせられまして、審議会等の御意見も十分踏まえて今回のこの法改正の中に盛り込むということにさせていただいておるような次第でございますので、再三の御提案、御指摘でございますけれども、どうか今回政府が提案をいたしました意図を十分御理解をいただきますように心からお願いをいたしたいと思うのでございます。 なお、労災制度の充実につきましては、今後とも最善の努力をしてまいりたいということを重ねて御答弁申し上げて、お答えにいたしたいと思います。
○渡辺(武)説明員 振動障害になりまして治療を受けた結果、症状が軽減いたしまして、いわゆる軽労働可といったような判定を受けた者につきましての就労の場の確保についてのことでございますけれども、一つは、やはりそのような方々に職場を探す、あるいはできれば新しくその地域地域でそのような職場をつくっていくというようなことが必要だというように存じ上げます。 私たち、五十五年度から新たに振動障害対策の拡充の一環といたしまして、振動工具使用者が多い市町村につきましては、その市町村で指導員を配置いたしまして、振動障害についての万般の予防から相談に応ずるというような体制を整えることにいたしておるわけでございまして、まず、そのような指導員を通じます相談の中で、このような軽労働可となった方々につきましての職場についての御要望等にも相談に応ずるという体制がしかれることになるわけでございまして、そのようなことを御利用いただくというのが第一点。 それから第二点の、山林の中に新たに軽労働の場をつくっていくという面につきましては、ほかでもございませんが、これも五十五年度から十年間で約六千五百億円を投じましてやりますことになりました新林業構造改善事業というのがございます。その中で定住化の促進というようなことで、林業労務者あるいは林業従事者といいますか、この方々の生活なりあるいは就労機会の創出なりといったような面での事業を大々的に行っていくことになっておるわけでございます。したがいまして、地域の実情に応じまして、このような担い手対策の一環としてではございますけれども、軽労働従事可ということになった方々におかれましても、そのような方々の働く場ということをこのような制度の中でメニューとして選択していただくという道があるわけでございまして、私たちといたしましては、このような御議論を十分に踏まえまして、事業主体と申しますか、このような事業を行います市町村あるいは森林組合といったようなところに対しまして、これを十分活用していくように指導をしてまいりたいというように存ずる次第でございます。
○田口委員 では、終わります。
○葉梨委員長 次に、谷口是巨君。
○谷口委員 労災保険法等の一部改正について質問をするわけでございますけれども、今回の改正案の内容については、いろいろ各団体あるいは各方面から私どもにも意見の陳述やらあるいは陳情やら盛んにあるわけでございますが、その内容について二つに分けられまして、いろいろないわゆる給付内容の改善については大体が賛意を表される。しかし、俗に言う民事による損害賠償についての調整問題については、これは大きな論議を呼んでおるわけですね。給付内容についてはひとつ早く片づけてくれ、それからこの調整問題についてはできるだけおくらせてくれ、こういうふうな意見もあるわけでございますが、いま大臣の提出された意図もそれなりに理解をいたしますし、また今後取り組んでいかれる意気込みについても理解をするわけでございます。 最初に、局長に伺いたいのですけれども、これはもともと一時金であった。それが年金になった。そのときにこういう最高裁の判例が出るということは予想されなかったのですか。
○吉本(実)政府委員 労災保険制度におきまして年金制度を導入するときに、基準法について若干の手当てをいたしましたけれども、その労働基準法の規定で十分類推解釈ができる、こういう理解があったことが一つと、それから従来の裁判所の取り扱いは、いわゆる既支給分のみならず、将来の給付分も含めましてそういったものを控除しても差し支えないという判例がほとんどを占めておりましたので、労災の実務上は差し支えがなかった、こういうことで推移したわけでございます。
○谷口委員 そこまで考え及ばなかったのが手落ちでありまして、本来なら、そこまで考えて前回のときにこれはきちっとしておけば問題なかったと私は思うのです。ところが、無理のない面もありますけれども、考え及ばなかったために関係の方々には一つの期待権も与えた。これは皆さん方が、もし自分がそれに当たったらと非常に喜んだわけです。あるいは係争中の方々もそう思っておられると思います。また、そういう面から無用な混乱を与え、無用な不安を与えたと私は思うのです。こういう面からいくと、審議の前に労働行政の責任者である大臣から、それはまことにそういう面は遺憾であったとか、いろいろ表現があると思いますが、関係者にその意思を明確にすべきじゃないかと思いますが、いかがでしょう。
○藤波国務大臣 今回調整規定をめぐりまして、各方面のいろいろな御意見を伺っております。いま先生御指摘のように、措置すべきときにそこを見越してきちんと措置をしておけば余分な御心配をかけないでくることができたのではないかということにつきましては、そのときにはそのときの見通しがあったわけでございますから、いま大臣をいたしております私から、明確にそのときはこういう状態であったと言うことは、そのときの者でないとなかなかわかりにくい部分もございますけれども、将来を展望して行政というものは進めなければいかぬし、特に法改正などをいたしてまいりますときには、これから動いていく状態というものを十分見越して措置すべきことはやはり措置をすべきであったろうと考えまして、非常に責任を痛感いたしておりますし、また、もしそのことが非常に大きな問題を起こしたことであるとするならば大変申しわけのないことであったというふうに私は率直に感ずるわけでございます。 しかし、今日にこの事態が推移をいたしまして、先ほど申し上げましたように、一つの最高裁判所としての判決の例も出て、仕組みとしての法制上の不備ということになりますと、これを整備していくのも、また行政に携わります者の責任でもございます。ぜひ立法府の委員の方々の深い御理解をいただきましてこの法制上の不備を是正させていただきたい、このように考えまして、今回の改正を機にお願いをしている次第でございますので、どうか御理解いただきますようにお願い申し上げたいと思います。
○谷口委員 非常に率直な大臣の御意見でございました。そうあるべきだと思います。しかし、当時は予想できなかったことですからそれを責めるというわけにはいきませんが、これは非常に大事なことであるということだけは指摘をしておきたいと思います。 それから、まず伺いたいのですけれども、これは事務局の方で結構でございますけれども、最近の労災事故の実態というものがどういうふうになっているか。ここ数年来の事故の推移、それについて基礎的なことをひとつ答弁願いたいと思います。
○津澤政府委員 労働災害は、かつて昭和三十六年ごろがピークでございました。その後かなり順調に減少しておりましたけれども、昭和五十年を底といたしまして、五十一年から再び増加の傾向に相なってまいりました。 数字を申し上げますと、これは労災保険の新規受給者の数でございますが、昭和五十年が百九万九千、五十一年が百十三万一千、五十二年が百十三万八千、五十三年が百十四万二千、こういうふうに相なってまいりました。 なおまた、この中の死亡者の数でございますが、これは五十年から五十一年にかけまして若干減っておりますが、数字を申し上げますと、五十年が三千七百二十五人、五十一年が三千三百四十五人、五十二年が三千三百二人、五十三年が三千三百二十六人、こういうふうな経過をたどっております。
○谷口委員 確かにずっと数字を見てみますと、昭和五十年が死傷者数なんかも一番底じゃないか。それから少しずつ上昇をしてきているわけですけれども、この上昇が、本来ならば事故その他に対する取り組みがますます慎重になり、また深い関心を持ち、具体的な措置を講じなければならないのにかかわらず少しずつ上昇しているということ、その増加する原因、背景、こういうものはどういうところにあると労働省としては判断をされておりますか。
○津澤政府委員 ただいま申し上げましたように、ここ三年ばかり、五十三年にかけて労働災害は増加いたしましたが、これを産業ごとに見てまいりますと、特に増加が顕著でございましたのは建設業でございます。かつては製造業が一番ウエートが高かったのでございますが、最近は建設業が第一位となってまいりました。これは休業四日以上の死傷で申し上げるわけでありますけれども、建設業は全産業の中の三四%を占めるように相なりましたし、また死亡に至りましては全産業の約半分に近い数字にまでなってまいったわけでございます。 このように建設業における災害が多いということにつきましては、他の産業に比べまして屋外という大変条件の悪いところで仕事をする問題でございますとか、最近は非常に制約条件の多い環境で仕事が行われる、あるいは技術の進歩に伴いまして非常に大型の工事が行われるというようなこともございますし、そういうことのほかに、もともと建設業特有の問題としていろいろ下請構造がございまして、安全衛生の確保にむずかしい問題があります。そのほか、最近は特に公共工事等が増大をいたしまして、この影響も若干相関的な関係があって、こうしたところに災害がふえておると考えております。
○谷口委員 増加する労働災害の内容、これが問題になると思いますね。どのような部分にどのような傾向が最近ずっとふえてきておるのか。あるいは重大災害の発生、そういう増加はどのようになっているのか。具体的な中身をひとつ説明願いたいと思います。
○津澤政府委員 ただいま申し上げましたのは産業別に見た数字でございましたが、御指摘のように、ある事故で一時に多数の死傷者が出ますような重大災害、これを見ましても、実は全体の半ば以上が建設業ということになっております。しかも、こういったものの中身が、かつてはトンネル工事でございますれば落盤とか、そういったものが多かったのでございますが、そちらの方はいろいろな対策によって比較的少なくなってまいりましたのにかわりまして、たとえばいろいろな引火性の材料を使うとか、あるいはガスが発生する場所での仕事が行われるというようなことがありまして、爆発火災でございますとか、こういったものが建設業の中でも起こるとか、あるいは一般の製造業などでも新しいメンテナンス、いわゆる保守保全の工事等に伴いまして爆発とか中毒とかいうようなものが起こっておるというのが最近の特色でございます。
○谷口委員 この財政状態をずっとよくながめてみますと、ごく最近はいわゆる赤字の状況になってきていますね。この赤字転落の要因はどういうものからきているか、御説明願いたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労災保険財政は、制度発足以来、昭和三十年を除きましては単年度収支では黒字を維持しておりましたが、五十二年度には百二十三億、五十三年度には四百九十六億の赤字となっている次第でございます。 要するに、それの原因でございますが、まず保険料の収入の面におきましては、第一次の石油危機以後の景気後退に伴いまして建設業なり製造業等の雇用が停滞をして全般的に賃金の上昇率が低い水準に推移したこと、また料率の高い建設業とか製造業等の第二次産業から労働力が移動いたしまして、低い料率のサービス産業等の第三次産業へ転換をしておる、こういった雇用構造の大きな変化によりまして保険料の収入が所期の伸びを見せなかったという点が挙げられるわけでございます。 また、支出面に対しましては、保険給付費におきまして医療費単価の上昇によります療養費の増高、また五十二年度実施の制度改善による年金等給付費の急増によりまして、収入の伸びを超えまして支出が大きくなったわけでございます。 さらに、年金受給者の累増に対処するために前回の昭和五十年一月の料率改定に際しましては三年程度後に再度の料率改定を行う予定でございましたけれども、当時の経済情勢にかんがみまして今日まで改定を送ったということで、そういったことも一つの要因になっているというようなことでございます。
○谷口委員 保険財政で見ますと、単年度で見ると五十二年以降は赤字になっているわけです。支払い準備金、翌年度以降の必要額は一応順調に伸びているように見られます。五十二年、五十三年度は積立金を取り崩して単年度の赤字補てんをしてきているわけでございます。理想的には単年度の収支のバランスがとれて、そして翌年以降の必要額が保たれるならば、この保険財政は健全だと考えていけるわけでございますが、今回の改正案で保険料率の改定も考えられておりますけれども、今後の保険財政の収支見通しはどのように考えておられますか。
○吉本(実)政府委員 先ほどのような保険財政の赤字に対処しまして、今回保険財政のそういった健全化を図るために、ことしの四月一日から全産業平均として千分の二・二の保険料率の引き上げを行ったわけでございます。これは過去の災害状況等を見まして収支を均等させるようにいたすことで、いわゆる赤字補てん分として整理したものでございます。 なお、今後におきましても全体の運営の中で検討はしてまいりますが、さらに今回の制度改善として本法律案に盛り込まれておることにつきましては、それに対応する保険料率については法施行後の段階でその引き上げを図りたいというふうに思っております。
○谷口委員 今度の率の引き上げで今後の財政は赤字になる心配はないということでございますか。どうですか。
○吉本(実)政府委員 保険財政全体につきましては六年間の均衡を見て三年の安定ということで注意しておりますので、当分の間はこの料率によりまして十分対処でき得るというふうに思っております。
○谷口委員 いろいろな保険その他におきまして成熟度というのが非常に問題になるわけですね。この保険はまだきわめて新しい歴史といいますか、未成熟だと考えてよろしいわけでございますけれども、今後いつごろいわゆる成熟度が非常に高くなる、こういうふうに見通しをされておりますか。
○倉橋説明員 現在のところのいろいろな保険の適用関係がそのまま推移するという前提でございますが、そうしますといわゆる定常状態の九〇%に達するという時期が昭和八十年代の初めごろと予定をいたしておりますし、定常状態に達するという時期については昭和百十年代になるのではないかという推計を立てております。
○谷口委員 今回保険料率が上げられる法改正がなされるわけでございますが、料率の引き上げだけではとても大変だと私は思います。その結果は、要するに労災事故がいかに少なくなるか、またそれを目標としてどのように具体的な策を政府としても、あるいは事業主としてもやっていくかということが、あるいは労働者自身もそうでございますけれども、そういうことが一番根本であろうと私は思います。先ほど大臣の答弁の中にも若干あったと思いますが、これは非常に大事なことだと思いますが、政府はどんな措置を講じておるのか、具体的な答弁を願いたいと思います。
○藤波国務大臣 先ほどもお答えをいたしましたように、労働者の方々の安全と健康を守る労働行政というのは最も大事な私どもの課題の一つでございます。そこで、昭和五十三年度を初年度にいたしまして、昭和五十七年度を目標年次にいたします第五次の労働災害の防止計画を策定いたしまして、年次を追っていまその作業、対策を進めておるところでございます。 具体的には、いわゆる大型災害が頻発をしてまいりますのでこれの防止に当たる。それから二番目に、従来型のいろいろな形で労働災害の起こってくるパターンというのは大体わかっている。それをとにかく不注意であるとかあるいは環境の不備等で起こってくるということをなくするためにあらゆる手だてを講ずる。それから三つ目に、どちらかといいますとやはり職業性の疾病というのがかたまりつつある。大体起こってくるとそこで非常にたくさん職業病が起こってくるという形が見えている。ですから、こういうことを早期に予防をいたしますと同時に、起こりかけてきたら早急に対策を講じて、さっきもお話がありましたように、根絶をしていくという対策を講じていく。それからもう一つは、どうしても安全予防の手だてを講じていくのに、中小企業関係あるいは規模の非常に小さい事業所等で手抜かりが多いものですから、そういう意味では中小企業の労働災害防止計画というものを強力に推進する。それからさらに、御存じのように、日本の社会が高齢化社会に入ってまいりまして、中年から高齢者の方々の労働力というのが非常に大事になってきておりますが、そういったところで、どうしても災害の原因がその辺から起こりがちであるというようなことも考えまして、中高年齢者を中心とした労働災害防止、安全と健康を守るための対策、こういうふうなことで幾つかの柱を立てまして強力に推進をしておるところでございます。特に近年、建設業の業界で大型の災害等が起こる場合が多いものですから、今回の国会で労働安全衛生法の一部を改正する法律案の御審議をお願いいたしておりますが、その中に特に建設業の大型災害を防止するためのいろいろな手だてを盛り込みましてこれらの根絶を期していきたい、このように考えておる次第でございまして、これらの計画をひとつ十分こなしまして労働者の健康と安全を守るためにさらに努力を重ねてまいりたい、こう考えておる次第でございます。
○谷口委員 いろいろ答弁をいただきましたが、建設関係でのいわゆる災害というのは非常に大きいものが時としてありますし、その被害者の主体がほとんど下請、非常に恵まれない条件で働いておる方々に多いということは見逃せないことだと思います。いろいろそういうような抜本的ないわゆる災害防止の対策をひとつ強力に推進されることを望んで、次の質問に進みます。 給付水準についてでありますけれども、労働省は十年ぐらい前に労災遺族の生活実態調査とか、また重障労災家族の生活実態調査を行っておられますけれども、今回の法改正について何らかの実態調査が行われた、多分これであろうと思いますが、これ以外に何か調査されたことありますか。
○小田切説明員 年金受給者の実態についての調査でございますが、最近では、いま先生御指摘になった結果であろうかと思いますが、昨年、五十四年三月に実施いたしたものがございます。この調査結果を見ますと、やはり重度の災害を受けた方が病院から退院して自宅生活を送るというような際にいろいろむずかしい問題があるというふうなことは、当然でございますが、私ども掌握したわけでございます。たとえば、介護の負担が配偶者にかかるとか、また住宅の改造等の必要がかなりの高さであるというような点でございますが、そういうような調査結果を今回の制度改善を議論していただきました審議会にも御説明いたしまして審議の参考にしていただいたわけでございます。それらの点もございまして、介護料の対象の拡大、傷病補償年金受給者のみに限られた介護料を障害補償年金受給者にも拡大するとか、現在、労働福祉事業団で行っております社会福祉資金貸付制度の限度額を引き上げる等の、今回いろいろ御提案申し上げております制度改善の一環として、重度の障害者に着目しました項目も取り上げていただいたところでございます。
○谷口委員 このいろいろな調査を見ますと、確かに実態が浮き彫りにされておると思います。たとえば、一級から三級ぐらいの方々、いわゆる重障者の方々が働こうにも働けない。また、働けないどころか介護者を必要としている。その介護者がほとんど家族だ。御主人であれば奥さんが介護に当たるとか、要するに生活はますます苦しくなっていくという実態がこの調査でここに浮き彫りされているわけですね。また、子供さんも影響を受けて、学校も中退したとか学校に行けないとか、いろいろなことがここに浮き彫りされておるわけでございますが、これからいきますと、現在の労災保険は実際には七割ですか、それに積み上げがありまして、七%というように聞きますけれども、それで決して最低生活に見合うものはできてないのじゃないか、ほかとのつり合いもありますけれども、この際やはりいろいろなことを考えて、多いにこしたことございませんが、最低せめて八〇%ぐらいまで実質のものが関係者に渡るようにしてあげた方がいい、しなければいかぬと私は思いますが、それに対する意見はいかがですか。
○吉本(実)政府委員 ただいまの労災保険の給付水準のお話でございますが、労災保険は、被災によります稼得能力の喪失のてん補を目的とするためでございまして、その給付は被災前の賃金を算定基礎としているところでございます。そのために被災前の賃金の低い者につきましては、保険給付についてはやはり生活保護基準より下回る場合もあろうかと思います。しかし、生活保護のように当該家庭のほかの収入については控除の対象にはなっておりませんし、また生活保護の方は世帯単位でございまして労災保険のように個人単位の給付とは違っておるということで、生活保護と労災保険とそれぞれ性格が異なりますので、これを直接比較するのは妥当ではないというふうに思います。しかし、給付の改善につきましては、先般来何回かの改正を積み重ねまして、今日一般的な水準といたしましては西欧先進国並みに近づいておるところでございます。 ただいま御指摘の保険給付については六〇%でございますが、そのほかいわゆる特別支給一時金として二〇%程度出ますので、合わせまして八〇%程度のものは労災保険として取り扱っておるというのが実情でございます。
○谷口委員 今回の給付水準の引き上げというものは、中身を見ますと、遺族補償年金についてのみ行っているわけであります。重障の労災者などを含めて改善すべきではなかったかと私は思いますが、今回、遺族の補償年金についてだけ行った理由はどういうことですか。
○倉橋説明員 先ほどから御説明しているように、労災保険の給付水準につきましてはすでにILOの水準に寄っているわけでございますが、厳しい保険財政の中で、被災労働者またはその遺族の中で重点的に措置すべき対象につきまして当面措置するということにいたしまして、遺族の方々につきましては、特に家族数の少ない方につきましては、主人が、家計の担当者が死亡することによりまして著しく収入が激変する、そのために生活が非常に苦しいという実態に着目いたしまして、主として遺族数の少ない家計を中心といたしましての給付改善を行ったわけでございます。そのほか、給付の年金額ではございませんが、すべての年金受給者に対しましては一時金制度につきましてさらに五割のアップ等の特別支給金の充実、さらに年金担保融資制度を創設適用することによりまして、できるだけ悲惨な、恵まれない遺族の方々を取り上げまして今回措置することといたしたわけでございます。
○谷口委員 現在の労災保険法に基づいて支給される法定の災害補償に対しては、各労組に話を聞いてみても非常に低い、これではとてもやっていけないという認識のもとに企業内の上積み補償ということが欠かせない目標として今日まで闘い続けられているわけでございますが、そこで伺いますけれども、労働協約とかあるいは就業規則、そういうもので企業内上積み補償を行っている企業は一体どの程度あるのか、その数字について伺いたいと思います。
○小田切説明員 お尋ねの企業内の上積み補償の状況ということでございますが、五十二年の私ども労働省の調査によりますと、三十人以上の規模の企業におきまして、全体ひっくるめてみますと五七%、六割近い企業で上積み補償を実施しているという状況になっております。当然企業の規模が大きいところほど実施状況の割合が高いわけでございますが、五千人以上というような大きなところをとりますと、ほぼ一〇〇%に近い九九%という実施状況で、三十人から九十九人というような比較的小さなところで見ますと、五割ちょっとというような採用状況、普及状況、実施状況という結果になっております。
○谷口委員 この上積み補償について見ても、大企業その他は非常に恵まれておるし、中小零細企業、下請、そういう弱者の立場にあるところでは五〇%しか上積みをされてないという、現実は非常に厳しいものだと思います。 そこで、企業内補償制度というのは実質的には、私が考えますと、いわゆる労災保険が、表現がいいか悪いかは別としていわば二本あるような感じですね。労災保険法によるものと企業内の上積み保険というものがあるように思うのです。そうしますと、企業から見ればかなり相当のものを負担しているということになるわけですから、とするならば保険料率の増加は今後もかなり可能性があり、それによってより完全な補償制度が確立され、または資力を持たない中小企業労働者の保護にも大きな役割りを果たすのではないかと思いますが、労働省の考え方はいかがですか。
○小田切説明員 ありがたい御指摘をいただいたわけでございますが、私どもも先ほど申し上げましたような企業の上積みの状況等にかんがみまして、やはり規模の小さな企業におきましては上積みの実施状況が十分でないというようなことがあるわけでございますが、そういう点を勘案いたしまして、今回の制度改善の中におきましても定額の一時金給付、特別支給一時金というふうに呼んでおりますが、の五割アップというような措置を講ずることを予定しているわけでございます。本来の保険給付ですと、従前の賃金水準の高い方は高額な給付になる、賃金水準の低い方は低額な給付になる、当然そういうことになるわけでございますが、特別支給一時金につきましては従前賃金にかかわりなく死亡の場合には遺族に現行二百万円というものが定額で出るわけでございますが、そういう部分を五割アップするということで、どちらかと言えば恵まれない中小企業の分野に、厳しい財政状況の中で重点的に措置を図るという効果の期待できる措置として取り入れているわけでございます。
○谷口委員 ある程度の措置はとられていることはわかりますが、それでは決して十分ではないと思いますね。大企業だけがもうけておるとは私は言いませんけれども、もうけている率が非常に多い。したがって、労働者の方々もいろいろな面で恵まれている。中小零細企業に比べると確かにいろいろな点で違うと思います。そうなってくれば、私はやはりそういう大企業その他に対するものについては、うんとと言うと言葉は悪いですけれども、先ほど応援の中にうんと上げろという声もありましたけれども、うんとでなくてもある程度上げて、いわゆる余力をいわば中小零細企業の方にもっと振り向けていくということは私は今後非常に大事なことであり、そう進んでいかなければならない方向だ、そう思うのですが、もう一度これは局長から伺っておきましょう。
○吉本(実)政府委員 ただいま管理課長からお話し申し上げましたように、今回の制度改善の一環としまして特別給付金の五割増を考えているわけでございます。要するに、上積みの問題につきましてこれを労使の間で自主的に決めていることでございまして、これを行政機関がどうこうということではないですが、中小企業の立場も考えながら給付のことにつきましても今後いろいろ検討して御趣旨に沿うような方向に考えたいと思います。
○谷口委員 それでは、ひとつますますその辺のところは力を入れておやりいただきたいと希望を述べておきたいと思います。 それから、いわゆる労災事故、毎年ずいぶんたくさん起こっているわけでございますけれども、三十数万件の労災事故やあるいは労災法で処理される休業三日以内、こういうものを含めるとさらに増加するわけですけれども、事故の起こる形態について責任の所在別に分類するとどういうふうなケースが多いのか。たとえば、説明は要らないと思いますが、原因者として労働者の側の場合がありますね。労働者の過失あるいは労働者の重過失というのがあります。逆にまた事業主側の過失、事業主側の重過失があります。それから、全くそれにかかわらない第三者のいわゆる行為による原因、また相手に過失が問えない、いわゆる無過失の場合、いろいろあるわけですけれども、この分類をするとどういうケースが一番多いのですか。
○倉橋説明員 労災保険の原因別につきましてはいろいろな統計がございますが、それに携わった人、労働者なり使用者なり第三者が原因をして労災事故を惹起したかというような統計はいまのところとっておりません。ただ、私どもいろいろ保険業務等を行っている中で、たとえば事業主が故意または重大な過失によって災害を惹起させたという場合につきましては、労働者には保険給付をいたしますが、片や事業主からも費用を徴収するということにいたしておりますが、それの件数、事業主が非常に重大な過失なり故意に基づきまして事故を発生せしめたということによりまして費用を徴収したのが、五十二年度で百十八件でございます。五十三年度で六十六件になっております。 さらに、労働者が災害を意識的に起こしたというようなケースにつきましてはほとんど見当たらないわけでございますが、たとえば犯罪行為だとか重大な過失によりまして災害を発生せしめたという場合につきましては、当該事故を発生した労働者については保険給付の制限を行うことにいたしておりますが、その件数につきましては、五十二年度については六十四件、五十三年度には九十五件となっております。
○谷口委員 労災事故というのはいろいろな形で起こってくるわけでございますけれども、労働基準法で何にどのように対処しているのか、また何に対して補償責任を免れるのか、どうなっているのかということは、労働基準法の第八章では災害補償を規定しているわけですね。それから、第七十八条では労働者の過失については休業補償、障害補償も行わなくてよいというふうになっているわけでございますが、それを受けてどのように対処し、また何に対して補償責任を免れるのか、そういうことについてひとつ答弁を願いたいと思います。
○小田切説明員 いろいろな労働災害にそれぞれ対応があるわけでございますが、いま先生御指摘のように、労働基準法では労働者が重大な過失によって事故をこうむった、みずからに重大な過失があったというような際には、使用者側が労働者側に過失があったということにつきまして監督署長の認定を受けた場合には、休業補償と障害補償に限っては行わなくてもよいというような規定がございます。さらに、労働者側に重大な過失ではなしに故意そのものがあった、意図的に災害をみずから引き起こしたというようなことになりますと、それはもはや業務上の災害というふうには申せないわけですから、それにつきましては当然基準法上の使用者の災害補償責任はないということになります。また、そんなような基準法の規定を受けまして、労災保険法におきましても労働者側に事故を起こす、労働災害につきましてみずから意図して労働災害を起こしたというようなケースにつきましては給付を行わないという規定が一応ございます。また、重大な過失等がある場合につきましては一定の限度内で保険給付を、先ほどちょっとケースを御説明いたしましたが、制限するというようなことができる規定になっております。
○谷口委員 労働者の重過失について、労働基準法は第七十八条で例外規定を設けているわけですが、そのほかの療養補償だとかあるいは遺族補償だとか葬祭料、こういうものについてはどのようになっておりますか。
○小田切説明員 ただいま御説明しましたように、労働基準法の上では七十八条で、休業補償と障害補償に限って、しかも監督署長の認定を受けた場合に、使用者は補償する必要がないということになっているわけでございますから、いま御指摘のその他の療養給付、葬祭料等につきましては、そういうケースであっても補償の責任があるということでございます。
○谷口委員 労働基準法は、いま説明のとおりですね。 もう一つの労災法においては、この例外規定というのはどのようになっておりますか。
○小田切説明員 若干先ほども御説明したわけでございますが、ほぼ同じようなことになっておりまして、労働者側に、労災事故を起こしますにつきまして故意があるとか、労災事故を意図して発生させたというようなケースにつきましては、保険給付は行わないわけでございます。労働者側にその事故につきまして重大な過失等があった場合には休業補償給付、障害補償給付、それから傷病補償給付の三つに限って一定の限度内で保険給付を制限するということができる規定になっております。
○谷口委員 今度は使用者側の故意、重過失のあった場合、被災者に対する補償の仕方あるいは費用負担の形、これは労働基準法、労災保険法にあってはどのようになっているか、ひとつ御説明願いたい。
○小田切説明員 労働基準法につきましては、労働基準法上の使用者の災害補償責任は、過失の有無を問わないというようなことになっているものでございますから、事業主に故意があるか過失があるかというような場合に、別段の規定はございません。 他方、労災保険法におきましては、労働災害につきまして事業主側に故意または重大な過失があって、そういう労災事故が発生したというケースにつきましては、一定の限度内で被災労働者には当然ストレートに労災保険の方から保険給付をするわけでございますが、被災労働者に行いました保険給付に要した費用の一定額につきまして事業主から費用徴収をするというような規定がございます。
○谷口委員 事業主から三〇%ですか、いわゆるペナルティーといいますか、これを取るようになっているわけですね。 労災制度の基本問題に入る前に、労働基準法の災害補償の規定、労災保険法の考え方についてひとつ確認をしておきたいと思います。 それは、労働によって起こる危険負担というものは、いわゆる利益を受けるであろう、利益帰属者である使用者が負う、これは当然であります。それが公平であるという立場に立った法律かと私は思いますが、その点はいかがですか。
○倉橋説明員 労災保険法は労働基準法に基づく使用者の労災補償責任を保険をしたということでございますが、沿革的に申しますと、近代市民法におきましては、個人の自由な活動領域を広くする要請に基づきまして、いわゆる過失責任主義というのがとられてきたわけでございますが、近代産業の発展の過程に伴いまして、産業災害の犠牲者になった労働者が、その災害の損失を負担をするというようなことは、使用者の故意、過失がなければそれを使用者に責任転嫁されない、故意、過失のない無過失の場合について労働者がその損失を負担をするのは不合理であるというようないろいろな要請から出まして、いわゆる無過失賠償責任理論が出てきたわけでございます。この理論の根拠といたしましては、使用者の支配する生産活動、そういうものに内在する危険に着目いたしまして、そういう生産活動を支配する使用者が無過失の場合であっても労働者が労働災害における損失の負担を負わせるのが公平の観念に合致するというようなことから、無過失賠償責任理論が出たわけでございます。労働基準法におきましてもこの趣旨を体しまして、使用者の過失の有無にかかわらず労働者が業務上被災した場合につきましては一定の労災補償制度を負わせるというようになったわけでございまして、各国ともこのような経緯で災害補償の法制を整備しているわけでございます。 私ども、したがいまして、こういうように無過失賠償理論から出たわけでございまして、利益の帰属者である事業主が負担すべきであるかどうかという先生の御指摘でございますが、趣旨といたしましては、生産活動の支配者である事業主に対して、その労働者の損失の負担を法律上課したというふうに理解しているわけでございます。
○谷口委員 労災保険法の性格でありますけれども、労働基準法によって義務づけられたいわゆる災害補償、その責任を果たす責任保険なのか、あるいはまた独立した使用者の無過失責任を政府が所管するところのいわゆる無過失連帯集団責任制度なのか、どちらなんですか。
○倉橋説明員 現行法の労災保険制度について申し上げますと、わが国の労災保険制度につきましては、労働基準法の使用者の労災補償責任を社会保険の形式をもって行うということで創設されたものでございます。創設当時は労働基準法に基づく労災補償の内容と労災保険法の内容とが給付の水準においてはイコールでございましたが、その後の労災保険法の改正によりまして、いわゆる最低基準、労働基準法で定められております使用者責任の最低水準をより改善をすることにより、さらには年金等を導入いたしまして、その被災労働者の補償を厚くしてきたという経緯があるわけでございます。こういうように労働基準法に定める給付水準と労働災害保険法に定める給付水準に現在では違いがありましても、沿革的及び保険形式で行っている趣旨から見ますと、労災保険法は労働基準法に基づく使用者の労災補償責任を保険の形式で行っているものであるというふうに理解しているところでございます。
○谷口委員 もう一歩進みまして、労働基準法による災害補償、労災保険による保険給付のお金の性格でございますが、これはどのように解釈するのか。たとえば、損失に対する補償なのか、あるいはこれに生活保障を含んだものであるのか、また憲法上のいわゆる生存権保護のための制度なのか、そういうものについて明確にひとつ考えを示していただきたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労働基準法の災害補償は、不法行為の過失責任理論の欠陥を是正いたしまして、ただいまも審議官から御説明しましたように、無過失損害賠償理論によって組み立てられました使用者責任に基づいて、その内容が業務災害によって労働者に生じました損失のてん補、特に稼得能力の損傷、喪失の回復、てん補を使用者の負担によって図るものとなっております。また、業務災害に関する労災保険給付は、労働基準法上の災害補償義務の履行確保を図る考えから、保険の形式をもちまして災害補償事由がある場合に労災保険給付を行うこととしているわけでございます。このようなことから、労災保険の保険給付の性格といたしましては、業務災害によって生じた損害のてん補を図る機能、こういったような点では労働基準法上の災害補償と同種のものでございます。 このように労災保険は業務災害に対する使用者の補償責任を基礎としながらも、被災労働者の稼得能力の喪失を回復し、また補てんすることを目的とする制度でございます。稼得能力の喪失の回復ないし補てんを行うことによりまして、反射的二次的効果としまして生活保障の機能も有することは当然でございますけれども、生活保護制度のように生活保護を直接の目的とした制度ではないわけでございます。そういう意味で、被災労働者の稼得能力の損失に対する補償として労災保険制度が設けられておりますから、いわゆる健康で文化的な最低限度の生活を保障するという憲法上の生存権保護のための制度とは言えないのではないか。むしろ災害に遭わずにいたら働いて得たであろう賃金を補償するという考えでありまして、他の労働法関係の諸原理と同様に勤労権の保護のためのものである、こういうふうに考える次第でございます。もちろん勤労権そのものが生存権と密接な関係があるものでございますけれども、労災保険制度は直接生存権に基づくものとは言えないのではないかというふうに私どもは認識しているわけであります。
○谷口委員 災害補償が業務災害によって生じた損害のてん補である、こういうふうにするならば、現行法制上は労働者側の故意の場合、あるいは何の補償もないように規定されているわけですね。それならば逆に使用者側に一〇〇%の責任があった場合、保険料を一方的に使用者が負担をしているとはいうけれども、保険の活用ではなくて一〇〇%使用者側に損害のてん補を命ずるのが筋論だと私は思うけれども、これに対しては労働省としてどのようにお考えですか。
○倉橋説明員 使用者に故意または重大な過失等がある場合につきましては、先ほど御答弁申しましたように、労働者に対しては所定の労災給付を行い、反面使用者に対しましても費用徴収等の措置を講ずることにいたしております。片やまた民法その他の法律に基づきまして、使用者は労働者に対しまして損害賠償の義務があるわけでございまして、これは保険とは直接関係がない分がございますが、そういうことで、使用者の故意、過失がある場合につきましては民法上の請求権と労災保険の給付で労働者の損失の補てんを図るということになるわけでございますが、労災保険制度につきましてはやはり労働者の保護の見地から、使用者の過失の有無にかかわらずあまねく労働者に補償をするということが必要ではないかと思うわけでございます。使用者に故意、過失があるために保険制度から外すということについては労働者の保護にならないのではないかと思うわけでございます。そういう趣旨から使用者に対しましては費用徴収という制度を設けているわけでございます。
○谷口委員 答弁聞きましたけれども、逆にいわゆる筋論からいきますと、使用者側に一〇〇%の責任があった、故意であったという場合、これは労働者側から見ますと保険から外すことは大変なことです。したがって、保険がそれを給付しておきながら、そして別個に保険の方から使用者側に対してその費用を取り立てるということが私は筋論だと思いますが、いかがですか。
○倉橋説明員 保険制度の考え方としまして、先生御指摘のように、使用者から一定の保険料を徴収する、保険事故に対しては労働者には一定の補償はするけれども、実際にはその費用は使用者から徴収するということになりますと、故意、過失等の不法行為に基づくものは労災保険では保険をしないということになるわけでございます。一応労働者に立てかえ払いをするというような代位弁済的な機能は持つような制度は仕組めるかと思いますが、やはり私ども、故意、過失を含めまして保険制度を維持することが適当であり、かつ諸外国の労災保険制度につきましてもそのような体系にできておりますもので、先生の御指摘の点につきましては今後いろいろ研究してまいりたいと思いますが、当面の問題といたしましては、そのような費用を全額徴収するというようなことにつきましてはむずかしい問題を多くはらんでいるのではないかと思っております。
○谷口委員 これは論議の場でございますから、話がくどくなりますけれども、いまの御意見に対してはこういうことがあるわけです。たとえば、原因が第三者であって、労使双方に全く関係ないという場合、これは三年間ですかに限っては保険の方から第三者に対してその費用の請求ができますね。それからいきますと、整合性からいえば、労働者に一〇〇%責任があった場合には何にも出ない。第三者に原因があった場合には保険の方がいわゆる立てかえておいて、三年間については請求することができる、こうなっておるわけでしょう。そうなってくると、使用者の方に一〇〇%責任があった場合は、やはり保険の業務として、金は一応払うけれども、その財源については使用者に対して請求していくのが私は筋が通り、整合性があると思うのですが、重ねて伺っておきたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労災保険は、御承知のように、労働災害におきまして直接損害をこうむった労働者なり遺族に対しまして、直接その請求に基づいて補償を行う制度として設けられております。したがいまして、事業主に対しまして保険給付を行うという問題になりますと、労災保険制度の根幹に触れる問題でございますので、こういった方向への改正は慎重を期するべきではないかというふうに思います。
○谷口委員 なかなか釈然としにくい面があるわけですけれども、いわゆる業務災害による保険給付が損害のてん補であるというならば、使用者側に一〇〇%責任がある場合、一〇〇%損害のてん補をすべきではないのですか。また、保険給付の性格と責任の関係からすれば、労使双方に過失を問えない場合、また軽い過失に対しての給付であり、使用者側の故意については保険料を一方的に支払っていることから、その責任の六十数%を保険から負担するということになっているのではないんですか。この私の考え方はどこか間違いありますか。
○倉橋説明員 事業主に一〇〇%過失がある場合、労働者に過失がない場合の全額補償とすべきではないかという御議論でございますが、給付水準の中でそのような保険水準にいくのは一つの方法かと思いますが、現在のわが国の保険制度におきましては、事業主の無過失賠償責任を中心といたしまして、むしろ迅速に支給をするというたてまえから、使用者に故意、過失の存在を求めるという形でなく、使用者の故意、過失の有無に無関係に保険を支給するという制度になっているわけでございます。 そういうことから、無過失賠償責任の場合を中心に考えまして、全額ということでなくて、逸失利益の一定部分を補償するというようなことになっておりますが、先生御指摘のような保険制度、過失がある場合につきましての一〇〇%保険をするということにつきましては、いろいろ保険制度の研究の中で考えていきたいと思いますが、やはりそれらの不法行為を行った者を前提にするということは、公的な保険制度につきましては非常に矛盾といいますか、使用者が悪をするものに対しての公的制度をつくるということにつきましてはなかなかむずかしい問題がございますので、先生の御指摘の問題を含めまして、今後いろいろ研究してまいりたいと思っております。
○谷口委員 もう少し詰めてみたいと思いますけれども、第三者の行為による事故の場合は、いわゆる不法行為によって、三年以後は被災者と第三者との間に損害賠償責任が完了するわけですけれども、その完了した以後もいわゆる年金が給付されると聞いておりますけれども、その実態と第十二条の四との関係はどのように解釈すればよろしいのですか。
○小田切説明員 第三者行為災害、すなわち使用者、労働者以外の第三者の責任によりまして業務上労働者に災害が及んだというようなケースでございますが、そういうケースにつきましては、加害の責任がございます第三者が究極的に損害賠償すべきものであるわけでございますが、仮に労災保険の方が先に給付をしております場合におきましては、労災先行と申しますか、究極的に負担すべき第三者にかわって給付したわけでございますから、第三者に求償するということになるわけでございます。逆に、加害の責任がございます第三者が給付を行いました場合には、第三者からなされました損害賠償の価額の限度で労災保険給付を行わないことができるという法律上の規定になっておりまして、現在その運用といたしましては、災害発生後三年以内の年金につきましては、災害発生後三年求償しているという措置を講じております。
○谷口委員 最後の残されたチャンスでございますから、とことんまで詰めていきたいと思いますけれども、こちらの誤りがあったら指摘をしていただきたいと思います。 このケースについて政府の立場で物を考えるとすれば、損害のてん補を二重に行っていることになるわけですね。第三者の場合だったら、三年間を切れてもずっと年金が支給されるわけでありますから。そうなってくると、この部分については損害のてん補の枠を踏み外していると私は理解できると思いますけれども、このはみ出した部分については、政府はどのように理解をいたしますか。
○倉橋説明員 第三者加害行為によりまして労働者が被災をしたという場合につきましては、第三者に三年間だけ調整してそれ以後は調整の対象としていないということの問題点でございますが、労災保険制度につきましては、先ほどから申しておりますように、使用者の責任保険であり、使用者の保険料負担によって労働者が受けました損失を補てんをしていくという制度でございます。片や、第三者が不法行為によりまして労働者に加害をした場合につきましては、これは保険とは直接的に関係ございませんで、むしろ保険財政に何らかの財政影響を与えたということでございますので、保険関係とは別の見地に立ちましてその被害請求をするというようなことに考えているわけでございます。したがいまして、三年がいいのか四年がいいのか、いろいろ御意見がございますが、私ども実情の取り扱いとしては三年を標準にしているということでございます。
○谷口委員 時間が迫ってきたようでございますので質問を急ぎますけれども、労働災害におきましてその責任の所在あるいはいろいろな問題についていわゆる基準監督署が明確にすべきだと思いますけれども、現在の場合、被害者が挙証責任を有していることになっていると思います。ところが、現状は、被害者の方が挙証責任を果たすことは非常に困難でありますから、会社、組合関係で協約を結ばれましてその挙証責任がほとんど会社側に背負わされているところが相当多いだろうと私は思います。最近の立法例あるいは判例においていわゆる挙証責任のあり方というものが少しずつ変わりつつあるのじゃないか、いわゆる業務上のほか、あるいは労使の責任の所在の挙証のあり方について被害者に挙証責任を持たせることについては非常に困難性がある。だから、これはほかの法令との関係もあるけれども、今後はいわゆる挙証責任は当然自分たちの責任ではないという、使用者側の挙証責任に変えていかなければ、被害を受ける労働者の方としては非常に大きな問題となると思います。 これは考え方としては非常に大事な問題でありますから、この問題についてどうお考えなのか、大臣の見解をお伺いして私の質問を終わりたいと思います。
○吉本(実)政府委員 労災保険は、労働者がこうむった負傷ないし疾病または死亡で業務との間に相当因果関係があると認められるものについて所定の保険給付を行うものでございます。 そこで、このように業務上の災害について私傷病と区別して特別の補償制度を設けている以上、業務上であるか否か不明確なものは、制度のたてまえ上これを対象とすることは他の社会保険との分担関係上妥当ではございません。したがって、労災保険制度の保護を受けようとする者は保険給付を受ける権利の存在を主張することが必要であるとされているわけでございますが、実際の事務といたしましては、労働者またはその遺族が所定の保険給付請求書の提出に当たりまして、負傷または疾病にかかった事実関係を疎明すれば、必要に応じ、監督署において所要の調査をし、専門医の意見も徴してその上で監督署長が業務上外の認定の判断を行うこととしておるわけでございます。このように、請求に当たりまして労災保険制度の目的に照らしてこのことが労働者の過大な負担にならないよう十分措置しているところでございます。したがって、さらに立証責任の転換を図るということは必要ではないのではないかというふうに考えております。 それから、先ほど私ちょっと御質問を取り違えて恐縮でございましたが、第三者行為災害の場合の点でございますが、従来、労災保険法の四十年改正の際に「故意又は重大な過失によって、保険加入者が、補償の原因である事故を発生させたとき」は云々、「政府は、保険給付の全部又は一部を支給しないことができる。」こういうような規定がございまして、この規定によりまして、事業主加害の場合には加害事業主が労働基準法上の災害補償責任をみずからの負担でもって果たさなければならなかった。しかし、四十年の法改正で遺族補償年金が創設されたといったような事情、それから労災保険給付の水準の大幅な向上なり年金化がされたために、従来の取り扱いでは事業主に故意または重過失がある場合で事業主が支払い能力に欠けるケース等がございまして、かえって労働者の公正迅速な保護に欠けることがあるといったような事情のために、こういった場合については保険給付を行うことにしますが、当該使用者からは基準法上の災害補償の価額の限度で保険給付に要した費用の全部または一部を徴収する、こういうようなことになっている次第でございます。
○谷口委員 まだ詰めたいことがありましたけれども、時間が参りましたので終わりますけれども、私はいわゆる被害者側の挙証責任というものは、ほかの法律とも一緒に、これは将来大きな問題として考え直さなければいけないのだということを提案して、私の質問を終わります。
○葉梨委員長 次に、梅田勝君。
○梅田委員 私は、労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律案につきまして質問を申し上げたいと思います。 今回の改正案は、一部には改良的な面もございますのでそれはいいわけでありますが、先ほど来議論がございましたように、民事損害賠償との調整といった重大な問題が出されている、それ以外にも幾つかの重要な問題点がありまして、これはすんなりとは通すわけにはまいらないわけであります。 私は、まず労働大臣に御質問申し上げたいわけでありますが、昨年の十二月三日に総評弁護団労災研究会、自由法曹団労災職業病対策委員会、この両者のそれぞれ代表者の名前をもちまして大臣に対して労災保険法改正に関する意見書というものが出されております。大臣、これはよく御検討をいただいたかと思いますが、若干その大事と思われる点をちょっと読んでみますので、改めてこの意見に対してどのようにお考えになっているのか、お伺いをしたいわけであります。 すなわち「労災保険制度は、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充すべき」労働条件の最低基準を定立し、「業務上」であることを唯一の要件として法定補償を行い、資本制生産のもとで使用者に使用従属し社会法則的にその犠牲者とされる労働者とその遺家族の生活を使用者に保護させることを目的とする労基法上の法定補償制度を、保険制度を利用することによって集団としての使用者の責任の拡大・徹底をはかり、被災者の生活確保をはかるための保険制度である。したがって、労基法上の法定補償制度も労災保険制度も、損害の填補それ自体を目的とするものではない。これに対し、損害賠償制度は、市民相互間において発生した損害を填補し、その公平な分担をおこなうことを目的とする法制度である。したがって、両者は本来相互補完の関係になく、両者の法律制度の目的からみて、制度上両法律制度による二重の利益を相互に排除する関係にはない。」非常に明快に書かれているわけでありますが、もちろんこれは御検討なさった上での提案でありましょうが、この意見に対してどのように考えられておるのか、まず最初に伺っておきたいと思います。
○藤波国務大臣 梅田委員から御指摘のありました意見書は拝見をいたしました。労災の保険制度は、労働災害について事業主が過失がある場合のみならず無過失の場合をも含めまして損害賠償の責任を認める法理を基礎にいたしまして、事業主の負担により労働災害で労働者がこうむった稼得能力の損失をてん補することを目的とする制度である、こういうふうに私どもは考えておるわけでございます。したがいまして、受給者の生活の必要のために行われるいわゆる社会保障制度とは基本的に性格を異にするものであるというふうに理解をいたしております。したがって、労災保険給付が行われる場合におきまして、同一の事由について事業主が民事損害賠償責任を負うケースにつきましては、民事損害賠償と労災保険給付は両者とも損失のてん補を図るものであるという点で共通性を持つものでありますので、同一損害について両者により重複しててん補がなされるという不合理な事態の解消を図るという必要が生じてくるわけでありまして、相互の調整がどうしても必要であるというふうに考えたわけでございます。 なお、労災保険給付は損害のてん補の性質を有する点におきまして、民事損害賠償と同質性、相補性を有することは判例、学説の大勢が認めるところでありまして、この点につきましては五十二年十月の最高裁の判決でも認めておるところでございます。 したがって、相互の調整を図ることは問題はないというふうに考えまして、委員御指摘の意見書は十分検討させていただきましたけれども、今回法制上のそういった欠落しておる部分を補いますために、今回の改正を機会にぜひ御審議、御決定をお願いしたい、このように考えまして盛り込ませていただいた次第でございます。
○梅田委員 いま大臣言われましたね、企業の無過失賠償責任制、それを保険制度によって補償していく。この制度はいま大臣は社会保障ではない、このようにおっしゃいましたが、私は戦後の民主化の進行の中におきまして労働基準法ができたこと自体、これは働く者に対しまして最低の賃金、労働条件を定めていくという点におきましていわば重要な社会的な法規だと思うのですよ。そこで、災害が起こった場合に、責任のあるなしにかかわらず、当然企業としての、資本家としての連帯責任においてこれを補償すべきである。従来は、こういう制度がなかったときには千度使っておいて、災害が起きた、死ぬ場合はもうほったらかし、ちょっと香典を持っていった程度で終わり。それから、障害者になった場合には、これまた街頭にほうり出されて生活ができない、こういう状態になっていたわけです。今日では生活保護法がありまして、食べられないという場合には憲法の精神に従って最低生活を保障していく、このようになっておりますが、障害になった原因が、企業で働いておった、労働しておったということを通じて障害が発生した場合の責任をだれがとるのか。これを生活保護法で見るというのはおかしいですね、企業で働いていたのですから。それを企業が従来無責任であった状態を、労働基準法を設け、さらに労災法をつくって政府がいわば責任を持って保険給付を行う。法のもとでやるわけでありますから、強制力を持って施行する。これはいわば社会保障ではないですか。そこのところが明確にならないと、この法律制度はよくならないと思うのですよ。ましてや、今回のような調整規定が出てくると、現実には今日両制度からその損害のてん補を受けた方々が重大な損失をこうむるということになろうかと思うのです。その点はどうですか。
○倉橋説明員 労災保険制度が社会保障制度であるかどうか。社会保障制度の定義につきましては、いろいろの考え方、範囲等がございますが、少なくとも労災保険制度は、労働者が業務上被災することによりまして稼得能力を損失した、その損失の補てんを使用者の負担において保険するという制度でございまして、したがいまして結果におきまして補償されたことによりまして被災労働者の、またはその遺族の方の生活が安定するという二次的効果は確かにございますが、しかし、その制度の意図するところは、あくまでも従来健全に働いていたならば得たであろう所得の補償を行う、補てんを行うという趣旨でございます。その点では社会保障というよりも一つの労働政策上におきます使用者責任を保険形式で行うというふうに理解しているところでございます。
○梅田委員 あなた、そのように言われますけれども、実際は現在の労災保険による補償というものは、決して災害によって起こった労働能力の損傷とかあるいは損失とか、いわゆるあなた方が言われる逸失利益、これをきちっと補償するような制度ではないのですよ。実際はどうにかこうにか、人間として最低の生活ができるような程度のお金しか出していない。それは先ほども議論がございましたけれども、この法律の目的自体が当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図るということになっている法の目的自体に象徴的に表現されていると思うのですよ。あなた方はこの保険によって逸失利益がちゃんと補償されているなどと前提として考えること自体が間違っておる。そこのところ、はっきりしてもらわなくちゃ前へ行けないと思うのですよ。労災保険経済概況というのをそっちからいただきましたが、これによりますと、一般会計からお金をもらっておりますが、二十一億五千万円、これは何に使っておるのですか。
○小田切説明員 特定の使途があるわけではございませんでして、全般的な労災保険の支出に充てられているということでございます。
○梅田委員 大臣、お伺いしますが、確かにいまの二十一億五千万円というものは、金額としては四十二兆円の国家予算からすれば率としては小さいかもしれない。また、労災保険全体の比率の中におきまして、これはそんなにでっかいパーセンテージではないと思いますが、少なくとも二十一億五千万円出すのですから、これは一体何で出すのですか。政府が強制力を持って保険としてやるということの必要性から出しているのじゃないの。どうですか、大臣。
○藤波国務大臣 もう答弁も一緒に発言していただきましたので、私からお答えをしませんが、政府は労災保険という仕組みを非常に大事に考えて、国としてもこの仕組みが十二分に活用されていくように考えて補助をする、こういうたてまえだと思います。
○梅田委員 ただいま御答弁なさいましたように、無責任きわまる企業が災害を起こして障害者が出た、それを放置するのは許さぬぞ、まず保険制度で政府が最低の生活が保障できるようにやっていこう、この趣旨から法律制度もつくられ、本来は企業の責任で全部やらなければいかぬと思うのでありますが、しかし法をもってやるという点もあって、わずかではあるが金を出しておるということから考えますと、これはきわめて重要な社会保障じゃないですか。どうですか。
○倉橋説明員 政府が一般会計から費用を負担したからといって、それが直ちに社会保障であるという論理にはならないのではないかと思います。当該労災補償制度の主要なものは、先ほど申しましたように、保険料収入をもって充て、それに基づく給付を行っているわけでございます。したがいまして、御指摘のように、一般会計から二十数億の補助がなされておりますが、これをもって直ちに制度全体が社会保障制度であるというのは、いささか私どものとる立場ではございません。
○梅田委員 この議論はちょっと平行線をたどるようで、私どもの主張をなかなかお認めにならない。まことに残念でありますが、私どもは両者の調整は非現実的だというように考えているのです。給付全体が低い。民事訴訟の賠償をとりましても、水準がきわめて低い。そういう現状のもとにおいて調整をやるという考え方自体が非現実的であり、きつい言葉で言えば反労働者的な考え方だ。労働省が労働者の基本的な権利を守っていくという——幾ら自由民主党の政府であっても、労働省はせめて労働者の権益を守っていこうということがモットーになっておるならば、今回の提案は引っ込むべきだと思うのです。 そこで、議論は平行線になっておりますので、ちょっと先へ行きますが、その六十七条の「当該損害賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。」と書かれておりますが、その「当分の間」というのは、どの程度の期間なのか、また、なぜこういう規定が必要になってきたのか。これは調整規定につきましては、施行期日が来年の十一月一日になっておるというところから来ておるのか、そこらあたりちょっと確かめておきたい。どうです。
○倉橋説明員 「当分の間」と法律上規定いたしましたのは、この調整規定につきましては、前払一時金制度、失権差額の一時金制度との関連があるわけでございます。そういうことから「当分の間」になっているわけでございますが、なぜ「当分の間」かと申しますと、労災保険制度につきましては現在では年金制度が基本でございまして、一時金制度についての前払一時金につきましては、暫定的な措置として制度化されているわけでございます。いままで一時金で補償をいたしました補償制度から年金制度に移行した場合におきましても、やはり一時金の要請が強いという関係もございまして、暫定的に年金の思想が定着するまでの間、前払一時金制度を置くという法律のたてまえになっている関係上、それとの平仄上、この調整規定につきましても「当分の間」としたわけでございます。
○梅田委員 具体的にこの調整を実施していこうということになりますと、いまおっしゃったような問題も出てくるし、非常にむずかしい問題が出てくるのではないかと私は思うのです。 〔委員長退席、住委員長代理着席〕 もともと、この間の最高裁の判決におきましても、まだ払ってないものは、そんなものは差っ引けないのだというのはすでに出ているわけですから、これから民事訴訟で損害賠償をとった場合、その内訳が明らかでない場合、先ほど三つのケースということで議論になっておりましたが、どのようにしてこれを調整するかむずかしくなってきますね。 そこで、現在でも第三者行為災害による求償はやっておられるわけでございますが、先日資料をいただきますと、昭和五十二年度におきましては六千二百六十九件なされております。これは計算してみますと、一件当たり四十七万五千円ほどになるわけでございますが、一体中身はどういうものが入っているのか。自動車事故の場合、自賠責保険による給付ということが行われておりますが、これが多いのではないかと、想像ですけれども思っておりますが、中身はいかがなものですか。
○原説明員 第三者行為災害の場合の求償権の行使につきましては、最近、年々増加しておりまして、昭和五十年には五千百十三件でございましたものが、昭和五十三年には、先生御指摘のとおり、六千二百六十九件になっております。 この類別といいましょうか、細分は、実は統計で全国から集計しておりませんものですから、内訳はわからないのでございますが、実際の扱いをしております場合には、交通事故が大半でございますので、それだけお答えを申し上げます。
○梅田委員 交通事故が多い、大半だということでありますが、そのほかで示談になって区分が明確でないという例はいままでありましたか。
○原説明員 交通災害の場合等を含めまして、たとえば自賠保険で保険されてないような場合の交通災害等もございます。いろいろなものを含めてみますと、示談で内容が明らかでない場合等が実際の取り扱いの中ではよく見られるところでございます。
○梅田委員 そういう場合はどうされますか。
○原説明員 現在のところの扱いは、大部分が自賠保険でカバーされているケースでございますが、自賠保険でカバーされてない場合は、示談の内容等について、それが同一の事由に基づいて二重てん補されるということがないようにということを中心にした調整規定が、労災保険法の現在十二条の四に規定されているわけでございますので、この規定に基づいて、示談があった場合に、その示談が真正に成立しておりまして、しかもそれが全損害のてん補を目的とするものである、そういうものであることがはっきりしている場合については、労災保険の方を支給しないという形で調整をしております。その反対に、全損害のてん補であるかどうかが余り明確でない場合は、当事者の意思がどうであるかというようなことを十分当事者から内容を聴取いたしまして、それでどうしてもそこが明らかでない場合につきましては保険給付を行うこととしております。そういう形で、この現在の第三者行為災害の場合の調整は行っております。 自賠の適用される場合につきましては、自賠先行の方式で補償を実施するという形で実務上処理をいたしておりまして、これによりまして、休業補償とか療養補償給付につきましては自動的に調整がなされます。そのほかの後遺障害や死亡につきましては、自賠保険と同じような項目に関しまして中身を、自賠の方の損害調査額等によって判定をいたしまして、それによって調整をするという形で逸失利益分についてのみ調整を行っておるわけでございます。 それから、自賠保険以外の場合につきましての……(梅田委員「簡単にやってください」と呼ぶ)はい。自賠保険以外の場合の慰謝料等の算出等、求償権を行使する場合に必要な算定につきましては、すでに三十五年から通達を出しておるところでございます。
○梅田委員 結局、示談が中身を明確にしないような、金額だけでやったような場合には、今度の調整もできないということになりますね。
○倉橋説明員 先ほど課長から説明いたしましたように、示談の内容につきましては、本人の、できるだけ意思を確認していく、その意思の内容によりましてそれに従った分類をしていきたいと思っているわけでございます。
○梅田委員 その場合の判断が、結局労働省のそれぞれの担当者のいわばその考えによって左右されるということになりますと、これは非常に重大になりますので、先ほども議論になっておりましたけれども、あくまでも労働者の利益を守る立場で労働省はやるのか、ここのところをもう一度確認をしておきたい。
○倉橋説明員 調整の実施の基準その他実施に当たりましては、労災保険審議会からも意見が付されておりまして、その実施に当たりましては被災労働者の立場を十分に尊重して行うようにということになっております。したがいまして、私ども基準の策定及びその実施に当たりましては、被災労働者の立場を十分配慮してまいる所存でございます。
○梅田委員 ところが、実際に、そのようにおっしゃっておりますが、またそのように言われたとおり私はやっていただきたいという点でここでもう一度確認しておきますが、しかし実際問題として、それじゃどういう基準でやるのかということになりますと、調整措置のいわば実施基準というものを来年の十一月までに、必要な手続も経てやられると思うのでありますが、現実の運用におきましてはこれは非常に複雑になってくるのですね、行政が。だから、われわれは、法案審査をしているときに、これは大体どういう実施基準でやろうとしているのか、その労災保険審議会にやがて諮問すると先ほどおっしゃっていましたが、その中身ですね、これは出していただかないと審議のしょうがない。これはいま出ますか。
○倉橋説明員 その調整の実施の基準につきましては、労災審議会にお諮りしまして、それに基づいて実施するわけでございますが、法律に書いてございますように、まず民事賠償額が裁判上調整されるというのは、前払一時金額相当でございますが、それを超えて民事賠償が履行された場合、調整されるのはあくまでも労災給付との相当給付がある場合であります。相当給付が含まれているかどうか、示談のような場合には非常に不鮮明ではないかという御指摘がございますが、裁判手続その他の中におきまして、労災補償で補てんされる部分と重複する部分につきまして調整をするということでございます。したがって、調整の対象といたしましては、慰謝料、物損等の部分は含まれない。さらに、労災保険制度につきましては、損害賠償、逸失利益のすべてを給付をしているわけではございません。そういう関係で、それの逸失利益の一定部分につきまして調整、比較をするということでございまして、その一定部分と、労災給付がそのまま支給されたのであれば、同額になるという時点まで調整をしていくわけでございますが、その調整に当たりましても、労災給付につきましては賃金スライド等の、受給者にとって非常に有利な制度が働くわけでございますから、そういうようなスライド等の利益につきましても十分算入いたしまして、労働者に有利なようにしていく。さらには、民事賠償におきましては、一定年限までの所得ということを想定して逸失利益を計算するわけでございますから、その一定の稼働年限を超えては調整をしない、そういうような基本的な立場で調整の基準を策定してまいりたいと思っております。
○梅田委員 いまのは非常に重要な問題ですが、いま説明されたのはちゃんと文書であるのですか。この諮問しようとする原案というのはできておるのですか。そんな大事なのを、いまちょっとそこでお話しになっただけで、われわれは検討できないですよ。また、聞いておってもきわめて不十分です。
○倉橋説明員 いま申しました点につきましては、この法案につきまして労災審議会にお諮りし、いろいろ論議の過程におきまして、答申を得る段階におきまして、当審議会の会長が、基準の作成については、いま私が申しましたような内容に沿った基準を策定して、それで議論をしたいということを申しまして、委員各位につきましてもそういう範囲の中でいろいろ討議をしようということになっているわけでございます。
○梅田委員 そういうことでは、この問題はスムーズにいかないというように思いますね。この点につきましてはなお私、検討さしていただきまして、後ほど改めてまた質問をさしていただくというようにしたいと思います。 なぜかというと、自動車損害の賠償責任保険、いわゆる自賠責の実際の判定の仕方は、保険会社によっていろいろな基準を持ち寄ってやっているわけですけれども、みんな一覧表になっておるわけだ。そして、人間の命を何ぼで計算するか、これは自賠責の場合は最高二千万円。えらい安いものですね。ところが、これは機械的に千四百万円が逸失利益で、そして慰謝料は六百万円、どのように計算して六百万円が慰謝料になるのか、これははっきりしませんでしょう。実際の判定の作業をやる詳細な基準になるものの資料を出してくれと言ったら出さぬわけだ。企業秘密だ、何だかんだと言って出さぬ。実際問題として、第三者行為に対する求償の際にも、厳密に議論すればそういった問題も出てくるわけですよ。まして今度労働災害の問題で、企業の責任に対して徹底追及ということで、損害賠償だということでやられて、貴重な闘いの結果かち取ったお金を、あなたのところが一定の基準表をつくって問答無用式に持っていったら、これは何のためにやるのかわからぬということになりますから、先ほどいろいろ労働者の立場に立って基準は考えるとおっしゃっておられますが、私はそういった危惧もございますので、もう一度この点は強調しておきたいというように思います。 次の問題でございますが、メリット制の点でございます。今回はこの幅をさらに広げるということでございますが、効果というものがどの程度なのかということで資料を求めたところ、「昭和二十六年四月にメリット制度を初めて実施した際の前後調査の内容」ということで出てきたわけでございます。ところが、これを実際に見ましても、確かに減ったところもありますよ。減ったところもありますが、ふえているところもあるわけですね。製材・木製品工業一二一・五、印刷または製本業一二七・九、金属鉱業一一〇、その他の鉱業一四五・五というようにふえているところもある。そちらの言い分としては、六五・八%が減っておるのだ、だからこれは効果があるんだとおっしゃるかもしれないけれども、ふえているところも片っ方あるわけですからね。これはどのように説明するのですか。 これが一つと、もう一つは、この調査は一遍しかやっておられないというように聞いておるのですが、これは何回か調整幅は変更されたように思うのですが、なぜ調査はやられないのですか。
○原説明員 メリット制の効果につきましては、先生御指摘のとおり、二十六年に実施した調査結果によりまして相当効果が一般的にはあると認められております。確かに御指摘のとおり、企業によっては、当時のことですので、まだこのメリット制について十分な知識もなかったということもございましょうし、それから製材・木製品等の中小企業におきましては、当時の生産設備等が非常に老朽化した事態の中で生産しなければならないという形の中で、にわかに災害防止効果が上がってこなかったというようなものもございまして、個々の企業の中ではいろいろな変化がございますが、全体的には大変大きな効果が上がっておったのではないかと考えておりました。 その後調査をしておるかということでございますが、細かい似たような調査というのは実施をいたしておりません。が、そのような効果が大変あるということは、中小企業の事業主も含めまして、メリット制が適用されているそれぞれの事業主からは相当大きく指摘をされておるところでございます。
○梅田委員 この二十六年のときの調査でも、千人以上、それから五百人から千人まで、五百人以下百人まで、この三つの区分に従って調査をなさっておりますが、確かに千人以上のところは八六・七、次は六九・一、そして四百九十九人から百人までのところは六二・四というように、企業の大きいところは効果が上がっているような数字が出ておる。下へ行くほど悪い、こういう数字が出ておるわけですね。 それで、きょうもらったそちらの「メリット制適用状況」によりますと、継続事業におきまして、三年平均で、保険料を追加的に取ったところ、これは二一・六%、それから据え置いたところは三・三%、それから、保険料を下げて返したというところが七五・一%ということになっておりますね。六万六千二百九十二事業所に対して、このメリット制によって保険料を返した。先ほど保険財政は六百何億の赤字がある。ところが、その中で保険料をちょっと返しますといって返した。このままとすれば、でっかい企業ほどぎょうさん返してもろうたということに推測できるわけですが、それはそのように理解してよろしいか。
○吉本(実)政府委員 労災保険は、御承知のように、使用者の労働者に対します無過失補償責任を前提にした保険制度でございますので、企業規模を問わず、使用者である以上、各事業場ごとの災害率に応じて設定されました保険料率によりまして保険料の負担をするべき性質のものとなっておるわけです。具体的に料率を設定する場合には、小規模の企業においてのみ料率の引き上げを据え置くというわけにはいかないわけでございまして、むしろ災害率が、どっちかというと、先ほどごらんになったように、小規模企業ほどより高いわけでございまして、そういった費用のこととか、また費用の公平化を期するというような点から全規模でもってならしていっておるわけでございまして、小規模の方はむしろ有利に作用しているということになるわけでございます。
○梅田委員 時間がないので一々その問題についてやりとりしませんが、ただ一つ言いたいことは、この資料によりますと、「災害防止に努力し、その結果、災害の軽減がはかられた事業が多かったことによるためである。」というように、企業努力が行われたというように評価されておるわけですけれども、しかし私は、大企業というのは今日減量経営をどんどん推進して労働者に対しては合理化合理化でどんどんやる、そして大企業によるいわゆる災害隠しというものがこういう制度によってさらに強まっているんじゃないかという感じがするのです。 具体的に申し上げたいわけですが、たとえばここにもビラがございますが、「三菱製紙の“安全政策”これでいいのか!」ということで、「肋骨二本骨折の労災でもなんと「不休災害」扱い本人は有給休暇で長期に休んだ」こういうのが出ておる。 〔住委員長代理退席、委員長着席〕 これは昨年の十二月二十八日に三菱製紙の京都工場で起こった事故でありますが、ちゃんとここに公傷現認書もいただいておりますが、ただし、これは「不休」ということで休業見込み日数のところは全然書いてないわけだ、休んだことになっていない。左胸部打撲、肋骨ひび、ある労働者はそういう労災をやっておるにもかかわらず、おまえは何をしておったのだということでぐっと職場で締めつけて、そして労災届をやらせない、こういう事例がある。 それから、三井銀行の例でありますが、「頸肩腕障害者に対する救済措置実施に関する確認書」が労使で協定されております。株式会社三井銀行、三井銀行従業員組合。私は労使が、よりよき労働条件をかち取るために、労災問題につきましてもこのようにしようという努力をなさることにつきましてはいいと思うのです。ところが、その第六項に「適用除外」というのがありまして、「当該者(または従業員組合)が、労働基準法および労働者災害補償保険法に定める災害補償の審査仲裁、給付申請、ならびに民事訴訟の提起を行なった場合には上記の救済措置は行なわない。」という適用除外というのをつくっているのです。この救済措置は、たとえば治療費につきましては「当行嘱託医の指示に基づく治療については、その治療費実費(但し、健保非カバー部分)の全額を銀行負担とする。」健康保険で一部を見て、健康保険で見られない部分については銀行が見よう、労災かもしれぬという問題に対してこのような態度をとるのは大銀行にあるまじき行為だと私は思うのです。これは労働基準法百四条はどうなっていますか。申告したときに不利益扱いをしてはならないというようになっているのではないですか、どうですか。
○岡部説明員 労働基準法百四条二項は、申告した者について「労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。」という規定でございます。したがって、先生現在御指摘の給付申請あるいは民訴を行った者について不利益な取り扱いをするかどうかは直接関係はない条文であろう、このように存じます。
○梅田委員 そんなことはないですよ。申請をすること自体に対して除外する、救済措置はやらないと言っている。大企業の方は、先ほど三菱製紙の例も言いましたように、労災隠しというのは意識的にやるのだ。そうしたら頸腕で職業病だといって、これを労働基準局にいって認知してもらう、事実上するなということになるのではないですか、そういう役割りを果たすようになるのではないですか。
○倉橋説明員 ただいま具体的な銀行の例で御説明もあったわけでございますが、内容を精細に見てまいりませんと私ども公的な判断をいたしかねるわけでございますが、一般論としてお答え申しますと、企業内で労使間におきまして結ばれた協定の中で、頸腕が業務上のものであるか上外であるかということについては非常にむずかしい問題がある。そういう中で業務上につきましては労災請求によりまして労災保険制度に乗せる。しかし、労災保険制度に乗らないような場合につきましては、使用者が業務上外でありましてもこれに対して所定の援護措置をするということもできるわけでございます。それが直ちに労災隠しになるとか、給付請求を抑えて云々というような判断はいたしかねるわけでございまして、私ども一般的に労使の間で、法律に従いまして、または法律を上回るような協定が結ばれることにつきましては十分理解をしていいのではないかと思います。 なお、具体的な申告等がございますれば、それに対しては適切な措置を講じてまいりたいと思っております。
○梅田委員 だから、労働省は労働者の立場に立っておるのか大企業の味方になっておるのか、そこをはっきりしなければいかぬということを私は繰り返し言うのだ。これは労使が協定しているのですから納得の上でやっているかしらぬが、実際にこの中では問題が起こっているのですよ。近く申請をする労働者が出てくるように聞いております。実際上はずっと抑えている。こういうことを放置しておったら、労働省は労働基準法や労災法を労働者の立場に立って運用することはできないですよ。非常に問題だと思います。大企業の労災隠しと申しましたけれども、労働省も労災隠しに手をかしているのではないかという気が私はする。いままでの答弁をずっと聞いてそう思うのです。たとえば、業務上疾病件数というのは二万六千何がしありますが、これは全体の数字から見ると少ないと思うのです。あなた方の認定が本当に労働者の立場に立ってやっているかどうかという気がする。京都の保育労働者の腰痛症、頸腕、これは何遍も申請しております。現在京都では、申請すればほぼ保育労働者については認定するようになりましたが、七年前に申請した分、八人ほどおられますが、これはいまだに未解決です。これはあなた方の認定から問題が出ているのですよ。いまだったら認定しておる。しかし七、八年前のことは全然ほったらかし、どういうことですか。 それから、これもおたくは知っていらっしゃると思いますが、宇和島で起こった事件です。山木和美さんという人、昭和五十二年の労災事件だ。ところが、これは松山労働基準局はうその報告を信用して、中学のころからよく欠席をしている、頭痛は先天的なものであろうという認定で却下している。よく調べてみたら、学校長は後でおわびの訂正を出しておる。本当に労働者の立場に立って労働省は労災事故に対処しているのかどうか、私は重大問題だと思うのですよ。 時間がないとやかましく言うてきていますが、最初の持ち時間が五十分、これは重要法案です。重要法案というのは大体二時間以上やるのです。それで審議を尽くすのです。委員長どうですか、質問を留保している部分もありますし、今後年金スライドの発動要件改善の問題でありますとか、零細企業の保険料軽減措置でありますとか、特別加入制度における改善要求だとか、あと二、三時間くらい質問するだけの材料があって徹底追及をやりたいと思っているのですが、あとの方の予定もございますので、きょうのところは後に質問を保留してとりあえずやめにしたいと思うのですけれども、労働大臣、いまのやりとりずっと聞いていただいたと思いますが、いかがなものでしょうか、こういう問題を早期に解決するという点でやっていただかないと、私は今度調整問題ね、一番大きな問題、そのときに労働省がどういう対処をするかという場合の一つの試金石として、私はひとつ大臣の決意を承りたいと思うのです。
○藤波国務大臣 具体的に、三菱製紙あるいは三井銀行あるいは京都の保母さんの腰痛の問題など御指摘をいただきました。労使がそれぞれ話し合いをして協定を結んで進めていくということについては、一応法律に基づいて進められていることについて、労働省はとやかく入っていくべきものではないというふうに考えますが、認定等の問題については、やはり慎重に認定をするという作業は当然大事だろうと思いますけれども、迅速にこれを判断するということも非常に大事なことだというふうに思います。なかなか人手不足であるとか、いろいろな問題もあるように聞きますが、こういったことにつきましては迅速に処理していくように、今後努力をしてまいりたいというふうに思います。 ただ、労働省はあくまでも労働者の生命、安全を守り、また一たび労災などが起これば、これに労働者が非常な不幸なことにならないように守る立場で従来取り組んできているところでございまして、毫も、労災隠し等に加担をするという委員の御指摘のようなことは全くないということだけは、労働省の名誉のためにそれだけは申し上げておきたいと思うのです。ただ、委員の御発言にありましたように、そんな気がするというお話でございますから、そんな気がされるのは、それは仕方のないことでありますが、十分そういう気がされないように労働省としてはやはり気をつけていかなければいかぬと思いますけれども、それぞれ御指摘のこと等につきましては、本質的に御指摘になられましたこと等、十分御趣旨を体し、今後労働行政をあくまでも労働者を守る、そして労働災害等に対しましては迅速にかつ労働者の立場に立って行政を進めるようにさらに努力をしてまいりたい。そして、ゆめゆめそういった誤解は各方面にお与えいただくようなことのないように労働省としては厳に慎んで進んでいかなければいかぬ。 何か感想を述べろということでございましたので、いまそれぞれ御指摘をいただきましたことにつきまして、感慨を申し上げた次第でございます。
○梅田委員 委員長、最後に一言……。
○葉梨委員長 もう時間オーバーしていますから、また次の機会に。
○梅田委員 大変不満ですが、後の関係がありますので一応質問を保留して終わります。
○葉梨委員長 次に、塩田晋君。
○塩田委員 労災補償保険法等の一部改正法案に関しまして、大臣並びに労働省局長にお伺いいたします。 一個の人間の命、これは地球の重さよりも重いと言われております。人命はかくのごとくとうといものでございます。また、身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の初めなりといういにしえのシナの聖賢の教えもございます。過失、無過失、故意のいかんを問わず、けがとか病気は最も大きな親に対する不孝であります。また、不幸せのもとであります。本人の肉体的、精神的な痛みのみならず、家族にとっても大きな痛みであり、ときには悲惨な結果をもたらすものでございます。 ちょうど大臣のお名前は孝に生きると書いてございましてタカオと言われますが、勤労者の命、労働災害すなわち負傷、病気、身体障害等に責任を持って立ち向かっておられます行政の最高責任者として、これに対しましてどのような基本的な考え方、態度で臨んでおられるかということについてお聞きいたします。
○藤波国務大臣 労働災害がきわめて不幸な事態に陥る、働いておられる方々にとって、どういう理由であれ非常に不幸なことになるという御指摘は、全く同感でございます。したがいまして、労働省といたしましては労働政策の重要な柱の一つとして労働災害に対する予防でありますとかあるいは対策等、安全な労働環境をつくってまいりますためにあらゆる努力を進めてきておるところでございます。労働災害絶滅のために昭和五十三年度を初年度といたしまして第五次の労働災害防止計画を策定をいたしまして、機械設備の安全性の確保、健康管理対策の推進など災害防止対策を推進をしておるところでございます。不幸にして被災をした労働者及びその遺族に対する補償につきましては、数次にわたる労災保険制度の改正を経て、すでにILO百二十一号勧告の水準を満足する、こういった水準にまでは努力の結果来ておるところでございます。労働省だけががんばってきたというのではなくて、立法府である国会の皆様方のいろいろな御指導や御鞭撻をいただきまして労災保険制度がそこまで前進をしてきたというふうに考えるのでございます。 さらに、最近におきましては、昭和五十一年の法改正によりまして、年金受給者に対する給付内容の改善を中心とする制度改善を行ってきたところであり、今回も給付の改善のための法改正をお願いしているところでございます。さらに、労災保険制度全般につきまして労災保険審議会においてさらに検討が進められておるということを御報告を申し上げておきたいと思うのでございます。 なお、労働災害の業務上、外の認定につきましても迅速に行い、被災者の保護に努めておるところでございます。労災保険では被災労働者の社会復帰の促進、援護の充実につきましても労災保険制度の改善の一環として必要な改善を行うことといたしております。 今後とも御指摘のございましたように、労働災害に対する万全の対策を講じ、労働行政の中で最も大事な柱の一つとして強力にこれを展開をしてまいりたい、このように考えておる次第でございます。
○塩田委員 そこで業務上、通勤途上の災害に対する保険給付が行われておるわけでございますけれども、労災の発生の状況、それからそれがどういう推移を経てきておるかということにつきまして御説明を願います。特に死亡者数がどれくらいになっているか、その推移についてもお伺いいたします。
○吉本(実)政府委員 最近の労働災害の発生状況でございますが、労災保険の給付データで新規の受給者を見ますと、五十年までは全体として減少を見ておりまして、五十年におきまして百九万人程度でございましたのが、さらに五十一年以降は若干増加の傾向にあり、五十三年には百十四万三千人ということになっております。また、休業四日以上の死傷者数の推移でございますが、これも五十年までずっと低下の傾向にあったわけでございますが、五十年で三十二万二千三百二十二人でございましたのが、やはり五十一年、五十二年と増加の傾向にありまして、五十三年には三十四万八千八百二十六人ということになっております。さらに、不幸にして死亡された方でございますが、五十一年が三千三百四十五人、五十二年が底になりまして三千三百二人でございましたものが、五十三年にはさらに三千三百二十六人に増加しております。五十四年におきましてはまだ確実な数字を把握しているわけではございませんが、死傷者数は全体としまして約二%減、死亡災害につきましては三千七十七人というのを現在把握しておりまして、七・五%の減少を示しておるという実態でございます。
○塩田委員 一年間に三千三百人以上といった多数の方々が亡くなられたということでございまして、この問題は非常に重大な問題だと思います。 そこで、こういった労働災害の発生の動向を反映いたしまして、労災補償保険の財政の状況でございますが、その収支の状況はどうなっておるか、その推移を御説明いただきます。
○吉本(実)政府委員 労災保険財政は、制度発足以来昭和三十年度を除きまして単年度収支ではずっと黒字で維持してきたのでございますが、五十二年度におきまして百二十三億円の赤字、五十三年度には四百九十六億円の赤字となりました。また、五十三年度末におきましては、こういった赤字補てんのために積立金を取り崩しまして、昭和五十一年度末では千二百四十五億円を保有しておりました積立金が五十三年度末には五十六億円に減少しているような次第でございます。さらに、五十四年度におきましては単年度収支の赤字幅はさらに拡大が見込まれていることもございまして、このまま放置しますと労災保険事業全体の正常な運営に支障を来すというような状況に立ち至っているというところでございます。
○塩田委員 ただいまお聞きいたしますと、かなりの財政収支の悪化の状況が出ております。赤字になり、また積立金も急速に減少してきているという状況でございますが、その原因は何であると考えておられますか。
○吉本(実)政府委員 財政収支の点でございますが、収入におきましては、やはり最近こういった第一次石油ショック以来の状況ということでございまして、賃金の上昇率が低くなりつつあるというような状態におきましての収入の減、それからさらに、高い料率でございます第二次産業から労働力の移動によりまして料率の低い第三次産業に雇用構造が大きく変化している、こういうようなことで保険料収入が所期の伸びを見せなかったことは言われると思います。また、支出面におきましては、保険給付費におきまして、医療費単価の上昇によります療養費の増高とか、あるいは五十二年に実施いたしました制度改善によります年金等の給付費の急増、こういうようなことで支出が大幅に増加したことが挙げられるわけでございます。 またさらに、年金受給者の累増に対処するために、前回の五十年一月の料率改定の際には、三年程度たった後に再度の料率改定を行う予定を組んでおりましたところ、当時の経済情勢にかんがみまして料率についての改定は見送ってきたというようなことから、そのことも一つの要因となっておるというようなことでございます。
○塩田委員 いろいろと原因を分析して、これに対処していっておられると思いますが、何としても労災保険の財政収支を健全化するということがまた労災補償を十分に行う前提にもなることでございますし、そういった面におきまして、十分に適切な対処をしていただきたいと思うわけでございます。しかし、何といいましても、保険事故である災害の発生、これを減少するということ、それには何としても事前の予防、疾病にいたしましても同じでありますが、災害の防止、安全対策の推進ということが基本ではないかと思うのでございます。もちろん安全を確保するためには金がかかることでございます。施設装備に投入すべき金がなければ、幾らやろうと思ってもできない。また、給付を改善しようとしても金がなければできないわけでございます。安全対策というのは、天災防止、交通事故防止あるいは国の安全対策にいたしましても、これは同じように金がかかるわけでございます。しかしながら、金の計算、収支のバランスを考えるということだけでこういった問題は考えるべきでないというふうに思います。社会保障あるいは社会保険の趣旨から言って、勤労者の最も不幸な出来事がこの労災でございますし、労災補償ができないことには労働福祉が全うされない。無過失賠償責任のたてまえから、補償さるべきものは補償されなければならないのでございまして、財政赤字の解消のために給付の調整などといったものを行うべきではないと思うのでございます。これは一般論といたしまして金が必要である。しかし、金が必要であるから、その収支をバランスさせるために調整などをして給付の改善を怠るべきでない、こういうふうに考える次第でございます。 そこで、ちょっとお聞きしておきたいと思いますが、四十年の法改正のときに、長期補償給付の本格的な年金化が行われております。これは歴史的な給付改善と言われるものだと思いますが、その新しい長期補償給付体系に移行をいたしましたときの経緯、理由を御説明願います。
○小田切説明員 それまでは御指摘のように、労災保険の給付は原則的に、重度の後遺障害が残った方につきましても、また非常に生計維持関係が密接でありました遺族が残された場合におきましても、一時金の給付であったわけでございますが、重度の障害をこうむったというようなケース、また生計の中心者である労働者が不幸にして亡くなってしまったというようなことになりますと、その世帯では所得の担い手がいなくなるわけでございます。そういうことになりますと、元気で働いていたであろう場合に得られる賃金何がしかに見合う所得を補償するという必要があるわけでございますが、そういう観点から、長期にわたって必要な得べかりし賃金の補てんを、必要な期間にわたって必要な程度行い得るというようなことから、重度それから遺族の場合に年金制度を導入したものというふうに承知しております。
○塩田委員 そこで、今次この法律改正案の最も争点となります民事損害賠償関係につきまして御質問を申し上げます。 労災保険給付と民事損害賠償との調整を新しい規定として設けておられますが、その理由は何でございますか。これは一般的な受け取り方でございますけれども、ちょっと唐突な感じを受けるのでございますが、いかがでございますか。
○倉橋説明員 先ほど来からいろいろ御質問がございますが、労災保険給付につきましては、御承知のように、業務上または通勤による災害によりまして労働者が被災をする、それによりまして労働者の得べかりし賃金を失う、稼得能力を失うというような損失があるわけでございます。その損失を補てんをするという目的を持って保険給付が行われるわけでございますが、片や使用者に民事賠償責任がある場合につきましては、民法等の民事賠償責任による損害賠償請求ができるのは当然でございます。これが両者がたまたま一致をする、同一の事由に基づきまして労災補償給付があり、かつ使用者の不法行為責任等の民事上の賠償責任があるというようなケースがあるわけでございますが、ともに損害の補てんをするという性質を持っているわけでございます。もちろん、その幅につきましては内容、程度等に違いがございます。民事賠償におきましては、慰謝料等精神的な損害、その他物損等も補てんをする、そういうような損害についても補てんをしております。労災保険制度につきましては、労働者の得べかりし賃金の補てんというような形で損害の補てんをしておりますが、その得べかりし賃金の補てんという部分に限って見てまいりますと、同じ内容であり、同じ性質を有するというものでございます。 しかるに、こういうような関係にございますが、従来このようなケースにつきましては、労災保険におきましては、事故発生、労災保険の受給要件が備わりますと、給付を開始するわけでございます。片や民事賠償請求を提起した場合につきましては、その裁判確定までにすでに支払われた労災保険給付はもとよりのこと、将来労災保険で年金として支給される部分につきましても、裁判上一定の計算をいたしまして、得べかりし賃金の中で、労災から支給され、かつ支給されるべき額につきましては、逸失利益の計算上調整を行い、民事賠償額の判決額を出していたわけでございます。こういうようなのが従来までの裁判例であったわけでございますが、たまたま昭和五十二年の十月に最高裁の判決が出まして、それによりますと、すでに裁判進行中請求者に支払われた労災保険給付については、その給付の性格が損失補てんの性格を有するから、当然民事賠償額から控除をする。しかしながら、将来労災保険で年金が支給されるであろう、それが法的に確定してあっても、それは将来に支給されるものである。請求者側が一時に一括して賠償の請求をした場合につきまして将来の年金部分を調整すべきではないと、一括請求の利益をまた認めるという判決を出したわけでございます。しかしながら、われわれ保険実務といたしましては、従来、将来年金部分については民事賠償上調整されていたということから、最高裁判決が出た後におきましても労災給付をそのまま継続するというような事態になったわけでございます。先ほど申しましたように、判決後の将来給付部分につきましての損失が二重の補てんになる、また、片や使用者はてん補につきまして保険するための保険料を払っている。保険料負担と将来部分の損失補てんという二重の負担を負うというような制度上の不合理が顕在化したわけでございます。 そういうようなことから、私どもといたしましては、できるだけこのような法制上の不合理を是正するため検討をしてきたわけでございますが、その最高裁判決が出て後の、今回が初めての法改正の機会でございますので、他制度等の例にならいまして今回調整規定を制度化するための法改正をお願いしたわけでございます。
○塩田委員 従来の経緯につきましてわかったわけでございますけれども、いまのお話を聞きましても、一般の受け取り方といいますか、疑問がやはりわくわけでございまして、昭和五十二年の十月ですかまではこういう調整が必要なかった、こういう規定がなくても行われておったということに理解してよろしゅうございますか。
○倉橋説明員 従来、高等裁判所までの判決によりますと、裁判所の判決におきまして労災補償給付を調整をしていたということでございますので、労災保険側で調整する必要がなかったということでございます。
○塩田委員 そういったお話を聞きますと、今回の法律改正の、規定を設けられる趣旨もわかるのでございますが、非常に一般にわかりにくい、どうも労働者の既得権を奪うものじゃないかという印象を非常に持たれてしまうという面があるわけでございまして、その辺をわかりやすくひとつ関係方面には御説明をしていただきたいと思います。 なお、そういった印象を受けるもう一つは、民事損害賠償と労災保険、保険制度を援用して行われている労災補償というもの、これは異質のものじゃないか、これは同質だから調整するとするならば、その根拠は何かということの疑問でございますけれども、いかがでございますか。
○倉橋説明員 労災保険制度につきましては、先生御承知のように、労働基準法上の使用者の労災補償責任を社会保険の方式に基づきまして実現を図っていこうという趣旨でございますが、片や労働基準法上の使用者責任は、いわゆる無過失賠償責任の理論から発展いたしました制度でございまして、近代法におきましては原則として過失責任主義をとっておりますが、生産活動の中で労働者が傷ついた、または死亡した場合に、事業主が過失等がない場合に、その負担を労働者が負うというのは公平の観念に合致しないというようなことから無過失責任理論が発展いたしまして、それがわが国では労働基準法の使用者補償責任に位置づけられているわけでございます。そういうことから見てまいりますと、あくまでも労働基準法で規定しておりますのは、労働者が受ける損失の補てんを使用者が行うということでございます。片や、不法行為または債務不履行等に基づきまして使用者が負います民事賠償責任につきましても損害の補てんというものでございまして、その点につきましては基準法の災害補償と民事賠償とは損失の補てんとしては全く同質のものであるわけでございます。この点につきましては、先ほど御説明いたしました五十二年の最高裁判所の判決でもそういう点を明らかにしているところでございます。私ども、したがいまして、基準法上の補償が民事賠償と同質である以上、それを保険しております保険制度におきます給付につきましても同じ性質を有するものというふうに理解し、そのような法律構成をして制度等の充実を図ってきているところでございます。
○塩田委員 そういったお話を聞きますと、まことに明快であり、わかるわけでございますが、なお一般的な印象としてわかりにくい面もあろうかと思います。同じ印象からでございますけれども、この調整措置というものは使用者側を一方的に利するものではないかという意見、疑念も出されておりますけれども、これについてはいかがお考えですか。
○倉橋説明員 今回の調整に当たりましては、使用者側に利するというようなことを前提または予定しているものではございません。あくまでも制度の不合理、それを法的に改めるということでございます。ただ、それ以外に今回の調整規定につきましてはいろいろな調整方法につきましての御議論等がございますが、私ども、被災労働者が民事賠償上一括してその損失を使用者から受けたいという場合につきましては、従来の高等裁判所の判断とは違った最高裁の判断によりまして、請求者側に将来部分を含めて使用者から損害賠償の回復を求めるという道を開いたわけでございます。そういう点から見れば、使用者に利するよりもむしろ使用者に対して、個別の使用者については負担が大きくなったというふうな面も言えるのではないかと思うわけでございます。
○塩田委員 諸外国のこの調整についての制度例はどうなっていますか。
○小田切説明員 欧米、主として大陸系の国々でございますが、原則的に申し上げますと、労災保険給付を受け得る場合につきましては一般的には使用者の民事損害賠償責任を追及できないというような法制度になっているようでございます。例外的に、労災保険給付を受け得る場合でありながら使用者の民事賠償責任を追及し得るケースは、使用者側にその労働災害につきまして故意があるケースというふうに限定されている例が多いようでございます。西ドイツ、フランス、イタリア等がそうであると承知しております。その故意があるケースにつきまして、労災保険給付を受け得る状態でありながら別途民事損害賠償請求をし得るわけでございますが、その場合にも、労災保険給付を上回る、労災保険給付では足りない分について使用者の賠償責任を追及することができるというような法律制度になっているというふうに承知しております。
○塩田委員 わが国の他の類似の制度はどうなっておりますか。
○小田切説明員 私どもの労災保険法は一般の民間労働者を対象にする制度でございますが、類似の制度ということになりますと、公務員を対象にする災害補償制度があるわけでございます。たとえば、一番類似性が強いのは地方公務員災害補償制度ではなかろうかと思いますが、その地方公務員災害補償法におきましては、第五十八条という規定がございまして、民事損害賠償と災害補償給付との調整に関する規定がございます。使用者である地方公共団体が損害賠償をなした場合には労災保険の給付に当たります災害補償基金からの補償がその価額の限度で免れる、逆に災害補償基金から被災した地方公務員に給付がなされますと、その価額の限度で使用者である地方公共団体が負担する民事賠償責任は軽減されるというようなことについての規定があるわけでございます。
○塩田委員 諸外国の例もこういった調整規定があるということがわかりました。また、わが国の他の類似制度にもはっきりと法律上の規定があるということ、これは地方公務員災害補償法のみならず国家公務員法関係あるいは厚生年金等についても同じでございますか。
○小田切説明員 ほぼ同趣旨の規定が設けられております。
○塩田委員 それでは、労組の努力によりまして労使間で取り決められて支給される企業内の上積み給付、これは調整の対象となりますか。
○吉本(実)政府委員 いわゆる企業内の上積み給付の性質でございますけれども、これは労使とも、全面適用となっております労災保険制度を前提といたしまして、労災保険給付に加えて支給しようとするものと考えられますので、仮に事業主の損害賠償に当たるものであっても、労災保険給付によっててん補される損害部分をてん補する内容というわけにはいかないのではないかというふうに思います。したがいまして、今回の労災保険給付との調整の場合にはその対象とはならないというふうに考えております。
○塩田委員 法案の六十七条でございますね、「損害賠償」という表現がなされておりますが、損害賠償としてなされた慰謝料、これと調整ができるような規定に見受けますが、いかがでございますか。 それから、悪質なといいますか、使用者側の事故責任を追及できなくするのではないか、少なくとも鈍化させるのではないかというおそれはないか、お尋ねいたします。
○吉本(実)政府委員 いわゆる慰謝料は精神的損失に対する賠償でございまして、加害の態様の悪質さの程度によってもその額が増減する性質を有しておりますし、慰謝料の高額化によって加害者に対する制裁的な効果が大きくなることはあり得るかと思います。しかしながら、今回の改正案におきましては、慰謝料すなわち精神的損失に対する賠償部分は調整の対象にはいたしません。調整される損害賠償は、先ほど来いろいろお話があります労災保険給付が補てんの対象としている損害、すなわち財産的損害のうちの逸失利益部分でございまして、精神的損失に対する損害に関しては何ら影響を与えるものではない、こういうふうに考えております。したがって、訴訟提起により期待される悪質な使用者に対する制裁的効果が減殺されるというようなことはないというふうに考えております。
○塩田委員 この点につきましては安心をいたしました。 そこで、現在訴訟を提起して係争中の件数はどれくらいございますか。
○小田切説明員 五十三年末でございますか、全国の地方裁判所に係争中の業務上災害につきましての民事賠償請求事件、約千二百件というふうに承知いたしております。
○塩田委員 この両者の調整につきましては、いままでの答弁でわかりました。しかしながら、この調整には十分に配慮をしていただきたい、実施を慎重にやっていただきたい。先ほどもございましたように、労働省というところは、労働者の立場に立って、労働者の生活の安定向上に努力をする省と心得ておりますので、ぜひともそういった観点から運用につきましては慎重にお願いをしたいと思います。 大臣、この点についてお願いします。
○藤波国務大臣 御指摘のように、そういった角度から取り組んでまいりたいと思います。 今回の改正によりまして設けられることとなる調整規定につきましては、昭和五十六年十一月一日に施行し、同日以後に発生した事故に起因する損害について適用する、こういうことにいたしておりまして、現在提起中の訴訟に全く影響を与えるものではないと考えております。 また、昭和五十六年十一月一日という施行日は一般の施行日の一年後に設定されておりまして、この期間を利用して関係者への周知を図る考えでございます。 また、民事損害賠償と労災保険給付との調整の実施につきましては、受給者の立場に配慮しながら慎重を期することは当然でございまして、その具体的な実施基準は、公平を期するためにも施行期日である昭和五十六年十一月一日までに労災保険審議会の慎重な審議を経て定めることといたしたい、このように考えておりますので、どうか御理解をいただきたいと思います。
○塩田委員 労災保険審議会の二月四日の議事録を見せていただいたのでございますが、隅谷三喜男会長から、この民事損害賠償との調整規定に関しまして発言がなされております。それによりますと、一つは、「労災保険からの年金給付については、なされた損害賠償のうち、逸失利益の補てん部分の額の三分の二に相当する額について調整を考慮するということを原則とする。」とありますが、これはこのように労働省もお考えでございますか。
○吉本(実)政府委員 そのとおりでございます。
○塩田委員 次に、この「労働可能年齢を超える期間にわたって労災保険からの年金給付が調整されることとなるときは、労働可能年齢を超えて支給される年金給付については、調整の対象としない」こういうふうに出ております。すなわち、年金の給付の再開がなされるというふうに理解をしてよろしゅうございますか。
○吉本(実)政府委員 そのとおりでございます。
○塩田委員 「労災保険からの年金給付を調整停止する期間については、調整措置がとられた受給権者のうち、相当数の者について支給が再開され得ると考えられる平均的期間をもって限度とする。」とございますが、「相当数」とはどの程度の数でございますか。また「平均的期間」というのはどの程度でございますか。そして、この「平均的期間をもって限度とする。」という、その根拠は何でございますか。
○吉本(実)政府委員 ただいまの第三項の「相当数の者」というのは、文字どおり現実に年金の受給者である人が、かなりの数の人がちゃんと補償されるような期間という意味でございます。 「平均的期間」というのは、まさに全体的な中で、要するに中庸をとった期間というような理解の仕方でございます。 いずれにしましても、これを具体的にどういうふうに設定していくかということにつきましては、この法案の施行段階におきまして、審議会におきましてなおその議論を詰めていく、こういうふうにされて、その際に了承されたところでございます。
○塩田委員 具体的な調整実施の基準につきましては、これはある程度早い時期にはっきりしていただきたいと思います。この平均期間、再開される時期というものがおよそいつごろからか、何年ぐらいからか、それをもっと短縮できないか、こういった問題も含んでおりまして、それはできないとすればいかなる根拠かということ、こういったことにつきましてもまたお聞きしたいと思います。 それから、大臣にひとつお伺いいたします。被災労働者やその遺族の援護のために、労災年金、諸給付の水準や内容を全般的にさらに改善すべきであると思いますが、いかがでございますか。特に障害一時金などは、自動車損害賠償責任保険の給付水準に比べましてかなり見劣りするように思いますが、いかがでございますか。
○藤波国務大臣 先ほど来の御質疑にも出ておりますように、給付水準、その内容等につきましては、全般的に今後とも改善するようにあらゆる努力をしてまいりたいと思います。 委員御理解いただいておりますように、わが国の労災保険の給付の水準は、制度発足以来数次にわたって改善を進めてきておりまして、今日ではILO百二十一号勧告の基準をも満足させるというところまでは来ておるというふうに考えるのでございます。しかし、一般的な給付水準につきましては、このように高度のものになってきておりますが、今後ともさらにきめ細かく、たとえば国内の他の関係諸制度との均衡でありますとか、あるいは重度障害者等に特に手厚い措置を必要とする等、いろいろきめの細かい配慮などを今回改善していきたいということで取り組ませていただいておるところでございます。主要先進諸国の水準との比較や他の社会保険制度との関係等を中心にいたしまして、今後とも慎重な検討が労災保険審議会において行われることになっておりますので、それらの検討をも相待ち、労働省といたしましてもさらに推進をしてまいりますように、今回措置しなかった分については今後の改善にまちたい、このように考えておる次第でございます。 なお、ただいま具体的に御指摘のありました自賠責保険金等との比較につきましても、従来も省内におきましても十分議論をしてきておるところでございますので、今後ともそういったところも十分念頭に置いて改善に取り組んでいくようにいたしたい、かように考えておる次第でございます。
○塩田委員 昭和五十六年、すなわち一九八一年は国際障害者年と言われております。リハビリ施策は、労災保険のみならず、他の制度とあわせまして飛躍的に充実させていくべきだと思いますが、この点は強く要望いたしておきます。 労災保険の給付内容を改善するという大臣の強い御意思をいただいたわけでございまして、ぜひともこれに対しまして前向きに取り組んで努力をしていただきますよう要望いたします。 この労災保険の給付を改善するためにはある程度の保険料率の引き上げはやむを得ないというふうに思います。もちろん公共料金の引き上げが相次ぎまして物価情勢が日々に厳しくなっておる状態でございまして、できるだけこういった率は抑制が望ましい、こういう基本的な立場ではございますけれども、給付を改善するためにはある程度の引き上げもやむを得ないということを申し上げておきます。今後必要な層には重点的に手厚い給付の改善を行うべきでありまして、わが国社会保障の全般的な前進のために、福祉の充実のために努力をしていただきたいと思います。労働者の立場に立ちまして、この点を強く要望する次第でございます。それとともに、不必要な手術は慎み、医療等につきましての不適正な給付については、一部団体の圧力に屈することなく、行政上のチェックを厳正に行っていただきたいと思います。また、非効率的な業務運営にならないように、迅速公正な労災補償の実施をし、労政水準の向上に努めていただきたいと思います。 そのための行政の簡素化、行政改革でございますが、これを進めていただくと同時に、綱紀の粛正に一段の工夫と努力が必要であると思います。最低限必要な人員の確保につきましては、労働基準監督行政は、行政対象でありますところの労働者数が毎年百万人ずつふえていっているという状況の中で、国の行政全般としてはやはり行政対象が減っているところもございますから、そういった行政部門との人的配置の調整を行うということも進めていただきまして、十分こういった問題に即応いたしまして配慮していただきたいということを要望いたしまして、質問を終わります。 よろしければ大臣の御所見をお伺いいたします。
○藤波国務大臣 種々労災保険制度の運用につきまして非常に格調の高い御指導、御指摘をいただきまして感謝をいたします。特にこういった制度の持っておる趣旨からいたしまして、運用につきましては公正な態度で終始してまいらなければなりませんし、また迅速な対応をしてまいらなければ制度も生きていかないわけでございます。十分省内引き締めた気分で、今後労災保険制度の運用につきましてさらに改善努力してまいりたい、このように考えておる次第でございます。
○塩田委員 ありがとうございました。
○葉梨委員長 次回は、明十六日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。 午後六時二十三分散会