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26回国会衆議院1957/04/10

社会労働委員会 第36号

発言数
134
登壇者
17
会派数
2
開催日
1957/04/10

会議録

大坪保雄自由民主党

○大坪委員長代理 これより会議を開きます。  都合により、委員長が不在でありますので、私が委員長の職を勤めます。  最低賃金法案及び家内労働法案を一括して議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますので、これを許します。中村三之丞君。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 最低賃金制の問題は結局政治力によって解決せられるものと思います。あるいはそこに労働圧力が加わるかもしれませんが、政治力によって解決せられる。しかし今社会党はこの国会に最低賃金法をお出しになり、この委員会にかかっておるのでありますから、われわれ御同様真剣に意見の交換という意味において質疑応答をいたすことは無意味でないと私は考えるのであります。  まずお伺いいたしたいことは、最低賃金制というものは階級的要求として出されたものである、また社会革命の道程における経済的任務の一環としての内容を含んでおるものであるか、そうでなければ資本主義を廃絶する意図はないんだ、しかし資本主義のもとにおいて労働力の価値を正当に保障しなければならぬ、こういう意味においてお考えになっておるのであるか。まず私は根本のお考えを承わっておきたいのであります。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 最低賃金法は階級的な意味、あるいは革命的な意味から出したのかどうかということですが、これは今の世界の情勢を見てみても、資本主義国でも最低賃金の制度は行われておるのでありまして、それらはいずれもそういう革命的な意味を持った最低賃金ではないと私は思うのです。やはり資本主義の内部においても、労働の価値というものは正当に評価されなければならぬし、また労働者の生活自体からいっても、その生活をよりょくしていくということは当然考えらるべきものであって、そういう点で最低賃金制度が行われておるのであって、われわれとしてもそういう観点から今度の最低賃金法案を出しておると思うのです。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 そうしますと、念を押しておきますが、よく米英などにいわれておる苦汗産業、苦汗労働、苦汗賃金、こういうものの存在によって多数の人が雇用せられるよりも、比較的少くても最低貢金によって雇用せられる方が害悪が少い、こういったようなお考えもあるのじゃないですか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 最近の資本主義の経済を見てみますと、僕はやはりどこでも高能率、高賃金という格好できていると思うのですよ。最低賃金制度も、今おっしゃったように、苦汗産業があって、それで多数の人が雇用されるよりも、少数の人でも最低賃金で雇用されたらいいのだということは、これは私は一がいにそういうことは言えないと思うのです。どこの国でも苦汗産業の存在ということは、これは経済の近代化が進めばだんだんなくなっていくことなんでありまして、日本の場合においても、雇用の問題はやはりただ苦汗産業をそのままにしておいて雇用が多いか、そうでなくしてもっと経済を近代化してほんとうに発展させていった方が雇用がほんとうに多くなるのかということは、僕はやはり問題だと思うので、経済社会というものはやはり進歩していくという前提に立てば、経済が近代化されていけば雇用が多くなる。言いかえると、経済の拡大によって雇用が多くなっていくということが筋だと思うのですね。最低賃金法というものは、そういう意味からいって、苦汗産業というものをそのままにしておいて、そのもとに雇用が非常に多いという状態は、私はやはりなくなしていくということがいいと思うのです。最低賃金制をしいて、やはりこれがもとになって、一方では中小企業者の間の賃金の引き下げによる競争——企業のもとをなしている大きな要素は、私は賃金だと思うのですね。その賃金の引き下げによって中小企業者の諸君は多くは競争をやるわけなんですよ。ですから、経世のもとになる要素が非常に変動的であり、競争によって下げられていく。自己搾取をやっていく。こういうことは、やはり国として、企業そのものの存立を安定にしていく上からいっても、それからほかの中小企業自体に対するいろいろな政策がほんとうに実を結ぶためにも、やはり適正な最低賃金制度をしいてやっていくということが、僕はその意味からもやっぱり言えるのではないかと思うのです。従いまして、今雇用の問題の点については私どもは苦汗産業をそのままにしておいて、全体の雇用が多いということをもっては満足していないのであって、むしろそういうものは、苦汗産業は苦汗産業でないようにしていって、近代化していって、最低賃金制のもとにおける雇用の増大というものをはかっていった方が、私はいいと思っているのです。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 これは私の考えですが、今の資本主義経済というものは自由企業の組織である。結局競争組織であります。そこで労働市場もやっぱり競争である。しかし個人が競争をして労働を求めるということは、その機会もなかなかむずかしい。また知識もない。そういう意味におきまして、私はこの労働組合が発展したということをいいことだと思います。最近各国も、日本もそうでありましょうが、賃金の決定は、一つは労働組合の取引力にある賃金の決定なんです。これは団体交渉でございましょう。それからその次は、今お出しになっておるところの最低賃金を法によって拘束する。それから第三は、このごろやっておるのでございましょうが、仲裁裁定による賃金の決定、こんなことになるだろうと私は今結論を自分で出しております。  そこで社会党の諸君は、資本主義を漸次なくして、そして社会主義の経済を確立する、これがあなた方の根本であることには間違いない。そこで社会主義社会ができるという場合を経済的に見ますると、いわゆる社会主義計画経済ですか、重要産業の国営を出発点として、社会主義的な、あるいは共産主義的なものが今行われておりますが、一つの計画経済——われわれの計画経済は自由を基底とする総合、画をやるというのでありますけれども、ソ連などで、完全か不完全か知りませんが、行われている社会主義計画経済というものは、一種の権力経済である。中央集権的な経済が行われておる。そこで行われておる労働というものは、その種類と配置というものは権力によって決定せられる、こう私は見るのですよ。そして職業の自由というものは、職業の選択は、個人の自由意思で許されない。このごろよく中国からくるいろいろの使節団の通訳の話を聞いてみますると、私は日本語を学べと国家から命令されて何々大学に入って、今日日本語を話すことができます、こういうのです。もとよりこれは優秀な人間であるから、政府がこれならば語学力があるというのでそういうものを学ばせたものでありましょうけれども、そこに職業の自由というものは個人意思において許されておらない。そうすると、社会主義経済計画のもとにおきましては、賃金は権力によって決定せられる、賃金の権力的決定であるこういうふうに思いますが、お考えはいかがでありますか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 その問題は相当根本的な問題だろうと私は思うのです。なるほど今の資本主義は、これは選択の自由を持っているわけです。労働者にしても、どの職業を選ぶかそれからどういう方向に行くかという選択の自由を持っておるし、賃金の決定は需要と供給の格好によって、ほんとうの自由企業、自由経済というものなら、そこできまってくるわけです。しかし今の資本主義の世の中でも、そういう純粋な自由競争のもとでは賃金はきまっていないと思うのです。あなたのおっしゃるように、労働組合が発達してくればやはり労働組合の力がものを言って、そして実際の賃金は決定されていると思うのです。それから仲裁裁定といったような権力が介入して賃金を決定する場台もあり行るわけだと思う。私どもの考えておる社会主義は、ソ連のような共産主義の社会主義を考えておるわけじゃありません。民主主義を基礎にした社会主義ということを標榜しておるわけです。民主主義の基礎に立った社会主義ですから、全部が全部権力によって大るということには必ずしもならぬと思うのです。ただ問題は、ソ連の場合には国の制度がすべて資本主義と違って計画を基礎にした一つの経済が行われておる。従って、なるほど個々の個人について言えば自分の恣意によって勝手に選択をすることはあるいはできないかもしれません。しかし国の大きな方針がやはりきまっておるわけですから、その大きな方針について自分はどっちの方向に行こうかということはやはりあり得ると思う。能力がある者は、自分は経済的な方面でやろう、あるいは自分は技術家として将来行こうということであれば、それはやはり私はあると思う。自分が勝手に職業を選択してあっちへこっちへということはない。しかし国の方針に沿った格好においては大きな流れというものはあるのだと思う。  それからわれわれの社会主義の場合はすベてが権力によって決定されるかどうかということは、相当問題がそこにあると思う。ソ連の場合でもすべて中央集権的な形で今までは政治が行われてきましたが、その計画のやり方については、その当時の歴史的な事情を考慮に入れまして、概括的にその結論を出すことは僕は誤まりだと思う。最近におけるソ連の非スターリン化あるいは地方分権化という格好は、ソ連の一九一七年の革命当時と今とでは世界の情勢も変っておるし、国内の経済の発展あるいは国内的な情勢も変っておると思うのです。そういう格好で自然に権力の集中化が分散化の方向をたどられてきておるということにもなっておると私は思う。そこでただすべて権力によって賃金をきめていくということは、われわれの出していることが必ずしもそういうことまで含んでおるかというと、私はそうではないと考えております。ソ連の賃金は御承知のように一番賃金格差が多いわけです。ソ連はそれぞれの熟練度あるいは技能その他によって相当な賃金格差を認めておる賃金制度をとっておるわけでありまして、能力に応じた賃金をちゃんと取っておる。ですからほんとうに自由に賃金がきまっていくような情勢は今の世の中にはどこでもないと私は思う。どこの国を見ても、労働組合の発達したところは賃金自体は労組の力によって非常に動いておるだろうし、あるいは仲裁制度やその他の制度がとられておるところはやはり権力が介入してそこで賃金の決定がある場合には行われてくるということになっておるのでありまして、選択の自由が全然ないということは、社会主義の経済の場合に僕はそう断定するわけにはいかぬと思う。やはり社会主義のもとにおいても自由はあるのであって、ことにわれわれのように民主主義の基礎の上に社会主義を築いていこうという場合には、自由の問題は大きなわれわれの一つの目標というか、そういうものであるわけです。そういう点は、僕らは何でもかんでも全体的に権力的なものでやっていこうということは考えておりません。  それからまたことに事経済に関する限りは、果して今までのような自由の方向ですべてが行くのがいいかどうかということは問題であって、自由のままで行ける余地はある意味では非常になくなってきて、新しい意味の計画性に基いたその中の自由ということにだんだんなってきておるようにわれわれは思うのです。ことに日本だって、今の政府が六カ年計画なり何なりを立っていく、それはその計画の大きなワクの中で各人がある一定の自由を持って行動していくということになってくるのであって、それでなかったならば、計画というものはほとんど意味がないものであるように思います。私は、二十世紀の資本主義がだんだん大衆をもとにして動いてきているということになっている限り、すべてがそういった意味での計画性を持たなければならぬし、一つの集団的な自由というものにだんだんきているような感じがするのであります。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 資本主義の競争の組織が次第に労働組合の団体交渉とか、そのほか今の法令による賃金の制定、これにかわってきていることは、私もさっき申し上げましたが、ただそれが逆に減少をして、労働組合の独占的な活動になるということをわれわれは一番注目をしている、これだけを申しておきます。  それから、必ずしも権力によって社会党は賃金を決定するものではないというふうなお答えでした。私は利潤と賃金との適当なる均衡を得ることによってきめなければならぬと考えますが、これはお認めでございますか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 その点は結局経済全体を運営していくところから、蓄積という問題にあなたは触れられたのだろうと思いますが、資本主義の社会でもそれから社会主義の社会でも、蓄積の問題は非常に必要だと思います。蓄積がなかったら経済は発展しません。だから資本主義の場合では、私企業の利潤という形、言いかえると、金持の人々の蓄積というものを非常に重く考えられる。しかし社会主義の何になってくれば、少くとも大きな生産手段は国営なり社会化されるわけですが、その面の企業から来るところの利潤部分はやはり蓄積されてくると思います。社会主義の世の中でも利潤そのものは考えられると思うのです。それがただ個人に帰属する利潤ではなくて、公営企業という形で国家に帰属してくるという格好での利潤というものは考えられてくるのであって、利潤が全然なくて全部が賃金になってしまうという格好では経済が動かないと思います。その点私どもは蓄積という関係においてはそう思います。だから国の経済を計画的に発展させていこうと思うならばどれだけの蓄積部分を持つか。それは日本のように税の格好でとるか、あるいは社会主義の世の中では、公営企業の利潤部分の多くを回して、税は間接的に多少取っていくという格好にするか、それは資本主義と社会主義とではどういう格好でやるかということは違ってくると思いますが、あなたのおっしゃったように、蓄積と賃金と、われわれは両方とも考えていかなければならぬと思います。  それからもう一つ、労働者の独占ということでありますが、これは経済的にいいまして、何も労働者が独占して賃金をきめてくるということはちっとも考えておりませんし、またそういうわけにはなかなかいかないと思います。やはり経済を運営していくのには、社会主義の世の中でも、企業家としての役目を果すりっぱな経営者が必要なんであって、そういうような意味でやはり企業家も必要であるし、それから出産の原料も必要であるし、技術も必要であるわけなんですから、だから労働者だけが独占でやるということにはいかないのであって、そこはただ政治的な、言いかえると、権力のあり場所が、ソ連の場合には、やはり労働者というものが権力を持っているわけであり、資本主義においては、資本家が持っているということになっていると思うのであって、経済そのものの動きからいえば、それは何といいますか、今あなたのおっしゃったような労働者の賃金が独占的にきまるのだということにはならないのであって、それはどら賃金がきまっていくかということは、一つはその国の発展の段階、それからうら一つはそこにおけるいろいろな政府の政策なり、または労働者の需要なり、供給なりの点の関係がやはり決定していく大きな要素になってくると思うのです。そういうことを考慮せずに、かってに独断的なものをきめたのでは、その賃金というものは、結局経済がうまい工合に動いていく上の妨げになるわけでありますから、そういう点は私どももあなたの御指摘された基本的な問題である——あなたは利潤という格好で問題を提供されましたが、蓄積と賃金という関係は、私どもは十分考えておるわけです。むしろ僕らは、やはり賃金というものは一定の高さ、あまり安い賃金であるよりは、高い賃金で高能率というかっこうをとった方がかえって大衆の労働者階級における側から来る蓄積率というものは非常に多いのではないか、こういうように考えておるのです。やはり大衆の蓄積力というものを見ずにおいては、僕らはこれからは資本主義といえども、これはうまく動いていかぬのではないかという感じを持っております。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 私は、今申し上げたその根本の考え方は、資本主義というものは、やはり利潤と利潤を確保するというところに依存しておると思のうです。これはソ連などの考え、いわゆるコミュニズムの考えなどは利潤を否定するのです。そうじゃないですか。個人の利潤というものは否定をしておる、私的利潤は否定しておるのですね。しかしわれわれは資本主義社会においては私的利潤とその確保というものに依存しておる。こういう立場から私は申し上げたのです。そこで社会主義計画経済になったときの失業問題とかいうことは、これは根本にあるのですが、これは一つあとに譲りましょう。そこで最低賃金に入ってくるわけでありますが、私の考えは、最低賃金というものは一つの基準賃金であるというのです。べーシック・ウェージであるというのが私の解釈、ただこの基準賃金を法律によってそれ以下に下げないということ、下げないばかりか、その最低賃金を維持していく、さらにこれを上昇せしめるという意図があると私は判断をするのです。そこで、これはアメリカにその例がある。アメリカの一九三八年の公正労働基準法というのがあるのですね。あの当時の最低賃金は一時間につき二十五セント、それが一九四五年には四十セントになっておる。一九四九年には七十五セントになっておる。一九五五年が一ドルになった。これはたしか昨年の三月から始められておると記憶いたしております。これに対していわゆるトレド・ユニオン側は一ドル二十五セントを要求している。これに対して大統領は反対をしているということを私は聞くのでありますが、おそらくこういうふうに上ってきたのは、もっとも一九三八年の公正労働基準法制定当時から今日まで十何年間もかかって一ドルになっているのでありますが、朝鮮戦争の影響もあったろうと思うのです。こういうふうに最低賃金というものは上昇していく、またそれがおそらく目的でしょう。あなた方の考えはそういうふうに行こうというのですか。今八千円ですけれども、これは最低なんだ、これはこれ以下には法律でさせないのでしょう、もしやったら処罰するというなかなか強力なものでございますが、しかしあくまでこの八千円は最低限度の賃金として法律において確定していくが、将来はこれは一万円にする、二万円にする、こういう考えでしょうね。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 お話の通りでして、これはやはりこれ以下には下らないというべ−シックな賃金です。法案にもありますように、われわれとしては、この最低賃金は将来やはりだんだん上っていく。それは経済の将来の発展ということがありますから、そういうふうになってくれば経済の規模も大きくなってきますから、そういうふうになってくるに従ってやはり最低の賃金というものを漸次上げていく。たしか法案では五年ごとに変えるということにしております。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 その変えることも、これをどういうふうにしてエスカレーターしていくかというような問題が起ってきますが、これはあとにいたしまして、最低賃金はべ−シック・ウェージである。これは将来上げなければならぬという私の質問に対して、大体その意図だということを言われた。また私は日本の経済が発展をしていけば、上っていいと思います。一体人間というものは、御同様自己の個人の収入の増加への努力をするものだ。これは人間のいいところですから、私はそういうふうになることを希望しますが、今日の問題から出発すると、ここに四千円がいいか六千円がいいか、八千円がいいか、これは議論の分れるところ、また見方の違うところでございましょう。そこでこの最低賃金がいかに経済に影響を与えるかということです。すなわち最低賃金法定によるところの経済的影響というものを私は一つ考えてみた。これは先輩のいろいろの文献を見て、アメリカあたりの人の書いたのを見て私はここに皆さんに質問しているのですが、最低賃金による経済的影響は六つの段階があるというのが私の結論です。第一の段階は、最低賃金以上を現に払っているところの工場は、何ら刺激的影響を受けない。たとえば日本あたりでも、日の当る産業、これは最低賃金制が今法定化されたって、何らの刺激的な——刺激的なと申します、刺激的な影響は受けない。ところが第二段階の場合、あなた方の八千円の最低賃金すれすれの七千五百円程度のところの工場はどうするかというと、これはおそらくレート以下であって、ほかの工場に変化のない間に最低賃金に上げていく。そうでなければ競争ができない、労働者を吸収することができない。この第一次、第二次の段階まではいいのですよ。第三、第四の段階に私どもも疑問を持つし、これはお互い一つ研究していかなければならぬ。第三の段階は、あなたの立てられた八千円ではどうも工場は回っていけぬという場合には工員を整理するだろう、工員を整理して、むしろ能率の高いいわゆる熟練工を雇ってくる。これはいいことなんですよ。いいことと思いますが、たとえば今五千円で十人使っておるとしますと、最低賃金が行われるというので、今度はそれを五人くらいにして、あなた方の八千円で一つカバーしていく、しかもその五人は相当な熟練工である、それの方が能率が上るという。これはある意味において企業の進歩かもしれないですよ。最低賃金法制下における企業の進歩かもしれぬが、遺憾ながらその熟練工というものはそう容易に得られないのです。これはもち世界各国、今熟練工の不足を感じている。しかしそれは将来理想として大いに技術者を養成し、熟練工をして多量に工場に送るという政策は立てられなければなりませんよ。政策は立てられなければなりませんが、今日ただいまそういう現象が起る。第四は、これはちょっとここに書いてきたものをそのまま読み上げます。そうしませんと、間違ったりするといけませんから……。第四は、法定最低賃金の程度いかんによっては生産費の増加を招き、物価を騰貴せしめ、企業の利潤限界は切り下げられるということです。これは私の考えですが、第四段階です。それから第五段階が一番悪い経済的影響を受けるのでありまして、法定最低賃金による最悪の影響は、経営困難となり、事業を廃止するのやむなきに至り、これらによる失業の発生することである。もとよりこの場合の失業は大規模じゃござりますまいが、とにかく失業を発生する。私はこの五つの段階を定めております。これを皆さんもお考え願いたい。  私が今申しましたように一、二は大体問題ない。最低賃金以上を払っておる、日の当る産業です。ところが資本主義経済におきましては、日の当る産業もありますけれども、同時にだんだんと衰えてくる産業もある。またその間の、いわゆる日の当ると当らないとの中間の産業もある。こういうふうに区別してみますると、三、四、五というものが問題になる。これをどうして救済するか、最低賃金というものを実行せられる場合に、どういうふうにしてその調整をしていくか、ここが私どもの問題であると思う。三、四、五に一番まっこうから降りかかってくるものはまず中小企業でございましょうね。大産業は、あなた方がおやりになっても平気なものです。ところが日本の中小企業はどういう状態か、しからば中小企業とは何ぞやなんといってくると、これまた時間がかかりますが、この間の本会議における永井君の御説明によると、従業員三百人以下、資本金一千万、これがあなた方の中小企業の定義なんです。政府の中小企業団体法案は従業員だけにしておりますが、私はある意味において所得を考えなければいかぬと思います。政府の考えるよりも、あなた方が資本金をお出しになったところは、あなた方の意見がいいんです。通商産業官僚よりもあなた方の方がなかなか進歩した頭がある。しかしここにもう一つ私は所得ということを考えてもらわなければいかぬと思う。これは別に法律で定義づける必要はない。今の日本の法人税などを見てみますと、四二%の法人税に対して今度は百万円程度の所得のものは三五%ということをやっておるのですね。以前は五十万円。私どもはこれを百五十万円程度にして、それは法人税三五%にするというくらいに考えるのでありますが、まずこの百万円とか百五十万円くらいの所得のものを中小企業として線を引いてみましょう。そうなってくるとこの最低賃金制というものが、さっき申しました賃金は、利潤の適当なバランスを維持しなければならないという点から見て、果して今日ただいま耐えられ得るかという問題が出てくると私は思うのです。中小企業というもののいろいろの弱点はありますが、たとえば商店街などを見ましても、一番の弱点は何かといえば、中小企業というものは寿命が短かい、転々として廃業していく、これは果して確実な数字かどうか知りませんが、いつかの中小企業庁の調べによると、平均十年の寿命を持っている日本の中小企業は全体の一八%しかない、ことにサービス業のごときは一六%しか存在していないというのです。これは私昨年あたりちょっと読んだのですが、アメリカでも戦前はそういう状態だったそうですが、中小企業は開業一年間にして二割五分倒れてしまう。それから二年、三年ずっとやってきて七年目に残っているものはわずかに三割にならない。つまり中小企業というものは寿命が短かい。しかし同時にまた新しいものが出てくる。ことに日本のような過剰人口の場合は商業に向ってどんどん出てくるから、これも何かの統計によると、商業の中小企業は年々一割ぐらい増加をしていく。こういうふうなところに、私は国家が中小企業というものを保護育成しなければならないという政策にくると思うのですが、この間ここにおられる赤松さんが本会議で、池尻の商店街で最低賃金をやった——私もそういうことを聞いているが、こういう商店街ほど歴史の言葉で言えば興亡盛衰常ならざるものなしといわなければならない。池尻の商店街で今四千円なり五千円で最低賃金みたいなものをやったとしても、これが寿命が短かくて一年で倒れてしまえば、そこに従業している従業災は路頭に迷わなければならぬ。また新しくそれを買ってやってきた人はまたそれを継続するかもしれないけれども、その間にギャップが出てくる。これはあなた方も学者も摩擦的失業というらしいですね。むずかしい言葉ですが、これは摩擦的失業なんだ。これは完全雇用の場合において認められているのですから、別に議論はありませんが、どうも私どもは、この日本の中小企業というものをかりに今言う三百人以下、一千万円以下の資本金、百万なら百万の所得のものとするならば、これらの中小企業というものは非常に継続力がない。これを継続力があるように日本の経済を発展させ、また政府がそういうふうに保護することが必要だと思うのですよ。しかしそれを今直ちに八千円で実施した場合に、この三、四、五の悪影響がどっと起ってきはせぬかというのが私のお尋ねをいたしたいところなんですが、どう見られますか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 ごもっともな御心配だとは思うのです。もうすでに最低賃金以上のものを出しているものはもちろん問題はないと思うのですね。それからすれすれのものでも、それほどあなたのおっしゃるように心配はないだろうと私も思います。あとの三、四、五と列挙されましたものが一番問題になるし、ことにこの層の一番多いものは中小企業であることは私どももそう考えているのです。ただ私どもはそういうような考え方からしまして、最低賃金法を出す場合に、これはもちろん一方では労働者のことの対策であります。しかし同時に日本の一つの大きな問題である中小企業の問題とまっ正面から取っ組んで、中小企業をどういうように今後近代化し、そしてまたよくしていくかというあなたの言われた保護政策を具体化していくには、やはりいろいろな方法があると私は思うのです。ちょうど日本の農業の場合にいろいろな方法があるのと同じように、中小企業も農業と並んで日本経済のウイーク・ポイントだと思う。しかし量的には非常に多いですから、これをもう少ししっかりしたものにしていくということについては、今までもわれわれ非常に真剣に考えを述べてきたわけでありますが、やはり最低賃金法という格好から中小企業問題に取っ組んでいく行き方も一つあるだろうと私は思うのです。というのは、今おっしゃったように三、四、五に列挙されたものは、あるものは整理して熟練工を雇うということをやろうとするものもあるだろうと思いますし、またもう少し設備を近代化して設備の面から利潤の低下を防ぎ、支払い能力ができてくるような企業の立て直しをやろうというものもあり得ると思う。今までは賃金部門には何も触れずして、ただ外部からいろいろな中小企業の金融の格好だけで、しかも事実中小企業は信用があまりないわけですから、特別の金融公庫なんか作っても、小口のところのあなたのおっしゃったいわゆる所得が百万円以下あるいは百五十万円以下の者はなかなか進んでいかなかった点があったと思う。そこへもってきて今中村さんがお触れになったように、中小企業というものは、よく見ると十年続くのは少くて、非常に盛衰興亡がひどいということは、逆からいえば、中小企業の間の競争が非常にひどいということにもなると思う。それから中小企業とほかの産業、大企業やその他の企業との間の競争にも負けてくるという点もいろいろな原因がそこにあったと思うのです。そこで逃げ道が、今までやってきたことは安い賃金にして人をたくさん雇って——たくさんといってもそうたくさんじゃないかもしれませんが、その企業としては機械よりもむしろ人をたくさん雇って利益をあげていって競争にたえていくという格好を今までやってきたと思うのです。私どもがこの法案をしくときに八千円というものをすぐにやろうとは実は思っていないのであって、最初の一年は中小企業の実態調査という期間を設けて、三年の余裕を置いて三年目から八千円ということに移っていく。最初は六千円ということを考えたのも一つはそこにあるわけです。それから中小企業の実態というものは、その賃金のいろいろな点に

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 中村さんのおっしゃるように、三、四、五の中でも、やはり一番問題になるのは四、五ですね。私どもはそういうことを非常に考えて一応六千円という線を出して、中小企業のアダプテーションが楽になるようなことを考えてきたわけです。   〔大坪委員長代理退席、野澤委員長代理着席〕 この点はやはりどっちの方向をとる方が——最低賃金をまずしいて、そして一応過程的に六千円というものをしいて、その間に中小企業に対する積極的な施策を集中してやっていく方がいいのか、もっとほかにうまい方法があるのか、これは僕らの方でもこれで大体いいという考えできましたけれども、やはり研究することはけっこうだと思うのです。私どもがいろいろな文献をあさってみましても、最低賃金をしいたときに、中小企業が非常に破産が続出したかというと、必ずしもそういうことはないように思うのです。もとより外国と日本とは事情が違います。日本は中小企業が多いわけでありまして、ことに商業部門なんかになってくれば、ちょっと金があればすぐそれに手軽に、あまり研究もせずに移っていくというような場合もありましょうし、いろいろなケースがありますから、一がいに外国の例をもってすぐこうだという工合に私は考えておりません。それだけに日本の中小企業を、どうやったらほんとうに中小企業として基礎の確固たるものにしていき得るかということについては、これはもら僕らは真剣に考えなければいかぬので、僕はその一つの方法として、やはり最低賃金をしいて、そして業者の相互間の不当な競争というものは、少くとも賃金の面ではそれはやり得ないという格好にして経営の基準を与えるということが、やはり一つの方法ではないかと思うのです。だからこのためには、本来ならば国から百億や二百億の金をある一定の期間は出していくことは、これはむしろ積極的にやるべきである、中小企業対策が叫ばれている今のときに、やるべきでないかとさえ思っておるわけでありまして、そういうような考えからわれわれとしては出したわけでありますが、お話しのように中小企業の経済的に及ぼす影響についての四、五、まあ特にいえば三、四、五というものについては、いろいろ問題のあることは私どももよく承知しております。ただここで一言申し上げたいのは、生産費が特に上るとか企業利潤が下るということは、それだけを切り離して見れば、これはそういうことも言えると思うのですね。しかし最低賃金をしいて、そして中小企業なり企業全般の力が強くなってくれば、それからまた経済の状況がよくなってくれば、必ずしもこの企業利潤が——企業の内部だけを考えたら、あなた方のおっしゃるように、原料そのほかのものをコンスタントにすれば、そして単位当りの生産費がもし同じだとすれば、賃金が上れば単位当りの生産費は上ることはもちろんでございましょうけれども、しかしそうでなくて、そのために能率が上るとか何とか、つまりアウトプットがふえれば、それは必ずしも単位当りの生産費というものが上ることにもならないわけであって、そうなってくれば、利潤そのものも必ずしも下るという結論は、経済的には出てこないわけでありますから、そういう点も考えますと、われわれとしては少くとも三年の間の暫定期間を置き、その間に施策を十分やるならば、この最低賃金法をしいて、中小企業の発展なり改善、進歩なりを期していくということは、十分考えられるのではないか、こう思っておりますから、一言お答えいたしておきます。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 これは大橋さんの質問にお答えになったかもしれませんが、ちょっと資料としてあとで発表してもらいたい。あなた方のお考えの最低賃金法案が——八千円でも六千円でもかまいませんが、実施せられた場合、どれだけの対象人員、賃金増加になるか、これはおわかりでしたら、いろいろ説がありますのでちょっと言うて下さい。なぜ私がこれを聞くかというと、この最低賃金による一年間の賃金増加の支払いが、いかに日本の通貨政策に関係があるか、これはあとでも質問しますが、一つお互いに考えましょう。あなたはそのほかに二、三百億の補助もしようということなら、これまた財政問題にもなり、あるいは金融問題、投資の問題、こういう問題になってきます。ただ、賃金というものは孤立しているものじゃないのであって、賃金政策は財政政策であり、金融政策であり、物価政策であり、投資政策で、もっと突き詰めていったら為替政策です。ここまで大きく考えていかぬといけないというのが私の意見なんです。多賀谷さん、今わかっておればちょっとお知らせ下さい。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 実はこの所得階級別雇用者を出した統計は、日本ではまず労働力臨時調査、これは総理府統計局から出しております。しかし、これはよく普通使われているのですが、何さま全国で延べ五万人、それから世帯数が一万一千、こういう世帯の調査でございまして、この八千円以下の二千円未満、あるいは二千円から四千円未満、四千円から六千円とか、こういう階層別の統計をとるにはあまりラフな統計であって、これはちょっとそのまま使えないのじゃなかろうかとわれわれは考えているのであります。そこでわれわれといたしましては、この最低賃金適用人員並びに企業負担についていろいろ調査しましたが、現在の日本の統計では、一応昭和二十九年に労働省で個人別給与実態調査をしております。これを一つの柱に置きましたが、これは十人以上の企業についてやっております。それから小さな企業については、最近厚生省がお出しになった社会保険基礎調査、これは一人から四名であります。これを一つの柱に置きまして、それから五名から九名までは一応最小自乗法その他でいろいろとりました。さらにいろいろの補強資料を使いまして、われわれとしましては次のように把握いたしているわけであります。六千円を十八才以上に適用するということにいたしまして、対象人員が二百三万七千人、それから、それが増加賃金となって現われる賃金総額が三百七十二億円……。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 それは年額ですか。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 年額でございます。それから、それが企業増加賃金負担率として、従来の賃金の何%上るかという——これは六千円以上をそれだけ上げただけの数でありまして、それ以上の合理的な賃金体系によって上げるという分については算出しておりませんが、それが一・七%、かように考えておるわけであります。

中村三之丞自由民主党

○中村(三)委員 八千円では……。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 十八才以上八千円にいたしますと、対象人員が三百七十七万であります。それから総金額が一千七十三億、企業負担が五%、こういうようになると考えておるわけであります。

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 午後一時まで休憩いたします。    午前十一時五十一分休憩      ————◇—————    午後一時二十四分開議

八木一男日本社会党

○八木(一男)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  休憩前に引き続き質疑を続行いたします。大橋武夫君。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 この法案の第三条に掲げられてございまする、一ヵ月につき八千円、一週につき千九百二十円、一日にりき三百二十円、一時間につき四十円、これはまあ一カ月につき八千円というのを基礎にして算定せられたものと存ずるのでございますが、この八千円という計算の根拠について承わりたいと存じます。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 八千円の根拠については、本会議でも質問に答えましたごとく、われわれは現在の生計費を出します場合に、大体四通りの方法が考えられております。第一には、実態生計費に基いた調査でございます。ところがこれは主として収入に制約されます関係上、あるべき姿というものがなかなか出にくい、こういうふうに考えまして、これは採用いたしませんでした。第二には、理論生計費と申しますか、いわゆるマー・バス方式と称されておりますが、このものにつきましては、実は飲食物費の最低生活費というのは出るわけでございますけれども、飲食物以外の最低基準のミニマムというものがなかなか出にくいのであります。あるいはまた飲食物だけを出して、飲食物以外はエンゲル係数を用いるという方法もございますけれども、どのエンゲル係数を用いるかが、これはなかなか問題がございますので、私たちは、これは各国においても非常に実施されておるところでございますが、一応今後の研究に待ちたい、かように考えておる次第であります。第三の方法といたしまして、現在の生計費の消費性向から割り出す問題もありますけれども、まだこれも研究の域を脱しておりません。そこでわれわれが使いましたものは、厚生省社会局委託の労働科学研究所の資料に基いたものでございまして、労働科学研究所の調査によりますと、昭和二十七年八月から十月までにおける東京における実態を出しまして、そしてその失態の中からあるべき姿というものを出しているわけであります。それが、一応昭和二十七年八月から十月までが消費単位七千円というのを出しておりますので、その消費単位七千円に対しまして、その後の物価上昇、さらにまた独身者たるの要件を勘案し、さらに地域差等を勘案して八千円を出したわけであります。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 ただいまの御説明で、昭和二十七年の秋における東京の実態の調査というものがもとになっているそうでございますが、その実態の調査というのは何を調査されたものでございますか。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 東京在住の世活保護世帯六十三世帯、さらに低額所得世帯百十六世帯、都庁の勤労者百二十九世帯を対象といたしまして、そしてこれら貧富いろいろな階級層の生活水準を消費単位で統一することによって、まあ家族構成その他いろいろな点から、軽労働に従事している既成男子の場合のカロリーを出して、そして一応のあるべき姿というのを出したわけであります。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 そういたしますと、これはカロリー計算から、これだけの賃金がなければ必要なカロリーを補充できないということかと思いますが、そうしておきめになりました八千円の賃金というのは、現在の賃金水準からごらんになりまして、大体どの程度のものと見ておられましょうか。

多賀谷真稔日本社会党

○多賀谷委員 現在の賃金水準から見て、どの程度というお話でございましたが、午前中にも申し上げましたように、現在の労働者の中で最低八千円で独身の場合の十八才の者がわれわれは三百七十七万程度、こういうように考えておるわけであります。それが大体二九・五%に当る、かように考えております。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 そこで伺いたいのでございますが、この二九%というものはほとんどその全部が八千円以下になっておるのですが、最低賃金を定めるということになりますと、元来日本の賃金形態というものは外国のように単なる能率的な賃金制度でもないし、また単なる時間給でもないのでありまして、日本の賃金において最も特徴と見られるのは、いわゆる昇給制度というものがあることだと思うのです。従いましてこの昇給制度のある賛金の現在の状況から見ますると、低い賃金というものは結局初給賃金が最も低いというのが一般的傾向だろうと思うのであります。そこで最低賃金を規制するということになりますと、主として初給賃金というものを眼中に置いて最低賃金の額を決定するということが至当だと思うのでありますが、現在初給賃金のベースから見まして、一体八千円という賃金はどの程度に相当すると御判断になりましょうか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 私からお答えいたしたいと思います。現在の初給賃金の実態把握は、統計の上から申しますと、正確なものとは申せませんが、たとえば年令格差による調査もできておりますし、それから学歴によるものもありますし、熟練度なども見込んだものもありますが、平均いたしますと、——どれを平均したらよいかということは問題がなかなかあると思いますが、大体われわれのつかみ方といたしましては、八千円未満の中に現存しておるものの中で初給賃金は一体どう見るべきかということでいくと、比較的正常な企業にあるものは賃金はもうすでに六千円をこえておる。それから今われわれがここに予定しておりまする最低賃金の実施の必要に追られている中小企業、零細企業になりますと全く乱脈であります。そして統計もありません。しかも全体から見ていきますと、六千円の支払い総額に比例いたしていきますと、六千円以下のものが十八才未満、すなわち未熟練労働の者として一・七%のものが統計の上に出てきておる。それから就学年令の上で見ていきますと、新制高校、専門学校、大学というような形で出てきておりますが、この統計も必ずしも令部を押えておりませんで、抜き取り統計といったようなものの、あるいは他の統計から推計してきたものでありますから正確には言えませんが、六千円と定められますると、大手筋においてはみなそれ以上上回っておる。統計に把握できない部分にはかなり低いものがあるだろう、これは推計でありますけれども、大体二・六%見たら最大の把握の仕方ではないか、こういう統計のあらすじの結論をわれわれは今持っております。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 今六千円とお答えになりましたが、私は本案の八千円について伺っておるのです。八千円を最低賃金になさろうというのがこの法律の趣旨なんですから、一応八千円を基礎にしてお答えをいただきたいのです。八千円というのは十八才の初給賃金のベ−スとしてはおそらく現在の日本においては絶無とは申しませんが、かなり高度な賃金であるというのが実情ではなかろうかと思うのであります。おそらく十八才の者に対して八千円の初給賃金を持っておるという事業場は、これは現状においてもきわめてまれなのが実情ではなかろうか。少くとも今日総評その他の労働組合の闘争の目標というものが、八千円の最低賃金を主張いたしておりますのは、現在十八才の初給賃金が八千円に達しておらないということが前提となって、それが労働闘争の一つの目標になっているといわざるを得ない。そうしますと、この八千円というものは今日の賃金水準から見ますと、少くとも十八才の初給賃金としては非常に高いものであるということが言えるのじゃないかと思うのでありますが、いかに御認識になっておられましょうか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 仰せの通りに今統計の上で把握できる範囲内のものを午前中中村委員に多賀谷君から御答弁いたしましたように、大体比較的信憑力のあると思われる統計五つを基準にいたしましてわれわれは現状把握をやったわけであります。その上でお答えできることは、八千円以下のすなわち基準法適用事業場の労働者の中でつかみ得た数字でありますけれども、八千円以下のものの中でこの法律を直ちに実施した場合に——これは三十一年の統計でありますから多少これに修正を加えていきますので、修正の仕方によって多少違うでありましょうが、三十一年の現状を基礎にして現在を考えていきますと、八千円以下の総額に対して六・九%、この法律は御存じのように十八才以上の者に規定して十八才以下の労働年令に達した者については政令に譲っております。でありますから十八才以上をもって一応論議しなければなりませんから、十八才で把握すると総支払額に対してわずか五%ということになります。それから二カ年間この法律は六千円でいこうというのでありますから、ここ二年間経済の動向がこれにどう影響してくるかはいろいろ資料のとり方にもよりますが、一応二年間六千円と押えますとどうなるかといいますと、総支払額に対するパーセントは全体として見て年令を問わないで二・六%、それをこの法案にいう十八才に限定いたしますと、わずかに一・七%が対象になるのであります。こういう工合になりますので、あなたが想像なさっておるほど大きな数字にはならない、こういうことがわれわれの計数の上で申し上げられるのであります。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 私はその統計について見ておりませんので確たる批判はできませんが、今日東京付近におきまする事業場の実情から見ましても、十人才の初給賃金が八千円に達しておる工場というものは、賃金水準としてはかなりいいということが言えるだろうと思うのであります。少くとも中小企業その他において十八才の労働者に対する初給賃金に八千円払うというものはほとんどないというのが実情じゃなかろうかと思いますが、統計についてどういうふうにごらんになっておられましょうか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 まずどういう統計を中心にしてこういう計数を出したかということが問題になりましょうが、統計のおもなるものを申し上げますと、御案内のように内閣統計局のこういう問題に対する指数というものは、全体を知るためには相当有力なものでありますが、こういう実態についてということになりますと、労働省が二十九年の四月に実際に行われました個人別賃金調査というものが私は相当信憑力があると見て、これを取り上げました。それは全国の約六百五十万の対象人員で実態調査が行われた。第二に取り上げたりは、昭和二十八年の十月に同じく労働省が小規模事業場の賃金実態調査を行なった。これは五人から二十九人、全国で四百二十八が三千人。それから最も近い例では厚生省が社会保険の基礎調査となぞらえて、一人から四人の事業場の調査の結果がここに出ております。これは三十年の十月−十二月の間に行われて百四十八万六千人を対象として調査をされております。これらは実態調査に属する統計でありますから、一応信憑力のあるものと思われます。それからこういうものを調査する重要な参考資料として取り上げたのは、国税庁が民間給与実態調査をここに五、六年続けて行なっておりますが、その二十九年度のものが統計資料として一番新しくわれわれに紹介されております。これが全国で九百六十万八千人。それから御案内のように人事院が国会や政府に勧告するための基礎資料として民間給与実態調査を行いました。これは目的が目的でありますから、いろいろ問題があるようでありますが、これは職種別あるいは職階別給与制度などについて言及しているので、先ほどお尋ねの問題と関連がある資料であります。そのほかに公共企業体等仲裁委員会が公共企業体の任務を遂行するために取り上げられている資料で、やや専門的にわたりますが、職業別賃金調査のごときは相当こういうものの資料としてはよい資料じゃないかと思います。こういう資料と、総理府の統計局のやっておる車業場統計調査、これは四年ごとにやっております。それから毎月労働力調査、それの最も新しいものでは昭和三十一年度の実態調査を行なっておる。これは労働者の賃金については多少問題はありますが、実数あるいは雇用の状態を正確に把握している点においては相当全体を知る上に有力な資料と私どもには思われる。これに労働省の労働統計調査月報、これに毎勤といわれておる毎月勤労統計調査、こういうものを勘案して実態を把握する。これ以上のことは今日の場合不可能だとわれわれは考えまして、この限界の中で結論を出した資料を午前中御紹介申し上げたわけであります。この中からわれわれが数字を取り上げてお答えをしておるわけでありますから、問題はこの中で論議をしていただくより仕方がない。しかし今お尋ねの一番重要と思われるのは、そういう統計で実態を把握することが困難な部分が私は相当あると思う。今回の資料で取り上げた厚生省の五人未満の事業場の実態調査でも、役所として調査したのはこれが初めてだと思う。でありますから、この数字の上で見ていって、私どもはかなり低額なものが出てくるのじゃないかという想像をしておりましたが、以外に低額所得者が少いのであります。こういうような資料の上で先ほど御説明したように、八千円未満と六千円未満というものを専門家にもお手伝い願いまして取り上げたのがパーセントでいうと、八千円の場合は年令を問わないで六・九%、十八才未満の場合は五%、六千円になりますと、ぐっと下りまして全体から見て二・六%、それからこの法でいう十八才未満のものになりますとわずか一・七%。でありますから、支払い能力の問題でこの法案を実施して一番大きな直接の影響を受けるものは大体ここら辺であるというふうに見ていいのではないか。基準法適用以外のものあるいは統計の線に乗らないものはむしろ企業というよりは、これは潜在失業及び変形の労働というふうに把握すべきではないか。これは最低賃金法によって問題を処理する対象でない。今まで午前中もお話がありましたが、中小企業という大ざっぱなつかみ方は、われわれはやはり労働者の数で三百人未満あるいは資本金一千万円というあたりの事業場ということで中小企業というものをここで限界をつけるということは、この場合無理があると思う。それよりはむしろ賃金の支払い実態あるいは企業の経済的な機能と申しますか、それが今日の経済水準を維持できるような経営の状態というものを一つ出してこないと、支払い能力の問題の論議は軌道に乗ってこないのではないかと思う。しかしお尋ねが統計上のお尋ねでございましたから、われわれの今まで検討いたしてきました材料並びに作業のおもなよりどころを御説明いたしました。この上で御質問があれば、数字はそれぞれ詳しくお答えしたいと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 一応の数字の御説明はわかりましたが、そこで労働省の当局が来ておられますから、特に伺いたいんですが、八千円という最低賃金額は今日の一般の十八才初給賃金のべ一スから見てどういうふうにお考えになりますか。

堀秀夫労働事務官(大臣官房労働統計調査部長)

○堀説明員 これにつきましては、われわれの方でやっている統計調査として職種別賃金調査がございます。これは先ほどもちょっとお話がありましたが、十人以上の事業場について実施しておるわけでございまして、今のお尋ねにぴたりと合う数字ではございませんが、年令別に十八才以上二十才未満のものがどのくらいとっておるか、それから勤続年数別に、入ってから六カ月未満のものがどの程度の賃金をとっておるか、その数字がございまするので、それを申し上げます。  たとえば製造業について見ました場合に、十八才以上二十才未満のものについて、男の事務職員は七千八百十一円、これは平均の数字でございます。それから女の事務職員は六千二百一円。それからほかの例を一、二申し上げますと、男の鋳物工は八千五百五十八円、男の旋盤工が七千三百五十四円、プレス工が七千六百五十円、このような数字になっております。  それから勤続年数について見ますと、六カ月未満のものをとりました場合、同じく製造業の男の事務職員は一万五四十一円、女の事務職員は五千六百七十五円、男の鋳物工は六千三百七十八円、男の旋盤工は五千六百九十一円、男のプレス工は六千三百七十五円、一、二の例でございますが、このようになっております。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 ただいまの当局の説明によりますと、それ自体を的確に示す数字ではございませんが、まず現在の日本の賃金水準から見て十八才の初給賃金というものは大体五、六千円ということが推定されるのではないかと思うわけであります。そういう点から考えますると、この八千円という数字は最低賃金としてはかなり高きに失する点がありはしないかという疑いを持つわけなのでございますが、これは今日の日本の産業の負担力、ことに中小企業の支払い能力から見て、提案者としてはいかにお考えになっておられましょうか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 初給賃金とわれわれの今考えております最低賃金との場合とはかなり幅があると思います。御案内のように、初級賃金でも、今労働者の統計調査の報告がありましたが、三十一年の三月総理府の付属統計の中で労働力臨時調査報告というのが速報の形でわれわれの手に入った。まだ計算の過程にありますから正確なものとはいえませんが、大体間違いない。把握困難なものはもちろん漏らしております。把握のできる範囲のものでいきますと、初給賃金の方で今あなたが労働省にお尋ねになってお答えがあったように六千円ないし七千円未満のものが非常に多い。その通りが出ております。しかし最低賃金の場合は初給賃金に相当する人員は全体の上からいって、八千円未満の中から見てもごく低い率になっている。最低賃金をわれわれがぜひ適用して保護を与えたいというのは、もう相当の年令に達し、生計の主体をなすような、世帯主にも相当するような人々で八千円に満たない、あるいは六千円に満たない人々がむしろこの最低賃金の対象になるべきではないか。それから初給賃金については、先ほどの統計調査の中でも問題がありますように、実際問題としてはそれほど大きな問題にならぬのではないか。ここでわれわれが本法の中で諸外国の立法例よりもちょっと変った形をとったというのは、年令格差をつけた。十八才というものをつけてきたわけであります。それは今あなたが御指摘になった初給賃金、大体十八才未満のものに一番そういう対象人口が多いというので、十八才未満を政令に譲ったのはそういう事情にあるわけでありますから、初給賃金問題は、十八才未満のものに限ってはここの場合ではあなたの御心配のような問題はないのではないか、こういうふうにわれわれは本案の中で処理をいたしておりますので御了承願います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 どうも御説がよくわからないのでございますが、御承知の通り日本の賃金形態の特徴と考えられておりますのは、いわゆる定期昇給制度であります。これはもともといわゆる月給取り、サラリーマンに発達した制度でしょうけれども、しかし一般労務者についても今日においては本給については定期昇給ということがかなり一般的になってきておるわけでございます。そこで今日の日本の賃金の実情を見ますると、年令の若い時期及び採用直後の時期においては、きわめて短期間にひんぱんに昇給をさせていくということが行われております。たとえば十八才あたりですと半年に一度は少くとも昇給をする。それからもっと昇給回数の多いところならば三カ月ないし四カ月ごとに特別のしくじりでもない限りは定期的に昇給するというのが今日の実情なんであります。従って最低賃金はそれ以下の賃金を許さないのでございますから、そこで最初に入ったときの賃金がまず最低賃金のレベル以上であることが必要だ。そうなりますとそれから半年たち一年たった者の賃金、また十八才の者が十九才になり二十才になった場合の賃金は、初めて入ったときから見たら相当昇給をしてくるわけです。そこで今提案者が御説明になりました統計にいたしましても、また労働省の説明ざれた統計にいたしましても、そういう初給賃金だけの統計というものは今日ないようであります。従ってそこに入ってきている十八才ないし二十才あるいは採用後半年、一年以内というのは、最初に入った者と、数回すでに昇給をみたものとを一緒にして統計を出してあるのでございますから、その金額は初給賃金かう見ますと、一割なり二割なり、それは調べなければはっきりわかりませんが、多少上回った数字が出ておる、こら断定せざるを得ないのであります。そうしてもしこの最低賃金法案というものが、そういう定期昇給制度、ことに短期間に定期昇給させるというような現在の賃金形態を根本的に変えるのだということならば格別でございますが、おそらくこういう最低賃金が出ましたところで、その賃金形態が急速に変るということは不可能でしょう。そうなりますと現在の賃金形態において初給賃金が最低賃金の八千円以上ということになりますと、その結果は、昇給のたびに賃金がふえるのですから、今の数字は相当に上回った数字にならざるを得ない。そうなりますとわずか賃金が三%か五%ふえるということではなく、おそらく最初の人がある程度上ると、それからどんどん昇給していくということになりますから、賃金全体としましてはどこの事業者にとりましても、おそらく二割、三割あるいはそれ以上の引き上げを見るということになるのじゃないか、こう考えるのがただいまの統計を承わっての常識的な結論だと思うのでございます。そうなって参りますと、こうした八千円という最低賃金をきめることが今日の産業、ことに中小企業から見て支払い能力の点においてかなり問題があるということは想像にかたくないと思うのでございまして、現に中小企業界においてはこの最低賃金法案に対して全面的反対をいたしておるのであります。社会党は中小企業者の立場をどういうふうにお考えになっておるか。ことにこの問題に対して全面的な反対を唱えるところの中小企業の各界の反対論をどういうふうにお考えになっておるか。この点を承わりたいと存じます。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 第一は、日本の給与には一つの伝統がある、そういう伝統とこの最低賃金実施後における影響をいろいろ御想像なさってのお尋ねでありますが、私どもは確かにこの最低賃金が実施されると、日本の賃金慣行の中で、ことに封建的な色彩の強い賃金形態はある程度改められると思う。ことにあなたの今御指摘になりました初給賃金、なかんずく熟練労働の修得過程にある労働者の問題については、最賃法によって相当割り切れない部分が出てくるということは確かだと思う。この点では日本の場合いきなり手のひらを返すように慣行を新しい制度に変えることは無理が起ると思う。だからここに年令格差を設ける必要があるというので——御案内のように日本の労働法は十五才以上の者に対しては何の制限もありませんが、一応幼年労働保護という立場から十八才の年令が出ております。今実際問題としては、一番熟練度の躍進する年令というものは十五才から十八才ごろの門に激しく変動が起ってくるのであります。そういう過程のものを最低賃金一律一本で抑えてしまうということは、いろいろな弊害が生ずるのではないかということを私どもも認めております。そういうわけで十八才未満のものを政令に譲ったのであります。その政令の中でそういう問題について工夫をいたしたい。  それから次にお尋ねになりました最低賃金の額の問題でありますが、額が一応二年間六千円で、八千円という本法の精神でありますが、六千円が高いかあるいは低いかという問題については、これはもっぱら企業の支払い能力を中心にして論議が行われております。私は支払い能力の問題については、ただ単に現状のままでその支払い能力がどうかということを、統計はこれを示しておるわけであります。私どものねらいとするところは、最低賃金の実施というのは労働保護法としての大きな価値をもちろん認めてでありますけれども、同時に日本のように中小企業とはいうものの、零細企業といった方が適当ではないか。この最賃法によって一番影響を直接受けるのは零細企業である。零細企業は、私どもの長い体験でいえることでありますが、今日市場の経済の競争の中で賃金、労働条件の引き下げが幾らでもできるというところに底なしの競争が行われて、このことが原因になり果をなして、じりじり中小企業自身を食い詰めていっておる。零細企業の今日の困難はこの不当な競争にある。これは私どもが独断で言うのではなくて、これをどこで切るかということになれば、この悪循環を断ち切るのには御案内のように他の原価計算の中ではもう限度がきわめてきびしいのであります。賃金、労働条件については基準法はありますけれども、基準法それ自身についても、今日行政的な手心が加えられるというような実態であります。こういうものをこのままにしておいて、一体どこで労働者の貸金の問題を解決づけるか。ここで私はお考えをいただきたいと思うのは、第三の質問にお答えすることにもなると思うのですが、企業の支払い能力は、日本の最低賃金を考えるときにもちろん重要なことではありますけれども、そればかりにこだわっておると、私は最低賃金の持つ意義というものを全く見失ってしまうと思う。これは御存じのように最低賃金をわれわれが実施するのは、一つは、零細企業の底なしの競争をどこかで切ろうということに一つの意味がある。このことは国内の業者間の不正な競争を阻止するということだけではなくて、日本の経済が貿易に依存しなきゃならぬということは申すまでもないわけでありますから、日本の今後の貿易というものは、国際的な正義の上に立たなければ日本の市場の開拓はできない。国際正義主義ということになりますと、労働に関する限りにおきましてはILOの決議や勧告、あるいはこれで取り上げられたいろいろな申し合せなどというものがその基準をなすことは今さら申すまでもありません。最低賃金については、ILOは二回にわたって勧告と条約を議決しております。その例を見てみましても、一九五一年と一九二八年の二つの総会において最低賃金の問題を議決しておりますが、この際にも、一九五一年の総会の際に経営者側の代表から支払い能力の問題について強い発言が行われたのでありますが、それが総会の決議の結果に現われましたすなわち総意の上では、最低賃金をきめるということについて支払い能力というものを問題にしてはならない、そのことは最低賃金決定を拒む理由になって、それは正当な理由とは認めがたいということが二つの総会で明確にされておるのでありまして、それでは額の決定の上に考慮すべきものは何かというのに、四つの法則を立てております。その第一は、われわれがここに八千円をはじき出しました生計費の問題がある。生計費の取り方は議論がありましょう。しかし生計費の問題を一に取り上げ、二には労務の価値を取り上げております。これは一番、二番とお尋ねになりましたように、見習工の場合と一人前の技術を修得した場合においては、その労働の価値は非常に変ってきます。ただ勤続年数だけではなくて、熟練度の高い労働者であればあるほどその価値の評価は非常に違うのでありまして、たとえば見習いを三年間やって、その三年間の後にたとい一年でも半年でもというのは、過去の三年間とはまるで価値が変ってくるわけであります。その点でわれわれが十八才の年令格差を設けるということは、現状において重要な役割を持つということでありまして、本来ILOの精神から言いますと、そういう年令格差を設けないことがその貫かれた精神になっておりますが、それにそむくような法案をここに入れたのはそういう点にあるわけであります。第三にあげられたのは最低賃金をきめるのに法枠で——これは政府がしきりに言うておる言葉でありますが、協約による、すなわち組織労働者と経営者との間に、あるいは経営者の団体との間に業種別に、あるいは産業別に、あるいは地域別に最低賃金の協定が行われていくということが一番望ましいわけであります。しかし日本のように小さい中小企業、零細企業では、組織自身が維持できないわけでありますから、このことはとうてい望めない。その場合には組織のある——四にあげられている十分な組織のあるという言葉を使っておりますが、この組織のあるところにおける一般賃金水準というものを目安にして最低賃金額を定めていくべきだ、この四つの法則をILOの二つの総会が議決しておる。この精神を日本だけが特例を設けるといいことは、私は社会正義に反すると思う。しかしわれわれがここに出しておりますのは、これにさらに企業の支払い能力を付加して、しかもそれが重要な考慮になりまして本案を作ったいきさつについて、十分御了解をいただきたいと思う。そうしませんとただ部分的な問題だけを取り上げて議論をされますると、なるほど支払い能力の全くないものに対してはどうするか。この点は私としては、できるならばそういう支払い能力のない、いわば経済水準に達しない、経営としては全く基礎を失った事業があることは事実でありますから、そういう問題は他の政策、たとえば社会政策の面で、あるいはその他の政策をもっと強硬に遂行することによって、こういうアブノーマルな企業というものをなくすという道は他に得られる、賃金の中で考える余地はない。しかしそういうものがあることは事実でありますから、あるものに対してどうするかという配慮に対しては、この法案の中では必要以上に取り入れているということを御了解いただきまして、いろいろお尋ねをいただきたいと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 ただいま提案者が、国際労働総会におきまする最低賃金についての勧告を引用されて説明されました。この最低賃金というものにおいては、企業の支払い能力というものを考慮に入れるべきではないのだという御説明があったわけなのであります。ところでなるほど国際労働総会における最低賃金の論議においては確かに今仰せられたような点が論議されておりますが、それならば果してこの最低賃金法案の中において、提案者が意図しておられる最低賃金というものが、この国際労働総会の勧告あるいは条約にあるところの最低賃金であるかどうかということは、非常に問題だと思う。御承知の通り国際労働条約の第一条を見ますると、団体協約その他の方法による賃金の有効なる規律のための施設存せず、かつ賃金が例外的に低廉なる若干の職業または職業の部分に使用される労働者の最低賃金をきめるんだ、これがこの条約の最低賃金なんです。ところが私は最低賃金法案の中でお考えになっておられる最低賃金というものもそういうものかと考えておったのですが、いろいろ御質問申し上げますると、こういう例外的に低廉なる賃金を押えるというのではないように私は思うのです。なぜかというと、先ほど来の統計の示すところによりますると、八千円という賃金は、例外的に低廉な賃金を押えるんじゃなくして、これは初給賃金としてはむしろ現状以上の賃金水準を獲得しよう、こういうことになっておるのであります。例外的に低廉なる賃金を取り締るという場合において、企業の支払い能力があるかないかというようなことを議論していたんでは取締りができませんから、それは論議する必要のないことは当然である。しかし少くともあなた方の提案されたこの取低賃金法案というのは、この国際労働条約における最低賃金とは全く別の、これはいわゆる賃金のベース・アップにほかならないのだからして、そういう場合においては当然に支払い能力ということを問題にせざるを得ない、こう言わざるを得ないわけです。私はこの支払い能力の点については御説明がなければないで先に進みます。  そこで伺いたいのは、八千円という最低賃金を二年間は六千円にする、どういう理由で二年間は六千円にされるのでございますか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 先にお尋ねになりましたのでお答えいたしておきたいと思いますが、支払い能力の問題は、あなたもおっしゃられるように、例外的に安いという例外的というのには二つの意味があるのです。一つは、経済ベースに乗らない上らなもの、何だって資本主義経済のもとにおいて原価を割るようなばかな商売があるはずはありません。だからここにも言っておるように、生計費というものは労働の再生産費だというものの考え方が一部にありますが、私どもは何もそういう公式的なものをとろうとは思いません。しかし明日の健全な労働を出させるということになればやはり生計費ということになるわけです。それは今の日本の中小企業、零細企業というものは、一体何ぼの賃金を払わなければならぬかということを見積りの中で考えないで商売をやっている、国際的に見てこんなめちゃな競争をやっている。しかもわれわれが量的に見て、あるいは質的に見て、こういうものが日本の国民経済のにない手になっているというようなことでは私は例外といわざるを得ないと思うのです。一つには経済の法則の上に立って、一つには比較の問題があるわけなんです。国内比較においても言えるし、国際比較においても言える。だから、こういう状態は賃金問題で解法するというよりは他の政策で解決すべきものかもしれません。しかし今日の場合においては、賃金及び労働条件というものが全く制約を失っておるところに問題があるわけでありますから、これをここに設けようということは、これが一番きき目のある、そして一番実際的な他の政策へのてこ入れにもなるという考え方であって、そうすれば、今支払い能力を欠いておる、すなわち経済の原則にのっとらぬようなアブノーマルなものに対して、ノーマルな姿へ持っていく一番いい方法だ。言いかえますならば、一体企業というよりは、変形的な労働と言った方がいいのじゃないか、形は雇用関係の中に置かれていないけれども、それはむしろ無制限な労働と、他人の労働とを犠牲にして、この激しい競争の中に無理な経営を続けていくという状態を断ち切ることは、やはりここら辺でいかなければいかぬじゃないかという点に私はこの法案の使命があると思うのです。ですから、あなたから、また別な角度からいえば、一番大きな刺激を与える人々のためにどうすればいいかということは当然考えなければならぬという御質問が出ることは当然予期しておったわけであります。最初いろいろ考えまして、この段階に達するまでには同時に他の立法措置を講じて支払い能力に対する保護を考えようというような、全く国際的に異例な立法措置を考えたこともあるわけでありますが、それよりはやはり国全体の政策の中でそれぞれ専門の場に分けてものを考える必要があるということで、中小企業対策あるいは零細企業対策あるいは潜在失業やその他の変形した労働の姿にあるみじめなものに対しては他の政策で解決しようということになったわけです。こういう経過でございますので、御了解願いたいと思います。それからあなたはベース・アップというふうに言われたのですが、なるほど見方によりますれば、最低賃金が上ってくればそれによって全体が、ことに低いところがまたそれに均衡を保つ意味で昇給が行われてくるということは当然で、それをどのくらい見込んでいくかということについてはこれは問題があると思う。私はその問題については正確な数字は持っておりませんし、またつかむことは困難だと思う。しかしそのことは一面また最低賃金が引き上げられてくるということになりますと、今言うアブノーマルな競争がなくなってくるわけであります。この面から健全化されてきて、実際賃金の支払い能力というものは、今われわれの統計の上でながめておるものよりももっとはるかに余裕のある実態になるという考え方も成り立つわけでありますから、その両方をやはりいろいろ数字で当ってみればおもしろいものが出てくる。しかしそこまでやらぬでもいいじゃないかというふうに考えております。それから労働組合が最低賃金ということを言っておりますのは、賃金格差がひどいから、自分たちの賃金をせっかく引き上げても、それを維持するということに困難な社会性はもちろんあるのであります。そういう意味で、低いところを引き上げようという組織労働が配慮をすることは当然のことであります。しかしそれはそれとして、別個に独立した立場において、先ほど来申し上げておりますように、アブノーマルの経済をノーマルなものにしていきたい。それからそのために、今の例で申しますと、あなたは先ほど八千円の例をあげましたから申し上げますが、もう一つ私どもが数字でお答えができるのは、御案内のように、ニコヨンといわれる労働力、その与えた労働の価値を正当にというよりは、それより約一割ないし二割低いもので定めるといった別の意味を持つニコヨンでさえ、今日一カ月二十一日と見て平均単価はもうすでに六千円を上回っておるという実情でございます。それと他の生活保護の中で生計費を計算していく単位におきましても六千円という数字はまだ低きに失するのであって、そういう点からいけば、もう大体日本の場合においては、生活の最低をささえる賃金水準というものは六千円というものはむしろ低いのではないか。だからその低いものさえ支払いができないというものにいつまでもこだわっておるということは、私は賃金問題じゃなくして、それは政府全体の問題ではないかというふうに考えて立案をしておるのでございまして、決して労働組合のペース・アップに調子を合せて考えていくというようなことはごうもございません。それは労働組合がこちらに歩調を合せていろいろ世論を盛り上げていくとか、あるいは政治力を吸収していくということは当然のことであります。どうぞそういう点について誤解のないようにしていただきたいと思います。  それからなぜ六千円にしたかということは、一応先ほど申し上げましたように、実際からいいますと、もう八千円で当然だというデータをわれわれは持っておるのでありますけれども、とりあえず一挙に零企業、中小企業に対する関係はその他の政策においてもにわかに間に合うような政策は考えがたい。今社会党が中小企業組織法それから中小企業対策その他の経済政策の中でわれわれが考えても、きょう直ちに八千円に切りかえるということは、そういう企業に対する摩擦をすみやかに解決する措置がとりがたいということを判断し、特に現在の政治力の実態からいたしますと、われわれの意のままにはいかないのでありますから、与党の協力、政府の考え方もやはり考慮の中に入れなければなりません。それで六千円なら今すぐやっても格別弊害も起るまい。先ほど申した一・七くらいのものですから、問題の解決はそう困難ではないということで、二年という数字はいろいろ議論もあると思いますが、一応あれやこれやを考えて、二年といえば気の長い話ですが、そのうちに情勢が変ると思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 とにかく八千円としては、これを現状において直ちに実施することは、特に中小企業の面において摩擦が多い。これは言葉をかえていえば中小企業の支払い能力の現状から見て困難だということを意味すると思います。そうなりますと八千円が現状から見て生計費としては必要かもしれぬが、少くとも支払い能力の面においては困難だということは、提案者自身がすでにお認めになっておるのじゃないかという疑いを持たざるを得ないのですが、さだめし御弁解があろうと思いますから伺いたい。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 支払い能力の問題ですが、私たちは一年は調査にして二年の期間六千円ということに一応したのですけれども、御承知のように労働者の賃金統計というものは非常に不備だと思うのです。今労働省の説明を聞いてみても全く完全な賃金統計じゃないと思うのです。そういう意味で実態をよく把握することがこういう制度をやる上にはぜひ必要だと思います。ですからその実態を把握する意味で一年間というものはどうしても調査費をもって具体的に調査していかなければならぬと思うのです。もう一つは六千円、八千円の関係ですが、一応六千円にしたのはもちろん支払い能力ということもわれわれは考えました。しかし六千円で、それなら今の中小企業全部が支払い能力がないかといえばそうはいえないと思います。八千円の場合でも必ずしもそうはいえないと思います。各企業の実態を調べてみれば現状のままでも支払い能力のあるものはあり得ると思います。そういうところはおそらく実質を労働省も把握していないと思います。僕らも具体的にはっきり数字をもってお答えするだけの何はないわけですから、その点は実態を把握したいと思うのです。それと同時に最低賃金の支払い能力は現状のままでそれを考えられると問題はなかなか解決しないと思う。やはり一応八千円なら八千円をしかれた場合に、それに対してやはり賃金が上るということは、瞬時にある意味では購買力を増してくるということだと思います。経済全体の動きの中にそれがどういう影響を持つかということで決定されることであるし、もう一方は中小企業自体の企業そのものを生産の基礎を確定するといいますか安定ならしめる、言いかえれば賃金の切り下げ競争はやらない。しかし実際の資金は生産その他の面に流れてきて効果を生んでくる。実質上は単位当りの生産費も実はあまり上らずに、下らないまでも安いところで現状で土産できるということになってくれば、やはり支払い能力というものは経済の中から生まれてくるものだと私は思うのです。ところがその過程において僕らの考えでいえば百億なり二百億、ある限度は政府が補償したらいいと思うのです。しかし今度はそういう案を一応退けて、ほかの中小企業の対策でその経済の実際の力を持たしていくという考え方をとったわけでございまして、御説のように支払い能力に対しては非常に重要な問題ではありますが、しかし賃金が低いことは御同様にあまり喜ぶべきではないのであって、やはり生活の上からも今の日本においてこの程度なら生活ができるというものを中小企業の労働者といえども享受できるようにすることは、われわれ政治をあずかっておる者からいってもやらなければならないことでありますから、そういう点でいろいろな事情も勘案しまして、一応八千円、しかし暫定的には六千円という格好を出したわけでありまして、私は現実からあまり離れた数字ではないと思います。今の大橋さんの御質問で、たとえば十八才から二十才の者が七千八百十一円とか六千二百円といってある程度俸給が上がったものを含めたというが、これはおそらくそうだと思いますけれども、しかし一応最低の線を男で十八才から二十才の者は七千八百円ですから、中には一万円以上こえておる者もあるわけですから、一応八千円なら八千円にした場合に、ある一部の者については、けさ中村さんの御質問に対してお答えしたように支払い能力がない企業もあると思います。その支払い能力のない企業に対しては別途に方策を講ずべきだと思いますが、ある意味から言えばその中から多少失業者が出ると思います。出たものについては失業対策なり何なりの方ではっきりしたものにしていって、中小企業が潜在失業に相当するようなものをかかえているような状態をこのままにしておくというよりはもっと発展的に考えたらどらかということを考えまして提案しているわけです。その点を御了承願えれば非常にけっこうだと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 和田さんのお話はよくわかったのですが、和田さんの今のお話とこの法律の提案とはどうも多少食い違いがありはしないか。和田さんのお話によりますと、労働省の統計にしてもまことにお粗末なものであるし、そのほか現在ある賃金統計はこの最低賃金を幾らにするかについて的確な資料を提供しておらぬから、従ってこの法案を実施いたしましても少くとも一年くらいは根本的な調査が必要だと言われている。根本的な調査において調査して一体どらなるかということを考えますと、幾ら調査してみたところでもう法律は八千円、六千円とできてしまっているものを調査の結果改めることにもなればともかくも、全くその調査は無意味だといわざるを得ない。もし六千円というものがほんとうに確かなものだというならば、この一年間の猶予期間を置かれること自体おかしいのではないかと思う。法律を施行するに当って法律の趣旨を徹底する、こういう意味の準備期間として一年間をお考えになっていると思っておった。ところがそうではなくて調査期間であるということになれば、それならばまず一年間調査してもらいたい。そうして八千円、六千円が果して適当かどうか的確な資料によって説明していただきたい。こういうことをお願いせざるを得なくなるのです。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 そういうことを言われればちょっと困るのでありまして、一年間準備するということは具体的な調査を伴うと思います。それは現状のままでは現にある資料を基礎にしてやる以外には手がないわけです。しかし法律を作ったり実際にこれをやったりするときの執行者の側として、もっと現実的な材料をつかむことは当然あっていいと思う。私が調査期間という言葉を使ったのであなたはそれをつかまれたのですが、私はそういう意味で言っているのではない。準備をするときにはいろいろな政令を作ったりすることもありましょうし、もっと現実的ないろいろな対策は当然要ると思います。そういう意味で考えているわけです。そうしないと法律は作ったけれども基礎的な資料はそのままであるということで、現状のままいって不備なものでどんどん進めていく。執行者の側としても法律を施行していく間でも、そうした現実はどうであるかという点については綿密な調査は必要であろうと思います。ことに支払い能力の問題になってくれば、これだけの調査ではあなたも十分だとは思っておられないでしょうし、僕らも不備だと思う。これは執行者の側でも当然準備期間にやるべきことではないでしょうか。私はそういうふうに考えて言っているわけですから、その点はそういうことを言われては困るのです。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 私はどうもそれとは考え方がちょっと違うのであります。むろん私どもも現在の賃金水準から見て適当な最低賃金の金額を決定してこれを有効に実施するということでけっこうだと思っております。ただその際にはやはり十分な調査によって実行できるような、そうしてそれによって産業及び労働の発展が約束されるような金額でなければならぬと思っております。それがために私どもは軽々に八千円、六千円というせっかくの法案に、賛成できないという立場にあるわけでありまして、この法案に賛成するか反対するかという最も根本的な問題は、この調査が不完全だということにある。私どもは、調査が不完全であるにもかかわらず今日八千円、六千円というものをきめて、そうして一年間また調査するとしても、調査してみたところで法律はもうきまっちゃっているのですからして、調査しようがしまいが、ほんとうに八千円、六千円の法律をやるならば、もうそういう意味の調査は必要ないじゃないかといわざるを得ない。もし調査するとするならば、その調査は八千円、六千円の金額を将来変更するための資料を得るという意味において調査の値打があると、こういうことにならざるを得ないのです。私はこの一年間というものが準備期間、すなわち法令を一般に理解させ、そして円滑に実行するための準備期間であるというならばともかくですが、この間において大いに調査して、実情に適合するようにしなければならぬのだということになれば、この法案に八千円、六千円という金額を決定ざれること自体大なる矛盾ではなかろうか、こう思います。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 それは私ちょっと同意しかねるのです。この一年間の準備期間にもちろん普及宣伝は必要ですよ。だけれどもその間に、六千円という格好できめたときに、果してこの六千円というもので実際上いくか、あるいは八千円ですぐいけるかどうかという結論も私は出ると思うのですね。なるほど六千円なら十分だということも、やはり結論が出るかもしれませんよ。ですからその点は、やはり並行して当然実行者の側としてはやるべきであって、現状の資料においては一応こういうところは正しいけれども、だがそれを法律として施行します場合に、その法律についての裏打ちといいますか、現実性というものを持つのには、それは施行者として責任というものがあると思うのですよ。ですから調査を漫然としておって——それは変える場合もありますよ。しかし、ただ変えるために漫然と調査するという、こういう意味では毛頭ないのです。それは行政のやり方はあなたも御経験者なんだし、僕も経験者なのですが、一つの法律を作るときには、そのときの資料で最もこれが妥当だ、理論的にいってみてもこらだということで作りますよ。作りますけれども、その進行の過程においては、調査が必要であれば、あるいはもっといろいろほかの材料から補綴をすることも必要になってくる。そして必要があれば変えればいいので、なるほどこれでいけるという自信がつけばそれでもって進めばいい。その点についてはわれわれとしてはあまり形式的に——大橋君は法律家だから非常に大きく考えるけれども、僕はそのところはもう少しやわらかく考えてもいい、それでなければこれはうまくいかないと思うのですよ。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 どうもお話を伺っておりますと、確たる調査もなしに八千円、六千円ということを今から法律できめておいて、それから実行していくというようなやり方が行政の実際であり、私もその行政の経験者であるように言われますが、和田さんはそういう乱暴な行政の経験者かもしれませんが、私はそういう乱暴な行政の経験はないということを、一つはっきり申し上げます。(笑声)  さてそこで、何もこれは問題がない。要するに八千円、六千円というのが最低賃金として適当かどうか、これがこの法律のいいか悪いかの点だと思うのです。そこでこの八千円、六千円という数字を先ほど来日本の現在あり得る——多くはないけれども、あり得る統計から見ると、確かにこれは十八才の初給賃金のレベルから見るというと、相当高いということがはっきりいたしておる。ところが、これは先ほどの労働当局の説明をお聞きになりましたから、提案者の諸君も、この八千円、六千円という労働賃金というものは、少くとも八千円の最低賃金というものは、現在の初給賃金といろもののあり方から考えてみて、高きに失するということは明らかです。ですから、こういう高い最低賃金がきめられるということによって、当然賃金全体のベース・アップということが心配される。これが今日この八千円に対する非難の起る原因だと思うのでございますが、現在この八千円という金額を考えてみますと、これは総評の労働協約の目標額として掲げている金額が、偶然最低八千円ということになっております。私は社会党が総評に引きずられたかどうか、この件については知りませんけれども、こういう点から考えますと、総評の考えているところのべ一ス・アップの踏み台として、社会党がこの最低賃金法案というものを御提案なさるに至ったのじゃないかということを疑う次第なのでございます。今日社会党の諸君は、この総評のモットーに引きずられて、いわゆる春季闘争の片棒をかつぐ意味においてこの法案を提案なさったのではないか。そしてこれによって今後総評の争議上の立場を有利ならしめるために、社会党として気勢を沿えるというのが、この法案を提出された意味ではないかというふうに私には感じられる次第なのでございます。今日、この八千円、六千円とありますけれども、かりに六千円といたしてみましても、大産業、大工場は、それであるいは耐えられるものもありましょうが、中小企業においては現実にそれ以下の賃金が相当多数なんです。この最低賃金というものは、先ほど井堀君から御説明になりました、この国際労働条約にもあります通り、例外的に低廉なる賃金を取り締ろうというのが目標なんであって、一般的な賃金のベース・アップをしよういうのが最低賃金の目的であってはならないのであります。従って、今日中小企業の賃金が日本においては低賃金であるという現状が明らかになった以上は、最低賃金法のねらいは、むしろこの中小企業における低賃金というものを、いかにして防止するかということを目標とすべきであって、大工場のレベルをどうして一般的にベース・アップするかということを、最低賃金法の目標とすべきではないと私は考えるものなのであります。そういうふうに考えてみますと、八千円がいいか六千円がいいかは別の論といたしまして、少くともこの金額を決定するに当りましては、きわめて現実的な線を出すべきではないかというのが私どもの感じなのであります。現実的な線を出さない限り、最低賃金が現実にきめられるということは困難でありましょう。少くともある程度産業界、労働界が全般的に納得するような現実的な線を出していかなければ、最低賃金というものはきめられないと思う。そういう場合において、私は社会党の諸君が八千円という、今日の中小企業の実態から見ますと、きわめて現実味の乏しい最低賃金額を主張されるということは、果して社会党の諸君はほんとうに最低賃金を実現しようという、まじめな企図を持ってこれを考えておられるかどうかということを疑わざるを得ないというような感じがいたすのであります。一体社会党の諸君はほんとうにまじめにこの法案を通し、そしてこれがほんとうに日本の最低賃金として現実的に動き得る見通しをお持ちになっておりすすか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 僕は今の質問を問いて、政治家としての大橋君の言としては、どうも同意できない点があるのです。私ども社会党は、決して総評のベース・アップをバックするような意味でこれを出しておりません。社会党は党として、日本の、ことに中小企業の低賃金に悩んでいる労働者の賃金を、どういうようにして上げるといいますか、確保していくか、それから同時に、中小企業自体の経営をどうしたら一体よくできるかという問題と、まっ正面に取り組んで、そして最低賃金法というものがその一つの大きな手段であるということを考えて、われわれは党独自の立場でやったわけでありまして、総評のベース・アップの援護だというようなことは誤解ですから、そういうことは今後お言いにならぬように一つお願いしたいと思うのであります。  それから、八千円、六千円いずれをも含めて、こういうものは、中小企業の支払い能力からいっても現実としては非常に高過ぎるじゃないかというお話でありますが、労働省の統計調査部長の答弁を聞いても、十八才なり二十才未満で八千円をこえるなにもあるわけなんです。調べればもっと出てくると思うのです。八千円は高過ぎる、これは現実に沿わないんだというようなことは正直にいって独断だと思うのです。各企業の支払い能力をもつと調べてみれば、八千円という賃金を支払い得る企業があると思うのです。これは平均なんですから。……もちろん労働組合の発達している大きな企業においては、また力のあるところに荒いては、朝中村さんが例をあげて言われたように、賃金は、労働組合と企業者との間の賃金協約によってきまってきます。これは大橋さんもよく知っておられるところであります。それから中小企業の方は何といっても労働組合の発達が微々たるものでありますが、中には労働組合がちゃんとできておるところもありまして、そういうところはやはりある程度の最低賃金——あなたの言葉では初任給といいますか、そういうものが獲得できていると考えておる一わけでございます。そういうように考えてきますと、われわれが出した八千円及び六千円というものが現在の中小企業の支払い能力から見て高過ぎるんだという結論は、そう早急には出てこないように考えます。  それから同時に、国際労働会議においても最低賃金は特殊な、例外的な本のについてのみとおっしゃいますけれども、ここでよく考えてみなければならぬのは、発達した資本主義の国である先進国の場合と、一方非常に多くの農業と中小企業を持った日本の事情との違いであります。従って、中小企業の労賃というものが今もかなり低いところにあるということもわれわれは認めなければならぬのであって、その意味であなたのおっしゃった中心は中小企業の労働者の賃金をあげるというか、それの適正な賃金をきめていくにあるんだということについては、私どもも実はそう考えておるわけです。それを、例外的なものについてだけそういうものをやったらいいじゃないかということは——これは言葉の争いみたいになってあまり感心しないのですけれども、日本は全体として、むしろ例外的に低いと見ていいんじやないかと私どもは思います。そういう意味で、中小企業の支払い能力という点も考えて、われわれは暫定的に六千円という形をとり、しかもその六千円を払えるように早く中小企業の企業能力を増進させていくように、われわれとしては中小企業に対するるほかの方の政策からもその点の解決をはかっていきたいと思っておるわけです。従って、どういう点から言いましても最低賃金法というものによって解決できない面を最低賃金法によって解決せよといっても因るのであります。これは非常に大きな人口の圧力がかかってきており、日本の経済の発展が思うように行っていないといったようなところから、雇用に対してくる制約あるいは賃金に対してくるある程度の制約は、最低賃金法だげでは片づかぬと思うのです。しかし、それを片づける一歩として最低賃金法をしくという意味だけはやはり認めていただかないと……。この数字を、たとえば非常に低いものにしたならば最低賃金法は何のためにしくのかということになる。現状をそのまま認めては最低賃金法というものはほとんど意味がないということになる。そうなってくれば、持たせる現実性というものは、現在に順応するのではなくして、やはり現在を基礎にして一歩でも高めていく、そうしてその弊害をできるだけ少いものにしていくということに大橋さんも考えられてくると思うのです。そういう意味から、今井堀さんが説明された。態度でこの八千円及び六千円というものを提案いたしたわけでありまして、そういう点御了解を願っておきたいと思います。従って、われわれとしては、この法案が通り、もしも社会党の内閣でやるとするならば、六千円を暫定的に認め、そうして八千円を基礎にしてやはり最低賃金というものはりっぱに雲行できるし、それによって中小企業もあるいは一般の経済も十分採用し得るものになると考えておるのです。  それから、中小企業者にとってはただ重荷だけの点をお考えになっているようですが、これは必ずしもそうではないと思うのです。今の日本の企業の中で、非常に零細なものでもそういう意欲は持っており、やはり企業そのものを近代化したものにしていきたい、そうしていい技術も取り入れたい、といろいろな欲望を持っていると思うのです。そういう人たちが今一番おそれているのは、中小企業の間の不当な競争からくる圧力だと思うのです。その圧力も、中小令犬に資金やいろいろなものがあって、いつでも技術者を雇い、よい機械を入れていくことができるなら問題はありません。しかし、そうでないと、どうしても労賃の取り下げということをやらざるを得ない。そうなると全く泥沼のようなものになって、全体のベース・アップはできないわけです。中小企業者自体も困っておるのですから、私どもの知っているまじめな中小企業者で、最低賃金法を作ってくれればその面からくる賃金の切り下げといった賃金競争が避けられるだけでも企業の基礎が安定するということを言っている人が相当あるのでありまして、そういう面も一つお考え下すっていただければ非常にけっこうだと思うのでありします。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 最低賃金というのは、今日の普通の考え方といたしましては、賃金全体ののベース・アップを目的とするものではなくして、やはり経済社会における例外的低い賃金を取り締っていくことを目標にすべきものだと思うのであります。そういう点から考えますと、この八千円という金額は、今日日本全体の初給賃金から見ましても非常に高い線であって、これを最低賃金として要求することは、例外的に低い賃金を取り締るという意味ではなく、賃金全体のベース・アップをねらっていると言わざるを得ない。私はこの点において社会党の考え方に根本的に疑問を持つのでございます。私ども、今日の経済のあり方といたしましては、賃金についても、ベース・アップというような問題は自由契約、すなわち、労働協約によってきめられるべきものであって、個々の企業者と労働者との交渉を通じて決定されていく、これが賃金決定の基本的な方式でなければならぬと思うわけなのであります。しかるにその賃金の水準全体を引き上げる方法として立法的手段をとろうということは、これは今日の経済組織といたしましてはいききか邪道に偏するのではないか。私は最低賃金というものはあくまでも例外的に低い賃金を取り締る、こういう見地でいくべきものだ。そう考えてみますと、今日最も最低賃金の決定を待ち望んでおる労働者というものは、これは中小企業の関係者が多数であることは明らかに言えるだろうと思う。中小企業においては今日二千円とか三千円とかいうようなきわめて低廉な賃金が相当広範に行われている。最低賃金を実施する以上は、少くともこうした人たちにある程度の妥当な賃金を約束するということをまず眼目にしなければならぬものじゃなかろうか。なるほどこの社会党の八千円という最低賃金の法案は、大工場大産業における組織労働者相手のゼスチュアとしてはきわめてこれは有効であったかもしれませんが、しかしこういう法外に高い最低賃金を主張される以上は、現実にこれが実現されるということがむずかしいのじゃないか。それよりももっと現状に適合した真に現実的な最低賃金額というものを十分に慎重に決定して、これを早速に実施していくという方法をとられることが、——ほんとうに最低賃金というものを実施しようという熱意があるならばその方法を選ぶべきではないか、こういうふうに思うのであります。現に労働組合におきましても全労のごときは現実的な最低賃金を要望しておられるようでございます。そして私どもはやはりそういう現実的な金額で一歩々々着実に前進するという行き方が、真に労働者の福祉を擁護するゆえんではなかろうかと思う。大衆目当てのゼスチュアたっぷりの宣伝的な行き方で、しかも実現性が乏しいというようなものをいつまでも振り回していくということは、これは社会党として大人になったということを世間に言わせるゆえんではないように私は考えるのでございます。特に今日の日本において、政治の現状、経済の現状から見てこの八千円という案が果たして実現性がありとお考えになっておられますか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 今大橋さんが言われたようなことをわれわれとしても十分考えておるゆえに、党としては二年間は六千円ということで暫定的に六千円から出発したわけであります。われわれとしては何もゼスチュアをやるためにこんな法案を出したのではありません。これは党としましてはもう三、四年前から最低賃金法の問題は取り上げまして、そしていろいろと研究をいたしまして、最低賃金法というものの持つ意義、それからいろいろな影響等も勘案しまして、日本においては八千円という最低賃金というものはわれわれとしては妥当である、またこれでいけるだろうという考えで出したわけであります。ただわれわれとしては日本の現実の姿を見たときにあまりにもひどい面もあるし、八千円ということに一度に飛ぶよりは漸進的に、その間に中小企業からの適用を円滑にしていこうという意味からも六千円というものをとったのです。六千円というものは今の労働省の何からいいましても、大体十八才から二十才未満で六千円の者はおらぬと思う。みんな七千円以上の者ばかりでございます。女においてわずか六千円程度になっておるだけでございますから、こういう点等も考えまして、私どもはそういう今の日本の現実というものも十分考え、そしてやはりこういう法案を出す以上は一つの理想を含んでいなければならぬと私は思う。これはすべての法案がそうだと思うのです。そういう点において漸進的な方法をとったわけでありまして、その点はどうか御理解を願いたいと思います。ただ党の、ゼスチュアのためにやっている、あるいは総評の何をバックするためにやっておる、こういうことではないのであります。党自身が政党としての立場に立って自主的にこういうことをきめていくのでありまして、最低賃金法についてあなたがおっしゃるように特に例外的に低いもの——あるいは賃金のきめ方は個人的な協約によってやるのが筋ではないか、こういうことを言われますが、それはそういう方法もありますが、最低賃金について団体協約を結んでそれを政府が認めて、それを全国一律の規範力を持った、規制力を持ったものにしていく方法はもちろんあるわけであります。   〔八木(一男)委員長代理退席野澤委員長代理着席〕 しかしそれと同時にやはり政府が一律の最低賃金をきめてそれを実施していくということもあるわけであります。たとえば小作料なんかについてみても、政府がきめてその小作料をそれ以上上げちゃいかぬという立法もあるわけでありまして、必ずしも今の世の中で個人と個人との間の契約だけをもとこしていくということではないのだろうと思うのであります。そういう点についてはもう資本主義も相当変ってきておるし、あらゆる意味で集団的になってきておるということになってくればその点も理解されるだろうと思いますし、また国家自身が今まで持っておった警察国家の役割からむしろ進んで経済的の面についても発言力を持って、大衆のためにあるいは国全体のためにやはり一つの規制をするということも当然考えられることであります。そういう点からいって一律にきめるということについては、私はそれほどとっぴなことはないだろうと思うし、またやっていいことである、かように考えておりますので、どうか一つそのように御理解願いたいと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 これから先は幾らやっても議論になりますから差し控えさせていただきたいと思います。先般も申し上げたのでございますが、法案の第七条におきまして、中央賃金審議会というものが報告をして政府に対して勧告をすることになっておる、ところがそれは中央及び国会に報告勧告すべきものであって、労働大臣に報告勧告するということは法の建前からいかがであろうかということを申し上げたのでございますが、その後御研究の結果何か新しい答弁がありましたら承わりたいと存じます。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 その点は法制局の方からお答えを願ったらいいと思うのです。私はこの前の大橋さんのお答えに労働大臣というのはあれは政府だと考えておったということを申し上げまして、あなたから非常に何されたのですが、私が政府といったのは——労働大臣というのは、これは間違ったら直せばいいのですが、私自身としてはやはり国務大臣としての労働大臣だ、こういう考えでお答えしたのです。ところが賃金の問題は労働行政の中心をなすものですから、政府及び国会というよりも労働大臣ということで、国務大臣としての労働大臣、しかもそれが内閣を代表するものとしてのということで私はお答えしたわけでありますが、法律的にいえばあるいはもっとこまかい議論もあるかと思います。私はそのときはそういうつもりでお答えしたのでありまして、策議院の法制局の方からお答えをいたさせたいと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 法制局は法制局としまして、もっと常識的な見地から、少し提案者の御意見を伺ってみたいと思うのです。現在の労働基準法におきましては、最低賃金の決定に当っては、中央賃金審議会の意見を聞くことになっております。また中央賃金審議会が労働大臣に意見を述べることになっております。これは法の立て方として、最低賃金の金額というものは、労働大臣が決定機関になっておりますから、従ってその決定機関に対して、審議機関である中央賃金審議会が報告し、勧告するということは、これは意味があるわけです。ところが今度御提案の法律案によりますと、最低賃金の金額というものは法律によってきめられる。法律については、提案権は内閣及び国会にあるし、また議決権は国会だけにある。この中央賃金審議会が調査をし、その結果に基いて、賃金の金額の修正、その他の措置を勧告するための報告であり、勧告であるという以上は、当然権限ある機関である政府または国会にこの報告を持っていくということが必要ではないか。特に法律でありますからして、国会が最高の権限を持っておるのですから、国会に報告、勧告をするということは欠くべからざる手続ではないかというふうに考えるのですが、この点はいかがでございましょうか。

和田博雄日本社会党

○和田博雄君 それは私いろいろ考えてみたのですが、あなたの御議論も私一応筋が通っておると思うのです。しかし私は労働大臣というのは行政の長であると同町に、やはり国務大臣だと思うのですね。ですから事労働の問題に関しては、やはり中央賃金審議会が法律を変える場合でも、こういうふうに変えろという、たとえば答申をやる場合には労働大臣に言っていいと思うのです。労働大臣がやはり閣議の一員として閣議に改正の原案を出せばいいと思うのです。政府がやはり、この最低賃金法がしかれた場合には、これを執行しているのだから、労働大臣が出して閣議がそれではだめだと言って、最低賃金法というものは変えないのだといえば、内閣が責任を持ってくるということになるような気も私はするのです。それで政府が変えようということになったら、それを政府の提案で国会に出して、国会で審議してきめていく、こういうことでいいんじゃないかと思う。人事院の場合は確かに内閣及び国会になっておりますが、これは人事院の場合には官庁が使用者でありまして、官庁が企業者だといっていいのです。各省にわたっておるのですから、労働大臣というよりもやはりむしろ内閣、正確にいえば総理大臣かもしれませんが、内閣という一つの集合体、それと国会といううのに出す、こういうようになっているんじゃないかと私は考えたのですが、どうもそういう法律解釈になるんじゃないか、こういうのが私の考えです。なおその点については、いろいろ法律の専門家の方で御議論もあろうかと思いますけれども、一応私どもはそういうふうに考えております。

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 本問題につきまして、衆議院法制局の御説明を求めたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 御異議もないようですから、それでは衆議院法制局第二部長。

鮫島真男衆議院法制局参事(第二部長)

○鮫島法制局参事 ただいまの問題につきまして、第七条の立法趣旨を法律的な観点から御説明申し上げますと、御承知の通り中央賃金審議会は、現在労働基準法の第二十九条によって設置されておるのでございますが、この中央賃金審議会の性格はどういうものであるかと申しますと、国家行政組織法上、また労働省設置法の関係で、これは労働大臣の付属機関ということになっておるわけであります。そこでこの中央賃金審議会がこの最低賃金に関する問題につきまして、いろいろ調査、審議いたしまして、そしてその結果を報告する、あるいは勧告するという場合に、それをどこに勧告するかという点が問題になるわけでございますけれども、今申し上げましたように、中央賃金審議会は労働大臣の付属機関として没直されている関係上、やはりその審議会の所管大臣でありますところの労働大臣に勧告する、そうしまして結局、労働大臣はこの勧告を受けました場合には、この法律によって必要な措置を講ずるというわけでございまして、その必要な措置といたしましては、もしこの第三条の表を改正するという必要がございますれば、その改正法律案を閣議に提出する、この閣議に提出いたします根拠につきましては、内閣法の第四条第三項にございまして、各大臣は案件を問わず閣議を求めることができるという規定がございまして、そういう規定によりまして、労働大臣はましその勧告が法律を改正するということでございますれば、法律案を閣議に提出して、そしてそれを閣議で検討するということに相なろうかと思います。それから労働大臣といたしましては、さらに第一条にもございますように、最低賃金の金額は十五才以上十八才未満にありましては、政令にまかせられておる、あるいは特別の場合には労働省令で特別な定めをすることができるというような規定が第三条の二項、三項あたりにございますので、またこういうような措置もいたさなければならない。結局それの所管はやはり労働大臣でございますので、付属機関としては、それらのことについてすべて労働大臣に勧告するというのが、この中央賃金審議会でやります場合には適当ではないかというふうに考えられるのでございます。先ほど大橋委員のおっしゃいましたようなことは、これは考え方としては、もちろんそういう考え方があるわけでございまして、現に人事院は仰せの通り、国会、内閣に勧告をいたしておるわけであります。でございますから、立法論といたしましては、そういうような方法もとれるわけでございますが、もしこの場合にそういう方法をとるといたしますれば、こういう中央賃金審議会という付属機関ではなくて、やはり独立の官庁、まあ行政委員会になりますか、あるいは独立の官庁になりますか、そこはなんでございますが、そういう付属機関でなくて、やはり独立の官庁を作って、そしてやるということでございますれば、内閣なり国会に勧告するということも、立法政策としては十分に考えられるわけでございまして、そういう勧告権を人事院のような独立の官庁に与えるか、あるいは付属機関に与えるかという点が、立法政策の問題としてあるわけでございますが、ただこの案におきましては、付属機関としての中央賃金審議会を使うという形になっております関係上、所管大臣の労働大臣に勧告するというような仕組みになったわけでございます。しかし立法政策の問題としましては、大橋委員のおっしゃるような考え方はもちろんあるわけでございます。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 だいぶ苦しい御答弁で、御心中察するに余りありますが、この第七条の第二項に、「前項の勧告を受けたときは、必要な措置を講じなければならない。」こういうような条文を設ける以上は、やはり私はそれだけの権限を持っておる機関の責任とするのが建前として当然に考えられるべきじゃないかと思うのであります。すなわち労働大臣はでなく、内閣は前項の勧告を受けたときは、必要な措置を講じる、こうすべきじゃないかと思うのです。それでないと一体何のために第七条というものができているか、この第七条の立法理由が非常に乏しくなってきます。なぜかというと、今度の法案においては最低賃金の額というものを行政処分できめずに、法律で直接にしかも全国一律にきめるということが果して現在の社会の実情に適合するかどうかということを監視、監督する機関がこの第七条の中央賃金審議会です。だからして、この勧告なり報告というものはそれだけの効果が上るような効力を与えておく必要があるのでありまして、そのためには、国会に法案を提案する権限のない労働大臣というようなものに勧告をなし、そうして必要な措置をなさなければならぬという責任を負わせるだけではきわめて不十分である、こう言わざるを得ないと思うのです。これは明らかに行政官庁が、労働大臣が最低賃金をきめる現在の労働共準法の建前というものを基礎にして、そのまま無批判にこの制度を取り入れたのであって、法律の建前は根本的に行政処分によらずに、法律で最低賃金の金額をきめるということになった場合に、それに伴って当然行わなければならぬ補正というものを全然この条文ではやってない、私としてはこう批評せざるを得ないと思うのですが、一体提案者はこの案がいいのか、それとも内閣及び国会に報告する、そうして内閣は必要な措置を講じる責任を規定する、こういう方がいいのか、どっちがいいとお考えになりますか。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 現状でいいとわれわれは考えておるわけですが、しかしあなたのおっしゃられるように、第七条の二項の権限というものをより具体的に明確に、しかも積極的な意義を持たせるという御趣旨に対しては、われわれはそういうふうに修正を要求されればそれに応ずる用意のあることはこの際はっきり申せると思うのです。しかしあなたの御質問の趣旨がただそこにあるのではなくて、金額を立法的の指貫に求める、ことにこっちの後段の方を生かして前段を変えようという御意思であれば、むしろ逆であるというふうに考えております。これは少し私どもの思い過ごしかもしれません。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 私はそういう意味でなくて、あなた方のこの法案というものは全く成立を目的としたまじめな案ではない、つまりこれは一つのゼスチュアとしてお出しになっただけである。それであるから、こういう法律できめる以上は、労働者を保護し、最低賃金の額の妥当性を保障する根本的な点においてもきわめて大きな手ぬかりがあるじゃないかということを指摘すれば、それで十分だったわけであります。どうせこれは成立の見込みのない案件でありますから、私深追いはいたしません。

井堀繁雄日本社会党

○井堀委員 せっかくの御注意でございますが、われわれはこの法案が自民党の方で極端な反対にあうとは決してごうも考えておりません。これからの御審議によってだんだん明らかになると思いますが、先ほど来大橋さんの一貫して主張されているのは、現実性に乏しいということをしきりにおっしゃられるのですが、それは二つの点に集約して御指摘になったようであります。一つは、立法技術の問題についてでありますが、これはもう正直に、率直にお答えしておりますように、もしそうすべきであるという与党の方で協力的な修正が出て参りますならば、われわれはこれを迎えるだけの用意があることをお答えしておるわけであります。  それから前段で一番重要な点は、額の問題についていろいろ御批判がございました。御批判はけっこうだと思うのですが、特に大橋さんの所属されておる与党は、もちろん実際の力を国会に有し、政府を構成しておる政党でありますから、ほんとうにこの金額が実際に適応しないというのであれば、当然こういう金額であればいい、あるいはどうして高いかということについてもっと最低賃金法案全体について御批判を願いたいと思う。先ほど来金額がただ単に支払い能力、しかもこれは中小企業、零細企業の限られた問題にあることは御案内の通りであります。しかもそれはあなたもたびたび国際労働機関の勧告の精神が例外的に低いという点を強調されております。その例外というのは、ここに明らかにされておりますように、それが経済ベースに乗らないようなものは例外のきわめて顕著なものであります。ことに日本はソーシャル・ダンピングで国際的な屈辱を受けた歴史的な事実もあるわけであります。またこのことは非常に警戒をされております。でありますから、もし八千円ないしはここに過渡的に六千円をあげておりますが、この六千円が現実において高いというのなら、それはどういう点にあるか。私どもは今言う零細企業のごく限られた数字をあげて、一・七%の人々のために日本のこの最低賃金によって恩恵をこうむりまする多数の人々、しかもそれはあなたも御指摘になっておりますように、また委員会であなたも御論議をなされてきましたように、かつて健康保険や厚生年金保険の論議の際にも、標準報酬がいかに低いか、これが今日社会保障制度を進めていく上にも大きな障害になっておる、こういう点について、他の場合においても論議されましたように、これは今日医療の最低の保障を受ける限界線を割っておるという他の事例も出てきております。また別にこの国会でこの間予算が通りましたニコヨン、すなわち日雇い労働者の問題は、すでに予算単価として三百二円が国会の承認を得てあなたの方の政府から出され、これはPWによって立証されてきておるものであります。これは二十一月としても六千三百四十二円に相当いたします。われわれは最低賃金の場合は、一カ月を働く日にちに直しますと二十五日をもって計算しておりますが二十五日とすれば七千五百五十円になる。一体今日六千円の最低賃金が高いと言われるが、それはあなたが御指摘になりました年少労働者の初任給について部分的な論議がある点についてはこの法律案でも考慮いたしまして、年令で格差をつけておる点は御了解が得られると思う。一番大事なことは、われわれが最低賃金を要求するのは、今日の場合では人道上の問題にまで波及しておるということです。それは賃金に表わされた労働に対する正当の評価などという段階にはきておらぬのです。賃金というものは言うまでもなく労務報酬でありますから、その提供された労務が一体七千円の価値か四千円の価値かということが私は賃金を決定する資本主義のものさしだと思う。そのものさし以下のものである場合におきましては例外だと国際法で言っておるのは、これはきわめて明確なことだと思うのであります。社会党はこの法案をただ単にあなたが御指摘なされたようなゼスチュアやあるいはデモンストレーションに出そうとは考えません。むしろ今日の段階においては、責任の衝にある自民党から、もしくは政府が提案すべきじゃないか。他の場合におきましては、政府も言っておられるように、現在の経済の状況というものは、あるものにおいては生産指数においては戦前の基準年度を上回るような日本経済の興隆を示しておるのであるから、こういう時期にこそ——基準年度に比較して非常に低い。そして生活どころではありませんよ。生活保護法以下の低い収入で、しかも労務が提供されて受ける賃金です。こういうものをほっておいていいという考え方はどこからも起ってこないのであって、もし私どものこの提案に対してあなたが疑いを持たれる上いな点があるならば、こいいい事実の問題についてわれわれが法案に盛り込んだ手続上あるいは立法技術上の問題等に対する御注意でありますれば、私どもはそういう注意を修正として受け入れるだけの余裕をもってお願いしておるのでありますから、どうぞうの点でぜひ御協力願いたいと思います。

大橋武夫自由民主党

○大橋(武)委員 ちょうど総理大臣が見えましたから、この問題は保留いたしまして次会また質問いたしたいと思います。     —————————————

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 次に引揚者給付金等支給法案を議題とし、審議を進めます。質疑を続行いたします。  なお総理大臣が御出席になっておられますが、出席されますのは都合により一時間程度だそうでありますので、以上お含みの上質疑されるようお願い申し上げます。栗原俊夫君。

栗原俊夫日本社会党

○栗原委員 引揚者給付金等支給法案はいよいよ最終の段階でもございますので、総理に二、三の点についてお尋ねいたしたいと思います。この法案は引揚者の方々が在外資産補償の要求の中から生まれてきた法案でございますが、でき上った法案の内容を見ますと、その第一条に「引揚者、その遺族及び引揚前に死亡した者の遺族には、この法律の定めるところにより給付金を支給する。」、こう規定してあるわけでありますが、この法案を通じて当初引揚者の要求した在外資産については何も関連がないという点から考えまして、今度の給付金はどういう意味で給付されよもとしておるのか、まずこの点を伺いたいと存じます。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 今回のこの給付金の措置は、在外財産審議会の答申に基いて政府が措置したものでございまして、在外財産に対する補償という意味ではなくして、外地において多年仕事をしておった人が内地に引き揚げてきて生活の基盤を失って、新しく再建するということのために多大の障害があり、いろいろな困難があるという事実を頭に置いて、政治的な措置、政策的な措置としてこの給付をして、これらの人々の生活の再建に資しようという考えでございます。

栗原俊夫日本社会党

○栗原委員 われわれにも引き揚げた方々が引き揚げによって多年海外で努力なされましたいろいろなものが無一物になったということはよくわかります。その方々が引き揚げてきて生活を再建するのに非常に苦労なさる、これに対する政治的な配慮からだというお話でございます。海外で無一物になって、そして再建に苦労をなさった、これはもちろん戦争のためである、こういうことでございますが、そういう考えの上に立つと、答申によってとは言われますけれども、内地にも自分の責任には何ら関係のない戦争によって生命を失っておる人もおる。家財一切を失った人もおる。それも数が少なければこれは例外措置としてやむを得ないかもしれないけれども、決して引揚者に負けない数が内地にもおる。こういう方々に対しては政府はどういう考え方をこの法案を出すと同時にお持ちになっておられるのでございましょうか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 広い意味における戦争犠牲者に対しては、従来いろいろな措置を講じてきていると思うのであります。たとえば戦傷病者であるとか、戦没者の遺族援護の問題であるとか、軍人恩給の問題であるとか、いろいろな点において従来も施策を講じて参っております。従ってこの引揚者が、先ほど申したような意味におきまして、非常に戦争の犠牲を受けて生活の再建にも困っておられるという事態に対処する意味において今回の措置をいたしているわけでありますが、これで一応はこの戦争犠牲者に対しましても措置ができていると見ていいのではないかと思います。もっともこれらの犠牲者の実情なりその措置の程度につきましては、いろいろな見地から議論がされ、またできるだけ政府としては公平に考えていくことは当然でございます。そういうつもりでやっておりますけれども、なおいろいろな点において今後においても十分に検討をいたしていかなければならぬ点もあるやに思っております。

栗原俊夫日本社会党

○栗原委員 総理のお答えは戦没者、軍人恩給、そういうことでいろいろ手が加えられているとおっしゃっておりますが、私がお尋ねしようというのはそういう方々ではなくて、内地においてそういう関係のない戦災によって家財道具を一切烏有に帰したとか、爆死したとか、こういう人たちです。もちろん海外から引き揚げたということは、在外資産は調査がむずかしいけれども、引き揚げたことは明確にわかる。こういうことで今回のこの法案はいろいろ政治的な配慮からこういうものが出たと思いますけれども、内地においては、戦争によって家財道具を焼いたとか、戦災によって命を失ったということは、海外とは違って明確に把握できると思います。こういう人たちに対してこれは少しく均衡を失する。これは何とかしてやらなければなるまいとわれわれは考えるわけですけれども、いま一度これに対する明確なお考えをお聞きしたいのであります。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 内地で戦災にあった人々に対しては、当博戦時災害補償法の規定によって、これらの災害者に対しては一応の補償というか、措置が講ぜられており、また火災保険につきましても、一時的の措置としてその当時措置が講ぜられております。これらはやはり戦争によるところの犠牲者に対する一連の措置の一環をなすものでありまして、内地に対してはそういうような方法で講ぜられている、かように考えております。

栗原俊夫日本社会党

○栗原委員 そうしますと内地における戦争犠牲者にはすでに十分手は施されている。最後のものが海外の引揚者であって、内地において戦災をこうむった人たちはこれで十分なんで今後は考えない、こういうようにお考えになっていると了解してよろしゅうございますか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 戦争についての犠牲につきましては、今申したようないろいろな措置によって、一応の措置は今回の引揚者のなにで終るものだと考えております。もちろん先ほど申し上げましたように、いろいろな点において公平を失しているとか、あるいは程度が適当でないというふうな議論もございますから、なお今後におきましてもそういう点については検討を要するもりがあるように考えております。

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 堂森君。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 前回の委員会で大蔵大臣は戦争中の戦争による犠牲に対する政府の対策は一応これで終りたいと思う、いわばこれで一応打ち切りたい、こういう気持を持っておる、こういう答弁をしておられるわけでありますが、総理大臣もやはりそのようにお考えでございましょうか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 大体私は先ほど栗原君の御質問に対してお答え申し上げたのでありますが、蔵相が申したように戦争犠牲者に対するいろいろな措置は一応これで終ったものである、従ってその方のことはこれで打ち切りたいというのが大体の方針であります。もっとも、先ほど申しておるようにいろいろな議論もございますので、全然もう打ち切って検討はしないというふうに固苦しくは考えておりませんけれども、措置としては一応これで終ったものと、かように考えております。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 総理は、総理であると同時に自民党の総裁であるわけであります。自民党の政調会では何でも軍人恩給と文官恩給のアンバランスを是正する問題、あるいはまた金鵄勲章の年金の復活の問題、あるいはまた土地改革による農地の問題、これは別に固執しているわけではありませんが、当時の法律で有償で分けられた土地であります。あるいはまた簡易保険とか郵便年金の戦時中あるいは戦前における積立金を現在の物価にスライドするような問題、あるいはまた占領軍が土地を買収したことに対する補償の問題、あるいは徴用工、報道班員、あるいはまた学徒動員というような問題を政調会で取り上げて、これを何か対策を講じていくんだというふうなことが言われているように新聞でも報道されておりますが、総裁としてはあなたの党の政調会にそういうふうな動きがある、こういうことに対していかようにお考えでございましょうか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 文官と軍人との恩給のアンバランスといいますかそれを是正しろとか、あるいはこの動員学徒の問題であるとかいうふうな問題に関しまして、いろいろ、今まで大体において終ったということ、打ち切るということを申しておりますけれども、検討を要するものがあるということは、いろいろな陳情なり国民の間にもそういう声がございますので、調査会を作ってそれらの問題を一括して一つ根本的に調査してみようという考えを自由民主党において持っているというように私は承知いたしております。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 ちょうど法制局長官もおられますのでお伺いしたいと思いますが、軍人恩給が復活いたします当時私も法律の審議に当った一人でありますが、軍人恩給の復活というのは既得権の復活ではなかったわけでありますか、どのようにお考えになりますか。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 あの当時の政府の考え方は、政府でどういうふうなお答えをしておったか私もはっきり、的確に覚えておりませんが、私どもの考えたことといたしましては、正確な意味の既得権の復活というふうには考えておらないわけでございます。しかし、ともかく旧軍人の恩給がポツダム政令によって停止された、その停止されたものが占領の終了とともにある意味においてもとに返る、そういう点においてそれを調整する必要がどうしてもある、そういう意味で、正確な意味の既得権の復活というふうには考えておらなかったが、ある意味でそういう既得の地位があるということは考えてあの法律ができたものと思っております。ただその既得の位置というのは、御承知のように昔のものはかりにあるとしても実に低い金額のものでありまして、それをあの当時の実情に合わせるという意味でいろいろな金額が考えられた、かように考えております。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 自民党の政調会で調査をされる一つの項目として金鶏勲章の年金の復活ということがいわれておるようでありますがいかがでありましょう。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 私は全然そういうことは聞いておりません。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 総理大臣、いかがでありましょう。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 私も全然そういうことは聞いておりません。

堂森芳夫日本社会党

○堂森委員 いろいろお聞きしたいと思いますが、この前大蔵大臣はもう戦争犠牲者に対する補償といいますかそういうものはこれで打ち切りたいと思う、こういう答弁をしておられましたが、総理大臣もそのような答弁をしておられます。いずれにいたしましても、しかしそういってもいろいろな問題については、これを考えていく上においてはやぶさかではない、こういう御意見のようでございますが、そんなように了承してようございしますか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 先ほども申し上げました通り、戦争犠牲者の措置についてはこれで一応終ったものだと考えて措置したい、大蔵大臣が打ち切りたいと申したのはそういう意味だと思います。ただ、恩給等に関して不均衡な点であるとか何とかいう問題において検討すべきものは私はあると思うのです。それは新しく措置するとか新しく制度を作るとか何とかいう問題じゃありませんが、そういう不均衡を是正するとかいうような問題については今後も検討をする必要があるだろう、こういうことを申したわけであります。

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 滝井義高君。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 今の総理の御答弁で戦争犠牲者に対するいろいろの補償の問題はこれで一応打ち切りたい、そして過去の戦争犠牲者に対してとったいろいろの施策の不均衡の是正というようなものについては国は考慮していくのだ、こういう御説明があったわけであります。先般大蔵大臣もそういう御答弁でございました。そこで私は総理にお尋ねをいたしたいのは、戦争犠牲者に対する救済はまだいろいろ残っておるだろうと思います。これはもうここで何回も読み上げたのですが、たとえば動員学徒とか、今言った金鵄勲章の問題とか、まだいろいろあるのです。そういう戦争犠牲者の今後の救済に対する内閣の基本的な方針は、一体どういう方向でやっていくのか、凹凸の是正ということは、それがもうすでに行われたものの凹凸の是正をしていくということはわかる。しかしなお残っている、たとえば地主の問題なんか残っているわけでありますが、そういうものはやらない。しかしそこに土地を取られたために、農地の解放を受けたために非常に困っておる地主階層というものはあるわけなんです。これはやはり戦争犠牲者としては恩典を受けていないですね。従ってそういう自余の犠牲者に対する救済の何か基本的な国の方針というものがなくちゃならないのですが、そういう基本方針を政府としてはどういう方向で今後進あていくのか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 今まで与えておるいろいろな措置の間の不均衡であるとか不平等というものを直すという問題、それからたとえば今の動員学徒の問題が一つの問題になっておりますが、これもやはり私は、新しい制度という意味よりも、これに対する関係が同じような、大体似ているような立場と、非常に不均衡であるというような意味で、ある程度検討を要するものがあるのじゃないかと思います。しかしいずれにしても、そういう新しい制度として非常に大きな措置をするものについては、一応もうこれで打ち切って、そうしてあとは今言ったように、すでに与えておるものの間における不均衡を是正することはある程度やらなければなりませんし、あるいは同じ制度でたまたま同じような立場にあるのが漏れておるというものも、やはりある程度の均衡をとる意味においてそれを加えるというような、要するに広義の意味におけるでこぼこをならすということは検討して参りたい、かように思っております。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 広義の意味におけるでこぼこを直すということになると、これは非常に問題が出てくると思うのです。たとえば参考のためにこの前何回も言ったから、もう一回言っておきたいのですが、今動員学徒、徴用工、報道班員などの援護措置というのがあるわけです。それから軍人恩給と文官恩給の不均衡、これは不均衡の是正という問題に入ると思う。それから金鵄勲章年金の復活という要求が出ていますね。それから農地の補償がやはり出ていますね。それから郵便年金、簡易保険の戦前に積んだ掛金を現在の物価に調整するということが出ていますね。それから占領軍の土地買収に対する補償というのが出ていますね。それから戦時中の沈没船舶の補償ということが出ていますね。こういうようにいろいろある。こういうものも広義の不均衡の是正ということになると、非常に問題になってくると思う。私たちは、こういうものはむしろ今後補償というものはこれで打ち切りだ、過去に行なったもののいろいろの不均衡というものは是正をします、しかし将来は一切あげて社会保障なら社会保障でやるんだという基本的な何か方針がないと、今総理の言われるように広義の不均衡是正ということになると、われもわれもと実は出てくることになると思うのです。そこらあたりもう少し明白にしておく必要があると思います。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 ちょっと私の答弁が、広義と言ったために非常に誤解を生じたかと思いますが、非常に狭い意味で、かりに言うと、すでに与えておる文官と軍人との間の恩給が不均衡だから、これを是正するだけだというふうに解釈をされるかもしれませんが、私は十分検討してみなければわかりま出せんけれども、動員学徒であるとか、一徴用工であるとか、報道班員というものが漏れておるのはちょっと不均衡——これはすでに与えておるものの額の不均衡といtことでなしに、いろいろ検討してみる必要があるのではないかと思います。しかし一般の原則としては、私は今滝井君の言われるように、大体これで政府としては打ち切って、あと非常に戦争犠牲によってその人が生活の不安を来たしておるとか、社会的な不安をかもしておるという問題については、社会保障制度の性格を持ったもので処置していくというのは、根本的な方針としては私も全然同感でございます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 一つぜひ方針を変えないように、そういう方針でわれわれ社会党としても行ってもらいたいと思います。  そこでいま一つ、今度は今総理の言われた狭義の意味の不均衡是正という点で、引揚者給付金等支給法案と非常に関連のある問題は、旧蘭領束インド等からのいわゆる引揚者ですね。そのほかに同じようなものがマレーとかシンガポール、それから南洋群島委任統治領から引き揚げた者、こういうものが近似のものとしてあるわけなんです。これは総理、外務大臣として当然やはり十分御存じになっておらなければならぬものなんです。きょう実はそういう点よく調べてくるように秘書の方にお願いしておいたのですが、当時南洋群島あたりから引き揚げたのは、閣議で昭和十九年四月十四日に南洋群島戦時非常措置要綱というものがあって、老幼婦女子は急速に引き揚げを実施するということを決定しており、そしてやらしておるわけです。そういう者の取扱いは今度のこの法案には含まれていないんです。ところがこういう方々は戦争前のものなんですね。開戦前のものなんです。そういう点で時期が、今度の法律というものは終戦を境にして、あるいはソビエトの参戦だけは終戦というよりかちょっと前になりますが、今問題にしておるこういう蘭領インドや南洋群島の委任統治領から引き揚げた者というのは戦争前のものも含まれております。ところがこれは非常に似通ったケースになっておる。こういうものはおそらく在外財産問題審議会では正式に取り上げられて論議はされていないようでございます。しかし法律が出ると同時に非常に一つの問題となって出てきていると思うんです。こういうものを一体内閣としてはどうするかということなんです。これは私は個人的に見ると、一つの線は引きにくいと思う。たとえば終戦の日、八月十五日というような線をなかなか引きにくいのです。引きにくいけれども、これは国家の至上命令によって引き揚げてきた者であるということについては変りはない。そういたしますと、内閣としては、これらの者については何らかの、きわめて狭義の意味のやはり不均衡正正ということに入る感じがしてくる、これを一体どうするのか。これはこのまま放置していると、あとでまた陳情運動が起ってきて、厄介な問題になる。これが一つの契機になって、今社会保障で行くと言ったものに火が移っていく可能性があると思う。こういう点一つ総理の慎重な御答弁をお願いしたいと思います。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 今度の措置については、はっきりしているように、終戦後引き揚げた者で、終戦前の者を含んでおりません。従いまして今おあげになったような者については、この救済措置が行かないことになっておるわけであります。これに対してはいろいろ陳情のありますことも私ども承知をいたしております。こういう何かの措置を講じます場合に、どこで線を引くかという問題は、ちょうど山のふもとをどこからふもとと言うかというふうな点がありまして、ちょうど境に来ている者の扱いについていろいろな議論があとから出てくるのであります。従いましてこの問題に関しては、政府としてどうするという結論をはっきりまだ持っておりませんが、事情を十分調べて、慎重にこの問題を取り扱わないと、今滝井君のお話のように、あまり簡単に結論を出すと、いろいろ及ぶところ、また非常に他の問題にも波及するおそれがありますので、一つ慎重に検討いたしまして持置をきめたい、こう思っております。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 私もこの問題が一つの契機になって波及することを実はおそれるわけでございますが、といってこの法案を通すに当って、これらの者を全部ここで捨ててしまうというわけにはいかないと思うんです。そこでこれは、でき得べくんば与党の発議でこれらの者を、法案を修正して入れてもらえば一番いいと思う。ところが今総理の仰せられるように、なかなか研究が十分行っていないような御答弁のようにも思うのです。もし研究が行っておれば、たとえば、その数その他明確にある線を引いて把握ができればこの機会に入れてもらう方が、他のいろいろな問題に波及しないで非常にいいだろうと思うのです。そこらの判断が現実に一番問題だと思うのですが、どういたしますか。ここ一日、二日で研究をして、入れるようにするかそれとも一応将来の問題として残すか——将来の問題として残すということになると、これは尾を引く可能性がある。今の段階できめるがいいか、それとも先に延ばしてあとから入れて他のものに影響を及ぼすがいいか、総理としてあるいは外務大臣としてきめなければならぬ時がきていると思うのです。そこにおられる事務当局の意見を聞かれてけっこうですから、一つ御答弁を願いたいと思うのです。人数はおそらくそら多くはないと思いますが……。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 いろいろ終戦前の問題をなにしますと、御承知の通り、日本が大東亜戦争に入る前にすでにシナ事変が始まっており、その関係でシナから引き揚げてきたものだとかいろいろな点で最初の基準をきめる問題もありましょうし、なかなか線が引きにくい。また終戦後の政府とは違って、とにかく当時の政府は健全な状況にあったわけです。終戦後の、政治的な国内の事情が非常に混乱しており、また政府も薄弱な時代に引き揚げてきて非常に生活上困ったという人々と、戦争中もしくは戦争前に引き揚げてきた人々とは、社会事情も違うし、当時の政府の措置につきましても、具体的なことはよくわかりませんけれども、だいぶん事情が違っておると思うのです。従ってこの際はこの法律のようなところにはっきり線を引いて措置するのが適当であり、お話のような方々で非常に生活上困っておるとかなんとか問題がありとすれば、これはむしろ社会保障制度の範囲で扱っていくことの方が適当であると考えます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 今、事務当局ともいろいろ相談していただく時間的な余裕をお与えして御答弁いただいたのですが、そうしますと、これらの旧蘭領東インドネシア、マレーシア、シンガポール南洋群島からの引揚者については、政府はもら今後特別な措置はしない、社会保障的なものでやっていくんだ、こういうことに今の御答弁ではなるのですか。その数がどれくらいあるかわかっておれば一つ田邊援護局長の方から御答弁願いたいと思うのですが、現実に明白にそういうようになってきて、国会その他にも強力な陳情をしておるものを残すということになると、これが一つの導火線になる要素を持っておるということなんです。そうしますと、非常に厄介な問題を残して、何かうしろがみを引かれる思いでこの給付金法案を通す格好になる可能性が十分にあるということなんですが、この点、政府は数をどのくらいに見ておるのか、もし数が少なければ英断を下すことも必要だと思います。

田邊繁雄厚生事務官(引揚援護局長)

○田邊政府委員 大束亜戦争の開始直前にインドネシア、旧蘭印地区でありますが、そこから引き揚げたのは五千七百名であります。それから大東亜戦争の末期に内面洋から引き揚げたのが、十八年十二月から十九年九月まででありますが、一万六千名を越しております。マレー、シンガポールから帰ったのが約千名。これは陳情で、その他ビルマ地区、中南支沿岸都市から相当多数帰っているようであります。また大東亜戦争開始後交換船で帰ってきた邦人を加えますと相当多数に上っております。今数生的にはっきりしているのは先ほど申し上げた通りであります。その他の数につきましては、私の方に資料がまだない状態であります。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 今の数字から見ると割合はっきりしたところで二万そこそこ、交換船からビルマ、中南米まで入れてもおそらく五万前後ではないかと思われるのです。そうしますと、平均がどのくらいになるか知りませんが、二万円にしても千億、五百億のうちへ十億の割り込みということはそう不可能ではないと思います。この法案が出ても、正確にずっと把握していくと、五百億のうちから十億くらいの金は出てくるのではないか。そうすると、あとに問題を残さないために、この法案が参議院を通るまでに何らかの形で五万円ならば救うことが必要ではないかと思うのです。これは閣議決定をして、婦女子なんかの強制引き揚げを命じ、船も持っていっている。今日ある程度預金の払い戻し等やっておりますが、長年つちかっておった自分の郷土的な住居を捨てて帰ってきたことは事実なんです。五万円くらいならばあとに残すよりか、この法案が衆議院を通るにはまだ二、三日あり、いずれ修正案その他話し合わなければなりませんから、この際お考えをいただく方が、総理の戦争責任を解除するためにもいいじゃないかという感じがするのです。(笑声)これは総理の腹一つです。外務大臣としても、当時外務省で引き揚げの命令その他を実地にやった非常に詳しい役人もいらっしゃるので、そういう点をお聞きになって、この際総理として英断を下して、厚生大臣と御相談の上やられる方がいいんじゃないかという感じがするのですが、その点どうでしょうか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 数字その他の点は今一応わかっているものもありますし、まだ不明確な点もございます。また事情等についてもなお検討してみる必要があると思いますので、今直ちにこれに含めて解決するという結論を出すことは早いと思いますが、関係の役人や厚生大臣とも一つよく相談して検討してみたいと思います。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 これが衆議院を通るまでにはもう二、三日余裕がございますから、それまでに厚生大臣なり事務当局と十分御相談の上、社会労働委員会までお返事をいただきたいと思います。  次にお尋ねいたしたい点は、私がちょっとものの本で読んだところによりますと、アメリカの上院で、昨年の六月であったかと思いますが、ダークセン法案というものが可決されておるようでございます。その目的は、日独両国人から没収した財産を処分して、その処分権の十分の一程度を日本に返還をするということがいわれておるわけです。こういう関係は、外務省としてはどういう御理解をされておるのか。これは私はぜひ総理に御答弁を願いたいということを秘書を通じてお願いしておったのですが、総理がわからなければ外務省の関係政府委員の方でもけっこうだと思いますが、そういう点どういう工合に御理解なさっておるか。幸いに近く渡米をされることでもありますし、そういう点があれば今後やはり具体的に把握をする必要もあろうかと思うので、総理の御理解になっておる点を一つ御説明願いたいと思います。

千葉皓外務事務官(欧米局長)

○千葉(皓)政府委員 ダークセン法案等につきまして、お答え申し上げます。ただいまお話しのアメリカの上院において審議中でありますところのダークセン法案は、戦争中にアメリカにおいて敵産管理に付せられました日本及びドイツ人の財産につきまして、これを旧所有者に、それが法人であると、個人である場合とを問わず、全面的に返還しようという法案でございます。御存じのように、わが国は、講和条約によりまして、アメリカにあります私有財産に対する請求権を放棄いたしておるわけでありますが、アメリカにおきましては、私有財産尊重の原則から、そういう講和条約の規定などにかかわらず、やはり私有財産に属するものは返還すべきではないかという議論が出まして、そういう趣旨の法案が幾多出ておるわけであります。ただいま申しましたダークセン法案のほかに、たとえばジョンストン法案というものもございます。これもやはり全面返還を企図しておるのであります。さらにヤング法案というのがございまして、法人を除きまして、個人に対してのみ、個人の財産を全級返還すべきであるこいう法案がございます。さらに、アメリカの政府当局が考えている案といたしまして、個人に限りまして、その残置財産のらち一万ドルまでを返そうというふうな案もございます。しかし、これにつきまして、詳細アメリカの国会における討議の経過を私どもといたしまして注目しておるわけでございますが、いろいろ議論が出ておりまして、まだ今のところこの問題についてどういう結論が出るか、見通しがつかない状態でございます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 ダークセン法案、ジョンストン法案、ヤング法案、それから政府当局の案をいろいろ御説明をいただきましたが、何か私の読んだところでは、昨年の六月には上院でグークセン法案が可決されたということを読んだのですが、そういうことがあるのかないのか。  それから、今政府案を含めて四つばかりの案を御説明いただきましたが、その中で一番可能性のある、案はダークセン法案ではないかと思うのですが、外務当局はどういう把握をされておりますか。

千葉皓外務事務官(欧米局長)

○千葉(皓)政府委員 お答え申し上げます。アメリカの国会における審議につきましては、ダークセン法案につきまして当該の委員会の決議は確かあったようでございますが、上院におきましても、下院におきましても、その院の院議としてきまったということは、まだないようでございます。先ほどもちょっと申し上げましたけれども、これには、ことにドイツ関係におきましては、数億ドルにわたるドイツの大きな財閥系の資産が抑留されておる関係もございまして、全面的に返還すべしという議論と、それからあるいは個人だけ返したらいいじゃないかという議論、さらに個人のうちでも一万ドルを限度として返すことを可とする議論、いろいろ議論が分れておりまして、私どもといたしましては、結局どうなるだろうかということについてはちょっと推測いたしかねる状態でございます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 第二問は、今四つばかりの案の中で、どれが一番有力かということなんですが。

千葉皓外務事務官(欧米局長)

○千葉(皓)政府委員 どれが有力かということはちょっと推測いたしかねるのでございますが、最後に申しました、個人に対して一万ドルを限度とする案というのは、米国政府当局が支持しております案で、比較的可能性が大ではないかと思っております。しかしながら、これが通れば全面返還案が通る見込みがなくなるということで、これに対する反対も非常に強いと聞いております。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 今の千葉さんからいろいろ御説明があったことを、総理もお聞きの通りでございますが、今回アメリカに行かれることになるのですが、いろいろ日米間の基本的な外交上の問題をお話しになる、そのときに、私はやはり日本が自由主義陣営に入って日米間の基本的な問題を解決をしていこうということになれば、当然対米債務というようなものも問題になってくるだろうと思います。これはやはり日本がアメリカに借金している、その借金を返す問題ばかりでなくて、アメリカの国内にある日本の企業の財産なり国の財産なり、個人の財産の返還を、アメリカ政府に要請をして、アメリカ政府みずからが立法をする方向に持っていくことも、これは岸さんに今度アメリカに行ったときの一つの大きなみやげになるのじゃないかと思うのです。そういう点で、特に私は、このダークセン法案その他いろいろジョンストン法案とかヤング法案、あるいは政府提案の法案とかありますが、これらのものをこの際総理にお願いをして、これはやはりやってくることがいいのじゃないかということを考えたので、特にきょうはおいでを願って質問をしているわけなんですが、総理、どうお考えになりますか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 これは御承知のように平和条約においては、日本は条約上は一応放棄しておる。それをアメリカがアメリカの国内法として、それに対するこの条約と違った措置についていろいろ考慮しておる、こういう問題であろうと思うのです。従いまして、滝井君言われるような御趣旨として、われわれがアメリカで放棄したところのものを、アメリカが国内法で日本に返すということがきめられることは、これは非常にけっこうなことだと思います。しかしただほかの問題と違って、今申したように、平和条約ですでにこっちが一応放棄している問題でありますから、私自身は、また外務省当局としても、これに対して十分な関心を持ってそれの成り行きというものは見ておりますが、滝井君の指摘されたように、私の方から直接にこの問題に対して口出しするとか、あるいは関与するということは適当でないと思います。ただしかし、そうは言っても非公式の問題やいろいろなものがありますから、十分そのことを心得て参りたい、こう思っております。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 岸さんあるいは御存じないかと思いますが、実は在外財産の個人の分が千三百三十六億、企業の分が三千二百五十一億、計四千五百八十七億というものが——これは厚生当局がわれわれに説明をしてくれた額なんですが、そのほかに国の財産というものがあるのです。国の財産というものはわからないというのです。当時占領軍の発表したのによると七千二百億くらいあったのじゃないかと思う。この数字と少し違うのですが、私は一応厚生省のものを基礎にするけれども、一体この中でアメリカにある在外財産は幾らあったのか、それを御存じありませんか。

千葉皓外務事務官(欧米局長)

○千葉(皓)政府委員 米貨にいたしまして約六千万ドル、そのうち個人に属する分は約四分の一、法人に属する分が四分の三である、そういうふうに承知いたしております。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 六千万ドルというと今の日本にとっては相当な額になるのですが、これは憲法二十九条との関係がここに出てくると思います。なるほど吉田さんがサンフランシスコの講和条約に行って、日本の在外財産は賠償には充てないといって放棄をしてきた。ところがアメリカの国内は、私有財産はやはり重んじなければいけないのだという立場をとって、今日本に一部かあるいは全部を返そうということで、少くともアメリカの上院なり下院なりで具体的な法案となってそういう世論が起っておるのです。こたは私は見落してはならぬと思う。一方日本においては、明らかに私有財産であるその在外財産は、日本の総理大臣が行って放棄したにもかかわらず、日本の引揚者には在外財産の補償はしないのだ。今度二万八千円とか七千円とかいってやる納付金は無性格のものだとさいぜん総理はおっしゃったということですが、見舞金とか手切れ金か何かわからぬけれども、大した性格のないものだという形なのです。そうしますと、放棄したといっても、アメリカの国内ではこれはやはり補償しましょう、返しましょう——返すということと補償ということとちょっと違いますが、とにかく返してくれるという世論が起っておる。日本の国内は、それは放棄したのだから、要りませんとは言わないけれども、今岸総理が、おれの方は非公式のところでは言うが積極的にくれとは言おないのだと言われた。そうなると、アメリカの国内でせっかく言ってくれている言葉と日本の政府のものの考え方が食い違ってくる。これは食い違わせる必要はないと思う。憲法二十九条には、「財産権は、これは侵してはならない。財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める。私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」ということを書いてあるわけです。そうしますと、アメリカの国内でも私有財産は尊重する、日本の財産は今度は返してやるのだという世論が出ているのに、われわれの方が放棄してそれに何も言わぬというのはおかしいと思うのです。その間日本の憲法のこの規定の考え方をやはり貫いていくことがこの際必要ではないかと思うのですが、そういう点どういうお考えですか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 先ほども申し上げました通り、アメリカがアメリカの国内法の措置として当時の私有財産に対して日本に返すということをきめて日本に返すならば、それは歓迎すべきことであり、けっこうなことだと私は思います。ただ私の申したことは、条約上、われわれの方で放棄して向うが自由に処分できる、それに対しては一切文句を言わないという建前になっておるものですから——今滝井君はそれがアメリカの世論であり、アメリカでもってそういう何になっているのだというふうに論断されておりますけれども、とにかくそういう法律がどちらの院も通過したというところはまだはっきりしておらないのでありまして、そういう際に正面からこの問題を持ち出して話し合うということは適当でないだろう、こういうことを申しておるわけであります。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 岸総理のさいぜんからの御説明にもありましたように、当時吉田総理は在外財産は賠償に充てない、請求権を放棄したのだ、こういうことになっておりますが、一体国が放棄をした私有財産に対しては憲法二十九条の建前からいえば何か見てやらなければならぬ、何らかの形でやはり補償しなければならぬ。ところが今度のこれは財産の補償ではないのだ、こういうことなのです。そうしますとその関係は総理は一体どうお考えになっているのか。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 私は政府なり国が補償義務があるかどうかという法律的の問題としては、法律的な義務はない。今憲法の規定の解釈でありますが、これは法制局長官からお答えすると思いますけれども、それが適用されて補償の義務があるという解釈にはならないように思っているわけであります。従って今日の引揚者のこの給付金も、そういう意味における法律的の補償義務に基く補償ではないということを申しているわけであります。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 今のは憲法上の問題でございますので私からお答えいたしますが、これは従来平和条約がてきまして以後、政府といたしましては、これが憲法二十九条三項の問題にたるかならぬかということにつきましては、大体一貫して二十九条一項の問題ではあるまい、かようにお答えしてきているわけでございます。と申しますのは、結局これは平和条約の規定から申しましても、要するに連合国側が自国の中にある日本の財産、こういうものを勝手に処分する、清算するという規定でございます。日本側としては、政府としてこれに対して文句を言わない、いわゆる在外国民に対する外交的保護権を行使しない、こういうことを約束したものと考えております。日本政府がみずから手を下して国民の財産を取り上げたというものではない、そういう意味におきまして、憲法二十九条三項には当らない、こういうことを言っているわけであります。この点につきましては、御承知のように在外財産問題審議会においてもいろいろ検討がございまして、結局あの答申を見ましても、法律的に補償義務ありやいなやについては両論があって、意見の一致を見なかったということになっております。そういうことになっているわけでございます。今度の法案もそういう法律的の補償義務ということを前提にしないで、生活の基盤を失ったということについて非常にお気の毒である、こういうところから給付金を出そう、そういう政策的見地に立って納付金ということになった、かように考えているわけでございます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 この法律の給付金を出す立場はわかります。私の言っているのは、一応この法律を離れて、今あなたのおっしゃったように、日本の国は在外財産の請求権を放棄した、従ってその場合に憲法二十九条の三項には当らないと思うが、在外財産問題審議会は両論があったということなんですね。この両論があったということは、この法案とは別に、意見が対立をして、どちらも確率は五〇%ずつだということです。そういう両論のあるときに、一方的にあなたが在外財産の補償というものはやらないのだという断定を下すことは早計だと思います。従ってそれはあくまでも同じペンディングの問題である言うらならば所はわかる。しかし二十九条の三項からこの断定というものは出てこないと私は思う。出てこないからこそ在外財産問題審議会に両論があった。これはあなたの言われるようにびしっと出てくれば、審議会も出てきているはずでず。出てこないからこういう締付金という補償であるような補償でないような形でお茶を濁さなければならぬということになっていると思います。従ってこれはもう少しそこらあたりを明白にしておく必要があるのではないかと思います。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 従来の政府の考え方あるいは法制局の考え方については、先ほど申し上げました通りに、私どもといたしましては憲法二十九条三項に基く補償の義務はないという考え方をとっておるわけであります。その根拠は先ほど御説明いたした通りであります。ただ在外財産問題審議会において両論があったことは事実でございまして、答申にもはっきりそういうことが出ておるわけであります。これは両論あったことはもちろん間違いのない事実でございますけれども、私どもと申しますか、政府といたしましての法律的見解をお尋ねいただけば、ただいま申したように法律的義務はない、かようにお答えすべきだろうと考えております。そういうところをいろいろ考えてこの法案になったのだ、かように考えておるわけでございます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 多分昭和二十六年の十一月の平和条約の批准の臨時国会だったと記憶いたしますが、当時の法務総裁大橋さんは、在外財産は日本の憲法の施行地域外で請求権の放棄が行われたのだから、従ってこれは憲法違反じゃないのだといっているのです。当時の大橋さんはさいぜんまでおったのですが、そうおっしゃっておる。あなたの今の見解とちょっと違うんですね。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 私も記憶いたしておりますけれども、当時の大橋法務総裁は私のただいま申し上げました趣旨を根底としてお答えになっておったはずでございます。そのいろいろの議論のところで、憲法の施行地外ということも確かに言ってはおります。それは先ほど来私が申しましたように日本人のたとえばアメリカならアメリカにあります財産は、実は日本の法律の適用を受けるものではございません。これはアメリカ法に基いて成立している財産でございまして、これをどうするかということは実はアメリカの国内法の問題でございます。アメリカの憲法上それができるかできないかという問題だと思うわけでありまして、アメリカとしてはたとえば条約上日本がこれに対していわゆる外交的保護権と申しますか、そういうことを放棄したということを、一つの考え方のもとにして、あるいはそれ以前からでありますが、日本人の財産を実は没収したわけでございます。これはアメリカの純然たる国内法の問題で、これに対して普通なら国際的にも私有財産というものは尊重せらるべきものでございますから、日本政府といたしましては在外国民に対してのそういう不当な取扱いは困るという抗議すべき立場にあるのでございますが、それを敗戦という事実に基きましてあの条約でそういうプロテクトをするというようないわゆる在外国民保護権というものを放棄したというのが、平和条約第十四条の建前であろう、私たちはそういうふうに考えております。そういう法律構成から申せば、日本の憲法で日本の国内にある財産を没収したという問題ではない、従って純粋な法律的な考え方から言えば憲法二十九条三項には当らない、こういうふうに私たちは考え、ておるわけであります。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 当時の平和条約締結のときの状態を見ると、イタリアの平和条約には割譲地域の私有財産に対してはイタリアの政府が補償することになっているわけです。初めのダレス案には明らかに割譲地域の私有財産で、領土割譲によって損害を受けたのは日本政府が補償するということがあったらしいですね。それは当時新聞にもそういうことが書かれたことがあるのです。そういう経緯から考えまして私が問題にしたいのは、それじゃこういう場合は総理はどういう処置を今度おとりになることになるのでしょうか。講和条約のない地域はまだ在外財産があるわけですね。その講和条約を日本が締結していない国が、お前の方の在外財産は全部おれの方の国の賠償に充てよう、こうなった場合にその地域の在外財産は国が補償するかどうかということです。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 今おあげになったような事例の法律的の構成を考えてみますると、向うにある財産を向うの国が一つの賠償に充てるという処分をするわけですが、平和条約に基いてやるという場合においては平和条約のさっきからの解釈になるでしょうし、平和条約なしに勝手にそういうことをやる、そしてそういう取りきめをするということになっても、やはり平和条約に調印をした場合と同じように考えて、日本の政府に直接に補償義務が生ずると解釈すべき根拠はないように私は考えます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 それは向うが勝手に充てるということならばこれは没収で、何も今までのものと大して違いはたいわけです。ところが日本と話し合いの上でお前の方の財産というものがおれの方には二十億円ばかりある。だからそれを一つ賠償に充てましょう。日本も当然向うが充ててくれるというのを、賠償に充てる必要はない。お前の方は没収しておきなさい。私の方は二十億別に払いましょうというはずはないのです。向うが二十億賠償に充ててくれるということになれば、当然ぜひ賠償に充てて下さいということになる、これは当然の常識ですよ。その場合に二十億の会社なり個人なりの財産というのは一体どうなるのかということなんです。これは国が補償することになりはしないか、こういうことなんです。それとも今言ったような理論で、政府では充てるといっても補償はいたしませんということになるのかどうか、ちょっとそこのところを……。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 その点は今と同じことじゃないですか。平和条約でもってその国にあるところの日本の私有財産の処分をその国にまかせる、それを没収するなり、その他のものに使うなり一切その国にまかせる、その場合にわが方は文句を言いません。それがちょうどサンフランシスコ条約のきめ方なんですが、そういう条約に日本が同意した場合においても、さっきから言っているように日本政府に補償の義務はない、こう解釈しているのですが、その解釈について議論のあることは私もあると思います。あると思いますけれども、政府はそういう解釈をとってきているわけです。それと同じことになりはしないですか。そういうふうに没収するのでなしに賠償に充てるということも、その処分に対してその国がいろいろ処分する一つの処分の方法であって、それに対して日本側から文句を言わないという場合には、法律的に解釈すれば同じことになるのじゃないかと思います。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 私はそれは少しは違ってくると思う。というのは、たとえばAという国から日本に対して二十億円の賠償の要求があったといたします。そうして向うから二十億の賠償を要求するが、そのうち十億円だけは君の国の企業なり個人の在外財産というものが自分の国にある、だからこれを一つ充てましょう。あと残りの十億だけは役務なり現金なりその他でやっていただきましょう。こういうことに向うが要求してくれば何も二十億くれというものを、日本の方からいやいや十億というのはあなたの方がとったのだから別に私の方は十億出しましょうということは言う必要はないですよ。だから一つ十億を賠償に充ててくれ、あとの十億は役務なりあるいはそのほかの現金なりあるいは貿易等の物資で提供いたしましょう、こういうことがはっきり締結されれば、これは賠償に充てた十億というものは、今総理のいうようにアメリカあたりで没収されたものとは違う、向うは没収とは言っていない。今度は正当に賠償の形で充てますぞといっている。だからそうなると、その在外財産というものは賠償に充てられたものについては、当然国が補償しなければならないのではないか、こういうことなんです。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 今おっしゃったようなことになりますと、賠償を十億なら十億ときめて、その範囲である財産をピック・アップしてとるというような関係が非常に密接になって参りますと、平和条約の場合と多少事情が違うことはおっしゃる通りであります。しかしそれだからといって、直ちにこれが日本の憲法の二十九条三項、あの規定にすぐ当るかとおっしゃられればやはりこれは形式的には当らないんじゃないか、私はこういうふうに思うわけであります。ただ国内の政策的措置として、賠償のかわりにとられたのだから非常に気の毒だから何とかしなければならぬという問題はあると思いますけれども、法律的に憲法二十九条三項に当るかとおっしゃれば、私は形式的には当らないのじゃないか、もちろんこれはいろいろ議論は立つと思いますけれども、私から申せばそういうふうに言うべきものでないかと思うわけであります。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 そうしますと、結論的に申しますと、今後講和条約の行われていない地域においても、在外財産というものについては一切政府は補償しないのだと、こういう建前に、今のような議論を展開していけばなります。そうしますと、日本の国内法におきましては、在外財産を補償するような法律上の根拠というものは何もないのですか。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 国内法において今あるかとおっしゃれば、私はないのではないかと思うのであります。在外財産というのはあくまでその国の法律に基いて成立する実は財産権で、その国でその国の憲法上あるいは国内法上無償で取るということができるかできないかという問題が実は第一に考えられると思う。ただ国際的にも私有財産尊重の原則はあると思いますから、平時であればそういう場合には当然政府としては厳重な抗議をして、それに対する賠償を政府が国民にかわって取るというような努力をすべきものだと、普通にはこう思うわけであります。しかしその場合でも、その努力をしたけれども取れなかったというような場合に、直ちに政府に憲法二十九条三項の補償義務が出てくるかとおっしゃれば、これは私は直ちには出てこないと思う。ただ政府の努力が足りないというところに、国内的に何とかめんどうを見てやらなければならないという道義的と申しますか、もう少し広い意味の責任は、これはあると思います。直ちにこれが憲法二十九条三項に形式的に当るのだとおっしゃれば、私は当らないのじゃないか、かように考えるわけであります。もう少し広い意味の道義的といいますか、社会的、政策的の責任というものは、私はそういう場合にはあり得るのだと思いますけれども……。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 これは大へんなことで、道義的、政策的な責任以外にはないということになると、今後やはり日本の海外活動をやる場合に、これは在外財産というものは非常に不安定な状態にさらされるという、こういう格好になってくるのですね。こういう点はよくわかって参りました。今後これはわれわれも研究さしていただきます。あなた方もやはりこれを法の盲点として研究する必要のあるものでないかと思うのです。  次に、最後ですが、今度この引揚者給付金等の支給法で大体五百億の交付公債が出ることになりました。一体こういう五百億というまとまった金が三百万をこえる引揚者の皆さんに零細な金として、七千円から二万八千円までに細分されて引揚者の皆さんあるいはその遺族の方に渡ることになるのですが、こういう大風のときに灰をまくような形で金をまくということが果していいかどうかということなんです。もら金をやることがきまったことについては異議はありません。しかしそのやり方です。この金をただそういう工合にやりっぱなすのがいいのか、そこに何らかの形で政府が引揚者の団体等と十分相計らって、この五百億の金を引揚者の皆さんなり遺族の皆さん方がむだに使わないようにいわゆる高利貸のえじきになったり、あるいは証券ブローカーのえじきになったりしないように、何らかの形で御指導を引揚者団体等の援助によってやる意思があるのかどうか。この給付金の法案が通ってお金をぱっと皆さんにやれば、それで一切の政府の責任は終ったということになるのかどうか、そういう点どういう工合に政府は、この法案を通したあとのその金の行方について、運命について考えているのか、これは非常に大事なところです。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 これは、いわゆる在外財産の補償問題審議会を作って、その答申によって今回の措置をしたわけでありますが、その際も今滝井君のお話のような議論、数が多いから全体に分けると比較的零細な金になる、そういう方法でなしに、何かまとめて、引揚者団体のために何かの施設をした方がいいのじゃないかというような議論もあったように聞いておるのであります。しかし政府としてはいろいろの点を考究して、これがさっきから申し上げているように、引揚者の諸君の単純な賠償、補償という意味ではなしに、むしろこれらの人々が生活の根拠を失い、日本において生活の再建をするというための給付金として渡す以上は、やはり各個人といいますか、引揚者に渡ることがいいのだ、そうしてこれを利用する道としては、国民金融公庫を利用しまして、これがほんとうに当該引揚者の生活再建のために役立つように使われるようには十分考慮していく、こういう立場をとったわけであります。

林修三法制局長官

○林(修)政府委員 さっきの滝井先生の御質問に対して補足してお答えいたしたいと思います。先ほど外国にある財産権が非常に不安じゃないかということでございましたが、たとえば平時においては輸出保険法というようなものもあります。あるいは為替リスクの保障をするような法律も現在できております。それからまたある国と内国民待遇、最恵国待遇というようなことを条約上取りつけておけば、そういう不安もだんだん解消されるわけです。しかし戦争になりますといろいろ問題がございますが、そういう場合に備えて国内立法で、たとえば保険制度でやるか、あるいはその他の保障措置でやるか、それは国内措置として考えるべき点があると思いますので、ちょっと補足しておきます。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 これで終ります。そういう点で一つ考えてもらいたいということです。それから今の総理の御答弁は、結局零細な七千円とか最高で二万八千円ですが、これは個人にやるということは、法律ではっきりしているのです。私は引揚者団体というものが全国的に作られていて、いろいろな調査に協力している。従ってまあそういう団体があるとすれば、何かそういう団体を活用しながら——その個人に金をずっとやってしまうということは、法律の建前であるから、当然そうでなくてはならぬ、しかし一人々々の手に渡ったその零細な金を何か政府の指導でもっと引揚者が有効に立ち上るような、たとえばこの前池田大蔵大臣は資本団体というようなものを作るという動きもあるんだというような御説明もあったのであります。そういう動きがあるとすれば、内閣として何かここに——五百億の金なんですからその五分の一がまとまっても相当なものです。そういう引揚者の大きな団体もあるし、五百億という金もあるのですから、一人一人に渡すということは建前であるが、何かそこに政府が創意工夫をやるならば、もっと有効に、たとい一人一人に渡すにしても、渡った金が有効に使えるのではないか、そういう何か具体策でも、政府はこの法案の通ったあとの対策を考えたことがあるかどうかということなんです。

岸信介自由民主党内閣総理大臣・外務大臣

○岸国務大臣 御趣旨の点は、非常にごもっともな点があると思うのです。今までのなにから申しますと、まだ具体的にそういう動きも、はっきりしたものもまだございませんし、またこれもよほどしっかりしたなにをしないと、せっかく国からそういう金をもらって、うまくいかぬために非常な迷惑をするというようなことも、これはいかぬことでありますから……。しかしとりあえず今申し上げたように国民金融公庫のワクを広げて、これらのために特別措置を講じて、それが有効に使われるようなことは、一応考えております。しかしさらにもう少し、今お話の通り、あるほんとうにまとまった、大きな有効な事業をやろうとか、こういう方向でなにしようということが具体化してくるようなことであれば、政府としてはそれが正しく、またそれらの加入する人々の利益になるように、これはやはり政府としても十分考えて指導しなければならぬと思います。

滝井義高日本社会党

○滝井委員 ぜひそうお願いいたします。それではこれで終ります。ありがとうございました。

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 ほかに質疑はありませんか。——質疑もないようでありますので、本案についての質疑は終了したものと認めるに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

野澤清人自由民主党

○野澤委員長代理 御異議なしと認め、そのように決しました。  次会は明十一日午前十時理事会、十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後四時四十一分散会

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