法務委員会 第11号
- 発言数
- 85 件
- 登壇者
- 6 名
- 会派数
- 3
- 開催日
- 1967/05/19
会議録
○大坪委員長 これより会議を開きます。 裁判所の司法行政に関する件、法務行政及び検察行政に関する件、並びに人権擁護に関する件について調査を進めます。 質疑の申し出がありますので、これを許します。横山利秋君。
○横山委員 まず、最近における亡命問題について法務大臣にお伺いしたいのでありますが、この種の事案というものが、日本の国際的信用が回復するにつれまして非常に多くなっておるようであります。私が承知する限りにおきましても、アジア大会における金吉男、これが亡命をカンボジヤ政府に頼んで、そして日本に入りたいということを申し出たことがございます。平新艇事件はすでに御承知のように、殺人罪を犯して日本に入ってきて、それをどこに帰すか大問題になりました。またキューバの問題もいま政治的な課題となっておるわけであります。そしていま、きのうの夕刊を見ますと、福岡におきまして金青年ですか、これが政治亡命を強く主張をして、裁判が、いま第一回が行なわれておる状況にあります。これらを考えてみますと、ここに日本に亡命をしたい、ないしは日本がその亡命に関係をいたします場合におきましての、わが国における判断が非常に区々になっておる。その場、その場における各国の顔色をうかがいながら、いわゆる政治的解決ということのために処置がおくれる。そして一貫しないというおそれがあると私は痛感しておるわけであります。私はこの機会に具体的な問題を通じてまず結論を申し上げておきたいのでありますが、亡命処理の原則を確立すべき段階にあるではないか。このままでいきますならば、まだまだたくさんの亡命者が日本の政治的課題になってくるし、これからふえることはあっても減ることはない、こういうふうに痛感をされます。私の主張はそこにあるのでありますから、最終的な御判断はあとでお伺いするにいたしまして、まず最初に当面いたします問題の、金青年の処分取り消しに関する事案から意見をお伺いをいたしたいと思います。 これによれば、金青年は「釜山陸軍兵器学校の助教をしていたが四十年四月、上官と口論したため南ベトナム派遣軍編入を命ぜられた。ベトナムで人を殺すのも自分が殺されるのもいやなので同年七月三日南ベトナム派遣のための特別外泊許可を機に脱走した。韓国軍隊は勤務離脱者を銃殺刑に処している。このため、日本の裁判所では最初から北朝鮮への帰国を希望したが、それを司法当局が無視したのは「居住地選択の自由」「帰国の自由」をうたった世界人権宣言に違反する。政治難民を保護するのは国際慣習法である。日本国憲法九十八条二項は「確立された国際法規はこれを誠実に守ることを必要とする」と定めており、自分は保護を受ける権利がある。出入国管理令五十三条二項は「退去強制される者はその国籍または市民権の属する国に送還することができないときは本人の希望を入れ……」として六つの出国先を規定している。自分は韓国に送還されれば生命が重大な危険にさらされるのだから、本人の希望により、送還先が決定されるべきである。」こういうのが本人の主張であります。 そこで、法務大臣に伺いたい第一点は、この裁判が行なわれておる最中に強制送還をすることがあり得るのか、こういうことがまず第一の御質問であります。
○田中国務大臣 これは答えのしようでありますが、法律的にはあり得る。なぜあり得るかというと、強制送還処分を停止する裁判所の決定があったわけでない。強制送還を取り消してもらいたいとの訴えを起こして、その審理の最中である、こういうことでございます。そういう執行をしてはならぬという停止の強制執行法上の仮処分があったわけではないということでございますから、したがって、法務大臣の行ないました強制送還の処分というものを執行することは、裁判をしておる場合といえども一向差しつかえはない、こういうことになるわけであります。ただ、それだけの答弁をいたしますと、それがかりに新聞の記事になり、ラジオの電波に乗った場合は、帰す意思があるように誤解を招くおそれがある。私は非常に同情もしておりますので、そういう趣旨ではないのであります。しかし、法律的な見解はどうかとお聞きになりますと、この場合は、本件の場合は、裁判中といえども送還すること一向差しつかえはない、それは拘束されない、こういうことになっておるのであります。
○横山委員 法律的には送還することが可能になっておるという点は、私も法律論としてよくわかります。むしろ、私がお伺いしておりますのは、この種の問題は、亡命処理の原則が確立していない今日においては、すべてといっていいほど、悪い意味ではありませんよ、政治的な判断によってなされておるのであるから、いま金青年を、その意味において、政治的判断において善処され、裁判中はこれを強制送還をしない、こういうふうに承って、理解してよろしゅうございますか。
○田中国務大臣 そう理解をしていただいては困るのでございます。ただいま調査をいたしております調査が明瞭になれば、そういうことにならないかもしれない。そこはありのままにお受け取りをいただきたいのです。私は、同情をもってやっておるのでありますけれども、裁判中は強制送還の行政処分を執行することはございませんというようには答えかねるのでございます。
○横山委員 ものを言っていらっしゃる、そのあなたの顔を見ないでものを聞いていると、こちら向いて聞いていると、強制送還するというふうに耳には聞こえるけれども、あなたの顔を見ると、顔を見ておって話を聞くと、いや、横山君、わかってくれたまえよ、というような顔色に見えるというわけでございますが、顔色を見ておって理解を私はしておるわけでありますが、よろしゅうございますか。
○田中国務大臣 先ほど申し上げたようにお聞き取りをいただきたい。
○横山委員 その次の質問は、国の主張は「金が密入国をして懲役刑を受けたことははっきりしているが、ベトナム派遣については国は知らない」、それから「政治難民の保護が、確立した条約かあるいは国際慣習法であるという原告側の主張については認めがたく、また金が政治難民であるかどうかも疑問がある」と答弁をしている。ここのところは非常にむずかしい問題だと思います。事実政治難民であるかいなかの判断は、いまあなたがおっしゃっておるように調査をしておるということは、そのことに該当すると思うのでありますが、結局亡命をした本人の気持ちを尊重しなければ、出国先、たとえばここでは韓国でありますが、韓国に、あれは政治亡命であるかどうかということを聞くのは、韓国ならずとも、どこの国に聞いてもばかげたことである。とらざるところである。そうすると、政治亡命であるかどうかの判断はあくまで主体的でなければならぬ。主体的というのはわが国自身が決定する。同時に、それは客観的であらねばならぬ。相手国、出国先の言うことを聞いておったのでは本人の主張を曲げるおそれがある、こう考えるのであります。最終的な亡命処理の原則にも関連すると思いますが、政府が政治亡命であるかどうかということの判断を逃げておるという感じがいたしますが、どうでございますか。
○田中国務大臣 おことばを返すようですが、本人の意向を聞いて、それを尊重して、ただそれだけで政治亡命なりや政治難民なりやということをきめるわけにもまいりますまい。それから、本国の御意向はどうかという本国の意向だけを聞いて、それで判断ができないことも横山先生お説のとおりであろうと思います。いずれもそれだけではいかぬのじゃないか。それでは何が政治亡命なりや政治難民なりやということをきめるきめ手になるのかといえば、出国の態様であろうと私は見ておる。一体何が政治亡命なのか、何が政治難民なのか、この定義の原則をきめよというその仰せのとおり原則がきまれば、世界各国とも楽で、本人も安心して覚悟をきめて出国をするということになるでしょう。これを扱う国のほうでも、たいへん安心をして、単純に仕事ができることになるので、原則がきまればいいのでありますが、原則がなかなか各国ともきまらない。国際慣例としても国際上の原則としても、原則はこうだということがはっきりしないのであります。しない理由はどこにあるかというと、態様が違う。 そこで、私のほうの考えを申し上げますと、その国の——その国というのは本国をいうのでありますが、本人の属する本国の政治的秩序を破壊して、そして政治的犯罪を犯した。政治犯罪、たとえば政府の転覆をやったとか、大統領の暗殺をはかったとか、クーデターの陰謀をやったとかいうような、政治秩序を破壊することを目的とした政治犯罪、一般犯罪と違って政治犯罪を犯して出てきておる。それは帰ると、その政治犯罪でやられるのだ、こういう面があります場合においては、これは各国ともに大体の原則はできておる。これは本国には帰さない。本人の意思を尊重して、行きたいところへやってやるということは、大体の原則はできておるようであります。そうでない、政治亡命というものをもっと広い意味で解釈いたしまして、政治的な意味がない場合、一般的犯罪を犯して出てきておりますような場合に、これを政治難民と取り扱うのか、広い意味における政治亡命と取り扱うのかというようなことについては、各国ともに扱いが違う。これは原則がない、こういう意味でございます。 そこで、本件の場合について非常に時間がかかっておりますのは、ベトナム反戦だということでやったのだというのですが、ベトナム反戦だということが行動の全部なのか、それは言い分であって、本人がそういう上手な言い分をしておる男であって、それは単なる動機としか考えられない。そして母国の法律で禁止をしておるいわゆる脱走をいたしまして、脱走という政治犯でない犯罪を犯して、普通犯罪を犯して不正の入国をしてきたものだということになるのかどうかという点の調べ方というものが、時間がかかっておるわけでございます。それらの一般犯罪を犯して出てきた者を、全部保護するなんというべらぼうなことは、世界じゅうのどこの国も考えておらぬでしょう。人を殺す犯罪、脱走する犯罪、そういう犯罪を犯して政治亡命だから助けてくれなんて、そんなことはあり得ないことでございます。そういうことでございますので、一体どういう態様で脱出をしたと見るのが妥当なのか、こういうことをまず根本的に調べまして、そして韓国の言い分はどうか、本人の言い分はどうか、前後の状況はどうかということを考える必要があろうかというので時間がかかっておるわけでございます。
○横山委員 あなたは、本国の政治組織を転覆するという面を強く主張されましたが、同時に、主義、主張が違うので圧迫を受けておる。このままでいけば自分は何もしなくても、自分の主義、主張と、政府の主張とが違うので、そこで自由に、自分の意のままに生活するわけにはいかないという場合も、これは私は一つの政治亡命だと思う。それを消極的といいますか、その中間がまたあり得ると思うのです。その点は議論になりますから、そういう場合もあり得るということだけ指摘しておきますが、それでは、政治亡命が何なりやということが確立した場合、あるいはあなたの言う積極的な政治亡命である場合、いずれにしても政治亡命であるということが明白な場合には、いまの日本政府はどうするつもりでございますか。
○田中国務大臣 政治亡命だということが明白になりました際は、本人の意思に従って救済する。これはもう国際法の原則でございますから、わが国もこれに従わなければならぬ、こういうことでございます。 それからもう一口申し上げますと、先ほど申しましたほかに、いま言うたように本国で圧迫を受けておる。宗教的圧迫もあり、政治的圧迫もあり、人種的圧迫もございましょうが、そういう圧迫を受けているというような事実が明白になります場合には、これは広い意味の政治亡命と申しますか、あるいは最近いわれております政治難民というのに当てはまるのではないかと思います。こういう場合には、よほど慎重に考えてやらなくちゃならぬ。つまり準じて考えてやらなくちゃならぬであろう、こういうように考えております。単純なる一般犯罪を犯して脱走したと見るべき場合においては、これを救済することは間違いである。犯人引き渡し条約でもあれば、これに応じて引き渡さなければならぬところである。しかし、そういう条約が韓国との間にはございません。ございませんが、友好関係がございますから、条約はないが引き渡せと言われた場合には、引き渡すことが当然であるというふうに考えるわけであります。政治犯罪の問題は、いま仰せの圧迫を受けていることが明瞭になった場合には救われねばならぬものだ、こういうふうに考えております。
○横山委員 韓国籍の米兵がキューバの大使館に救いを求めて、現在もおるわけでございます。この扱いについて日本政府はいささか韓国並びにアメリカに気がねをし過ぎておるような感じがするのでありますが、キューバの大使館へ逃げ込んでおります偉国籍の米兵問題について、日本政府はどういう立場でありますか、明らかにしていただきたい。
○田中国務大臣 御承知のように、日米両国の間には地位協定がございます。同時に、その地位協定を実施するための特別刑法がございます。そういう法律に基づきまして、アメリカから逮捕を要求してきております。逮捕要求がございますので、この要求に応じて——逮捕ができるかどうかは別でございますが、逮捕の努力をせなければならぬということで、目下非常に綿密周到なる苦心をいたしまして、逮捕の努力をしておる最中でございます。すなわち、キューバ大使館、ここにおると大体想定できる。事実おるかどうかわからぬわけでありますが、大体ここにおるものと想定ができますので、外に出ますチャンスを待ってこれを逮捕する以外に道はない、日本国にその義務がある、こういう判断であります。
○横山委員 本件は亡命とお考えにならぬのですか。
○田中国務大臣 亡命であるか、難民であるか、亡命ではないかもしれぬが、難民であるかどうか、あるいは単なる脱走であるかどうかという、三点いずれに属するのであろうかということについては、不幸にして資料がないのです。日本へ遊びに来ておって、キューバ大使館へ逃げ込んだ。逃げ込んだ直後に逮捕要求があった、引き渡し要求があったという事情でございますので、何にも資料がないということでありますので、これの判断をいたしかねておるということが真相でございます。
○横山委員 亡命をしてきた人間の主張を裏づけること、日本政府が客観的に間違いない証拠を裏づけることは非常に困難であるということは、あなたも私もお互いにわかっておるわけです。しかしながら、そういう政治亡命の人がやってくる、ないしは日本国政府の保護を求めるということについては、客観的証拠をきちんと集めることのほうがむしろ困難でありますから、それこそ政治的配慮を加えて、本人に好意を持って主張に耳を傾けてやるという気持ちがないままに、わからぬことだから、これは友好国、これは非友好国だからということが働き過ぎるおそれがあるのではないか。そういうことは心して、いかなる国といえども平等に扱わなければいかぬのではないか。こういうことを政治亡命の処理の原則をつくるについて原則としなければならぬ。 そこで、この種の政治亡命が実に多くなりましたので、各社説にもこのことを取り上げておるのであります。私の手元に入りました社説を見ますと、要するに私と同じような意見でありますが、政治亡命の処理の原則をつくることは困難なことだ、しかしながら、あまりにもいまは処理が政治的である、この際困難なことではあるけれども、原則を確立をして、そのときの政府、そのときの所管大臣、そのときの政治的情勢によって取り扱いが変わるようなことのないようにすべきである、こういう趣旨のことで結んでおるわけであります。一応参考のために読みますと、問題として「大原則をきめるといっても容易なことではあるまい。一つは国際法的な原則、慣例を尊重すべきはもちろんだが、その原則、慣例が必ずしも明確ではないからであろう。西独、ラテン・アメリカ諸国のように憲法または基本法で政治的亡命者へのひ護提供を自ら義務づけ、所定の形式を要求しない国もあるが、一般的にはまちまちな取り扱いである。世界人権宣言は、いちおうの原則を示してはいるが、国際条約としての拘束力に欠け、また、実際にあてはまる基準としては各国の国内法規にまつほかはない。第二の問題は“政治的亡命”をどういう基準で認定するか、亡命事件の様相が複雑多岐で、きめにくい点である。第三には、一九四八年の世界人権宣言の審議の際、英代表が「いかなる外国人もある国に対して入国する権利を主張することはできない」と述べ、この考え方が、亡命に関する規定が弱められたように、亡命者へのひ護提供が国の主権行為に属し、政治的決定にゆだねられ、決定にかなりの幅の生ずる余地がある点であろう。しかし、それにもかかわらず明確な原則の確立を急がねばならぬというのは」国の「”政治的決定”にばかりゆだねておくと、イデオロギー的立ち場や国力などを背景とする圧力などによって、処理が混乱し、国益を害する事態さえ生ずるからである。それを回避するためにはできるだけ明確な処理原則を確定し、これをどこの国籍所有者にも一様に適用する慣行を確立すべきである。」まさに私はいろいろな問題を整理しながら結論として亡命原則を確立しろと言うておるのは、適切な社説であると思うのであります。この亡命処理の原則をこの際確立すべきであるという社会世論に対しまして、どういうお考えでございますか。
○田中国務大臣 日本国の立場でこの亡命原則を決定いたしますことは、たいへん困難な問題ではなかろうかと思います。その困難な事情は、先ほども申し上げましたように、政治犯罪を犯して出てきておる者につきましては、もうすでに原則に近いものが確立されておる。そうでなしに、政治的な圧迫、思想的な圧迫、人種的な圧迫、そういうふうな圧迫を感じて、祖国におることをいさぎよしとしないで出てきておる方には、広義の政治亡命、これをこのごろのことばで言うと政治難民というようなものをいかに取り扱うかという問題については、国々まちまちでございます。しこうして、もう一口申し上げますと、今度は全く政治的な犯罪とは違って、一般犯罪、脱走であるとか殺人であるとか詐欺であるとか、そういう一般犯罪を犯して国もとにおれないで出てきておる者というものを考えまして、それが政治的な動機、こういう動機がある、ああいう動機があるということを、本人が一々口で説明はする。しかし、内容を調べてみると、一般犯罪を犯して出てきておるものと認められる、政治犯罪でもない、圧迫でもない、こういうふうなものを考えます場合においては、どうも本人に同情をして考えましても同情ある処置がとりにくい場合が多いのでございます。 それから、いま先生のお話では、国交があるとないとにかかわらず、これは人道的立場に立って厳格にやらねばならぬではないかというおことばがありましたが、これはやはり、国交がある国とない国、それからその国交がある国の間におきましては、犯罪人引き渡し条約などの条約のある場合とない場合とでは、やはりその区別をして考えざるを得ない現実の立場ではなかろうか、こういうふうに考えるのでございます。
○横山委員 最後のことばはたいへん気になることばであります。世界人権宣言は、決してそのような立場に立っていないと私は思うのであります。つまり政治亡命というものが至上の問題である。最優先の立場である。それが、たとえばありていに言えば、国交を回復してない共産圏諸国ないしはその逆の場合によって、政治亡命の扱い方が違うということをかりにでも法務大臣としてお考えだとするならば、これはいささか当を失することではないか。もちろん逃亡犯罪人条約があることは承知しています。それは単に手続上の問題で、逃亡犯罪人条約があるから原則がきまってからその手続による場合があることは私認めますが、逆にそれを本末転倒して、逃亡犯罪人条約があるから、また国交があるから、政治亡命の扱いを違えるというようなことになりましたのでは、これはいささかいかがかと思うのであります。私の聞き間違いならばよろしゅうございますけれども、原則的な立場を差別なさるということは適当でないと思います。
○田中国務大臣 お聞き違いでございます。私の申しておりますのは、政治亡命ないし政治難民という認定をいたします場合においては、これは母国に帰すべきものではない。大体において原則は確立しておる。難民の扱いについては幾らか不確実のところがございますけれども、大体において確立しておる。本人の希望に沿って本人を救済してやるべきだということになるわけであります。そうでなくて、先ほど申しましたように、政治的な色彩を持たざる一般犯罪、圧迫も何もない、一般犯罪を犯して逃亡をしてきておるというような場合にいかにするかということになりますと、これは友好国と友好国でない国によっては扱いが違わざるを得ない。それは犯罪人引き渡し条約があったら引き渡さなければならない。しかし条約がなくても友好関係があれば、引き渡してくれということになれば、ああそうかといって引き渡してやることもやむを得ないのではなかろうか。しかし、そういう場合に、友好関係がない、——名をあげて悪いのでありますが、北鮮なら北鮮という場合をかりに考えてみる場合において、条約もない、友好関係もない、交渉のしようがないというような場合においては、本来国元に帰すべきものであっても、本人の意思いかんをよりどころとして処理すべき場合も起こってくるこういう意味で言っているのであります。
○横山委員 次に、北海道における問題であります。これまた世論に非常に反響を呼んでおるものでありますが、密航の弟をかくまったという函館在の柳禎烈四十七歳、三十六年間日本に住んでおるそうでありますが、弟が密航をしてきた。しかも、その弟は北大にすでに在学しておるものであります。法務大臣もよく御存じだそうであります。この弟が密航をしてきたというわけで、実の兄がいろいろと肉親の者に対して庇護をしたということをもって、弟に対してはともかくとして、兄柳禎烈氏、しかもこれは三十六年日本に住んでおる。日本の永住権も持っておる者でありますが、こういう人間に、お前は密入国を助けたのではないか。そしてそれが発覚するのを何とかごまかしておったではないかということで、それに対してまで強制退去令書を交付して強制追放をしておりますのはいささか酷ではないか。これはいろんなことがあると思うけれども、日本の刑法でも自分の肉親に対して庇護をし、何か犯罪人を庇護した場合においては、格別の措置がなされておるのであります。そこからどこまで一歩を踏み出したか、議論の余地があるといたしましても、この強制退去命令を出すということは、これは常識的にも社会的にも、日本政府がこの種の問題について過酷なりという印象を与えておるのであります。いかがでございましょう。
○田中国務大臣 重要な御質問でございますので、中川入管局長からお答えいたします。
○中川(進)政府委員 ただいま横山先生御指摘の点でございますが、実は私、このケースが起こりましたとき、私自身も個人的には横山先生と同じような考えを初め抱きました。兄として肉身の弟がころがり込んできて、いわゆる窮鳥ふところに入ればこれを保護す、ましてや肉身の愛情あるものにおきまして、これをかくまうというのは人類自然の情けでありまして、それがゆえに強制退去をするのは、しかも三十六年とおっしゃいましたが、私どもの調査では三十四年間でございますが、いずれにしろ三十年以上長くわが国にいた者に退去を命ずるのは、酷ではないかという感じが実は私もいたしました。そこで、よくよく調べさせましたところが、実は単に窮鳥ふところに入ったからこれを保護したということではないのでございます。若干捜査の秘密のようなことになりますのでございますが、事をはっきりいたしますために真相を申し上げますと、以下のとおりでございます。 まず、三十九年の四月に、問題になっている柳平烈という弟から、兄さん、私は何とかして日本に行きたいのだが、どうしたらいいだろうという相談を受けたわけであります。この相談を受けました本件の当事者である柳禎烈は、それではおまえはこうしたらいいだろうということで、いろいろ密航の方法をこの弟に教えてやった。たとえば、釜山へ行ったら何という人に会って、何という船に乗ってどうしたらいいというようなことを指示いたしました。そしてこの指示に従いまして弟は同年の九月に神戸まで参りました。そこへこの事件の当事者である柳禎烈氏が出かけまして、そして船の上で弟に会いましたが、神戸にどうでも上がれないからどこかへ上がれ、そのときにはどうしたらいい、こうしたらいい、要するに脱船上陸に関する指示を与えて別かれた、結局この脱船指示に基づきまして、この弟は日本に不法上陸をいたしまして、そしてただいま先生お話しのごとく、北海道の兄のところに落ちつきまして、北大の学校に通っておったのでございます。その後、この人は四十一年四月十一日に兵庫県のある港から北鮮に向かって密出国の準備と申しますか、密出国しようとするところを警察につかまった。そして警察によって事情を調べられましたところが、いま私が申し上げましたような兄の不法入国の手引きがわかった。こういう経緯でございまして、私もそういうことであれば、これは先生よく御承知のわが国の管理令二十四条で規定する退去強制事由に該当するわけでございまして、そういう者をわが国といたしまして置いておくわけにいかない、こう思って退去強制命令が出るように大臣に上申した次第でございます。
○横山委員 どうなのでしょうね、密入国をする人、これは密入国が悪いにきまっておりますが、密入国をする人が日本に来るときに、知識も何も全然なかったら密入国はできませんわね。だれかに方法を聞くということはあたりまえのことであります。だれかはそこで教え料を取るとか、船に乗せるとかいうことになる。だれか、そういうことを教えた者、金を取った者は、全部これは犯罪だということにあるいはなるかもしれぬ。しかしながら、なるほどあなたのおっしゃるとおりに、かりに事実だとしてみましても、日本へどうしても行きたいと言うたときに、それは法律に違反するから来てはならぬというように一たんは兄が言っても、どうしても来たいと言った場合に、事情もだしがたく来るとなれば、こういう方法がないではないというふうに教えたとする。それじゃ、それで来たときに、どこかで、神戸ですか、迎えに行くことは、違法だから、来ることがわかっておっても行かぬというふうにしたほうが適法であるか、それもそうだ、しかしながら、長年別かれておった弟が来るというので、そこへ行くという、自分が見放せばすぐひっつかまるということから、肉親の情もだしがたく、じゃ来るなら自分のところが一番安心だろう。つまり私の言いたいことは、そういう犯罪人を、肉親がどこまで保護したら違法であるか、どこから一線を越したら日本の刑法上はいかぬのか、つまり手引きをした、幇助した、あるいは積極的に誘導したということと、泣きつかれてまあしかたがないということでいった場合との一線というのは、むずかしかろうと思うのであります。あなたがいま率直におっしゃったように、最初受けた印象は自分でもひどいと思ったということは、きわめて私はすなおなことだと思う。政治の判断についても、私どもときおり反省するわけであります。説明しなければわからぬようなことは政治家としてもあまりやってもだめだ。一般の印象として、これはすなおにいい悪いの判断は、案外正しいものだということを私は感ずるわけです。この場合はこの前者に該当して、おそらく各新聞社も新聞記者も、何も一方的な見方をしてこんなに大々的に記事を掲載することはないと思う。一般の世論も調べてみて、これはちょっとひどいじゃないかという印象をジャーナリズムも受けておるわけであります。いまここであなたが、こういうことだから自分も最後には納得したとおっしゃるんだけれども、この点ではちょっと酷ですよ。まだ強制退去命令以外の方法がありはしなかったかということが、率直な私の感じでございます。大臣、どうでございますか。
○田中国務大臣 私が事案の内容をつまびらかにいたしませんので、愚見をこの段階で述べることがたいへん無責任なことになるのではないかと思うのでありますので、局長からひとつ……。
○中川(進)政府委員 ただいま先生の御指摘の点、ごもっともな次第でございますが、とにかく窮鳥ふところに入るという、何と申しますか、いわば受け身の立場における緊急やむを得ずして助けてやるというのと、あらかじめ、いや、そういう悪いことならこういうふうにしたらいい、おれも助けてやると言って、不法入国は何と申しましても不法行為でございますが、その不法行為を自分でオーガナイズしまして指導するというのとは、私はだいぶん情状において差異があると存ずるのでございます。したがいまして、本件はやはり積極的にその弟をそうやって不法入国せしめるべく指導したという点におきまして、やはり私は現在の入管令のたてまえ上は強制退去を命じてしかるべきものと、かように考えておる次第でございます。
○横山委員 水かけ論になりますから、私の意見を申し上げておいて、法務大臣が事情をまだ十分承知していないとおっしゃるのですから、判断をわずらわしたいと思うのでありますが、中川さんの言う積極的に手引きをしたか、受け身で手引きしたかという判断は、あなたが判断したこと、ないしは現地が判断したことであります。これが、たとえば手続としては積極的であったかもしれぬけれども、弟が密入国をしたい客観的事情がきわめて強烈であって、兄として聞いた以上、そんな事情ならしかたがないと言うて、以下かりに積極的になったとしましょうか。これは一体総合的にどちらが積極的であるかについては議論の余地のあるところであります。したがいまして、私はいま一ぺん法務大臣がこの種の——この両紙とも日本における一流新聞でありますが、この種の新聞がこういうふうに掲げ、社会が一見して、それはちょっと気の毒じゃないかというふうに思うのですから、しかも各界がこの問題を取り上げて何とかしてやるべきじゃないかと、こう言っておるのでありますから、もう一度法務大臣の手元で最終的な判断をわずらわしたいと思うのですが、いかがでございますか。
○田中国務大臣 ひとつ考えてみることにいたします。
○横山委員 最後に、すこし事は古いのでありますけれども、法務大臣という仕事は、各省大臣と違ってアイデアがなかなか出ない仕事であります。あまり自由なアイデアを発表いたしましても、法務省という仕事それ自身が、私がたびたび申しますように動脈硬化といいますか弾力性のない省でございますから、どうもうまくいかない。しかし、法務大臣がおっしゃった二、三のことの中で、法務大学構想というものがあるわけです。この法務大学構想というものについて、私自身も賛否相半ばするわけでありますが、少なくとも司法試験並びに司法研修制度というものが、先般も指摘いたしましたように問題があると思いますし、先年われら同僚委員と一緒に、この一元化の問題について各国の調査をいたしてまいりまして、報告書を提出したのでありますが、その経緯からいいましても、この種の問題については長期にわたって、考えを新たにして検討すべきではないかと思っておりますやさきに、法務大臣が法務大学を提唱され、それが日本弁護士連合会から強烈な反対があった。大臣は、その後黙して答えられないのでありますが、一体おあきらめになったものであるかどうか伺いたい。
○田中国務大臣 法務大学の構想は、ただいま構想段階でございます。構想段階で十分の構想を練って、そうして世間の御意見を承った上で、できるだけ理想の、よいものにいたしまして、続いて立案をしよう。また立案をする立案段階におきましても、相当時間をかけて、立案のできましたものにつきまして各界の意見を聞きたい、こういうふうに慎重な態度で、目下法務省本省において検討を命じておるところでございます。
○横山委員 それでは、もう一つあなたの意見を明白にしておいていただきたいのは、少年法の問題であります。少年法について法務省がアドバルーンを上げて、最高裁が反対をするという状況であります。前法務大臣が、あのアドバルーンについて各界の意見を聞いて、あれからすでにだいぶ歳月がたっているわけでありますが、各界の意見を聞かれた後における法務大臣の少年法に対するお考えは、どうまとまっているか伺いたい。
○田中国務大臣 前大臣時代に、御説のように各界の意見を入念に聞いてあります。しかるところ、私が法務省に就任をいたしまして、これをつぶさに手にとって拝見をしたのでありますが、何分にも新しく就任したことでございますので、私の手で重ねてひとつ慎重に打診をしたりごあいさつをする必要があろうということで、私が各方面の意見を昨今ようやく聞き終わったという段階でございます。そこでこの段階でこれをどう処理をするかという問題でございますが、法制審議会にかけることにするのかしないのかということでございます。その問題につきましては、あまり遠からざる時期に、いかに処理をするかの決意をしたい。各方面の意見を大体聞き終わったというところでございます。聞き終わりかけておるというところであります。
○横山委員 終わります。
○大坪委員長 岡沢完治君。
○岡沢委員 最初に、先ほど横山委員から御質問になりましたこととも関連いたしますけれども、金東希兵長の問題についてお尋ねしたいと思います。 この問題に関しまして、金東希本人から強制退去処分に対する異議申し立てという申し立て事件が法務大臣にあったはずでございますけれども、ございましたでしょうか。
○田中国務大臣 そういう問題がございました。目下審議中でございます。
○岡沢委員 いま審議中とおっしゃいましたが、その申し立てについては、本年二月十六日に申し立て棄却があったと聞いておりますが、違うのでございますか。
○中川(進)政府委員 ちょっと、先生がおっしゃられる申し立て棄却と申しますのは、おそらく異議の申し立ての棄却だと思います。いま大臣から言われましたのは、裁判のことではなかったかと私聞いておりましたが、いかがでしょうか。
○岡沢委員 私が最初に聞きましたのは、裁判ではなしに、法務大臣に対する強制退去処分に対する異議申し立て事件があったかどうかということです。
○田中国務大臣 さきの発言を取り消します。それはそういう異議の申し立てがございました。
○岡沢委員 その異議の申し立てについては、二月十六日に申し立て棄却の決定をなさったと聞いておりますが、そのとおりですか。
○田中国務大臣 そのとおりでございます。
○岡沢委員 それでは、いま申し上げましたその強制退去処分に対する異議申し立ての理由の概要をおっしゃっていただきたいと思います。
○中川(進)政府委員 申し立ての理由は、先ほどから横山先生がおっしゃったとおりでございまして、自分はベトナム派兵をきらって入国したのである、したがって、置いてくれ、こういうことであります。
○岡沢委員 その異議申し立てに対して、先ほど棄却をなさったということでございましたが、どういう理由で棄却なさったか、お答えいただきたいと思います。
○中川(進)政府委員 私どもとしては、本人が過去三回不法入国の経歴がございました。したがいまして、これは必ずしも入国の動機がベトナム戦争参戦に対する忌避ということのみではない。むしろ日本に逃亡入国したいということが主であって、ベトナム云々のことは、その動機の理由にあるかもしれませんが、これはあってもごく一部のことであるという理由に基づきまして、異議の理由なしということで却下したのであります。
○岡沢委員 いま局長がお答えになったその結論に至る理由といいますか、どういう状況をお調べになってそういう結論に達したか、その材料をもう少し具体的に示していただきたいと思います。
○中川(進)政府委員 これは本人のただいままでの行動でございます。
○岡沢委員 たとえば四十年八月に彼は対馬のほうに逃げてきておるわけですが、本人が日本に密入国した大きな理由は、ベトナム派兵に反対だ、自分の属しておる軍隊がベトナムに派遣されるということをきらって韓国を出たというふうに言っておりますが、その裏づけとして、たとえばその軍隊がベトナムに行ったかどうかということを、お調べになったかどうかをお聞きしたいのであります。
○中川(進)政府委員 その点はつまびらかにしておりません。
○岡沢委員 先ほど横山委員に対する法務大臣の御答弁で、かりに政治犯人あるいは政治難民であれば難民としての取り扱いをして、単なる犯罪人扱いはしないという趣旨のお答えがあったと思いますが、そういたしますと、先ほど私がお尋ねしました強制退去処分に対する異議申し立てを棄却なさったということは、政治難民でないという御判断をなさったと解してよろしいわけですか。
○田中国務大臣 それは話の筋が別なのでございます。政治難民であるかどうかという問題はまた別でございます。不法入国、パスポートも持たない、ビザも受けないで、不法に入国したということが、法律上正当であるかどうかの観点に立って判断をしております。 もう一つ御参考に申し上げますと、この金東希君は、昭和三十年にも密入国があるのです。大騒ぎをいたしまして帰した。三十七年にまた密入国をして大騒ぎをしてまた帰した。常習犯みたいな人なんです。私は腹の中でたいへん同情の気持ちを持っているのですよ。日本で勉強した人でもあるし、同情の気持ちを持っているのですが、これで三度目なんです。そういうことでございますから、自国の旅券を持たないで、わが国のビザも受けないで、意味のわからぬような船に乗り込んできて、命からがら来たことは気の毒なんですけれども、そういうことがあったということ、それが当を得ておるかどうかという判断をしておるのでありまして、政治亡命、政治難民を取り扱うのに適当であるかどうかの判断と別個にして私が裁決をしておるわけでございます。
○岡沢委員 いま法務大臣のお答えの問題は、裁判所が刑事事件として出入国管理令に違反するかどうかという判断ならわかるのでございますけれども、本人から行政官庁であります法務大臣あてに退去処分に対する異議申し立てをしておるという事件については、裁判所の司法事件ではございませんから、やはり政治的な判断としての政治亡命であるかどうか、政治難民であるかどうかという判断も加えて結論をお出しになるのが正しいと思うのでございますが、そういうことではございませんか。
○田中国務大臣 それは隣同士の話でございますから、そういう判断も同時に加えて一向差しつかえはございません。
○岡沢委員 しかし、結論として、この異議申し立てを棄却なさったということは、現在の段階では政治難民ではないという御判断をなさったと解してよろしゅうございますか。
○田中国務大臣 腹中の判断は、政治難民ではなかろうか、政治亡命ではなかろうかということは、いろいろ考えたんでございますけれども、表面の判断は、パスポートを持たず、旅券を持たず、ビザは受けず入ってきたのはよくないという判断を、単純にしておるわけであります。
○岡沢委員 そこで、政治難民の解釈について、法務大臣はどういうふうに解しておられるか、お聞きしたいのであります。
○田中国務大臣 先ほど横山先生にもお話をいたしましたように、この定義というのは、先生、なかなかむずかしいのですよ。むずかしいのですが、私は私なりの各国の取り扱いの状況というものを総合いたしまして、資料もずいぶん取り寄せまして、総合して研究をいたしました結果は、まず第一に、政治犯罪は犯していない。政治犯罪を犯してきておれば政治亡命であります。政治犯罪を犯しておらないけれども、どうも政治的圧迫を加えられておる。それから思想的圧迫を加えられておる。これは南鮮系であるとか北鮮系であるとかいったことから政治的圧迫を加えられておるというような、あるいは人種的差別による差別待遇圧迫を加えられておるというようなことが心理的作用となりまして、母国にはだれが見てもおられないということで国を出てまいりまして、そうしてそのときの立場は、自国の政府の許可も受けがたい、また受ける意思もない、自国政府も保護もしてくれない、受ける意思もないが、保護もしてくれない。こういう事情があります場合に、これを政治難民として取り扱うべきではなかろうか、世界各国の取り扱いも、総合いたしますと大体そういうことになろうかと存じまして、政治亡命ほどには明白な定義ではございませんけれども、そういうふうに考えておるわけであります。
○岡沢委員 ただいまの法務大臣の見解が間違っておるというのではございませんが、私はもう少し広く解して、本国政府と、政治的な信条の上で相いれないものがあるために、外国に逃亡する場合が政治難民に該当すると解してもいいと思うのです。この場合に、ベトナム戦争の評価はいろいろあると思います。けれども、ベトナムに派遣されておりますアメリカ軍の兵隊の中でも、あるいは韓国の兵隊の中でも、罪のないベトナム人を殺すことに疑問を持つのはごく自然なあり方ではないか。金東希の過去の密入国の例は別といたしまして、本人が異議申し立てで申しておること、あるいはこれはあとでお聞きしますが、訴状で申しておる原因等をすなおに読みました場合に、政治的信念あるいは韓国のベトナム派兵のいわゆる政治的政策に対して反対のために亡命したということを認めることは、私は客観的に決して無理な解釈ではないんじゃないかというふうに解するわけであります。ことに、昨年九月の例の平新艇事件に関連いたしまして、七人も殺して逃げてきた四人の方に対してすら政治的難民の扱いを日本政府はなさいました。私はそれは間違っておるとは申し上げません。本人の意思を尊重して韓国にお引き渡しになったという例があるわけでございますが、私はこの金東希の場合、より以上に政治的難民と解する客観的な条件があるような気がするのでございますけれども、法務大臣の御見解をお聞きしたい。
○田中国務大臣 ちょっと事情を何か誤解していらっしゃるんじゃないかと思うのですが、平新艇の問題のときには私は大臣ではございませんが、重要なことなので、前例の一つでもございますので、私が就任をいたしましてから資料を取り寄せて調べたのでございます。これはそうじゃないのです。これは政治亡命とはいえない、政治難民ともいえない性質のものでございます。したがって、これはもし北鮮と日本国の間に友好関係がありまして、そして条約があるとか、条約がなくても友好関係があります場合に、北鮮当局からそれは難民じゃないのだ、亡命じゃないのだ、殺人罪を犯していっておるじゃないか、戻せ、こう私のところに仰せになって交渉がありました場合は、わが国は帰すべき筋のものでございます。私が大臣ならこれは帰しておる。ところが、それは帰してくれよとの要求もなく、第三国を通じて要求の道もあったでございましょうが、そういう要求もございません。それから、友好関係は全然ないわけでございます。もちろん犯人引き渡し条約もないわけでございます。したがって、本国のほうに帰れといって帰す道がない、こういう場合においては、たいへんいやなことでありますけれども、本人の意思に従う以外に道がないということで、四名は本人の意思に従って南鮮にやった、こういう事情でございます。これはこの場合とは全く場合と立場が違うように私は理解をしております。
○岡沢委員 いまの大臣のおことばを返すようでございますけれども、平新艇事件の結論が出たときに当時の、いまもそうですか、竹内法務次官は、この四人は国際難民条約にいう難民であると認め、本国に送還して一身上の迫害を受けないよう考慮して、韓国に引き渡したという談話を発表しておられますが、大臣の御見解とだいぶ違うようでございます。
○田中国務大臣 私の申し上げております難民とはこういうものだ、それ以外のものは難民とは言いかねるという実質的な解釈をお考えいただきますと矛盾をしていないものと思いますが、広い意味の難民と解釈をしたものではなかろうかと思います。
○岡沢委員 それでは、きのうの新聞に問題になりました、例の福岡地方裁判所の係属事件であります金東希から申し立てられました退去強制処分等取り消し請求事件、これについての請求原因はどういうふうになっておるのかお聞きしたいと思います。
○中川(進)政府委員 先ほど申し上げましたことと同じ原因でございます。
○岡沢委員 この事件、実はまだ第一回が開かれたばかりでございますから、それ以上お聞きすることは避けたいと思いますが、法務大臣のほうの答弁書の答弁の具体的な主要な点だけをここでお述べいただきたいと思います。
○中川(進)政府委員 これは、まず難民あるいは政治難民と申すことばがございますが、その政治難民という通念が、国際的に確立しておるかどうかということが若干疑問である。それから第二に、かりに確立していたといたしましても、この金東希なる者がそれに該当する者であるかどうかということがわからない。それから、われわれといたしましては退去令書を出したのでありまして、この退去令書にはどこに行けということはまだ書いてございません。そういうことであります。
○岡沢委員 わかりましたが、いまの局長のお答えからいたしましても、また法務大臣の先ほど横山委員に対する御答弁も含めまして、もし政治難民と解釈される場合には、本人の意思を尊重するということについては法務省として御異議ございませんか。
○中川(進)政府委員 政治難民であるかどうかということの認定が、きわめて困難でございまして、私は先ほどから申し上げましたように、金東希自体の問題でありますと、彼が一〇〇%の政治難民であるとはどうも個人的には受け取りがたいのでございます。しかし、いまの先生の御質問が、金東希の問題を離れて、一般論として政治難民というものであった場合には、本人の意思を尊重するのかと言われますと、本人の意思を極力尊重するようになると思うのでございます。 申し上げるまでもなく、こういうものの処理は、本人の人権の尊重、すなわち本人の意思あるいは主張によって主として認識すべきであると思いますところの本人の人権の尊重と、それからこれを置いておくほうの側の内政、外交上の国益の問題、あるいは置いておくほうの国における公安の維持の問題、そういういろいろな複雑な問題がからみ合いまして、その場その場で、ケース・バイ・ケースに処理すべきものでありまして、一般論といたしまして、政治亡命ということであれば必ず置くとか、あるいは政治亡命でなければどうするというようなことを概念的に規定することは、私個人としましては非常にむずかしいのじゃないか、かように考える次第でございます。
○岡沢委員 むずかしいことはわかりますけれども、世界人権宣言の精神からいたしましても、またわが国は批准はいたしておりませんが、難民の地位に関する条約の精神からいたしましても、いま申されましたような受け入れる側の国益ということは無視はできませんけれども、それ以上に基本的人権の尊重という立場から、政治的な信念に基づく行動については極力これを保護するというのが世界の確立された通念ではないかというふうに私は解するわけであります。少なくとも金東希のケースは、具体的な判断を待ってなさるべきだと思いますが、一般論としては、いま局長のおっしゃいました個人の基本的人権と国益とを並列して考える考え方以上に、基本的人権のほうがより尊重されていいのではないか。もちろんおっしゃいますように、日本の国の公安が乱されるというような特別のケースの場合は別でございますけれども、一般的にはヒューマニズムを基礎にした人権宣言の精神のほうが優先されるという解釈を、少なくとも法務省の御見解としてはとってほしいと私は思うのでございますが、いかがなものでございましょうか。
○中川(進)政府委員 この点は、先ほど申し上げましたように、はなはだむずかしい問題でございまして、先生のおことば一々ごもっともでございますから十分に研究させていただきたいと思いますが、将来とるべき態度ないし方針につきまして、今日ここでコミットすることはひとつ御容赦願いたいと思います。
○岡沢委員 わかりました。ただ、いま申し上げました難民の地位に関する条約に関連して、当時の中川条約局長が国際連合の総会で、この条約の趣旨には賛成で、これに入ると入らないとを問わず、人道を尊重するという原則で行動すべきことは当然だというふうにお答えになっているわけでございますけれども、こういう考え方は、いまの中川局長の考え方とちょっとニュアンスが違うような気がいたしますが、この考え方も正しいというふうに解してよろしいのでございますか。
○中川(進)政府委員 お説のとおりでございます。
○岡沢委員 それでは、先ほど来の法務大臣の御答弁からいたしましても、金東希は難民であるかどうか、結論はまだ出てないというふうに解してよろしゅうございますか。
○中川(進)政府委員 そういう意味では、出ておりません。
○岡沢委員 そういう意味からいいますと、やはり難民であるかどうかの解釈も含めて、いまの福岡の裁判所の判断にまかされるというふうなお立場ですか、それとも裁判所の判断とは別個に、法務省の見解は、結論が出ればそれに従って処置なさる考えか、その辺をお伺いいたしたいと思います。
○田中国務大臣 大事なことでありますから私からお答えいたします。 裁判所の民事手続による判断とは別個の判断があり得る、こういうふうにお考え願いたい。ただし、裁判所の判決が出ました場合には、これは裁判権があって裁判をしておるわけで、管轄権もあるわけでございますから、この裁判に従うことは行政府の処置としては言うまでもない。しかし裁判がありますまでの間、既判力が発生する以前の状態におきましては、既定方針に基づいて政治亡命なりや難民なりや、しかもそれは狭義の難民か広義の難民かということについての判断をいたしまして、極力国際法の、まあ原則というものはないにいたしましても、原則に近い同情的処置があるわけでありまして、人道的見地に立ったあたたかい気持ちを持ってこの事件の処理をしていきたい。本人自身は二度も三度も入国をいたしまして、いま局長が申しますとおり日本に来たいから入国したんだ、しかし今回の場合は、あまり同じことを言うてもおれぬから、ベトナム参戦反対だというように言うておると聞こえる節も幾らかあるわけであります。しかし、そういうふうに狭く解釈してやらずに、もっと豊かな解釈をしてやれ、そうして状況がどういうものかを調べるがよかろうという私の態度で、親切に調べておるということが実情でございます。
○岡沢委員 ただいまの大臣の御答弁で、大体趣旨はわかったような気がします。手続的にはそれでいいかと思いますけれども、前回の、五月十二日のこの委員会の松本委員の質問に対して、中川局長さんのほうから、出国の動機、本人の意思あるいは送還後の処分等を調査中というお話がございました。出国の動機につきましては、これは本人の内心の意思の問題でありますから、やはり本人の主張を一応尊重して、客観条件がそれに反する場合は別の解釈になりますけれども、先ほど私が申し上げましたようなベトナムの戦争の本質からいたしまして、本人がそういう動機を持つということは十分に考えられる。それから本人がどこの国に帰るかということについては、はっきり韓国には帰りたくないという意思表示をしておるわけでありますから、これも調査の必要もないくらいはっきりしていると思います。かりに韓国に送還された後の処分につきましては、銃殺刑が待っておるというふうに一般的に、まあ私は韓国の法律は詳しく知りませんが、聞いております。そういうことも考慮いたしますと、いま大臣の御答弁のように、人間味のある御処分を委員の一人としてお願いしておきたいと思います。 この問題についての質問はこれで終わります。 最近の登記事務の問題につきまして、十分間ほどお聞きしたいと思います。 最近の登記事務の特色と申しますか、事件数、事件の内容その他から見た概要を冒頭にお伺いしたいと思います。
○新谷政府委員 最近の登記事件が、ここ数年来非常な激増の道をたどっております。私どもといたしましても、これに対処しますために、いろいろ苦慮いたしておるわけでありますが、事件の推移を申し上げますと、昭和三十年を一応基準にいたしまして考えますと、登記事件の甲号、乙号と言っておりますが、甲号と申しますのは登記簿に記入する本件でございます。乙号と申しますのは登記簿の謄本、抄本の交付事件あるいは閲覧事件を称しております。昭和三十年におきましては登記甲号事件が六百九十万件でございました。三十五年に至りまして九百十万件になり、四十年に至りまして千三百万件というふうに、異常な上昇をたどってまいりました。四十二年度におきましては、推定でございますが、千四百万件ぐらいになるであろうと考えられます。上昇率で申し上げますと、三十年を一〇〇といたしますと、三十五年が一三二、四十二年が二一四ということになります。さらに乙号事件について申し上げますと、昭和三十年が千五百万件でございます。三十五年に至りまして四千二百万件になりました。四十年度に至りますと八千九百万件、四十二年度の推定は一億七百万件ということになります。これを上昇率で申し上げますと、三十年を一〇〇といたしますと、三十五年が二七一、四十年が五七〇、四十二年が六八〇ということになるわけでございます。 これに対しまして登記所の従事職員でございますが、総定員は別といたしまして、登記関係に従事しております職員の数は、三十年が六千八百七十七人でございます。三十五年が七千百二十人、四十年が七千八百十八人でございまして、本年度は八千五十一人を予定いたしております。この上昇率は、三十年を一〇〇といたしますと、三十五年が一〇四、四十年が一一四、四十二年が一一七、こういう状況になっております。
○岡沢委員 いまの御報告によりますと、昭和三十年に比較して、最近は事件数で、甲号事件でも二倍をこえ、乙号事件は七倍近い事件増でございますが、人員はほとんどふえていない。これで実際に事務ができるのかどうか、またかりにできるとしても、国民に迷惑をかけない行政サービスが可能なのかどうか、御見解を聞かしていただきたいと思います。
○新谷政府委員 確かに仰せのように、事件数の伸びと従事職員の数の伸びは並行いたしておりません。したがいまして、どうしてもそこに無理ができるのではないかということが考えられるわけでございます。私どもといたしましても仕事の性質上、できるだけ人員もふやしていただく必要があろうと思っておりまして、年々法務局関係の予算の要求におきましては増員を最重点にいたしましてお願いしてまいっておりまして、本年度におきましては人員は実質的には百五十八人の増加でございます。それに、法務局関係に、欠員になったまま凍結されておりまして、使えない定員が四十二人ございます。これを解除していただきました。それを合わせますと現状よりは二百名よけい人員を採用できるということにさしていただいたわけでございます。従来も法務局関係におきましては百名あるいは二百名という増員が認められておりまして、各方面にも非常な御同情と御理解をいただいております。私どももそれにこたえて、できるだけ登記所の事務能率が上がるように、サービスが向上するようにということを配慮いたしておるわけでございますけれども、人員の増加だけではどうしても十分ではございません。ことに増員抑制措置ということは政府の基本方針でもございまして、その中にあって特に現場の忙しい大事な仕事について、特例としてこのような増員を認められておりまして、私どもといたしましては単に増員のみにたよることなく、ほかの施策をいろいろ考えて、総合的に登記所の事務が間違いなく運用されるようにということを考えております。 その方法といたしましては、一つにはまず庁舎の問題がございます。これは登記所の数が、現在約千五百近いものがございます。これは法務局の出張所でございます。そのほかに支局が約二百四十、本局が四十九ございます。特に出張所の場合におきましては、明治年間の建設にかかる建物が非常に多くございまして、現在、私どもで改築しなければならないものと思っております数だけでも約四百にのぼっておるわけでございます。これが何と申しましても古い様式の建物でございますので、事務の能率を向上させるにも非常な隘路になっております。 そこで、これを近代的な庁舎に改築するということを、増員要求に次いで重点としてお願いいたしております。昨年までにもかなりの出張所の庁舎が建設されました。特に昭和四十年度におきましては、登記所の庁舎の整備計画を立てまして、十年間で、特に緊急の改築を要する庁三百三十六庁につきまして、特別に早く建築をお願いしたいということをやってまいったわけであります。一昨年、昨年で、合計いたしまして五十庁出張所が建築されたのでありますが、本年度におきましてはその数がさらに増加いたしまして、本年度だけで、出張所が三十七カ庁、本局、支局を入れますと四十四カ庁という数字になっておりまして、過去二年に比べましても相当の庁数の伸びが認められたわけでございます。 庁舎が非常によくなるということは、能率に非常に影響いたします。具体的な例を申し上げますと、日本橋の登記所に——これはおそらく現在日本で一番大きい出張所であろうと思いますが、事件が殺到いたしますために、謄抄本の交付に五日ないし一週間かかっておったのでございますが、仮庁舎でもいいから、とりあえず能率のあがるものをつくろうというのでやりましたところが、その事務の渋滞が一挙に解決いたしまして、すべて申請のありましたその日に謄抄本の事件は処理ができるようになりました。今日ただいまにおきましても、未済がなくて明日に至る、こういう非常に好ましい結果が出ております。こういうことを考えましても、庁舎を早く整備することが、何より必要であろうと思っております。 さらに、登記制度そのものでございますが、これは戦前からずっと引き続いて、昔のままの登記法を基本にいたしまして現在に及んでおりますが、戦後いろいろ手を加えまして改善はいたしております。 さらに、いま差しかかってやっております事業といたしましては、税務署から引き継ぎました土地台帳、家屋台帳、これを登記簿と合体いたしまして一本の手続で済ませるようにすることによって、これがまた事務能率に非常にいい結果を及ぼします。登記台帳の一元化と申しております。 さらに、戦後の登記簿の用紙が、せんか紙を使いまして非常に粗悪なものでございます。機械を導入して複写機でこれをつくろうといたしましても、現在の用紙ではなかなかうまくまいりません。そこでこれも計画的に紙質のよい用紙に取りかえようという作業をやります。 さらに、商業登記の面におきましては、これがまた登記簿の利用が非常に多うございまして、利用度の高い登記所におきましては、各会社ごとにファイルいたしまして、一会社一登記用紙ということにいたしまして能率をあげる。さらに登記用紙そのものにつきましても、様式を変更いたしまして、能率があがるような方策を講じておる次第でございます。 そのほかに、事務そのものにつきましても能率をあげますために、やはりできるだけ機械化できるものをかえていこうという方針でございます。これも戦後登記所の性格が変わりまして以来、非常に一生懸命に私どももやってまいりました。特に最近におきましては、法務省におきましても民事局の中に能率化研究会というものを設け、さらに法務局におきましても同じ研究会を設けまして、その成果を印刷して、さらにお互いにそれを参考に供し合うというようなことをいたしておりまして、かなりな成果をあげておるわけでございます。 そういったことの結果にもよるのでございますが、複写機の大量の導入、ことに一般の複写機ではやはりとても追いついてまいりませんので、高性能の複写機に逐次切りかえていこうということをいま考えております。現にこれは実行の段階に入っております。 さらに、従来は現地調査の場合に自転車を利用しておりましたが、自転車がスクーターにかわり、さらにオートバイにかわり、さらに現在では四輪車の自動車にかわっていくというような状況でございまして、だんだんとその方面もいいものが導入されておるのであります。 さらに、従来登記簿を手書きしておりました。これがいろいろの面に影響をいたしますので、特別に登記簿向きのタイプライターを考案いたしまして、これを各登記所に配置しよう、——これはいまのところ相当数普及いたしておりまして、登記簿の専用のタイプライターでございますので、非常に能率があがっております。 さらに、電子計算機によりまして、供託関係でございますけれども、東京のみならず、横浜、大阪、名古屋、こういったところの供託関係の書類を一元的に処理するような高性能の機械を導入いたしまして、その方面からの事務の簡素化もはかっておるというのが実情でございます。 こういったいろいろの施策を総合してやりませんと、登記所の近代化ということはなかなかむずかしいわけでございます。一挙にこれをなし遂げることも非常に困難でございますけれども、予算の許す範囲内におきましてできるだけのことはやっていきたいという方針でまいっておるわけでございます。
○岡沢委員 時間がないので恐縮でございますけれども、いま局長おっしゃいました非常な事務能率化の努力についてはうれしく思いますけれども、法務省といういかめしい役所の中で、サービス部門はこの登記所関係一つだけではないかと思いますので、国民から不満の出ないように、ぜひ今後もそういう努力をしていただきたい。 ただ、いま日本橋出張所の例をおあげになりまして、事務の停滞が非常に少なくなったとおっしゃいましたが、私の経験するところでも、たとえば三月の各会社の決算期における場合の商業登記の事務、あるいは年末の十二月の不動産登記関係の事務は非常に停滞をして、実際迷惑をしておる国民が非常に多いと思いますが、こういう時期的に見て繁忙期に対する対策をいまから考えてもらいたいと思いますが、何かお考えはございませんか。
○新谷政府委員 確かに、年末あるいは会社の決算期の直前になりますと、登記所の窓口が非常に忙しくなってまいります。法務局側もこれに対処いたしますためにいろいろの方策を考えております。常時各登記所の実情を管理者のほうでながめておりまして、そういった繁忙期になりますと、法務局の庶務、会計等の管理面の職員を臨時に動員いたしまして手薄なところをカバーするとか、あるいは賃金職員を臨時に入れまして、軽微な仕事はそのほうでやっていただくというふうな対策を講じながらやっておるわけでございます。これは確かに定員の増加ということでやりますにはちょっと不向きな問題でございまして、年間を通じて同じような件数が出るのではございませんで、山というものがございます。それに対処するためになるべく人員の配置も機動的に動けるようなものにしたいということも最近考えておりまして、予算の要求の面でもそういうものをひとつやってみようかというような試みも実はあるわけでございます。超過勤務手当の特別増額とか、いろいろほかの措置も考えなければなりません。これもまたいろいろの事情を勘案いたしまして、できるだけそういう繁忙期に登記所のほうが困らないように、ひいては国民に御迷惑がかからないようにという配慮を十分やってみたいと考えております。
○岡沢委員 最後に、たとえば人口の都市集中その他で、登記所の出張所につきましても、各出張所ごとに、事務の非常にふえたところ、それほどふえていないところ等がかなりあると私は思うのです。統廃合の問題も含めて、監獄法ではございませんけれども、明治時代の出張所がただ従来のいきさつから取り残されておる一方で、非常に事務繁忙な法務局がそれほど充実してないということのないように、そういう面での御配慮もぜひお願いいたしたい。 最後に一つ。これだけ事務がふえましたけれども、その事務のふえた理由は大体どういうところにあるのか、それをお伺いしたい。
○新谷政府委員 お答が逆になりますが、事務の増加の原因からまず申し上げます。 これは実は、私どもも的確な原因が把握しにくいわけでございますが、一言で申し上げますれば、最近における経済活動が、非常に活発になってきたということが一つでございます。御承知のように、商業登記の場合には、会社の代表者の資格証明書がいろいろな方面に利用されます。経済活動が活発になるに従いまして、一般の取引あるいは金融抵当の設定、そういったものに、不動産登記ではなくて、商業登記が非常に利用されるわけです。さらに最近の公共事業の拡大、不動産取引の活発化、こういうことがまた大きな原因をなしていることであろうと思うのであります。 さらに、具体的に申し上げますと、都市計画とかあるいは土地改良、さらに道路の建設、鉄道の建設、ダムの建設、そういったもろもろの事業が随所に行なわれますので、非常にたくさんの筆数の不動産登記等が行なわれ、さらに住宅団地、工業団地というふうなものも相当大規模に行なわれております。こういったことが登記事件の増加の原因をなしているのではないかと考えるわけでございます。 さらに、私どもも気がつかなかったのでございますけれども、聞くところによりますと、たとえば自動車の免許を受けるというふうな場合に、これがまた非常に登記に影響があるようでございます。これは会社の関係の登記簿の登記抄本さらに不動産の登記簿の抄本、こういったものを随所に提出せなければならぬということになっております。自動車の台数がふえている、したがって思いがけないところから仕事がふえていくというふうなことも一因をなしているのではないかというふうに考えております。 次は、統廃合でございますが、これは御指摘のように明治年間の登記所というものが放置されまして、おおむねそのままの状況で現在に至っておるわけでございます。庁舎は老朽化いたしておりますし、仕事は非常にふえてきておる。ことに登記所の構成員は、少ないところは職員一人でございます。原則として二人あるいは三人というのが多くございまして、そういう機構になっておりますと、これからの事務の増加に対処し得るだけの力がどうしても出てこない。登記所の事務を能率化して、国民にサービスを十分にいたしたいと思いましても、職員がそういう状況でございますので、どうしても不十分な点が出るわけであります。そこで、現在の登記所を統合いたしまして、これには経済事情あるいは社会事情、交通事情、管轄面積、いろいろの要素を勘案して考えなければなりませんが、統合してもっと規模の大きな登記所にして能率もあげ、さらに国民に対しても十分サービスができるようなものにしたらいかがかということを考えまして、先年来この登記所の統廃合ということを実施してまいったわけであります。しかし、これにつきましては、地元の公共団体等におきまして、非常に強い反対を表明される向きも中にはございます。そこで、法務省としましては、これを無理に強行するということは思わしくないだろうと思いまして、公共団体の同意を得られるものについては、できるだけ統廃合をやっていこうという態度でやってまいったわけであります。遺憾ながら多くの公共団体におきまして反対されるということがございまして、思うにまかせないという状況下にございます。ところが、先年臨時行政調査会の答申が出まして、これによりますと、現在の登記所の一人庁を廃止すべきであるという結論が出されておるのでございます。これはいま私ども申し上げましたような観点から検討された結果、そういう結論になったと思うのでありますが、片方では実際問題として非常に困難である、片方ではそういう積極的に統廃合を推進すべきだという答申がございますために、法務省といたしましても実は非常な困難に逢着したわけでございます。 そこで、最近のいろいろの社会事情の変化、経済事情の変化もございますので、場当たり的に統廃合を実施するということもわれわれとしては反省してみなければならない、むしろ将来の法務局の組織のあり方というものを抜本的に考え直してみて、あるべき姿というものを一応描いてみようじゃないかということから、基本構想の検討に実は取りかかっておるわけでございます。これが実現しますかどうか、まだ相当先のことであろうと思いますけれども、ともかく法務省といたしまして登記所の将来のあり方というものをもう一度この際振り返ってみて反省し、十分検討した上で、その方針の上に立って処理していこう、こういう考えで現在やっているわけでございます。その間、いろいろ政治問題もありましたので、昭和四十年の一月事務次官の通達によりまして、従来進行しておりました統廃合の案件については一応見合わせておく、新しい観点に立って基本構想ができ上がった上で将来どうすべきかということを考え直していく、こういう考えでそのような通達を出されて現在に至っているわけでございます。現在におきましても、公共団体、市町村の合併によりまして、市町村の役場そのものが一つに統合されるところがたくさんございます。市町村役場と比べますと、登記所のほうが国民の利用度ははるかに少ないわけでありまして、市町村役場が統合できるのであれば登記所も当然統合していいのではないかと考えられますけれども、やはり公共団体の立場になりますと——登記所ということになりますと、国の機関と公共団体の機関の違いもありまして、必ずしもそう容易には解決できないのではないか。しかし、中には統合に賛意をあらわされる向きもございます。そういうものにつきましては差しつかえない限り統合を実施したい、こういう方針でございます。
○岡沢委員 この登記所というものは、国民経済の権利関係に直接響くきわめて正確性を要求される事務でもありますし、先ほどお聞かせいただきましたような、事件に比べて人員が非常に少ない、万一にもそういう理由のために事故が起こることのないように、予算の面でも、先ほどおっしゃいました仕事の能率化、適正化の面でも御努力いただきたいということをお願いして質問を終わります。
○大坪委員長 次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。 午後零時十八分散会