法務委員会 第30号
- 発言数
- 33 件
- 登壇者
- 7 名
- 会派数
- 2
- 開催日
- 1968/05/16
会議録
○永田委員長 これより会議を開きます。 横山利秋君外七名提出、刑事補償法等の一部を改正する法律案を議題といたします。 これより質疑に入ります。質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大竹太郎君。
○大竹委員 この改正案は、刑事補償法とそれから刑事訴訟法両方あるようでありますが、まず、刑事補償法のほうからお伺いいたしたいと思います。 まず、提案者にお聞きいたしたいのでありますが、現在の刑事訴訟法のたてまえからいたしますと、被告人は有罪判決を受けるまで、すなわち、被疑者の段階においては無罪の推定を受けるとでも申しますか、それがたてまえだとされておるわけであります。身体の拘束を受けるということになりますと、これはもちろん自由を奪われるという意味、また世間の見る目もおのずから違ってくるというようなことでありますけれども、そうでない場合には、無罪の推定を受けるというたてまえになっております。そういうような面からいたしまして、最近のマスコミのいわゆる被疑者に対する取り扱いとでも申しますか、そういうようなもので非常に不都合とでも申しますか、現在の理論の面から見て不適当なのが相当あると思うわけでありますが、しかし、法律のたてまえからいたしますと、いま私が申し上げたのが法律のたてまえでもあり、そうあるべきものだというふうに考えるわけでありまして、したがって、私はこの非拘束の人が精神的な損害その他が皆無であるということは申すつもりはもちろんないわけでありますけれども、むしろいま申し上げましたような無罪の推定を受けている者に対して、もっと保護とでも申しますか、別の面において保護する面が相当国としてやるべきものがあるんじゃないかというふうに私は考えられてならないのでありますが、それらの点について提案者はどうお考えになっておるでしょうか、お尋ねします。
○横山議員 大竹さんのように実際弁護士として社会活動され、そうして法理的にも判決があるまでは無罪であるという論理をもってお仕事をなさっていらっしゃる方は、実際社会にはごく少ないと私は思うのであります。私のような、まさに常識的に一般的な社会人として判断をしますに、なるほど言われてみればそうだな、判決があるまでは無罪だなということにはなりますけれども、一般社会常識といたしましては、刑事被告人として汚名を着せられ、そしてあの人は人を殺したらしいとか、あの人は悪いことをしたらしいというような印象というのは、ぬぐうべからざる社会的信用を失墜し、精神的苦痛を本人並びに周辺に与えていることは、これは何としても免れがたいことだと私どもは考えておるわけであります。そういう社会的な不名誉にかてて加えて、この裁判費用、あるいは労力、日数等考えますと、論理的にはなるほど無罪で罪なき人であろうとも、実際的には罪人として社会はそういう目で見ている。現にお話がございましたように、警察に引っぱられた瞬間から被告人の敬称は省略される。そういうような状況は、実際問題としては罪ある人、まさに罪を犯した人としての扱いを受けておると考えるわけであります。それはいたし方がないといたしましても、それならば、ほんとうに青天白日になった場合における、その間の本人に与えた国家権力の行使によって生じた被害については、十分に償ってやるべきである、こう考えて起案をいたした次第であります。
○大竹委員 いまの私の質問の趣旨ですが、質問のしかたが悪かったのかもしれませんが、少しお答えがはっきりしないので、いま一回お聞きしたいのであります。もちろんこのあとでもまたお聞きいたしますけれども、これは申し上げるまでもなく無過失、国家の行為がたとえ悪意とか故意とかいうようなことがない場合においても補償をしようという問題でありますので、たとえ補償するにしても、最小限度にとどめるべきだと思います。そういうような面からいたしまして、先ほども申し上げましたように、無罪の推定を受ける者を、さっきおっしゃったようにあたかもすでに犯罪が確定したかのごとき世間の取り扱いあるいはマスコミ等の取り扱いというものが、精神的な苦痛その他をよけいに与えておるという面もあると私は思うのであります。そういうような面について、国としてもっとやるべきことがあるのじゃないか。いまのような補償の問題もさることながら、その前にもっと大いにやるべきことがあるのじゃないかというふうに考えられてならないのでありますが、それらについてどうお考えですか。
○横山議員 専門家の大竹さんの御質問であります。御趣旨がよくわからないのでありますが、こういう補償をする前に、何か国家としてやるべきことがあるのではないか。たとえばどんなことでございましょうか、具体的におっしゃいますと、私も答弁しやすいのでありますが。
○大竹委員 たとえばマスコミなんかの取り扱い等について、たとえば被疑者については名前を公にしないとか、例をあげれば一つの例としてそういうことが考えられるわけであります。
○横山議員 御趣旨ごもっともでございまして、最近のマスコミの扱いにつきましては、低い次元で申せば人権じゅうりんのような事例の山積する週刊誌雑から、高い次元でいえば、具体的な適切な事例がどうが知りませんけれども、神近委員が御指摘をされております愛知県の風天会のような問題に至るまで、警察並びにマスコミといたしましても、警察へ一ぺんかかった限りにおいてはもうそれが犯人に間違いないという先入主なるがごとき扱いについては、さらに格段のくふうをする必要があるかと痛感されるわけであります。その点は別といたしまして、いま御指摘の中にもう一つ、補償するとしても最小限度にとどめるべきであると思うがどうかという御趣旨がございました。これは先般三人の参考人の方が、ニュアンスの違いこそありましても、御指摘をされたことでありますが、たとえば身がわり犯人だとか、あるいはまだ未成年者のような問題だとか、あるいはその他から考えて、すべて補償することについてはいかがなものであるかという点については、本法案の中にも取り入れてございまして、非拘禁の場合、最高は五十万——裁判官の裁量です。それから非拘禁の場合は半額というふうに限定をいたし、またその運用につきましては、現行法の中においても裁量の余地が多少あるようでございますので、御指摘の趣旨をくんでおるつもりであります。 ただ、おことばのように最低限度とこれを考えて立案したのかという点につきましては、私の気持ちとしては、必ずしもそうではありません。除外例を設ける、むしろそういう趣旨のほうが立案の気持ちとしては強うございまして、できるだけ少なく、もう最小限度支給にとどめるという気持ちではないのでございまして、その点はお含みおきを願いたいと思います。
○大竹委員 いま一つ思い出したから、重ねていまの問題についてお聞きしたいと思うのであります。たしかこの前、政府提案の刑事補償法の改正のときにいろいろ議論がございまして、たとえば公務員が起訴された場合には休職になる、そして六〇%ですかの手当をもらっておる。そういうようなことで、無罪になった場合には、非常に気の毒だから、何とかするべきじゃないかというようなこともたしか問題になったと思うのでありますが、私のさっき申し上げたことは、もちろんこの被疑関係の事実にもよるかと思いますが、たとえピンからキリまで何でも起訴されたら休職にし、六〇%の手当を支給する——いまの規定からいうと、休職にすることができるというような規定になっておるようでありますけれども、実際の取り扱いその他において、さっき私が申し上げましたように、有罪の判決があるまでは無罪の推定をするということからして、休職その他の面でむしろ考えていくべき点があるのではないか、そういうようなこともあわせて私が申し上げたのでありますが、それらについての御意見を伺いたい。
○横山議員 これは私から答弁をするのが正しいか、政府側からその後の措置を答弁していただいたほうが正しいかわかりませんが、少なくとも本委員会の議決は、御指摘の起訴、休職、六割、無罪というコースにつきましては、法務大臣が責任を持って善処するという御答弁で終わっておるのであります。現行法におきましても、御指摘のように、起訴されたら必ず休職とするということには必ずしもなってはいないのであります。それからまた、その他の運用におきまして、法律としてはすることができるということになっておりますから、幅があるとは思いますが、実際問題としては必ずしも私どもの所期するような状況にはなっておりません。また、政府側がどういうふうに措置されたか知りませんが、決議がされまして、要するに無罪になった場合に六割のあとの四割については統治権者としてこれを補償する立法を含む措置をする、こういうことになっておるわけでありますから、一刻も早くそれを実現されることを提案者としては要望をいたしたいのであります。しかし、それとこの法案とは、また多少次元が違う点もございます。この法律は、その四割を補償する分野まで必ずしも入ってはおらないということなんでございますから、それはそれ、これはこれとして解決をすみやかにいたさなくてはならぬと立案の際に考えておるわけであります。
○大竹委員 次にお聞きいたしたいのでありますが、先ほどもちょっと触れましたように、この刑事補償法はいわゆる国の無過失責任を認めたものであるわけでありますので、外国のこれら刑事補償に関するいろいろの制度その他——その他といっても私それほど勉強しておるわけではございませんけれども、いろいろ見たり聞いたりしたところによりますと、身体拘束を受けない場合についてもこの補償をしておる外国の例というものは、ほとんどないというふうに聞いておるのでありますが、これらについて、法務省のほうからでもよろしいですが、ひとつ御答弁をいただきたいと思います。
○伊藤説明員 先般政府提案の刑事補償法の一部改正の際にも申し上げましたように、刑事補償は国に無過失責任を認めました特別の制度でございまして、ただいま御指摘のように、諸外国の立法例を見ましても、刑事補償制度を設けている国自身がさほど多くはございませんのみならず、設けておりますものも、補償の範囲をほとんど身体拘束に関する補償に限っておるわけでございます。 一方、御指摘のように、国内法の分野を見ましても、刑事補償はいわば国の公権力の行使で国民に損害を与えた場合の無過失責任をとるという一つの国家補償の形態でございますが、他に似たようなものとして、たとえば海難審判でありますとか、特許審判でありますとか、あるいは許認可の取り消し処分というような各般の行政処分がございます。それらによって国民に不当な損害をこうむらせた場合につきまして、直ちに国が無過失の場合でもこれを補償するという制度は、設けられておらないわけでございます。したがいまして、非拘禁の場合につきましても、単に無罪の裁判があったというだけで補償をするということにいたしてまいりますと、それらの行政上の各種の処分によって不利益をこうむった者に対する補償は、一体どういうふうに考えたらいいか、それとこれとの間にどういう考え方の差を認めるべきかというようないろいろな問題があって、やはり慎重に検討しなければならぬ問題がずいぶんあるのじゃないか、かように考えておるわけであります。
○大竹委員 いま、外国の立法例についてはあまりはっきりした御答弁がなかったように思うのでありますが、その点もう少しはっきりお答え願いたいと思います。
○伊藤説明員 恐縮でございます。外国の立法例につきましてややふえんして御説明申し上げますが、私どもが調査いたしました範囲におきましては、外国におきまして刑事補償の制度を持っておりますのは、ドイツ、オーストリア、フランス、ハンガリー、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、イタリア、メキシコ、ブラジル、ポルトガル、スペイン、イギリス、それからアメリカ、およそ刑事補償と思われるあるようでございます。ものをやっておりますところは、この程度の国で そのうち、比較的手厚い補償をしております分野に属しますものとしましてはドイツでございまして、これは二つに分かれておりまして、その一つは再審で無罪になりました場合に、刑の執行を受けた者に対する補償を行なうというのが一つ。それからもう一つは、未決勾留を受けた後罪責なしとされた者に対する補償、ドイツでは俗に未決勾留補償といわれておるようでございますが、この二つが行なわれておるようでございます。それからオーストリアも、ドイツ法を継受しておりますので、おおむね同様でございまして、再審で無罪になった場合に刑の執行を受けたことに対する補償、それから未決勾留に対する補償と、二つを行なっております。それからフランスにおきましては、再審で無罪となった場合における補償だけを行なっておるようでございます。それからハンガリーは、再審の場合の補償と未決勾留補償とを行なっております。それからスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、この北欧の三国も、法律上は、私ども調べましたところでは、右と同様に再審補償と未決勾留補償を行なうこととしておる法律があるようでございますが、これは少し古い法律でございますので、その後何らかの改正が行なわれておるかどうか、そこまで調査ができませんでした。それからイタリアにおきましては、再審補償のみを行なっております。メキシコ、ブラジル、ポルトガル、スペイン、いずれも再審で無罪となった場合の刑の執行に対する補償のみを行なっておるようでございます。イギリスには、正確には刑事補償法というような法律はないようでございますが、行政的な手続で、国王の恩典の形で補償金を与えることとされておるようでございます。それからアメリカにおきましては、一九四八年の連邦法によりまして、再審の場合の補償を行なっております。すなわち、再審で無罪の裁判があった場合に補償を行なっておるようでございます。なお、アメリカの中でも、州によりましては未決勾留の補償をやっておる場合もあるようでございまして、たとえばマサチューセッツ州におきましては、未決勾留補償をしておるようでございます。なお、これらの諸国を通じまして、ただいまも御説明申し上げましたように、拘禁されなかった期間に対して無罪の裁判を受けたことを原因として何らかの補償をするという制度を定めておるところはないようでございます。
○大竹委員 それで先ほどちょっと御説明になったのでありますが、これは国の無過失責任を認めるというのでありますから、先ほど例としておあげになった海難審判であるとか、特許審判であるとか、認可の取り消しの行政処分であるとか、そのほかいろいろあると思うのでありますが、もちろんこれらは刑事裁判とは多少趣を異にするとは思うのでありますけれども、国民に不当な損害を国の行為によって与えた、しかも無過失によって与えたという面においては、甲乙ないと思うのであります。これらとの関係において、刑事補償だけについて無過失責任を認めるということはどうかというふうにも思われるのでありますが、提案者としてこれらについて何かお考えになったことがあるでございましょうか。お答え願いたいと思います。
○横山議員 確かにいま政府側からお話がございましたように、一、二の例は別といたしまして、各国において勾留の場合における補償の例はないようです。しかしながら、この法案を作成するに際しまして、私もたびたび各国における状況をいろいろと調査し、それを参考例にしておるわけでありますが、ひるがえって考えてみまして、日本国憲法を引用いたしますならば、憲法はそれぞれ各国独特の特徴を持っておりますし、国の歴史の発展の中から生まれたものでございますが、特に日本におきましては、人権に関する規定が三本の柱の一つとなっておるわけでありますから、起案に際しましては、これが各国に例がないということよりも、むしろこれが正しいことであるならば日本において先例を開くということは、決して悪いことではない。しかのみならず、広く社会におきましてほんとうに青天白日の身になった、ああけっこうでした、あなたはほんとうによかったですねという場合に、国家が、わしに責任がないから、おまえは青天白日だ、はいさようならということで一体常識的に済ませるものであるかどうかという点になりますと、これはやっぱり過失がないといいながら、国家が多年にわたって罪なき者を罪であるかのごとく長期間にわたった処置したのである、それがただ勾留期間だけだから、非拘留の場合においては何らの補償する責任はないよと言い切れないものが、人間的にも、道義的にも、人権的にも、あると私は考えるわけです。この意味におきまして、むしろ日本の近代的な憲法の、しかも一番重要な柱である人権について、法律をもって忠実にその人権をも保障するということは、むしろ世界に誇るに足るべきいい例を開くのではないか、こう自負をいたしておるわけであります。
○大竹委員 いまの提案者の御趣旨からいうと、さっきちょっと例をあげました海難審判とか、特許審判、その他の国家権力の行使によって無過失に個人に損害を与えた場合においても、同様補償するべきであるという理論になろうかと思いますが、そう受け取ってよろしゅうございますか。
○横山議員 趣旨としてはそのようになると思います。
○大竹委員 次にお聞きいたしたいのでありますが、非拘束の場合においても補償をするということになりますと、非常にいろいろの場合が考えられるわけでありまして、非拘束の場合には、法律案の中にもございますように、最高は五十万円以内というふうに区切ってございますけれども、その期間の補償額は千三百円を裁判に要した期間に乗じた額の二分の一以内ということになっておるのでありますが、もちろん日本の裁判は非常に長くかかるということで、その面においていろいろな非難もあるわけでありますけれども、裁判が長くかかる理由にはいろいろあるのでありまして、もちろん裁判所側、検察官側の都合によって延びる場合もあるわけでありますが、被告人側の理由によっても延びるという実例等も非常にあるわけであります。そういう面等々を考えますと、ただかかった日にちにある金額をかけてその損害を出すという基本的な計算方法に相当の疑問があるように思うのでありますが、これについてはどうお考えでありますか。
○横山議員 この点につきましてはずいぶん腐心をいたしたところでございまして、先般三人の参考人の御意見も、ニュアンスの相違がございましたが、なるべく国会で供述をされました参考人の共通線とでも申しますか、与野党の諸君の満場一致の同意を得られますためにも腐心をいたしまして、何といいますか、最初考えましたものよりはずいぶん線を下げまして、御指摘のとおりに最高五十万、裁判官の裁量権、そして拘禁の場合の半額、こういたしましたのも御指摘、御質問の趣旨をくんだつもりでございます。 なお、この五十万並びに半額というのがどういう趣旨から出されたものであるかにつきましては、法制局の御協力を得ましたので、法制局から御説明申し上げます。
○鮫島法制局参事 刑事補償法のたてまえと申しますか、先ほどから大竹先生その他からいろいろお話がありましたように、非常にむずかしくて、私どもも非常にはっきりしない点があるわけでございます。現在の刑事補償法におきましては、無罪になったということと、それから身体の拘束を受けた、拘禁を受けたという二つの要素を要件にしているわけでございますが、しかし、考え方によりましては、その根本においては、やはり無罪の裁判を受けたという点が大きな比重を占めているのではあるまいか。そうしますれば、非拘禁の場合にも補償をするということも考えられるわけでございますが、ただこの際、非常に理論的なものもあるかもしれませんが、立法技術的に考えまして非常にむずかしい点は、それではその補償の内容をどうするか、無罪の裁判を受けた者に対して補償をするということは納得できるといたしましても、その補償の内容をどうするかという点が非常に問題でございまして、その点も多少の理由となって、現在は拘禁の場合に限って補償しているということもあるいはあるのではないか。そういうことも、社会党から御提案になりましたこの法律案を私どものほうで準備いたします場合には考えたのでございます。そして拘禁を受けた場合におきましては、いろいろな精神的な損害ということはもちろんでございますが、そのほかに、その間は身体が拘束されているわけでございますから、たとえば仕事を持っている人でございましても、収入を断たれるとか、そういう財産的な損害がある程度明白でございまして、そういう点から、拘束を受けた場合におきましては、この場合の補償の額をどうするかということについて、これも非常にむずかしいことではございますが、ある程度のめどは立てられるわけでございます。ところが、今度は非拘禁の場合まで補償を及ぼすということになりますと、その内容をどこへ持っていくか。拘束を受けました場合には、先ほど申しました拘束を受けました間のいろいろな収入の道を断たれた、そういう点も勘案できるわけでございますけれども、非拘禁の場合には、起訴された場合と起訴されない場合とでは、実際問題としては多少の違いはあろうと思います。それにしましても全然収入が得られないというわけではございませんので、財産的な損害ということを考えることは、理屈としては考えられないわけではございませんけれども、立法技術的にはその点は非常に困難である。そうしますと、帰するところは精神的な苦痛といいますか、そういう点につきましてその補償の内容を主として考えざるを得ない、立法技術的にはそうならざるを得ないわけで、それならばどういうふうにきめたらいいかということで、この点非常にむずかしいわけでございます。それにしましても、ただ裁判所の裁量にまかせるというわけにもまいりませんので、この拘禁の場合より以上ということはもちろん考えられませんし、拘禁の場合よりはその額は少なくても当然としていいのではないか。そうしますと、この拘禁の場合の補償の基準額を基準にして、一応の提案になりましたようなことで考えざるを得なかったということで、この点は法制技術的には非常にむずかしい点でございまして、むしろこの点は多少政策的な点も加味していただきまして、国会のほうで御審議願いたい。この点は提案者と相談したわけでございますけれども、法律技術的には非常にむずかしい点だろうと思います。
○大竹委員 まだ次の質問者がおありのようでございますので、きょうはこの程度で私のほうの質問は一応終わりたいと思いますが、先回政府提案の刑事補償法の改正のときに、現在のこの社会党提案の法律案ともあわせて参考人の御意見をお聞きしたのでありますが、いまお話等をお聞きしていると、ますますめんどうな問題にぶつかってくるのであります。私の希望といたしまして、あらためて、やはり大事な刑事訟訴法の改正等も含んでおるわけでありますので、ほかの議員の方々の御意見等もお受けくだすって、参考人をお呼びいただきたいということを御希望申し上げて、私の質問は終わらせていただきたいと思います。
○永田委員長 田中伊三次君。
○田中(伊)委員 御提案になった提案の理由を拝見をしますと、いろいろ意見のあるところもありますが、また尊重をしなければならないと考えるところも多い。そこで私は、本案は極力積極的な姿勢をもって誠意を尽くして審議をすべきものである、こういう結論を胸の中では得ておるわけであります。そういう点から、短い時間の間に二、三お伺いをしてみたい。 いまの応答もありましたが、第一に伺ってみたいことは、一体、事件が起こって起訴をされると、国民の常識、国民感情は、裁判所の判決が確定するに至るまでは有罪か無罪かわからない、これが国民感情だと思うのであります。有罪か無罪かきまるまでは、有罪とも無罪ともわからない。それは国連総会の世界人権宣言を見てもごらんのとおり、有罪の判決確定するに至るまでは無罪の推定を受ける権利がある、裁判確定するまでは無罪だとして取り扱われる権利がある、こういうたてまえが国連総会でも人権宣言の上でうたわれておる。しかるに、無罪になったというだけの理由で国家が補償しなければならぬという理論は、これはどういうふうにお考えになっておるか、その点をもう一度私として伺ってみたいと思います。
○横山議員 重ねて私、むしろ私の個人感懐かもしれませんが、率直に聞いていただきたいと思います。私、国会十三年、法務委員になりましてからわずか三年でございますが、いまお説のように裁判確定するまでは無罪の判決を受ける権利がある。確かにこのとおりであり、私もしろうとながら法務委員になりましてから、いろいろと法理的なことを勉強いたしました。しかしながら、それでは一体そういうお説のような国民常識が町のちまたの中でそのまますなおに受け入れられておるかどうかとなりますと、残念ながら警察に引っぱられて裁判に付された、あれは人を殺したらしい、なるほど、らしいはつくけれども、まさか国家のやることに間違いはなかろう、警察のやることに、一つや二つの間違いはあっても、原則的には起訴した以上は、告訴した以上は、裁判に付された以上は、まあ間違いがないだろう、あいつは人を殺したらしい、こういうふうに受け取り、またマスコミも、多くの国民的機関も、そう扱っておると見るのが常識であり、ぬぐうべからざる社会的信用の失墜だとか、物質的損害というものは理論を越えて現存をしておる、私はそう思うわけであります。したがいまして、無罪の推定を受ける権利がある。したがって、無罪の推定を受けて、そこで何も有罪の時期は一瞬もなかった、そう社会的に信用失墜され、物質的損害を受けたというようなことは理論的には一回もなかったということにはならないのが、現実の事態ではないか。むしろ私は、その意味では理論的な問題よりも、実際的な問題から法案の起草をいたしました。こういうわけでございます。
○田中(伊)委員 提案者のお考えをもう一つ伺いたいのは、起訴されて無罪の判決のあった場合、その以前の段階で検挙をせられ、拘束を受けた、取り調べを受けた。しかし、その結果は起訴に至らなかった。これは起訴猶予の場合もあろうし、不起訴の場合もありましょうが、特に無罪の場合と並べて考えるべきであると考えるのは、不起訴の場合——不起訴の場合というのは、内容的にいえば犯罪は成立せず、罪を構成せず、こういう立場が不起訴の場合であると承知をいたしますが、この不起訴の場合、御提案の趣旨からいうと、これをこのままに捨てておけぬのではないか。ここはいかがでしょうか。
○横山議員 本件につきましては、すでに本委員会におきましてもしばしば私から質問をし、政府側からも答弁をいたしたところでありますが、私は現在あります被疑者補償規程について多大の疑問を持っておるわけでありまして、田中さんも、法務大臣として補償規程の問題についてもこれはひとつ検討すべきものではなかろうかと常日ごろ考えておるとおっしゃいましたが、この被疑者補償規程をこの線に沿って再検討をすべきであるというふうに、かねて私は主張をいたしておるところであります。むしろ次の段階といたしましては、法律によらざる補償規程は、法律事項に次の段階にすべきではなかろうか。そして恩恵的に行なわれております現在の規程の運用体系というものを、やはり法律に基づいて適正にされるべきである。その原因の一つは、補償規程がありながら、実際問題としては年に数件、数万円というような状況であることにも問題があるわけでございまして、この法律が通過をいたしましたあと、この法律の趣旨に基づきましてそれらの点についても改正をされるべきだ、改正をしてもらいたい、こう考えております。
○田中(伊)委員 犯罪にもいろいろ軽重がある。軽いものでは軽犯罪から重いものでは強盗殺人、こういういろいろな犯罪の形があるわけでございます。無罪になったという理由で一律にこれに国家が賠償するということは、いかがなものであろうか。軽犯罪が無罪になった場合、強盗殺人が無罪になった場合、そこのところはどういうお考えでしょうか。
○横山議員 私の趣旨といたしますところは、いやしくも犯罪人の疑いを受け、そして国家権力が発動され、本人が社会的信用を失墜し、そして物質的損害を受けたものである限りにおいては、これは補償すべきである、こういう論理に立っています。しかし、その中から除外さるべきものとして、たとえば身がわり犯人であるとか、あるいは酔っぱらいだとか、あるいは裁判官の裁量にゆだねております趣旨の一つにも、これはまあ無罪ではあるけれども、しかし、補償をすべきには至らないものという分野があろうかと思います。たとえば軽犯罪法のような、きわめて軽微な、あるいはまた身がわり犯人だとか、酔っぱらい運転だとか、そういうものに類するもの、そういうものにつきましては、必ずしも国民の税金をもって補償すべき事例ではないと思うのであります。そのことにつきましては、現行法におきましてもその余韻がございますし、私の案につきましても裁判官の裁量にゆだねておるところでございますから、どうぞひとつ御理解をお願いいたしたい、こういうわけでございます。
○田中(伊)委員 それから無罪になった事件の中には、国民感情から見て、道徳的に少なくとも責任を負わなければならぬ、道徳的に見ると、本人に社会から責められる相当な理由がある、こんなことをして証拠不十分で無罪になっておる、こんなことをして法律の穴をくぐって無罪になっておるという事件が、世の中にたくさんあります。名前を言いにくいが、ごく最近の事案の中にもそういうものがある。裁判では無罪だった、しかし、これを許しがたい道徳上の責任がある、こう考えられる事案が、相当にあろうかと思います。法律的にも、道徳的にも、本人の責めに帰すべき理由はないという場合に、国家が補償をするということは合理的に考えられる。本人の責めに帰すべき理由が、だれが考えてもある、こういう場合に国家賠償法で国家が補償をしなければならぬということは、いかにもここに得心のできぬものがある。これは提案者はどういうお考えでしょうか。
○横山議員 たいへんその点が実は私ども起案いたしました際にもむつかしい問題でございまして、豊かな体験を持っておられる田中委員では、具体的な思い出された事案に基づいて御判断をされるのでありますが、私はそういう体験がございませんので、きわめて常識的にお答えをするところであります。確かに仰せのように法律的には違法行為ではない、しかしながら、道徳的には、もしも国民の血税を補償として払った場合に非難のある場合が予想されるわけであります。その場合にどうするかということにつきましては、私いま具体的な判断の基礎を持っておりませんが、きわめて常識的に申し上げますならば、裁判官の判決をし、事案を処理いたしました過程におきまして、裁判官の裁量にゆだね、そして道徳的にこれは補償さるべきものではないという場合においては、補償をしないほうが妥当であろうと、こう考えるところであります。
○田中(伊)委員 そこで、これは法務省に一口お伺いをしておきたい。一体国家が無罪となった者に対して補償を行なうということは、言うまでもなく予算を伴うものであります。補償を行なわなければならないという結論になる部分については、この御提案の中でいろいろありますが、これは補償をせなければならないと合理的に判断のできる部分については、本来は、議員提案ということでなしに、政府がそれぞれの手続を踏んで、閣議で決定をして、政府提案として国会に出すことが筋であろうと思うのであります。これはまだ、審議に入ったところで、詳細な審議を終わってみないと、どの部分は合理性があるか、どの部分は無理かということについては判断をいたしかねますが、本件のような案件を審議するにあたって考えることは、補償をせざるを得ない、こう考えられるものについては、議員提案はともかくこうしてあって審議をしておるわけであるけれども、法務省が中心となって、裁判所の意見を聞き、予算関係の法案となりますから大蔵省の意見を聞くことはもちろん、法務省の内部においては、法制審議会の意見も取りまとめて、政府提案として、合理性のある内容をもって国会に提出すべきものではなかろうか、こういうことが私の一つの考えでございます。この点については、なかなか大臣御不在の席で簡単に御答弁することはむずかしいものと思いますが、大体の感触はいかがでしょう。この提案をそのまま政府提案としてのめと言うのではないわけです。慎重審議をしてみて、合理性のある部分だけは政府提案として将来検討すべきものではなかろうか。政府の提案としていつ出す、こういう内容だということの答弁を求めることは無理でありますけれども、たてまえとしてはそういうふうに考えるべきものではなかろうか。予算を伴うこういう内容の法案を議員提案で出すことが無理である、政府に提案の気配がないから、野党は熱心に、これを法案として提出をしておられる、こういうふうに思うので、これを伺っておきたいと思います。
○川井政府委員 具体的な問題はともかくといたしまして、基本的な考え方を先に申し上げたいと思いますが、刑事法令であるとか刑罰法令であるとかということのゆえに、かたくなな態度をとって旧套を墨守していくというのは、近代的な立法を担当しておるもののあり方ではないと私は信じております。したがいまして、合理的な理由があるものにつきましては、真剣に、積極的にこれと取り組んで、政府の立場において、最も妥当と思われる案を随時検討し、これを考えていくというのが、これからのまさに私どもに課せられた態度であろう、こういう考え方に立っております。 そこで、本件のような刑事補償の問題でございますが、これはたとえば、現行の刑事訴訟法は二十四年に施行されたものでございますが、その当時からかなり問題点を含んでおるものでございまして、刑事訴訟のみならず、刑事補償をも含めまして、刑事手続法全体につきまして、随時部内におきまして検討をいたしております。特に非拘禁の者に対する補償、ないしは無罪となった者に対する費用賠償というふうな点につきましては、かなり前から国会におきましても強く問題が提起せられ、私どももさらにそれに刺激を受けまして、最高裁判所の事務当局、法務省の刑事局、財政当局が随時連絡をとって、かなり問題を煮詰めてきております。ただ、時間がございませんので詳細は申し上げる場ではないと思いまするけれども、やはり刑事法令でございますので、できればギャップのないように理論を煮詰めまして、そうして法制審議会の日本の最高水準の学問的な検討にも耐え得るような、それから国費を要する事柄でございますので、その点におきましても、ほかの施策とバランスをとって、合理的な調整、国民の皆さま方に納得がいけるような筋道を考えて、そして実行に移すということが適当かと思いますので、理論の問題、手続の問題、それから具体的な各省庁との連絡、調整の問題というふうなものにつきまして、かなり真剣な態度でもって問題を煮詰めておる。ただ、余裕があれば申し上げまするけれども、なかなか基本的な大きな問題、先ほど法制局の次長からも御説明がございましたような、かりにそれを乗り切りましても、技術的にもまだ解決をしなければならない大きな問題がかなり伏在しておるわけでございますので、しばらく時間をかしていただきまして、漫然とはしておりません、真剣に取り組んで、できる限り早い機会におきまして、でき得れば、合理的なものにつきましては、政府の責任と政府の積極的な立場におきまして、合理的な案を考えてみたい、これがただいま私の立場において申し上げることができる範囲の態度と方針でございます。
○永田委員長 本日は、これにて散会いたします。 午後零時十六分散会