法務委員会 第10号
- 発言数
- 46 件
- 登壇者
- 9 名
- 会派数
- 3
- 開催日
- 1978/03/24
会議録
○鴨田委員長 これより会議を開きます。 お諮りいたします。 本日、最高裁判所岡垣刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○鴨田委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。 ————◇—————
○鴨田委員長 内閣提出、人質による強要行為等の処罰に関する法律案及び刑事補償法の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。 まず、政府から順次趣旨の説明を聴取いたします。瀬戸山法務大臣。 ————————————— 人質による強盗行為の処罰に関する法律案 刑事補償法の一部を改正する法律案 〔本号末尾に掲載〕 —————————————
○瀬戸山国務大臣 人質による強要行為等の処罰に関する法律案について、提案の趣旨を御説明いたします。 一部過激分子による航空機の乗っ取り、在外公館の占拠等の不法事犯は、近時、その手段、態様において一段と過激化、悪質化する傾向にあり、特に昨年九月のダッカ空港における日航機乗っ取り事件に端的に示されているように、爆発物、銃砲等によって武装した数名の集団によって計画的、組織的にこの種犯行が企てられているため、その都度多数の関係者の生命、身体の安全に重大な危険がもたらされただけでなく、これら関係者を人質にして、わが国政府に対し、身のしろ金の提供あるいは被拘禁者の引き渡しを強要するなど、およそ法秩序を確立して民主主義体制を堅持する上から看過し得ない容易ならざる結果を招来するに至っていることは、まことに憂慮にたえないところであります。 もとより、政府としては、かかる事態を前にして、かねてから各般にわたる防止対策を強力に推進してまいったのでありますが、先般のダッカ事件を契機として、さらに一層有効な取り締まりを実施する観点から、法制上の問題点につき緊急の改善措置を講ずるため、さきの第八十二回国会において、航空機の強取等の処罰に関する法律(以下「航空機強取法」という。)等の改正を提案し、航空機強取犯人による人質強要に係る罪を設けることなどの措置を定めることとしたのであります。しかしながら、これらの措置は、この種事犯の再発防止のための抜本的対策の一環として法改正を要する対策のうち、早急に取りまとめの可能なものについてなされたものでありまして、その後世論の動向、関係機関の防止対策の推進等諸般の状況を踏まえて引き続き検討を行った結果、第一、人質による強要に係る特定の行為を処罰する規定を新たに設けること、第二、人質による強要罪を犯した者が人質を殺害した場合を特に重く処罰することの二点を中心として本法律案を取りまとめ、御審議を仰ぐこととした次第であります。 この法律案の骨子は、次のとおりであります。 第一は、人質による強要行為のうち、過激分子によって犯されることが予想される暴力的要素の強い、それだけに人質の生命・身体に対する危険度の大きい特定の行為、すなわち、二人以上共同して、かつ、凶器を示して人を逮捕または監禁した者が、これを人質にして、第三者に対し、不法な要求をする行為を取り上げ、これに対し無期または五年以上の懲役をもって臨むこととするものであります。 申すまでもなく、この種事犯は、人命を盾として自己の不法な目的の達成を図るという点において、きわめて悪質かつ卑劣な犯罪であり、人質にされた者の生命・身体に対する危険が大きいこと、現行の逮捕・監禁罪あるいは強要罪等をもってしては、これに対応するに十分とは言いがたいこと等を勘案してこの罪を定めることとしたものであります。 第二は、第八十二回国会において新設された航空機強取法第一条第二項の規定を本法中に取り入れることとするものであります。 すなわち、先般の同法の改正は、当面の緊急を要する措置として、航空機強取を手段とする人質による強要行為を処罰する規定を同法中に設けたものでありますが、本法が制定されることとなるのに伴い、右の規定は、人質による強要行為の一類型として、本法において統一的に規定することが相当と考えられますので、かような措置をとることとしたものであります。 第三は、人質による強要罪を犯した者が、人質にされている者を殺したときは、死刑または無期懲役に処し、その未遂をも処罰することとするものであります。 さきに述べましたように、過激分子による不法事犯は一段と悪質化の傾向を示しており、勢いのおもむくところ、将来にわたり、その手段、態様も、さらにはその要求の内容も、ますます過激化してくることが憂慮されるのであります。 〔委員長退席、羽田野委員長代理着席〕 およそ、わが国を含む法治国家は、多年にわたる先人の努力と犠牲の上に定立されたものであり、国の法秩序が厳正に維持されることによって、国民全体が現在及び将来にわたり自由かつ平穏な生活を亨受し得るものであることを考えるならば、速やかに、この種事犯の根絶を図る必要のあることが痛感されるのでありますが、不幸にして再度事犯の発生を見た場合には、国家みずからが不退転の決意を持ってこれに対処し、人質の生命の安全を図りつつ、種々の方策を講じて犯人に反省と悔悟の機会を与え、その要求を断念させた上で人質を解放させることがこの種事犯の再発防止の要諦であることを指摘せざるを得ないのであります。しかしながら、かかる厳然たる対応策を講ずる過程において、人質の生命により重大な危険が及ぶに至ることも十分想定される以上、刑事立法の面において、およそ不法な要求を実現する手段として人質を殺害することは絶対に許さるべきことではなく、あえてその行為に出る犯人に対しては文字どおり極刑をもって臨むこととする強い国の姿勢を打ち出すことにより、刑罰の本来有する犯罪抑止力と相まって、犯人に要求を断念させ、人質を安全に解放させるに至る効果が期待されるものと考え、この罪を設けることとしたものであります。 第四は、この種事犯の防止及び処罰には広く国際的な協力が必要であることにもかんがみ、航空機強取法等の例にならい、これらの罪の国外犯処罰規定を設け、これを広く処罰し得ることとするものであります。 その他関連規定の整理を行うこととしております。 以上がこの法律案の趣旨であります。 何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。 次に、刑事補償法の一部を改正する法律案について、提案の趣旨を御説明いたします。 刑事補償法による補償金の算定の基準となる金額は、昭和五十年の改正によって、無罪の裁判またはこれに準ずる裁判を受けた者が未決の抑留もしくは拘禁または自由刑の執行等による身体の拘束を受けていた場合については、拘束一日につき八百円以上三千二百円以下とされているのでありますが、最近における経済事情にかんがみ、これを引き上げることが相当と認められますので、右の「八百円以上三千二百円以下」を「千円以上四千百円以下」に引き上げ、いわゆる冤罪者に対する補償の改善を図ろうとするものであります。 以上がこの法律案の趣旨であります。 何とぞ、慎重御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
○羽田野委員長代理 これにて両案の趣旨の説明は終わりました。 —————————————
○羽田野委員長代理 これより刑事補償法の一部を改正する法律案について質疑に入ります。 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山崎武三郎君。
○山崎(武)委員 今回、刑事補償金の額の算定基準となる日額について、その最低日額を八百円以上から千円以上に、最高日額を三千二百円以下から四千百円以下にそれぞれ引き上げておるが、これら日額を引き上げた理由とその積算の根拠及び予算的措置についてお伺いしたい。 また、最近五年間における補償請求事件の処理の実情、補償決定人員、日数、金額及び一日当たりの補償金額の平均額などについて御説明願いたい。
○伊藤(榮)政府委員 ただいまお尋ねをいただきました関係のうち、予算措置あるいは処理の実情につきましては最高裁判所御当局からお答えを願うことといたしまして、私からまず今回の引き上げ額の算定基準、積算の根拠についてお答え申し上げます。 現行刑事補償法が昭和二十五年に制定されましてから、基準日額は賃金や物価の上昇などを考慮しながらこれまで四回にわたって引き上げられておりまして、最近の改正は先ほど大臣が申し上げましたように昭和五十年でございます。そこで昭和五十年以降の賃金及び物価の変動を見てみますと、賃金関係におきましては、昭和五十年における全産業中三十人以上の事業所の常用労働者の一日平均賃金を一〇〇とした場合の昭和五十三年におけるそれは一二九・九となります。また物価の関係では、昭和五十年におきます全国消費者物価を一〇〇といたしました場合における昭和五十三年のそれは一二八・五とそれぞれ推計されるのでございます。ただいま申し上げました一二九・九という数値と一二八・五という数値を平均化いたしますと一二九・二となるのでございます。もとより補償の基準金額は必ずしも経済事情の変動に即応しなければならないというわけのものではございませんけれども、昭和五十年度以降におけるただいま申し上げましたような経済事情の推移を無視することができないわけでございまして、また実際に行われております補償事例の中には基準日額の上限で金額が決定された事例も多いことなどにかんがみまして、いわゆる冤罪者に対する補償のより一層の改善を図りますためには、このような経済情勢の変動を加味して基準日額を千円以上四千百円以下に引き上げるのが相当と考えたのでございます。すなわち上限を、現行の三千二百円に先ほど申し上げました一二九・二という数値を掛けました四千百三十四円について、端数を整理いたしまして四千百円にいたしまして、下限を、現行の八百円に一二九・二を掛けまして得ました一千三十四円につきまして、端数を整理いたしまして千円にそれぞれ引き上げることとしたものでございます。
○岡垣最高裁判所長官代理者 それでは、裁判所の方から予算関係について申し上げます。 この刑事補償に要する刑事補償金は、裁判所の所管の一般会計歳出予算に、組織−裁判所、項−裁判費ということで、目の刑事補償金として計上されているわけでございます。 その計上の仕方は、一般的に申しますと、過去の実績に対して、その実績に対応する事件数の比較で、たとえば五十三年度においてはどれくらい伸びるかという伸び率を見まして、実績に伸び率を掛ける。それから、それに対してさらに現在御審議いただいております値上げの分をつけ加える。そういう操作をいたしまして予算の額を計上するわけでございますが、今回の改正法案が成立しまして施行される場合の所要経費として、五十三会計年度分としては予算額として千五百二十八万八千円の計上がしてあるわけでございます。 以上でございます。
○山崎(武)委員 死刑の執行による補償についてもこれまで改定が行われてきておりましたが、今回の改正案にはこの点の改正がありません。改正しなかった理由をお聞かせください。
○伊藤(榮)政府委員 元来、死刑の執行についての補償金額の基本金額、現在千五百万円でございますが、これは法律上明らかでございますように慰謝料に相当するものでございまして、その本来的な性質から申しましてその金額が幾らであるべきかということを的確に算定することは困難でございますけれども、最近におきます交通事故等による死亡事件の慰謝料額の一般的な動向、さらには自動車損害賠償補償法十三条一項及び同法施行令二条一項によります死亡事故の場合の保険金額が現在千五百万円とされていること等にかんがみますと、現時点においてはこの金額をいまだ引き上げる必要はないというふうに考えられますので、今回この金額の改正を見送ったわけでございます。 なお、御記憶であろうかと思いますが、昭和五十年の改正の際のこの関係の基本金額の政府原案は一千万円でございましたが、国会で御審議中、いわゆる自賠法の保険金額が一千万円から一千五百万円に引き上げられましたことから、議員修正により千五百万円になったという経緯がございますことを申し添えておきます。
○岡垣最高裁判所長官代理者 先ほどお尋ねありました中で一点申し落としておりますので、ちょっとそれをつけ加えておきます。 これは刑事補償決定、最近五年間の実績ということでございましたけれども、この点は、四十八年から五十二年までの五年間に刑事補償の決定がありました人員は四百六十二名ということでございまして、その日数、これは一人当たり平均いたしますと百八十七・六日で、一日当たりの平均金額としましては千六百八円の金員が支給されているわけでございます。これを各年別にもし必要であれば申し上げますけれども、どういたしましょうか。——よろしゅうございますか。
○山崎(武)委員 最後に、被疑者補償規程による補償の最近の実情についてお伺いいたします。 なお、今回の刑事補償法の改定に伴ってこの被疑者補償規程の金額も改定されることになると思いますが、実際はどうなのか、お伺いいたします。
○伊藤(榮)政府委員 昭和四十八年以降の被疑者補償規程の運用状況を申し上げますと、補償の要否を検討するべく立件いたしました人員は昭和四十八年が六人、昭和四十九年が二人でございましたが、五十年からふえまして、昭和五十年三十七人、五十一年四十八人、五十二年四十八人でございまして、補償いたしました人員は四十八年二人、四十九年ゼロ、五十年十人、五十一年九人、五十二年七人となっております。補償金額の合計額を申し上げますと、四十八年一万一千七百円、四十九年ゼロ円、五十年十五万二千八百円、五十一年十三万八百円、五十二年十六万七千三百円となっております。五十三年は、本日現在すでに立件人員十二人、補償人員十四人、これは前年度からの繰り越しがあるからでございますが、補償金額合計六十二万一千二百円となっております。予算の面におきましても、従来二十万円となっておりましたのを昭和五十一年度以降は五十八万一千円に引き上げたところでございます。 もう一つのお尋ねの、今回刑事補償法の一部改正が御可決いただきますと補償金額の基準日額が引き上げられるわけでございますので、被疑者補償規程におきます基準日額もこれにあわせて一千円以上四千百円以下と改める予定にいたしております。
○山崎(武)委員 終わります。
○羽田野委員長代理 飯田忠雄君。
○飯田委員 刑事補償法の本質の問題について質問をいたしたいと思います。 まず最初に、刑事補償法の根拠となっております憲法の第四十条でございますが、この憲法の第四十条に書かれておる内容に大変疑問が多い、いままでの実務上処理されたことと比較しますと非常に疑問が多うございますので、その点について御質問をいたします。 まず、この憲法の第四十条の規定から考えられますところの刑事補償というものの本質でございますが、刑事補償は一体慰謝料なのか損害賠償なのか、あるいはそれ以外のものなのかということが一つ問題になってまいります。 そこで、この本質をどう理解するかによりまして「法律の定めるところにより」云々という言葉の解釈の内容も変わってまいると思います。それからまた無罪の裁判を受けた」というその「無罪」の意味、これも変わってくると思います。 そこで、まずこの刑事補償というのは一体抑留または拘禁された人の何を補償しようとするのか、この点について政府の御見解を承りたいと思います。
○伊藤(榮)政府委員 刑事補償の本質につきましては、刑事補償制度の始まりまして以来、定型化された国家賠償である、こういうふうな考え方がなされております。刑事手続で適法に抑留または拘禁されたわけでありますが、結果的に無罪とされました者に対しましては、公平の原則上この抑留または拘禁によって生じた損害を国が補償するのが相当であると考えられるわけでございまして、これが刑事補償の認められる理由であろうと思います。したがって、刑事補償はこの損害のてん補である点におきまして国家賠償とその本質を同じくしておりますけれども、国の機関の故意、過失を要件としないということ及び補償金の額が定型化されている、この二点において一般の国家賠償と異なっておる、こういうことが言えようと思うのでございます。そういう意味で定型化された国家賠償である、こういうことであろうと思います。
○飯田委員 刑事補償が定型化された国家賠償だということはわかりますが、その国家賠償の本質が何かという点が実ははっきりいたさないわけでございます。つまり犯罪を犯したと思われる人が、少なくともそういう客観的情勢をつくった人が勾留され、そして裁判の結果それは実は犯罪は犯しておらなかったということになりました場合、この場合には合憲的なあるいは合法的な方法で権力行為をやったその結果に対する問題で、いま刑事局長がおっしゃったように、本来の意味の国家賠償ではないけれども特別の意味の国家賠償だということはわかりますが、その内容がもし損害に対する賠償だということになりますと、どういう損害があったかということを具体的に決定していかなければ補償の仕方もなかろう、こう思うわけであります。ところが今日の刑事補償法にはそうした問題が全くと言っていいほど触れられていないというところにまず一つの疑念がございます。だからこれは損害賠償ではないのではないか、むしろこれは慰謝料を本旨とするものではないかと私には考えられるのですが、この点についていかがでしょう。
○敷田説明員 急遽かわりまして大変失礼でございますが、いまの御質問の件につきましては刑事補償法の第四条の二項に規定されておりますことがあるいはその該当の一部に当たるのではないかと思われるわけでございます。刑事補償法の四条の二項を見ますと「裁判所は、前項の補償金の額を定めるには、拘束の種類及びその期間の長短、本人が受けた財産上の損失、得るはずであった利益の喪失、精神上の苦痛及び身体上の損傷並びに警察、検察及び裁判の各機関の故意過失の有無その他一切の事情を考慮しなければならない。」このように規定してあるわけでございます。この規定の仕方から見ますと、刑事補償が身体の拘束により受けた積極的あるいは消極的な財産上の損失、精神的損害の両面を補償しようとしているものであろう、このように考えております。
○飯田委員 刑事補償が、これは財産上の損害補償だという内容を含むということになりますと、私はこの刑事補償法の規定の仕方では少しく不満足ではないかと思います。といいますのは、勾留された人の地位とか身分だとか、あるいは能力だとかいうすべてを勘案しませんと、得べかりし利益の損害がどれだけあったかということはわからないし、また、たとえば今日心神喪失者に対する刑事補償も現実になされております。気が狂っておる、あるいは酒に酔ってどうにもならぬような人が一体どういう利益を失ったであろうか、こういうことも問題になるわけです。しかも、その刑事補償の額に至りましては、健全な人もそうでない人も同じような扱いを受けている。これは全く説明がつかないと思うわけですね。そこで刑事補償の本来の意味をもう少し明確にしておく必要があるのではないかと思いますが、この点どうでございましょうか。
○敷田説明員 ただいまの仰せは一面におきましてはごもっともな点があるわけでございますが、ただ、他に国家賠償という制度があるわけでございまして、一応刑事補償法の場合には故意、過失を問うことなく、定型的なものだけにつきまして、何とか早くその冤罪者のこうむった損害を補償しようという制度でございますので、その定型性に重きを置いた点をひとつおくみ取りいただきまして、その点におきまして、本来あるべき国家賠償と刑事補償が違っているということが言えようかと思います。
○飯田委員 損害賠償の場合は民法の原則によりまして、これは行為者の故意、過失が前提となるはずなんですね。それでそういう問題につきましては、公権力の行使によって起こった場合ですから、当然国家賠償法で補てんされるものだと思います。刑事補償法の場合は、そうした国家賠償法ではどうにもならぬ分野のものではなかろうか。つまり勾留された人が無罪判決となった場合に、国家賠償法でいきますというと故意、過失は出てこないわけですね。つまり事実上の故意、過失はあったにしても、法律上の故意、過失でやったということにはならないわけですね。たとえば警察官が犯人を引っ張って留置した。これは外から見て犯罪があるがごとく見える状態ですから、それを引っ張ったのでしょう。その場合に、相手を不法拘禁してやろうという故意はない、過失もないはずなんです。そうしますと国家賠償法の対象にならない。そうした国家賠償法の対象にならない人に対して、やはり何らか見てやらなければならぬというわけで刑事補償法というものができたのだと思いますが、そうなりますと、その刑事補償法の補償は何を補償するかといいますと、慰謝料じゃないかと私は思う、本質的にはですよ。本質は慰謝料じゃないか。慰謝料だというふうに解釈するか、損害賠償だというふうに解釈するかによって、法律の制定の仕方がまるっきり変わってこなければならぬのですが、現在の刑事補償法の条文を見ますと、これは一体本当に損害賠償をしようとする法体制なのか疑問があるわけなんです。こういう書き方では。損害賠償のように見えるけれども、実はそうじゃなくて慰謝料じゃないかというふうに受け取られますね。私はそういうふうに理解しているのですが、この点はこういうことにしておきましょう。ここで議論をやっていると時間がありませんからね。 そこで、四十条を見ますと「法律の定めるところにより」云々とあります。この「法律の定めるところにより」ということは、補償をする手続についてだけなのか、あるいは補償金額も含めてなのかということが一つ問題になってまいります。恐らくこれは両方であろう。両方だというお答えが出ると思いますが、そうであるならば、補償金額がゼロの場合も含まれておるのではないか。この点どうお考えでしょうか。
○敷田説明員 お答えいたします。 理論的に突き詰めますと、あるいは補償金額が、憲法が「法律の定めるところにより」と定めておりますので、法律によりまして、それはゼロであってもよいという法律をつくることはあるいは可能ではないかというお考えもあり得るわけでございますが、しかし、憲法四十条が刑事補償を憲法上の権利として保障していることに考えますときは、刑事補償の実体をなす補償の内容、少なくともその最低限度については法律で定めておくことが好ましいと考えられているからであろうと思いますので、したがって、法律で補償金額をゼロとすること、すなわち補償を行わないとすることは、やはり憲法四十条の精神に反しまして、これは許されないものではないか、このように考えております。
○飯田委員 それでは次に問題を変えます。 憲法の四十条に言われておりますところの、「無罪の裁判を受けたとき」とありますが、この場合憲法が言うておる「無罪の裁判」という、このことは一体何を意味するのか、お尋ねいたします。
○敷田説明員 これは刑事に関する訴訟手続を定めております刑事訴訟法に基づいて言い渡される無罪の裁判である、このように理解しております。
○飯田委員 刑事訴訟法に基づいて無罪の裁判ということはわかりますが、その刑事訴訟法とは、具体的な刑事訴訟法をいうのでしょうか、それとも抽象的な学問上の刑事訴訟法をいうのか。これは大変重要な点なんです。なぜかといいますと、もし具体的な刑事訴訟法に書かれておる内容でもって憲法解釈をするということになりますと、これは逆の解釈になってまいりますので、その点について、これはどういうことなんだということをお答え願いたい。
○敷田説明員 学問上の刑事訴訟法と実定法上の刑事訴訟法というものは、必ずしも定かに私の頭の中では区別できないわけでございますが、ただ先生の仰せは、憲法の内容をその一つ下の刑事訴訟法で規定するようなことになるのはおかしいのではないかというお考えで御質問であろうと思いますので、それに対しまする私どもの考え方を申し述べさせていただきますと、およそ憲法四十条に限りませず、憲法の解釈に当たりましては、それが国の最高法規であることに考えまして、憲法自体の立場で行わるべきでありまして、それを解釈の根拠としましてより下位の法規範である刑事訴訟法を持ってくるということは、必ずしも適切ではないのではないか、こういうふうに思われるわけではありますが、しかしながら、そうは申しましても、憲法といいましてもわが国の法規範の一つでありまして、憲法を頂点といたしました法体系が形成されて、それが全体として一体として機能しているということを考えますと、やはり憲法の解釈が法律や命令と全く無関係で行い得るという立場をとることもいかがかとまた考えられるわけでございます。まして、お尋ねの憲法四十条の規定は、国内の刑事手続の実際に着目いたしまして、それが過って運用されました場合における事後的救済を目的とするものであります以上、やはり同条の解釈に当たりましては、刑法の規定あるいは刑事訴訟法の定める手続を参考とするのが適当であろう、このように考えておるわけでございます。
○飯田委員 いまの御説明ではどういうことかはっきりわからぬのですけれども、憲法に書かれておりますところの無罪の判決というのは、憲法の立場からの無罪の判決でなければならぬと私は思いますがね。まず刑事訴訟法とか刑法とかいうものは考えない。憲法自体で無罪とは一体何であるかということでしょう。となりますと、これは罪がないということであろうかと思います。この罪というのは、刑法で決められておる罪じゃなくて、一般に通常の概念で言う罪ですね。そういう罪がない、これが憲法の立場だと思いますよ。憲法が罪がないと言うたのはそれなんで、その憲法を受けて、後で刑法で罪がない範囲を細かく決めただけの話であって、もともとの憲法の意味は、そうした刑法で制約された意味の罪ではないはずなんですね。私はそのように理解しなければ憲法は解釈できないと思いますが、いかがでございましょうか。
○敷田説明員 よくまた私も検討させていただきます。非常にむずかしい議論でございますので、済みません。
○飯田委員 憲法は憲法の立場から私は解釈すべきだと思います。ここで「無罪の裁判を受けたとき」というのは、裁判というのはいろいろなやり方がありますよ。いまの刑事訴訟法に基づく裁判もありますし、刑事訴訟法を否定した形の裁判もあるでしょう。それは日本の体制としてどういう体制をとるかは別の問題であります。裁判というものはいろいろな裁判がある。そのどの裁判でも構わぬ、その裁判によって無罪となった、こういうことですね。ですから、この場合の無罪というのは、罪がないということを万人が認めた状態が生じたときはということでしょう、本来憲法の意味は。そうなりますと、そういう場合には補償をするというわけです。だれが見てもこれはもっともだ、罪がない、こんな罪のない者を留置したのはけしからぬではないか、お気の毒だからその御苦労に対して補償しよう、これが刑事補償法のたてまえであるはずなんです。 そうなりますと、いろいろな問題が出てくるわけです。わが国の既定の刑事訴訟法、刑法というもののために憲法の精神がゆがめられていると思われる点があるわけです。それはいままでの裁判の例を見ますとわかりますが、心神喪失者、つまり精神がちょっと狂っておったり、大酒を飲んで人を殺したり、放火をしたり、強姦をしたり、そういうことをやった人たちは明らかに加害者であります。しかも被害者もおるし、犯罪もありますね。あるのですが、それが無罪となるのは、憲法によって無罪となるわけじゃないのです。憲法の精神を正確に伝えない刑事訴訟法、刑法のおかげでそういう間違った結論を生ずる事態を生み出しておるというふうに私は思いますが、いかがでしょう。
○敷田説明員 深遠なお考えでございましてあれでございますが、一応私理解いたすところによりますと、先生の仰せの意味は、心神喪失ということで無罪になった者については憲法第四十条にいう無罪には当たらないのではないか、したがってそれに対しては補償を要しないのではないか、こういうお考えではなかろうかと私はそんたくいたしておるわけでございますが、いわゆる罪とならないという場合に、罪と考えておりますのは、構成要件に該当する違法でありかつ有責の行為である、このように考えることが一応学問上あるいは実務上ほぼ共通した理解ではなかろうか、このように思っておりますので、そういたしますと、その中で心神喪失の場合は、なるほど私個人的に常識的に考えますと、何ともそのような者に補償するということは気が進まないわけでございますが、しかしながら、一応それは刑法上に当てはめますときには責任性のない行為となりますと、責任性のない行為であれば、仮に構成要件に該当いたしましてもやはり罪とはならない行為である、このように理解すべきものと考えておりますので、やはり心神喪失を理由として無罪となりましても刑事補償の対象にせざるを得ない、このように考えております。
○飯田委員 この問題、私は、どうも最近の学者だとか司法官の方とか法務関係の方は学説に毒されておられると思うのです。大変学説に毒されておる。この刑法の中に罪という言葉はどこに書いてあるでしょうか。これは「第二編 罪」とありまして、そこに罪となるべき行為はと、ずっと書いてあります。内乱罪から始まってずっと書いてありますね。あの項目に当てはまる事実が実現したときに、それを罪というわけでしょう。そこには何ら加害者の主観的要件というものについて、たとえば心神耗弱だとか心神喪失あるいは責任無能力だとかいったような、そういうことは含まないで罪が規定されているわけです。総則で罰しない場合の理由が決められておるのです。総則に書いてあるのは罪じゃないのです。罰しない理由なんです。罪として書いてあるのは「第二編 罪」です。これが刑法のたてまえなんです。刑法に書いてある、その法律をことさらに学説によってねじ曲げておられるのが現状なんです。これは憲法をごらんになるとわかりますが、裁判官は良心に従って、この憲法と法律にのみ拘束されると書いてあります。そうでしょう。そうすると、憲法と法律以外のことに拘束されてはいかぬのだ。ところがドイツの一部の学者がこういうことを言うた、ありがたがって、それを早速日本へ輸入して、まねて学説を出す。その学説を金科玉条にして裁判にも応用するということは憲法と法律に従っていない、学説による裁判であります。学説による裁判をやりますと魔女狩り裁判が生ずるのです。これは大変戒心しなければならぬことだと私は思います。 そこで、いまの罪の話ですが、罪というのは刑法第二編にきちんと書いてあります。あれだけが刑法でいう罪なんですよ。ところが憲法でいうておる罪は刑法に書いてある罪だけを指すのではないのです。それ以外の罪もありますよ。そういう、刑法に書いてある罪はもちろんのこと、ほかの罪もない場合に補償しよう、こう憲法は言うておるわけです。そう言っていますね。刑事訴訟法ではその憲法の規定をまともに実行できるようにはしていない。たとえば、現在の刑法総則では罰しないという理由が書いてあります。ところが刑事訴訟法ではどういう規定をしておるかというと、罰しないということに対する判決はないわけです。無罪の判決は書いてありますよ。罰しないという判決を下し得るようにはなっていない。これは刑法と刑事訴訟法の完全な矛盾であります。しかもこの矛盾は、結局学者の学説に毒されたからだと思いますよ。 そこで、こういう重大な問題につきまして、まず刑事補償の本質を明確にされること、それから憲法で言うておる無罪とは何だ、これを明確にされなければ、本来、刑事補償法の改正なんてできはせぬのですよ。そういう点を、きょうはいいですが、やはり将来明確にしていただきたい。 それから次に、従来刑事補償法で責任無能力者に対してずいぶん補償されておりますね。これは先ほど言いましたように、本当に正しい憲法上の考え方によって補償されたのかという点につきまして疑問があるのですよ。これは御検討願わないといかぬと思います。そしてこれはこの間の委員会で私は報告を受けましたが、いままでの例を見ますと、いろいろ犯罪行為をやった人がたまたま大酒を飲んでそのとき少し狂っておった、それを皆無罪にして、その人に何万円という補償金を払っていますね。どろぼうに追い銭という言葉が昔からあります。これはどうも犯罪者に対する追い銭ではないかという気がするのです。国民はこうした状態を一体本当に心からもっともだ、憲法の規定に基づいたことだというふうに考えておるでしょうか。これはどのようにお考えですか。
○敷田説明員 お答え申し上げます。 あるいは私の個人的な見解になるかもしれませんが、前段の刑法の罪というものを構成要件に該当する違法、有責な行為と理解します限りにおきましては、責任がないこととそれから違法でないことというものを区別をつけるということは、どうしてもそのような理解ができませんので、やはり責任がない場合であります心神喪失の場合だけを取り上げまして、他の違法でない場合と別個の取り扱いをすることはどうしてもできないのではないか、このように考えております。
○飯田委員 これはいまのお答えをお聞きしましてもとても解決しないし、お気の毒だと思います。これは日本国政府がみんなで研究して、私の問いに対して正確な答えをすべき義務があると思います。そこで、きょう私は皆さんの邪魔をしようと思いませんので、この問題はこのくらいにしておきますから、どうかひとつ御研究なさって、後ほどまた聞きますから御返答願います。 それから次に、刑事補償法というものは、刑事訴訟法との関連で、今度の改正法案に掲げられたことのほかにまだたくさん重要なことがあるのですね。それを全部抜きにしてこれだけをやられた特別な理由はあるのですか。
○敷田説明員 特別の理由と申しますと、最近の経済事情の変動などを勘案いたしまして、刑事補償の基準となる金額を引き上げるということでございます。
○飯田委員 そのことだけではないのです。私が申しましたのは、刑事補償法改正で金額の点だけやっておられる、それじゃおかしいのではないか、まだそのほかに重要なことがあるのではないか、先ほど言いましたように刑事補償法はもっと根本的に検討しなければならぬ点があるのに、それをほったらかして金額の点だけしか改正法に出してこられないというのは何か特別の理由があるのかと聞いたのです。つまり、政府として法律の内容がわからぬので、どこを改正するかわからぬからこの程度にしておいたというのならそれでもいいですが、まだそのほかにあるのならば、どうしてこれだけを変えたのかということをお聞きしたい。
○敷田説明員 大変むずかしい御質問でございますので、よく検討させていただきたいと思います。
○飯田委員 それでは、この問題は後ほど検討してまた御返事をいただくことにいたしまして、その次に進みます。 この法案の補償金額の改正根拠は、先ほど山崎委員からもお尋ねがありましてお答えになりました。それで一応了承いたしましょう。次に、この法案の附則を見ますと、附則の2で、施行前に無罪等の裁判を受けた者の補償金額を施行後も従前どおりとしたわけですね。これはどういうわけですか。金額を変えるということは、現在の貨幣価値が変わったから変えるのでしょう。それならば、その事件の起こったときのいかんにかかわらないでしょう。現在金をもらうのですから、いまの値打ちで金をもらわなかったら損をするのじゃありませんか。この点について、どうしてこういうように前にはさかのぼらないことにしたのでしょうか。
○敷田説明員 たとえば、同じ時期に抑留、拘禁を受けた者がありますのに、無罪の裁判を受けた時期が一つは改正法施行前、一つは改正法施行後というような事例を考えました場合には、発生した損害が抑留、拘禁を受けたその当時において発生したものであって、同一であるはずであるのに、たまたまその裁判の時期の前後によって補償金額が変わるのはおかしいのではないかという御質問ではなかろうかと思いますが、確かにそういう考え方もあり得るわけでございますけれども、ただ、この刑事補償法におきましては抑留、拘禁を受けたときに直ちに補償請求権が生ずるものではございませんで、その後無罪などの裁判を受けまして初めて補償請求権が発生するということになりますので、その時点におきまして抑留、拘禁等を受けた当時の損害を評価して、現在どれほどの補償をすれば一応の補償をしたと言い得るかという観点から一定の額を法定しておるものと考えますので、やはり無罪の裁判を受けたとき、すなわち補償請求権が発生した時点をもって改正法適用の有無を決するというべきではなかろうか、このように考えております。
○飯田委員 これがつまり刑事補償の本質の問題に関係するのです。本質を一体損害賠償と解釈するのか、あるいは慰謝料と解釈するのか、重大な問題ですね。損害賠償と解釈いたしました場合に、事故が起こったときの価格で損害を査定するというならそれも一つの行き方かもしれません。しかし、損害というものを完全に補償しようとするなら、現在受けておる損害を補償するのが当然でしょう。そうなりますと、現在の、金をもらう時点で損害が補償されておらなければならぬ。それから慰謝料にしましても、慰謝料というのは今日まで受けてきた苦痛に対する慰めの代金ですから、そういうものをもらうときの貨幣価値でもってもらわなければ不都合じゃありませんか。どうでしょうか。
○敷田説明員 刑事補償の請求をするいわゆる時効期間と申しますか請求権限三年間ございまして、したがって、早く請求した者、遅く請求した者によっておのずから差がありますことは、貨幣価値が変動しない時代でありますれば全く違いはないわけでございますけれども、現在やむを得ず変動しておりますので、やはりやむを得ないのではないかというふうに考えます。
○飯田委員 貨幣価値が変動する時期だから法を施行したときの金額でいくのが妥当だと考えるのが普通です。変動する時期に限って、前にさかのぼって古いやつでやる方が妥当だという考え方、その理論はどこからも出てこないでしょう。こういう附則をわざわざつけられた理由がどうしてもはっきりいたしません。この点も、あなたにお尋ねしたのではあるいは困るかもしれませんね。本当の責任者は別におるのですが、いまここにおいでになりませんので、きょうは私もっと尋ねたいことがたくさんあるのですけれども、もうやめます。この次また適当な時期にやることにいたします。
○羽田野委員長代理 関連質問を許します。横山利秋君。
○横山委員 資料をお願いします。 一つは、いまお二人の質問ございました補償規程の適用状況を、理由が知りたいので、どういう理由で補償されたか、理由別にここ一、二年の状況を知りたい。それから二つ目は、本法の適用状況、それもまた理由を整理して提出をされたい。これが一つであります。 それから、いまの飯田委員の質問で、いわゆる精神病患者とか泥酔者は無罪になるのはいいけれども補償するのはおかしいという質問に対しまして、どうも納得できる御答弁ではございませんでした。これは前から問題になっておったことでもございますから、政府側としてはもう一回、大臣を含めて十分御討議をしていただきまして、その理論的なもの、また、いわゆる学説と常識との違いというものを踏まえて見解をお示し願いたい。また、委員長にもお願いしておきたいのでありますが、その答弁がございましたら、理事会で一回この問題についての各党の懇談をお願いいたしたい。 以上でございます。
○羽田野委員長代理 次回は、来る二十八日火曜日午前十時理事会、午前十時十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。 午前十時五十九分散会 ————◇—————