法務委員会 第31号
- 発言数
- 28 件
- 登壇者
- 4 名
- 会派数
- 3
- 開催日
- 1950/04/18
会議録
○花村委員長 これより会議を開きます。 本日はまず検察行政に関する件を議題といたします。 猪俣委員より法務総裁に対し質疑の通告がありますからこれを許します。猪俣君。
○猪俣委員 私は二、三点伺いたいのであります。それはいずれも日本発送電株式会社に関する事案でありまするが、ただ事実は違うのであります。 第一の事実は、日本水力工業株式会社なるものがありまして、これが富山県の東礪波郡庄川水系大牧発電所なるものを戦時中建設したのであります。昭和十二年からでありましたか、七箇年の長年月を要しましてこの大牧発電所を完成しました。これは四、五千キロの発電能力しかない流れ込み式の発電所なるものを、日水会社の社長加藤金次郎氏の特別なる努力と技能によりまして、一万八千キロの発電能力を有する一大発電所にまでした。これがために加藤氏は物質的にも精神的にもほとんど全犠牲をあげてこれを完成したのであります。その完成時がちようど太平洋戦争のたけなわなるときであつたのでありまして、法務総裁も御存じの通りの軍部官僚万能の雰囲気の最中でありました。加藤社長以下がほとんど私財を売り尽して注ぎ込みまして、その当時すら電力局長が一億円なりと評価せられましたるこの一大発電所が、電力局長の一片の依命通牒なるものによりまして、これが日発会社にとられてしまつたという事件があるのであります。当時加藤社長は、自分が全生命をかけて打込みました発電所でありますがゆえに、いろいろの圧迫に抗して独力経営するところの熱意をささげておつたのでありますが、電力局長の依命通牒、また当時軍需大臣でありました東條英機の指令、さようなもので、当時の日発の土木部長であり、現在の日発の総裁である大西英一その他によつて、この発電所を日発に吸収すべきことを執拗に勧告せられた。これを拒否しておりますると、彼は反軍論者なりと認定いたしまして、憲兵の尾行までもつかれるように相なり、とにかく当時の軍需大臣東條英機が一大訓令のようなものを出しまして、むりやりに日発に占拠させるに至らしめてしまつた。爾来この日本水力工業株式会社というものは全財産が大牧発電所であつたのをとられてしまいまして、ほとんど会社は有名無実になり、今日に至るまで一銭の補償も受けておらぬような状態であります。新しい憲法治下におきまして、かかるところの状態が許さるべきものではない。個人の私有財産につきまして、ほとんど強奪にひとしいところの行動をときの政府及び日発会社が協力してこれを遂行した。これが私の質問いたさんとするところの事件なのであります。日発が日本水力工業株式会社の大牧発電所を占拠した根拠と相なつたものは何もないのであるが、当時の政府の電力局長の依命通牒というものが唯一の根拠であつて、この依命通牒なるものを見れば、この大牧発電所は竣工と同時に日発に属させることが適当と認めるものであるというような通牒を出しておりました。それでもなおがんばつておりますと、東條英機からの訓令も来る、憲兵もやつて来るというようなことで、遂に発電所のあらゆる施設、建造物、器具の一切をあげて日発に占拠せられてししまつたということであります。そこでこれはときの政府の行つたことでありますがゆえに、ことに今日の法務総裁などは、もちろん個人として責任はおありにならない。しかしながらやはり現在の政府でありますがゆえに、戦時中に行われましたる強奪にひとしい所有権の侵害に対しまして、政府はいかなる方策をとろうとしておるのでありますか。現在これは訴訟にも発展しておることでありますけれども、この訴訟の結果を待たずして、政府としてこれに対して適当なる措置をとるべきものである。本員がこの質問を展開いたしまする動機は、過日本衆議院に厖大なるところの本件に関しまする請願書が提出せられ、これが受理せられております。これは近く電気通信委員会にかけられるものと思うのでありますが、一体日本水力工業株式会社の所有物件を、いかなる根拠に基いて今日日発は占有しておるものなりやいなや。政府はこれに対して研究し、これが善後措置を講ぜられたことありやいなやということをまず第一点として御質問申し上げたいと思うのであります。
○殖田国務大臣 私はただいまのお話も承つておるのでありますが、かような例はほかにもありはせんかと思うのであります。しかしながら今日におきまして法律的にこれを解決いたしまする方法は、つまり民事訴訟によつてこれを決定するということが一番有効であり、また適切なる方法であると思います。承るところによりますれば、この日本水力工業会社では、発送電を相手どりまして民事訴訟を提起されておりまして、審理が行われておつたということであります。審理は相当に進行しておつたのでありまするが、何か理由がありまして、忌避の申立てがあつたために手続が停止されたということであります。私は民事訴訟が進行すれば、それでちやんとした法律的な適正な解決ができるものではないかと考えております。
○猪俣委員 政府におきましても、すでにこういう事案を御承知で、なおその他にもこういう事案が多々あるということを御認識になつておるようであります。そうしてこれは結局において裁判が解決するものであろうという御見解を承りまして、それも理由あることと思うのであります。但し私が政府としての所懐を要求いたしましたゆえんのものは、時の政府の電力局長がかような通牒を出したことからかような結果が生れまして、しかもこの大牧発電所という有力なる発電所が、一銭の補償もなしに今日まで過されておる。しかもここから毎年たくさんの電力が売り出されておるにもかかわらず、一銭の電力料の支払いも受けない。まつたく財産全部が沒収されたような形になつておりますが、これは裁判が解決すると称して、政府としては何らの手も打たぬでいいものかどうか、その意味の政府の所懐をお聞き申したいのであります。あるいは日発総裁その他を通じまして、あるいはいろいろの政府の機関におきまして、かかる戦争の無残なるところの被害者を、いかにして物質的あるいは精神的に慰めるかということについて政府はお考えになつたことがあるのであるか、ないのであるか。これは裁判が解決するものなりとして、政府は放任しておつていい問題であろうかどうか。さような点についての御意見を承りたいのであります。
○殖田国務大臣 当時といたしましては、多分法律的に見てそれが可能なる方法であるとして、政府は処置したものと考えるのでありまして、いろいろな法律関係がそこに生じておると思うのであります。今日におきまして、今日の考えをもつてそれを元にもどす、原状に復すということもなかなか困難な問題が生ずると思うのであります。そこでこれは裁判によつて動きのとれない決定をした方がよかろうと思うのであります。責任を回避するように見えるのでありますけれども、どうも政府といたしましては、当時そのことに携わつておらぬのでありまするから、裁判官に判定をしてもらうのが一番いいのではないかと思うのであります。ことに今の問題の解釈につきましては、何か日発で代償を申し出ておるそうでありまして、ただそれがその会社の考えとはたいへん離れておるようであります。それらも、もしできれば裁判によつて公平なる判断をしてもらう方が一番穏当ではないかと考えておるのであります。いろいろな戦時中にできました法律には、憲法違反の疑いのあるのもありまするし、また行き過ぎもありまするし、いろいろな問題があるのでありまするが、今となつては、どうもそれをわれわれの今の考えでもつて原状に復すということは、かなり困難ではないかと思うのであります。それよりもやはり公正なる裁判によりまして結論をつける方が手つとり早くもあり、また賢明ではないかと、実は考えておるのであります。
○猪俣委員 私は政府の責任を追求するという意味ではないのでありますけれども、新憲法下におきまして、かような戦時中の被害をなるべくフエアに解決するということが、現政府のとるべき態度であろうと考えるのでありまするが、どうもさような問題について政府に熱意が足りないのではないかと思われるのであります。法務府関係についての一つの例といたしましては、昭和二十三年八月に、この事件にからみまして、日発の社長加藤金次郎氏が発送電の総裁大西英一氏以下を恐喝及び殺人未遂で告訴をしておるのであります。これは東京の地方検察庁へ正式に告訴状が提出せられておるのであります。その事案は法務総裁はお聞きとりかどうか存じませんが、とにかくただいま申しました大牧発電所を日発に吸收すべく非常なる恐喝が行われた。その先鋒に立ちました者が時の土木部長であり、現総裁である大西であるということから、この大西総裁を相手にいたしまして恐喝で告訴をしておる。なお進みまして、この加藤金次郎氏が日発に吸收されることを拒絶いたしておりまする当時、この大牧発電所の現場から下山をいたそうと思いまして、自動車に乗つた。その右側は川の断崖であり、いつも左側を徐行すべきところの自動車が、どうしたものかその日に限つて右側を徐行するとともに、突如として運転手が運転台から自分一人飛び降りて、自動車をそのまま崖へ転落させた。幸いにして頭を打たなかつたために、一命は助かりましたけれども、右上膊を骨折いたしまして、現在に至つても右腕は不具であります。この運転手なるものをお調べくださると、当時の日発の悪辣なるところの——これはあるいは軍部のさしずかもしれぬが、悪辣なるところのやり方の一端が現われて来るのであつて、その自動車の運転手も現在富山県に現存しておる。なおまた奇怪なることは、それを目撃いたしておりました付近の百姓の一人に、その現場、田であつたものを全部畑に直し、その道の曲りくねりから道の地形を全部変更さしたという事件があるのであります。これも何人に頼まれてさような行動をしたものであるかということをお調べいただくと、事の事実がある程度発覚するということを告訴人は確言いたしておるのでありまするが、それもその人名、住所全部告訴状に書いてあるにかかわらず、足かけ三年にまたがつた今日に至るまで何らの搜査をなさつておらぬということに対しまして、告訴人は非常な不満を持つておるのであります。こういう問題について政府がことに関心を有するならば、こういう事実につきましても事の真相を探知いたしまして、そうしてこの被害者の魂を慰めるまでの行動を政府はとつてやるべき筋合いではないかと考えられるにかかわらず、何ゆえか東京の検察庁では、この告訴状が出ましてから七人も八人もぐるぐると検事ばかりかえてしまつて、いまだに何らの搜査をしておらぬということであります。いかなる事情に基いてかような捜査をやらぬのであるか、事が真実であろうが虚偽であろうが、とにかく相当の社会的地位のある本人が必死の勢いをもつてこの告訴状を提出しておるにかかわらず、検察庁がこれを相手にしないというような態度をおとりになつておることは、われわれ懐疑にたえないのでありまして、かような点はどういう事情に基いてかように事件の搜査が遅延しておるのであるか、あるいは事実搜査したものであるかどうか、その点を承りたいと思うのであります。
○殖田国務大臣 お話の加藤金次郎と申します人から、日発の総裁である大西英一、前総裁の新井章治というような人を相手にいたしました強喝、殺人未遂というようなことを指摘しました告発状が、お話のごとく一昨年の八月二十四日付をもつて東京地方検察庁ヘ提出されておるのであります。爾来東京地方検察庁ではこれが捜査をいたしておるのであります。右のほかに、これに関連しまして加藤氏より大西英一氏に対する偽証罪の告発もまたされておるのでありまして、これもまた搜査をいたしておるのであります。しかるに本年一月ごろになりまして、告発人と被告発人との双方から示談をするつもりであるからというお話があつたそうであります。そこで示談ができるならばというので、その経過を待つておつたのでありますが、双方の意見が一致を見るに至りませんので、三月中旬にこの示談の話が打切りになつた、こういうことを聞いておるのであります。従つて告発事件につきましても、そう長くひつぱつておくわけにも参りませんから、これは最終的処理を近いうちにいたしたいと考えておるのであります。また先ほど申し上げました通りに、民事訴訟が提起されておりますので、この民事訴訟事件の審理状況とも照し合せまして、それと見合いながら捜査をいたしており、決して何も無為にして手をつかねておるわけではないそうであります。いずれ近く何らかの決定を見ることと考えております。
○猪俣委員 搜査をなさつておるという御答弁でありますが、しからば告訴人が四人になつておる。新井章治、大西英一及び目黒清雄、小西成治。目黒清雄は建設省の官吏であります。小西成治というのは今申しました。自動車を転覆せしめた運転手でありますが、この目黒や小西に対しましてお調べになつたかどうかを承りたいと思います。
○殖田国務大臣 今のお話の人物は、まだ直接搜査をしておらぬそうであります。尋問しておらぬそうでありまして、中心人物についてまずきめて行きたいという態度であるそうであります。
○猪俣委員 はなはだ搜査方法としては私は奇怪に思うのであります。中心人物が大西にありといたしましても、搜査の常識といたしまして、まずまわりから調べて行くのが根本問題だ。ことに自動車をひつくりかえしました当の責任者である小西が、何人に頼まれてどういう事情でかようなことをやつたか、あるいはその地形を変更いたしました付近の百姓の名前もここに出ておる。さようなものをお調べにならぬということは、大体その搜査を真剣におやりになる意思がないのではないか、そういう疑いを告訴人が持つことも道理だと考えるのであります。なおまた電力局長から発送電に対しまして出した通牒だか訓令によると、とにかく東京検察庁に対して何万円で手を打つことができるか、そういうことを交渉するように検事に頼んでくれろという電力局長の通牒が出ておつた。これもはなはだ私ども奇怪であるのでありましてもちろん検察官が捜査の途中におきまして場合によつては事案については告訴人と被告訴人が示談をはかるということも往々あることでありましようけれども、これは本人が実に生命をかけて告訴状を維持し、どこまでも当時の暴力たる状態を爬羅剔抉したいという熱意に燃えていることは、検事が明らかにわかることでありましようし、日発もよくこれを承知いたしておるところであります。しかるに電力局長がさような通牒を出して、そうしてまた検察庁では、この告訴人の加藤金次郎を呼びましても、事案のことについては何も聞かないで、幾らで手打ちができるということばかり言つておる。大西を呼び出しましても、告訴の事案についはは何ら調査をせずして、金銭問題だけを中心にしてやつておるということは、犯罪捜査が主であるべき検察庁の検事の態度としてはふに落ちないものがあるのであります。そうして最も重要なるところの被告訴人に対しては何らの捜査もしておらぬということは、一体この告訴人の告訴状をてんから取上げない態度ではないか、これは戦争の犠牲者に対して現在の政府ははなはだ冷淡であるという例証の一つとされるのではないかと私どもは思うのでありますが、検事は示談を勧告するということもあり得ることでありますけれども、それはとにもかくにも、告訴されたら告訴の事実そのものの真相を把握いたしまして、それに立脚してのちにその示談の話というものは出るべきもだと思うのであります。これを全然取上げずして、総裁だけ呼んで、告訴人の言をかりると総裁をまるで殿様扱いにして、丁重に検事は取扱われて、そうして幾らで君は承知するのだというようなことで、かえつて告訴人に圧迫がましい態度で出ているということに対して、告訴人は非常に憤慨をしております。そこで検事のかような心構えに対しまして、法務総裁はどういうわけでかような捜査の常道を逸したところの態度をとつておるか、どうして事案それ自体を調査もせずして、ただ頭から何ぼで手を打つかということばかり検事がやつたのであるか、事の真実につきまして、もし聴取になつた事情がありましたならばお聞かせ願いたいと思うのであります。
○殖田国務大臣 私も実はその詳細なことは存じませんが、事案がとにかく経済問題でありまするから、経済問題の解決ができれば、それから解決をしてやつた方かいいと考えたのだろうと思います。それからまたおそらく当事者もそれができれば、それに越したことはないというようなことを申し出たのであろうと思います。加藤氏の方は現物を返してほしい、会社の方は金でやりたい。しかしその金も加藤氏の希望するような金額でないので、双方で相談したのであるようでありますが、それがまとまらなかつた。ただそれだけの手続を運ぶ以上は、それを持つてほんとうの捜査をした方がいいと考えたのであろうと思います。決しておろそかにしたのでもなく、またその大きい会社の便宜のみを考えたのではないと思います。相当な検事がそれを心配しておるのでありますから、ただたいへん遅れておりまして申訳がないのでありまするが、そんなに間違つたことをせずに、ちやんとこれからりつぱにやつて行くことと考えます。今後一層注意をいたすことにいたします。どうぞひとつ……
○猪俣委員 法務総裁から係検事に対して、特に注意を促していただきたいから申しますけれども、この告訴人加藤金次郎氏はただの一ぺんも金銭で解決しようということは言つたことはない。現在に至るまで自分の心血を注いでつくつた現物を返してもらいたいというのが、終始一貫たる熱情であつて、これは日発でも、検察庁でもわかつておるはずであります。ただ金の問題を言い出しては事件を今日まで延引して来て、解決されておらぬというのが実情であります。加藤氏はこの水力電気の堰堤をつくるのに対しまして、英、米、仏の特別な特許をとつておりまして、英、米、仏の法学博士の称号も持つておるわが国水力電気界の元老であります。この人が自分の持つておる私設鉄道から全部売り払いまして、この大牧発電所に、ときの戦時下電力需要に応ずべく、心血を注いで一万四千キロしか出ないものを一万八千キロ出るように改造した、そのとたんにとられてしまつたのでありますから、その恨みは察するに余りあると思うのでありまして、かような人たちに対しましても、もつと政府といたしましても、懇切丁寧にこの善後策を講じてやるべきじやないか、しかるに今日足かけ三年になつても、まるで取調べをしておらぬで、これを放置しておる。それにおいていろいろの疑惑——日発に買収せられておるのではないかというような疑惑さえ飛び出して来ておるのであります。そこで私どもははなはだ遺憾に存ずるのでありますが、こういう戦時中の事件に関しまして、申し立てられたるものに対しましては、すみやかに政府も特別な配慮をいたしまして、民事にしろ刑事にしろ、特に検察庁のごときは法務総裁が最高の責任者であられるのでありますから、係検事に対しまして、すみやかに事を善処するように御指示願いたいと思います。それには何よりも本人の恨み骨髄に徹しますところの告訴の事実につきまして、事の真相をすみやかに糾明するように特別なる御配慮を願いたいと思うのであります。この事件に対しまして、この意味を法務総裁に要望いたしまして打切りたいと存ずるのであります。 次に同じ日発に関するところの事案でありますが、これは過日日本社会党に正式に陳情書を持つて参りました。それは長野県木曽谷における中国捕虜虐殺事件調査書、この調査書に基いて国会においてしかるべく善処してもらいたいということを華僑商会、留日華僑民主促進会の代表者が四、五名参りまして私に陳情したのであります。そこで事が国際関係にもなりますことでありますし、われわれとしてはあることはある、ないことはない、とにかく政府といたしましそも事の真相を明らかにして、そうしてこういう疑いを持つておるところの中国人に対しまして事を秘さないで、明々白々に答弁し、また非は非と認めて陳謝し、慰藉を講ずる道があるならば慰藉するというような道をとらねばならぬのではないか、われわれはシベリア引揚げ同胞の問題を熱心に調査しておるのでありますが、中国から見ますならば、戦時中における中国捕虜の待遇につきましては、多大なる関心を持つことは理の当然でありまして真実なりやいなやはわかりませんにいたしましても、かような団体からこういう正式なる文書が出て参りまして、国会に陳情に参りましたからには、われわれもこれを否認することができないがために、一言御質問申すのであります。この件につきましては、先般も田中委員から質問せられたのでありますが、いずれ調査の上というような御答弁があつたかと記憶しておるのでありますが、この華僑商会の代表者が参つて訴えました事実は、これは戦時中の一九四二年から一九四四年の間のことであるそうでありますが、中国人の捕虜千五百名が、日本発送電株式会社木曽川水系の御嶽水力発電所建設工事に使役せられた。そうしてこの御嶽発電所は土建業者である間組、飛島組及び鹿島組、熊谷組というような人たらに工事を請負わされたそうでありますが、そのうちこの中国人捕虜が千五百名、内訳は間組が四百名、鹿島組が八百名、飛島組が百名、このほかに木曽の上松の工事関係者が百八十名、約千五百名であります。これらがおのおのこの発電工事に使役されておつたのだそうでありますが、うち終戦後帰国した明らかなものが約五百名であつて、残りの千名というものが今日行方不明であるというのであります。そうして当時のこの千五百名のうちで、正式に工事現場の役場に死亡者として届けられておる者が四十三名にすぎない。あとはやみからやみに葬られてしまつておる。そうして当時の捕虜の返還業務に当つておつた木曽福島の勤労動員署においても、捕虜に関する書類は一切焼き捨ててしまつてわからぬという答弁を言つておるのであります。しかるに付近の多くの人たちの証言によりますれば、ほとんど毎日数人ずつの死亡者が出ておる。しかしその死亡者の大部分は届け出ない。しかも毎日数人ずつ出ておつたにかかわらず、死亡届では同じ日に死んだように書いておるのは一人もない。その事由についてもあいまい模糊としておるというふうなことを付近の村民でも言つておる。その他トンネルの中で殺されたのを見たという者もあるというふうな事情でありまして当時の食事についても、詳細な調べは出ておるのでありますが、非常に食事が貧弱で、そのために夜盲症や皮膚病患者がほとんど大部分である。宿舎も疊がなくて、砂糖袋のアンぺラを敷いて寝て、夏冬を過しておつたというようなことが詳細に出ておるのであります。患者につきましても、医者はほとんど見てくれない。死んでから死亡診断書を書くだけだということも出ておるのであります。そこでなおこういう生活に耐えかねまして、暴動を起したことがときどきあつたそうでありますが、この首謀者といわれる者はどこかに連れ去られて、そのまま帰つて来ない。なおまた集団逃亡が前後三回あつたそうであるが、その都度これは失敗してつかまつた。付近の人の言いますところによれば、そのうちの三人の俘虜の様子は見ておつた者があつて、警防団か何かが取締りに出ておつてつかまつたそうでありますが、これは大震災時代と同じように、とび口で頭をぶち割られておつた者があるということが報告されております。その他非常にこまかい報告が出ておるのでありますが、かような事実につきまして、政府においてはお調べになつたことがあるかないか。調べたことがあるならばどういう実情であるか。彼らが訴えますことが荒唐無稽のことであるかどうか、もしまた多少事実なりとすれば、これに対して政府はいかなる態度をとろうとするのであるか、これは国際関係にわたりますはなはだ重大な問題でありますがゆえに、政府の所信をお聞きしたいと思うのであります。
○殖田国務大臣 木曽川の件につきましては、先般も多分お尋ねがあつたと思うのでありますが、かような事件は先般も申し上げました通りに、私の知つておりますところでも秋田県の花岡にもありますし、それから木曽川にもあります。千島にもあつたような話を聞いております。私自身の感想では、さようなことがあつたのではないか、全部その通りではなくてもあつたのではないか、こう想像するのであります。秋田県の件につきましては、いろいろな資料があつたとみえまして、すでに裁判にかけられて判決も相当な判決を与えられておるのであります。ただ木曽川の事件につきましては、今日になりまして証拠を收集することが非常に困難だそうでありまして、これはやはり一応は調査をしたということを聞いております。しかしこれが俘虜でありますれば戦犯の問題になりますので、日本側が直接これにタツチすることはできないのであります。俘虜でない労働者であるということになれば、今お話のような事件は、これは刑法の問題として、犯罪として捜査をしなければならないのであります。お話のごとく書類を焼き捨てたとか、責任者がどこに行つたかわからぬということで、実はいまだにはなはだあいまい模糊たる状態にあるのであります。これはひとつ嚴重に調べたいと私は思つております。昔のように内務省はございませんし、それに直接それを担当するような機関もないのでありますから、これは国警等に依頼いたしまして調査をするほかないのであります。はなはだ遺憾でありますが、それらの機関も不充分でありますし、また証拠も多数隠滅されておりまして、今日になつてはなかなか結論を得ることがむずかしいようであります。しかし放つてはおけないことでありますから、何とかしてとにかくもつと詳細な事件の様子だけでも知りたい、こう私は考えております。なかなか急に参りませんので申訳ありませんが、私はそのつもりで、できるだけの手はずを整えて進めたいと実は考えておるところであります。
○猪俣委員 法務総裁は調査をしておるということでありますから、なおまた仰せの通りなかなか困難な事案だと思われますから、ただちに結論をお出しになれないこともむりないと思います。これは法務総裁を御信頼申し上げまして、徹底的に調査していただく。ことに御嶽水力発電所建設工事の責任者は当時の工場長石川榮次郎氏で、今日栄転いたしまして日発の名古屋工場長か何かやつておられることでありますから、かような人についてとにかく一応お調べなさらないと、海外に対して、また中国人に対して申訳ないと思うのであります。それが調査が困難であるといたしまして放任的態度は許されないから、徹底的にお調べ願いたい。ことに俘虜であるとすると、進駐軍関係でありましても、進駐軍に協力するかあるいは積極的に材料を提供するか、いずれにしても日本人のやつた行動でありますがゆえに、法律関係は別といたしまして、信義の原則に立ちまして、日本政府みずからがこの捜査、調査に熱意を示しているということを中国人に示すことが、日華親善のために重要なる点ではないかと思いますから、切に法務総裁の嚴重なる御調査を願いたいと思うのであります。なおかつこの当時の雰囲気は法務総裁自身が御経験なされておるごとく、今日から考えると、荒唐無稽とも思われるようなことがはなはだひんぴんとして起つておる。そこで以上のことも、これは一言にデマだと言われないような点もある。日発会社の社員なり重役なりが軍部、官僚を背景にいたしまして、実に相当なる暴力を振つておつたことも御関心願いたい。 それから先ほど質問いたしました日本水力工業株式会社の告訴事件、これも今から考えると、荒唐無稽のような御感想があるかも存じません。あるいは検察庁もそのようなおつもりでこれを足かけ三年もうやむやになさつておるのかもしれませんけれども、当時のこういう事情から推察いたしますならば、あり得ることであるという観念のもとに、とにかく手を尽して捜査していただくということを最後にお願い申し上げまして、私の質問を終りたいと思います。
○田中(堯)委員 法務総裁にお尋ねしたいと思います。 先ほどのお話の中に花岡事件は捜査をやつた、今判決が下るばかりになつておるという御趣旨であつたのであります。そこでお尋ねしたいのは、この花岡事件の捜査は、中国人の俘虜虐殺事件として捜査を開始されたのですか、それとも普通人——軍籍にない俘虜でない普通関係として捜査を開始されたのですか、この点どうですか。
○殖田国務大臣 何でも軍事裁判だそうであります。日本の裁判ではない、従つて俘虜として扱つたものと思います。
○田中(堯)委員 それでは花岡事件の場合には、捜査開始前に占領軍から何分のさしずなり指令があつたのでございますか。
○殖田国務大臣 これは占領軍の指示に基きまして、占領軍に協力したということであります。占領軍が主体で、占領軍の捜査であつて、それにこちらが協力したということであります。
○田中(堯)委員 そうすると花岡事件では占領軍が主体でこちらが協力した。今度の木曽川事件については、占領軍からはまだ何とも発動の模様はありませんか、どうですか。
○殖田国務大臣 まだ実は占領軍から何らの指示がないのであります。
○田中(堯)委員 これは一般的なことについてですが、戦犯関係は終戦以来今まで、日本では一度も占領軍の指令なり示唆なり、何かさしずがない限りは、協力という意味で、みずから発動したことはないのでありますか。
○殖田国務大臣 戰犯であるという目ぼしをつけまして、日本側が発動したことはないそうであります。
○田中(堯)委員 今の木曽川事件も捜査をするということでありましたが、これは戰犯関係という容疑によつてですか。それとも普通事件としての容疑によつてですか。
○殖田国務大臣 私は木曽川事件は、ただらに捜査という段取りには行かないと思います。まず一応調査をいたしまして、戰犯関係であるならば戰犯関係で、われわれは手を引かなければなりません。戰犯関係でない部分につきましてほんとうの捜査をいたしたいと思います。
○田中(堯)委員 そこまでまだ——木曽川事件は戰犯関係なりや普通事案なりや、それさえも見定めのつかない程度の調査の段階にあるのでありますか、それとももう少し進んでおるのでありますか。その辺ちよつと具体的にお話を願いたいのですが、
○殖田国務大臣 どうも木曽川事件は実に漠たる調査をしただけではないかと思うのです。私どもはこれから調査をしたいと実は思つておるのであります。
○田中(堯)委員 私はこれで打切りますが、最後に希望を一言述べます。木曽川事件は花岡事件に劣らない非常に重大なる国際問題だと私どもは推定しております。すでにこれは日本の各層に相当大きな輿論が喚起されておるだけではなしに、国際問題にもなりつつあるようであります。そこでこれは誠意をもつて、一刻も早く、一体戰犯関係の事件なりや、あるいは普通事案なりやを見定める程度の調査ならすぐできると思いますので、至急にこれはとりはからつていただきたい、こういう希望を述べて私の質疑を打切ります。
○花村委員長 ほかに御質疑はありませんか。 ほかに御質疑がなければ本日はこれにて散会し、次会は明日午後一時より開会いたします。 午後四時二十三分散会