法務委員会 第8号
- 発言数
- 123 件
- 登壇者
- 10 名
- 会派数
- 2
- 開催日
- 1967/05/12
会議録
○大坪委員長 これより会議を開きます。 裁判所の司法行政に関する件、法務行政及び検察行政に関する件並びに人権擁護に関する件について調査を進めます。 質疑の申し出がありますので、これを許します。森田重次郎君。
○森田委員 きょうは私、三つの質問をいたしたいと考えております。一つは監獄法改正の問題、第二は刑法改正の問題、第三番目は刑事訴訟法の上告理由が狭過ぎるじゃないか、どうしてこう狭くしなければならないのかというようなことを中心とした質問をいたしたいと、こう考えているわけでございます。実は私はぜひ大臣が御出席を願って、ただ質問のための質問ということでなく、どうして一体こういう重要な問題について法務当局がこれを促進させないのか。私も多年在野法曹の一人としてまいった者でありまして、こういう問題についてはひとつ積極的に司法行政に携わっている方面から具体的な案を出して、そして法の改正をしなければならないものだ、こう考えているわけですが、何としても時間をかけ過ぎる。悪口を言えば、少し責任がなさ過ぎるというような感がするのであって、大臣に私はそういう意味でひとつぜひ、ただここで問答をかわしたというようなことで満足するようなことでなく、思い切った進捗をさせてほしい、その口火を切るつもりできようは実は質問申し上げるのでありまして、いたずらに理論のもてあそびをするというつもりはないのであります。政務次官、ひとつぜひこれをもとにして促進方について特に省内でも御相談なさって、これが実現をはかってもらいたい、こういう目的できょうは質問するのでありますから、よろしくひとつお願い申し上げます。いずれ大臣があとで出席するそうでありますから、総括的にはまた申し上げるつもりでありますが、質問の動機について以上申し上げておきます。 最初に、この監獄法の改正の問題を質問してみたいと思います。 いま監獄法という法律を広げてみますと、明治四十一年の三月二十八日に施行されている、明治四十一年というと、これはずいぶん早いことなのであります。その間泉二先生の刑法理論とか、あるいは牧野先生の刑法理論とかということで、刑の目的その他については非常に大きい変遷があったはずでございます。ところが、この四十一年の監獄法を読んでみますと、刑の目的をどこに置いて、監獄というものは一体何の目的でつくっているものであるか、そして積極的に刑法の目的に合うような人格転換が行なわるる場所としての取り扱い方等については、何ら触れているところがない。ただ監獄につとめている役人があやまちなく刑の執行さえしていればそれで無事なんだというようなことの事務規定をやっているにすぎないのではないかと思うのです。こんなことで刑の執行をやっていて、国家全体の上から見て、刑法本来の目的がはたして実現されるのかということが疑わしい立法なのであります。第一、この目的は何かということの規定も何にもない。ぶっつけ第一条から「監獄ハ之ヲ左ノ四種トス」というような規定になっている。それからあとは作業がどうとか云々がある。それから第六十条を見ますと「懲罰ハ左ノ如シ」として、監獄の中へ入れておいて、さらにもう一ぺん処罰を加える、こういうのだ。実務に携ってみればそういう規定も必要かもしれませんけれども、これはどう考えても、つまり二重に処罰するというものの考え方なのです。監獄へ入れていることそれ自体が一つの大きい拘禁でありますから、それで参っているのに、それでもだめならばもっとやるぞという罰則規定までこしらえているというようなことで、一体こんな扱い方をしていって、人間が社会復帰できるような目的を達することができるかという非常に大きい疑いを持たせられるわけであります。これはもうずっと前に改正してもらわなければならなかったはずなわけであります。そこで、当局においてはこれを改正する試みが一体あるのかどうか。また、それについて準備ができているのかどうか。この点についてお伺いしておきたい。
○勝尾政府委員 ただいまお話のございましたように、現行の監獄法は明治四十一年三月二十八日に、現在の刑法の施行と同時に施行されているものでございます。条文を見ましてもいわゆるかたかなであり、文語体で、そのほかにただいま御指摘のありましたように、きわめて抽象的、観念的で、いわば無味乾燥といった感想を抱かれるのも私はごもっともなことと存じます。 ところで、御指摘のありました監獄法の改正の問題でございますが、私自身、最近の世界の行刑思潮の進展と、それに伴っての各国のいわゆる監獄法の改正の状況を見ておりますと、わが国の現在の監獄法につきましても、一日も早く、できるところからだけでも私はいいかと思いますが、ぜひこの監獄法の改正について具体的にスピードを早めたい、このように考えております。それに関連する資料につきましては、すでに大正十一年以来、行刑制度調査委員会あるいは監獄法改正調査委員会あるいは刑務法案調査委員会といったようないろいろな委員会ができまして、その当時における世界各国の行刑思潮を取り入れたいろいろな案を検討いたしておるところでございます。そういう資料が整っているところでございますので、現在それらの資料を取り急いで取りまとめまして、できるものからでも場合によってはやむを得ないと思いますので、一日も早くこの監獄法の改正を進めるという決意で、現在鋭意作業を急いでおります。 どういう方向で改正をするかという、いわゆる監獄法の全面改正でいくのか、あるいは一部改正を積み重ねていって、全面改正という結果を来たすようにするかといったような技術的な問題につきまして、できるならばここ半年くらいの間にめどをつけて作業をさらに一段と進めたい、このように考えております。
○森田委員 私実はこれはもうとうに刑務所法という名になっているのかと思って調べてみたら、われわれがいまだれも使わない、使うことをいやがっている監獄そのまま、監獄法という名でやっているのですが、こういうところにもうすでに時代おくれだというそしりを免れないと私は思うのですが、しかしそれは名の問題でありますから、むろんこれは変わるだろうと思います。思いますが一番大事な問題は、改正の刑務所法の目的、これは一体どんな方向にお調べになっておいでになるか、改正の内容が大体できているとおっしゃるのでありますから、大体の要点だけをお伺いしたい。
○勝尾政府委員 御指摘のように、監獄という名前は、あるいは名前だけの問題かとも考えられるかもしれませんが、私自身は、やはりこういう名前は一日も早く改正すべきだと思っております。 監獄法改正の方向でございますが、目的といたしましてはいわゆる罪を犯した人で、拘禁の言い渡しを受けた者を、一日も早く社会に更生復帰させるというのが最大眼目でございます。その最大眼目を達成する方法といたしましては、これは最近の世界的な方向でもございますが、いわゆる監獄的な待遇と申しますか、応報的な刑罰ということよりも、やはり人間愛的な気持ちを持って、当該人間の長所をできるだけ生かして社会復帰を推し進める、こういう大眼目で方針が貫かれております。 そういう方針のもとでどういう具体的な方法が考えられるかと申しますと、たとえばまじめにつとめている者については、短期間といえ家に帰ることを許す、いわゆる帰休制度といったようなこと、あるいは刑務所の中で仕事をさせるというのではなしに、一般社会の工場なり、あるいはそういったところへ通動的に通わせて、そこで仕事をさせるといったような方法を取り入れたいという考え方で検討を進めております。
○森田委員 いまの御答弁で目的がそう制定されるということになりますれば、私ども全然同感でございます。そういうふうにひとつお願いしたい。ただ、社会復帰の方法論の問題なんですが、いまのように外で労働させるとかなんとかというような一つの外にあらわれた行動、こういうようなものは、私らもあえて反対するものではありませんが、これは相当徹底した教育主義をとってもらわなければならないだろう、こう私は思うのですが、一面膺懲するという意味もありましょうから、肉体的苦痛によって人格転換を行なうというようなことも、一応考えられると思います。しかし、やはり根本は何としても愛のこもる教育で、不遇なつまり性格破産者が多いわけでありますから、これの人格転換を行なわれるような方向へ持っていくという意味では、徹底的教育刑主義でやるのがほんとうじゃないかと私は思うのですが、その辺は改正監獄法の中でどんなふうに取り扱われておりますか。
○勝尾政府委員 御指摘の点につきましてはお話もございましたように、収容者の中にはいわゆる精神的あるいは肉体的な欠陥の多い者が多いわけでございます。ですから、それらに接するには、やはり愛の心がなければこの仕事はできないと私自身も確信いたしております。そういう意味におきまして、こういう新しい方法を推し進める上において最も必要なのは、法律の上においてもそういう基本的な心がまえを明らかにして、それを実際に推し進めていく職員に徹底をさしていくと同時に、職員の質の向上ということが非常に大きな要素になるということが、各国で新しい制度を取り入れている当局者が言っているところでございますので、私のほうもそれらをぜひ参考にしてこの作業を進めていきたい、このように考えております。
○森田委員 そこで、まず人間の転換の問題でありますから、何といたしましても個人的主観の問題を精練するということが一番大事になる。その根底をなすものはやはり宗教だろうと思う。ところがいままでの刑務所で取り扱っている実情を見るというと、おもに浄土教の和尚さんが行ってやるというようなことなのですが、私はそこまでは調べておりませんが、しかし、信仰は自由でありますから、またその人、人の個性によって、それぞれ同じ仏教であってもいろいろの派があって、その派に属する人々がいるわけでありますから、それに相応するような形の信念を啓培するというような処遇をする必要があるのじゃないか、こう思っていますが、いまの取り扱い方はそういう方向へ行っておるかどうかということと、将来はいま申し上げた私の意見に対して、この改正法ではどういうふうに取り扱う方向になっているか、その点をひとつ。
○勝尾政府委員 御指摘のように、この種の仕事はやはり宗教的な信念と申しますか、宗教的な情操と、それから人間愛が根底にならないと効果のあがらない仕事だと考えております。その面につきましては、現在御承知のように宗教教戒師あるいは特殊面接員といった、いわゆる一般社会の方々の御協力を願っているわけでございますが、こういった特殊面接員制度あるいは宗教教戒制度といったものを、何らかの形で法的な根拠を付与すると申しますか、できるならば条文の中にそういった処遇の根拠的なものを置いて、きっちりした形で効果のあがるような運営をはかりたい、このような方向で考えております。
○森田委員 その方向は、ひとつそんなふうに持っていっていただきたいですが、次に職業教育の問題です。これは要するにいま若い連中が刑務所につながれているが、定職を持っていない者が大体多い。浮浪性を持っている者、なかなかまた定着しないというところに問題がある。そこで、刑務所の中で徹底的な職業教育をやるのだということで、一つの授産場的なものでそれぞれの個性に応じた私は施設をして、社会へ出たら刑務所で習ったもので生きていけるのだという、こういうふうな素地を与えるところへ持っていっていいじゃないか。つまり一つの学校ですね、性格が非常にあたりまえでない者なんだが、職業を身につけることによって、やはり一つの安定性が出てくるわけでありますから、こういう方向へ私は徹底的に持っていったらいいじゃないか、こう考えるのですが、この辺は今度の改正の方向の内容に取り入れられているのかどうか、この辺ひとつ。
○勝尾政府委員 いわゆる刑務作業の持っていき方でございますが、この点につきましてはただいま御指摘がありましたように、できるだけ収容者の中から適格者を科学的に分類いたしまして、それぞれに応じた職業訓練を十分に施して、釈放になった暁にはそれらが活用される方向に持っていくというのが基本的な考え方でございます。したがいまして職業訓練を推し進めていく上においてまず前提となりますのは、この収容者はどういう職業に向くか、この収容者はどういう特性があるかという分類的な方法、これのまず強化をはかる。その分類によって分類されたものに対して漫然と職業訓練を施すというのではなしに、やはり刑務所をある程度個別化していきまして、ここではこういう職業訓練を徹底していく、ここではこういう職業訓練を徹底していくといったような方法を取り入れていきたい、このように考えておりまおります。
○森田委員 いまの御答弁だと、何か中へ入っている人から適当な指導者を選んでいくというふううにも受け取れたのですが、そうなんですか。
○勝尾政府委員 収容者の中に、やはり知能の問題あるいは肉体的な条件、千差万別でございますので、一律にどの人間も漫然とある職業訓練をするというのでは、効果があがらないだろうと思いますので、収容者の適性を見分けていきまして、その適性に応じた職業訓練を重点的に行なっていく、こういう趣旨で申し上げたのでございます。
○森田委員 そこが私と若干見解を異にするのですが、そうではなく、一つの学校と見る気持ちで、思い切った、国家の施設においてこれらの人を処遇していく。今日社会保障制度で、いろいろの方面であなた、金をかけているでしょう。それを、あまり金がかかると思うから、その中にいる者を無給で使用して先生にしようというのは、そんな消極的なことだと私の気持ちに合わないのです。身体不自由者、そのほか精神上の変な者とかに対して、これはずいぶん金をかけているのですよ。そうなんですから、私はやはりそうではなく、いままでのような、たたいて直そうとか、それから監督、監視していていじめてなおそうとか、ヒステリーなおかあさんが子供をいじめるみたようなことでやったって、一ぺんあの中へ入った者は直りっこないのですよ。だから思い切った方法を、職業教育のようなものをやれ。しかし、それで全部が直るとは考えないが、少なくともそれほどの方向へ、これを思い切って持っていく時代が来ているのじゃないか。これは一つの社会保障ですよ。われわれは残念ながら妙な精神上のあやまちなどから、性格上の破綻のある者とか、とにかく正当に社会に適応できない人々がそこへ入るのでありますから、これは相当の金をかけていい方向へ持っていかなければならない。そこが私は改正のめどでなければならないと考えるので、いまあなたのおっしゃるような消極的な、あの範囲内において何とかいこうというようなお考えだと、私は時代の要請には合わないように考えるのですが、これは大臣ひとつ御答弁願いたい。
○田中国務大臣 先生の御主張になる教育制、教育刑主義を徹底いたしますことは、同時に社会的責任論にもつながるわけでございます。そういう立場から申しますと、幾らか主観主義に傾き過ぎる傾向がないとは言えないのでありますけれども、社会的責任論にもつながることでありますから、これはやはり将来の行刑としては、極力教育刑主義にのっとって、ひとつ職業訓練もさようでございますが、職業以外の問題につきましても、精神的には少なくとも教育をしていくのだ、そうしてよい社会人として犯人が社会に復帰をしてもらうことを目的とする、そういう目的刑主義で貫くんだという考え方を持っていくことは、まことに私は時宜を得た考え方であると考えております。したがって、監獄法を改正いたします場合にはそういう方向を極力改正の中に貫いていきたい、こういうふうに考える次第でございます。
○森田委員 それはぜひひとつそういう方針で改正してもらいたいと思いますが、次の問題は、刑に服している者の労働の場所、これはやはりあたりまえのその人に適する労働の場所を私は与える。それからそこからあがった収入は全部その人に帰す。そうしてある程度刑に服していると、それが貯金になって残ると思う。それで社会に復帰するときにはそれを資本にして生きていけるのだということに持っていくのが私はきわめて大事なように思う。今日一定の刑期が来た、それですぐ釈放するでしょう。職はありません。あちこちへ行ったって前科者だといえばだれも使ってくれるものはありはしません。すぐまたどこかへ行って盗んで、それでまたすぐひっくくってくる。これが相当数が多いと思う。これの累犯ということになると思う。一体何のために刑罰を科すのかわからない。社会復帰が目的なら、この方々が釈放されたら社会に根を置くということでなければ意味がないはずなんです。根を置くには資金がなければならぬ。雇うてくれる人がなければならぬ。だから私はやはり二年なり三年なり教育刑で入っているときには、ほんとうにその人をあの中で保育してワクの中へ入れながら、これに賃金を取らせるようなあたりまえの職業みたような待遇を与えて、それを貯金させておいて、そうして社会に出たらすぐ自活、自立ができるのだ、そんなふうに私は持っていく必要がある。それがほんとうの教育刑主義に徹底した姿じゃないかと思いますので、私はもういまのように累犯がどんどん出てくると、また累犯加重をされて、また重い罪を科す、そんなことをやったって人格転換は絶対行なわれませんよ。もうたいていこの辺でわれわれは、刑の目的に対して猛反省をしなければならない時期に私は到達しているのじゃあるまいかと思う。こんなふうに考えるのですが、この辺に対して改正監獄法の中ではどう盛られているか、また同時に大臣からひとつ私のいま申し上げたようなことがぜひ取り上げられるようにしてもらいたいということをお願いして、大臣の意見もあわせて伺いたい。
○勝尾政府委員 御指摘の点は、いわゆる刑務作業に対して賃金制を採用するかしないかという問題でございまして、これは率直に申し上げまして、監獄法改正の中での一つの大きな重点的な論争点になっているところでございます。私といたしましてはこの賃金制を採用していくにあたりましては、ただいまお話の中にも若干触れられたかと思いますが、刑務作業の独立採算制といったような問題もからんでまいりますし、あるいは刑務作業のある割合の事業を確保していくための手段を、一方において何らか講ずるといったような、いろいろ困難な問題もからんでくるのでございますが、方向といたしましては、賃金制を取り入れていくという方向が、現在の世界の行刑思潮でもあるように私は考えておりますので、現時点においては、なおにわかに結論が出ていない状況でございますけれども、私自身といたしましては、できるだけそれから生ずる困難点に対する対策を講じながら、賃金制を採用していく方向で作業のほうの議論を取りまとめていってみたい、このように考えています。
○田中国務大臣 目的刑とは、申し上げるまでもなく犯罪を予防するために刑罰を科する。同時に、それだけではなしに、もう一つの目的は、犯人の性格を矯正して、一日も早く社会的に復帰せしめるということを目的にする、その二つの目的という意味での目的刑主義というものは、いま局長が御説明を申し上げましたように、近代国家の刑政に採用しております不動の主義でございます。そういう趣旨から申しますと、いま先生仰せになるように、収容をいたしました人々、その人々に賃金制を採用して、将来、出所をいたしまして社会復帰をいたしましたときに、その助けの一つとなるようにその賃金をたくわえておくということを徹底していくということは、決して間違ったやり方ではないのであります。欧米ではそういう新しい方向にいっております国家も多数出てきておるわけでございますから、そういう方向を徹底していくように、今度の改正の具体的な案を練っていきます上に資料といたしたいと考えております。
○森田委員 そこで、次に、いまの刑務所に働いておる職員の待遇の問題についてお伺いしたい。 私、地方に参りますと、二、三の刑務所に行っていろいろ調査してみたのですけれども、どうもほかの一般の職員と比べて、刑務所の職員の待遇が何か劣っているんじゃないかと思われる節があるのですが、この辺に対して、どんなふうになっていますか。
○田中国務大臣 先生御承知でございましょうが、現在、刑務職員の俸給でございますが、これは公安職一号表を適用しておる。公安職の一号といっておりますが、公安職一号の俸給表を適用しておりますのが現状でございます。その結果は普通一般の役人と比較いたしますと、一割二分程度基本給において増となっております。一割二分優遇をしておるわけでございます。一割二分高うございます。そういうことでございますが、しかし、お説のごとき重要な——これから先は教育刑、目的刑を主義として刑務所の運営を行なうんだ、それが刑政の眼目になるんだなどということになってまいりますと、それをよく消化、理解をいたしまして、囚人を社会復帰に適するように教育をしていくという重要な任務に携わることになってまいりますので、そういう点から申しますと、現在の一般職と比べまして、わずか一割二分増の俸給というだけではもの足らぬのではなかろうか、さらにこれを優遇する道を考えなければならぬと、こういうふうに考えて、これは中垣法相時代から特に力が入りまして、刑務所の職員の優遇ということに対しては、予算折衝の上でもずいぶんの努力をいたしてきておるわけでございます。漸次よくなる傾向にはなっておりますが、さらにこの給与の点につきましても十分ひとつ検討をいたしまして、苦心をしていきたい、こう考えます。
○森田委員 その点はこの程度にいたしておきますが、それはおそらく本俸のお話だろうと思うのです。しかし、その他の諸給与というようなものをまとめると、ほかの方々よりも劣っているように私の調査ではなっておったのですが、その辺は局長、どうなっておりますか。
○勝尾政府委員 現在の刑務職員の現実に受け取る本俸、あるいは超過勤務手当、あるいは特殊な手当といったようなものの数字的な金額というものを、他と比較した場合にどうかという点につきましては、必ずしも劣っているとは言い切れない面があるように私は思うのでございます。ただ私自身は、刑務所の職員の勤務というのが、昼間いわゆる壁の中で孤独的な勤務をやるわけでございます。俗に言えば、いわゆる暗い勤務でございます。また勤務時間が終わりまして、帰りましても、これは直ちに自分の宿舎に帰るというふうなことで、刑務所の職員の生活というものは、ともすれば明るさというようなものが失われがちなんじゃなかろうか。この勤務の性格というものが、非常に重要ではあるが、非常に重苦しい勤務である、そういう勤務の性格に照らし合わせて、現在の諸手当、諸給与が十分かといえば、私は不十分である、このように申し上げたいのでございます。たとえば職員一人で五十人程度の工場の監視をやっているわけでございます。一人で、いろいろな凶器になり得る道具を使っての工場の勤務、これは精神的に非常に重圧があるわけでございます。こういう工場担当の者の監視に対する特別手当、あるいは一人で何十人という舎房の勤務をしておる者に対する手当、そういった職務の性格に見合う特殊手当といったようなものについては、私はぜひ獲得すべきである、また獲得いたしたいということで、関係機関と鋭意現在も折衝を続けておるというのが現状でございます。
○森田委員 そういうような方向にぜひ持っていっていただきたいと思います。 そこで、私、先ほど来教育刑主義を中心とした——そう理想的にはかりいかないから、こういう問題が起こりますので、そう片寄った考えを持っているわけではありませんが、しかし、本来の目的をそこに置くという主義でいくということになると、この刑務所の職員の持っている人間的な修練ということがまず基本になる。ただビジネスとしてこれを預かったのではうまくいかないことは、これはあたりまえなんです。ところがいまの監獄法なんかを見ると、まるでビジネスなんです。それを間違いなくやっていけばいいのだということになり、あるいは優遇の方法等も、間違いさえなければ立身するのだというようなことでおそらくこれはいっておるのじゃないかと思う。そんなことでは、とてもわれわれが先ほどから議論いたしておるような目的を達成することは困難なんです。そこで私は、刑務所につとめる職員の教育の問題、採用の基準の問題、それについて大きい転換をしなければいかぬのじゃないか、こう思うのです。これに対して、一体改正法律の中ではどんなような取り扱いを与えようとしているのであるか。私は、特にこれが基本ですから、人格がしっかりしておって、先ほどあなたがおっしゃったように、したがって、待遇もほかの者よりも非常に困難ななにですから、優遇するというようなことで人材を吸収するのでなければ、これはなかなか法律で目的を書いたり、方法論を示唆してみたところで、やる者は人間ですから、そこが重要なポイントになるのじゃないか、こう思うのですが、これに対して、ひとつ大臣の御所見を承りたい。
○田中国務大臣 結論を申し上げますと、現在やっております刑務官の研修制度を、拡充かつ強化したいと考えておるのであります。先生仰せのように、いまは、刑務官として就任をいたします前後の研修に力が入っております。そうでなくて、やはり一定の期間——ちょうと自動車の整備をするような姿がよかろうと思うのです。一定の期間を経ると、第一の研修から今度は第二次研修を受ける。また一定の年限が来ると第三次研修を受ける。階級によりましても、勤務の時間的経過によりましても研修を重ねていく、こういうことで刑務官の人柄を、人格の陶冶ができますように、研修制度というものに予算をかけまして、そしてこれを拡充強化をいたしまして、御要望に沿うような、まず刑務官の教育からこれを充実していかなければならぬ、こういうふうに考えておるわけであります。そういうふうにいたしますについても、重要なことは、いま局長から申し上げましたように、その給与の形式はさほど劣っていないのでございます。しかしながら劣っておるように見えますのは、どこが見えるのかというと、労務が過重なんです。勤務が過重でございます。それは一口に申しますと、頭数が足らないということでございます。したがって、本年の予算折衝におきましても、とりあえず、金銭的諸手当の優遇ということも大事なことであるが、とにかく頭数をふやせということに力を入れて、ある程度の成果を得たわけであります。今後いたします努力は、頭数をふやすことにしっかり努力をいたしまして、そして研修に時間をかけて、研修を強化をしていくという方向で人格の陶冶をやっていきたい、こういうふうに考えております。
○森田委員 これはぜひひとつそれを実現してほしいと思います。 そこで結論になりますが、大臣も在野時代は弁護士をなさっておいでですからよくおわかりになっておいでになると思いますが、起訴されるということだけでも、あるいは警察に取り調べを受くるということだけでも予防になることは明らかであります。しかしわれわれの最も心配することは、青年あるいは中年、これの累犯加重の傾向でございます。累犯がどんどん起こっている。そうすると私は、裁判所も弁護士も検事も、何か結果的に見ると犯人のためにもてあそばれているもののような感がしてならないのです。起訴をする。弁護士は刑をなるべく低くしてもらいたいと言う。裁判所は、まあ手ごろなところで妥協して刑務所へ送る。出てくる。また同じことをやって、起訴する。また同じことを弁護する。そうして裁判する。これがぐるぐるやられているのでは重々矛盾でありまして、一体どこで中断されて人格転換が行なわれるかということ、いまの刑法なり刑事訴訟法なり監獄法なり、これが早くいま申し上げたような方法で、少なくも刑の執行をしている刑務所で人格転換が行なわれるように——これはこいねがおうといっても、それで満点になるわけでないことは、われわれだってよくわかっているところでありますが、そうしてもらわなければならない。したがって、この刑務所法改正ということが非常に大事なものであるにかかわらず、今日まで依然として明治四十年につくったものを漫然とやっておったということ、そうして学者はただ刑法理論で、やれ教育刑主義がどうだ、応報主義がどうだという議論ばかり繰り返している。実効的には一つも実現されていない。これを法務省が今日まで放置していたということは、私は法務省の非常に大きい怠慢だと実は考える。せっかくいまの矯正局長の御答弁だと具体案もできていると、こう言う。これをなぜ早く提案して実施に移さないのか、この理由をお伺いしたい。
○田中国務大臣 これは、せっかくの熱意のある御意見でございますからありのままに申し上げますと、実は刑法の改正とそりを合わす必要があるわけでございます。現在の刑法は、御承知のごとくすでに制定をせられてから六十年を経過している。これを全面的改正をするために、現在は審議会の審議に付しまして、実に熱心に数百回に及ぶ会議を重ねまして四年間にわたってやっておる。これも中垣法相時代に審議会に諮問をされて今日に及んでおるわけでございます。そこで先生、これがあと何年にして結論を得るか。そう長いことではないと思いますが、まだ二、三年を要するものではなかろうかと想定をいたします。この刑法の改正の方向は大変革でございます。近代国家の採用いたします刑罰法規の基本法、基礎法ともいうべきこの刑法が、大変革の大改正が行なわれるという内容のものでございます。その大体の改正の方向というものがまとまりかけておるというのが現段階でございます。どういう方向に改正の方針がまとまるかということによって、監獄法の改正内容というものが線が合ってこなければならない。こういう次第でございますので、一口に申しますと、刑法の全面的改正の時間待ち、その準備の時間待ちというところがほんとの真相であると御承知いただいて間違いはないのでございます。しかしながら、先ほどから私が申しておりますように、大体の傾向はもう見定めがついたと見てよろしゅうございます。これからは技術的面においてどうまとめていくかということが刑法においては残っておるのでございますから、この程度から監獄法についても具体的な作業に入るべきものである、こう考えましてこれを推進していきたいと思うのでございます。 監獄法につきましては、終戦直後の二十二年に改正調査委員会というものを設けたことは御承知のとおりでございます。これは大臣みずからがその会長となって操作をいたしまして、すでに仮案ができておる。それから昭和三十二年には矯正局内に同様の準備機関が設けられて、昭和二十三年にも矯正局内に草案を準備いたしますものができまして、その結果は、仮案ができて、仮案の理由書までできておりますということが現段階でございます。準備はできておる。できておりますが、これを法案としてつくり上げてまいりますには、刑法の全面的改正の方向がどう定まるかということの見通しをつけなければならない。もうこの段階においては刑法の改正も、それから監獄法の改正も、時を同じゅうして並行して審議を進めましてよろしい段階にきたものと新しく認識をするわけでございます。私就任以来そういう考え方でいままでの経過を見てまいりましたので、本日御熱意のある示唆をいろいろいただきましたことを契機といたしまして、あらためてひとつ省議を開きまして、そして省内の意見の統一をはかりますと同時に、監獄法の改正に関しても、刑法の全面的改正の作業とそりを合わせながら、この改正準備を取り急ぐように処置をいたしたいと存じます。
○森田委員 一つの御意見としてお伺いいたしますが、もっとものように聞こえるのです。もっとものように聞こえるのですが、一体刑法の改正をしなければ監獄法の改正ができないのだというほど、必然的な何か不可分のものがあるかないか私は問題だと思うのです。先ほど矯正局長の御答弁を聞いておりますと、部分的にでもできるだけ先ほど来の議論したような線に沿うて実行したい。刑法の改正をやられてからあなた御存じのとおり四十七年かかっていますよ。四十七年かかってまだ結論が出ないで、そしてまたこれから何年かかるかわからない。その間そうするといままでの人はどうなるのですか。現在生きている人間は一体どうなるのですか。そんなことでは法務省の責任を果したものだとは私は考えられない。やはりどうしても刑法のあれがきまらなければ監獄法の改正もこの点で行き詰まるのだという何かほんとに矛盾したようなことだったり何かするというのはそう数多くないと私は思うのです。それはあとでやればいいじゃないですか。ともかくとりあえず矯正局長の手元で案ができているというのですから、それはそれで出されたらどうですか。そして刑法を改正して、それでまた矛盾する場面が出てきたら、そのときに改正法案を出せばいいのです、部分的な改正法案を出せるのですから。これではまるで現代の人は四十一年の監獄法で処遇を受けて、われわれ生きているうちにどうなるかわかりゃしない。こういうふうなところに、私は法務省の少しマンマンデーがあるような気持ちがしてしょうがないのですがね。どうなんですか。
○田中国務大臣 おことばごもっともですが、そう先生、簡単にもいかぬのです。それはそうはいかぬ。たとえば死刑廃止の問題にいたしましても、死刑を廃止すべきか、存置すべきか、存置するならば、どういう範囲で存置すべきかという問題をめぐりましても、監獄法と不即不離の関係があるわけです。それから近代刑法、近代国家の刑政がとっております主義の中には、いわゆる保護処分というものを新たに強化をする処置をしていこうということは、もう世界的な傾向でございます。それについても、刑法につきましては、案はできております。その案が、現在の案のごとくにはたして実現をされるものとするならば、これはもう監獄法に大影響のあるものであります。かりにここで急いで監獄法を一足お先に改正をしたとするならば、第二次改正をさらにやらなければならぬという事態が起こる。それは法務省だけでやるものならば、すぐやってもいいのです。二度、三度やってもいいのですけれども、国会にかけていたします場合に、刑法の一部改正を出しましても、二度も三度も流産するというのが今日の国会の現状であります。それでありますから、よほどの確信のありますものを出しませんと、何にいたしましても、刑罰法規の根本法、基本法というものをなぶろうというのでありますから、なかなかこれは先生、かけ足で急いでというわけにはいかぬのじゃなかろうか。これは慎重にならざるを得ないのでございます。そういうこともどうぞひとつ御考慮に置いていただきたいと思います。
○森田委員 これは議論になりますから、この程度にしておさめますが、しかし、たとえばいまあなたが引例した死刑廃止の問題なんか、死刑が廃止されたら、死刑執行のところを削除すればいいだけの話で、そんなのは議論にならないと私は思う。しかし、これはちょっとこまか過ぎる議論になりますからあれですが、しかし私は、可能なる線がある、こう思うので、できるだけやっていただきたいという希望を申し上げまして、この質問を打ち切ります。 次に、刑法改正の問題です。 そこで、いまあなたのあれは、刑法を改正すれば監獄法も同時に成案を得て、それと統一のある姿において提案するのだという御意見のようでございます。それはそれでいいと思う。ところが、この刑法改正なるものが、一体どれぐらいの経緯を経たか、あなたおわかりだろうと思いますから、これを簡単に、ひとつ質問の前提として御答弁を願いたい。刑法改正に着手してから今日に至るまで、どんな経緯を経てきているか、これは要点だけでよろしゅうございます。
○田中国務大臣 三十八年、いまから四年前の五月に着手をいたしました。そして直ちに法制審議会を開きまして刑事法特別部会を設置いたしました。そしてその部会を五つの小委員会に分けまして、受け持ちの事項を分担をいたしまして、今日まで数百回にわたって会議を続けておるわけでございます。大体の目安は立ったけれども、具体的な草案をつくるというにはまだ数年を要するものではなかろうか。数年ということばは、まあ早くて二、三年、時間がかかれば四、五年は要するものではなかろうか、こういう段階が現段階でございます。
○森田委員 それでは時間をむだにとることは困るので、私のほうから御説明申し上げます。 現行刑法が明治四十年四月二十四日に出されて、それから改正に着手したのが大正十年、その年の十月に諮問された。これは臨時法制審議会です。それから大正十五年の十月に答申が出ておるわけであります。これは泉二博士が中心になってやられた案でございます。それから同年の六月に成案が得られて、刑法改正予備案というものができて、それを司法省が受けて、刑法並びに監獄法改正調査委員会というものを設置して、これは牧野博士が中心になった。この辺から教育刑主義が盛んに提唱せられた。それが昭和十五年の三月に改正刑法仮案という姿で出てきた。これがさらに引き継がれて、そして改正刑法準備会というものが昭和三十一年十月に設けられて、刑法改正準備会が小野博士を中心にしてやられた。これはむろん仮法案というものを基礎にしてずいぶん御苦心なさって、そして三十五年にあなたのおっしゃるような案ができて、そしてあなたの御答弁になられた経緯を経ている。大正十年から勘定してみますと四十七年かかっていますよ。あなたは、もう少し慎重審議、もう少し慎重審議して——四十七年かかって慎重審議やっていて議論の結論が出ないということは、これは何としたって法務省の責任ですよ。学者の議論や実務家をあわせて議論を戦わしていたら、これは何年かかったって結論が出ませんよ。やはりある時点をつかまえて、そして多数決でいくなり何なりで、そして一定の態度を決定しない限りは、そういい案というものはできるものではありません。学者というものは御存じのとおり、もうこまかいことまで議論していくのですから、できてしまったものはそうたいしたものではない、こう思われても議論がどこまでも尽きない。そこがつまり大臣の力ですよ。あなたのような有力な大臣が、しかも実務もちゃんと御存じの方が、この辺で勇気をふるって促進してもらわなければ……。私はその意味でこの質問をいたしたのです。こんなことでは——私は各省の実情を見ても、法務省ではこういう大きな問題を放てきしていてこまかい法案ばかり出してくる。これは、その意味から考えても、法務省、あまり興味はないのですよ。だから、この辺でもう少し何とか促進してもらわなければいかぬのじゃないか、私は実はこう思うのです。 そこでもう一つ、私ここで議論いたしておきます。それは、昭和三十六年の十二月二十日に刑法改正準備会が発表した改正刑法準備草案というものがあるわけであります。その序文の中に、この大きい問題として残されたものはこれだ、こういうものがあるのです。これは草案として出すのだから、これをもとにしてと、こういうことなのです。その議論の分かれた点がどうなっているかということがここに出ていますが、ちょっと読んでみます。「昨年十月再開された後の会議における再審議によって、総則および各則の全般にわたり修正が施された点が少なくない」「また刑の体系に関する部分、」——ここですね、「とくに懲役と禁固とを単一化するかどうかについては、それが重大かつ本質的な問題であることにかんがみ、長時間にわたってあらゆる観点から討議を行なったが、最後まで意見が対立し、賛否全く相半ばして、ついに一義的な決定をみるにいたらなかった。そこで、二つの案を併せて公表し、今後の決定にゆだねることにした。」こうあるのですよ。この草案ができたときに議論のまとまらなかったものはこれなんですよ。そんならこれを継承した今度の諮問ではこれに対して徹底的な議論をしてこれが解決をすれば、大体前の草案で一応案ができると見ていいのではあるまいか。私はこう考える。それをまた大臣が諮問するものですから新しいメンバーが出てきて、また根から根本的な議論をやられていったならば、これは勝負のつく場所がなくなってしまう。もう勝負をつけなければいけません。大臣が軍配をあげなければ、これは勝負がつきっこないと思うのです。いつまでもにらみあって取り直しばかりやって、呼吸が合わないということでは、これは提案の時期というものが非常に延びる。それでどうですか。四十年につくった刑法でわれわれは律せられているのですよ。時代おくれの刑法で律せられているのですよ。こんなことで、そうしてまだ四年くらいかかるでしょう。何だかお聞きしますと、これからまた四年くらいかかるというお話なんです。そんなことで私はだめだと思う。 そこで、きょうは大臣にぜひひとつ御出席を願って、小野先生にあなたからお話ししてくださるか何かして、これは議会でこういう議論にもなっているから、できるだけ早くひとつ成案を得るようにと言ってもらうんでなければ、これはだらだら四年が五年になり、五年が六年になり、——もう四十七年にもなっているのです。こういうわけでありますから、特にひとつあなたから促進してもらいたいというので、私は質問に立ったのですから、これに対してひとつあなたの所信を……。
○田中国務大臣 貴重な御意見、まことに恐縮に存じます。そこで、もともとこの法制審議会に諮問をいたしますときに、こういう成り行きになりますとの見通しがあった場合は、大体何年何月までに答申をいただきたいという期限を付した諮問のしかたというものもあったわけでございます。しかしながら、これは期限を付して諮問をいたしますには、あまりにも範囲が広く事が深刻なものである、非常に重要なものであるということから、期限を付さないで諮問をいたしました結果が長引いておる。しかし、取り直し、取り直しというおことばがありましたが、そうじゃないので、数百回にわたる審議を重ねまして、その審議の記録だけでもまことに膨大なものなんですね。実に熱心に、深刻に、その重要性にかんがみて審議を重ねていただいておる。非常に犠牲を払って審議会は努力をしてくださっている事情でございます。非常に重要な御発言でございますし、ごもっともなことであると存じますから、私が審議会の会長でもあるわけでございますから、特別部会長を招き、ひとつ懇談をいたしまして、事実上一定の期限をきめまして、その目標をきめまして、この目標までに審議を終了してもらいたいということを、ひとつ口頭をもって懇談的に申し、御趣旨に沿うようにピッチをあげて促進ができるようにいたします。
○森田委員 たいへん明快な御答弁で私は満足をいたします。ぜひひとつその方向で促進していただきたい、こう思います。 そこで、次に刑事訴訟法中の上告理由、私は上告理由が狭過ぎる、こういうことについてぜひこれは改正してもらいたい、こう思うのです。そこでもとの大審院時代の刑事訴訟法の上告の破棄された件数、これは裁判所側でお調べになったものがあるのでしたら、裁判所の方お見えでしたら、ひとつ報告願いたい。
○寺田最高裁判所長官代理者 ただいま森田委員からお話のございました点、裁判所で調べました点について御報告申し上げます。ただ、一言お断わり申し上げなければなりませんのは、これは本来純刑事訴訟法的の面の問題は私どものほうの刑事局長の所管でございますが、本日病気で休んでおりますので制度面としては、私、総務局の所管にもなりますので出てまいった次第でございます。こまかい問題になりました場合には、あるいは刑事局の課長が参っておりますので補足説明を許していただきたいと存じます。 そこで、いまお尋ねのございました大審院の当時の破棄件数及び比率ということでございますが、実は昨日夕刻にちょっと御内意をいただきましてあわてて調べましたものでございますから、きわめてわずかな数字しか出てまいっておらないわけでございますが、一例をとりますと、昭和八年度におきましては既済の総件数が二千十一件、破棄が六十三件、比率としては約三・一%ということになっておるのでございます。なお、その翌九年度には既済総数が千九百二十三件、破棄六十六件、比率三・四%、十年度には既済総数千八百二十一件、破棄六十四件、比率三・五%でございます。その前後もありますとよろしいわけでございますが、まだ正確な数字が出ておりませんので御容赦いただきたいわけでございますが、大体通観いたしましたところでは、二%台のところからもう少し高い五、六%程度のものまでにわたっておるわけでございます。正確な数字はただいま御報告を申し上げる程度にまとまっておりませんので御容赦願いたいと思います。
○森田委員 それではいまの最高裁判所になってからどんな破棄件数になっているか、それをひとつ……。
○寺田最高裁判所長官代理者 最高裁判所になりましてからの件数は、明確なものがございます。ただ、これも全部読み上げますことも、ややお時間を拝借して恐縮でございます。
○森田委員 パーセントだけでよろしゅうございます。
○寺田最高裁判所長官代理者 パーセントだけをごく簡単に申し上げますと、実は昭和三十二年度というのはこれは特別の時期でございまして、刑の廃止、減免がございました関係で約九・九%、非常に高い比率になっておりますが、これは特別でございます。それ以後の三十三年から四十一年までは大体一%前後でございました。
○森田委員 各年度を詳細に言ってください。
○寺田最高裁判所長官代理者 パーセントだけ申し上げます。昭和三十三年度一・二%、三十四年度〇・五%、三十五年度〇・八%、三十六年度〇・六%、三十七年度一・二%、三十八年度〇・七%、三十九年度〇・六%、四十年度〇・六%、四十一年度一%、かようなことになっております。
○森田委員 そこで、これだけの違いがある。最高裁判所になってからほとんどコンマ以下になっておるのが多い。さっきの九・九%というのは特別の場合で、これを除外してあとは一だけですね。一・二なんというのがありますが、あとは全部ゼロ以下なのです。ここを私は言いたいのですよ。しかも特にこの最高裁判所になってから率が悪くなっている。なぜ一体こういうふうに率が悪くなるのか、私はこの刑事訴訟法の狭さからくるのだと思う。 そこで、大臣にはこんなことは説明する必要はないと思いますけれども、しかし、議論の順序からいってそうせざるを得ないことになると思います。もとの刑事訴訟法によりますと四百十条で「左ノ場合二於テハ常二上告ノ理由アルモノトス」ということになって、これは一号から二十一号まであるわけであります。この場合は必ずこれらの上告理由があるのだといって、これに触れていれば全部破棄されたわけです。それから四百十一条では、「前條ノ場合ヲ除クノ外法令二違反シタルコトアリト雖判決二影響ヲ及ホササルコト明白ナルトキハ之ヲ上告ノ理由ト為スコトヲ得ス」と、こういうわけです。このいまの、それ以外の法令に違反の場合をこうやって、——これだけのものは必ず破棄の理由になるわけです。それから四百十二条、刑の量定著しく不当なるもの。それから四百十三条、「再審ノ請求ヲ為シ得ヘキ場合」云々。四百十四条、「重大ナル事實ノ誤認アルコトヲ疑フニ足ルヘキ顯著ナル事由アルトキ」。四百十五条、「判決アリタル後刑ノ廃止」云々。この場合も、これは全部破棄の理由になるわけです。だから、この率が高くなるのだと、私は考えるのです。 ところが、新しい刑事訴訟法、つまり新憲法になってから改正した刑事訴訟法によりますと、御承知のとおり四百五条の三つがあるだけです。それは憲法違反の場合と、最高裁判所の判例違反の場合と、それから最高裁判所の判例がない場合は、これに準ずる高等裁判所の判例に反するもの、この三つ以外には上告理由にならない。そして四百十一条では、先ほど申し上げました判決に影響あるものと、刑の量定の場合と、重大なる事実の誤認ある場合と、再審の請求の理由ある場合と、判決後に刑の廃止になった場合云々というものを並べているわけなんです。これが全部、これに違反した場合は破棄の理由になるならば、大体問題ないわけです。ところが、これにワクをはめちゃったのですね。これはあなた御存じのとおりだけれども、記録を整えるためにやりますが、どういうワクをはめたかというと、いま申し上げた「左の事由があって原判決を棄破しなければ著しく正義に反すると認めるとき」、こうなるのです。一つのワクをはめていて、その上にさらに著しく正義に反する場合と、こう入れたわけです。しかもそのとき破棄することができるというのだ、こういうようなワクをはめた。だれが一体この著しい正義に反するか反しないか判断するか。判事の専権でしょう。だからたいていの問題はここではねられるわけです。なるほど事実誤認もあるんだ、それから、法令違反もあるんだ、あるんだけれども、著しく正義に反しないからというので、これはみな破棄しないのですよ。だから近ごろの在野法曹は、刑事訴訟法で上告するなんていうのはばかげているというので、だれも上告する者はなくなりましたよ。時間をかぜぐためにやるというだけの話で、実質的な審判をしてもらおうと思って、まじめにこんなことをやる弁護士なんてなくなってしまったのです。あなたも在野法曹時代、弁護士をやられたので、よくおわかりになりましょうが、こんなことで一体どうなるか。——もう少し議論さしてもらいたい。いいですか。判決に影響を及ぼすべき法令の違反があるのですよ。判決に影響を及ぼす違反なんですよ。これだけでりっぱに一つのワクじゃないですか。その上に、さらにこれが著しく正義に反しなければ破棄にならない。その次の問題は、刑の量定がはなはだしく不当なんだ。はなはだしく不当ならば、当然破棄していいじゃないですか。「甚しく不当」と、特にここに書いてあるのです。それをさらにその上に「著しく正義に反する」というワクをはめている。それから「判決に影響を及ぼすべき重大なる事実の誤認」がある。それでも著しく正義に反しないというと、これは破棄しないのです。あと二つありますけれども、これは説明を省略いたしますが、どうですか。一体いま申し上げたことで、みなそれぞれ一つずつワクをはめられて、はなはだしく判決に影響を及ぼす重大なる事実の誤認がある。それでも正義に反しないということがありましょうか。これだけのものがあったら当然正義に反するはずなんですよ。それをさらに、しかも「著しく」と書いてある。そうすれば、たいていの理由があったって破棄しやしませんよ。だから最高裁判所、事件に追われて非難されたでしょう。最高裁判所だめだから、これは機構改革しなければならないという議論が出た、とたんに、本件上告はこれを棄却する。本件上告はこれを棄却する。それは定着文字に書いていていいようなものです。ここに出ているとおり一・一%とか〇・六%しか破棄されていないのですよ。こんなことで一体立憲政治のもとにおける裁判だと言えるか。私は非常に不満を感ずる。不満というより忿懣を感じさせられる。驚くべきことですよ。近ごろはどうですか。民主主義になったというので、新しい憲法のもと何でも自由になったでしょう。しかも、その自由を乱用する者までどんどん出てきているでしょう。それをわれわれの裁判権、きわめて重大な裁判の権利というもの、上のほうに訴えて、これは事実の誤認があるから、破棄してやり直してくださいといって頼んでも、それは著しく正義に反しないからといって破棄しない。こういうようなことでは私は実におかしいと思う。われわれはもとの刑事訴訟法は全体主義的なにおいがあるのだとか何とか言われたのですが、いまのこの刑事訴訟法ほど日本の国で全体主義的になったことはないですよ。こんなことを、これを放置しておくわけにはまいりませんよ。だから大臣、ここの「著しく正義に反する」という条項を削るように、これはすぐ改正すべきものだと私は思うのですが、大臣の御所見をひとつ承りたい。
○田中国務大臣 日本国民は、憲法の定むるところによって裁判を受ける権利がある。その裁判は三審制度だ。これは常識なんですね。ところが、いま先生お説のごとくに——これは裁判所が悪いのじゃない、国会がぼんやりしておるからこういうことになる。三審制度は名のみで、事実は一審半くらいのものだ。ことに上告審はごく少量のものしか上告にはいけないのだ、こういう姿になっておりますことは民主裁判、広く民主主義というものの上から考えましても、裁判制度というものの本旨にかんがみても、これは反省をすべきものではなかろうか。それは国会が反省をすべきものではなかろうか。裁判所を攻撃することばに聞こえては申しわけないので、こういうふうに申し上げるのですが、私はそう考えます。 ただ、先生仰せのことに一つの問題があるのですね。それはどういう問題かというと、三審制度を文字のごとくできるだけ拡張をして、できるだけ三審の恩典に浴するようにこれを持ち込んでいくということは、上告理由を緩和するということ。上告理由を緩和をするということは、上告事件の件数が激増をしてくるということになります。それはたいへん望ましい、三審制度の趣旨からいいことなのでありますが、激増してくるということは、最高裁判所及び下級裁判所の裁判官の員数は現状のままではいけない。ことに上告がねらいでふえてくるのでありますから、上告裁判所の機構改革は必至にならなければならぬ。こういうものが方向として同一方向に向いてきませんと、ただ事件数のふえるような上告理由の緩和だけをやり切る。それだけ急げというわけにはいきにくいということになってこようかと存じます。最高裁の機構改革問題と同一の問題である、こういうふうに私は考えるのでございます。お説はごもっともであると考えますし、この問題につきましては、臨時司法調査会の答申の中にも、意味は違いますが触れておる内容のことでもございますので、これはひとつただいまの御所見を十分に胸におさめまして、真剣に具体的な検討をしてみたいと思います。
○森田委員 あなたがそういう見解を持たれることは、おそらくは裁判所方面、あるいは法務当局のお考えを代表してのことだろうと思うのです。それはまるでおかしな話じゃないですか、私は率直に意見を申します。国民の権利なんですよ。三審制度で、三審のあれだって、われわれ審判を求める権利を持っているんです。それを、裁判所が門が狭いからそれを入れるわけにはいかないというのなら、門を広げたらいいじゃないですか。つまり、最高裁判所の機構改革をやればいいのですよ。なぜこれをやらないのか。今日ほど私は、日本の国の裁判権、民衆の裁判権というものが制約されていたことを知らないのです。それをわれわれは、在野法曹の一人として黙視するわけにはいかない。私は、多年このことを主張してきて、東北弁護士会あたりへ行ってこれを主張したんですが、どういうものか、在野法曹というものがまだ盛り上がってくれない。しかたがないから、私はきょうあなたに爆弾を突きつけるようなことを言うのです。あなたの考え方は逆ですよ。そうじゃないのです。だから、これをひとつやってごらんなさい。これをやればまたどんどん事件が多くなりますよ。事件が多くなれば、最高裁判所は受けかねるから、これでは狭過ぎるからもっとも広げてくれといって、機構改革の問題は最高裁判所から出ます。ところが最高裁判所が、いま〇・何%の破棄をやって、あとあぐらをかいていればいいというようなかっこうになったら、国民はどうなりますか。まるで日本の憲法に逆行するような行き方だということを私は多年考えておったので、きょうはやってきたわけです。とにかく、それをあなたが改正することですよ。そうすれば事件が多くなるでしょう。さっき申し上げたとおり、裁判所は受けかねるでしょう。裁判所が自発的に、何とか判事の数をふやしてくれということになりますから、最高裁判所改革の問題になるのです。金の問題の議論になるかもしれませんが、金は、われわれ国家意思として、やるということになれば予算が出てくるということは、あたりまえだと思う。困難であることはよくわかりますよ。しかし、今日ほど国民の訴訟権が狭められたことがないという、この現実を直視なさったならば、少なくとも、これも手をつけてもらいたい、私はこう思うのですが、どうですか。
○田中国務大臣 あなたのおっしゃることと私は同じことを言うておるのです。これはあとでいいと言っておるのじゃないが、裁判に関する法律制度の基本的なものをなぶるに際して、その影響は目に見えておる。事件がふえ、裁判所はやっていけぬということは目に見えている。目に見えておるものであるならば、両方同時に手をつけなければ理屈が合わぬので、国会へ持ってきてごらんなさい、国会はそういうふうにおしかりになります。この法案を出して、そうして上告理由を緩和するということなら話はわかる、なぜ裁判所の機構改革問題を持ってこないのか、国会は必ずそう仰せになる。そういうふうに両々相まっていくべきものである。一方はどうでもいいといっているのじゃないんだ。同じことを言っているんだ。そういう真剣な考え方で、これをひとつ前向きの姿勢で積極的に検討さしていただくことにいたします。重要な問題でございます。
○大坪委員長 森田君に申し上げますが、参議院のほうから法務大臣が催促されておりますので……。
○森田委員 あと一つ。それはそういうことですよ。この法律をつくったときに、一審の裁判を強化するということが一つの条件であったはずです。なるほど一審の裁判がほんとうに強化されて、そこであらゆる事実審理などが完全にできるような体制になるなら、これはある程度意味があるでしょう。しかし、一審の裁判はどこが充実されているか。判事になる人が希望者が少ない、そういうようなことで、強化どころじゃない。どうやって判事を間に合わせようかというような実情じゃありませんか。だからまるで訴訟法改正のスタートしたときの条件、最高裁判所の機構改革の問題もたな上げになってしまって、それきり消えてしまった。一審の裁判を強化しようとしたら、これも強化ができないというあれはだれだったか、有名な判事さんがおって、高等裁判所から何かから、一審の裁判長に自分が行って、自分がやるのだという篤志家がおりました。どなたでしたか名前は忘れましたが、私どもは非常に勇敢だとは思ったけれども、そんなことは問題にならないのであって、われわれは、制度化することが一つの政治だ、こう考えておりますから、一審の強化の問題についてまず——あなたは、一審の裁判が、はたして最初の予期どおり強化されておると現実を見られるか。同時に、もしそれをそうでないと見られるならば、どうやってこれを強化なさっていくか。少なくもあなたはほかとにらみ合わせてという御態度のようでありますから、にらみ合ってばかりいてさっぱり前進しなければ意味がないじゃないかという私の議論でありますけれども、そこはしばらくおくとして、その現実と、一歩前進することについての抱負をひとつ聞かしていただきたい。これはあなたの所管になりますか。
○田中国務大臣 機構改革が必要ならば機構改革をしたらいいじゃないか、そしてすみやかに、本日でも直ちに案をつくって上告理由を緩和したらいいじゃないかということはよくわかるのです。よくわかるのだが、上告理由を緩和するということは、最高裁判所の機構改革に手をつけることで、機構改革とはどういうことかというと、裁判官の頭数をふやすということである。普通の平裁判官の頭数をふやすことは不可能に近いといわれている。不可能に近い。どんなに優遇しても不可能に近い。たいへんな優遇をすれば別でございましょうが、普通の優遇程度では不可能に近い。ことに、最高裁判所の裁判官の増員ということはもっと不可能だ。人材を得ることは非常にむずかしいことでございます。そういう事実問題が伏在しているということを私の念頭に置いて考えてみるというと、最高裁判所の機構改革問題はたいへんな問題だなと思う。そのたいへんな問題を無視して、上告理由の緩和ということはなかなかむずかしいことだ、こういう考えが私の頭脳の奥にあるのですね。 そこで、先生のせっかくの熱意のある仰せにかかわらず、しゃんとした歯切れのいい、それではやりましょう、案を立てましょうということはすぐに申し上げかねる点があるということなんです。実際は人が得られない、人を得るためには試験制度それ自体から考え直さなければならぬもので、年数のかかる操作が必要だということになってまいります。そういう事情でございます。しかし、先生から仰せをいただきましたことは、さすがの専門家の御意見でありますから、これは十分頭に置きまして、ひとつ積極的に検討さしてください。熱意と誠意をもってやりますから、どうぞお願いします。
○森田委員 いまの私の意見について、裁判所のほうで何かお考えがありましたら伺いたい。
○寺田最高裁判所長官代理者 ただいまの森田委員のお話の中で、裁判所に関連いたします部分について申し上げたいと思います。 まず、一審強化の問題でございます。むろん、私どもも、一審が強化さえすれば、上訴審のことに考慮をめぐらさないでいいということは毛頭考えておりませんけれども、しかし裁判は、やはり一審で事実の認定をします段階がきわめて重要であるわけでございます。そして、この事実の認定というものは、繰り返し繰り返し、控訴審、上告審で何度もやったからといって当然によくなるものでもないということは、これは森田委員つとに御承知の問題でございます。何と申しましても、証拠調べは、直接にタッチしました裁判官の認定というものが一番信用ができるわけでございます。上訴審に参りますれば、どうしても書面審理的な傾向を持たざるを得ないわけでございます。そこで、何とかして一審を十分充実させる、この点につきましては、そもそも、と申しましてはまことにどうも恐縮でございますが、刑事訴訟法がいわゆる起訴状一本主義というものをとりまして、戦前のように、検察官の取り調べました証拠書類がそのまま来て、いわばそれを引き継いで、裁判所がそのままそれを尊重して見ていくというような形式ではなくて、起訴状一本主義によって、すべてを最初から新規に裁判所の面前で新たなものとして取り調べる、こういう手続自体が非常に一審の尊重、一審の強化という意味を持っておると思うわけでございます。ただ、これにはやはりその上に裁判所自体が充実しなければいけない、手続だけでは不十分だというところから、先般も裁判所法を改正していただきまして、そしてこれは限りある裁判官であるから、したがって、若い者をある程度高裁のほうに入れて、高裁は裁判長もしっかりしていることであるから、多少陪席される判事には若い人あるいはまた新しいセンスの人に入ってもらうことが、ある意味ではかえって望ましい、そこで、その高裁の有力な人を、地裁のほうに行っていただくというような趣旨から、裁判所法の改正をやっていただいたような経緯もあるわけでございますが、そういうようなところから、先ほど御指摘がございました高裁から有力な裁判官が地裁の裁判長に出られるという事例も出たわけでございます。きわめて一例でございまして、これをもって地裁の裁判官が戦前より充実しているということを申す気持ちは毛頭ございませんけれども、一つの例として、たとえば東京地方裁判所の裁判長の年齢でございます。年齢というものは、大体において経験年数と比例するものとお考えいただいていいかと思いますが、戦前の昭和十五年ごろには、東京地裁の裁判長の平均年齢が四十二・五歳であったわけでございます。それに対しまして、昭和四十年ごろにおける東京地裁裁判長の平均年齢は五十三・九歳と、約十歳の老齢になっておるわけでございます。年をとったばかりが能ではありませんけれども、これによって充実した面もあれば、かえって老朽とおしかりを受ける面もあるかもしれませんけれども、一般的には、裁判というものは経験を積むことによって円熟し、ことに事実の認定というようなものは、やはり年をとるに従ってある程度円熟してまいるという点から申しますと、この一例だけから見ても、戦前の地方裁判所より、戦後の地方裁判所ではある程度の充実をはかられておる、かように考えておるわけでございます。さらに、その上にいろいろ一審強化方策協議会というようなもの、弁護士会、検察庁としばしば打ち合わせをして、いろいろ証拠の出し方等についても御協議いただいて充実させていきたい、かように考えてやっておるわけでございます。 それから上告の問題は、先ほど法務大臣からお話がございましたとおりでございまして、裁判所といたしましても、従来過去に問題になりましたいわゆる最高裁判所の機構改革という問題は、最高裁判所に七千件の事件が渋滞したというところから出発した問題でございます。しかし、それは今日におきましては、先月現在では約二千七百件くらいの未済になっておるわけでございます。そして、年間の新受が約五千四、五百件ございますので、二千七百件と申しますのは約半年分の事件がたまっておるということになるわけでございます。そして、実際問題として事件を処理しますために最小限四カ月ないし五カ月ぐらいはかかりますので、六カ月分の未済というのはおおむね平常に近づきつつある——まだややたまっておると申さなければなりませんが、まあ百件か二百件かりに未済がなくなりますれば、それ以上には技術的に減り得ない限界に近づきつつあるわけでございます。そういう意味からの、つまり事件の渋滞という面からの機構改革という問題は、今日では問題にならなくなったものというふうに理解しておるわけでございますが、ただ先生のお話にるるございました上告理由等との関連における問題は、これは裁判所といたしましても、十分に各方面の御意見を謙虚に伺って、そしていろいろ御批判があればそれをも十分伺って、私どもとしてもまた十分考えてまいりたい、かように考えておるわけでございます。
○森田委員 大体私の質問はこの辺で打ち切りたいと思いますが、ちょうどいま裁判所からの御答弁をいただきましたので、判事を得ることが非常に困難だということですが、最高裁判所の調査官というのがあるはずでございます。これは現在どれくらいの人で、資格としてはどの程度の判事さん方が当たっておるのか、その辺をちょっとお伺いしたい。
○寺田最高裁判所長官代理者 まず、人数の点は二十名をこえておるかと思います。二十数名ということになっております。それから資格と申しますか、大部分裁判官の有資格者でございます。そうして経験年数は大体十五年ぐらいから二十年あるいはその前後の者が多いかと思います。十年前後の判事補ないし判事になりたてのような人も若干おるかと思います。大体そんなところです。
○森田委員 そういうような方々には、最高裁判所の判事として採用のできそうな方が入っておるのではないですか。
○寺田最高裁判所長官代理者 これはだいぶ具体的な人事的なものになりまして、私答えにくいわけでございますが、これは格段と差がございます。裁判所の部内から最高裁判所にお入りになります方は、経験年数でまいりますれば四十年近い方ばかりでございます。弁護士会からお入りになる方もお年において大体六十から六十四、五の方でございます。調査官は、大体において三十代から四十の初め、中には五十近い人もあるかと思いますが、とにかくそういう程度でございますから、経験年数等においても十年ないし二十年の差があるのが普通、あるいはもっとあるかもしれない、そういうことでございまして、昔の大審院でございますれば、当然いまの調査官も大審院の判事になり得るばかりの人もおったかと思いますが、現在の最高裁は飛躍的に資格は高いものというふうに考えております。
○森田委員 いまあなたのおっしゃったとおり、これは仮定論ですが、かりにもとの大審院ぐらいに判事の定員がふやし得ると仮定するならば、いまの調査官の方々もすぐつとまるような方が相当おるわけでしょう。
○寺田最高裁判所長官代理者 これは前に内閣のほうから裁判所法の改正案が御提案になりました際にいろいろ問題があった点でございまして、大体そういう上告裁判所的なものであれば、それになり得る人もかなりあろうと思います。しかしながら、数におきましても、現在の数よりは、法案等で予想されております数はかなり多いように考えます。 それから現在の最高裁とのつり合いからまいりますれば、むしろ現在の高等裁判所から入るのが主体になろう。そうしますと、高等裁判所の弱体化を招くのではないかというのが当時の議論でございました。これは現在の地方の裁判官陣営というものを前提として、そうして上告裁判所というものを一つ設けるといたしますれば、これはかなり一審なり二審に響いてまいると思います。しかし全然新たな視野からどんどん弁護士会からもお入りいただいて、そうして法曹一元的な構想で新たな裁判官の給源ということが考えられますならば、これはまた全然別個の問題になろう、かように考えておるわけであります。
○森田委員 この程度で打ち切りたいと思いますが、きょうは私三つの問題に要約いたしまして、それぞれ関係当局の方々の御答弁をわずらわしたわけであります。大臣の御答弁にもありましたが、これを契機として、何かひとつ促進方をぜひお願いしたいと思います。質問の間に礼を失したようなことばがあったかもしれませんが、その点はひらに御容赦をお願いいたしまして、私の質問を打ち切ります。
○大坪委員長 松本善明君。
○松本(善)委員 東京都公安条例について、その運用のしかたが憲法違反であるという東京地裁の判決が出たわけであります。この運用について警察庁としていまどう考えているか、あとこまかく聞きますが、一言まず聞きたい。
○川島政府委員 実はまだ判決の全文が手に入っておりませんので、要旨だけを読みました限りでお答えいたしたいと思いますが、今回の判決の内容は、いまお話がございましたように、公安条例そのものは合憲である、その運用において違憲であるというようなことだろうと思います。そういうわけで、実はこれはまだ全文がいまのところ手に入っておりませんので、いま直ちにどうこうは——詳細に検討した上で今後の執行の上にも及ぼしてまいりたいと考えております。
○松本(善)委員 運用について憲法違反という判断が出たということは、いままで警視庁のやっていること、あるいは警察庁のやっていること、これが憲法に違反をしておるということで、直接の責任が警察庁にあるわけであります。かなり真剣に考えてもらわなければならない点ではないかと思います。 それでちょっと聞きますが、実際上、いま東京都では非常にたくさんの条件をつげている。たとえば縦断幕を持ってはいけないとか、幕を持ってはいけないというような数々の条件をつけてデモ行進を許可をしている。そうすると、実際上警察が自由自在に、デモ行進についてこういうふうにしろ、こういうふうにしろということをやっている結果になっているのじゃないかというふうに考えますが、その点はどうですか。
○川島政府委員 御案内のとおりに、公安条例によって許可対象になっておりますのは集会、集団行進及び集団示威運動があるわけでございますが、いまお話しのとおりに、それにつけます条件の数なりあるいはまた内容なりは、申請されました集団行動の規模なりその他によって慎重に検討した上でつけておるわけでございますから、いま御指摘のように数が多いとおっしゃいましたけれども、非常に少ない条件もございますし、多いのもございます。内容もまた区々でございます。
○松本(善)委員 私の言っているのは、この条件を警察が自由につけられるという結果になっているではないかということを言っているのです。
○川島政府委員 お話は、警察官が独自でつけておるではないかということのようでございますけれども、そう理解してよろしゅうございますか。
○松本(善)委員 そうではなくて、警察としてどういう条件でもつけられるということになってきているではないかということです。
○川島政府委員 東京都公安条例の規定に見られますように、第三条にその規定があるわけでございますけれども、「必要な条件をつけることができる。」というふうに、六項目の条件が実は規定されております。これに従って、具体的な客観的な社会情勢に従って、慎重に公安委員会で許可内容を決定するわけでございますが、独自にかってにつけられるということにはならないと思います。
○松本(善)委員 そういうやり方でいままでやってきたのが憲法違反だというふうに判断をされているのですよ、条件をつけているやり方が。そういうことがいま問題になっているので、警察のいままでのやり方ではなくて、今後の運用についてあらためて聞いているわけなんです。きょうは時間がありませんので、詳しい例をあげることはできないけれども、たとえば縦断幕を持っていってはいけないというようなこと、そういうような条件をつけるという場合もあるわけです。これなんか表現の自由に一番直接関係している。今度の判決内容はまだ詳しく出ていないからそれはともかくとして、しかし警察庁としては直接の責任者です。すでにそういう問題が起こっている。縦断幕のような表現の自由を侵害するような、こういうことを示威行進の中で言いたいということの内容を持っていこうというのをとめるというようなことがあるわけですね。こういうことが問題になっているじゃないかと思うわけですけれども、そういうようなやり方を是認をされるのかどうかということです。
○川島政府委員 ただいまお話にございました横断幕でございますけれども、横断幕を持ってはいけないというような条件をつけておることはしばしばございます。現在の東京都内に例をとりますならば、世界でも第一といわれるくらい過密な状態でございますので、そういう中で交通秩序を維持しなければならぬという観点から申しますれば、そのような条件をつけることは当然であると思いますし、それからまたいまお話がございましたが、横断幕を持ってはいけないというような条件をつけておりますのは集団行進の場合で、集団示威運動につきましてはそのような条件はつけておらない。
○松本(善)委員 横断幕は認めているのですよ。それは抗議をしたり何かして横断幕はつけてやってもいい。縦断幕、例の横にずっとやるもの、そういうものをいまはやらしていない。横断幕にしても縦断幕にしても、これは交通の問題とは関係ないですよ。その辺を考えないと、ただ受動的に、判決でいわれたからやめるというようなことではなくて、この機会に——いやしくも憲法違反をやっているということをいわれているのです。これは憲法に対する反逆なんですよ。いまの制度に対する反逆をやっているということをいわれている。そのことをもっと真剣に考えなければ、いまのようなことでは、とても日本国民の人権を守ることはできないと思います。これは判決が出た上でさらに検討してもらいたいと思います。 もう一つ聞きたいことは、全国的に公安条例のない府県がありますね。それは何府県ですか。
○川島政府委員 現在公安条例は、全国的に見て六十条例あるわけでございますが、そのうちで都県で条例を持っておりますのは二十五、市として持っておりますのは三十五ございます。いま御質問の、県自体でも持っていないし、市町村でも持っておらない府県は全国で九県でございます。
○松本(善)委員 私の言っているのは、持っていない都府県は幾つあるかということです。
○川島政府委員 県条例として持っておらないのが九県でございます。
○松本(善)委員 それは間違いありませんか、二十数県というふうに私のほうは調べているのですが。
○川島政府委員 いま申しましたように、都県として条例を持っておりますのは二十五でございますから……。
○松本(善)委員 都道府県は四十六ありますね。
○川島政府委員 残りは県条例としてはないわけです。
○松本(善)委員 そうすると、九県ではありませんね、二十一ですね。
○川島政府委員 そうです。
○松本(善)委員 その公安条例のない府県で、集団示威行進等についての取り締まりに、特別に支障を生じているところがありますか。
○川島政府委員 公安条例がない県、市等におきましては、他の諸法令によって行なっておるわけでありますけれども、御案内のとおり、公安条例はそれぞれの地方自治体において自主立法しているわけでございますから、それぞれの地域社会における必要があってのことでございますので、いままで、御質問のように、ないために障害を起こしておる府県はないかという御指摘でございますが、公安条例がないために障害が起こっておるという事例も実は耳にはしております。
○松本(善)委員 そうすると、一般的には公安条例がないために支障が起こっているということはない。しかし、たまにそういうこともあり得る、こういうことですか。
○川島政府委員 個々具体的に記憶いたしておらないわけでございますけれども、公安条例がないために道交法なりあるいはまたその他の法令によってやっているわけでございますから、それ相当の不便を感じておると申しますか、そういうことは耳にしております。
○松本(善)委員 特別の、具体的に別個の指示を、そういう都府県にしているというようなことはありますか。
○川島政府委員 そういうことは全くございません。
○松本(善)委員 そういうことはない。
○川島政府委員 全くございません。
○松本(善)委員 この点については、また判決の内容が詳しくわかった上で質問したいと思います。これはこの程度で終わります。 ついでに警察のやり方についてちょっと聞いておきたいのですが、最近山口県の山口放送の労働組合が争議をやったときに、民放労連という民間放送の労働組合の委員長が行っただけで、その会社の中へ入ったというだけで逮捕をされ、すでに勾留理由開示公判をやって裁判所が釈放した事件が起こっておりますが、これはどういうことで逮捕をしたのですか。労働組合の委員長が行っただけで逮捕をするというようなことは、とうてい考えられないことですけれども、どういうことでやったのですか。
○川島政府委員 ただいまの御質問は、山口放送の争議をめぐりまして、民放労連の委員長である竹村某なるものが、会社側が全面ロックアウトをいたしたその後において、同労働組合員五十数名というふうに聞いておりますが、その先頭に立って、ロックアウトをかけられた後に、閉鎖されておる門扉をあけて、そして中に入った。そして三時間有余にわたってその廊下にすわり込んだというふうな事案のように聞いております。したがって、犯罪の内容は申すまでもございませんが、建造物侵入で現行犯逮捕された、こういうことでございます。
○松本(善)委員 ロックアウトが適法であるかどうかというのはたいへんむずかしい法律問題、労働者が争議行為に入ってから後でなければ使用者側はロックアウトはできない、あるいは攻撃的なロックアウトはできない、いろいろ法律論がむずかしくあります。そういうことについて警察のほうは考えた上でやったのですか。
○川島政府委員 いまのお話でございますが、ロックアウトが今回の場合に違法であるかどうか、あるいはまた個々具体的な場合に違法であるかどうかという問題につきましても、当然警察の側といたしましては十分に検討した上でやっておるつもりでございます。
○松本(善)委員 私のほうで知りました情報では、使用者側からロックアウトをするからよろしく頼むということを言われて、そうしてすぐ出動している。これは警察の関係の人がそういう経過を話したということでありますが、そういうことがわかっておりますか。
○川島政府委員 どなたからお聞きになられたかは存じませんけれども、通常、従来の経験の上からいたしましても、ロックアウト等を行ないます場合、多くの場合に不法事犯が随伴しておる。そういうような経験的なことがございますので、そういうふうな場合に、警察に対して事前にそういうふうな事案の予防のために連絡がある。今回の場合も、そのときに連絡があったというふうに聞いております。
○松本(善)委員 この場合には労働者が争議にも何も入っていないという状態でロックアウトがなされた。こういうことにすぐ警察が出ていくということになると、労働者は争議はできない。使用者のほうで、争議が起こりそうだ、すぐロックアウトする、そして警察がばっと出てくる、これで委員長がみな逮捕されるということになれば、労働者は争議できないことになる。この経過を見ますと、警察が中立の原則を破って使用者側に加担をして、悪いことばで言えば使用者の私兵になっているというような経過ではないかと思います。そういうことがあってはならないと思います。一般的にどのように考えていますか。
○川島政府委員 申すまでもございませんが、正当なる労働運動に警察が介入することは全くいたしておりませんし、今回の場合は、いまストに入っておらないというお話でございましたが、この山口放送は、二月十五日に一万二千円の賃上げ要求以来闘争を始め、三月十五日から部分ストを反復しておったわけでございます。そういうわけでございますから、もう労働争議は始まっておるというようにわれわれは報告を受けておるのであります。
○松本(善)委員 そうすると、部分ストをちょっとでもやっていればロックアウトする、そしてそれについては警察は出ていく、こういう見解でやっている、こういうわけですか。
○川島政府委員 いまのお話の部分ストをやっただけであるのにというお話でございますけれども、われわれが報告を受けております限りでは、部分ストが反復繰り返されておるわけでございます。したがって、今回の山口放送の場合に、どの職場が、あるいはどの部分がストに入ったために、全体の業務運営に支障を来たしたかの詳細については承知いたしておらないのでございますが、今回の場合の報告では、きょうはある部分、翌日はある部分というふうに、部分ストが反復積み重ねられてやられておったというふうに承知をいたしておるわけでございます。
○松本(善)委員 この問題については、それ以上は押し問答になりそうなのでやめますけれども、しかし、いま言ったような見解で争議に介入をしているということになった場合に、警察の信頼はますます失われていって、労働者は、警察というのはいままでは公平だというふうに思っていた人があっても、こういうようなことが重なった場合には、警察というのは使用者の側につくものだ、たくさんの働く者は、全部そういうふうに思っていくというふうになるだろうと思うので、厳重に注意を喚起したいと思います。 次の質問をしたいと思います。 きょうは時間があまりありませんので、亡命の問題が非常に大事な問題なんですが、これはさらに時間をかけてやることにして、きょうはその分の経過だけを少しお聞きをしておきたいと思うのです。 一つは、金東希という韓国兵が大村の収容所にいる問題、これは当然に、本人が朝鮮民主主義人民共和国に帰りたいと言っているので、早く帰さなければならないと思うのですが、いまだにそのままになっている。この点について、どこが障害になって、なぜ帰されないでいるのかという、いまの事情を御説明願いたいと思います。
○中川(進)政府委員 まず最初に、金東希に関する事実関係でございますが、これは……
○松本(善)委員 ちょっと、詳しいことは、ある程度ほかのことも知っておりますから、現在なぜ帰されないでいるのか、どこが問題になっているのかということ、あまり時間がありませんから、簡潔に答えてください。
○中川(進)政府委員 この点に関しましては、前回の法務委員会で田中法務大臣から御回答がありましたとおりでございまして、私どもといたしましては、まず、本人が出国してきましたときの動機、その事情ということに関する究明、これが一つ、その次には、本人の意思がはたしてどこにあるかというその研究が一つ、第三には、万が一韓国へ帰りました場合には韓国でいかなる取り扱いを受けるかという点の研究が一つと、おもにこの三つの点を調査中でございまして、この三つの点につきまして結論が出るのを待っておる次第でございます。
○松本(善)委員 本人の朝鮮民主主義人民共和国に帰りたいという意思は確認できておりますか。
○中川(進)政府委員 その点は、ほぼそうであろうという認識を持っておりますが、しかし一面、松本先生御承知のごとく、本人の妻子は韓国にまだおるわけでございまして、はたしてその妻子のところへ帰りたくはないのかどうか。妻子を無視してでもやはり北朝鮮へ帰りたいのかということに関しまして、私どもとしましては必ずしもまだ一〇〇%の確信は得ておりません。
○松本(善)委員 しかし、もうずいぶん長くなるわけです。私たちのところにも、また多くの人たちのところにも、北へ帰りたい、朝鮮民主主義人民共和国へ帰りたいということをはっきりと言ってきているわけです。とうていそういうような事情にあるように思えないわけですけれども、一体いつまでこの意思確認はかかるつもりですか。
○中川(進)政府委員 いつまでかかるという、たとえば何月何日何時までということを、はっきりお約束できない点は申しわけないわけでございます。しかし、私どもといたしましては、これはやはり個人の人権にかかわる、また一方ではその家族、妻子の願望にもかかることでございますから、十分慎重に処理したい、こう考えております。
○松本(善)委員 そういうなぜ、いつまでかかるかということを言うかというと、一〇〇%確認できないということを言って、いつまでもずるずる延びていたのでは、それこそ人権の問題、いまもうすでに人権が侵害されていると私は思いますけれども、やはりめどをつけてはっきりと処置をしなければならない。いつまでもずるずるしているわけにいかない問題だと思います。見当もつけていないのですか。いつまでにこれを見当づけようというようなことを考えてもみないのですか。
○中川(進)政府委員 意思の確認もちろん大切なことでございますが、先ほど申し上げましたように、ことに田中大臣がここで御答弁なさいましたごとく、本件の処理にあたりましては、意思の確認もさることながら、本人の出国の動機及び本人が万が一韓国に帰った場合にどうなるかという取り扱い、そういう点も十分私どもとしては調査をしまして、あわせて意思の点も確認をした上で処置をしたい、こう考えておる次第でございます。
○松本(善)委員 そうすると、こういうことになりますか。田中法務大臣の答弁を私も存じておりますけれども、本人の意思確認、北へ帰りたいということがはっきり確認できても、しかし南に帰すことがある。韓国に帰すことがあるという考えでいるのですか。
○中川(進)政府委員 どちらへ帰すか、どこへ帰すかということは、これはまだ決定いたしておりません。
○松本(善)委員 私の言ったのは、本人が北へ帰りたいということがはっきりわかっても南へ帰すということがありますかと言うのです。
○中川(進)政府委員 その点は、ただいま申し上げましたように、本人をどちらへ帰すかということはまだ決定しておらないのでございますから、場合によってはそういうことも絶無ではないと存じます。
○松本(善)委員 これはまたあらためて伺いたいと思います。 もう一つ、金鎮珠という韓国籍のアメリカの兵隊がキューバに亡命したいといってキューバ大使館に行った、これについての経過を話していただきたいと思います。簡単でいいです。
○長崎説明員 簡潔に申し上げます。四月四日在京キューバ大使が外務省を来訪いたしまして、米軍籍にある韓国人がキューバに亡命したいということを申し出てきたので、キューバ大使としましては、同人のキューバに行きたいという意思を正当なるものと認めまして、キューバに亡命することを許したので、日本政府は同人が自由に日本から出国してキューバに行けるように安導券を発給してもらいたいという要請を外務省に持ってきたわけでございます。これに対しまして外務省は、当該問題の事実関係あるいは法律関係を調査検討しました結果、四月の八日に在京キューバ大使の来訪を求めまして、日本政府としては安導券は発給できない。ついては同人の身柄を、すみやかに日本政府の官憲に引き渡すように要求したわけです。 これに対しましてキューバ大使は、同人の身柄の日本政府の引き渡しの問題につきましては、本国政府に請訓する必要があるということで、日本政府の身柄引き渡しの要求に対しましては拒否したわけでございます。 その後、キューバ大使は四月十五日に本国政府に請訓した結果としての回答を持ってまいりまして、本国政府に請訓した結果、日本政府には身柄を引き渡すわけにはいかない。ついては、あらためて安導券の発給を要請するということを申し出てきたわけでございます。 これに対しましてわがほうといたしましては、重ねて、安導券の発給はできない。ついては、すみやかに同人の身柄を日本政府官憲当局に引き渡すように要求したわけでございます。 その後の経緯は、いま同人がおそらくキューバ大使館にそのままの形で保護されておる状況にあると思います。
○松本(善)委員 アメリカからいわれてきたその人は、アメリカの兵隊で韓国籍というふうに聞いておりますが、それは間違いありませんか。
○長崎説明員 これはキューバ大使からきました書簡並びにその後米国当局からわがほうに要求がありました記録から見ますと、大体そうではないかと推定されるわけでございますが、まだ日本政府当局がみずから本人に会って確認したわけではないので、この点は日本政府としてはいまだ最終的には確認し得ないわけでございます。
○松本(善)委員 私の聞きますのは、アメリカ側から引き渡しを求められているというその人です。まだ本人に会ってないから確認できないと言われるけれども、アメリカからいわれている人はどうなのかということです。
○長崎説明員 先ほど申し上げましたように、最初キューバ大使が外務省を訪問して書簡を持ってきたわけでございますが、その書簡の中に記載されている人名と、それからその後米軍当局から要求があった人名が同一でありますので、おそらくそうであろうと推定されるわけでございますが、先ほど申し上げましたとおり、まだ日本政府としては最終的に確認したわけではございません。
○松本(善)委員 それはどういう人であるかということについて、アメリカ側に確かめたということはないのですか。
○長崎説明員 米軍当局から、そういう人物についてこういう問題があるという通報を受けたことはございます。
○松本(善)委員 それによればどうなのかということを聞いているのです。
○中島説明員 私からお答え申し上げます。 アメリカ側からまいっております連絡は、名前、等級その他をはっきりさせまして、こういう人物が部隊に帰る予定日までに帰ってこない。目下行方不明の状態にある。その予定の日まで帰ってこないので、アメリカ側としてはそれをさがしておるけれども、状況によっては逃亡の罪に該当するということになるかもしれない。したがって、その本人の捜査並びに見つかった場合の抑留、そうしてアメリカ側への引き渡し、これについても協力を要求するというのがアメリカ側の連絡でございます。
○松本(善)委員 これは駐留軍ですか、それとも駐留軍ではない別のアメリカ軍ですか。
○中島説明員 これは、来ております部隊の名前、それからその請求者、これは一応通報はアメリカ大使館から外務省のほうに参っております。それからその後の地位協定に基づきます具体的な逮捕、引き渡しの要求につきましては、向こうの憲兵司令官から参っておるわけでございます。私どもの了解いたしておりますところでは、この兵隊は三月に日本に入ってまいりまして、その目的は書いてございません。ある一定の日まで、一種の休暇の状態で部隊から外出を許可されたということでございます。ただし、いま日本に入ってまいりますアメリカの軍人が、部隊の一構成員として入ってまいりました場合には、これは日本にいます間は在日米軍の一部として取り扱う、地位協定上の扱いがそういうことに定められております。
○松本(善)委員 これで質問を終わります。さらに事情を調べた上で質問したいと思います。
○大坪委員長 次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。 午後零時三十一分散会