本会議 第4号
- 発言数
- 27 件
- 登壇者
- 8 名
- 会派数
- 2
- 開催日
- 1956/01/30
会議録
○議長(益谷秀次君) これより会議を開きます。 ————◇—————
○議長(益谷秀次君) 内閣総理大臣から施政方針に関し、外務大臣から外交に関し、大蔵大臣から財政に関し、高碕国務大臣から経済に関し発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣鳩山一郎君。 〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕
○国務大臣(鳩山一郎君) 第二十四回国会に当りまして本日、昭和三十一年度予算案を提出いたしまして、政府の所信を述べる機会を得ましたことは、私のまことに光栄と存ずるところでございます。 昨年の秋に、自由民主党の結成と社会党の統一とによりまして二大政党の対立が実現を見ましたことは、わが国憲政史上画期的な意義を持つものであります。この機会に、両党は、政党責任政治のあり方を国会運営の上に誤まりなく映し出しまして、相ともに国会の品位を高めることに努力いたさなければならないと考えております。二大政党対立の実現と民主政治確立のために身をもって尽されました緒方竹虎君を突如として失いましたことは、国家のためまことに痛恨のきわみでございます。(拍手) さて、平和外交の推進は、第一次鳩山内閣以来、一貫してとつてきた不動の方針でありますが、政府は一そう強力にその方針を推し進めて参りたいと決意しております。 申すまでもなく、わが国外交の基調が、自由主義陣営の一員として、米国を初め、その他の民主主義諸国との協調にあることは当然でありまして、政府は、今後、これら諸国との提携を一段と緊密にして参るつもりでありますが、ソ連に対しましては、必要な重要案件を解決して、平和条約を締結いたし、すみやかに国交を正常化するとの既定方針に従って引き続き誠意をもって交渉を進める所存であります。 さらに、アジア諸国との関係につきましては、貿易伸張に必要な経済外交の建前からも、一段と協力親善の度合いを密にする必要があると痛感をしております。従って、まず懸案の賠償問題、なかんずくフィリピンとの賠償問題の早期妥結に最善を尽すとともに、その他の東南アジア諸国との国交樹立や、中共に対する貿易関係の改善にも力を注ぎたいと思うのであります。 日ソの交渉と関連いたしまして、特に一言いたしたいことは、共産主義国家と国交の正常化をはかることと、国際共産主義の宣伝方策に対処することとは、おのずから別個の問題であるということでございます。政府は、国内的には、あくまでも反共主義の立場を堅持いたしまして、国民を共産主義思想の浸透から防いで自由と民主主義を守るために、厳正な方策を講じて参る決意でございます。(拍手)さらに、治安維持に関しましては、関係機関の連絡を密にいたしまして、遺憾なきを期する所存であります。 以上のような外交方針とも関連をして、わが国が国力と国情に相応した自衛力を整備いたしまして、みずからの手でみずからの国を守り得る態勢を整えて、米駐留軍の撤退に備えることが必要なことは申すまでもないことであります。政府は、明年度においても、自衛隊の人員や装備について所要の増強を行うとともに、防衛に関する施策に遺憾なきを期するために、すみやかに国防会議の構成などを定めまして、これを発足させたいと考えております。 次に、わが国が真の自主独立を達成するためには占領中に制定されました各種の法令や制度を、わが国情に即したものに改める必要があることは、しばしば申し述べた通りであります。私はさきの国会で、憲法改正と行政機構の改革を施政の目標として掲げましたが、この二つの目標こそ、心から日本の独立をこいねがう為政者としては、終戦十年の今日、何よりも先に考えなければならない当然の責任であると信じて疑いません。(拍手)特に、国の大本を定める憲法については、その内容とともに、これを制定するときの経緯と形式が非常に大きな意義を持つものであります。日本国民が、みずからの手によってみずからの憲法を作り上げる準備を進めるために、まず内閣に憲法調査会を設ける手続をとつて、慎重に検討を開始すべきであると考えております。 また、行政機構についても、実情に適合しない制度や組織は、この際根本的に改革をいたしまして、国民に便宜を与えるものに作りかえる必要があります。政府は、昨年の末行政審議会を強化して、広く各方面の公正な意見をとり入れつつ、根本的な改革案を検討しておりますが、成案を得次第、できるだけ早い機会に所要の法案を提出いたしたい所存でございます。 次に、わが国の経済状況を見ますると、昭和三十年度の国際収支は、輸出貿易の飛躍的な増加によりまして、きわめて好調を示し、さらに農産物の空前の豊作も手助けとなりまして、産業活動は活発となり、国民経済は安定した基礎のもとに拡大発展の方向をたどりつつあることは喜びにたえません。政府は、今回、このような経済事情にかんがみまして、経済自立五ヵ年計画を決定したのでありますが、その五ヵ年計画の初年度に当る昭和三十一年度においては、引き続き、経済正常化の方向を一そう促進しつつ、生産地盤の強化と輸出の振興、雇用の増大等に施策の重点を置きまして、計画目標達成のための基礎を確立することに努めたいと考えております。三十一年度予算案に盛り込んだこれら重要政策の詳細につきましては、関係閣僚から説明することになっておりますので、私は、そのおもなるもの二、三について簡単に申し述べることにいたします。 その第一は、産業基盤の強化と輸出貿易の振興についてであります。 わが国経済発展の基礎がこの二つにかかっていることは申すまでもございません。そのため、政府は、あらゆる産業の近代化と合理化を一そう推進いたしまして、さらに労使の協力体制を確立することなどによって、生産性の向上をはかり、産業基盤を強化することに力を尽す考えであります。また、経済外交の推進と相待ちまして、国際通商の改善や海外市場の開拓、輸出品価格の安定などによって、貿易の振興に特段の力を注がなければならないと考えております。 その第二は、民生の安定と失業対策についてであります。 国民生活の安定は、自主独立の完成のために欠くことのできないものとして、われわれが第一次内閣以来掲げている重要政策の一つでありまして、そのため、政府は、特に今まで、社会保障の拡充強化と住宅の建設、減税の三つに力点を置いて参りました。そのうち、社会保障の中心課題とも申すべきものは、疾病に対する医療保障の確立にあると思われますので、将来、全国民を包含する総合的な医療保障を達成することを目標として、計画を進めていくつもりでございます。また、住宅につきましては、既定方針通り、十ヵ年で住宅難を解決するという目標のもとに、三十一年度は、質の向上にも重点を置いて、四十三万戸を建設する予定であります。さらに、従来不均衡の感を免れなかった国民の税負担につきましては、三十一年度は、さしあたり特に勤労所得税の軽減に重点を置きましたが、さきに三大目標の一つとして表明いたしました中央、地方を通ずる税制の根本的改正は、三十二年度からこれを実施することとし、早急にその検討を開始する所存でございます。 現下の失業問題は、政府の最も重視しているところであります。この根本的解決は、結局、経済の拡大発展による雇用の増大に待たねばならないところでありまして、経済五カ年計画において、その実現に努めることにしておりますが、当面の対策としては、特別失業対策事業と、道路の新設整備や各種の国土開発などによる公共事業の総合的運用によりまして、極力失業者の吸収をはかる計画であります。 重要政策の第三は、新農村の建設と、中小企業の振興でございます。 まず農林漁業対策としては、特に青年の自主的活動を中心として、適地適産を目標とした土地条件の整備、経営の多角化、技術の改良などに力を注ぎまして、村全体として安定した経営と生活を確立し得る新農山漁村の建設を助けることにしております。中小企業につきましては、極力その組織化をはかりまして、設備の近代化や技術の向上などを促進する一方、中小企業金融を円滑にいたしまして、資金を確保することに意を用いる所存でございます。 その第四は、文教の刷新と、科学技術の振興についてであります。 自主独立の達成も、正しい民主政治の確立も、その基はすべて国民の燃え上る祖国愛と良知良能にあることは言うことを待ちません。その意味で、教育こそ、一切に通ずる大本であります。そこで、政府は、教育制度を根本的に検討するために調査機関を設けまして、文教の刷新をはかりたいと考えております。さらに、科学技術の振興を目ざして、各種試験研究体制の整備に努めまして、特に原子力の平和的利用については、強力にその推進をはかる考えであります。 次に、地方財政については、政府は、地方団体の過去の赤字を解消するため、必要な措置を講じて参りましたが、今後は、さらに、機構の簡素化、補助金制度の改革、公債費の合理化、自主財源の充実などによって地方財政の健全化をはかりまして、赤字の発生を見ないための根本的な対策を立てる所存でございます。 最後に、政府は、二大政党対立の新事態に即応いたしまして、政局の安定と政界の刷新をはかるため、選挙制度を根本的に改正したいと考えております。その内容につきましては、近く行われる選挙制度調査会の答申ともにらみ合せまして、政府としての態度を決定したいと思っております。以上、ここに所信の一端を述べましたが、私は、国民の総意をできるだけ施策の上に反映いたさせ、民主政治にふさわしい明朗な政治を行なって参りたいと念願しております。国会を通じて、国民各位の御理解と御協力とを心から切望いたす次第でございます。(拍手)
○議長(益谷秀次君) 外務大臣重光葵君。 〔国務大臣重光葵君登壇〕
○国務大臣(重光葵君) 第二十四回通常国会の開会に当りまして、最近の国際情勢の動向とわが外交の諸問題とについていささか所見を申し述べますことは、私の最も光栄とするところであります。(拍手) 昨年十月ゼネバに開かれた外務大臣会議が事実上ソ連側と西欧側との間に物別れとなりまして以来、両者の緊張は不幸にして緩和されない形勢であります。 欧州においては、安全保障の機構もドイツ統一の構想もすべてたな上げのまま、形勢は行き詰まりの状態でありますが、欧州以外の地域においては、ソ連の新たなる積極政策によって、形勢は著しく動いて参りました。すでに御承知の通り、ソ連は、エジプトに対して、武器供与の手段によってまずアラビア諸国の民族主義思想に投じ、さらに、首脳部は、インド、ビルマ、アフガン等いわゆる中立主義の諸国を歴訪して、また経済援助を提供して、西欧勢力の駆逐をはかつておるありさまであります。 かかる情勢のもとに、米国大統領は年頭教書をもってソ連に対抗する確固たる決意を表明し、英国首相もまた、これに呼応して、強く警告を発しておるのであります。米国議会に提出された新予算は、重工業中心のソ連の第六回五ヵ年計画に対するものであつて、ともに、軍備、なかんずく原子兵器に力を入れていることが注目されます。ここにおいて、せつかくゼネバ首脳者会談によって原水爆による戦争は不可能であるという印象を与えて世界の神経を沈静せしめた効果は減殺されんとしておることは、まことに遺憾と思うところであります。 以上のごとき形勢に対し、緊張の緩和を希望する声は世界の識者の間に高くなるものと観察せられるので、関係国の平和に対する努力は結局実を結ぶこととは思われますが、かかる深刻なる情勢はわが国内外諸般の問題に対し直接複雑なる影響を与えるものでありますから、その推移に対しては特別の注意を払うの必要のあることはいうまでもありません。しかして、これに対処するためには、わが国の置かれたる国際的地位を十分に自覚し、いやしくも国家の進路について誤解を与え、信を友邦に失い、または他国の侮りを受けるがごときことなきを期せねばなりません。自由民主の日本の建設は自由民主諸国との協力によってのみなし遂げ得るのであつて、政府が、自主独立の外交を進めるに当うて、あえて米国との緊密なる協力をもって国策の基調といたしているゆえんのものは全くこのためであるのであります。(拍手) 米国とは、国防についてのみならず、全面的に協力関係にあるのであります。この協力関係に、わが国が独立の完成をなすためにも、国際的地位を高めていくためにも基礎的の重要事でありますから、よく相互の間に理解を深くし、密接なる連絡のもとに必要なる措置を講ずるの要があるのであります。私が政府を代表して昨年八月渡米して基本問題について米国政府との間に了解を遂げたのもこのためであるのであります。 防衛問題はもとより日本自身の問題であり、日本において自衛上必要なる国防を備えることは、独立国家として当然のことであります。しかしながら、現代における国防は、単に武力のみをもって論ずるわけには参りません。国防を全うするためには、総合国力の向上をはかることが不可欠の要件であるとともに、国防は他国との連係においてのみこれを考うることができるのであります。 米国とは日本は安全保障条約及びこれに基く行政協定によって共同防衛の関係にあるのであつて、御承知の通り、日本が防衛力を漸増するに従って防衛分担金の支払いも減少することに相なっているのでありまして、今回、来年度の防衛費に関連して、防衛分担金軽減はもちろん、その将来の漸減方式についても両国政府の間に合意が成立し、来年度分担金は大幅に減少されるようになつた次第でございます。 国力の伸張に伴い、わが国の国際的地位は次第に向上しつつあるのでありまして、これがためには、アジアの新興諸国との親善に特に重きを置き、手近なところから実際的に施策を進めていく必要があると思うのであります。アジア、アフリカにおける民族主義の実現は第二次世界戦争の最も貴重なる所産でありまして、その国際上の重要性は近来とみに比重を増しつつあり、現に国際連合においても二十三ヵ国のアジア、アフリカ国を算するに至っておるありさまであります。わが国といたしましては、これら諸国の発展を衷心よりこいねがうものでありまして、あるいはこれら諸国と親善友好の条約を結び、あるいは経済的に文化的に互いに協力して、もって平和外交を遂行することを方針としておるのであります。 そのため、政府としては、わが国のコロンボ・プラン参加等を通じて、同地域に対する経済協力の体制を整えつつあるのでありますが、わが国の資本と技術とを活用して、アジア諸国の経済開発に貢献し、その生活水準の向上に協力することは、わが国の使命として、きわめて重要なものと考うるのでございます。他面、わが国は、いまだフィリピン、インドネシア等有力な諸国との間に賠償問題の解決を見ていないがために、国交の樹立に至らず、従って、これら諸国との経済関係を発展せしめる上に多大の支障を来たしておる状態でありますので、政府としては、この戦争の跡始末とも申すべき賠償問題の解決を一そう促進する所存であります。フィリピンとの間の交渉は今日なお鋭意続けられておるのでありますが、遠からず妥結を見ることを期待している次第でございます。 韓国との国交が今日なお調整せられていないことは、東亜の全局より見ても遺憾しごくでありますから、わが国としては、すみやかに懸案を解決し国交調整の目的を達せんことを企図しているのでありまして、これがためには、サンフランシスコ条約の立案者である米国の公正なるあっせんをも期待している次第でございます。緊急に処理を要するものは抑留漁夫の帰還問題でありますが、いまだにその解決を見ず、関係者に対して真に同情にたえないのであります。この問題は、韓国側より大村収容所にある韓国人の釈放が引きかえに要求されているので、これに対しても、わが方は、実際的調整案を提出し、すみやかに妥結するよう努力しておる次第であります。 国民政府を承認しているわが国が同時に中共を中国政府として承認し得ざるは言うを待たざるところでありますが、中共政権の現存する事実にかんがみ、国際義務に反せざる範囲内において中共地区との貿易の増加をはかる政府の方針は、これまでと変りはありません。なお、東亜の大局に重大なる関心を持つわが国といたしましては、台湾海峡の紛争がすみやかに国際的に取り上げられて、話し合いによって何らかの平和的解決方法が見出されるよう希望してやまぬものでございます。 日ソ交渉は、去る一月十七日に四ヵ月ぶりで再開されたのであります。政府としては、既定の方針を堅持して、この交渉を続行するものでありまして、双方の主張が漸次調整せられ、すみやかに交渉の成立せんことをこいねがうものであります。平和条約締結の方法によって国交の正常化をはかることについては、交渉再開後においても双方の間に意見の一致を見ており、また、相手国の国際的立場についてはこれを問題とせざることについても了解が遂げられているのであつて、この基礎の上に平和条約の内容をなすべき諸問題について、現在故障なく折衝が続けられておる次第であります。重要問題は領土問題であります。わが方は、御承知の通り、歴史的に日本固有の領土である地域の返還を要求しているのであつて、自余の地域の帰属は、サンフランシスコ平和条約の関係もあつて、国際的に審議決定すべきものと主張しておる次第であります。なお、抑留者の引き揚げについては、人道上の見地より一日もすみやかにこれを解決すべきものであるという従来の主張を繰り返して、その実現に努力しておる次第であります。(拍手) 最近のわが国の貿易が著しい好調を示しておりますことは、わが国にとつての重要市場であるドル地域との貿易が目ざましい伸張を示していること、また、対スターリング地域の貿易も客年の日英貿易取りきめによってますます増加していることが大きな原因であると思うのでありますが、この貿易好調の趨勢を助長するため、今後も引き続き経済外交を極力推進せんとするものでありまして、これがためには、各国と個別的に貿易協定等必要なる交渉を行うはもちろん、広く国際的に経済交流を盛んならしむるよう努力する方針であります。 他面、わが国の対外経済発展を安定した基礎の上に置くためには、でき得るだけ多くの国と通商航海条約を締結することが必要であります。現在わが国は十数ヵ国との間にこの種条約を締結しておりますが、本年はさらに多くの国々と通商航海条約を締結するよう一段の努力をなす考えであります。また、国際経済上の諸問題を国際機関を通じて解決していく一般的傾向にかんがみ、わが国もまた広く国際機構との協力を進めていく方針であります。 右のほか、長期的にわが国の貿易の着実な伸張をはかるためには、経済を一そう合理化して商品の国際的競争力を高め、また、公正なる取引慣行を尊重し、貿易に対するわが国際信用を大ならしめることが肝要であることは申すまでもありません。さらに、国際的大勢にも対応して貿易の自由化に努力することが肝要と思うのであります。 海外移住の問題は、経済外交の一端としてもきわめて重要であります。移住はもとより移住国の希望に従って行われなければならぬのでありますが、わが移住者は年々歓迎される傾向にありまして、これら移住者がその国々の繁栄に少からず貢献しておることは、われわれの喜びにたえなところであります。 さて、終戦後十年にして世界の情勢は大なる変化を見ておりますが、さらに今後の十年はおそらく人類の平和か破滅かの決せられる時期であるとさえいわれております。私は、人類は破壊よりも建設の道を選ぶことを信ずるものであつて、この信念の上に、われわれは、自由民主日本の建設に全力を尽し、世界の平和と安定とに寄与せんとするものであります。国際情勢を大観するに、今日はわが国が力強き建設の道を進むため国民の総力をささぐべき時期であると言っても過言ではないと信ずる次第であります。 いささか所信を加えて、私の外交演説を終ることといたします。(拍手)
○議長(益谷秀次君) 大蔵大臣一萬田尚登君。 〔国務大臣一萬田尚登君登壇〕
○国務大臣(一萬田尚登君) ここに、昭和三十一年度予算を提出するに当りまして、わが国が当面する内外の経済情勢と、これに対処いたしまする財政、金融政策の基本方針を明らかにいたし、国民各位の御協力を得たいと存じます。 最近におきまするわが国経済の推移を見ますと、いわゆる経済。正常化が進み、安定した基調のもとに経済の拡大、発展が行われつつあります。 すなわち、昭和三十年度は、前年度に比べ、輸出は二八%、鉱工業生産は一〇%、国民所得は九%と、それぞれ大幅な増加を示すものと見られるのでありまして、これは世界にもまれな記録といわなければなりません。また、国際収支は昨年中に五億ドルに近い黒字を示し、外貨保有高は昨年末現在十三億ドルを突破いたしました。かくて、わが国経済は、漸次、特需依存の状態を改めまして、自立達成に近づきつつあるのであります。しかも、この間におきまして、物価はほとんど横ばいの状態で推移して参りましたために、国民の通貨価値に対する信頼はますます高まり、預貯金の増加につれて、金融面の正常化が進み、金利は大幅に低下して参りました。また、憂慮されました雇用問題につきましても、その最悪の状態を脱しまして、好転のきざしがうかがわれるのであります。今や、われわれが、かねて強調しておりましたインフレなき経済の拡大が実現しつつあると言っても、決して誤まりではありません。(拍手) それでは、このような経済の拡大がどうして生じたかと申しますと、それは、農産物の空前の豊作もありましたが、世界景気の好転がわが国の輸出を増大させたことが大きな原因と言えましょう。しかし、その前提といたしまして忘れてならないことは、この世界的な好景気を受け入れるだけのわが国の経済態勢が、両三年来の経済健全化政策の実施によって準備されていたということであります。(拍手)経済健全化政策の実施と世界景気の好転とが時を同じくしたことは、わが国にとつてまことに幸いであったと申さねばなりません。 かようにして、わが国の経済再建は今や新しい段階に入つたのであります。今後は、この経済の基調をできるだけ堅実に発展させながら、真に底力のある日本経済を築き上げるための努力をいたさねばなりません。その場合、特に注意を要しますことは、貿易を主といたしまする日本経済の構造から見まして、海外経済の動向がどうなるかということが大切であるのであります。 ここ一両年、米国及び西欧諸国を初め、多くの国々では、経済が繁栄をいたし、工業生産は顕著な上昇を示し、経済交流の活況によりまして、世界貿易は全体として空前の大きさに達しました。このような海外諸国の好況は、にわかに後退するとは思えません。しかし、他面、各国とも、好景気に伴うインフレの高進を避け、国際収支の均衡を得るため、昨年来、中央銀行公定歩合の引き上げ等によって信用を抑制し、景気調整のための努力を払いつつあります事実は看過できないのであります。 このような景気調整の政策がわが国輸出の前途に影響いたしますかどうかは、今軽々に判断できませんが、この点について警戒的な見方をする向きも少くありません。加えて、これら諸国は、すでにわが国に先んじて経済力を充実し、生産性の向上に努めておりますので、これがその効果を発揮しますと、わが国としても、国際市場を舞台に激しい輸出競争にさらされることは避けがたいのであります。また、地域的な経済圏の存在を考えますと、世界経済の活況が続いたといたしましても、それがそのまま、わが国貿易の拡大をもたらすものとも限らないのであります。このような情勢にかんがみまして、わが国としては、常に世界経済の動向に即応し得るよう、国内経済態勢を整え、産業の国際競争力を強化していくことが何より必要と存ずるのであります。(拍手) 以上申し述べました内外の経済情勢にかんがみまして、今後の経済運営の基本方針といたしまして、あくまで現在の健全化政策の基調を堅持すべきであると信ずるものであります。かくて、通貨価値を安定させ、インフレを避けながら、経済の拡大、発展をはかることが、どうしても必要であるのであります。健全財政策では、経済が縮小均衡に陥りやすいとよくいわれるのでありまするが、さきに述べました昨年以来のわが国経済の現実の推移はこの種の見解の誤まりであることを実証しているのであります。むしろ、逆に、財政金融をより健全化し、通貨の安定を確保することこそ、インフレなき経済の拡大を実現する基礎であることが明らかになつたと思うのであります。私は安易な拡大均衡論には賛成いたしかねるのであります。財政運営の基本方針は、何よりも財政の健全性を堅持することに置かるべきであると存じます。 昭和三十一年度予算は、この趣旨にのつとりまして、収支均衡の原則を貫徹いたしまして、財政面からするインフレ要因を厳に排除することを目途として編成をいたしました。このため、一般会計予算の総ワクを租税その他の通常収入によってまかない得る限度内にとどめ、その範囲内において重点的に緊急施策の推進をはかったのであります。 もとより、国の重要施策がすべてこの予算のワク内で十分に遂行されるとは申しがたいでありましょう。一部には公債等の発行によっても財源を調達し、積極的に各種経費の増額をはかるべきであるという声もないわけではありません。しかし、私は、いまだその時期にあらずと考えるものであります。 戦後の異常な時期におきましては、経済の再建、復興のために、財政が直接に大きな力となってきたことは、これは当然であります。しかしながら、今日、経済全般が漸次正常化の方向に進み、民間の資本蓄積も充実しつつある段階におきましては、漫然と財政規模を膨張せしむることは、国民負担の増加を招き、あるいはインフレを引き起して、かえつて経済の発展を阻害するおそれが多いのであります。経済の自立、発展は、財政、金融を含め、総合的な経済施策の運用によって初めて達成し得るもりであることを、ここに強調いたしたいのであります。 以上申し述べました財政運営の基本方針に即応する金融政策のあり方といたしましては、私は、現在進みつつある金融正常化をさらに推進し、金融が健全にして自主的な機能を十分に発揮するよういたしたい考えでおります。 御承知のように、近時、通貨価値の安定により、金融機関の預貯金はきわめて順調な増加を続け、金融機関の日本銀行に対する依存傾向は、ほとんど解消を見るに至りました。しかし、この資金の需給関係の緩和と金利の低下は、特に短期資金において著しいのであります。従って、今後の金融施策といたしましては、これらの短期資金の長期市場への流入を促進し、長期金利の引き下げをはかることが肝要であります。このため、社債等の発行条件を改訂するとともに、その取引を円滑になるようにいたし、社債市場を再開することが必要であると思うのであります。かくして、長短期資金を通じて金利の平準化が達成され、漸次、金利体系が確立されるでありましょう。政府といたしましては、さらに一段と預貯金の増強をはかりまして、資金需給の緩和によって、この平準化された金利の低下を一そう促進して参りたいと思います。 このような金利の低下は、企業経営の合理化、安定化に寄与いたしますとともに、健全な投資の伸張を通じまして、経済の拡大発展の要因となるものと思うのであります。企業におきましても、このような情勢に即応いたしまして、社内留保を充実し、増資を積極化する等、資本構成の是正に一段と努力をいたされることを望むものであります。 次に、市中銀行が日本銀行依存の状態を脱しました今日におきましては、中央銀行の通貨調節機能について、新たな角度から検討を加える必要があると考えます。このため、日本銀行による証券の売買市場操作が、より一そう適切に行われ得るようにいたしますとともに、支払い準備制度の創設につきましても慎重に検討いたしたい所存であります。また、金融機関のあり方につきましては、各種金融機関の性質に即しまして業務分野の調整をはかる等、金融制度全体について検討を進めたいと存じます。これとともに、金融機関は、金利低下の情勢に対処いたしまして、経費の節減、配当等社外流出の抑制をはかつて、内部留保を増加し、その経営の合理化に一そう力を尽されたいのであります。なお、金融機関がさらにその経営の基礎を強化いたすため自主的に合同するなどのことも、望ましい方向であると考えております。 次に、財政金融総合一体化の原則のもとに、財政資金と民間資金を通じて、経済の発展のため真に緊要な方面に資金が投下されるよういたしたいと考えております。このためには、金融機関の自主的かつ積極的な協力を期待するものでありますが、さらに、資金の運用に関し、国の施策がより円滑に反映いたしますよう、適当な方途を講ずる考えであります。 中小企業金融につきましては、金融全体の正常化に伴い、漸次改善される傾向にありますが、信用保険、信用保証制度の活用と相待ちまして、民間金融機関がさらに積極的にこの方面に力をいたすことを期待するものであります。政府といたしましても、その重要性にかんがみまして、昭和三十一年度予算において、政府金融機関の資金を充実する等、中小企業金融については格段の意を用いた次第であります。 次に、為替及び貿易面の施策につきましては、正常輸出の増進に格段の努力を払うことはもとよりでありますが、国内経済の正常化に対応し、貿易為替制度の正常化、自由化を推進いたしたいと考えております。すなわち、外貨予算の編成運用に当つては、輸入の自由化を推進するよう配慮を加えますとともに、関税の引き下げを通じて貿易の拡大に一歩を進めたい考えであります。また、すでに双務協定の整理、商社の外貨保有の実施等を行なって参りましたが、今後、銀行、商社等について、その機能の強化、活動の自由化及び自主責任体制の確立に資するだめ、為替管理制度及びその運用の改善について、具体的な検討を加えて参りたいと存じます。 以上のごとき施策は、対外的にも相互互恵の原則の上に立ちまして輸出の促進、貿易の規模の拡大をはかるという公理にもかなうわけでありまして、これは国際通貨基金及びガツトの目ざすところとも合致すると思うのであります。 以上、今後の経済運営の基本方針につきまして、政府の考え方を明らかにいたしました。 昭和三十一年度予算は、この趣旨にのっとって、財政の健全性を主眼として編成いたしました。同時に、さきに策定されました経済自立五カ年計画ともにらみ合せ、財源の許す限り、政府の重要施策の遂行に遺憾のないよう努力いたしたのであります。 一般会計予算の総額は一兆三百四十九億円でありまして、前年度に比べ四百三十五億円の増加となっておりまするが、国民所得の増加等を勘案いたしますれば、この程度の予算規模は適当であると考えるものであります。また、財政投融資は、二千五百九十二億円と、前年度に比べまして若干の減少になっておりまするが、別途民間資金の活用と相待ちまして、必要な資金を重点的に確保することができると考えております。 次に、政府が特に重点を置きました重要施策につきまして、その概要を申し述べたいと思います。 貿易の振興及び産業基盤の強化につきましては、輸出入銀行の資金を増額いたしますほか、海外市場の開拓、経済外交の推進等に必要な措置を講じました。さらに、民間資金の活用と相待ちまして、電源開発、基幹産業の合理化、新規産業の育成、北海道の開発等に努めることといたしております。 次に、民生安定のための経費といたしましては、まず、社会保障関係費の充実をはかりますため、百二十二億円を増額いたし、一千百三十四億円を計上いたしました。特に、失業対策につきましては、前年度に比べまして約三万人を増加して約二十五万人の失業者を吸収することといたしております。 また、住宅対策としましては、引き続き、これを強化、向上して参ることにいたしました。すなわち、民間の自力建設を含め、約四十三万戸の建設を目途といたしまして、公営住宅、住宅金融公庫及び日本住宅公団を合せまして五百十二億の資金を予定し、前年度に比しますれば、四十五億円の増加となっております。 さらに、新農村の建設を促進するため所要の予算措置を講じ、農林漁業金融公庫の融資と相待ちまして、農山漁村の振興に必要な総合対策を強力に推進することといたしました。また、農業改良基金制度を設け、農民の宿主的営農改善を助長することといたしております。 中小企業対策につきましては、国民、中小両公庫の貸付資金を合計約百億円増額いたしますとともに、商工組合中央金庫の貸付利率の引き下げをはかる考えであります。また、設備の近代化、経営の合理化等を促進するため、所要の経費を計上いたしました。 次に、文教及び科学技術の振興につきましては、まず、義務教育費国庫負担金を増額いたしましたほか、講座研究費の増額等、国立学校運営費の充実をはかったのであります。特に、原子力の平和的利用の研究を初め、国際地球観測年、南極探検の事業等のための経費を計上し、科学技術の振興には大いに意を用いたのであります。 次に、国土の開発、保全につきましては、公共事業の重点化、効率化をはかることといたしまとて、特に道路の整備に重点を置き、道路事業費を大幅に増額いたしますとともに、新たに日本道路公団を設立し、有料道路の整備を促進する考えであります。 次に、自衛体制の整備でありますが、国力に応じて漸次自衛力を増強するという基本方針にのつとりまして、防衛庁費として所要の金額を計上いたしますとともに、米国政府と交渉の結果、防衛分担金を前年度に比べて八十億円減額する等の措置を講じ、総額一千四百七億円の防衛関係費を計上いたしております。 地方財政につきましては、その根本的な立て直しを行うことは多年の懸案でありますが、昭和三十一年度におきましては、この際あとう限りの改善のための施策を講ずることといたしました。すなわち、地方団体の自主的再建努力と相応じまして、特にこの際地方行政機構の簡素合理化に努めますとともに、国の補助金等については、地方負担軽減の見地から、補助率の引き上げ等極力その合理化をはかるほか、自主財源の強化について所要の措置を実施する方針であります。 以上の対策を講じますとともに、地方交付税につきましては、その税率を三%引き上げて二五%といたし、前年度に比し二百五十四億円を増額計上いたしたのであります。 最後に、歳入に関連いたしまして、税制の改正について若干申し上げます。過去数回にわたりまする減税にもかかわらず、国民の租税負担はなお過重であります。さらに負担の軽減をはかることが望ましいことは申すまでもありません。しかしながら、他方、財政支出に対しまする需要は年々増加を続けてきている現状でありまして、この同者の要請を満足に調整することは、はなはだしく困難な実情にあるのであります。政府は、国民負担の合理化をはかりまするため、臨時税制調査会を設け、税制の根本的改革について目下慎重に検討中でありまするが、さしあたり、昭和三十一年度予算におきまして勤労者の所得税負担を軽減いたしますため、給与所得控除の引き上げによりまして、初年度約百五十億円に達する減税を実施する予定であります。これによりますれば、夫婦子供三人の標準家族におきまして、月額二万五百五十六円までの所得は課税されないこととなるのであります。なお、その財源を調達するために間接税の一部の増徴、退職給与引当金制度の改正等、税制に若干の調整を加えることといたしております。以上、財政、金融を通ずる基本的な政策及び昭和三十一年度予算について私の所信を申し述べた次第であります。生産及び貿易規模の拡大を通じて経済の正常な発展を実現していくことは、さきに策定を見ました経済自立五ヵ年計画もその趣旨を同じくするところでありまして、この目標を実現することに最善の努力を尽したいと考えております。(拍手)もとより、その道は決して容易なものではありませんが、私は、国民諸君とともに、日本経済の将来に明るい自信と希望を持ちまして、堅実な前進を続けて参りたいと存ずるのであります。国民各位におかれましても、政府の意のあるところを了とせられまして、一そうの御協力を賜わりますよう、切にお願いする次第であります。(拍手)
○議長(益谷秀次君) 国務大臣高碕達之助君。 〔国務大臣高碕達之助君登壇〕
○国務大臣(高碕達之助君) 政府は、昨年一月、経済自立の達成と雇用機会の増大をはかるため、総合経済六ヵ年計画を策定し、この構想に基いて昭和三十年度の経済計画を立て、その実現のため各種施策を実行して参つたのでありますが、最近におけるわが国経済は、産業、貿易等、経済各分野にわたって目ざましい発展を遂げつつありますことは御承知の通りであります。 ここに、昭和三十年度も終末に近い現在において、この一ヵ年を回顧し、わが国経済の発展と政府が最初立てた目標とを比較検討して、今後の経済施策の参考といたしたいと存じます。 昭和三十年度の経済が計画を大幅に上回る発展を見ましたのは、主として輸出の伸張に負うものであります。すなわち、輸出は、世界的な景気の好調によって予想以上に伸びまして、十六億五千万ドルと予定していましたが、二十億五千万ドルと、約二四%上回ることになる見込みであります。かかる輸出の増大を背景として、鉱工業生産は計画を約一〇%こえた発展を遂げることが確実視されるようになつたのであります。また、農林水産生産は、まれに見る好天候に恵まれまして約一一%増しとなるものと考えられます。かような貿易、生産の拡大に伴いまして国民所得は計画より約六%増加する見込みでありますが、その割には消費は節約されまして、個人貯蓄は計画の約二〇%増しに相なっております。海外物価の上昇にもかかわらず、国内物価はほぼ昭和二十九年度の水準の横ばいで推移しておると思われます。雇用情勢も、以上のような経済情勢を反映して、若干好転のきざしが見られております。 昨年の経済がかように順調な発展を見ましたのは、わが国が一昨年以来経済健全化政策をとり、経済の健全化と金融の正常化の促進に努めて参り、その効果がたまたま海外経済の未曽有の繁栄に際会して、一そう発揮されたものであると考えられます。 しかしながら、雇用につきましては、増大する生産年令人口の重圧、これが存在いたしますことと、企業の設備並びに技術の後進性、資本構成の不均衡、金利水準の国際的割高等に見られますように、経済基盤はまだ脆弱でありまして、わが国経済の今後の発展には多くの問題が残つております。昨年の経済の順調な発展を楽観視して、安易な気持を抱いてはならないと考えるのであります。 政府は、昨年八月以来、新たに総合的な長期経済計画のあり方を経済審議会に諮りまして、広く民間有識者の御協力のもとに、慎重に検討を加えたのであります。その結果、経済審議会の答申を基礎といたしまして、経済自立五カ年計画を樹立したのであります。 この計画は、昭和三十一年度から昭和三十五年度に至る五カ年間において、国民の総生産を基準年次たる昭和二十九年度に比し約三四%増加せしめて、その間輸出は二十六億六千万ドルと六六%の伸張を見込んで、国際収支は二十九億六千万ドルの線でほぼ均衡することとしているのであります。本計画は、総合経済六カ年計画と同じく、個人及び企業の創意を基調とした経済体制のもとで、経済自立と完全雇用を達成することを目標といたしております。もとより、本計画の性格から考えまして、目標数字等は、必ずしも固定的なものとは考えず、弾力的に考慮していく所存であります。 さて、昭和三十一年度は、経済自立五カ年計画の初年度としまして、その目標を明示し、これにのっとって貿易、生産等各分野における経済政策の向うべき方向を明らかにして、着実に計画を達成することを企図し、内外経済の動向をも勘案して、昭和三十一年度経済計画の大綱を立てたのであります。 今、計画の概要を申し上げるに先だち、その前提として考えました今後の海外経済の動向を申し上げます。 本年の海外情勢は、概して好況が続くものと期待されますが、昨年見られましたような未曽有の好況は期待できず、景気の上昇率は若干鈍るのではないかと考えるのであります。 すなわち、米国におきましては、景気はやや伸び悩みの状況にあり、昨年と同じような上昇率を見ることは困難と考えられます。 英国におきましては、一昨年来世界的な好況に乗つて、投資活動が旺盛となり、一般消費者の購買力も増加したため、物価の値上り、輸入の増大となって、金ドル準備の流出となつたのであります。この結果、昨年来信用引き締め政策をとつており、本年も引き続きその政策が緩和されることはないものと見なければならないと思われます。 その他の西欧諸国について見ましても、これまた投資ないし消費の行き過ぎから、多かれ少かれインフレ的様相を呈して、その是正のために引き締め段階に入つた国が多いようであります。 さらに、わが国と最も密接な関係にある東南アジア諸国について見ますと、この地域の景気は、世界景気の反映により左右されるのでありまして、昨年は若干の景気回復を見たのでありますが、今後、米国を初めとし、英国、西欧等の諸国の景気が昨年ほどの好況を期待することが困難でありますので、当面大幅な購買力の増加は望まれないと考えられます。 かような海外情勢を考慮いたしますと、輸出の振興を中心として、今後わが国経済を昨年と同様の歩調で伸張いたしますには少からざる努力が必要であると考えられます。 以下、昭和三十一年度計画について、その大要を申し上げます。 まず、貿易及び国際収支につきましては、輸出は約二十二億ドルまで伸張せしめ、他面、特需は約四億五千万ドルに減少を見込んでおりますが、国際収支全体としては若干の黒字になるよう計画しております。 また、輸出の伸張、国内における投資及び個人消費の増大に対応して、鉱工業生産は昭和三十年度に比べ約七%の上昇を予定するとともに、農業生産は平年作として考え、物価は横ばいに維持することとして、国民総生産を約八兆二千六百億円と、昭和三十年度に比し約四%増加させることを企図しておるのであります。 昭和三十一年度のかような計画を達成いたしますためには、現在の経済正常化傾向を一層促進しつつ、安定経済の基調のもとに、経済基盤の強化をはかり、積極的な輸出振興のための施策を講ずるとともに、雇用問題の重要性にかんがみ、就業機会の増大をはかることに施策の重点を置いて参りたいと考えるのであります。 まず、輸出の振興につきましては、対外的には、わが国の重要な輸出市場である東南アジア、中近東及び中南米の諸国との経済外交をさらに推進し、国際経済協力並びに海外投資を積極化いたしたいと考えます。ことに、賠償問題のある諸国とはその合理的な解決に努め、正常な通商関係を確立して参りたいと存じます。さらに、今後は、米国、カナダ等の市場につきましては、輸出取引の適正をはかる措置を講じ、その維持、拡大をはかって参る所存であります。 また、対内的には、輸出企業の合理化並びに輸出原材料の確保とその価格の安定に努めて、輸出品のコストの引き下げ、品質の改善を引き続きはかって参りますとともに、輸出入取引法等の強力な運用によって、輸出入体制の整備、取引秩序の確立を促進し、もって過当競争を防止することに努めたいと存じます。プラント輸出、海外投資の促進につきましては、輸出後における各種サービスの強化、日本輸出入銀行の資金の確保、海外投資保険制度の新設等の措置を講じたい所存であります。 また、国際収支の改善に資するため、引き続き外航船の建造を促進いたしまして、一方観光事業の推進をはかる等、外貨の節約、貿易外収支の改善に努めるほか、ドル地域からポンド及びオープン勘定地域への輸入転換についても、今後とも努力したい考えであります。 経済基盤の強化につきましては、一般的に設備の合理化、近代化を一段と推進し、技術の向上、経営の健全化、科学的管理方式の普及、労働能率の改善並びに労使協力態勢の確立によりまして、生産性の向上に努めることといたしたいのであります。また、将来における産業基盤の強化、重化学工業化の要請をも考慮しつつ、基幹産業の合理的再編成、特に機械工業等の近代化を強力に推進するとともに、新規産業の育成、地下資源の開発に努める所存であります。 なお、繊維産業につきましては、設備の制限、転換、買い上げ等の措置を講ずるつもりであります。 科学技術の振興につきましては、新たに科学技術庁を設置いたしまして、試験研究態勢の充実に努め、特に原子力の平和利用については、これを強力に推進いたしたいと考えます。 中小企業につきましては、わが国経済に占める重要性にかんがみまして、その経済的地位の向上をはかるため、関係法規の整備、百貨店法の制定等により、中小企業の組織化、安定化を一そう推進いたしますとともに、輸出適格産業を中心といたしまして、設備の近代化、技術の向上、経営の合理化等を促進し、特に中小企業金融につきましては、資金源を充実して金利低下の促進と金融の円滑化をはかり、信用保険制度の改善に努めたいと存じます。 農林水産業につきましては、畜水産物を含めた総合的な食糧の自給度向上の基盤を強化するほか、新たに農業改良基金制度を設けて、農業者の自主的な営農改善を助長するとともに、農山漁民の経済の安定と生活の向上をはかるため、その自主性と創意に基く新農村建設計画を強力に推進して参る考えであります。 以上申し述べました産業の育成策と相並行して、わが国産業の基盤を強化するため、公共事業につきましては、国土総合開発の観点から総合調整をはかつて計画的に実施するとともに、工業用水等、産業関連施設の整備、森林資源の開発をはかり、道路につきましては、その現状にかんがみまして、一般道路整備事業の一そうの促進と有料道路の整備、拡充をはかつて参る考えであります。 特に、北海道につきましては、資源の未開発、人口収容力の現状にかんがみ、未開発資源の開発を促進し、産業振興の基盤となる基礎施設の整備、拡充に一段と努力いたしますとともに、北海道開発公庫を新設し、各種産業の振興をはかり、国民経済の伸張に寄与いたしたいと存じます。 また、東北地方につきましても、同地方の特殊性にかんがみ、総合的開発を促進するため、特段の措置を講じたい所存でございます。 雇用機会の増大と民生の安定につきましては、輸出の伸張、経済基盤の強化をはかりつつ、経済規模を拡大して雇用機会の増大をはかつて参りたいと存ずるのでありますが、特に、公共事業等の実施に当つては、経済効果とあわせて、極力雇用の増大に役立つよう努めて参る所存であります。なお、これと並行して、失業対策事業を一そう充実して参りたいと考えております。また、就業機会の増大に資するため、職業紹介、職業補導等の事業を引き続き強化していく考えであります。 さらに、民生の安定につきましては、社会保障の充実及び公的扶助の強化をはかるとともに、家族計画の推進に努める所存であります。住宅につきましては、その質の向上と適正な住居費負担を配慮しつつ、民間自力建設をも含めて、約四十三万戸の建設を実現いたすことにしております。 以上、昭和三十一年度計画達成のための主要な施策について申し述べたのでありますが、これら施策の実効を確保いたしますため、物価の安定をはかり、相当多額の民間資金の活用をはかる所存でありますので、一段と貯蓄の増強に努める必要があり、国民各位の理解ある御協力を念願してやまないのであります。(拍手) 私は、以上のような諸施策を総合的かつ重点的に実施し、昭和三十一年度経済計画の目標を達成するにとどまらず、目標を突破せんことを念願するものであります。ここに、決意を新たにして、国民各位とともに、日本経済の自立と発展のために最善の努力をいたす覚悟であります。(拍手) ————◇—————
○長谷川四郎君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。井上良二君提出、政府の予算案提出遅延に関する緊急質問を許可されんことを望みます。
○議長(益谷秀次君) 長谷川君の動議に御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(益谷秀次君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。 政府の予算案提出遅延に関する緊急質問を許可いたします。井上良二君。 〔井上良二君登壇〕
○井上良二君 私は、日本社会党を代表して、本日提案されました昭和三十一年度予算案の国会提出遅延に伴う国会審議権の侵害に対し、鳩山内閣の政治的責任を追及するとともに、総理の所信をたださんとするものであります。(拍手) 申すまでもなく、明年度の予算案は、わが国今後の政治、経済の方向を具体的に示すもので、特に、保守、革新の二大政党下に、保守党内閣の予算案として初めて提案されるだけに、われわれは、その審議に重大な関心を持ち、昨年末より予算案の提出の時期について政府に折衝して参つたところ、政府は、与党の方との打ち合せその他のことを考慮して、できれば一月二十日ごろまでにまとめ、おそくとも一月二十五日には必ず国会に提出し、同時に政府の施政方針演説を行うことを確約してきたのであります。(拍手)ところが、鳩山内閣は、この約束をみごとに裏切つて、確約した日よりも五日もおくれ、本日ようやく国会に予算案を提出してきたのであります。そこで、われわれは、かくも編成に手間取つた予算案とは、どんなにりつぱなものかと期待したのでありますが、それは、どの新聞も筆をそろえて批判しておりますように、ぶんどり競争でもみくちやにされた、四捨五入の、お粗末きわまるものであります。(拍手) その内容につきましては、後ほどわが党代表によって鋭く批判されると思いますが、問題は、政府並びに与党の無統制な予算ぶんどり争いのために予想外の日時を費し、予算案の国会提出を遅延せしめて、国会の審議期間を大幅に制限したのみならず、さらに、この予算案に関連する重要法案も、まだ一件も提出されていないという事態であります。かくのごときは、国会における予算案の審議権を不当に侵害するのみならず、会期末に重要法案を山積させ、審議にも十分な時間を与えないで、多数の力をもって押し切らんとする、政府の非民的かつ独善的意図を如実に露呈したものといわなければなりません。(拍手)これでは、一方政府が、多数の横暴によって生ずる会期末の紛争に備え、懲罰事犯を継続審議にせんとする国会法の改正を与党に強行させようとしているといわれても、弁明の余地はありません。(拍手)われわれは、かくのごとき政府の国会審議権無視の態度に対し、断固その責任を追及するものであります。(拍手) そもそも、予算案は、諸君も御承知のごとく、毎年一月二十日の通常国会再開を目途として提案されるのが慣例であり、今回のごとく、はなはだしい遅延は、全く異例のことであります。そこで、何ゆえに予算案の国会提出がかくもおくれたか。予算案の編成のあとを振り返つて検討してみますと、その原因は、昨年末から本年初めにかけて行われた政府の予算編成の無定見、不手ぎわに尽きているのであります。 政府は、昨年末、与党から、衆知を集めて作成したと称する総額一兆三百億の予算編成に関する助言書を受け取つたのでありますから、その助言を基礎にして、総理大臣みずから大蔵大臣のうしろだてとなって、政府の責任において、確固たる自信のもとに予算を編成すべきであったのであります。しかるに、新聞の伝うるところによれば、合同して間のない政府与党は、代行委員を中心とする親分子分の派閥関係が複雑をきわめ、そのため党内の統制は全くとれず、各省の利害につながる与党議員が政調会十六の部会に割拠して、夜も日も眠らす、それこそ百鬼夜行のありさまで、(笑声)予算ぶんどりに右往左往し、一般会計でも実に二千数百億をこえる膨大な与党復活要求を作成し、あげくの果てには、一萬田大蔵大臣を党総務会に呼びつけ、ばかやろう、国賊とまでののしつたとか、ののしらぬとか、(笑声)予算ぶんどりの脅迫を行なつたといわれ、一方、閣内においても、河野農相は、ぐずぐず言えば予算編成権を大蔵省から独立させるぞという偉大な政治力を発揮し、(笑声)自分に関係のある予算はさつさとぶんどつたあげく、その償いに、各省ぶんどり合戦のまとめ役を勤めて、あたかも副総理顔をしているとの名誉ある新聞批評を受けたのであります。(拍手)また、特に大臣になつたばかりで力の弱い閣僚は、かつて大臣を勤め、政務次官をやられた方々や、国会常任委員会の与党委員から関係団体の代表者まで動員して、いかにして自分の省に関係する予算を増額するかに走り回って、国務大臣としての本来の任務すら忘れるありさまで、そのために大蔵大臣の存在は失われ、閣内、党内とも全く収拾さえつかぬ醜態を天下にさらしたのであります。(拍手) 特に、われわれ日本社会党が、この予算編成の過程を振り返つて、国民とともに最も遺憾に思うのは、内閣の責任において編成さるべき予算案が難航をきわめ、国民に大きな不安を与えているとき、鳩山総理のとつた政治的態度であります。(拍手)私は、総理大臣が、老年で、しかも半身不自由なからだでありながら、国政の最高責任を負つておられるその労苦に対しては、心から敬服の念を禁じ得ません。しかしながら、その私情をもって、一国の総理という公器の政治的な無責任を許すわけには参りません。(拍手)総理は、予算案がわが国の政治、経済の方向を具体的に示し、国政を実質的に決定する重要案件であると考えるならば、何ゆえに、この予算案編成に当つて、内閣の責任者としての全努力を払わなかったかであります。(拍手)われわれのうかがい知るところでは、総理は、一月初め伊勢神宮に参拝しての帰路、大切な予算案の編成を控えていながら、東京へは帰らず、伊豆の川奈ホテルに、予算案閣議決定の予定日、一月十七日まで滞在し、ようやく帰京してからも、音羽の私邸に入つたまま大蔵大臣に会いもせず、与党並びに関係閣僚間の調整や督励に何ら努力の跡を見せなかったのは、一体どうしたわけでありますか。なるほど、鳩山総理は、党内では代行委員の一人にすぎませんから、その統率力が足りなかったのかもしれません。しかし、それならば、他の代行委員を初め、党内の有力幹部の協力を求めるべきであります。まして、総理は内閣の責任者である以上、大蔵大臣を鞭撻し、予算案編成に全力を注ぐべきであるにかかわらず、その努力を思った総理の政治的怠慢が、予算案提出をおくらせ、国会の審議権を侵害した最大の原因となつたのでありますが、総理はその責任をどうとられんと、するか、この際全国民の前に明確にしていただきたいのであります。(拍手) 総理は、あるいは、予算編成に怠慢などなく、また政府の不手ぎわでもないと抗弁されるかもしれませんが、現にあなたの所属されている自民党の岸幹事長は、予算案の編成は手ぎわのよい編成ぶりとは義理にも申されませんと、正直にその不手ぎわを新聞記者に発表されておりますし、(拍手)また、この予算案の了承を求める自由民主党の議員総会でも、予算編成で一萬田蔵相が傷だらけになっておるときに、総理は知らぬ顔をして温泉につかっていた、一体首相は予算を何と心得ているのかという、総理への不満が発言されているではありませんか。これら与党幹部及び議員の発言と世論に対して、総理は党の代行委員の一人としてどう考えておるか承わりたい。 最後に、一国の総理大臣が予算案の編成というような重大時期に、長期にわたって休養せねばならぬという健康状態では、国民の個人的同情は別として政治的には断じて許されません。まして、今国会は、予算案を初め内外の重要政策を長期にわたって審議しますので、国民はあなたの健康が果してこの長期の国政審議に耐えられるであろうかとの大きな不安を抱いておるのみならず、一面、また、あなたのその識見と、与党に対する適切な指導によって内外の重要政策の実行を求めておりますが、総理はこの長期国会の審議に断じて支障を与えないという自信を、肉体的、健康的にお持ちでございますか。私は、この際、国民の総理の不健康の現状に対する同情に甘えてわずか数時間の質問さえ、予算委員会その他の委員会では、すわったままでないと答弁できないような健康状態で、総理の重責が果せるという確信をお持ちですか、この機会に、率直に総理の国民不安一掃の所見をお伺いいたし、今後再び今回の予算案編成におけるがごとき失態は繰り返さないという約束を、本議場を通して国民の前に明らかにしていただきたい。 以上をもって私の質問を終ります。(拍手) 〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕
○国務大臣(鳩山一郎君) 井上君の御質問にお答えをいたします。 予算案編成が若干おくれましたのは、まことに遺憾でございます。ちょうど、私が、伊勢の旅の帰途かぜを引きまして、二週間ばかり腸胃を害して寝ていました。けれども、連日官房長官とは電話で連絡いたしまして、病気のために予算案の編成が遅延したという事実は全然ございません。(拍手)政府と与党との間において予算案編成上若干の意見の相違がございまして、その調整に時日を要しましたので、予定より多少おくれました。これは皆さんが熱心なためであって、これを責めるわけには参りません。(拍手) 私の身体の状況が、自分がこの職に耐うることに不適当だと信じましたならば、必ずやめます。(拍手) ————◇—————
○議長(益谷秀次君) この際暫時休憩いたします。 午後二時四十六分休憩 ————◇————— 午後四時五十四分開議
○議長(益谷秀次君) 休憩前に引き続き会議を開きます。 ————◇————— 国務大臣の演説に対する質疑
○議長(益谷秀次君) これより国務大臣の演説に対する質疑に入ります。河上丈太郎君。 〔河上丈太郎君登壇〕
○河上丈太郎君 私は、日本社会党を代表しまして、鳩山首相に対し、施政の根本方針に関しまして、簡単に二、三の質問をいたしたいと存じております。 私は、本日、鳩山首相以下関係閣僚の施政演説を残らず拝聴いたしましたが、率直に申しまして、はなはだ失望いたしたのであります。(拍手)何ら新鮮の意味もなく、平坦なことであるので、残念にたえないのであります。鳩山内閣が成立してからすでに一年有余になりまするが、おそらく、国民は、鳩山内閣は何ができるか、何ができないか、一言で申すならば、鳩山内閣の限界と正体とを十分に知っておると私は信じておるのであります。(拍手)私は、謙譲の精神を唱えておる鳩山君が、本日、組閣当時において約束した公約は何一つできなかったのだ、まことに申しわけないというふうな釈明があるのではないかと期待をいたしたのであります。(拍手)しかるに、鳩山首相以下の諸君は、組閣当時と同じように、から手形となるべき政策を並べて、ただ淡い夢をもう一度追うて鳩山ブームを起さんとする、さもしい心があったのではないかと思うのであります。(拍手)しかし、これは断じて民主政治家のとるべき態度ではないと考えるのであります。そこで、私は鳩山首相に対し質問いたしたいのでありまするが、その第一は、憲法改正に関してであります。その第二は、外交の基本的な態度、ことに日ソ交渉並びに原水爆に対する決意についてであります。その第三は、鳩山内閣の再軍備偏重の財政についてであります。そうして、最後に、二大政党対立に対するところの鳩山君の信念を伺いたいと存ずるのであります。(拍手) 憲法改正は、鳩山首相のあるいは終生の事業であるがごとくに、第三次鳩山内閣においてもこれを三大政策の筆頭に掲げ、最も熱意をもってこれに当られておられるようであります。しかしながら、不幸にいたしまして、私たちは、いまだ、鳩山首相の口から、明白に、何ゆえに憲法改正が必要なのかという、理論的にして体系的な説明を聞いたことがないのであります。かつて鳩山君は、自由党当時において、個人として憲法改正の理由を述べられたと聞いておりまするが、公人としていまだその見解を明白にしていないのであります。(拍手)この際に、私は総理にお願いしたいことは、憲法改正を必要とする理由を明示して、堂々と国民の批判に訴うべきであることを、ここに強く要求いたすのでございます。(拍手)そもそも、憲法改正、国法の大本を変更するのであって、国家にとつては一個の革命ではないかと思うのであります。(拍手)明治憲法が現行憲法に改訂せられたのは、敗戦という事態を通じて、いわゆる民主革命によって行われたものであると思うのであります。その結果、明治憲法の持っておった封建主義、官僚主義、軍国主義は払拭され、世界の公道たるところの民主主義、自由正義、平和主義に基いて現行憲法が制定されたのである。現行憲法は、占領治下とは申しながら、国民の総意を代表するこの国会の議決をもって採択せられ、国民は憲法施行の日を祝祭日と定め、憲法の条章を恪守すべきことを中外に誓約しておるのである。しかるに、憲法制定の墨痕いまだかわかざる今日、何ゆえにこれを改正しなければならぬのでありますか。民主平和憲法のいかなる条章をいかに改正しようというのでありますか。かかる改正の内容いかんによっては、名は改正であっても、その実質は、反動化の道であり、民主革命の成果を葬るものであると考えるのである。(拍手) いずれの国におきましても、憲法を改正するに当つてはしばしば騒乱を引き起したという事実のあることは、歴史の示すところである。現行憲法の改正も、決してその例外ではないと私は考えるのであります。(拍手)およそ、民主主義政治の特色は、多数が少数を押えるのではなく、少数の意見を尊重するところにあると私は信じておるのである。(拍手)しかるに、事憲法改正になると、鳩山内閣は、有効投票三千万票のうちの一千万票の憲法擁護の投票を無視して、これを押し切らんとしておるのである。もし、鳩山内閣が、多数を頼んで、強引にこれを強行せんとするならば、国民の多数はこれに反対するであろうと信ずるのであります。そうするならば、憲法を守る者と憲法を改めんとする者との二つの陣営に分れ、しのぎを削るような重大なる事態を惹起しないと何人が保証できるでありましようか。(拍手)鳩山総理は、かかる危険を冒してまでも憲法改正を押し切ろうとせられるのでありますか。万一、国内にかくのごとき不祥事が起った場合には、いかなる責任をとられんとするのでありましょうか。首相の信念を承わりたいのであります。 さらに、われわれの見のがすことのできない事実は、外国から押しつけられた憲法を改正するのだ、自主憲法を作るのだなどと称しておる保守党の動き自体が、実は外国の強要に端を発しておるということであります。(拍手)現に、鳩山総理みずから、アメリカも現在日本憲法の改正を期待しているから憲法の改正が必要なのだと述べておられるとも聞いておるのであります。これによって見ましても、憲法改正の真の理由は、アメリカの世界政策に追従するところにあるのであって、かつての吉田内閣以上の向米一辺倒の政策を行わんとするものであります。かくのごとき事態を許すならば、日本は憲法闘争をめぐって激しい政争を再現する危険性なしといたさないのであります。鳩山首相は、かかる危険なる道を何がゆえに選ばんとするのでありますか、その真意を明らかにされたいのであります。 次に私が質問いたしたいのは、現内閣の外交方針についてであります。世間では、かつての吉田内閣の外交をそのつど外交と称したに対して、鳩山内閣の外交を二元外交と申しております。鳩山君と重光君との考えの違いを指摘しているのであります。けれども、私に言わしむるならば、言行一致せざる二枚舌外交であるのであります。(拍手) 現在日本の外交が直面している課題は、その一つは、向米一辺倒外交を清算して、自主独立のコースに切りかえることである。第二は、中ソとの国交を回復して、一つの世界の確立に向って前進することである。(拍手)三つは、アジア、アフリカ諸国との提携を密にして、平和と共栄のために努力することである。この三つの条件の上に日本の外交が進むべきであると信ずるのである。 鳩山首相は、その組閣の当初に当つて、いみじくも、独立にふさわしい外交をやると宣言いたしました。これが鳩山ブームの根源であったと世間は言うのであります。しかしながら、過去の実績はどうでありましようか。全くその言うところと逆であったのであります。鳩山首相は、日ソ交渉を必ず成立せしめると豪語いたしました一年前の公約はどうなったのでありますか。中日友好関係を樹立して貿易の拡大に資したいと言った選挙の公約はどうなったのでありましょうか。(拍手)外交政策は断じて保守合同の犠牲にしないと言った国会内の言明を、よもや、ほごにされることはあるまいと存じまするが、いかがでありましようか。(拍手)去る一月二十六日、鳩山首相は、記者会見において、日ソ交渉の早期妥結を期待し、そのためには領土問題などの懸案を将来に残し、すみやかに国交回復をしたい旨を明らかにされました。その後、都下各新聞紙の報ずるところによれば、鳩山首相のこの発言は、この数日前に伝達されたソ連側の戦争終結宣言の申し入れに顧慮するものなりというのであります。私は、日ソ交渉開始当時の事情にかんがみまして、これは信ずべき報道であると信ずるのでありますが、鳩山首相の、この点についての明確なる御答弁を私は求めるのであります。(拍手)もしソ連が一方的に戦争終結真言をなした場合に、日本政府はいかなる態度をもって対処せんとするのでありますか。私は、過般鳩山首相が明らかにされた見解は、まことに妥当なものだと考えております。われわれも、平和条約において各種の懸案を解決することを望み、千島、南樺太の返還など、領土問題の解決を強く要望する点において、決して人後に落つるものではありません。しかし、かかる懸案の解決のために交渉に手間取るならば、まず国交を回復すべしとの見解を有するものであります。鳩山首相の最近の御見解はわれわれの主張に近づきつつあるものと考えますが、首相は断固としてこの線を推し進められる決意でありますかどうか。(拍手)政府部内においても、また与党の内部においても、この総理の方針に対しては相当の反撃があるやに伝えられておりますが、鳩山首相は、これらの小乗的な議論をはねのけて所信に邁進する覚悟を有せられるのでありましようかどうか。(拍手)私は、首相の勇断を期待しつつ、この際鳩山総理の率直なる御答弁を求める次第であるのであります。 われわれ日本社会党は、東西両陣営のいずれに対しても自主独立の立場をとることを外交の基本方針とし、極東における平和を確保するために、日米中ソを主要参加国とする集団安全保障体制の確立を念願しているのであります。われわれは、この方式のみが日本の安全を保障し、極東の平和を確保する唯一の具体的な提案であることを確信するものであります。(拍手)しかるに、わが国と中ソとの間には、いまだ国交は回復せず、法的には戦争状態が続いております。従って、中ソ等を加えた集団保障体制を確立する前に、まず中ソとの国交の正常化をもたらし、正式の国交を回復することが絶対に必要でありまするが、鳩山首相はいかにお考えになっているのでありましょう。(拍手) 世界が二つに分裂している必然の結果として、東西陣営とも、力による平和の考え方を捨て得ないのである。その結果、ジュネーヴ会議によってせっかく招来された精神も、ややもすれば後退せんとするのである。米ソとも強力なる原水爆を所有することをもって相手方を脅威せんとし、近所迷惑な原水爆の実験をいたしているのであります。ことに、アメリカ政府は、近くかつての実験に数倍する大がかりの実験を太平洋上において行う旨を発表いたしました。ビキニ水爆の被害をこうむった記憶の新たなる日本国民は、かかる実験に対して絶対に反対であります。(拍手)日本政府は、何ゆえに、アメリカ政府に対して、日本全国民の意思を伝達し、実験の中止を要求しないのでありますか。あえて鳩山内閣の決意を伺う次第であるのであります。第三に私の質問いたしたいことは、政府の財政政策であります。ことに、再軍備偏重の予算についてであります。鳩山内閣の選挙公約たる、防衛費を削った社会保障を充実するというスローガンは跡形もなくついえ去ったことは、もとより論外でありまするが、社会保障、国民生活の安定を口にした鳩山内閣の末路として、昭和三十一年度の予算案はあまりに無責任な軍事偏重の予算であるのであります。(拍手)防衛費は総額において八十億を増額されたばかりでなく、旧軍人恩給の増額、防衛生産のための費用の増強など、軍事予算のみまかり通るの態勢で、社会保障費も、文教費も、地方財政の再建も、全くおざなりの額しか計上されていないのであります。(拍手)限られた予算のワク内から、軍事費のみが優先的に確保せられ、残りの僅少な部分を各省各局がつかみ取りをしたというのが、昭和三十一年度分予算の姿であるのであります。 しかも、私の了解に苦しむことは、この予算のぶんどり競争、支離滅裂とも称すべき予算のこま切りに対して、先ほど井上君が質問をいたしたごとく、鳩山首相は全く超然たる態度をとり、何らの調整の労もとらず、鳩山内閣の政策を生かす努力をしなかったということであるのであります。かくのごとくであるならば、予算に関する限り、鳩山首相は単なる装飾的存在にすぎないといわれても、弁解の余地はないと私は思うのであります。(拍手)政党内閣の生命は予算の編成にあります。しかも、二大政党対立の政治がよくいくかいかぬかの試金石ともいうべき昭和三十一年度の予算編成であるが、この重大なる問題に対し、鳩山首相がしばしば閣議を欠席し、何らの指導的役割をしなかったことは、われわれのとうてい了解しあたわざるところであります。(発言する者多し、拍手) また、鳩山内閣が軍事偏重の予算を編成したことは、内閣全体を貫く性格が軍事色一本にあることを立証するものと考えられます。(発言する者多し)これが外交に現われては対米追従となり、国内政治に現われては憲法改正、再軍備強行、軍事基地拡張となっておるのであります。(拍手)しかも、これらの政策を強行するためには、小選挙区制度の採用、労働立法の改悪、警察政治への復帰など、一連の反動政策をあえてせんとしているのであります。民主政治家にして友愛政治を説く鳩山首相の影はきわめて薄くなっております。(拍手、発言する者あり)私は、この点に対して、鳩山総理の明快なる答弁を要求するものであります。(拍手) 最後に私がお伺いいたしたいことは、いわゆる二大政党の対立について鳩山首相はいかなる考えを持っておられるかという点であります。昨年末社会党の統一ができ、引き続いて保守合同が成立し、形の上においては二大政党ができました。国民はこれを歓迎し、二大政党の対立時代が実現されたがゆえに、政治の将来に対し大いなる希望を持つがごとくであるが、しかしながら、二大政党の対立が円満に運用されるためには多くの前提条件が要るのであります。政権の授受が国民を背景として公明に行われ、作為と欺瞞によって歪曲されないということがその一つであります。(拍手)多数党が民主主義のルールを忠実に守り、数の暴力によって非理を強行しないというのがその二つであります。保守対革新の思想的対立にかかわらず民主主義の根本義に関して共通の広場を持ち、政争が公正の原則によって行われるということが三つであります。しかるに、いわゆる保守合同の成立以来の鳩山内閣の施策と行動を見ますと、残念ながら、これと全く逆であります。(拍手)第二十二国会直前の総辞職といい、第二次鳩山内閣より第三次鳩山内閣への不明朗な移行といい、どこに民主主義の原則が貫かれているでありましょうか。(拍手)そればかりではありません。最近になると、憲法改正と保守政権の固定化と、一石二鳥をねらって小選挙区制度の実施を強行し、われわれ社会党に挑戦しようとしているではありませんか。(拍手)かかる政略と陰謀の政治が行われる限り、二大政党の対立は熾烈なる政争の激化を招来するばかりでありまして、この責任はあげて鳩山首相に帰すると存じまするが、首相の見解はいかがでありましこ占うか。(拍手) 保守党の諸君は、しばしば、二大政党の対立の時代になったのであるから、小選挙区制度はいいのだ、小選挙区制度によって政局の安定が得られるのだ、その好適例として英国を見よと言っておられます。三大政党対立と小選挙区制度とは、必ずしも関連はないのであります。現に、労働党が自由党にかわるまでの一九〇〇年から一九二九年に至るまで約三十年間は、保守、自由、労働三党の鼎立時代であったのであります。のみならず、日本においても、二大政党の成立は小選挙区の結果ではないという現実の事実を私は言いたいのであります。(拍手)少くとも英国においては、革新勢力が伸張するから、これを妨害するために選挙区制を変更してじゃまをしようというような保守党がなかったればこそ、二大政党の対立が好ましく運営されておるのであります。鳩山内閣の選挙制度改正論は、社会党の発展を阻止するがためであって、その他はあとからつけた理まにすぎないのであります。(拍手) 私は最後に鳩山君に注意を促したいのであるが、憲法改正に関する憲法の精神であります。一般の事項については、少数の多数に従うことが民主主義の原理である。この憲法改正に関しては、三分の一の反対があった場合には、これが実現できないのであります。つまり、多数が少数に従うことが憲法の精神であると私は思うのであります。(拍手)憲法改正は反対勢力が……。 〔「多数が少数に従うとは何だ」と呼び、その他発言する者多く、議場騒然〕
○議長(益谷秀次君) 静粛に願います。
○河上丈太郎君(続) 憲法改正反対の勢力が三分の一以上あるという事実をすなおに認めて、鳩山君はこの際憲法改正をやめることが、民主主義政治家のとるべき態度であると私は考えておるのであります。(拍手)私は、鳩山君の晩節を全うする意味からも、特にこの点について鳩山君の所信を伺って、私の質問演説を終る次第であります。(拍手)
○議長(益谷秀次君) ただいまの河上君の発言中、不穏当の言辞があるからとの理由で、取り消しの要求がありましたので、速記録を取り調べの上、適当の処置をとることといたします。 〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕
○国務大臣(鳩山一郎君) 河上君の御質問にお答えをいたします。 河上君は、憲法改正についての私の真意をお聞きになりました。憲法改正については、先刻簡単に申しました通りに、日本の憲法は、国民の総意によって自主独立の態度に合致するように作り変えたいと思うのだ。(拍手)日本の独立が完全でなく、占領時代に押しつけられた憲法は、日本の総意によってでき上った憲法と言うことはできません。(拍手)日本の独立の態度に合致するとは言えないのであります。日本が自主独立となり、独立を回復した場合においては、第一に当然なすべきことは、この憲法の改正であります。(拍手) 河上君は、外交方針についても質問がありました。日ソの交渉について、私のこの間の新聞記者会見で、領土問題をあとにしても、日ソの関係を早くつけたい、平和条約を確立したい、こういうことを言ったように記載してあるのは、これは全く事実に反します。(拍手)日本とソ連との関係は、戦争状態……(発言する者多く、議場騒然)戦争状態終結を確認する必要がある、戦争状態そのままにし工おくというようなばかげたことはないということは、私は、最初から、第一次鳩山内閣から主張しておるのでありまして、今日新しく言った言葉ではないのであります。戦争状態終結確定の事態を日ソの間に作りたいということ私の信念であります。この信念を成就するために領土問題をあと回しにしてもいいということは、この間の会見において私は新聞記者諸君に一言も言っておりません。(拍手)その当時の速記録が朝日新聞に出ておりますが、速記録をごらんになれば、そういうことは言ってないじゃありませんか。何を証拠にして私がそういうことを言ったと河上君は主張するのですか。(拍手) また、河上君、このたびの予算が再軍備予算だ、再軍備偏重予算だというような言葉がありましたけれども、よく、私の、また大蔵大臣の説明しました通りに、社会保障事業にもとっておりまするし、勤労所得税も軽減をしておりますし、家屋も新しく建てておるのであります。前年の予算に比して、このたびの予算を再軍備偏重予算というがごときは、全くでたらめのうそではありませんか。(拍手) これ以上答弁する必要はないと私は思います。(拍手) 〔「まだ残つている」と呼び、その他発言する者あり〕
○議長(益谷秀次君) 内閣総理大臣鳩山一郎君。 〔国務大臣鳩山一郎君登壇〕
○国務大臣(鳩山一郎君) 河上君の質問の中に、二大政党対立論について私に質問がございました。それに対する答弁を私は逸しましたから、それを補充いたします。 二大政党になったということは、やはり日本の憲政史上喜ぶべきことと思います。二大政党対立になったらば少数党の意見にも聴従しろという河上君の意見はごもっともであります。少数党の意見を尊重するような雅量を多数党が持つということは非常に必要なことであります。(拍手) ————◇—————
○長谷川四郎君 国務大臣の演説に対する残余の質疑は延期し、明三十一日定刻より本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会せられんことを望みます。
○議長(益谷秀次君) 長谷川君の動議に御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(益谷秀次君) 御異議なしと認めます。よって、動議のごとく決しました。 本日はこれにて散会いたします。 午後五時三十三分散会