社会労働委員会 第13号
- 発言数
- 115 件
- 登壇者
- 13 名
- 会派数
- 2
- 開催日
- 1958/10/28
会議録
○園田委員長 これより会議を開きます。 内閣提出の最低賃金法案並びに勝間田清一君外十六名提出の最低賃金法案及び家内労働法案の三案を一括議題とし、審査を進めます。 本日はまず三案について、御出席の参考人各位より御意見を承わることにいたします。御出席の参考人は、東京大学教授石川吉右衛門君、東京大学社会科学研究所員氏原正治郎君、産業経済新聞論説委員波多尚君、以上三名の方はすぐ到着されます。現在出席の方は法政大学教授舟橋尚道君、以上の各位であります。 この際参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。本日はおせわしいところを御出席下さいまして、まことにありがとうございました。各党の党務の関係上開会がおくれましたことをあわせておわび申し上げておきます。申すまでもなく、今日最低賃金制を実施することはきわめて有意義であり、労働者の生活の安定に資するとともに、わが国経済の発展に寄与するものであることは言を待たないところであろうと存じます。しかしながら、その内容をいかに規定するかという点につきましては、種々論議のあるところであります。本日御意見を伺うことになっております三案は、御承知の通り、内閣提出のものと、議員勝間田清一君外十六名提案のものとであり、その内容等について幾多の相違点があります。本日はこれらについてそれぞれの立場から、忌憚のない御意見をお述べ願います。ただ議事の整理上一人約十五分程度に要約してお述べ願い、御意見を開陳された後に、委員の質疑にもお答え願いたいと存じます。 なお議事規則の定めるところによりまして、参考人の方々が発言されます際には委員長の許可を得なければなりませんし、また参考人の方々は委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、以上お含みおき願いたいと存じます。 では、これより参考人の方々より御意見を聴取いたします。法政大学教授舟橋尚道君。
○舟橋参考人 舟橋でございます。十五分ということでございますので、ごく簡単な論点の指摘しかできないと思うのでございますが、政府提案の最低賃金法案及び社会党提出の最低賃金法案について率直に意見を申し上げてみたいと思うわけであります。 〔委員長退席、八田委員長代理着席〕 まず政府の提案にかかる最低賃金法案についてでございますが、全体として非常に日本の産業の実情をよく考慮された、まあ危なげない法案の内容を持っていると言っていいと思うのでありますけれども、しかしここで一つお考えおき願いたい点があるわけであります。それは、最低賃金法案というのは、ある意味において非常に国際的な性格を持っておるわけでありまして、最低賃金の法案については国際的な関心の的になる可能性が十分にあるわけであります。なぜそういうことになるかといいますと、これは、国際貿易の競争条件を各国平等なものにしよう、こういう意図が強く働いてくるわけでありまして、昨日でありましたか、西ドイツのエアハルト氏の言明にも見られますように、日本の低賃金の問題が国際的な関心を呼んでおります最中、この最低賃金法案の内容につきましても、やはり国際的な注視を浴びることは必至ではないか、こういうふうに思っておるわけであります。だといたしますると、最低賃金法案は、少くとも最低の国際的な水準といいますか、基準を満たすものでなければならない、こう思うのであります。その観点から若干政府の法案について御意見を申し上げてみたいと思います。 政府の提案の中で、一つ、第二章の最低賃金の原則というところに、通常の事業の賃金支払い能力を考慮して最低賃金をきめなければならない、こういうふうな規定があるわけであります。これは、各国の最低賃金法を見ましても、事業の賃金支払い能力あるいは産業の賃金支払い能力という問題は、ほとんどが規定しておるのでありますけれども、ただこの賃金の支払い能力の問題をどのように考えたらいいのかということが問題になると思うのであります。と申しますのは、この事業の賃金支払い能力というものにあまり重点を置き過ぎますと、最低賃金制の本来の使命の達成が非常に不十分になるということを申し上げたいのであります。率直に申しまして、政府の法案はいささかこの事業の実情に即するということに重点を置き過ぎたあまりに、事業の賃金支払い能力に傾斜を持ち過ぎているのではなかろうか。むしろ各国の最低賃金制の法案を見ますと、いわゆる生活費賃金の原則というものが第一次的に重要視されているわけでありまして、それにいわば制限的な意味をもちまして事業の賃金支払い能力の問題が考慮されているのであります。この点は、たとえば有名なオーストラリアの連邦裁判所長のヒギンスという方が、生活費賃金の原則は不可侵である、そしてそれは取引のらち外に置かれなければならない、こういうことを申しておるのであります。それはどういう意味かと申しますと、生活費賃金の支払えないような企業はつまり存立の基盤がないのだ、こういうことであります。なぜかならば、たとえばいかに企業の支払い能力がないにいたしましても、原料を買う場合には世間並みの相場で買っておるわけであります。労働力を買う場合にのみ企業の支払い能力がないから世間並みの相場では買えない、こういう理屈は成り立たないわけでありまして、世間並みの相場で労働力を買い、労働者を雇い入れた上で企業を営むというのが当然のことであります。まして最低賃金法案の一つの目的といたしますところは、この法案の目的のところにも書いてありますように、「国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」こういうことであります。国民経済の健全な発展に寄与するということは、これを具体的に申しますならば、いわゆる日本の産業の二重構造と申しますか、一方では大企業が聳立し、他方では多数の中小企業が存在しておるという、この産業の二重構造を一刻も早く克服し、中小企業をすみやかに近代化の方向へ持っていかなければならない、こういうことだと思うのであります。中小企業の近代化を促進するために、最低賃金法案が一つのてこの役割を果すわけでありまして、そうだといたしますと、事業の支払い能力ということに重点を置くあまり、つまり中小企業の現状を肯定するということになっては、日本経済にとってこの最低賃金法案が役に立たない、こういうことにならざるを得ない。これがまず第一に指摘したいと論点であります。 それから第二の論点といたしましては、最低賃金の決定方式についてであります。最低賃金の決定方式につきましては、ILOの条約にも明らかにされておりますように、各国が自由に自主的に自国の国情に合せてその制度を考究することを許されておるわけでありますし、またそれは当然のことだと思うのでありますが、だからといいまして、先ほど申しました国際的な原則といいますか、最低基準に反することがあってはならないと思うのであります。最低賃金制度における国際的な原則というのは、一九二八年のILO総会においても確認しておりますように、最低賃金制度の運用について労使が対等に参与する、言いかえれば、労働条件というものは労使が対等の立場で交渉によってきめるべきものである、これが国際的に確認されております原則であると同時に、近代的な労使関係のいわば基本的なあり方だといっていいと思うのであります。 こういう観点から見ますと、この政府の提案の最低賃金決定制度は四つの方式から成り立っており、その中でも業者間協定に重点が置かれているわけであります。これは業者がお互いの話し合いで最低賃金をきめるということでありまして、こういう方式をとります限りは、中小企業の労働者諸君の意見なり希望なりというものはなかなか反映しにくい仕組みを持っておるのじゃないか。もちろん賃金審議会というものが設けられることにはなっておりますが、これがあったといたしましても、一たん業者門協定で最低賃金がきまりますと、それを賃金審議会でくつがえすということはなかなかむずかしゅうございます。ですからそういう観点から見ますと、業者間協定方式というのは国際的に確認されておる原則から見て、やや問題があるのではないか。つまり戦前における賃金決定の仕方、戦前においては御承知のように使用者が一方的に賃金を決定しておったのでありますけれども、そういう賃金決定の仕方がこの業者間協定方式では継承されるのではなかろうか、こういうふうに危惧するものであります。 それからもう一つの問題といたしましては、最低賃金制度の法的強制に服しますためには、まず使用者が業者間で協定を結ぶという第一段のプロセスが必要であります。それをさらに使用者が合意をした場合に、「当事者の全部の合意による申請があったときは」云々ということになっておりまして、最低賃金の法的強制を受ける場合はそういう二段の手続が必要である。こうなりますと、どうしても企業の支払い能力といいますか、中小企業の現実ということを、あまりに大きく見過ぎるきらいが出てくることになるわけでありまして、この点も諸外国の最低賃金制と非常に異なる点ではなかろうかと思うのであります。時間もございませんので、最低賃金制の決定方式につきましての意見は、その程度にとどめておきたいと思うのであります。 それから第三の論点といたしましては、すでに御承知のように、業者間協定は労働省の勧奨によりまして、三十三年の八月三十一日現在で、四十八協定締結せられております。その内容を調べてみますと、賃金の増加率一〇%未満が四十八協定の中で十一・一%ないし一九%が二十九ということになっております。二〇%以上が八、従ってこの業者間協定に基く賃金増加率は、ほぼ一〇%ないし一九%のところではないかと考えられるのであります。しかも問題なのは、この賃金が一割ないし二割増加いたしましても、それはほとんどいわゆるコストにはね返っていないのであります。賃金上昇に要しました費用は、労働能率の上昇その他に吸収されておるわけでありまして、結局現在の業者門協定というのが、中小企業の企業の支払い能力の画においてはほとんど影響を与えていないということは、中小企業が果して現在行われております業者間協定で、さらにみずからの企業の体質改善なり合理化なりを促進するような働きを果すであろうか、こういう点が非常に疑問になるわけであります。 要するに結論的に申し上げたいことは、現在中小企業の労働者は非常に莫大な数に上るわけでありますけれども、この労働者諸君は、労働組合もなければみずからの意見を表明する場所というものを持たないのであります。ですからこれらの人々は、わずかに転職をするとか、つまり定着率が少いということでみずからの意向を消極的に表明しておるにすぎない。これらの人々に対して、これらの人々の声なき声を反映せしめる機構というものを、ぜひお考えいただきたい。これが最後に結論的に申し上げたいことであります。 最後に、社会党提出の法案について意見を述べさしていただきたいと思います。社会党の提出いたしました法案全体を貫いておる考え方というのは、中小企業の労働者の賃金は、国家が政策でもってきめてやればいいんだ、こういう考え方がどうも強く現われているような気がするのであります。ということは、つまり賃金審議会というものの性格が、十分に理解されていないのではなかろうかという点が感じられるのであります。賃金審議会というものは、これは未組織労働者に対して、いわば団体交渉の場を提供するという意味を持つのでありまして、こういうような未組織労働者の、つまり団体交渉のできない労働者に対して団体交渉を強制する、こういう意味を持つわけであります。そういう点から考えますと社会党の法案は、中央賃金審議会というものが設けられてありますけれども、中央賃金審議会というものでは、一体どうすれば中小企業の労働者の意見が反映できるであろうか、こういう点を私は疑問に思うのであります。でありますから、少くともイギリスにおけるようなトレード・ボード方式、職業別賃金審議会でありますか、あるいは産業別賃金審議会、こういうものについての配慮が望ましい。そういう産業別賃金審議会方式を採用するということは、一律方式と決して矛盾しないのであります。一律方式と併用することが可能なのでありますから、この法案における一つの欠点というのは、やはり最低貸金というものは何らかの意味で、団体交渉というものを基盤にしてきめるのだという考え方が非常に稀薄である。国家が一挙にきめてやればよろしいというような考え方がうかがわれる点に、問題があるということを申し上げておきたいと思うのであります。なお一律方式につきましては、しばしば現実に合わないというような批評がなされておるのでありますけれども、ただここでちょっと御注意いただきたいことは、最近新規学卒者、特に中学卒者の労働市場は非常に逼迫しておりまして、どこでも労働力不足が叫ばれております。そういう状況のもとで新規学卒者、特に中学、高校卒の労働者の初任給というものが、全国的に平均化するというか標準化する傾向が現われておるのであります。早い話が、地域別に業者間協定を作りまして、初級賃金がおのおの違うのでありますけれども、低い初級賃金のところには、労働者が集まってこないというような問題が出ておるわけであります。高いところに集まる。ですから業者間協定をとった場合でも、やはり初級賃金というものを統一しなければならないような条件というものが、戦後の日本の労働市場の特質として、そういう契機が現われておるわけでありまして、そういう観点から見ますと、一律方式は、あながち経済的な条件を持たないというふうには断定できないと思うのであります。新規学卒者の初任給が、全国的に、つまり全国的な労働市場の広がりというものが出て参りましたものでありますから、全国的に統一するということが、産業別の賃金格差というものを考慮に入れた上でも、あるいは企業規模別の賃金格差というものを考慮に入れた上でも、そういう戦後の初級賃金の標準化という契機を、私どもは無視することができない、こういうことを最後に申し上げておきたいと思うのであります。 時間がやや超過いたしましたが、大へん簡単ながら私の意見を終らさしていただきたいと思います。(拍手)
○八田委員長代理 次に東京大学社会科学研究所員氏原正治郎君にお願いいたします。
○氏原参考人 最低賃金の幾つか法案を拝見して、私の考えておる点を簡単に申し上げます。 原則的な点が二つあるのでありますが、一つは、賃金はどうやってきめるかということであります。これは一般論でありますが、今日の賃金決定の原則からいいますと大体において賃金は当事者できめていくのが原則だと思うのであります。今日では当事者といいましても、大体経営者団体と労働者団体、組織された労働者との間で賃金を自主的に決定する、これが国際的にも認められた原則ではなかろうか、こういうふうに考えるのであります。 こういう観点から政府提出の法案と社会党提出の法案を拝見しますと、第一に私がわからない点は、賃金審議会と行政官庁との関係でありますが、賃金審議会というものは私の今申し上げました点からいきますと、当事者の代表者によって自分たちの賃金をきめるというのが建前ではなかろうか、私はこう思うのであります。 そこで二つの問題が出るのでありまして、一つは、それでは賃金審議会がきめた賃金がそのまま最低賃金ということになるかならないか、こういうことでありますが、その点を拝見してみますと、はなはだ明瞭でない点がある。たとえばどういう点かと申しますと、政府案におきましても、まず第一に業者間協定があって、あるいは労使間協定についても同様でありますが、なかんずく業者問協定の場合には業者だけが協定で賃金をきめている。そうしてこれが最低賃金の諮問にかかるわけでありますが、そうすると最低賃金審議会はイエスかノーかしか答えられないのであります。かりにその場合に労働者の代表がノーと答えたといたしますと、業者間の協定は最低賃金にはならないのであります。でありますから、今業者間協定と最低賃金というようなものをかみ合せて考えてみますと、わかりやすく言えば、経営者が賃金に対する要求を出して、それに対して労働者の方ではノーとしか答えられない、こういうふうな関係が成立していると思うのであります。これが第一点であります。 それでは最低賃金審議会で、業者間協定でも労使間協定でもこれを最低賃金にするとし、また行政官庁の職権によって最低賃金審議会に諮問がきて、そうして賃金審議会でそれを最低賃金にきめまして、そしてこれを労働基準局長のところへ持っていったところが、基準局長はそれをそのまま尊重するということにはなっておりますが、そのまま最低賃金にするかどうかも法案上は明らかになっていない。あるいは基準局長はその金額の内容を変えることができるかできないかもはっきりしていないのであります。自主的な賃金決定ということから言えば、賃金審議会で決定されたのが第一義的に優先するわけでありまして、そうして行政官庁では、それがまあはなはだ不適当だと思うときに再審議を要求することは、これはある意味では当然でありますが、金額を変えるということはできないのでありますが、それについてはこの法案は触れていないのであります。これは社会党案についても同様であります。でありますから賃金審議会と行政官庁とは一体どういう関係に立つのか、この点を私は第一に指摘しておきたい、こういうふうに考えるわけであります。それからもう一つは、そういう観点からいきますと賃金審議会の委員及び特別委員の選出方法でありますが、これも政令によってやる、こういうことになっておるのでありますが、今私が申し上げました観点からいきますと、賃金審議会の委員及び特別委員は、これは当事者を代表するものであるということが当然のことであります。でありますからこれもこの法案だけではわからない点でありますが、当事者を代表するような代表制がどういうふうになっているかということがもう一つの問題点であります。 それからもう一つ、これは最低賃金を決定する場合の決定方法についてでありますが、これについては、政府案におきまして四つあがっておるのでありまして、一つは業者間協定を賃金審議会の諮問を経て、そうして最低賃金とする。もう一つは業者間協定の拡張適用、それから労使間協定の拡張適用、それから行政官庁職権によって最低賃金審議会の議を経て最低賃金をきめる、この四つの方式であります。このうち第一番目の点について申しますと、これはもともとは——これは最近問題になっていることでありますが、業者の間の不公正競争を調整するということであります。つまり賃金の高い事業と賃金の低い事業があれば、賃金の低い事業は不当な利益を得ている、そうして賃金を高く支払っている業者はそれだけ賃金コストが高いわけでありますから、競争上不利に置かれる、だからこれをならすようにするというのが建前で、これは今日始ったことではなしに、古くからこういう慣行は存在しているのであります。もしも業者間協定なるものがそういうものであるといたしますと、これは競争条件の平等化、こういういわば業者の——行政的なことはどうでもいいのですが——範囲からいきますと、商工行政的なものでありますから——これも別の機会に私指摘したことでありますが、たとえば中小企業団体組織法の商工組合の中の調整事業の中に賃金の項目は入っておりませんが、賃金の項目を入れてもこれは可能であります。でありますから不公正競争の是正ということは最低賃金制にとってはなはだ重要な論点の一つでありますが、もう一つは労働者の保護ということがあるわけでありますから、その点については労働者の意見を入れるということが建前ではなかろうか、私はこう考えるのであります。 それから労使間協定につきましては、現行法の労働組合法十八条で労使間協定の拡張適用ということは行い得るのであります。そういたしますと、最低賃金審議会で最低賃金をきめるということにとって今日一番重要な点はどこかと申しますと、労使間協定の存在しない分野で、そうして業者間協定では不適当だと考えられる場合に、最低賃金審議会が活動すればよろしい、こういうことになると私は考えるのであります。 これは政府案についての点でありますが、もう一つ社会党案につきましても同じ点で問題になりますのが、社会党案によりますと、国が、国会が賃金をきめるという建前になっているのでありますが、賃金は、経済学的に申しますと国会あるいは国が賃金を直接統制するというようなのは、これは戦時中のような非常に例外的な場合はありますが、一般的な原則ではないわけであります。そういうことでありますから、その点も十分御考慮願いたい、こう考えるのであります。 第三番目に申し上げたいと思いますのは、技術的な点が幾つかあるのでありまして、その技術的な点をとってみますと、この法案を読んでみましてもよくわからないところが幾つかある。たとえば最低賃金ということが書いてあるのですが、最低賃金の定義が何であるかということがわからない。たとえば最低賃金は「時間、日、週又は月によって定めるものとする。」ということですが、一日当りの賃金がかりに三百二十円だといたしまして、これは八時間の三百二十円もあれば、六時間の三百二十円もあれば、一時間の三百二十円もある、こういうことでありますから、その場合には一体どれを最低賃金にするのかということが、少くともこの法案上は明らかになっていないと思うのであります。こういう点をいろいろ拾っていってみますと、これは技術的な問題でありますが、幾つかわからない点が出てくるのであります。こういう点もいろいろ御審議願えれば幸いだと考える次第であります。 はなはだ技術的な点でありますが、私の意見は簡単でありますが、以上であります。
○八田委員長代理 どうもありがとうございました。 次に東京大学教授石川吉右衛門君にお願いします。
○石川参考人 ごく簡単に私の意見を述べさしていただきます。 実は御承知かと思いますけれども、特に政府案が作られますもととなりました中央賃金審議会に関係しておりましたので、その答申案の作成にあずかったわけで、そういう意味でおそらくお呼びをいただいたんじゃないかと思うわけでございます。しかしもちろん私が申し上げることは、私の責任においての話であります。率直に申しまして、一律方式がいいか、あるいはこの政府案の方式がいいかということです。そこで私たち——と申し上げてもよろしいと思いますが——考えたことは、実現可能——実現不可能なことはこれは問題にならぬのは当然であります。それからもう一つは筋を通すということでございます。筋を通すということは、今問題になっております業者間協定というようなものが、これは私の私見でございますけれども、在来の意味における最低賃金ではなさそうであります。結局一律方式がよろしいということは、私ばかりでなくてすべての方が御賛同下さることではないかと思います。しかしながら実現可能というところから、それはややむずかしいのではないかということでございます。それで問題は、一応最低限をやるのだけれども、しかしそれが将来の一律方式に対してブレーキをかけるようなことになってはいけない、実はこの点が一等心配であったわけです。それからつもう一つは、実現可能と申しましても、大企業の方ではあまり問題にいたしませんが、商工会議所系統の方では非常に反対がありまして、それをいかに調整するかというところに苦心があったわけで、その間の事情をおくみ取り願いたいと思うわけでございます。そんなわけで、一番問題は、このような業者間協定、あるいはその拡張、あるいは労使間協定、あるいはこれは労働協約といってもいいかもしれません、あるいはまた審議会のイニシアチブによって行政官庁がきめるところの最低賃金、こういうものがストップ的機能を果しはしないかということなのでございますが、私はその心配はないのではないか。もしその心配があるとするならば私は反対するつもりでおるのですけれども、そういうことも、率直に申し上げて、ないようではないか。しかしながらこれで満足なものでないことは、これは十分わかっております。 それからもう一つは、このような法律ができまして、労働組合に対してどういう影響を与えるかということを、私は個人として心配せざるを得ないわけです。組合活動がしにくくなる。たとえば組織活動、将来中小企業における組織ということが一番問題であろうと思いますが、そういう組織活動ができなくなる、それに対するブレーキ的な要素になるというのであるならば、これは最低賃金と別問題で私は反対したいと実は思うのです。ところがそういう心配はないように思います。ただ一番最後に申し上げますが、労働組合法の十八条との関係で、技術的に非常にむずかしい問題が起ってくるとは思います。しかしながら大きく申しまして、組合活動に対してマイナスになるということはない、こう判断しておるわけでございます。 そのようなことでストップ的な機能というものはまず心配ないのでありまして、それじゃその実現可能の、最低限実現可能という問題はどうかということを申し上げます。もう少し上の方をきめることができたのではないかということでありますが、実はこの点はいろいろなデータもありますけれども、通常いわれております通り、産業構造の根本問題に関係するわけで、中小企業問題というのは、私専門家でないのでよく勉強したことはございませんけれども、日本特有な問題であります。はなはだ遺憾ながら、これがなければ外国と太刀打ちできないという議論もあるわけですから、ある意味では日本の強みであるといえるかもしれません。これを全体的に考えないで、いわば最賃法が独走するということはできないのである。そういう点で現在のようなところが妥当なところではないか、こんなふうに思っておるわけです。感想を申し述べさせていただきますと、実は日経連の方たちがよくここまで譲歩して下さったというくらいに私は思っておるほどなんです。 それからあと二、三の点を申しますと、技術的なことですが、先ほどから問題になっております通り、およそ賃金というものは、労使双方が自主的にきめるべきものである。これは私も大賛成でありまして、本来労働協約できめるというのが本筋だろうと思います。世界各国でも、たとえばドイツあたりにおきましては、労働協約は最低賃金の役割をなしておることは御承知だろうと思います。ただ必ずそうであらねばならぬかと申しますと、少しく異論がありまして、およそ賃金ばかりではございませんで、たとえば労働時間その他およそ労働協約の内容となり得るような事項は、本米自主的にきめらるべきものである。ところが労働基準法を初めといたしまして、船員法その他で国家が直接に入ってくるということは、すでに認められておることです。自主的にきめられないようなところにまさに国が出てくるわけで、これは社会党案が一律方式をとられておることも当然なことではないか。私たちの言葉で申しますと、いわゆる労働保護法という、国家が直接に労働条件の内容に入ってくるという問題を否定してしまうことは、およそ労働基準法を否定してしまうことに——これはちょっと論理が飛躍するかもしれませんが——つながりかねないわけです。そういうわけで国が直接出てくることとは本来望ましくないわけです。これは当然ですけれども、しかしながら望ましくないということでほっておくことができない部分もあるということで、そこがまさに最賃法が働き得るところです。これは社会党案の両方について言えるのですが、これが一点。 それから審議会の権限強化が問題になっております。実はこの点私もどう考えていいか、実際のことを申しましてよくわからないところですけれども、ともかくもこの程度で一つ発足してみたらどうか、それでもう少し権限を強化する必要があるならば、そこで法律を改悪でない意味で改正していただきたい。それでよろしいのではないかと思うわけです。 最後に法律家として、一言どうしても申し上げておかなければいけないことは、労働組合法十八条との関係で、現在政府案では附則で、たしか通知ということになっておったと思います。この点が将来相当問題になる可能性があるのじゃないか。この点は、賃金審議会の構成、それから労働委員会の構成ということで、おそらく政治的に相当問題になるのじゃないかと思いますが、そういう問題は別といたしましても、将来問題をあとに残すのじゃないかという感じが、率直にいたすわけであります。これは立法技術上相当問題でありまして、それじゃお前ならどうするかと言われても、対案の持ち合せがないことをはなはだ遺憾とするわけですけれども、ただ、ごく将来にこういうことが起ってくる。でないと、先ほど私が申しましたような、組合の組織活動というものに対してブレーキ的役割を果すおそれもなきにしもあらず、そういう心配がちょっとするわけでございます。 また時間はあるかもしれませんが、一応この程度で終らしていただきたいと思います。(拍手)
○八田委員長代理 ありがとうございました。 次に、産業経済新聞論説委員波多尚君にお願いいたします。
○波多参考人 私は、この最低賃金に関する政府案を大体において支持いたしたいと存じます。全般的に申しますと、この法律案が前国会で見送られて、かなり時間もたっておりますし、今回またできないとなると、かなり延びるのじゃないかということを心配いたしておるのであります。この法律案に関しまして、おそらく低賃金労働者には、かなり期待している人たちが非常に多いのではないか。これは時間をおくらせますと、賃金格差の拡大というようなことはさらに進行いたしますし、なお、今業者間協定が進行しておりますが、その実情は必ずしも十分でない。こういう野放しの業者間協定が進行いたしますと、またこれを是正することがかなりむずかしくなるのではないか。そういう実績の上において問題がやはり今後にこじれてくるという面があると思いますので、実は私は非常に不満足な——この政府案にいたしましても、論点が多いと思いますけれども、なるべく早くこれを出発させていただきたいという考え方を持っております。 今日までこの案ができます過程におきまして、労働問題懇談会や中央賃金審議会におきまして相当に議論を重ねられた経過をたどってみましても、その間においていろいろと労働者、使用者、当事者の意見がございましたが、終局まで、完全な意見の一致を見ないままでここに問題になっておるのでありますが、ともかくも私の感じておるところでは、この法案は現状よりか少くともよろしい。そして、今後どうするかという点にかなり意見の相違があるという点で、今度の社会党案における六千円、そして二年後に八千円という一律案が出ております。そういう点は、新しい立法に待つとかあるいはこれを一応実施して、そしてその考え方に沿うように、もう一歩進んだ改正の機をつかむかということで考えますと、私は、まずこれを実施しておいて、そうして新しい考え方によってもう一歩前進する改正の機をつかむという方向へ持っていっていただきたい、こういうふうに考えております。 今度の政府案が、ほんとうの意味から申しまして最低賃金ではないということ——それは最低賃金というものをどう考えるかということでありましょうが、これが労働者の生計を維持する、適当な生活水準を維持するという意味における最低賃金であるか、あるいはILO条約の規定にありますように、労使の意見が完全に反映するというふうなものであるかというふうな一般論、概念から見ますと、これは完全な意味における最低賃金ではない。しかしながら全国一律一本だけが最低賃金であるというふうには私は考えません。そういう例は世界にも割合少いようでありますから、業種別あるいは職種別あるいは地域別というふうに多少分れておっても、これはその国その国の事情によりまして差しつかえないものであろうと思います。問題はやはりこの政府案は業者間協定が中心になっておるという点に一番問題があろうと思います。業者間協定の本来の建前は、やはり労働者の保護という建前でなくって、むしろ業者の自衛策という考え方が中心になっておるという点に非常に問題があると思います。それは最近の労働者の募集難だとか、なかなか落ちつかない、定着しない、あるいはダンピングに対してアメリカあたりから文句が出るということから、自然そういうふうに業者自身も考えざるを得なくなってきたということが主たる推進力であったでありましょうが、しかし昨年から業者間協定を進められた経過を見ますと、結論としてはやはり労働者の保護にもなっておる面がある。実績として相当賃金が上っておる、労務管理の血にも関心を払わざるを得なくをなっておる、経営の合理化にも関心を払わざるを得なくなっておるという面がありますので、その動機いかんにかかわらず、業者間協定も相当な労働者の保護の実を上げつつある。ただスタートがそういうスタートでありますから、かなりそれには欠陥があります。 〔八田委員長代理退席、大坪委員長代理着席〕 その欠陥をどうして是正していくかという点がこの法案の中心になっておるというふうに私は考えます。それには行政官庁の指導ということが正面に出ておりますが、やはり最低賃金審議会の役割というものに相当重心を置いてこれを扱わなくちゃならない、またそういうふうに運用のポイントもあるいは規定の置き方も考えていくべき点が多いだろうというふうに考えます。つまり今までの業者間協定を見ますと、たとえば食費だとか現物給与というものの算定が実にいろいろと幅がございまして、金額としては月額六千円とか七千円とかいうところまで出ておりますけれども、その食費を二千五百円と見たり、はなはだしきは四千五百円と見たりというふうで、その間大きな幅がある。そういうことでは困るのでありまして、この点は賃金審議会というものが、まず労働者の保護の役割と申しますか、そういう代弁機関としての役割を果さなくちゃならないのではないかと思うのです。 それならばこの一律一本との比較において、つまり社会党案と政府案との比較においてどう考えるかという点でありますが、まず中小企業を対象として考えますると、労使の完全なる自由なる意見の一致ないしは交渉という形において現在の組合組織その他の関係を見ますと、これはなかなかむずかしい。そうしますと自然上から法的な力によってこれを規制していくという以外に現実に進める方法はなかろうと思われます。しかしながらあまり全国一律一本にやって参りますと、これが非常に無理になるということで、今までのいろいろな意見で強く主張されております点は私も同意するのであります。これを無理にいたしますと、単に中小企業が非常な打撃を受け、破壊するというほかに、やはり問題は実施できないとなると非常に脱法行為が出てくる。一方には潜在失業者も多いことですし、中小企業主というものは労働三法さえ理解し得ない人たちが多いのでありますから、自然やみのなれ合いが出てくる。あるいは同居の親族という名目のもとにいろいろもぐる点が出てくる。ちょうど今の食管制度が、やみ米を農林省でも公けに認めるというふうな実情を呈しておりますと同じようなことが、もしこの最低賃金法におきまして無理したために出てくるということであれば、またこれを立て直すために非常に困るだけでなくて、順法精神ということが労働問題においても非常に言われますが、そういう第二のケースをまたここに作るということであってはいけないので、やはり守れるような最低賃金というものを前提にしてスタートしなくちゃならないと思います。それにはやはり業者間協定を中心にして今スタートしようとしておる政府案というものは、本来の意味では最低賃金ではありませんけれども、一応これを大きな目で見て、一つの最低賃金制への準備段階というふうに解釈すべきではないか。またそれが実態であるというふうに私は考えております。わが国の中小企業が二重構造の底の方をなしまして、本来の意味での最低賃金というものを労使間で作ることもできなかった。だから上から押していくんだという建前で参りましても、これを欧米各国がこのようにやっておるから日本もできぬことはないということは、私は簡単には言えないんではないか、と思うのは、今の実情の相違であります。ことに日本の中小企業は失業者のプールという面も多分に持っておりまして、革に従業員だけでなく、業者自身が大企業の労働者なんかよりむしろみじめな、経済的な、精神的な不安定の中で悩んでおる。ほかに方法がないからやっておる。生きるために無理しておるというふうな人たちが非常に多いのでありますから、そういうものが中小企業のいろいろな諸対策と相並行いたしまして、たとえば私の描いておる理想図は、中小企業は一方には一つの系列企業として成り立たなくてはならない。また他方には中小企業独得の本来の分野がある。そういうふうなものに安定した分野に、これが整然と落ちつくまでは、なかなか安定しないのである。しかしそういうことはなかなか長い時間がかがる。それまで待っておるというわけには参らないということで、最低賃金法がここでスタートしようというわけでありますから、これを業者の自主的な自覚に待つということではもちろんありません。大局においてはそうでない。そうしますとこれをしいるのはやはり実際の力です。実際の力というのはそういう賃金で押していく、賃金を引き上げていくという、この現実の力が非常にものをいう。その程度がどこかということを判定するのには、この審議会の構成というものは非常に重大であろうと思います。これは一方には中小企業者を啓発していかなければならないという面があるのと一緒に、また中小企業自身は一般的に申しますと長いものには巻かれろというふうな、非常に何と申しますか、視野の狭い、権力には弱い、そういう意識を持っておる。それを引き上げつつ、他方従業員としての労働者の生活も見ていかなければならないという、広い視野を必要とするということでありますから、この点で最低賃金審議会というもののあり方に一応の懸念を持っておる次第であります。そしてこの問題を審議する過程におきまして、最低賃金審議会が優先するか、あるいは業者間協定が優先するかということに、いろいろ議論があるようでありますが、今日までの労働問題懇談会や中央賃金審議会において論じられてきた経過から見ますと、結局労使の意見、ことにその極端と言ってよいかどうか知りませんが、総評の一部の人たちと、それから日経連を代表する一部の人たち、あるいは商工会議所の代表というような人との間には、最後まで意見が一致していないというようなことで、ここまで来ておる。それがこの審議会の構成にどういうふうに反映していくか。もう一つの点から懸念いたしますのは、最近のいわゆる労働委員会というものが、労使代表はそれぞれの立場を固執しておって、結局公益委員によって決定するほかはない。議決権は公益委員に集結すべきではないかという意見が台頭しておる、こういうふうな流れの中で、この賃金審議会が発足いたします場合にどういうことに相なるであろうか。これは人選のやり方にも非常に問題があろうと思います。ことに公益委員、中立委員の選び万に問題があろうと思います。それともう一つは中小企業の実態についての今までの調査資料というりものが、お互いに断片的なというのは極言かもしれませんが、整備せざる資料の上で、抽象論を感覚的に戦わせておるという感じが非常に強い。この法案が出発して、その資料を整備していくということがやはり前提としては必要である。その意味におきましてもこの法律を早くスタートして、準備を整えるべきであるというふうに考えますか、同時にこの審議会の構成、運営というものは、よほど慎重に考えていかなければならぬ点が多いというふうに思います。なおこの審議会が諮問機関であるか、あるいは決定機関ないしは決議機関にまでこれを進められるかという点にも多少問題はあると思います。しかし私は、審議会の意見は事実上これは決定権を持つものであるということを信頼したいと思います。またこれに反するような決定を行政機関がすることは、おそらく事実上できないのではないか。ですから今直ちにこれを決定機関とするというところまで進めなくても、準備段階としてはこれでよろしいのではなかろうかというとふうに思います。 それから賃金決定の方法といたしまして、業者間協定それ自身、あるいはその拡張適用、それから労働協約というふうに並んでおりますけれども、労働協約というものは、組合の組織状況から見て非常に件数が少いであろう。そうしますと中心は業者間協定になるわけでありまするが、もしさっき申しましたように、資料、調査の整備あるいは審議会の運営というものに漸次習熟しまして、これが円滑に運ぶようでありますれば、運営の中心は職権決定、つまり十六条の方にウエートをかけるようにこれを進めていくべきではないかというふうに思います。そういうところまでいきますと、この準備段階というものがある成果を得たということになると思うのです。 それから二十七条に審議会の役割として建議ということがあります。建議はこれは勧告ということと同じように解釈したいと思うのでありますが、これも運用次第で、なるべくこの審議会の強力な活動を積み重ねていって、この建議というものが勧告以上の力を持つという方向へ運ばしていかなくてはならぬのではないか。 それからもう一つの問題は、中央、地方審議会のフアンクションの関係がこの法案ではあまり明らかになっておりませんが、これはやはり中央審議会が優位性を持つということにしていただきたいと思います。そしてこれを将来全国一本で歩みを進めるための一つの有力な手がかりと申しますか、運用上の方向というものに活用すべきではないかと私は考えます。 結論的に申しますと、今度の政府案は、そういう意味における理想と申しますか、目標の最低賃金の方へ行く一つの準備であり、極論的に申しますと、その間はこれを時限立法にしてもいいくらいな考え方で取り扱っていいのではないか。三年あるいは五年といろんな説が出ておりますが、その期間はこの実績次第で考えてよろしい。ですから、将来一般の理想的な形を作るまでは法律をスタートしないという考え方でなくて、これをそういう意味において解釈しまして、そしてその時期が来たならばなるべく早く次の一歩進んだ形における改正に持っていくというふうに政府案を取り扱っていただきたい。 これをもって終ります。
○大坪委員長代理 以上で一応参考意見の開陳は終りましたので、これより参考人に対し質疑を行うことにいたします。八田貞義君。
○八田委員 舟橋教授に御質問いたしたいと思いますが、まず最低賃金制の問題は、今日国際的にも確立された労働基本法の一つであろうと考えます。しかし各国の歴史や国情によりまして、その目的や根本的な考え方というものは必ずしも一致しておらぬわけでございます。すなわち最低賃金制の理念または把握の仕方が相違しているわけであります。従ってこういったところからいたしまして、最低賃金制に関する議論もその点から紛争が起ってきておる、こういうように考えるわけでございます。ところでわが国の今度の政府提案を見ますと、業者間協定が中心になっておることはもちろんでございますが、この業者間協定によるところの最低賃金法というものは、国際的には異例とされておるわけでございます。しかし諸外国の立法に至るまでの経過とか歴史などを考えてみますと、日本の産業構造と関連した場合に、これを異例であるから最低賃金制とはみなしがたい、こういう議論も少し飛躍しておるのではないかというふうに考えるわけであります。ところでお伺いいたしたいのは、政府案のような最低賃金法であっても、最賃法としての範囲内に含めさすことができるかどうかという問題でございます。この点について最低賃金制とお認めになっておられるかどうか、お伺いいたしたいと思います。
○舟橋参考人 ただいまの御質問でございますが、確かにおっしゃいますように、最低賃金制の内容というのは各国ごとに異なっておりまして、それぞれの国の実情に応じて、制度的な内容が作り上げられているということがいえると思うのですが、歴史的に見ますと、大体十九世紀の一番終りごろから、一般化いたしましたのは二十世紀の段階に入ってからなのでございます。もうそのころになりますと、いわゆる労働条件というものは労使対等で決定すべきだというような考え方——これは組合運動の発展の影響もあるでしょうが、そういう考え方が国際的にいわば確認されてきた。日本はそういう国際的な流れの中で特におくれていたわけでございます。ですから最低賃金制度というものは、国際的に見て団体交渉制度が定業別、地域別に非常に発展いたしまして、その団体交渉の及ばない範囲、すなわち未組織の労働者に対して、団体交渉的な制度を国家が何らか考えてやろう、こういう流れを持っているように思うのであります。つまり未組織労働者の場合は組合がありませんから、賃金をきめてもそれを担保する力がない。ですから賃金審議会などで団体交渉のかわりになる制度を作ってやって、そしてそこできまったことを国家が担保してやる。さっき石川教授もおっしゃいましたように、労働保護の考え方というのはそういう考え方だと思うのですけれども、そういうことだといたしますと、最低賃金制というものはいわば団体交渉による賃金決定の補足的制度だというふうに理解していいのではないかと思うのですね。つまり歴史的に形成されてきた最低賃金制という概念からいいますと、今度の政府案は、ちょっとその範囲外に置かれはしないだろうか、これは日本の実情もありましてなかなかそういう歴史もありませんから、そこへ一足飛びに行くこともできぬということがあるかもしれぬと思いますけれども、大まかに言いまして、やはり最低賃金制といわれているものの範囲内に厳密にいって含まれない部分があるのじゃなかろうか、こういうふうに思うのでございますが、しかし最低賃金制じゃないというふうにも言い切れないと思いますし、そこはちょっとデリケートでございますけれども、私はそう思っております。
○八田委員 まああいまいな性格のような、というふうなお答えがありましたが、この点は賃金の意思決定の原則との調整を基本的にどういうふうに考えていくかという問題から、今の御答弁に私も同感でございます。ただ問題は日本の産業構造と申しまするか、それに対する認識の問題とつながってくると思うのであります。御承知のように、わが国の今度の対象になる最低賃金制の階層は、いわゆる零細企業者になってくるわけなのでありますが、先生は先ほど日本の産業構造は二重構造だというふうにおっしゃいましたが、私は三重構造ではないだろうかと考えるわけであります。すなわち日本の業者間協定を理解するには、日本の特殊な産業構造、いわゆる三重の産業構造に対する十分な認識が必要であろう、こういうふうに考えるわけであります。ところで日本の産業構造を掘り下げて参りますると、規模の小さいところでは組織率が非常に低いわけであります。組織ができ上っていない場合は、常時における正しい意味の労働代表者というものは選ばれて参りません。それで救済的な処置あるいは経過的な処置として業者間制度というものを理解していくのが正しいのではないだろうか、こういうふうに考えているわけでございまして、これがまた刺激となって労働組合の結成あるいは組織化が進行していく。進行した暁には、第十一条によるところの労働協約によって最賃が進められていく、こういうふうに考えて、日本の産業構造との関係を見て、私は理解いたしているわけでございます。 ところでもう一点お伺いいたしたいことは、最低賃金と申しましても何を対象にして最低賃金というか、最低々々と申しまするけれども、これは決して絶対的なものではなくて相対的なものであろうと考えるわけでございます。ところが社会党の全国一律十八才八千円というのは、これは理論的な生活費から出してきているわけであります。実際はこういった理論的な生計費から出してくるというやり方は、日本の現在の産業状態を全く忘れた空想的な案である。やはり実際的な生計費から割り出してこなければなりませんし、また実際的な生計費ということになれば、そのとき、その地域によりまして違ってくるわけであります。ですから私は、こういった理論生計費から割り出した金額というものを国家権力によって押しつけるということは、先ほど石川先生でしたか氏原先生でしたか、これは外国にも見られないことだ、国際的にもこんなものは見られないだろうというふうにおっしゃいましたが、まことに私も同感でございます。ところでこの平均という場合はこういうことが問題になっていくかと思うのでございます。平均額を出す場合には均等に分配したと仮定した金額を意味するわけでありますから、平均概念をもって考えて参りますと、分布に幅がなくてほとんど平均に集中している場合だけしかその意味はなくなってくるというふうに考えられる。ところでこの最低額と平均額との関係でございますが、最低額は平均額を上回ることはできないわけであります。いずれの場合でも平均水準の何割かにとどまってきておるわけであります。しかも最低額は平均額の変化とともに変ってくる、こういうようなことから考えますと、わが国の場合から考えてみまして、最低額をどのようにしてきめていくのだということは、現在支払われているところの賃金の分布の幅というものを知らなければならぬ。ところが日本の中小企業の賃金分布というものは相当に広い幅がありまして、平均よりもはるかに低い賃金が存在するわけであります。こういった状態にあるばかりでなく、その場合に平均よりもどの程度に低いところを最低と見るかどうかという問題になりますと、先ほど申しましたように、分布の幅というものが知られていかなければならぬわけでありますが、この中小企業における賃金分布の幅というものがまだわが日本ではでき上っていないわけでございます。この点に、最低額をきめる場合に一体何を対象にしてきめていくかということは、非常に問題であろうと思いますが、この問題について、一体対象を何に求めて最低額を割り出していくべきかということについて、舟橋先生から一つお教えを願いたいのであります。
○舟橋参考人 これも国際的に見ますると、最低賃金の基準ということは非常に問題になっておりまして、大体生活費賃金を基準にするという考え方が一般的のようでございます。特に有名なのはオーストラリアの場合でハーベスター賃金というのがありまして、これは五人家族をまかなうに足る賃金が基準になる、これは日本の実情から申しますと夢のような話でありますけれども、そういう原則がオーストラリアでは確認されるというような状況であります。それからフランスの場合は、御承知かと思いますが、団体協約最高委員会で審議いたします場合には、例の理論生計費を基準にいたしまして、二千八百何十カロリーでありましたか、これもかなり高い水準がとられているわけであります。国際的に言いますと、今申し上げましたように、生活費をまかなうに足る賃金というものが一応基準になるわけでございますが、今御指摘がありましたように、日本の場合は中小企業、零細企業の賃金が底なしに非常に低いものでございますから、そういう生活費賃金の原則というものを即座には適用できない面も確かにあると思うのでございます。しかしそれはほかに求める基準がございませんものですから、やはり一応は生活費賃金を基準にするということにならざるを得ないと思うのでございます。それで現在支払われておる賃金の実情を勘案して決定するということにならざるを得ないと思うのでございます。ですから絶対的の基準というものはどこの国にもなかったわけですし、一応生活費賃金を基準にして相対的に賃金額をきめていく、こういうことになっておったと思います。
○八田委員 それからこういった生活費を基準としてやっていく場合にも、もちろんこれは相対的なものでありまするから、そのとき、その地域によって非常に変ってくるわけでございます。それからもう一つ考えておかなければならぬことは、最近エアハルト氏が見えまして、有効需要を高めるためには日本の労働賃金の水準を高めていかなければいかぬ、こういうようなことを言っておるのであります。ところが日本の賃金構造というものがエアハルト氏が簡単に言うような割り切り方では説明できないと思うのです。というのは、日本の賃金構造というのは、要するに労働市場の問題に通ずるわけでありますが、資本が少くて、そうして非常に求職者が多い、そういう関係から、わが日本にこういった賃金形態が出てきているわけです。ですから、こういった場合を考えてみますると、一体日本の総生産に占める個人消費の問題というものを考えていかなければならぬわけです。ところで、日本の総生産に占める個人消費というものを考えてみますると、こまかい年度別の数字は省略させていただきますが、国民総生産の六割から六割一分が国民消費となっているわけです。この比率は西ドイツよりは高くなっております。ところがイギリス、アメリカなんかから見れば低いわけなんです。こういった点から考えてみまして、日本の総生産に占める個人消費というものが低い、こういうことがはっきりと出てくるならば、経済政策あるいは労働政策として思い切って所得を増加していって、国内で購買力をふやしていく、こういった経済方式も成り立ってくるわけなんです。ところが先ほどの数字で申し上げましたように、日本の国民総生産に対するところの個人消費というものは、決して低いということはいえない、むしろ高いというような格好に出てきているわけです。これをさらに比率を六割五分とか七割に上げていこう、こういったことになって参りますと、結局はあとの投資とか財政の比率を落していかなければならなくなってくるわけであります。こういうふうになりますと、一時的には賃金を上げていって国内市場の活況を来たす、こういったことでプラスは考えられまするが、場合によってはさきづかえをしてしまうというような結果になってきてしまって、むしろ経済の混乱というものがここから起ってくるのではないかというような考えを持つものでありますが、全般的にながめてみまして、所得の分配率の問題になって参りますか、やはり日本の個人の消費というものについて妥当な線というものを考えていかなければならぬと思うのです。ところで、個人消費が日本は現在六割から六割一分もある、これをさらに賃金を上げていって国内市場が活況を来たすこと、購買力が増すということは非常に私賛成でございますが、このために大切な道路とか、港湾とか、そういったものの費用が抑圧される、そうすると、結局日本の経済基盤というものは大きくなっていかない、強化に役立たないという格好が出てくるわけであります。こういった点から考えますと、日本の個人消費というものを長期の経済政策から考えるならば、ある程度まで押えていかなければならぬという格好が出てくるわけでありまして、従ってこういう観点からすると、今後の中小企業に対する賃金の最低額をきめて、そうして労働条件をよくしていくというためには、社会保障政策というものも十分にからみ合せて考えていかなければなるぬわけでございます。そこで、この個人消費が国民総生産に占める割合というものについて石川教授からお教え願いたいと思うのであります。
○石川参考人 私法律屋でございますのでやや場違いだと思いますが、非常に興味のある問題なので、お答えと申しますか、さしていただきます。 実はエアハルト氏の言からなんですけれども、率直に申しまして、私はエアハルト氏の言うことに相当同感です。私経済のことはよく知りませんけれども、大づかみに申しまして、どうでしょうか、将来インフレというよりも、どちらかと申しますと、技術革命等から過剰生産ということの方が心配になってくるので、有効需要はもっともっと喚起してもいいじゃないか、だから、もっと無責任なことを申しますれば、日本だけでもって外貨がなくなってだめになれば、どこかの国がほっておきはいたしませんから、一つ大いに——これは非常に乱暴な意見ですが、専門家でないから乱暴な意見も言えるわけですけれども、もっともっと考えてもいい。それからちょっと意見になるようですけれでも、先ほど道路、港湾というような点で、そういう非常に重要なことがおろそかになるじゃないかという御質問もありましたが、それは確かにそうで、日本の道路、港湾その他で、これからまた対外的な競争というようなことで、そういうことは非常に重要なことと思います。しかしながら場違いですけれども、その道路とか港湾分でセメントを食ったり砂利を食ったりする、そういうようなことがなければいいのですけれども、そうでない、ほんとうに適正な道路が作られるというんだったら、私たちは有効需要も少しがまんして、その道路も作ろうと思う。ところが私の見聞するところにおいては、少くとも新聞の伝えるところにおいては、そうでないということになりますと、実は相当エアハルト氏的な考え方に賛成なんです。
○八田委員 今石川先生からはっきりとした御答弁をいただいたのですが、私の考えているのは、国民総支出の構成比というものをながめてみますと、日本の個人消費というものは非常にワクが大きいのであります。そうしますと、政府消費とか、公共投資とか、民間投資、あるいは在庫増減の割合とか、あるいは海外経済の余剰の問題、こういうふうな分け方をいたしてみますと、個人消費の面についてある規制を加えていかなければならぬ、特にどんどん購買力を盛んにしていけば非常にいいのだ、こういう考えもできてくるわけでありますが、国際収支とか、あるいは物価の問題とか、貯蓄の問題、こういった関連から考えて参りますと、ある一定の限度以上にふくれ上って参りますと、これはかえって企業構造にマイナスの状態を来たしてくる、こういうふうに考えますので、日本の現状下における望ましい理想の形として、下の方を上げていって、底を作って底上げをしていって、そうして所得そのものの平衡作用によって経済全体が強化されていく、こういう形が一番正しいものであろうというふうに考えておるわけでございます。こういった観点からいたしますると、本日の参考人の諸先生方からは家内労働に対しての御研究がなかったようでございまするが、最低賃金制というものは家内労働問題と切り離しては実効が上って参らぬわけでございます。諸外国の立法例などを見ましても、最賃の問題はむしろ家内労働の問題として扱っている例が少くないのでございます。わが国では中小企業にとってすらこの最低賃金という問題は相当な問題であるばかりでなく、まして家内労働にとってはきわめて重大な問題でございます。ところが政府案には最低工賃の規定はございまするが、その運用を一体どういうふうにしてやっていくかということについては非常にはっきりしない点があるわけです。この点が非常に不安となっておるわけでございますが、これにつきまして一つ舟橋教授から、もう一度この家内労働について、最低工賃の規定はございましても、その運用ということは非常に問題になってくると思うのであります。それとともに家内労働法を立案していく場合において、その基本的方向、こういったことが非常に私の知りたいところなんでございますが、これについてお教え願いたいと思います。
○舟橋参考人 時間がありませんで、家内労働法の問題に触れられませんでしたが、家内労働法は最低賃金制の法案と非常に密接不可分の関係にある、それはどうしてかといいますと、つまり最低賃金制を実施されてやっていけなくなるような企業が、その仕事を家内労働の方に回すということになるわけで、つまり家内労働法というものの支えがなければ、最低賃金法がいわば底のないものになってしまって、ざるのようなものになってしまう、こういうことであります。家内労働法案で一番問題になりますのは、日本の場合、非常に複雑な態様を持っておりまして、特に仲介人などの規制が一番むずかしい点じゃないかと思うのですが、その点で、たとえば工賃の規定と同時に、やはり仲介人の規制ということをどうするかということに重点を置いてお考えいただけたらいいんじゃないかと思うのでございます。
○八田委員 どうもありがとうございました。
○大坪委員長代理 多賀谷真稔君。
○多賀谷委員 まず舟橋先生にお聞かせ願いたいのですが、国際労働条約の、ことに商工業における最低賃金制の条約というのは今から三十年ほど前にできたわけであります。そしてその際には西欧の先進諸国では最低賃金制が実施されておりましたけれども、アジアの諸国その他ではまだ全然実施されていないときであります。しかも国際条約として賃金規制をしたのが初めての試みであった時期でありますので、このILO条約は批准国の自由裁量の余地を残して比較的寛大な条約になっておると思うのです。そこでそれを奇貨といたしまして業者間協定をもって最低賃金として、これでまあ国際条約の批准ができるのだ、こう言いますと、なるほど形式的にはあるいは自由裁量の余地があるから問題ないかもしれませんけれども、果してそれが国際場裏に通用するかどうか、やはり非難の的になりやしないか、こういうことを考えるのですが、これに対してはどういうようにお考えですか。
○舟橋参考人 私もその点を懸念いたしまして、今日最初に意見を述べましたときにもちょっと申し上げたわけでありますけれども、国際的な反響がどうかということが一番心配しなければならない点だと思うのです。とにかく、戦後GHQの労働諮問委員会が参りましたときにも、日本の賃金について非常に強い指摘を行なっておりました。それはどういうことかといいますと、日本の賃金というのはどうも客観的な基準がなくて定められている、つまり使用者が一方的にきめているような部分が多いのじゃないかということを、GHQの労働諮問委員会は指摘しておったのでございますけれども、私ども日本におりますと日本の賃金のことはあまり気がつかないのですけれども、外国人から見ますと、日本の賃金のあり方というものは非常に不思議に見えるらしいのでございますね。そういう点からいきますと、業者間協定で使用者が一方的に決定するような形がとられていることについては、やはり若干国際的には問題が出やしないかというふうに、これは懸念でございますけれども、そう思っておるわけでございます。
○多賀谷委員 次に先生から御指摘願いました賃金の決定の方式である労使の協定を、国家権力によって妨げるということはよくない、そこでいわば業種別あるいは産業別の最低賃金というものを一律賃金方式のほかに並立すべきである、こういう御意見があったと思うのです。それは最低一律方式の上に各産業業種、おのおのの産業の実態、あるいはおります工員の熟練度、こういうものを勘案して、その上に最低賃金を業種別あるいは産業別に作れという意味でございましょうか。
○舟橋参考人 おっしゃる通りの意味でございます。たとえばフランスの場合、全国協約と地方的協約、地区協約及び事業場協約と四段階になっておりますけれども、全国協約がつまり一番上位の協約になるわけで、それがあくまで基礎になって地方的、地区的及び事業場協約が、その条件に応じて具体化されていくことになるわけですから、もちろん今おっしゃった通りのことにならざるを得ないと思うのでございます。
○多賀谷委員 次に石川先生にお尋ねいたしたいと思いますが、先生は中央賃金審議会のメンバーとして答申に参画されたとおっしゃったわけでございます。そこで、業者間協定を法的に最低賃金にするために、当事者は申請をすることになっておりますが、申請をした場合に、大臣または局長、さらにその諮問を受けます審議会に修正意見がある、こういうようなつもりで答申が出ておるのでしょうか、その点は答申と法律の内容が一致しておるでしょうか、その点をお聞かせ願いたいと思います。
○石川参考人 はなはだ申しわけないのですが、忘れました。あれがあれば答申案と両方比較すればわかるのですけれども、お持ちでございましたらちょっと見せていただきたい。
○大坪委員長代理 なお多賀谷君、それから次の質問者の滝井君にお伺いいたしますけれども、舟橋参考人は講義でこれからお帰りにならなければならぬというのですが、何か舟橋参考人に特にお尋ねになりたいことがありましたら——滝井委員。
○滝井委員 舟橋先生にちょっとお尋ねいたしたいのですが、この最低賃金は最低の国際的水準を満たすものでなければならぬという御意見があったのです。今回政府の出した内容は、従って国際的な注視を浴びておるし、政府は非常に企業の支払い能力に重点を置いているのだというお話があったのです。政府のこの最低賃金の決定の原則というのは、労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払い能力を考慮して定めることになっておるわけです。そこで私たちは、国際的な最低水準を満たすものというそのものは、常識的に言って一体どういうものなんだということなんですが、これを何か抽象的なものでもいいですが、一つお教え願いたいと思うのです。
○舟橋参考人 何がこの国際的な最低基準かという点になりますと、非常にむずかしい問題でございますけれども、まあ一番の原則というのは労働条件は労使が対等で関与していくべきものだということを何らかの意味で満たしていることが必要ではないか、こういうことでございますか、もちろん未組織労働者の場合は、さっきも御意見がありましたように、代表者を選ぶことについて困難を生ずるわけでございますけれども、そこは行政指導その他で未組織労働者の中から何らかの形で代表を選び得るようなシステムをお考えいただくことで、それは解決するのではないかというふうに思うのでございます。
○滝井委員 次には、中小企業は物である原料を買う場合には価値通りの価格で買う、しかし労働力というものが価値通りに買われない、こういう点。今回政府が業者間協定というものを作って、それで最低賃金なりと、こういうことになりますと、どうもそれはこの政府の原則である労働者の生計費、いわゆる労働基準法に言う人たるに価する生活というものとはほど遠いものになって、それは実質的に最賃とは言えないのではないかという感じがするのです。今の労働力を価値通りに中小企業は買えない、だから従って企業の支払い能力というものが重点になる、こういう形から考えると、どうも政府の言うのは最低賃金じゃないという感じが、政府のいわゆる原則に反したものになるような感じがするのですが、その点はどうでしょうか。
○舟橋参考人 おっしゃいますように、一応最低賃金をきめる場合は生計費を基準にするというようなことがうたってありますけれども、それが一体どこで具体的に保障されているかという点はどうもあまり明らかでないように思うのでございます。それでよろしゅうございますか。
○滝井委員 それからもう一つ。この問題は、最近オートメーションが進んで参りまして、時間短縮というものが行われ始めたわけです。これと最賃との関係についてでございますが、日本の現状を見ますと、労働基準法における八時間労働というものが守られていないわけなんです。そして八時間だけ働いたんでは労働者は食えない、こういう現実があるわけです。従って八時間労働というものが客観的には破られてしまっておるという一つの状態があるのです。それで労働者は残業を要求する、こういう事実がある。いま一つは年次有給休暇というものが一年を通じて二十日間与えられております。しかしこれを全国的に見てみますと五日しか要求していない。結局休暇をとれば金がかかる、労働者側からいえば休暇をとれば小づかい等も要って金がかかる、それから出世もおくれる、休暇なんかとっているとにらまれて出世がおくれる、こういう前時代的な封建的な考えで文化生活に浴し得ないような姿が、目に見えない形で労働条件の中にがっちり据えられているという、こういう現実があるわけです。従って現実の客観的な賃金の状態を調べても、非常に食えない低い短時間の労働時間と、長期の労働時間というものが増加をしていることは事実なんです。こういう中でオートメーションが行われて、最低賃金が実施をせられるということになると、低賃金が固定をしたままで一定の基準法の時間の中では上昇しないという結果が必然的に出てくる感じがするのです。この点が一つと、いま一つは三十三年八月三十一日までに、先生が言われたように、四十八業種について協定ができ上って、そうして大体において賃金が一割から二割大部分のものが上った、これが価格にどの程度反映したかということ——別のわれわれの聞いた公聴会では、二ないし二・五%の価格の上昇があったと言われております。そうすると、そういう点から考えて一体八月までにできたもので、その後最低賃金が施行されたことによって二割程度上ったのだが、その後のそれらの労働者の賃金の上昇の傾向は一体どういう傾向にあるかということがおわかりになっておれば、第二点としてお教え願いたい。
○舟橋参考人 第一の御質問のオートメーション——技術革新と最低賃金との関係というような問題でございますが、御承知のように、いわゆる神武景気を通じて大企業はどんどん技術革新を進めて参りまして、技術的な条件では大企業と中小企業の開きというのは非常にここ二、三年の間に顕著になってきていると思うのです。その間に中小企業の下請系列化なんかも進んでいるわけでありますけれども、一つの問題は、大企業と中小企業の技術的条件が極端に開いてきた結果、ますます大企業と中小企業の賃金の格差が開いてくる、今後ますます開いてくるのではないかという心配があることが一つ、それからもう一つの問題は、下請系列化が進んで参りますと、大企業自身が下請の企業からいい品物を提供してもらわなければならぬ、いい品物を提供してもらうためには、やはり下請の中小企業が相当近代化されなければならない。ですから大企業、つまり日本の経済の立場から見まして、中小企業の近代化ということは焦眉の急である、その中小企業の近代化のためにはやはり中小企業の労働者の賃金をかなり大幅に引き上げて、そうして技術を改善しなければならないという一つのてこを、中小企業に対して与えてやることが必要ではなかろうか、こういうふうに思っているわけであります。 それから第二の点は、業者間協定が実施されまして以後賃金はどうなったか、これはこの八月三十一日現在の統計で一〇%ないし一九%程度が一番大きかったということを申し上げたのでございますけれども、その後の状況を見ますと、これは地域によって違いますが、私がちょうどたまたま参りました静岡などでは、つい一カ月くらい前に初級賃金を改定するというような動きがございまして、あの辺では初級賃金の引き上げがまた問題になっておるようでございます。ただ神奈川の手捺染の業者間協定の場合は、前と比べて賃金がほとんど上昇しない、そしてそれが二年くらい固定化している傾向があるというふうな報告もなされているようであります。ですから、地域によって違いはあるのでしょうけれども、これからこの不況下の中でどういうふうになりますか、労働力の需給がよほど逼迫しますと、これは上るかもしれませんけれども、そうでないような傾向が今現われておりますから、むしろ固定してしまった方が強く働くのじゃないかという気がいたします。
○大坪委員長代理 多賀谷真稔君。
○多賀谷委員 先ほどの質問について……。
○石川参考人 その答申の方では、業者間協定そのものに対して修正権はない、イエス・オア・ノー、オール・オア・ナッシングということであります。その点はそれだけでよかったのですか。(多賀谷委員「修正権を法律上うたってありますかということです」と呼ぶ)法律上は、第九条の「当該業者間協定における賃金の最低額に関する定に基き、その申請の際の当事者である使用者及びその使用する労働者に適用する最低賃金の決定をすることができる。」これだけでありまして、私に解釈させれば、これはやっぱり修正権はないのじゃないかという感じがするのです。といいますのは、修正権がある場合には、「基き」ということ——これは間違っているかもしれませんよ。しかし、私の解釈では、修正権がある場合には、修正することができるということを逆に書いておくべきじゃないか。「基き」ということは、やはりそれをそのまま認めるか認めないかということで、答申と第九条との間には差はないと私は思います。
○多賀谷委員 実は私たちがこの答申に賛成をした労働者側の委員に聞きますと、やはり労働者側の意見をも反映されるように処置するという中には、修正権を含むのだという意味も入っているのだ、こういうように聞いておる。そこで、やっぱり全労の方からの意見が修正案として出ておりますのも、その点をついておるわけです。そのままうのみにしては困るのだ、何らかそれに対して修正をしてもらわなければならぬ、その点が答申と違うのじゃないか、こう言っておるわけですが、その点、審議に際しましてきわめて重大な点でありますので、もう一度お聞きいたしたいと思います。
○石川参考人 私の理解するところでは、全労の方のおっしゃっているのは——私はそうは理解しておりませんでした。
○多賀谷委員 そういたしますと、波多参考人からも指摘がありましたように、今までの業者間協定をそのままほっておくと、どうかと思うような最低賃金の協定も行われておる、だから早く法律を作ってそれを是正しなければならない、こういう公述を実は今承わったわけです。そういたしますと、先生のような解釈なり、また政府の出しております法案がそうであるとするならば、その是正は依然としてできないのではないか。何も法律の適用を申請しなくても、業者間協定としての任意協定としては賃金としての効力を発しておりますから、わざわざ法律の適用を受ける業者も少いのではないか、こういうように思う。それで業者間の任意協定は進むでありましょうけれども、法律の適用を受けて、わざわざ罰則を受けるような業者は比較的少いのではないか、こう考えるのですが、その点どういうようにお考えでしょうか。
○石川参考人 おっしゃる通りだと思います。その点は論議したのです。したのだけれども、業者間協定というやつを認める以上は、それを積極的に行政庁の方できめることは、ちょっと無理じゃなかろうか。これにつきましても、いろいろ折衝がありまして、そういうところに落ちついたわけでございます。
○多賀谷委員 次に氏原先生にお尋ねいたします。この政府案でもわれわれの案でも、生計費ということを最低賃金の決定の基準に置いておるわけでございますが、生計費といいましても、御存じのように、厚生省が出しております生活保護の場合は七〇%以上のエンゲル係数になっておるが、現在労働白書にあります労働者の生計費は三十二年の上期で四一%くらいのエンゲル係数になっておりますが、これは全都市勤労者五人世帯の総理府統計局の資料でありますが、いろいろあるわけです。そこで一体日本で最低賃金を作る場合にはどのくらいの生計費というのが考えられるか。これは今基準がないのですが、エンゲル係数ならエンゲル係数というものをとってみましたら大体どのくらいが妥当であるか、こういう点がおわかりになりましたら概略でもけっこうですから、お話願いたいと思います。
○氏原参考人 今の御質問でありますが、実は今おっしゃられましたように、生計費には計算方法もいろいろありますし、統計技術的な問題もありますので、生計費そのものが、ことに最低賃金の場合に直接影響を持つかどうかということは私は疑問に思っております。ですから一般に賃金審議会その他で最低賃金の決定が行われている場合の運用の実情を見てみますと、言うまでもなく生計費は重要な考慮に入れるべき要素の一つでありますが、その他の要素も考慮に入れて決定されておるのじゃないか、こういうふうに思うわけであります。 それからもう一つ、厚生省と労働省の家計費の話が厚生省の生活保護基準の家計費ですか、出ましたが、これも保護基準の家計費を私検討したことがあるのですが、これも率直に申し上げますと、それほど理論的な根拠はないのじゃないか、こういうのが私の率直な意見、感想であります。ですから今日最低賃金をきめる場合に、どれくらいの家計費を保障することが望ましいか、こういうことになりますと、これは問題ははなはだ複雑であると同時に、賃金というものは必ずしも家計とは一義的には理論的には結びつかないわけでして、早い話が一つの世帯の中に二人働いておる人があれば賃金所得と家計水準とは違ってくる、こういうこともあり得るわけで——あり得るというか、日本では低所得階層の場合にはそれが一般的な形態でありますので、そういう今日の日本の低所得層の家計状態そのものを検討してみないと、一概には言えないのじゃないか、こういうふうに思うわけです。 それからもう一つ、家計費を国民の一般的な生活水準と関係させる、こういうことでありますと、また家計費の考え方も変えていかなければならないのではないかというふうに私は考えているわけです。ですから一義的に結びつけるということはむずかしいのではないかというのが私の見解です。
○多賀谷委員 石川先生にもう一度お尋ねいたしたいのです。実は社会党の案も、理想案だという非難もあるわけですけれども、現在の日本の賃金構造その他を考えまして、規模別に非常に差がある。あるいは男女別に差がある。業種別、職種別に最低賃金を作ろうといたしましても、日本には第一、業種別、職種別の賃金そのものがない。それは労働組合が産業別、組織別にできていない、こういう理由もありましてその賃金もない、こういうような状態ですから業種別、職種別の最低賃金というのもなかなか困難じゃないだろうか。そこで回り回って、結局一律の方がいいんではないか。こういう現実性に立っての議論からも出ているわけです。そこで今党が出しております八千円が高いということになれば、これは金額を下げるということになりますが、一応われわれは暫定期間としては六千円というのをあげたわけでありますが、金額で操作してみたらどうか、こういう気持を持っておるわけです。アメリカで一九三八年にできたときは二十五セントで出発しておる。それから翌年は三十セント、それから四十五セント、七十五セント、一ドルというように金額をずっと上げてきておる。こういう方式もあると思うのです。日本のような複雑な産業構造の場合には、むしろ短兵急のような感じは受けますけれども、急がば回れというような感じで、一律賃金、しかもそれはその金額に弾力性を持たせながら前進していく、こういう方が実情に合っているんじゃないかという感じを持つわけです。と申しますのは業者間協定を結びましても、まず業者が法の適用を受ける業者間協定かどの程度結ばれるだろうか、こういう疑問に逢着せざるを得ません。日本の業者間協定が結ばれた時期というのは、比較的神武景気という求人難の時期に結ばれておる。しかもダンピングというようなそしり、その他等によってかなり行政指導のもとに結ばれた。あるいは求人難によって高い賃金を望む動きがあったので、それを押えるために結ばれた。こういういろいろな条件ができて業者間協定が結ばれたのですが、果してそれが法の適用を受ける業者間協定になるかどうか、ここに非常な疑問を持つわけです。 それから最低賃金審議会の調査による最低賃金制ができるじゃないか、こういうこともなるほど条文には規定されておりますけれども、第一方式、第二方式、第三方式がかなりとられなければ、政府の言う第四の方式というのはなかなか発動ができないんじゃなかろうか、こういう気持も持つわけであります。そういたしますと結局、先生が先ほどお話しになりましたように、将来の一律方式のブレーキにならないように、こういう配慮が逆にブレーキになるんではないだろうか、こういう感じを持つわけです。と申しますのは日本の社会保険の歴史を見てみますと、いわばかなり業態としてもいい業態の方から任意的に健康保険というようなものを結ばしてきておる。ところが現在依然として五名以下の健康保険は結ばれていない。こういう実態は健康保険法が実施されてからかなり長いにかかわらず、依然として五名以下が放置されておる。これはいいところから結ばしたからそういうことになる。だから健康保険の歴史の愚を二度と繰り返すべきではないとわれわれは考えるわけであります。一番最下層の方から考えたらどうだろうか。それがなかなか困難であれば金に弾力性を持たせて考えたらどうか、こういう気持を持ってこの法案を作ったわけですけれども、それは私が言いましたような気持を法律が必ずしも表わしていないかもしれませんが、一体その点はどういうふうにお考えでしょうか。
○石川参考人 御質問の点は多岐にわたっておるようでございますが、こんなことでございましょうか。私が先ほどブレーキにならないだろう、そういう見込みを申したわけですけれども、いやブレーキになる、なるから、かえって八千円——その点は別といたしまして、金額の方で徐々にやっていった方が本筋ではなかろうか、私も実はその考え方には相当引かれるのです。それでちょっと横道にそれるようですけれども、先ほどから最低賃金をどうしてきめるかということが問題になっておりますが、これはたとえば中学校出たての人、これをまず適用の対象にしなければいけないわけですね。それから家族を持っておる人も同じ適用対象にしなければならぬ。そうしますとどうしても中学校出たての人ということがまず問題にならざるを得ないわけですから、そのときにいろいろ問題はありますが、私はしろうと的にこう思っておるので、あとは立法者の方はこういう気持で立案していただきたいと思うのですけれども、自分のむすこ、あるいは娘が中学校を出て、自分はそれに援助してやることはできない。 〔大坪委員長代理退席、委員長着席〕 それが世の中にひとり立ちをしたときに一体幾らくらいあったら食えるか。そういうようなところで私はやっていただきたい。それが最低と申しますか、それ以上に五人家族を持っておるから何とかということは、それは確かに団体交渉その他の問題では問題になりますが、最低賃金としては二の次の問題になるのではないか、こんなふうに考えておるのです。自分の娘あるいは自分のむすこということを考えていただきたい、こういうことです。 それから先ほどのところですけれども、確かにアメリカのように二十五セントからだんだん五セントずつ上げていくという方法ですが、そうしますとこれは、率直に申しますと、非常に少くなってしまうわけですね。そうでないとするとできない。たとえば三千円とか四千円とかきめるのは、かえってこれはおかしいと僕は思う。おかしいというのは、そちらの方にかえって固定してしまう。お宅の案でも八千円あるいは六千円にいたしますと、これは御承知のようなことで現実にできないで違法という問題が起ってくる。現在労働基準法でも、御承知のように、年間大体三十万くらいの違反が発見されておりながら——年間ではなく半年でしたか、ちょっと忘れましたが、それがいざ検事に起訴されるのは二けたの数字です。そのようなことになるということは、これは一体どうかということです。健康保険の問題も言われましたが、確かにそういうことであります。健康保険については、あとは国民健康保険でいけというわけで、おそらくここでまた審議されるのではないかと思いますが、そういう問題もある。私は実現可能というような点から申しますと、業種別、産業別にするという方が、全国一律よりももっと実現可能だという案には私は賛成できません。それだったら思い切って少しくらいトラブルを起してもよいから、たとえば六千円にするとかなんとかでがんばってしまう。それで何とかしてそこまで持っていくという方が本筋ではないかと思っております。何回も申しますけれどもそれだけ申し上げます。
○多賀谷委員 最後に波多先生にお尋ねいたしたいのですが、先ほど先生が中小企業は専門的分野において安定をすべきである、その方向にいくだろうという前提でお話しになったのですが、今の政府の政策を見ておりますと、専門的分野に安定をするような現象が起っていないですね。中小企業者はそう考えておりましても、同じ製品が大メーカーと競合のうちに、あるいは競争の中で作られておる。こういう状態です。ですからそういう方向にいくか、あるいは系列化の中に入って下請でいくか、その二つしかない、こういうように考えるのですが、専門的分野において安定をするというような現象が、中小企業の個人側からはあるでしょうけれども、日本の経済からはそういう政策は見られない。それについてどういう政策が必要でしょうか、ちょっとお聞かせ願いたい。
○波多参考人 これについては私もそう確たる確信はございませんけれども、やはりいろいろな最低賃金で切り上げていく、そして淘汰していくということも一つの方法かと思います。しかし経済政策全般から見ますと、今までの、ことに繊維産業に見られるような原綿と結び合した割当制度とかいうふうないろんなことがからみまして、そういうものが非常に阻害しておるという点は確かにあると思います。
○園田委員長 滝井義高君。
○滝井委員 氏原先生にお尋ねしたいのですが、先生のお話の中に、最低賃金制度と官庁との関係をいろいろお述べになったところがあったわけです。現在労働基準法では労働基準審議会というものが、中央、地方にあるわけなんですが、現在の中央、地方の基準審議会の状態を見るとほとんどみな眠っておるのですね。今石川先生も言われたように、三十万件に及ぶような基準法違反が出ておっても、何ともしがたいという現実があるわけです。そこで今度のこの最低賃金制度が実施せられた場合に、中央、地方の基準監督行政というものが非常に複雑になってくることは火を見るよりも明らかです。と申しますのは、基準監督署なり県の基準監督局というものは、賃金についてはやっぱりいろいろの調査を定期的に確実にやっていかなければならぬ。そしてまたそういう調査ばかりでなくして、指導監督の面も必然的に出てくるわけです。これは法案にもそういうことが出ております。そうしますと、現在の日本経済の、最低賃金制度を非常に阻止している諸条件、たとえば二重構造、賃金の格差、過剰労働力、それから産業分布の状態等から考えてみまして、どうもこれは政府が、たとえば基準監督署の予算を計上しない、これだけで最低賃金制度にブレーキをかけることができると思う。もうすでにわれわれは十年間、労働組合法なり労働基準法に最低賃金をやる条項を持っておった。持っておったにもかかわらず十年間これがたなざらしにされておったというこの現実が、はっきりしてくるのじゃないかと私は思うのです。そしてしかも先生が御指摘になったように、賃金審議会ができても、それが一体どういう決定権を最終的に握るかというようなことになると、これはイギリスあたりとは全く違って、何かはっきりしないという点があるわけですね。こういう点を過去の実績にかんがみると、これは今後政府にも尋ねてみなければならぬ問題ですが、どうも日本の労働行政というものは産業政策に付随をして、独立の立場でにらみをきかすということできていないですね。こういう点から考えても、どうも政府案ができた場合に、これは労働者保護よりもむしろ企業擁護の立場に回る可能性が非常に強いという感じがするのですが、これをもう少し簡明率直にお教え願いたい。
○氏原参考人 今の御質問の中には私の同感するところが非常に多いのです。でありますから、先ほど申し上げた趣旨も、根本のところはどういうことかと申しますと、法律を作ったからといってそう簡単に何かが実現するとは考えられないのでありまして、むしろ経営者なり労働者なりが自主的にそういう賃金に対する認識を改め、そしてはっきりさせ、合理的にきめていくというふうな、そういう労働慣行が出てこなければこれはおそらく基準行政としてもやりにくい状態でしょうし、それからまたもちろん行政の面にもいろいろ欠陥はございましょうが、今日の最低賃金法の問題点はここにあると思うのです。で、私が先ほど賃金審議会というものを特に強調いたしましたのは、そういう賃金審議会というようなところで、事賃金に関するようなことが労使の関心に上る、このことが合理的な労使慣行を作る真の教育的役割とでも申しましょうか、そういう役割を果すに違いない、こう私は考えている次第です。ですから、お答えになったかどうかわかりませんか、私の意見を簡単に申し述べますとそういうことになります。
○滝井委員 政府の出しておる最低賃金制度、こういう業者間協定を柱としたものが労使双方の教育的な価値しかないということになると、これはないよりはいいかもしれないけれども、私が非常に心配するのは、教育的なものが同時に次のステップにおいては、日本の二重構造をある程度解消するのに役立たなければならぬだろうし、それから賃金の格差を本格的に縮めてもらう役割を演じてもらわなければならぬだろうし、今後十年間続いていく日本の過剰労働力、いわゆる労働人口の増加に対しても何かその圧力を緩和する役割を演じてもらわなければならぬだろうと思うし、それから産業の最近の分布の状態を見ると、だんだん素材の生産地から消費地に近いところに移動が始まるという産業分布の変遷、立地条件の変遷というようなものが、非常に複雑なからみ合いで進展をしておるわけなんです。これらの阻害する条件を、こういう教育的な価値しかないもので断ち切るということになると、ほんとうの最低賃金というものは、百年川清を待ってもなかなか日本の現状では来ないのではないかという感じさえもしてくるのですね。こういう点についてもう一度氏原先生と、波多先生の御意見もお聞かせ願いたいと思います。
○氏原参考人 これは日本経済の体質に関する問題でありまして、非常に困難で、一がいにお答えすることはできないと思うのです。その一つの意味は、最低賃金制をやったら、一体日本における経済の二重構造なり三重構造なりがなくなるかというと、そういうわけではないと思う。最低賃金制は、私はそういう三重構造と呼ばれておるような、あるいは中小企業の低能率、低賃金問題を解決する一つの手段にすぎない、こういうふうに考えているわけです。一つの手段という意味は、これは一つには賃金の底を与えて——今日の中小企業の賃金の非常に大きな問題だと考えておりますのは、賃金がフレキシブルだということで、だから不況になれば賃金は下るし、これは労働時間も下りますが、好況になれば賃金が上るというふうに非常に変動しやすい、その場合に賃金を今日よりは固定的にするということが、経営者の能率を高めようとする意欲を増大させる、こういう面で賃金の改善が同時に中小企業の改善になっていき、そしてこれが先ほど来問題になっております日本的な経済の形を変えていく非常に大きな導因になるだろうということです。 それからもう一つ、少し問題が違うかもしれませんが、今日おそらく労働問題の中で一番関心を呼んでおられない単純労働者の部分でありますが、単純労働者の部分をよく考えてみますと、これは何というか自営業の中からそういう労働者部分が——これは漁業についてもそうでありますし、農業についてもそういう傾向がありますし、また商業については一そう顕著な状態でありますが、そういうところにたくさんのそういう単純労働者というようなものが戦後十年の間にでき上りつつある、こう考えていいのじゃないかと思うのであります。 それで、これはちょっと問題はそれますが、全国一律というようなことが今日可能であるかどうかということには多少疑念がありますけれども、可能性の一つの論拠として考えられますのは、そういうふうな単純労働者の労賃といいますのは比較的地域差も職種差もないということであります。たとえば建築業における土工が山へ行って仕事をやっても、別に仕事の上では非常に変っておるというわけではありませんし、あるいは漁業労働者が土工をやっておって漁業労働者になりかわるのにそう困難を感じないわけでありまして、従ってあるところの賃金が上れば人は集まり過ぎるし、賃金が下れば人はどこかへ行ってしまう、こういう状態でありますので、大体そういう単身者の単純労働者部分については、ほぼその賃金が完全に一致しているということ、その証拠は何もありませんけれども、私たちがやりましたいろいろな調査の結果から総合いたしますと、似てきているように思うわけです。だからそういうふうな労働者部分の賃金を改善していくということが、日本経済の体質改善の一番底の部分を解決する問題だ、こういうふうに私は考えいるわけです。それで、これは先ほど舟橋氏からもお話がありましたが、まさに合理化時代で合理化が進展している部分と合理化が進展していない部分の跛行性こそが今日大きな問題でありますし、それからまた賃金の跛行性、賃金の格差というような問題も、単に賃金問題だけではなしに、産業間の合理化の程度なり労働生産性の違いなりが非常に大きな影響を持っているわけでありますから、そういうものの総体としての政策の中で最低賃金制というものを考え、また最低賃金制が万能であって、それができたら何でもかんでもできてしまう、こういうふうな考え方には私は賛成いたしかねる次第です。
○波多参考人 この法案による最低賃金あるいは賃金審議会の役割がいきなり効果をあげるものとは思いませんし、また多分に教育的なものが強いとおっしゃる御意見にはその通りだと思いますけれども、しかしこれを業者間協定をもって法定するというバックをもって、強い行政指導を行なって、職種別なり業種別なり地域的なり非常にでこぼこのものを、逐次一つの目標のラインに向けて引き上げていくという全般的な政策の観念で推し進めていくならば、これはこれでかなり効果があるのではないか、そうしてそうした地ならしができまして、法律のバックを持った行政指導というものを積み重ねていって、将来全国一本という方向へ推し進めるということは、それはそれなりにかなりの役割を持っているのではないかと私は考えております。
○園田委員長 これにて参考人の方々に対する質疑は終了いたしました。 この際参考人の方々にごあいさつを申し上げます。本日は御多忙中のところ、長時間にわたり種々貴重な御意見をお述べいただき、本案審査の上に多大の参考となりましたことを厚く御礼を申し上げます。 午後三時まで休憩いたします。 午後一時二十五分休憩 ————◇————— 午後五時七分開議
○園田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。 内閣提出の最低賃金法案外二案について質疑を行います。小林進君。
○小林(進)委員 貴重な時間を拝借いたしまして、最賃法に対する質問をする機会をお与え下さいましたことを感謝いたしたいと存じます。 直ちに最賃法の質問に入りたいのでございまするが、しかしその前に、若干一つお許しを得て委員長に御質問申し上げることをお許し願いたいと思うのであります。それは去る十月七日のやはり本社労委員会におきまして、われわれは国鉄の総裁の十河信二君の出席を求めまして、そこで国鉄の新潟監理局の不当労働行為の問題について質問をいたしました。その際国鉄総裁並びに吾孫子豊常務理事の回答は、いずれもわれわれの満足するところではなかったのであります。従ってその際私が具体的な事例をあげまして質問をいたした事項については、書面をもって一つ後刻すみやかに回答をするようにという厳重な要求をいたしておきました。それについては十河説明員も、積極的にさらにいま一応調査をいたしまして、その上でお答えをいたします、こういうことを速記の上に明快な回答をしておられるのでありますが、それに対して園田委員長は、最後に特に委員長発言をもって、「今後さらに国鉄当局においては事前調査をして、準備周到にして出席をし、議員の質問に的確に答弁されるよう委員長として要求をいたします。」こういう注意を勧告せられておるのであります。ところが、かくのごとく念には念を入れてわれわれが質問いたし、あるいは確約をいたしましました事項に対し、今日までこの委員会にいまだ回答が寄せられたということを私は聞いておらぬのであります。あるいは委員長のお手元までその回答が参っているか、どうか。
○園田委員長 その後国鉄当局は、現地に吾孫子理事を派遣したという話を聞いておりますが、これに対する具体的な報告は受けておりません。従ってこれは早急に督促をいたしておきます。
○小林(進)委員 ただいま委員長お答えの通り、十河総裁、吾孫子常務からは、まだ何ら回答がきていないということでございまするが、かつて十月七日のこの委員会における十河総裁並びに吾孫子常務の態度、答弁、その間に繰り返された陳謝の言葉は、委員長はもちろん、各委員も十分御承知のはずであります。しかも彼らが陳謝をしながら、その調査並びに報告をかたく実行することを誓ったことも、また御承知の通りであります。しかるに十月七日から今日に至るまで、すでに三週間の期間が経過をいたしております。その間彼らは、今お話の通り一ぺんの回答も寄せていない、中間報告もしようとしていないのは、いかなる理由に基くものでございましょうか。すなわちここにこそ現官僚——正確に言えば国鉄は官僚ではございませんけれども、公吏と称するもののいんぎん無礼な態度が如実に現われておると言わざるを得ないのであります。国会を軽視し、あるいは国会議員を軽べつしている何よりの証査でなければならないと私は思うのでありまして、こういう国会を軽視する思想は、これは国会議員だけではございません、主権者たる国民を軽視する思想でございまして、こういうようなことは私は断じて黙視することができないのであります。かような意味におきまして、おそらく国鉄総裁並びに常務は、われわれが黙っていれば、このまま永久に回答を寄せることなしに、返事もしないできっと黙殺をしてしまう考えである、こう推定せざるを得ないのでありまして、かようなことは議会政治を権威あらしめ、民主政治を守る立場からも断じて許し得るところではございません。どうか委員長においては即刻適当な処置をとられ、今日まで返答なき理由を明確に聴取せられて、そして本委員会の権威と委員の発言擁護のために御尽力あらんことを私は特にお願い申し上げる次第でございます。 なお第二点といたしまして、この新潟国鉄監理局当局の不当行為の問題につきましては、なおさかのぼる九月二十六日であります。この委員会において、私は労働大臣並びに労働省当局に質問をいたしました。そのときには、私は書面をもって回答を寄せろというような要求はいたしておりませんけれども、資料の提出その他については十分御協力をお願いしたいということを要望しておきましたし、それに対しては労働省当局もその旨を了承せられて帰られた。これまた今日まで何ら資料も協力の態勢も受けておりません。この点同じくいんぎん丁重にして腹の中で無礼きわまる官僚特有の性格の一端が現われておるのではないか、私はかように感ずるのでございまして、あわせてこの点も労働省当局、労働大臣を通じて私は厳重なる警告を発しておきたいと思うのでございます。なおそのほかに私は、労働大臣直接ではございませんけれども、労働省が出しておりまする資料を、願わくば一つ積極的にわれわれに提出してもらいたい。たとえて言えば、最近労働省婦人少年局編さんになりまする売春婦の転落の原因と更生の問題、その他婦人関係資料シリーズ云々というようなものがあるならば、あるもの全部そろえて私に提供してもらえないかということも私は要求をいたしております。これもどうも御返事だけはありまするけれども、じんぜん日を過すけれども今日出てこない。こういうようなわれわれが担当いたしておりまする労働省内の資料は、むしろわれわれが要求する前に出していただいて、努めて国民の代表たる国会議員に真実を知ってもらうという協力の態勢がなければならぬと思うのであります。それをむしろ資料は努めて隠して、われわれはつんぼさじきに置いて、そうして事をはからんとする風潮がある。現に、これは正式発言ではございませんけれども、労働大臣のごとき、資料をやってもいいけれども、その資料を種にしてまた質問をされると、どうもはなはだ困るから、それをやらんければ資料をやるというような、不謹慎きわまることを大臣は言っておられるのでありまするが、冗談にもそういうような間違った考えはお持ちにならないで、努めて資料は国会に提出をして、一つの真実を知っていただいて、その中から正しい結論を生み出して、最も正しいものを国民に実施する、こういう考え方になっていただきたい。あえて御注文を申し上げておく次第でございます。 なお、いよいよ最賃法の問題について私の質問を始めたいと思うのでございまするが、その質問に際しまして、これも委員長にお願いをいたしておきたい。それは、われわれが討論採決をしまする前に、岸総理大臣を一度この社労委員会にお招きをいたしまして、われわれの質問を受けていただくような態勢を整えていただきたい、かようなことでございまして、なぜ私が総理大臣の出席を要望いたしまするかというと、これは第二十八国会でございますが、三十三年四月二十三日に、岸総理は最賃法の問題についてこの社労の委員会に出席をされておるのでございます。そこでわが党の赤松、多賀谷、滝井、井堀委員等の質問に対してそれぞれ回答を寄せられておるのでございまするが、その多くの回答の中に一つ重要な発言をせられておるのでございます。それはILO条約八十七号の批准の問題について、三十三年二月一日、赤松委員の党代表としての質問に対しまして、ILOの即時批准の問題については目下検討中である、なおすみやかに善処をいたしたい、すみやかに批准することを善処いたしたい、かような答弁をなされておるのでございまするが、それから二カ月過ぎた四月二十三日において、今なお総理大臣としての何らの意思表示がないのはおかしいではないか、二カ月前の約束を一体どうされるつもりなのかという再度のわが党の代表の質問に対しまして、目下労働懇談会に諮問をしており、それもだんだん結論が進んできておるけれども、まだ結論を得ることは二十八通常国会中においては困難であるかもしれないが、われわれは真剣に検討を続けておりまするから、近く結論を出して御返答ができると思います。かような確約を再度にわたってしております。自来歳月を経過することまさに六カ月です。これは私どもは、総理大臣からその後の経過をこの社労委員会においてお答えを求めることは当然だと思うのでございまして、這般の事情に基いて、労働大臣では残念ながら間に合いません、やはり総理大臣にお尋ねをしなければならないその他の重要な質問が幾多ございまするので、どうか委員長において総理大臣を適宜この委員会に招致することを御勘案願いたいと思うのでございます。 以上お願いをいたしておきまして、私の最賃法に対する質問を一つ始めたいと思うのでございます。私は一般論、各論それから各章について、全部お伺いいたしたいと思いまするが、何しろ時間が制約せられて、本論から入っていきますと各論の方に時間がなくなると困りますから、一応各論の方において特に重要と思われる分だけを最初にお願いいたしておきます。 まず条文において、私はこの最賃法を全部通覧をいたしまして、重大な欠陥があると思っております。その欠陥の中の私が考えておる第三番目——一番め、二番目はおいおいやっていきますが、第三番目の重大なる欠陥は、この最賃法は第一章から第六章、付則まで入っておりますが、この条文の中に重大な欠点があると思っております。それは、これは終戦後現われた条文の体裁上における非常に悪い傾向でございますけれども、いわゆる重大なポイントをごまかして、これを政令に委任する、あるいは省令にまかすという文句が実にひんぱんに出て参ります。そうして、国会においていわゆる人民保護の法律あるいは国民を救済する法律、そういう性格のためにでき上った保護の法律が、いつの間にやら規則や政令、省令によって法律自体の性格を全部変えられてしまって、いわゆる保護法が取締法になったり、あるいは愛情の法律が警察法規に化けたり、そういうようなことを官僚特有の技術でもってみんな変えられて、せっかくの法律の目的がそこなわれておるということにしばしば私どもは遭遇いたしました。これを私は非常におそれるのであります。ところがこの条文を拝見いたしまして、省令に定むるところによりとして、ほかの省令にまかした条文が一体幾つあるかということをちょっと参考までに申し上げますと、まず第五条第三項第一号に、「一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で労働省令で定めるもの」こういうふうにまず省令が出て参ります。それから第二号にも「賃金以外の賃金で労働省令で定めるもの」こういうのがあります。次に第八条に至りましては、実に省令が羅列してあるという状況でございまして、「当該最低賃金に別段の定がある場合を除き、労働省令で定めるところにより」と第一項にまずありまして、それから第四号に、「所定労働時間の特に短い者、軽易な業務に従事する者その他の労働省令で定める者」といって、第八条に労働省令が二項目出ております。次に第十二条に参りますと、これまた「労働省令で定めるところにより、その申請の要旨を公示しなければならない。」と労働省令が出て参りました。次は十七条でございます。大臣も一つよくごらん願いたい。十七条によりますと、これは公示及び発効に関するところでございますが、「最低賃金に関する決定をしたときは、労働省令で定めるところにより」云々という労働省令がございます。次は第十九条でございます。これは周知義務の規定でございますが、「最低賃金の適用を受ける使用者は、労働省令で定めるところにより」云々、こういう規定がございます。次に参りますと第二十一条でございます。これがまた公示及び発効に対する条項でございますが、「労働省令で定めるところにより、決定した事項を公示しなければならない。」次は第二十五条でございます。第二十五条にはまたこういう規定がございます。これば帳簿の備付に関する規定でございますが、「最低工賃の適用を受ける委託者は、労働省令で定めるところにより」云々、これでいいのかと思いますと、また次に参りまして三十五条でございます。三十五条は報告の規定でございますが、「労働省令で定めるところにより、使用者、労働者、委託者又は家内労働者に対し、賃金又は工賃に関する事項の報告をさせることができる。」こういう規定がございます。次が三十六条でございます。これは職権等に関する規定でございますが、ここにも「労働省令で定めるところにより」という規定があります。次には三十七条、これは労働基準監督者長及び労働基準監督官の規定でございますが、「労働省令で定めるところにより、この法律の施行に関する事務をつかさどる。」これでいいのかと思いますと、次は四十三条でございまして、四十三条に至っては全面的に省令にまかせるという規定です。省令への全面的委任状だ。「この法律に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、労働省令で定める。」全部まかせてしまった。こういうようなことになって、わずか四十六条、付則は別でございますが、付則を入れても五十六条ばかりにしかと至らざるこういうわずかな条文の中に、労働省令にまかした条項だけでも幾つございましょう。ほとんどまかしてある。全部で十五です。まさに三分の一というものが労働省令にまかされておる。この内容を知らなければ、この法律の性格などというものは労働省令によってすっかり変えられてしまってもいかんともしがたい。本来はこれは最賃法でありますか、労働省あるいは政府側の主張をもってしますならば、中小零細業者の産業経済をもあわせ擁護するために最賃法を作るとおっしゃいますが、この労働省令の全貌を見せていただかなければ、私はこれが労働者や中小企業者の保護の法律であるというようなことは、決して簡単にちょうだいするわけには参りません。むしろ労働者あるいは中小零細業者を苦しめる、取締りの法律になるのではないか。拝見しましたところでも、業者の中に勝手に入っていくことができる、あるいは帳簿を調べることができる、公示の義務を負わせる、あるいは報告の義務を負わせる、こういうような、しかもそれに反すれば一万円以下の罰金だ、五千円以下の罰金だという罰則の規定も置いている。こういうようなものができ上ったら、私はむしろ零細業者等は保護を受ける前に、取締り法規や監督が重なってきて、参ってしまうのではないか、私はかように考えておるのでございまして、これらの問題についても私はいろいろ御質問をしたいのでありますけれども、この労働省令と称するものの案文を全部この委員会に提出をしていただきたい。そしてそれを見せていただきたい。この条文と同時に、省令の内容も全部拝見させていただいて、そうしてわれわれの研究、われわれの調査が、この省令をもあわせて全部疑問の点が氷解いたしまして、氷解した後に討論採決、こういう順序にやっていただきたいと思うのでございます。こういうような多くの省令がもはや準備せられて——二十八国会でありますか、二十八国会に提出をせられて、そうして解散などというものがなければ、これは法律が通過をしてから三カ月でございますか、最後に附則がございましたが、「九十日をこえない範囲内において、各規定につき、政令で定める。」こういうふうなことになっておるのでございまして、この法律の提出の状況から見まするならば、もはや今日はその九十日を経過して、完全に法律が働いていなければならない時期なのでございますから、私は労働省におきましては、まだそんな省令の準備はできておりませんとか、案文は用意してございませんなどというような言いわけは、これは許さるべきじゃないと思う。完全に用意せられておると推定するに足る十分の客観情勢が成熟をいたしておるのでありますから、これはおありになると思う。その省令を一つ一つ御提出願えるかどうか、まず一つ御答弁願いたいと思います。
○堀政府委員 この最低賃金法案は、御承知のごとく中央賃金審議会の答申を受けまして、その趣旨を全面的に尊重いたしまして立案いたしたものでございますが、その内容はただいまごらんのように、従来の労働基準法におきましては、七条ないし八条程度でありましたものを、本文だけで四十六条、それから附則を入れますと十条さらにこれに追加してございますが、詳細に規定してあるわけでございます。ただその内容につきましては、この四十六条と附則の十条の間に規定してございまするが、これを実施するに当りましてはさらにその細目が必要でございます。特にその手続その他の事項が必要でございまして、これらのものは法律に盛るよりは、この法律に基いて労働省令で定めるというのが適当であると考えまするし、従来の立法例にもそのようになっておるわけでございます。この法案の中には、御承知のように最低賃金審議会の規定もございますが、これは労使、中立三者構成の委員からなる権威者に出ていただくことになっておりまするが、この省令を発しまする際には、省令を最低賃金審議会に審議していただきまして、その御意見を十分尊重して労働省令を公布実施する、このように進めていきたいと思っておるわけでございまして、その内容につきましては、この法律成立後直ちに中央最低賃金審議会を招集いたしまして、中央最低賃金審議会において手続規定その他について詳細な御審議を願いまして、それに基いて労働省令を公布いたしたい、このように考えておる次第でございます。
○小林(進)委員 最低賃金審議会が労使と公けと三者平等の構成にでき上っておるから、そういう行き過ぎの懸念はないというふうな御答弁でございましたが、私従来のこの委員会の速記録も拝見をいたしまして、その最低賃金審議会に労働者の代表も加わっているということを唯一の隠れみのにせられておるというふうにとられるくらい、どうも答弁に活用をせられておりますが、私はもうでき上ってしまった最低賃金審議会というものが、それほど強い権限を持つものではないという考え方を持っております。しかしこれは私のあとから申し上げる質問の重大なポイントになっておりますので、今ここで議論を繰り返しますることは省略をいたします。ただ私が今大臣に御質問をいたしておりますることは、そういう最低賃金審議会に手続法を出して、そしてそれから実施をするなどというようなことを私はお伺いをいたしておるのではないのでありまして、われわれの方に一つその手続法を見せてもらえないか。もうでき上っているだろうから、国民の代表たるわれわれに当然出してお見せ下さるのが——決して間違っている私どもの要求ではないのでありまするから、出していただきたい。単なる手続法とおっしゃる。私は、もちろん省令やらというものが実体を含んでいるとは考えておりません。しかし私が見ますと、決して単純な手続ではないのでありまして、この手続と称する御答弁の中に、業者の業務の実態、産業の実態あるいは日常の経済活動の事実を非常に大きく制限をする、非常に制約するような、そういう手続が幾つも含まれておるのでございまして、考えようによっては、この四十何条の実体を盛った本文よりもさらに業者あるいは労働者にとっては重要です。さらに拘束を受ける、さらに重要な面が、みんな省令と称する手続法の中に含まれているのでございますから、それを全部われわれは見せていただかなければ、この最低賃金法案というものの本体をつかむわけにはいきません。でありますから、ほんとうにわれわれに審議の完全を一つ期せしめるというお考えがあるならば、私はそういうお答えを受けるというのは困りますから、だから事前に断わっておいたのです。どうかあらゆる資料というものは積極的にわれわれの方に提出をして、一つ真実をまずわれわれに与えて、その中から一番正しいものを論議、話し合いの上で作り上げる、そういう協力態勢を作っていただきたいということは、こういう問題があるから私は最初からお断わり申し上げておるのであります。どうか一つ労働大臣から、そういう手続法に関する一切のもう準備はでき上っておると思いますから、即刻にわれわれの手元にお届けをしていただきたい。いま一回お願いを申し上げます。
○倉石国務大臣 政府委員から申し上げましたように、この法案が通過いたしましてから、中央最低賃金審議会にいろいろ法律を実施をしていくに必要なる手続規定等について御相談をして、そしてそれを省令として公布するというわけであります、もちろん法律は御賛成を願えるものと確信をいたしておりますから、ぼつぼつ準備をしなければなりませんが、そういうことで、今までもそういう法律についてはそのように取り扱っておるのでありますし、本体には影響はないのでありまするから、本体の法律案に御賛成をお願いいたしたい、こういうわけであります。
○小林(進)委員 今の大臣のお言葉は、ずいぶんわれわれを軽べつをせられた御答弁であるといういうふうに考えるのでございまして、本体に影響がないなどというようなことは——私がここで繰り返して申し上げますように重大なる影響がある、むしろ考えようによっては本体以上に業者、労働者にとっては重大な関係があるということを申し上げておるのでありまして、それを本体に影響がないなどというようなことは、実にそれは質問者をなめ切った御答弁であると思うのでありまして、了承するわけには参りません。 それからいま一つは、本体の方も御賛成を得るのでありまするから、ぼちぼちこれから手続法をきめていこうと思うなどというようなことも、これも私は先ほどから申し上げていますように、実に人をなめた話であります。これは二十八国会にもう提出をせられて、そして二十八国会のうちに、先ほどの与党の諸君の理事会における発言によりますれば、もはや質問も討論も済んでいるというふうにまで言われているのでありますから、その言葉を受けて言うならば、もはやこの法律は通過をして、そして三カ月の準備期間を置いたとしても、今日、今ごろには当然法律として働いていなければならないときに到来しておる。幸か不幸か解散がありました。だから通過のその直前までいってこれが廃案になって、あらためて今日ここへ出てきたという状況でございますから、過去の審議の経過からながめてくれば、当然もはやその手続法もできていなければならぬ。これはもうできているはずだと断定しても間違いがない。それを大臣はぼつぼつこれから手続法の作成にかかるなどというような、人を軽蔑したような御答弁ではわれわれは了承することはできません。ですから今までできておりまする手続法の全部、さっきここでお勘定申し上げましたように十五もある、その十五の手続法を全部示していただかなければ、われわれはこの最賃法というものの真実をつかむことができないから出していただきたい。もしかりにできていないとするならば、これは実に怠慢しごくです。そういうような官僚であり、あなたの部下であるならば、そんななまけ者は首にしなさい。それは首に値する。こんな重要法案を出してきて、手続法だけはできていない。そんなばかな話はありませんから、それらの十五の手続法を全部そろえてわれわれに配布をしていただきたい。それを見てわれわれはあらためて賛否の意見や、疑問の点は御質問申し上げたい。これは明確なお答えをいただかなければ、私は質問を前に進めるわけにはいきません。お答えいただきたいと思います。
○倉石国務大臣 意外なことを承わるものでありまして、小林さんとは終戦後の国会以来、議院運営委員会においても親友の間柄でありまして、決して権威をそこねておるようなことはないことは、よく御自身御存じだと思います。先ほど政府委員から申し上げましたように、法案が通過いたしましたならば、そういう省令の原案について中央賃金審議会にまず御相談をいたして、そうして制定をするというものでございますから、中央賃金審議会にどういう方々をわずらわすかというふうなこともこれからですし、その方々に御相談をいたす前に、他にこれを御相談をするというふうなことは、あなたのお言葉をかりていえば、やはりなめたようなことになるのでありまして、やっぱり中央賃金審議会に御相談をして、そしてそれはよろしい、こういうことになって省令というものを出すわけでありますから、さように御了承願いたいと思います。
○小林(進)委員 私はこの法案が提出せられる前、この形を作るまでの間に審議会にかけられたということも承知いたしておりますし、その答申の内容も了承をいたしております。最低賃金制に関する答申の内容も私は了承をいたしております。だからその手続に関するものも、その中央賃金審議会の許可といいますか、承認といいますか、審議といいますか、その審議を経ない前に、この社会労働委員会に提出するわけにはいかないというのですが、私はこういう御意見はちょうだいいたしかねるのでございまして、中央賃金審議会とわれわれの社会労働委員会とは、おのずからその目的、性質を異にいたしておるのでございまして、賃金審議会に答申をされようと、質問を発せられようと、それは大臣の意向によって自由でありますけれども、そんなことは国民の何も関知するところではない。しかしこの国会におけるわれわれの審議は、国民の代表の審議であります。そうして直ちにこの法律の施行によって、あるいはその手続法によって、直接利益を受け、あるいは被害を受け、あるいは取締りを受け、あるいは保護を受けるという、そういう切実な方々を代表いたしまして、われわれは質問をいたしておるのでありますから、審議会の方はそれは大臣の御一存でどうにでもなることですけれども、われわれの方は大臣の御一存で、はいさようでございますか、といって引っ込むわけにはいかない委員会でございますから、いやでございましょうけれども、われわれが一つお出しを願いたいと要求をしたからには、これはやはり大臣の政治的義務であります。出すということは政治的責任であります。それをお出しにならないからといって、まさか私は刑罰法規をもって大臣をしばるというわけには参りませんけれども、やはり政治的道義というものは何らかの形においてわれわれは追及する一つの権利を国民から付託を受けております。従いまして、中央賃金審議会に出す前には国会の社会労働委員会に出すわけにいかぬなどというような、そういう御答弁には、終戦後何年大臣と師友をかたじけのうし、友情をかたじけのういたしておりましても、泣いて馬謖を切るということになりますけれども、決して私はそれをもって了承するわけには参りません。いま一回御返答をいただくと同時に、どうしてもできないとおっしゃるならば、私はこの問題は新たにわが党だけで、これは国会対策なり最高幹部にこの問題を持ち込みまして、党自体の態度を決定して、自今この審議に応ずるかいなかという問題も含めて、われわれは重大なる決意をしなければならないと存じます。御答弁を願いたいと存じます。
○倉石国務大臣 先ほど私が言い違えておりましたが、中央賃金審議会というのは現在ありまして、これに最低賃金制度等についての諮問をいたしまして、答申を得た機関でございますが、今法文の中に書いてございます省令等を出す前に御相談をいたしますのは、本法に基いて設立せられる最低賃金審議会でございます。それはまだできておらないのでございます。本案が通りましたならば、そういうものも成立いたして、それは政府委員の申し上げましたように、三者構成ででき上っておる、それに御相談をして省令を作成いたす、こういうわけでございますから、それを今出せというお話につきましては、困難である、まだ御相談もいたしてない、こういうことを率直に申し上げておるわけであります。
○小林(進)委員 中央賃金審議会が最低賃金審議会の間違いであるという大臣の御答弁でございまするが、しかし私どもはそれが最低賃金審議会であろうと、やはり先立って今直ちにその手続法規をわれわれに見せていただきたいというわれわれの要望にはいささかも変りはありません。しかし残念ながら大臣はどうしてもお出しになるとおっしゃらないのでありますから、われわれはもはやこれ以上大臣にその回答を求めることは、私はこの場合はこれでとどめておきます。けれどもこれは了承したことではございません。これは私はわが党においてまず態度を決定いたしまして、今後のこの法案の審議に関する限りは一つこの問題の解決をしなければ、われわれとしては御協力申し上げられないということをあえて申し添えておく次第でございます。なおせっかく条文の問題から質問が入って参りましたから、私はこの最賃法案の条文の問題について疑問を持っておりまする点をいろいろ申し上げたいのでございますが、実に不可解な、ちょうど今出ております警職法と同じようにどうにでも解釈できる、こういうような点がこの条文に含まれていることを申し上げなければならないのでございまして、たとえていえば「使用者の大部分の者の合意による申請があったとき」の大部分とは一体何ですか。こういうようなものは解釈によってどうにもなる。一つ大部分というものの明確なる御説明を承わりたいと思います。
○堀政府委員 大部分と申しまするのは、大多数の意味でございまして、過半数よりは広い観念でございます。現在までの労働関係法規を見ますると、労働組合法十八条等にも同じ言葉を使ってあるのでございます。これは労働協約の拡張適用を定める際の基準でございまするが、今回の労働協約に基く地域的最低賃金の適用決定、それから業者間協定に基く地域的最低賃金の決定に当りましては、その場合に、一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分が業者間協定に基く最低賃金あるいは労働協約に基く最低賃金の適用を受けておるということを条件にいたしまして、それらの者が申請をして参りましたならば、アウトサイダーをこれによって規制いたしまして、その地域内における最低賃金の円滑な実施をはかろうということが目的なのでございます。その場合に、いかなるものか大部分かということになりますが、労働組合法十八条では、大体の今までの慣行といたしまして、大体四分の三程度ということに解釈適用があるわけでございます。しかし四分の三というようにはっきりきめまするよりは、その場合々々の実態に応じて、大体その程度を基準といたしまして、具体的にこれに該当するかどうかは労使、中立、三者構成の賃金審議会にその認定を求めまして、その意見に基づいてこの基準を決定するというのがこの十条、十一条のねらいでございます。
○小林(進)委員 労働組合法第十八条の問題についても実は私は御質問を申し上げたい点があるのでございますが、これはまた後に譲りまして、今の大部分という言葉、これは法律用語であるかどうか私はわかりませんが、この大部分と称するものが、過半数よりは広い、大多数と相匹敵する言葉であるというふうにお逃げになる。それを数字で表わせば大体四分の三程度とおっしゃいました。過半数でもなければ、「これを使用する使用者の全部に適用する」と十条にありますが、全部ではない。それでは三分の二は一体この大部分の中に入るのか、入らないのか、一つお伺いいたします。
○堀政府委員 この場合におきましては、その業者間協定、あるいは労働協約に基く最低賃金が定められておる業種が何であるか、あるいは地域がどこであるか、あるいは職種が何であるかという場合に応じまして、具体的にその場合々々に応じて判定さるべき問題であろうと考えます。その判定は賃金審議会にお諮りいたしまして、賃金審議会の認定を得よう、こういう考え方なのでありまして、それかどの程度であるかということになれば、今までの労働組合法十八条の解釈等からいたしまして大体四分の三程度が基準になるであろう、このように申し上げたわけでありまして、それより一%上回った場合はどうであるか、あるいは一%下回った場合はどうであるか、そういうような問題につきましては、これは業種職種、地域に応じまして、その場合その場合の社会通念に応じまして、賃金審議会の審議を経まして決定して参りたい、このように考えておる次第でございます。
○小林(進)委員 私は今おっしゃいますように、これは新しくしかれる一つの法律でございまして、それは業種別などというような、どうもカルテル的な、一方的な要素もございまして、決してほめた法律ではございませんけれども、しかし何といっても最賃法という言葉だけとらえれば、わが日本には革命的な要素を持っている法律でございます。そこへ持ってきて、今あなたは社会通念とおっしゃいましたが、この法律に関する限り四分の三が社会通念か、三分の二が社会通念かというような、そういう言葉をもってはかり得る事態があるかというと、長い慣習があるとか、長いしきたりがあるとか、そういう問題ならよろしゅうございますけれども、これから新しく認定をして、そうしてこの法律を実施しようというときに、どうも社会通念だというようなあいまいもこたるところでは解決せらるべき問題ではないと私は思うのでありまして、この言葉だけでもこの法律というものがいかに——私がこういう言葉をしいて言いますることは、やはりこれを運用する人によってこれが村正の名刀ともなり、正宗の名刀ともなる、いわば人を助ける法律にもなり、人を切る法律にもなるおそれがある。特に官僚というものはこういう法律をたてにして、人民を保護する方よりはむしろ苦しめる方へこれを持っていきかねないのでありまするから、私はこれを非常におそれる。大体、大部分というようなあいまいもこたる言葉はなるべくやめてもらいたい、こういうことなのでありまして、いま一応四分の三は大部分で、三分の二はあなたの言われるいわゆる業種、職種あるいは土地の状況その他によっては大部分と解される余地があるのか、ないのか、明確にお答えを願いたいと思うのでございます。
○堀政府委員 この法案を作成いたしまするに際しましては、先ほどお話し申し上げました中央賃金審議会で約半歳にわたる熱心な御討議を経たわけでございますが、その際におきまして、この業者間協定に基く地域的最低賃金あるいは労働協約に基く地域的最低賃金の適用の基準をどのようにするかということにつきましても、実は労使、中立三者の間で突っ込んだ御意見があったわけでございます。その際におきまして、あるいはこれを四分の三にすべきである、あるいは三分の二とはっきり書くべきである、このような意見もあったわけでございまするが、いろいろ労使、中立の間で御検討を願いました結果、結論といたしましては、これはやはり業種、職種、その他地域に応じまして具体的に判定することが実情に即するゆえんである、これを四分の三、あるいは三分の二というようなことできめまして、かりにそれより一人多かったらどうであるか、あるいは一人少かったらどうであるかというようなことにするのは、かえって機械的になるので妥当でない、そういう点は労使、中立三者構成の賃金審議会において十分検討して、その場合においてこれが大部分であるかどうかを判定することが適当である、こういう結論に到達されたわけでございます。労働組合法十八条も同じような見地から大部分ということで、これは別の法律でございまするが、規定があるものとわれわれは考えておるわけでございます。従いまして、今のようなことに基きまして、中央賃金審議会の答申にも、これらの十条、十一条の場合には大部分ということを基準にすべきであって、この大部分の基準が具体的に幾らであるべきかということにつきましては、賃金審議会において具体的にその場合その場合討議して労働大臣に答申することにしようじゃないか、こういうことでございます。われわれといたしましてはこれを尊重いたしまして、十条、十一条には大部分という言葉を使ったのでございます。従いまして、その基準は具体的に個々の場合に応じて判定されるべきものと思いまするが、労働組合法十八条等には、大体今まで四分の三程度が大部分である、こういうような解釈慣行が積み重なっておりまするので、賃金審議会が今後御討議を続けられ、それからわれわれが個々の場合に判定するに当りましては、大体その辺の線を一応基準として、あとは具体的に個々の場合について判定を下していく、このようなことで参りたいと考えておる次第でございます。
○小林(進)委員 私は中央賃金審議会の審議の経過も実はこまかくは知っておりませんけれども、こうやって御質問を申し上げるからには、一応その審議の経過、内容も私は調査いたして参りました。従いまして、またその中央賃金審議会の委員がどういう人であるか、公益代表、労働代表、使用代表、そういう人々の名前、人格並びに経歴も一応私は調べて参りました。従いましてそういう人たちが御審議になりましたことにけちをつけようというのではないのでありまして、願わくば、こういう人たちが将来ともにこの法律に責任を持って運営していただくのでございますならば、大部分という言葉をもって表現せられてもよろしい。それが四分の三であろうと、三分の二であろうと私はけっこうです。しかしでき上ったらこの法律はこの人たちの手を離れて、全く別な人たちの手によって運用せられ、警職法は国会の手を離れてから、まさに無知に近いような警察官にあすの日から運用せられて、善良な市民が苦しめられるというような形が、一体この最低賃金法に現われてこないとだれが保証しますか。先ほどあなたがおっしゃるように、その運用は最低賃金審議会がおやりになるのだからとおっしゃるかもしれませんが、私はこの最低賃金審議会というものがそれほど力のある、正鵠に運営を決定し、これを監視し得る機関であるとは思っていない。なおその中には、あとでも申し上げまするけれども、特別委員などといって、やはりちゃんと政府を代表する機関がその中に飛び込んでいって、そうして官の意図のままにこれを動かし得るような、そういうおそるべき抜け道もできておるということも見ておりまするので、従ってこういう法律を作るときには、これを運用する人が最も公明かつ人格、識見善良な人が用いるのであるというような考え方ではなくして、常に最悪の場合を予想して、どうこれを悪用せられても万万善良なる市民やらあるいは業者労働者にそういう不幸を及ぼすことがないというような慎重な態度をもって条文というものは作らなければならない、かように私は思っております。かように考えまするがゆえに、かくもくどく御質問申し上げるのでありまするけれども、この大部分の問題だけにこだわっておりますると先に進みませんので、これまた私は、どうも今までのあなたの御答弁だけでは私も危惧の点が氷解するわけには参らぬという点を申し上げておいて、次にまたいま一つ進んで御質問をいたしたいと思うのでございます。 その次には第十五条に参りますると、「あらかじめ最低賃金審議会に諮問し、その意見を尊重してこれをしなければならない。」どうもこれも私は文章の体裁だけで作られているような気がするのでございまして、私をしてこの条文を改正せしめるならば、あらかじめ最低賃金審議会に諮問しなければならない——。これが決議機関、決定機関であれば別です。諮問機関にすぎない。諮問機関にすぎないけれども、特に言葉のあやをつけて、「その意見を尊重してこれをしなければならない。」ということにした。事実の面において、具体的な面において、一体どれだけの違いがあるのか、明確に、そろばんの玉をはじくように明確な区別をお教え願いたいと思います。
○堀政府委員 最低賃金審議会は、この最低賃金法を運営いたします際の最も重要な機関として御活躍願いたいとわれわれは思っておるわけでございます。そこで十五条では、業者間協定に基く最低賃金、それから同じく業者間協定に基く地域的最低賃金、あるいは労働協約に基く地域的最低賃金、それからもう一つは業者間協定の締結等について関係者に勧告を行うというようなことはきわめて大事な問題でございますので、これはあらかじめ最低賃金審議会に諮問しなければならないことといたしたのであります。諮問機関であります以上、この諮問に応じて答申が出てきた場合には、それはもとより労働大臣、都道府県労働基準局長はこれを尊重しなければならないことは当然でございますが、この最低賃金法に基く最低賃金審議会は諮問機関ではございますが、われわれはこの法律の運営の柱となるきわめて重要な機関として活動していただきたいと思っておるのであります。その意見が出ましたならば労働大臣並びに基準局長はその意見を尊重して行わなければならないということを特に明記することによりまして、行政機関がこの賃金審議会に対して負うところの政治的、道義的な責任を明らかにしたものでございます。
○小林(進)委員 新しい憲法がしかれましてから、こういう諮問機関というものが一つの流行のようにわが日本の行政制度の上に現われてきたのでございますが、そういう幾多の諮問機関の中に、単にこれに諮問しなければならないという機関と、諮問しその意見を特に尊重しなければならない機関との区別ですが、そのほかにどんなものがございますか、お知りになりましたら一つお伺いしたいと思います。
○堀政府委員 一般の法律における諮問機関につきましては、諮問しなければならないということを書いてありますのが通例であると私は承知しております。この文案におきまして、特にその意見を尊重しなければならないと書きましたのは、先ほど申し上げましたように、最低賃金法において、最低賃金審議会というものはあくまでも重要な柱になって活動していただかなければならない、その意味で、その意見は尊重しなければならないということを特に明記するという意味で、この法案はむしろ特例であるとわれわれは考えております。
○小林(進)委員 そういたしますと、諮問機関の中には重要なる諮問機関と重要ならざる諮問機関とある。柱となる諮問機関と柱とならざる諮問機関があって、この最低賃金審議会だけは他の審議会と違って柱となり、特に重要な審議会であるから、特に意見を尊重してという特例をお設けになった、こういうふうに解釈してよろしゅうございますか。
○堀政府委員 諮問機関が行政官庁の諮問に応じて答申なり意見なりを提出いたしました際には、行政機関は当然それは尊重しなければならないというふうに考えます。従って諮問機関の中に尊重されなくてもいい諮問機関があるというようなことはわれわれはないと考えております。ただこの最低賃金法案の中に、尊重しなければならないと書きましたのは、そういうようなほんとうに諮問するんだという気分をはっきりとさせるために書いたものでございまして、諮問機関の中に尊重されなくてもいい諮問機関があるという意味で申し上げたのではございません。
○小林(進)委員 私がこまかい言葉にどうもこだわり過ぎるというふうにお考えになるかもしれませんけれども、こういう新しい法律用語の使い方が出てくるたびに、これはどうも受ける側からいたしますと、むしろ事態を混迷ならしめるだけで意味がない、私はこういう一つの考え方に立っているから御質問を申し上げるのであります。今までわれわれが議論をするときには、諮問機関であるか、決議機関であるかということが問題の論点なのでございまして、諮問機関であめるが、決議機関であるかという、その中間に、特に尊重しなければならない諮問機関などというものを設ける必要が一体どこにあるか。一体どこにその利益があるかと思うのでございます。それまで最低賃金審議会がこの最賃法の柱であり、重要な機関であるならば、特に尊重しなければならないなどという屋上屋を重ね、事態を混迷ならしめるようなややこしい表現などはやめにして、むしろこれを決議機関にでもせられたらどうなんですか。決議機関にはできない、しかし諮問機関では物足りない、だからその中間の特に尊重しなければならないなどというようなややこしいことは、どうも語るに落ちて——今も不規則発言がありましたように、今までを顧みて、どうも労働省は諮問機関は幾つも作りながら何にも尊重しない、官僚独善、お手盛りのままにそれを動かしておいでになる、いささか良心に恥ずるところがあって、これだけは一つこれから心を改めて尊重いたしますというふうにお書きになったのじゃないか、われわれはそうとらざるを得ないのでありまして、もう一度明快なる答弁をいただきたいと思います。
○堀政府委員 この最低賃金審議会を諮問機関にするか、あるいは決定機関にするかということにつきましては、いろいろ御議論の分れるところでございますが、諸外国の立法例等を見てみますと、やはり諮問機関の方が多いように考えております。そこで、中央賃金審議会の答申提出の際におきましても、いろいろこの点について御議論がありましたが、やはり諮問機関にすることが妥当である、このようなことで答申案も提出されておるわけでございます。われわれの考え方といたしましても、最低賃金は、労働条件の面からも、あるいは経済的な面からも、きわめて重大な問題でございますので、これはあくまでも責任者であるところの労働大臣が決定するということにいたします。ただその場合において、賃金審議会は労使、中立、三者をもって構成し、その御意見は十分尊重していくということにするのが妥当であると考えて、この法案を作成したわけでございます。従いまして、その意味において尊重しなければならないと書いたものでございまして、尊重しなければならないと書きましたのは、そういう意味を念のために明記したものでございます。
○小林(進)委員 それでは今までの尊重しなければならないという言葉のない諮問機関は、最初から尊重しない、軽視をしておられた、かような意味に解釈をしてよろしゅうございますか。
○堀政府委員 先ほども御答弁いたしましたように、諮問機関が答申なり、意見を提出いたしましたときには、それは当然行政官庁が尊重しなければならないわけでございます。この法案におきましては、それを念のため明記したものである、このように申し上げておるわけでございます。
○小林(進)委員 そういう御答弁ならば、これは同じでございますから、特に文章をこういうようにややこしくしないで、それを削除せられたらいかがですか。諮問を尊重するということならば同じでございますから、削除せられた方が、むしろ文章が簡潔になって、のみ込みやすいのじゃないかと思いますが、いかがでございますか。
○堀政府委員 最低賃金法は中小業者その他にも適用されるので、そういう場合に、最低賃金審議会というものの答申は、あくまでも行政官庁は尊重するんだということをはっきり書いておきました方が、しろうとわかりがするというふうに考えられます。
○小林(進)委員 どうもそういうような御答弁はちょうだいしかねるのでございまして、文章や手紙ではございません。しろうとわかりするように、説明に加えたなどというようなことに法律ができ上ったのでは、文章の尊厳を冒涜する。はなはだ大きな誤まりであると思う。了承するわけには参りません。むしろ私は、この最低賃金審議会というものは、あくまでも中立性を堅持し、労、使、公の立場に立った決議機関にすべきであるという一つの意見を持っております。従いまして、そういう言葉のあやをつけて諮問機関にとどめておいて、解釈のいかんによってはこれを軽視することも——時の政府が活用する面において、不便なときにはこれを無視し、自己に有利な場合には、その意見を尊重するというふうに闊達自在に活用できる余地を残しておく条文の作り方には、私どもは残念ながら賛成するわけに参りません。これはどうしても改めてもらわなければならない、さように考えておるのでございます。 なお、こういうこまかい文章をついておりますと際限がないけれども、まだどうしても運用の上で危険と思われる点が二、三ございますので、私の最も聞きたい本論に入る前に、条文の中でふに落ちない点をお尋ねいたしたいと思うのでございます。それは第十四条でございます。これはどうも読んでわからぬのでございます。業者間協定の締結等の勧告でございますが、「労働大臣又は都道府県労働基準局長は、賃金の低廉な労働者の労働条件の」その次であります。「改善を図るため必要があると認めるときは、」この「ため」の二字を取った場合と取らざる場合とどう違いますか。ちょっと労働基準局長にお伺いいたしたいのでございます。
○堀政府委員 十四条は、ある産業あるいは職種におきまして、賃金が低廉であり、その労働者の労働条件の向上をはかることが社会的に必要である、このように認められる場合におきまして、この賃金審議会等においても、その必要があるというふうに考えられますときには、その「ため必要があると認めるときは」、「業者間協定の締結又は改正を勧告することができる。」このようにいたしたわけでございます。従いまして、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善をはかるということ目的でございますから、その目的を達成するため必要がある、こういうふうに「ため」という文句をつけ加えたものでございます。
○小林(進)委員 こういう日本語の文章の構成になると、どうもわからないのでございます。私はこの「ため」の二字がじゃまになって仕方がないのでございます。われわれが手紙を書いて郷里の知り人へやる、二、三行言葉の余分なやつがあるというような問題で解決されることではございません。実体を盛っていなければならない。どうもこの「ため」の二字がふに落ちないのであります。これは労働条件の改善をはかる必要があると認めるときは、というふうになぜ持っていけないかということなんでございます。もし、改善をはかる必要があると認めるときというと、文章の実体が異なる、内容が興なるというならば、二つの内容を、鈍感な私が明確に了解できるように一つ御説明を願いたいと思います。
○堀政府委員 「図るため必要があると認めるときは、」と書きましたのは、業者間協定の場合でございまするから、最低賃金の協定を結びまして労働条件の向上をはかる、その主体は業者であります。従って、そういうことをさせるために必要があると思われるときはということで、「ため」という文字を使ったわけでございますが、それは、ただいまお話しのように、かりに「ため」という文字がないといたしましても、それは同じような意味でございまして、「ため」という文字を抜かしたからどのこうのという問題ではございません。「ため」という文字を使いましたのは、ただいま申した主体がそのような業者であるという意味から、「ため」という文字を使ったわけでございます。しかし、その「ため」を省略いたしましても、もちろんこれは同じような意味に通用いたすものとわれわれは考えます。
○小林(進)委員 まあへそと同じでございまして、あってもなくてもいいようなものでございましたら、なるべく一つ、一字でも二字でも余分なものは省略していただいた方が、われわれ鈍才には非常に話のわかりがいいのでございまするから、願わくば、同じ意味でございましたら、一つ御省略を願うように、これも私は改正していただきたいと思うのでございます。今お話を承わりまして、どうも「ため」の二字があってもなくても同じようなものだという説明でございましたから、私はそれで一つ了承をいたしまして、次に参ります。 これは、どうも単純なことでいくわけにはいきません。二、三カ所「一定の地域」という言葉がある。第十条と第二十条でございまするか、これは業者間協定に基く地域的最低賃金の場合、「一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分」、それから二十条に参りますると、最低工賃の決定でございまするが、ここにも、「一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者」とございます。一体この「一定の地域」というものは、どういう地域を想定せられておるのか、これを一つお伺いいたしたいと思います。
○堀政府委員 一定の地域と申しますのは、社会的経済的にまとまった一つの地域という意味でございます。従いましてこれは、たとえば行政区画等によって区分されるものではありません。具体的に、これは例が果して適当であるかどうかは存じませんが、たとえば静岡の清水市周辺にはカン詰産業が集まっております。清水周辺のカン詰産業の地域というものは、社会的経済的に見まして、一つのまとまった集団をなしておる地域である、このように考えられるわけでございます。そのように、社会的経済的に見まして、一つのまとまった地域について指定をする、このようなことになっておるわけでございます。たとえば清水周辺のカン詰地帯あるいは桐生市周辺の紡織工場地帯というように、経済的社会的に見て、一つのまとまった地域をさすものでございます。
○小林(進)委員 定数はございますか。——質問を進めます。 一定の地域ということが、社会的経済的に決定をせられる、行政的区画ではないというお答えでございまするが、それは了承いたしまするけれども、そういう場合には、特に清水市のカン詰、おっしゃるように、一つの特徴、色彩が最も濃く出た場合を一つの例としてお出しになったけれども、しかし一体色彩の薄い場合はどうしますか。その地域というものを一体どこでどう区画をしていいか。経済的にも社会的にもそういうふうに地域としてとらえがたいような場合がむしろ私は多いと見なくてはならない、そういう場合のとらえ方の問題であります。それをこのままやはり放置されておくのか、これをお得意の省令とか政令によって別に規定をせられるお考えなのかどうか。お伺いをいたしたいと思うのであります。
○堀政府委員 一定の地域がどのような場合に認定をせらるべきであるかということにつきましては、お話のように、ただいま私の申し上げましたような事例は比較的明確な場合でございます。で、かような場合には、もとよりこれは社会通念上当然だと思われるようになりますが、必ずしも明確でないという場合もあると考えるのであります。そのような場合には、個々の場合々々につきまして最低賃金審議会に諮問いたしまして、その最低賃金審議会で、この一定の地域というのは、この業種業態についてはどこまでが一定の地域であるというような基準を御審議願いまして、それによって具体的に判定をして参りたいと考えております。
○小林(進)委員 私はこういう点も、実施される場合にあらゆる危険、弊害が非常に生じてくるのではないかと考えるのでございますが、一つ政府側に警告を、御注意を喚起しておくという程度にとどめまして、次にこの三十一条には政令——これは政令は二十八条、二十九条、三十一条の三項と三十二条と、政令にまかせるだけで四項目がございます。これは私も政令の点はやむを得ないのではないか、かように考えておるのでございまするが、その第二十九条の政令で定めるところの委員でございますか、一体何名くらいを予定をせられておるのか、一つお伺いをいたしてみたいと思うのでございます。
○堀政府委員 この点につきましては、一応予定しておりますのは、中央最低賃金審議会が労使中立各七名程度、それから地方の最低賃金審議会が労使中立各五名程度、この程度の範囲で御委嘱申し上げたい、このように考えます。
○小林(進)委員 そういたしますと中央の審議会が二十一名、地方の審議会は十五名ということになると思いますが、その中の第二十九条の第四項に特別委員の規定がございまして、「関係行政機関の職員のうちがら、労働大臣又は都道府県労働基準局長が任命する。」ということになっております。これは一体何名を予定をせられておるのか、お答えを願います。
○堀政府委員 この特別委員の規定は、最低賃金法を実施いたしますに際しましては、中小企業にきわめて関係のある問題でございますので、あるいは通産省あるいは中央におきましては経済企画庁関係の職員等を任命することにいたしたいと思っております。その数はそれほど多くはない考えでございますが、この特別委員につきましては、この二十八条にありますように「特別委員は、議決に加わることができない。」ということで、議決権はないわけでございます。その数につきましては、経済官庁の関係職員の中から三名ないし四名程度を一応予定しておるわけであります。
○小林(進)委員 私は、この法律は至るところが欠陥だらけである、かように考えておりますが、その多くの欠陥の中でも一番悪いのは私はここだと思っております。この特別委員制度というものは私は一番悪いと思っております。今おっしゃったように二十八条の第三項に「特別委員は、議決に加わることができない。」こういうふうにお入れになっておりますけれども、こんなのが実際に行われるときになったら、もはや加わった特別委員の示唆といいますか、発言権というものが一切最賃法の内容を性格づけ、一番強力な発言権を持ってこれがすべて支配をしてしまう。これは古今東西その例を同じくするところです。ここにこそ大きなくせ者が含まれている、私はかように考えておるのでございまして、こういう特別委員などという、そういう処女のようなさわやかな形で委員の中に入っていって、そうして官僚がすべての法律や制度というものを支配をする、こういう形であると私どもは断ぜざるを得ないのでございまして、あなおそろしやおそろしやという感じを強ういたすのでございます。 今御質問を申し上げましたのは、この条文に関するほんの一例です。私の持っております疑問を全部御質問したわけじゃない、ほんの一つの例として申し上げた。その申し上げただけでもこれくらい問題が存在をしているではないか。これくらいずさんではないか。立場をかえてわれわれの側から言わしむるならば、これくらいなおまだ多くの疑問点が存在をしているではないかという例証として申し上げたのでございまして、もし私がかくのごとく論じて第一条から四十六条、なお付則を加えて五十何条まで一々持っていきますならば、それは千一夜物語ではございませんけれども、とうてい論議し尽されるものではございません。ございませんから、先ほどから申し上げましたように、これはほんの例証の点だけに私はとどめておきまして、今度はいよいよ本論の方へ入ってお伺いをいたしたいと思うのでございます。 私は、資料をまずちょうだいをいたしたいのでございます。この前いただきました賃金関係の資料によって、五百人以上の労働者を雇っている生産会社から三十人以上に至るまでの賃金の比率というものはここで拝見をいたしましたが、いま少し具体的に、金額で見ました労働者の区分と申し上げましょうか、全雇用労働者の中で、あるいは六千円以下が大体何百万人、何%、あるいはそれから上は幾ら、以下が幾ら、千円くらいの労働者がありましたら、千円くらいのが何%、私も若干調べております資料がございますけれども、私の資料と合いませんと先の質問がそごいたしますので、政府側の資料を一つお聞かせを願いたいと思うのでございます。
○大島説明員 前会に差し上げました資料の第十五表にございますように、六千円未満の労働者が三百三十五万四千人でございます。その比率は一九・六%、約二割でございます。八千円未満の労働者は五百六十五万二千人、三三・一%で、全労働者の約三分の一でございます。
○小林(進)委員 四千円未満はどれくらいになっておるのでございましょうか、七・一%というのは間違いございませんか。
○大島説明員 四千円未満のところで百二十万四千人、七・一%でございます。
○小林(進)委員 四千円未満の労働者の中にも各階層の区別がございます。三千五百円、三千円、二千五百円、二千円、千五百円、千円、こういうふうに一つ区別してお知らせを願いたいと思います。
○大島説明員 この十五表にございますように、所得階級別にかなりこまかく区分をいたしておるのでありますが、それ以上こまかくいたしますと統計技術上算出が非常に困難なので、一応その程度の所得階級区分にいたしております。
○小林(進)委員 私どもの調査によりますと、二千円から四千円までが全労働者の中の七・一%という数字が現われているのでございまして、四千円未満が百五十万人ですが、あなたの方の統計は百二十万人でございますか。
○大島説明員 百二十万でございます。なお所得不詳のものは一番最後に列記いたしております。
○小林(進)委員 それで私は大臣にお伺いいたしたいのでございますが、この最低賃金法は、政府の方でおっしゃれば名実ともに最低賃金法でございましょうし、われわれの方に言わせれば底なし賃金法である、こういうふうに言うのでありまして、そういう言葉の方の論争は別にいたしましても、やはり人間が働くからには、人間として生きるためには最低これくらいの生活費といいまするか、生計費といいまするかが必要である、これがなければ人間として一カ月生きていけないという数字はお持ちになっていると私は思うのでございます。その数字を一つお聞かせ願いたいと思うのでございます。
○堀政府委員 生計費については、どのような額が具体的な最低生計費であるか、こういうお尋ねでございますが、これは本日の参考人の意見供述の際、氏原氏も言われましたように、これを一律にきめるということはなかなかむずかしい問題でございます。そこで本法案の実施に当りまして最低賃金額を決定いたします場合には、生計費と、同種の類似労働者に対して普通支払われる賃金、それから企業の通常の賃金支払い能力、この三つのものを勘案してきめる、このようにいたしたわけでございます。その具体的な場合にどのような額が決定されるかということにつきましては、業種、職種、地域に応じまして、それぞれその場合に応じて具体的に審議決定さるべき問題であると考えます。その場合には最低賃金審議会に諮りまして、そこで諸種の資料を御検討願いまして、その御意見を受ける、このようなことになっておるわけでございますが、生計費については、たとえば生活保護法による保護基準とか、人事院勧告による標準生計費とか、あるいはその他各種の資料がございまするので、これらのものを提供いたし、同時に賃金審議会においても独自の立場から御調査を願いまして、それらをもとにして、これらの三つのものを参考といたしまして、最低賃金がいかなるものが適当であるかという御意見を伺うことを期待しておるわけでございます。
○小林(進)委員 私はそういう説明はもうこの委員会でしばしば承わりましたし、仰せの通り先ほどの参考意見でもお聞きしたのでございまするが、しかし労働省自体——人事院、それから厚生省の生活保護法もよろしい、しかし労働省自体といたしまして、こういう法律をお作りになるからには、日本人として、しかもあなた方、お扱いになる労働省として、一カ月生活をしていくためには最低これくらいの生活費あるいは生存費というものは必要であろうという、それくらいの数字は私は持っていてしかるべきであると思う。それにその標準の基準の中に、北海道ならば燃料費がかかる、あるいはどこならば衣服費が要らぬから、その間に地域々々あるいは状況、環境によって若干の高低はあるけれども、おしなべて日本国民として生きていくためには標準として最低これくらいのものが必要だという一本の、それこそ一本の柱です、あなたのおっしゃる柱として、標準の賃金というものがあってしかるべきだと思う。お聞かせ願いたいと思います。
○堀政府委員 具体的にはその業種、職種、地域に応じまして、個々の場合について賃金審議会の意見を伺った上で決定して参りたい、このように思っておりまするが、これは参考までに申し上げますと、先ほどもちょっと申し上げました生活保護法の保護基準によりますると、東京で成年男子単身者の月額は三千五百十円となっております。ただこれはきわめて軽作業に従事する程度のものでございまして、これらの額は非常に少い額ではないかというふうにも思っております。それから人事院の給与勧告の資料によりますると、満十八才成年男子単身者の標準生計費は東京で月額七千五百六十円、このように言っております。これは最低ではございません。標準の生計費でございます。従いましてこれを最低生計費として取り扱うことはやや妥当を欠くのではないかと思いますが、要するにこれらのいろいろな資料があるわけでございます。それによりましてその地域、その業種、それから職種に応じまするところの最低生計費はどの程度のものであるかということを勘案しつつ、これと通常の事業の賃金支払い能力及び類似の労働者に対して支払われる賃金、これらの三つの要素も勘案いたしまして、賃金審議会において具体的な御意見をお聞かせ願って、それに応じて最低賃金を決定する、このようなことで進みたいと考えます。
○小林(進)委員 今おっしゃいました人事院やら何やらの基準は、第二十八国会の何やらさんの御回答の中にもその数字が出ておりましたが、私はそういうよその方のいつも活用せられている数中の御発表を繰り返しお願いしたいというのではないのでありまして、労働省として、もはや確信あるそういう数字を持ってしかるべきではないか、私はそれを申し上げておるのでございます。それをいま一歩突っ込んで言うならば、それほどわが社会党の言いまする全産業一律の最低賃金の基準をお用いになるのがおいやであるならば、おいやでよろしい。よろしいが、しかし最低賃金法というものをお作りになるならば、やはり今日この物価、この日本の生活の中で、労働者としての標準としての最低賃金は今年はこれくらいであるという一本の線を、私は示してしかるべきだと思う。法律の中に入れるのがいやならば、せめて付則でも政令でもよろしい、そういう線を認めてそれに書く。今おっしゃいますように、四千円以下の賃金しかもらわない労働者は百五十万、まあ政府の統計によりますれば百二十万とおっしゃいます。不詳の面もございますが、われわれの数字では百五十万もおる。そういうものをあなたのおっしゃる職種別、地域別、業種別だと言って、それをそのまま固定せしめて、それで能事終れりとするような安易な考え方こそ、むしろ社会悪を生ずるものではないかと私は考えている。そこで、それは私どもはちっとも影響はないと思いますが、あなた方が、そういう一律の賃金を定めますと、産業構造に重大なる変革を及ぼすことによって危険があるとおっしゃるならば、それを認めて、それならば一本別の線で、せめて労働省として今年、あるいは今期間における労働賃金の最低の標準はこれこれだ——決して社会党の言うように、六千円にしなさい、八千円にしなさいと言うのじゃない。そのときこそ全国的にあなた方の言う職種別、業種別、あらゆるものを参考にされたらいい。労働の種類から量からみな参考にされたらよろしい。地域も参考にしたらよろしい。そしてその中から全国の平均を出し、それが七千円なら七千円、五千五百円なら五千五百円、そういう数字を示して、願わくばその数字に近い、それを上回るような業種別、職種別、地域別の賃金を作るように努力せよと言う。そこに至らざる者にはほのかに一つの努力目標を示すくらいのそういう賃金をお作りになる、あるいはお示しになる、こういうような考えを持ってもらいたいと思いますが、そういう希望を申し上げておきます。しかしその希望は別にいたしましても、そのくらいの数字は私は労働省として持ってしかるべきと思うのでありますが、いま一回お聞きしたい。お持ちになっておるかどうか。
○堀政府委員 労働者の生活の実態は、先ほどの参考人の公述の際にも、その問題を専門に御研究になっておる氏原さんからお話があったわけでございますが、業種、職種、地域、それからその労働者がどのような業態で働いておるかという労働の態様からいっても、いろいろ違いがある、これを一律に何千円であるという工合に決定することはむずかしい問題でございます。そこでこれらの点につきましては、個個の具体的な場合に応じまして、労使中立、三者構成の賃金審議会において具体的に御調査を願い、その意見をお聞かせ願う、このような方式でいくことが妥当である、またそれがこの法案のねらいとするところでもあるわけでございます。なお具体的にどのような金額決定方式を考えておるかというような点につきましては、実は中央賃金審議会の答申が昨年の末に出されましたが、その答申の一つの前提ともなっておる昭和二十九年の中央賃金審議会の答申におきましても、最低賃金の決定は、最低生活、賃金支払い能力等をあわせ考慮して基準とすべきであるといたしておりまするが、具体的な方法としては、当該地域、業種、それから職種における実際の支払い賃金額のうちから極端に低位にあるものを排除する。具体的に申しますと標準偏差方式、すなわちエム・マイナス・シグマ方式というものを使いまして決定していく、このようなことも述べられておりまして、これらのものを総合勘案いたしまして賃金審議会において、個々の具体的な場合々々につきまして御意見をお聞かせ願うことが妥当である、このように考えておるわけでございます。
○小林(進)委員 先ほどの公聴会にもお話があったのでございまするが、今のわが日本の賃金構造から見れば、このちょうだいいたしました統計表にもありまするがごとく、五百人以上使っておりまする労働者のもらう賃金を一〇〇とすれば、一人から五人までに至るものは三五%ですか、三四%ですか、ともかく三分の一に至らざる賃金をしかもらってない、そういうような大きな格差のあるものを、あなた方は業種別、職種別あるいは地域別という、そういう言葉をもってこれを合法化しようとしておられる、これを固定化しようとしておられる、これは私は一番問題の危険性があると思うのでございまして、先ほどもお話のように一つの零細業者がやはり営業を営んでおる、生産を営んでおる。しかしその人たちは自分の産業に必要な資料、材料というものはやはり普通の人たち並みに買うだけの力を持っている。しかるに支払う賃金だけは一般の支払いより三分の一しか払っていないという、こういうことは一体事業として成り立つものと判断していいかどうか、これを普通の事業として一体認めていいかどうか、私は問題はここにあると思うのですよ。もしここで近代産業という言葉が許されるならば、これから新しい事業をやる者は、まず材料を買うよりは労働力を買うということが優先しなければならぬ。普通の人の労働力を買う力、まずこれを第一に持たなければ、もはやその事業というものは事業として成立しないという、こういう感覚を私はまず持たなければいけないと思う。最賃法を今施行せられるならば——労働省は、あなた方は労働者保護のためのサービス機関であって、何も労働省は労働者を搾取したり、いじめたりするためにあるのではない。ならば、なおさら私はそういう新しい感覚というものは最賃法をお用いになるときにここで盛り上げてもらわなければならないと思う。しかるに産業を大切にする、あるいは業種に対する大きな変革を与えることを避けるというような言葉にのみ逃げて、そうして全く奴隷以下の賃金しか払えないような産業までもそのまま認めていこうとする、こういうところに私は大きな間違いがある、この法律の根本的な欠陥があると思うのでございます。私は一つ言わせていただきますならば、民主政治というものは、福沢論告先生ではないけれども、人間の上に人間を作らずといういわゆる人間の平等というものをブルジョア革命によって獲得をした。封建制を打倒いたしまして、昔ならば百姓の小せがれの私はあなたあたりに無礼打ちをされるかもしれませんけれども、幸いに人間に上下なしの条件ができた。これは私は一つの民主政治の原則だと思う。しかし新しい近代国家というものは、それから進歩した新しい近代国家の様相というものは、人間の平等の上に労働の価値をどれだけ認めるかというのが、私は新しい世の中の新しい進歩した様相だと思う。世界の国々の中で、この国が文明国だ、この国が野蛮国だともし比較するとすれば、万物の霊長である人間に貴賤がないとすれば、その国が、万物の霊長たる一番尊い人間が汗して働いて物を作っているという、その労働の汗というものにどれだけの価値を一体認めているかということが、私はその国のいわゆる文化の程度を比較する尺度だと思っている。従いまして、わが日本も一つそういう近代国家の様相の中に今突入せんとするために最賃法という法律を作っていられるならば、すべての事業すべての産業を育成する基本的な要素は、まず労働賃金にどれだけのものを一体払えるか、第二番目に初めて材料です、資料をどれだけ買い得るかということが、その事業の成立、不成立をはかる重大な要素でなくちゃならぬと私は思う。しかるにあなた方は、その業者が材料を買う能方があるかないかということだけを考えて、材料を買う能力さえあれば、あるいはその材料で物を生産する労働者には食えないような賃金を払っていようと、奴隷のような賃金を払っていようと、それは既成の事実として認めていこう、二千円であろうと三千円であろうとそれを賃金として認めていこう、こういうようなことは、いわゆる日本の文明的な向上を全く停止せしめていこうとする、まさに進み行く世の中に反逆する最賃法の姿ではないか、こう私は断ぜざるを得ない。ここに私はこの法律の一番重大な欠陥があると思う。労働の価値を一つも認めない。すべての産業において最も高く比重を占めなければならない、一瞬重要視されなければならない労働の汗というものに対する評価が何も行われていない。これは私は重大な欠陥だと思うのでありますが、一つそのっに対する明快な御回答をお願いいたします。
○堀政府委員 ただいまお話のように、いやしくも人を使っておる以上、その労働者に対しては賃金を保障するということが経営者として望ましい態度であり、またそのようにわれわれは今後進んでいかなければならない、この点は経営者に対してもわれわれは強く期待するところでございます。ただわが国におきまする賃金構造と経済構造を振り返ってみまするときに、これは御承知でもございましょうが、大企業と中小企業との格差がきわめて大きいということがわが国の特殊性になっておるわけでございます。一、二の例をあげましても、アメリカにおきましては千人以上の大企業に対しまして、十人から四十九人程度の小企業におきましては、賃金の格差は、大企業を一〇〇といたしましたときに、小企業は七五・六でございます。それからイギリスにおいては八二・五という数字になっております。また西ドイツにおいては八七・八と、このようになっております。ところがこれと並びまして、ただいまお話のありました企業の付加価値生産性、これをとってみますると、アメリカの場合には小企業は大企業の七二・三、イギリスは八四・三、西ドイツは七四・五ということになっております。これに対しましてわが国におきましては、千人以上の大企業に対して十人から四十九人の小企業は、賃金の格差は大企業の四五・七にすぎないわけでございます。これと同時に付加価値も同じく三六・八にすぎない。ここにわが国の経済構造と賃金構造の特殊性を見出すわけでございます。このような特殊性に応じまして、現実の段階として最低賃金を実施していくには、やはりわれわれは業種別、職種別、地域別に考えていかなければならないのではないか。将来の理想としましては、それは一律最低賃金ということになっていくことがもとより望ましいとは思いますが、現段階においてはこのような考え方をとり、これを逐次拡大していくということが現在において最も適当な方法ではないかと考えます。 それから業者間協定につきましても、賃金をくぎづけにするのではないかというお話もございましたが、現在法律に基かないで事実上実施されております業者間協定によってすらも、今までの一割ないし二割程度の上昇をしておるということでございます。もとよりこれはまた先にはさらに向上していかなければならない問題だと思いますが、とにかく賃金は向上しておる。これらのものをあわせ考えまして、最低賃金法に基く最低賃金を業種別、職種別、地域別に積み上げまして、これを漸次拡大していくことが現段階においては適当な方法ではないか、このように考える次第であります。
○小林(進)委員 私は私の基本的考えは申し上げましたから、それ以上は深追いをしようとは思いませんが、いま一度私の考え方を繰り返しますならば、ともかく人間が人間として、憲法で定められた健康で文化的な生活を営むだけの賃金を払い得ないような事業は事業として成り立たないものである、事業に対するこういう新しい考え方、日本においてそれは一般化しなければならない、原則化しなければならない、こういう考え方に立っておるのでございまして、最低賃金法もそれは漸進的でいくか、あるいは革新的でいくかは別としまして、終局の目的はやはりそこまでいかなければ、どうしても完全な最低賃金法とはいわれないという、一つの私なりの思想、信念を持っております。それはそれといたしまして、しからばあなたが言われるように、一千人以上の雇用者を持っております事業所の資金一〇〇に対して、三十人以上が四五・七%であるというふうにおっしゃった。ましてそれが一人から五人までの零細業者に至っては、それがまたずっと落ちてくると思います。そういうような業者も産業構造の上からそれをつぶすわけにはいかないという考え方に立って、その人たちが払っている零細な賃金をそのまま固定化してみたところで、一体その零細業はそのまま日本に生き残っていきますか。これは労働省の問題ではなくて、中小企業対策の問題であるかもしれませんが、最低賃金をお考えになるのには、そこまで物事を考えてもらわなければならない。企業あるいは商業すべてのものがギブ・アンド・テークでなければならないと思いますけれども、真実今われわれが最低賃金法で問題にしております業者というものは、これはわが日本における政府の政策の間違いといいますか、貧困な政治といいますか、それは政府の方は何とおっしゃってもよろしいけれども、失業者のプールになっている。きょうまでは働いていたけれども、首を切られたら、わずかな退職金で次の日からは町工場のおやじになった、あるいは機械一台持って物の生産に従事した、あるいは家を改造して店屋をやったというふうに、これは直ちに零細業者に転向していくのでありまして、そういう人たちが小僧を雇っている。それでみんな二千円や三千円を払っている。その事業の構造を変えないで大きな変革はできない。それをみんなあなた方の最低賃金法で固定化していくことが、果してわが日本の経済の発展の上にプラスするかどうかということです。これは労働政策であると同時に中小企業政策であり、五人未満の小商人、小企業者に対する政府として考えなければならない政策の問題であります。それは社会保障なり、あるいはほかの救済の方法で救助しなければならないと思うけれども、事業としてそんなものを認めていて、そうして保護していくことが一体日本の発展のためにいいかどうか、私は基本的な問題だと思うのでございまして、むしろ私は日本の経済構造を最賃法の面からも改造していく。そういう食えない者や失業した者やが小商人や小企業家に転落していくような、そういう安易な道を私はこの際ふさがなければならないのじゃないかというふうにも考えておるのでございまして、皆さん方が今お考えになっている、そういう人たちの二千円や三千円の賃金も固定化していくようなあなた方の最賃法は、むしろわが日本の経済発展やあるいは国民生活の向上のために非常に害をなしているという私の考え方に対して、一体どうお考えになりますか、お伺いいたします。
○堀政府委員 ただいままで実施されておるところの事実上の業者間協定においても、この締結によりまして現実に賃金は一割から二割程度上昇しておるわけでございます。これらのことを考えてみましても、今回の最低賃金法案が成立いたしまして実施される暁になりましたならば、さらに労使中立、三者構成の最低賃金審議会の議を経た後に決定されることになるわけでございますから、これは賃金の固定化ではなくて、やはり従来の低賃金の改善には相当資することが多いのではないかと考えます。理想から申しますれば漸進的ではございまするが、このように着実に従来の極端な低賃金が改善されていき、これが漸次普及され、積み上げられていくというところに、われわれはこの最低賃金法の意義を見出すわけでございます。
○小林(進)委員 わが党の委員諸君から、きょうはこれで質問を終ったらどうかという話がありまするし、これでやめようと思いまするが、ただ私は先ほどから実は聞きずらいお話だと思って聞いているのです。業者間の協定の問題は昨年の八月ごろからおやりになって、ことしの二月ですか、三月ですか、四月ですか、四十八ばかり全国ででき上ったという数字をしばしば用いられて、実はこれを写すのを非常に不愉快に思っておりました。そうしてそういう業者間の協定によってでき上ったものが一割ないし二割賃金を上げたではないかとおっしゃったが、一体今まで払った賃金は幾らですか、今まで幾らの賃金に対して一割、二割賃金を上げられたか。この前に社会労働委員会の国政調査のために鳥取、島根へ行きました。そして業者間協定に基くそういう賃金の値上げの方法も聞いて参りました。日給にして百七十円ばかりのものを一割上げた、一体今あなたのお持ちになっている調査の中で、しからば四十八か五十の中で、今まで一体幾ら払っておりましたか。せめて政府が労働基準法に規定しておりまするそういう賃金に比例するような賃金を払っておって、その上に業者間協定を結んで、なおかつ一割ないし二割上げた、こういうような例であるならば私はありがたくちょうだいいたします。今まで百五十円か、たかだか二百円にも足らざるような賃金を払っていたものを、業者間協定に基いてそれを一割から二割を上げさせて鬼の首をとったようにおっしゃることは、われわれをして非常に世の中を誤解せしめる重大な欠陥がございますから、その点一つ。
○堀政府委員 ただいままで締結されました業者間協定は、これは四十八ございまするので、個々いろいろに分布しておりまするが、その中位数をとってみますると、満十五才で四千三百十五円、それから満十八歳で四千九百円でございます。それから、それが勤続いたしました者が満十八歳になった者は六千二百円程度、このようなことになっております。もとよりこれは法律に基かない事実上の業来者間協定でございます。これについては賃金審議会の意見も何ら反映しておらないものでございますが、それらの点も見てみますると、いずれも一割から二割程度は上昇しておるということが確認されたわけであります。
○小林(進)委員 今も御説明がありましたが、満十八歳の四千九百円から六千三百円などというものは、私の調べました範囲内においては、それは業者間協定における一番成績のいい方であります。私の調べたところでは、二十歳以上で百八十円だとか二百円そこそこですね。これは日当ですから、まあ二十二、三日で、二十五日とは働いておりません。そういうような賃金が多いのでございますから、そういうようなことをもって、一割、二割上ったから成績がよろしいというふうな例でお用いになることはしないでいただきたい。どうか一つ、よほど前後の説明を加えて、世間の誤解を招かないような説明の仕方で御発表を願いたいと思うのでございまして、私どもはむしろ今政府が奨励いたしておりますこの業者間協定などというものは、非常に弊害があるのではないか、かように考えておるのでございます。 なお、私の質問はこれでようやく十分の一を終っただけでございまして、これからその業者間協定の問題やら、あるいは関係労働者の異議の申し立てを一体どこで認めるのか、あるいに監督行政があまり立ち入り過ぎているのではないか等、いろいろの面で私は御質問したいことを多分に持っておるのでございまするが、一応私の質問は、本日はこれをもって打ち切りにいたしまして、後日また質問いたしたいと思いますので、御了承願いたいと思います。
○園田委員長 本日はこの程度にとどめます。明二十九日は午前十時より公聴会を開会することとなっておりますが、なお公聴会終了後は引き続き委員会を開会することといたします。 本日はこれにて散会いたします。 午後七時十三分散会