厚生委員会 第20号
- 発言数
- 110 件
- 登壇者
- 11 名
- 会派数
- 5
- 開催日
- 1949/05/16
会議録
○堀川委員長 これより会議を開きます。 まず最初にお諮りいたしますが、去る十三日の議院運営委員会の決定によりまして、理事を二名追加いたしたいと存じます。委員長において指名するに御異議ありませんか。 〔異議なしと呼ぶ者あり〕
○堀川委員長 御異議がなければ、中川俊思君及び木下榮君を理事に指名いたします。 次に去る五月九日に岡西明貞君、同十三日に逢澤寛君が委員を辞任いたしておりますので、現在理事が二名欠員になつておりますので、この補欠選任をいたさねばならぬのでありますが、委員長より指名するに御異議ありませんか。 「異議なしと呼ぶ者あり〕
○堀川委員長 御異議がなければ、再び委員に選任されました岡西明貞君、山崎岩男君を理事に指名いたします。 まず優生保護法の一部を改正する法律案を、議題といたします。質疑を通告順によつて許すことにいたします。丸山委員。
○丸山委員 優生保護法の一部を改正する法律案の大体の内容は、私は多少承知しておつたのでございますが、最初承知しておつたのと、今度参議院において修正を加えられたと見えて、多少変つた点がございますので、その点についてお伺いいたしたいと考えます。 まず最初に、十五條に第二項を加えて、「指定医師以外の医師は、母体の生命に対する現在の危険を避けるため緊急やむを得ない場合の外は、医療行為としてでも、人工妊娠中絶を行うことができない。」というような條項で、緊急やむを得ない場合には指定医師以外の医師たりともこれを行つてよろしいというような規定であつたのですが、それが削除されている。それは参議院において修正を加えられた結果だと思いますが、それを入れた方が明確になつていいのではないかと考えます。その点いかにお考えになりますか、まずそれを先に一つお伺いしておきます。
○谷口参議院議員 ただいまの丸山委員の御質問にお答えを申し上げます。初めは十五條の第二項といたしまして、指定医師以外の者は、緊急必要な行為以外は、たとい医療行為でも人工流産をしてはならぬというふうな規定を置いた方がよかろうというので、実は置こうということになつておつたのでございます。それが以前の第二國会における場合におきましては、二重の法律は出す必要がないから、それでこういう案を出さなくても十分わかつていることでありますので、その必要はなかつた。たとえば從來は医療行為としてずつと医学的の適應があります場合には、事人工妊娠中絶が行われておつたのでありますが、国民優生法ができまして以來は、國民優生法によつてのみ人工流産が行われるようになつておりましたし、また優生保護法ができてから、優生保護法の十二條、十三條によつて指定医がやることになりますから、この必要がなかつたというのでありました。けれどもこの項目がないと、やはり一般医師が間違えてやつたりいたしますと、せつかくの母性保護の立場から指定医を置いたのにかかわらず、相かわらず廣く行われて、母性の生命を危険にする機会が多いから、ぜひ置いたらよかろうというので置くことに実は初めいたしたのでございます。ところがその後種々審議を重ねて参りました結果、そういう場合はほとんどなかろうと思いますけれども、ある特殊の場合、たとえば指定医でない外科の方が子宮筋腫の手術をしますために腹をあけて見ますと、ごく初期の妊娠が成立しておる。その場合にその手術をいたしますと、むろん子宮筋腫が主治療目的でありますから、人工流産なるものはその副に起つたのであるけれども、やはり指定医でなければできないということになると、堕胎ということになりまして罰せられるようなことがあつてはならないというので、きわめて正直な、気の小さい医者がそのまま腹を閉鎖してしまつて、指定医のもとに送るというようなことがひよつとできてはいけないからというような話がございましたので、それでは特にここに重複して置く必要もないのであるからという関係から、第十五條の二を入れようとしておつたのをまた省いたようなわけでございます。
○丸山委員 これがなくなりました結果、指定医にあらざる者は、母体の危険を認め、緊急やむを得ないと認めた場合のほかには、人工妊娠中絶することができないことになるのですか。
○谷口参議院議員 これがなくなりますと、まず医師は御承知のように医療行為といたしましてはあらゆる場合に治療はできますが、この場合におきましては指定医以外のものは緊急避難行為としてはやられるけれども、そうでない場合は指定医でない方はやられないということになると思つております。
○丸山委員 なお先般の改正には別表を廃止いたしました。この別表は從來非常に煩らわしく、非常に多数の病名が羅列してあつたのですが、それを本法の中に入れまして、五項目に分けてこれを概括的に分類しようというような線で私どもは考えておつたのですが、その後再び別表が復活して参りました。もし別表が必要であるとするならば、やはり病名羅列でなく、五項目ぐらいの簡単な分類別にした方が非常に便宜ではないかと考えられるのですが、この点はいかがお考えになりますか。
○谷口参議院議員 速記をとめさせてください。
○堀川委員長 速記をやめて。 〔速記中止〕
○堀川委員長 速記を始めて。
○谷口参議院議員 ただいまの丸山委員の御質問にお答えいたします。初め病名を羅列いたしておりましたのを大きい項目に変えておりましたが、どうもそれでは不便だという関係からいたしまして、またあともどりして病名を羅列したような次第であります。
○丸山委員 終ります。
○堀川委員長 床次委員。
○床次委員 優生保護法につきまして数点お尋ねいたしたいと思いますが、第一は、優生的立場の問題から取上げてみたいと思うのであります。第三條の「遺傳性病的性格」の字句を「遺傳性精神病質」に改めたことは説明にありましたが、かかる病気を「有し、且つ、子孫にこれが遺傳する慮れのあるもの」という字句を削りまして、單に「有しているもの」に改められました結果、少し範囲が広くなると思いますが、それを予想してお考えになつておるのでしようか。
○谷口参議院議員 これは前のように「子孫にこれが遺傳する虞れのあるもの」といたしたのでは、非常に限局されまして、むろん調査をするのにも非常にめんどうでありますが、特に非常に厳選されるというようなことになりますので、今ごろの状態から考えましても、遺傳性の精神病というようなものであれば、「遺傳する虞れのある」とか言わずに、そういうものを持つておるものというように廣げた方がよかろうということで廣げるようにいたしたのでございます。
○床次委員 次に第四條の問題に移りますが、第四條の一番大きな問題は、今までのものは医師が「申請することができる。」とありましたのが、「申請しなければならない。」となりまして、いわゆる強制という形になつて参つたのであります。この強制が行われることに対しましては、一般患者と申しますか、これを受けまする者、あるいは一般国民の立場におきましても十分事柄を了解しなければならないと思うのであります。ただいまの第三條にも関連しておりますが、範囲が多少廣くなつた。廣くなつたことにつきまして一般の者がよく理解をすればよろしいと思うのでありますが、はたして十二分に今日理解することができるようになつたかどうかということをお尋ねいたしたいと思います。元來私は強制が考えられるようになつたことに対しましては非常に賛成なのであります。今日ここまで本法が発展して参つたことに対しては、私個人として非常に喜びでありますが、はたして一般国民がそこまで理解するようになり得たかどうか。特に直接関係があります指定せられました医師が、その医師の義務といたしましてここに立法することが、はたして上手にでき、確実に職責を果し得るかどうかについて多少懸念を持つのでありますが、これに対して御意見を承りたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまの御質問は、私どもも実はそう考えるのでありますが、御承知のように、この第四條におきましては、医師がそういう病名を確認いたしました場合に、公益上必要と思えば審査することができるというような、医師の任意判定にまかせておつたのでありますが、かかる病者は全部ぜひともそれらの子孫の出生を防止しなければならぬという立場から申しますと、医者に任意判定を下させるということでは不十分と存じまして、ぜひ医者に申請しなければならないという義務をつけることがほんとうに公益上必要であろうというようなことで、申請しなければならないことにいたしたのであります。なおまた医者の立場から申しますと、申請することができるというくらいの程度では、申請してもせんでもよい、あまりしていると患者の方から恨まれるというような点もありますが、申請しなければならないと法律で義務づけられておれば、安心して申請することができるという点があると思います。なおまた患者の立場から申しますと、患者自身には、これはよほど啓蒙いたしましたり、相当お話しなければならぬと思いますが、とにかく公益上必要なものにはぜひ十分啓蒙して、この意に沿うて強制優生手術ができますようにいたしたい、こういうふうな考え方であります。
○床次委員 ただいまのお話まことにけつこうだと思いますが、ここに強制し得るようになるためには十分な準備が必要だと思います。今回の改正によりましてこれが実施されることになりますれば、はたして国家において十分医者に啓蒙していただく。あるいは現在のお医者さんは十分啓蒙されておるかもしれませんが、遺憾のない程度にまで医者の方が周知しておるかどうか。また國民に対しましてもその周知の方法を講じておるか。あるいはなければ予算をとつてこれに対して十分なることをなさる必要があると思いますが、これに対する御準備はいかがであるか、お伺いしたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまのお尋ねはしごくごもつともと思つて、大いに賛意を表する次第でありますが、実はこれに対しまして特別に予算というほどのものはとつておりません。ただこの優生保護法におきましては、ぜひあらゆる方面に徹底せんければならぬというので、一昨日も申し上げたようにわずかばかり、百万円ばかりの金をもらつて、文書その他印刷物をもつて、あるいはいろいろ機会に啓蒙するというぐらいで、まだ予算もできておらないのでありますから、その点は御了承願います。
○床次委員 この問題につきましては、まずお医者さんの十分納得できる程度の啓蒙をぜひやつていただきたいと思うのであります。 なお参考までに伺いたいのでありますが、現行法の四條で、お医者さんが、どれぐらい申請をしておるかということを、これはむしろ御当局の方に承つた方がよいかと思いますが、承りたいと思います。
○三木(行)政府委員 前年度におきましては優生手術は二十七件であります。
○床次委員 ただいまの事項に関連いたしまして、これは医師に義務があるわけでありますが、申請しなかつた場合には、義務違反という問題も出て参るのであります。これに対しまして医師に対する励行の規定、あるいは制裁というものはどういうふうになつておるか伺いたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまのお尋ねでありますが、これは医師に対して義務づけいたしておりまして、医師に注意を與えはいたしますが、別に特別の処罰をいたすということまでにはしておりません。
○床次委員 次にただいまの強制申請に関連いたしますが、それぞれ、手続によつて医師が申請しました場合は、審査が行われる。その審査に対して不服の場合には、さらに訴えをすることができるというのがこの第九條にありますが、現在この第九條の規定はどんなふうに運営されておりますか。現状をひとつ御説明いただきたいと思います。こういうような事例があるでしようか。あるいはどうしても不服として、最後に訴えを起し、そのあかつきにおいて納得して手術を受けた。そういうことがありますか、どうか。
○三木(行)政府委員 御指摘になりましたような件は、ただいままでのところ一件もございません。
○床次委員 次に十三條の問題に移りたいと思いますが、十三條の問題はいわゆる優生の問題と、なおあわせて人口の問題も同時に含んで考えておられるように思うのであります。一應優生の立場において関連しておりますが、御説明をいただきたいと思うのであります。從來の規定でありますと、十三條の二号と三号は、およそ「分娩によつて母体の健康を著しく害する慮れのあるもの」という字が書いてありますが、今度の改正法によりますと、「妊娠の継続又は分娩が母体の健康を著しく害するもの」ということになつておりまして、「虞れのあるもの」という字が入つておらないのであります。これによつて適用の範囲が廣くなつたか、狭くなつたかということを承りたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまのお尋ねに対してお答えいたします。これまでの優生保護法におきましては、第十三條の第二号に「分娩後一年以内の期間に更に妊娠し、」あるいは第三号に「現に数人の子を有している者が更に妊娠し、」というようなふうにいたしておつたものを「一年以内」、「数人の子」というのをとりました。そうしてその先の方に「妊娠の継続又は分娩が母体の健康を著しく害するもの」として「虞れのあるもの」、というのを除けましたのは、「慮れのあるもの」と書きますと、いかにもよほど先のことを考えるようなふうになりますので、「著しく害するものという現在並びにごく近い將来を入れるくらいの程度の方がよくはないかというので、「慮れ」をとつたのであります。
○床次委員 ただいまの御説明によりますと、少し適用範囲が狭くなつたような感じを受けるので、重ねて恐縮でありますが、別の立場から同じ質問をしてみたいと思います。それは医学的適應によりまして子供をまだ一人も持たない、最初の子供を持つたときに医学上の理由でこれを妊娠中絶する。やはり母体に対して相当障害する場合に行われるのではないかと思います。これはやはりどういうものでありましよう、母体の健康を署しく害するときにおいて適用しておられるのではないかという気がするのでありますが、ただいまその「著しく害する虞れのある」という言葉とその間に軽重があるかどうか。二号、三号の場合と症状において軽重があるかどうかということをおたずねいたしたい。
○谷口参議院議員 ただいまの第十三條の二号、三号と申しますのは、私ども提案者として考えておりますのは、これは主として病気のないもの、病気というほどのものでないもの、病気であつて母体の生命を危険にするというのがこの第十二條の任意手術の方で、人工妊娠中絶をやりたい。第十三條の方は、病気ではないが、母体が妊娠のために著しく害されるというか、まだ病気というところまでなつておらない程度のものに対してこれを行いたい。從つて一人の指定医のみではいかぬから、他の医者の意見まで聞くというふうにいたしておるのであります。
○床次委員 ちよつと医学的の理論についてはわかりかねるのでありますが、今までは一人の子供、最初の子供を生む場合、あるいはすでに数人の子供を持つておつて、そうして妊娠した場合に中絶する場合、この場合には程度があるでしようが、数人の子供を持つておれば比較的軽くても妊娠中絶ができたという解釈なのでありますが、それが現行法の解釈でありますが、どんなふうに扱つておられますか。
○谷口参議院議員 実はこれは初妊の場合は別にいたしまして、一年以内とか、年子を持つとか、数人の子供を有するというところに持つて参りましたのは、主としてただいまのような関係でありまして、特に病的というようなわけではないのでありますから、数人の子がある場合には、一人の子よりも容易に流産を許すというような気持は十分あるのでございます。しかしそれは一つの含みでありまして、数人の子を持つているような方が妊娠をすれば、健康はきつとなお一層弱るだろう、またその後の母体の保護どころか、子供の養育まで困難しはせぬか、年子の場合もそれに相一致するというのでありまして、特別の差異は置いておらぬのであります。
○床次委員 これは現行法の字句の問題でありますが、どうも現行法ではあまりはつきりとこれを現わしていなかつたような気がするのであります。それで改正法と比べて見て私の疑問が起つたものかと思つております。 さらに次の問題を伺つてみたいと思うのでありますが、次は人口問題としての立場において考えられている向きが確かにあると思うのであります。この点本法は元來優生保護法という形になつておりまするが、從來これが人口問題的の立場において、便宜的に人工流産が範囲を廣く認められたという点があつたかと思うのであります。今回の改正法はさらにそれを多少廣くしようというところにねらいがあると思いますが、さように解釈してよろしいものでございましようか。
○谷口参議院議員 実はこの優生保護法は、御承知のように優生と母性の保護の二つを兼ね備えたものでございまして、人工妊娠中絶は、優生の必要からやる場合と、母性を保護する場合と、二つあるのでありまして、母性保護という立場から、母体の健康を害するものというのが特にあつたのでございますが、今回特に経済方面まで加えましたのも、ある一面から申しますと、人口政策的にも聞えますけれども、やはり母性の保護ということを土台にして、これに加えられておるのでございます。だから人口問題を直接に扱つているのではないのであります。
○床次委員 その点はよくわかりましたが、母性の健康を保護するために妊娠に対していろいろ準備する、場合によつては妊娠中絶をするというようなことも考えられますが、しかし妊娠中絶によつて健康を害せられるかもしれないという人は、妊娠する前に受胎調節を行うことが普通であろうかと思います。從來は実は受胎調節、すなわち受胎を予防するということは一般的には認められていなかつた、違法な行為であると考えられておつたのでありますが、最近いわゆる受胎調節薬が発賣を認められたことにより、結果において受胎調節をすることは社会通念上適法になつたと解釈できると思うのであります。從つて、妊娠によつて健康を害せられるおそれがある人は、妊娠中絶をなすよりも、むしろ予防的な立場においてまず受胎調節をなすべきものである。今度の改正法によつて妊娠を中絶する人は、受胎調節を失敗したというか、やるべき予防が効果を奏しないで、妊娠中絶をせざるを得なくなつた人でありまして、予防が徹底すれば、この適用は実際にはそう多くなくていいはずでありますから、受胎調節の失敗者がこの適用によつて人工妊娠中絶を受けるのであると考えてよいかどうか、お尋ねいたします。
○谷口参議院議員 ただいまのお話はしごくごもつともで、私どもも実はそういうふうに考えているのであります。人工妊娠中絶ということは末の末の話であつて、できるならば受胎調節によつてやることが、母体を保護する上から申しましても、母体の健康を害させぬ点から申しましても、危険のない点から申しましても、最もよいと思つておるのであります。ただ、ただいまおつしやつたように、いわゆる失敗した、目的を達しなかつたという場合に、これが適用されるようになりたいと思います。從つて今回の改正案の第二十條の優生結婚相談所というところにおきましては、特に受胎調節という点を強調いたしまして、受胎の調節に対する的確なる間違いのない指導法をやるようにしたいと思います。なお現在の國情からいたしまして、優生結婚相談所のみでなく、進んでもつと各指定医とか、各方面にまで受胎調節の指導をやらせなければならぬと考えておりますので、しごく同感でございます。
○床次委員 次に主として第三号の問題についてお尋ねいたしたいと思うのであります。現下母性保護という問題が今大きな問題でありまするが、同時に人口問題もずいぶん論じられておるのでありまして、この問題は同時に人口問題的な立場からも見ることができると思います。この規定が人口問題の一つの具体的な政策として新聞その他にも報道せられまして注目をひいておるところでありますが、ここには「妊娠の継続又は分娩によつて生活が著しく窮迫するもの」と書いてあるのでありまして、母体の保護というよりも、経済的原因を理由として妊娠中絶ができるという感じを強く受けるのであります。経済的な問題でありまするならば、本来社会保障の一つの法として生活保護法というものがありますから、生活に困難しておりますならば、生活保護法によつてそれぞれ給付を受けまして、これを分娩し養育するのが建前であると考えるのであります。しかし時局を反映いたしまして、人口問題的立場から妊娠中絶を認めるということも、あわせて加味されたのではないかと推測するのであります。單なる母性保護という以外にそういうものも含まれているかのように見受けるのでありますが、しかしながらここでは経済的原因だけが認められている。人口問題の立場からいたしますると、出産というものは元来いろいろな立場から制限し得るのではないか。まず予防の立場から申しまして、社会が望ましくない子供、両親が希望しない出産に対して受胎調節が行われておることを考えますると、この三号は幅が挾すぎるのではないかと考えるのであります。特に経済問題だけお取上げになつて、しかもこの経済問題を著しく窮迫という限度においてお認めになつたのについては、いろいろお考えがおありかと思いまするが、御説明いただきたいと思います。
○谷口参議院議員 第十三條の第三号に、生活が窮迫状態に陥るものとしてあげてありますのは、もちろん経済的関係も大いに加味しておるのでございますが、実は前回の優生保護法をつくりました当時に、やはり貧困というのを入れることがきわめて必要であるということも考えたのでございますが、その当時におきましては、貧困というようなことを人工妊娠中絶の適應症にしておる所は世界中どこにもない。何かスエーデン、ノルウエーでその前年の國会に貧困を適應として出したところが、國会で否決された。從つてそれを加味するために、それをカモフラージするために、ほんとうに貧困であれば、母体も妊娠中に十分な栄養がとれぬから健康を害するだろうというようなところから、健康を害する者というのを貧困のかわりに入れて通過をしておるということを聞いておりますので、実はそういうようなものを加味させて、第二國会のときには出したのでございます。ところがその後の情勢からいたしまして、どうしても経済的方面も一緒にはつきりと書いてくれ、そうせぬと現状においてはどうしても末端において非常に困るからというような要望が非常にありましたので、母性保護という立場だけではいくらか——むろん不十分とも思いますけれども、やはり生活が著しく窮迫状態になれば、母体の健康もそううまくは行かぬだろう。ことに生れる子供の養育の点において非常な心配があるだろうというようなことを加味いたしまして、これは單に母性保護というのみではなしに、ただいまお話になりましたような、いわゆる生活問題、経済問題をかなり取上げて一緒に加えたような次第でございます。
○床次委員 現在相当産兒制限の問題が論じられておるのでありますが、本法によりまして比較的生活に困難を感じておる者だけが妊娠中絶ができる、そうでないものはできないという結果に見えるのでありましで、この点はいわゆる人口問題の立場から見ますと、少し妥当でないのじやないかという気がするのであります。先ほども申し上げましたように、現在の過剰人口に対してある程度まで抑制を必要とするものは、社会が希望しないところの子女あるいは両親が希望しないところの子女というものが抑制せられる最初じやないか、もちろん優生的なものはその先にあるわけでありますが、そういう人たちから抑制して行つていいのであつて、必ずしも生活が困難だからとい理由でもつてこれが行われるのは適当でないような気がするのでありますが、いかがでございましようか。
○谷口参議院議員 私どもにおきましても十分その点は考えておりまして、貧困者全部にこれを適用したいというような気持はないのでございます。やはり貧困者のうちにも優生なものはぜひ残したい。また何かの方法をもつてそういう方には妊娠を継続してもらい、分娩をしてもらつて、その子供は何かの方法で育英方面におきまして十分お世話ができるようにいたしたいと思つておりますので、これは委員会におきまして審査申請をされました場合に、同時にその家の状況、あるいは兄弟の模様その他を調べまして、優生的のものはなるべく人工流産をさせぬようにしたいというふうに考えておるのであります。
○床次委員 ただいまの妊娠中絶の問題は、これを刑法上から見ますと、すぐ堕胎罪の問題になつて参ると思うのであります。この点法務廳の方の御意見も伺いたいと思いますので、法務廳の方の見える間、次の問題についてちよつと質疑をいたしたいと思うのであります。先ほどもちよつとお話がありましたが、優生思想を普及せしむるために優生結婚相談所というものが今後大きな役割を果すと思いますが、この優生結婚相談所の現在の開設状況といいますか、活動状況につきまして、当局の方からお話を承りたいと思います。なお國民の保健指導のために保健所というものができておりますが、将來保健所と優生結婚相談所というものがどんなふうな関係で働いて行くかということについて承りたいと思います。保健所はもとより本來の職務上当然ここに規定してありますようなことも行うべきであると考えるのでありますが、両者がともに働きますれば、相当これは普及指導上にも役に立つと思います。御当局の方針を承りたいと思います。
○三木(行)政府委員 優生結婚相談所の普及状況でありますが、これはこの法律の制定当時に所要の予算を要求いたしたのでございますが、予算が成立いたしませんでしたために非常に窮屈でございます。しかし各府縣が熱心に努力をいたしておりまして、ただいまのところ活動いたしておりまするものは十二、三縣でございます。なおこのほかにこの法律に基く民間の優生結婚相談所は四縣それぞれ活動いたしております。 なお保健所とこの優生結婚相談所との関係でございますが、この法律によりまして優生結婚相談所はこれを保健所に附置することに相なつておりますので、二枚看板でやつて行くということになるわけであります。しかしただいまのところでは予算がございませんので、保健所の母子関係担当の連中その他の職員がこの仕事に従事いたしておるというような次第でございまして、保健所活動というものと一体的に運営いたすことによりまして、この優生結婚相談所は相当に発展できるものである、かように考え、また奨励して行く所存でございます。
○床次委員 今回の改正法がもしも実施せられるとなりましたならば、先ほどもお話がありましたごとく相当予算におきましても拡充せられなければならないと思うのであります。特に強制という問題があります関係上、ただいまお話の保健所との併置もまことにけつこうでありますが、その内容におきまして十分活動ができるようにされるところの準備が必要だということを申し上げたいのであります。 次に二十八條につきまして、今回新しい改正が行われました優生手術というものに対しまして、レントゲン照射というものがはつきり加わつておりますが、この点に関しまして御説明を承りたいと思います。
○谷口参議院議員 お答えいたします。二十八條におきまして優生手術というのにレントゲン照射のことを特に附け加えましたのは、実は第二國会のときに優生的な処置すなわち永久不妊の方法をとるのには手術とレントゲン照射の両方を初めは加えようかという考えもあつたのでありますが、御承知のようにレントゲン照射というのは、個人によりまして、また分量によりましてなかなかきちんとした一定の期間をきめることができませんために、その期間の終りごろにおきましてひよつと妊娠いたしますと、よく畸形の子供ができましたり、比較的精神の障害された子供ができますような関係から、このレントゲン照射をもつて避妊処置に加えることはよくないという最近の結論に達しまして、從つてレントゲン照射というのは優生処置からはとりのけておつたのであります。ところがこの優生保護法において優生手術のみを取上げておりました結果、中にはこの手術をきらいまして、いわゆる避妊処置としてレントゲン照射がかなり廣く行われておるというような状況になりましたので、これではせつかく優生という方面でやつたことが、実際においてかえつて悪い結果を起こしてはならぬというような関係からいたしまして不妊を目的とするところのほかの手術またはレントゲンの照射によつて不妊をするということをやつてはならぬ、そういうことをやらさぬようにするという、禁止した條項になつて、おるのであります。
○床次委員 大体御説明ありがとうございました。法務廳の方が見えましてから、さらにこの問題につきまして質問を継続いたしたいと思いますが、なおこの機会にまとめて一の提案者に御説明を伺いたいと思いまするが、ただいままでのお話によりますると、人工妊娠中絶の問題は、大体母性保護という立場において立案しておられるようでありますが、時節柄でありますので、ある程度まで人口問題という立場からもお含みになつて規定しておられる。そういう御趣旨も相当あることと承つていいのでございましようか。あるいは純然たる母性保護という立場でありましようか。
○谷口参議院議員 実はこの一部改正をいたします場合に、受胎調節というのを土台にいたしまして、いわゆる人口問題も加えまして、これに一緒につけ加えたいというような考えを持つておつたのでございますが、受胎調節法というのを法律にすべきかどうか。とにかく受胎調節についてのことをこの中に入れるということはなかなか困難と思いましたので、今回はただ一部受胎調節の必要ということを第二十條の優生結婚相談所の中につけ加えたのみで、これをおいたのであります。從つて土台が優生事保護法というのに、十分な人口問題までも入れることはできませんので、人口問題はまた人口問題としてもつと別の方向から取り上げて行きたい。しかしこれもある一部分は人口問題の解決、あるいは人口の過剰とか、ことに不良な人口の抑制に特に資したいというような気持から提案しておるような次第であります。
○床次委員 ただいまのお話を承りまして、第十三條なり十二條の問題でありまするが、人工妊娠中絶を行うということに対しましては、ある程度まで人口問題の見地を加えて規定するということをお含みになつておることと承知してよろしゆうございますね。
○苅田委員 優生保護法の一部改正する法律案につきましては、私どもは法律の全文につきましての資料を持つておりませんし、それからまたそのほかの現在の優生事情の現状についての資料もいただいておりませんので、二点につきまして、あとからなるべく資料をいただくことにいたしまして、この席でそのことに関係してお尋ねしたいと思うのです。ですからこれは法律の改正に関係がございませんので、厚生当局の方から御返答いただいた方が適当かと思います。 ただいま床次委員の質問にお答えになりました政府の方々の御答弁の中に、今後は優生相談所は保健所と二枚看板にするというような御答弁だつたと思うのですが、そういたしますと、現在の保健所は全部優生相談所を兼ねるようになるのでございましようか。この点をひとつ伺いたいと思います。
○堀川委員長 苅田委員にお聞きしますが、当局の方にお開きになつたのですか。
○苅田委員 その方が適当だと思つたのでありますけれども、谷口議員のお答えの方がよろしければ——私の方はどちらからでもお答えはよろしい方でけつこうでございます。
○三木(行)政府委員 先ほどもお答え申し上げましたように、優生保護法の予算が成立しておらないのでございます。ただいま十二、三の府縣において優生結婚相談所と保健所に附置いたしておりますが、その必要度に應じましてすべての保健所にこれを均霑して行くというように進めて行きたい、かように考えております。
○苅田委員 ただいま御計画になつているところはどんなところでございましようか。そういうようなことを少し具体的に伺つてみたいと思います。
○三木(行)政府委員 ただいま最もよく活動いたしておりまするものは、愛知縣名古屋の保健所でございます。その他の保健所におきましても、大体御承知のように、各府縣には一つのモデル保健所と申しますものがございまして、これが模範的な保健所の運営をやることになつておるのでございますが、それらのモデル保健所にまず優生結婚相談所を附置いたして、逐次廣めて行くという所存でございます。
○苅田委員 そうすると、大体各府縣にさしあたり一箇所ずつは保健所が優生結婚相談所の仕事を扱うことになるわけですか。
○三木(行)政府委員 さしあたりの目標といたしましては、御意見の通りであります。
○苅田委員 それから優生結婚相談所の仕事として、優生保護上の必要な知識の普及向上のためにやるということが規定されておるのでありますけれども、私はこういつた方面は特に日本の婦人あたりは遅れておると思うので、これは必要なことだと思いますが、從來はどういうふうな実際の仕事をやつておりましたか。そういうことについて御質問いたしたいと思います。
○三木(行)政府委員 從來優生思想の普及ということはすでにやつておつたことでございますが、特に優生結婚相談所においては、それら優生思想の普及というような点、あるいは結婚の相談に乗る、あるいは不要な子孫の出生を防止するというような具体的な方法をただいまやつておるのであります。ただいま取扱つている件数なり、その内容等におきましては、きようは資料を持つて来ておりませんので、ただいまお答えいたしかねる次第であります。
○苅田委員 もしそういう具体的な資料がありましたならば、それも後ほどいただきたいと思うのですが、お願いいたします。一ころ全国各地でもつてお産の映画というふうなものが、医術映画という名を借りまして、公開されたことがあつたと思うのでありますが、これに対しまして、婦人團体から、いかがわしいという見地から非常に反対が起つたと思うのでありますが、こういう問題に対しまして、厚生当局はどういう御見解を持つておいでになるか、これをひとつお伺いしたい。それからまた婦人衛生の点につきまして、現在の婦人労働者の生理休暇等に関しましても、やつぱりそういつた衛生思想が普及しておらないために、せつかく與えられたこの生理休暇が濫用される傾きが起つておる。これは組合等でも問題になつておる所もあるわけでありますが、こういうことは至急にそういつた衛生思想の普及していない婦人労働者の間に、適当な、それこそ良心的な見地から、正しい婦人衛生を教えるような、そういう映画なり、あるいはパンフレットなりというものが私は必要だと考えるわけであります。それから特に農村の婦人なんかは、こういつた思想の欠如から非常に流産が多く、また悲惨なことがたくさん起るわけで、そういつた点から一層こういつた方面の宣傳的なことが非常に急務となつて来ておるのではないかと考えるのでありますが、この二点について当局のお考えをお伺いいたしたいと思います。
○三木(行)政府委員 御指摘になりましたお産の映画等について、特にいかがわしいものがあるではないかというお話でございますが、これは風俗警察の問題でございまして、私どもといたしましては困つたことだと思つておりますけれども、所管外のことであります。しかしこういうことがございまするので、一層正しい優生知識の普及を念願いたしまして、そのために保険所はプロパーとしてもやつておりますが、なお優生結婚相談所につきまして具体的なこれらの指導と申しますか、宣傳と申しますか、そういうことをやつておるようなわけであります。なお保健所には衛生知識の普及を目的といたします普及課という特別な一課を設けておるのが常でありまして、これらを通じまして一般の衛生知識の普及向上に努力を拂つておるのであります。今日の衛生行政は、申すまでもなく納得していただくということでなければ、ほんとうの結果も得られませんし、それがまた民主的な行き方でございますので、その点には特に留意いたしておるわけでございます。ただ御指摘になりました生理休暇等の問題につきましては、労働衛生の面になりますので、労働省の方でそれぞれ適切な措置を講じておることと存ずる次第であります。
○苅田委員 労働省の所管になつておることは私も知つておりますが、ただいまの答弁では適当な処置を講じておられたとおつしやるのですが、私ども地方で実際婦人運動に携わつておりまして、そういうものが非常に少いように思われます。ほとんど皆無と言つていいほどないのであります。それでぜひ政府の方で正しい婦人衛生思想を普及するようなものをつくつていただきたいとかねがね考えていることなんで、私どもといたしましては、そういうことが日本にあるということも聞いていないわけであります。このほかにも、どういうふうなものがあるかをお聞きいたしたいし、それから同じように農村の婦人に徹底しないために、非常に悲惨な点がたくさんあるわけで、そういう点にももつと力を入れて、普及、宣傳、啓蒙活動をやつていただきたい。かように考えるわけであります。
○三木(行)政府委員 御指摘になりましたように、ただいま私の申し上げました労働省でやつておりますのは、組織労働者が対象でございまして、御意見のように農山漁村の一般婦人、それらに対する生理時の注意というようなことは、まさに保健所の仕事と末端においてはなつておるのであります。元來保健所というものは衛生教育、衛生知識の普及徹底を主眼といたしましてできた役所でございまして、今日においてもそれが一番大きい仕事に相なつておるわけであります。今後も一層その点について留意をいたし、保健所に母子関係の課、あるいは係りがございますが、そういうところと普及課との連絡を密にして、そういう点にも大いに力を入れてやつて行くようにいたしたいと思います。なお労働省とも十分連絡をとりたいと思います。
○苅田委員 私適当な機会に労働省関係の方をお呼びいただいて、現在の婦人労働者に対してどういうふうな衛生に対する行政が行われているかということをお聞きいたしたいと思いますので、ぜひひとつお願いしたいと思います。それからこれは新聞紙に報ぜられておつたのでありますが、大阪の衛生結婚相談所の地区に「母子の町」というのが今度建設される予定であるというようなことを新聞で拜見いたしたのですが、こういうことについてどういう構想であるか、おわかりになつておりましたらお伺いしたいと思います。
○三木(行)政府委員 私まつたく存じませんので、児童局長でも参つておりましたならば存じておるかもわかりませんが、たいへん残念に思います。
○苅田委員 谷口議員もし御存じでしたら……
○谷口参議院議員 私も存じません。
○苅田委員 それではそのことにつきまして、兒童局関係が御存じでございましたら、こういうことは日本には今までないことだと思いますので、もう少し詳しい具体的な案が知りたいと思いますから、適宜のときに御答弁願いたいと思います。これで一應私の質問を打切ります。
○堀川委員長 それではこの際お諮りいたしまするが、委員外の佐瀬昌三君より、本案に関して委員外発言を求めておられますが、これを許すに御異議ありませんか。 〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○堀川委員長 御異議なければこれを許すことにいたします。佐瀬昌三君。
○佐瀬昌三君 法務委員会の委員として、本法案がひとり医学、優生学的見地から重要であるばかりでなく、経済、社会、ことに社会風教上また從つて刑法上きわめて重要性を持つた内容がありまするので、私どももその立場から本法案に対して若干お尋ねをしておきたいと思うのであります。きわめてこの法案が進歩的であるという点において、提案者に対しては深く敬意を表するものでありますが、ただいま申し上げましたような意味において、きわめて重大な内容を持つがゆえに第一條以下関係條文について私どもの疑念とするところをこの際明らかにしておきたいと思うのであります。今までの御質疑の中にも取上げられたものがあるので、なるべく重複を避けて、要点的に申し上げてみたいと思うのであります。ことにこの改正によつて、この法律の適用を拡大して行こう、その実施の効果を廣めて行こうというのが提案者の立法趣旨のように私どもは拝察するのでありますが、大体方向としてはそういう心構えのもとにこの法案が立案されたかどうか、まずもつてその点を承つておきたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまこの法律の一部改正をするようになつたのは、これを少し拡げて徹底させるためかどうかという御質問と思いますが、この一部改正によりましてこれで行い得なかつた部分、あるいは不徹底であつた部分を十分徹底させまして、優生、あるいは母性保護という面をなるべく應用して、人工妊娠中絶のできる範囲を拡げてやりたいという気持でおります。
○佐瀬昌三君 この法案の扱いについての問題でありますが、提案者、もしくは主管省である厚生省において、法務廳と何か折衝されたかどうか、その点を明らかにしておきたいと思います。
○谷口参議院議員 お答えいたします。この法案をつくります場合にはむろん草案をいたしましてから、参議院の法制部の方々に大いに協力していただきまして、なおその上高等檢察廳とか、あるいは法務廳などの、ことに法務廳の法務局の方々にも來ていただきまして、そうしてこの法案をいよいよ決定します場合には皆さんの御意見を拝聴した上でやつて行つたのであります。
○佐瀬昌三君 法務廳もしくは法務委員会、またそこで扱う刑法の一般原則の上に立つて、この法案を眺めてみますると、特に十三條が重要性を持つわけであります。第一次大戦以降各國とも人工的妊娠中絶、いわゆる堕胎については、新しい事態に即應して改正を遂げようという立法運動が世界各國とも盛んになつて来ておつたのであります。その改正の要点はどこにあつたかというと、刑法の新法、その他社会、経済の要請といつたような観点、特に医学的な立場からの要請というものもかみ合せまして、大体この人工中絶を認める原因としてあげたのがいわゆる優生学的適應症、医学的適應症、経済的適應症、それから社会的適應症というカテゴリーにわけて立法化も考え、また学者も検討しておつたようであります。最も理想的な案がそういう観点から確か一九二三、四年ごろにチエコ・スロバキアの改正草案になつて現れ、しかしてまた一方においてはロシヤが一九二七年から堕胎罪の撤廃法を認め、またフランスが一九二四年に暫定的ではありますけれども、堕胎罪の撤廃の法律を制定したという経過になつております。これらの法律、あるいは法案の全体系からそれを圧縮して見てみますと、特にこの第十三條に照してみますと、きわめて共通したものは、優生学的適應症と、医学的適應症を認めることについては何人も異議はないのであります。問題はさらに経済的適應症、社会的適應症をも同時に認めるかどうかという点においてきわめて難点があり、今までの立法化もなかなかこれをなし遂げることができなかつたことに相なつて今日に及んでおるのであります。今回の改正法案を伺つてみますと、この第十三條第一項第一号がいわゆる優生学的適應症を認め、第二号が医学的適應症を認め、しかして第三号では経済的適應症を認め、さらに現法律の第四号がいわゆる社会的適應症を認めておるという形になり、從つて今まで申し上げました世界各國の求めておつた立法的な傾向としては、最も模範的な法律になり、少くとも形の上ではさようになるということが断言できると思うのであります。しかしながらすべて法はただ理論一点張りで行くわけには参らぬのであつて、常にその時代の社会的秩序というものが根本であります。またそれを基礎にしていろいろな法制がしかれておる。これらとにらみ合せて、むりのないような均衡のもとに、新たな法律がつくられねばならぬというのが立法の要諦であります。しかるにこの進歩的な模範的なこの法案をさような立場から考えてみますと、きわめてこれはいわば進み過ぎて、おるのではないかというふうに思われるふしもないではないのであります。そういう意味合いのもとに私は以下この内容について檢討しつつ提案者の、またそれに対する御解明を得たいと考えるのであります。 第一はこの法律の第一條に目的が明らかにされておるのでありますが、これは先ほども谷口委員からこの点にも触れられて、この法案の目的は優生学的の見地からということと、母性の生命の保護を目的とするとまことに明白にこれが規定されております。しかるに先ほど伺つたように、この適應症をだんだん拡張して行こうという御趣旨、またこれは床次委員からも先ほど第三條、第四條に触れられて條件を緩和して、この法律の適応を広げて行こうというような説明があり、さらにこの改正案第十三條第三号のいわば社会経済的適應症を認めるというふうになつて來ると、きわめてこの法律の内容が廣汎になつて來る。言いかえるならば、ひとり優生学的な見地、あるいは医学的な見地からのみではなくして、社会的に経済的にこの法律に言ういわゆる人工妊娠中絶の適應症を拡張して行くということになると、これはまつたく刑法の堕胎罪に対する例外規定である。優生法学的な—この法律の名前にありますように、優生保護法という範囲、わくを越えてしまつて、非常にこれは廣汎なものになつてしまう。そこに私はこの法律の悩みがあるのではないか。いわばこの第一條の目的の範囲内において今申し上げましたようないろいろな点を廣げて行くということに非常にむりがあるのではないかということをまずもつて考えてみたいのであります。從つてもし徹底した法律を新たにつくるというならば、これは一應出直して、もつと以上申し上げましたような点を他の法制とマッチした上において考えるということが実は必要ではないか。またそれをなすごとによつて初めて名実ともに備わつた模範的な、世界においても進んだ日本の文化国家としての一面を躍如たらしめるところの法律ができるのではないかというふうに考えるので、それらの点について今まで何かお考えがあつたかどうかというようなこと、またそれに対する提案者のお考えなり御意見なりがあつたならば、また厚生省当局においてもそういう点について御意見があつたならば、この機会に承つておきたいと考えます。
○谷口参議院議員 ただいまのお話のように、この優生保護法といたしましては、この法律の目的をはつきりと書いております。またその線に沿うてやつて行こう、あるいはなお進んで姉妹編として受胎調節法とでも言うようなものを出してみようという気持はあつたのでありますが、とにかく優生あるいは母性の保護の立場からいたしましても、その適應症は医学的優生学的に、あるいは倫理的、経済的、社会的とかいう方面にわたつておりますが、とにかくある点は母性保護という点にも入るというような関係からいたしまして、十三條のところはいくらか広げておるということは認めておるのでございますが、先刻も申しましたように、やはり母性を保護する上からいつて、どうしても社会的方面まで進めねば、今の現状といたしまして母性の保護ができにくいというような立場からそこまで廣げたような次第であります。
○三木(行)政府委員 この法律の起草にあたりましては、われわれも下相談して二、三御相談を受けたのでございまするが、これらにつきましては私どもとしての意見は申し上げてあるのであります。ただ委員会等におきましては、私どもはその立場といたしまして、政策の樹立に関する一面につきましては発言をいたすこともできませんので、主として法律施行者の立場から、その施行がきわめて適当でないというような面につきましては発言いたしておる次第であります。
○佐瀬昌三君 第十三條の具体的な内容に入つてみたいのであります。これは言葉の問題であると同時に内容の問題にも入るのですが、一般におそれあるものという言葉を削つて——これは二号、三号の場合でありますが、健康を害する、あるいは生活を窮迫にするということに改めようということは、これは実際の適用においては非常に狭くなる。これは法律解釈の常則からいつて狭くなつてしまう。せつかくの立法の趣旨は、そういう意味からいうと没却されることになると私どもは考えます。これは先ほど床次委員からも言われたことでありますが、他の法律の場合の用語においてもしかりでありますが、むしろこれはおそれあるものという含みを持たした方が、私はこの改正の趣旨に合致するものであると考えるのであります。ただ問題は、一体健康を害する、あるいは生活を窮迫にするということの認定がはたして妥当にできるかどうか、そのおそれあるものということの認定ができるかどうかということについて、運用面で多少不安を持つのでありますが、これはその関係者の良識と研究とによつて、私はそこまで運用にあやまちなきを期し得ることができるのではないかと思うのですが、その点についてもう一度提案者はどういうお考えのもとに割愛になつたかを御説明願いたい。
○中原説明員 おそれのあるものというのを削りましたのは、こういう表現を残しておきますと、非常に遠い將來のおそれまで含むという誤解を生じておりますので削つたわけであります。著しく健康を害する、こういうことにしてありますと、現在害しているものだけでなく、ごく近い将来の時期に害するものも含まれる、こういう解釈でこの言葉を使用したわけであります。
○佐瀬昌三君 もつと根本的な問題に入つてみたいのですが、第一号はもちろんこれは何人も異議のないことであります。第三号の医学的適應症の場合に、母体の生命もしくは健康について著しく害するような、いわば窮迫した事態があるということであるならば、これは本來かような規定をまつまでもなく、実は刑法の三十五條の、医者としての正当の業務行為、もしくは母体の方から言うならば、三十七條の緊急避難権としてこれは当然なし得ることになつております。問題は刑法で言う医業権の適用の範囲外、もしくは國民の方からいうて、緊急避難権の範囲外に出る場合が初めて問題になる。それはいわゆる過ぎたものとして、やはり刑法では犯罪になるかどうかということが残された問題になる。それを私はここに救い上げて、そういう場合もこの法律で大丈夫だというところに、この特別立法の存在価値があるのだ、かように考えます。從つてこの緊急避難や医家としての業務権の適用でまかない切れないいわゆるおそれある場合をここに包含することによつて初めてこの立法が生きて來る、かように思うのでありますが、その点はいかがお考えになつておられるか、もう一度はつきりさせていただきたい。
○中原説明員 ただいまの御質問は、医学的適應症の問題に関連しておると了解いたしましたが、医学的適應症にあたつて、人口妊娠中絶をした場合に違法性が阻却されますのは生命の危險と関連しておる場合だけであるという解釈をとることが一番無難な立場だと考えまして、それは十三條の人工妊娠中絶ができる範囲に属するものという解釈をいたします。十三條の第二号に掲げました、健康を著しく害するという場合には、必ずしもそういう微温的な解釈だけでは救えない場合があろうかと考慮しまして、特にこれは廣げる意味で規定したわけであります。いま一つ、おそれのあるものということを削つたことにつきましては、先ほど御説明いたしましたように、実際の運用はおつしやる通りに、そう遠い将来の危険性までは考えてやらないのでありますが、一應字句の解釈の上からは、相当に遠い将来の危険でも、あるいは健康度を害するおそれがあつても、一應は合法化されるという解釈も成立ちますので、念のために間違いのないようにという意味で削つたわけであります。
○佐瀬昌三君 ただいま言われたのは生命ということを中心に考えられたようですが、これは医学的適應症を合法の上で認める場合には、三十七條も明確に文字に表わしておりますように、生命及び身体ということになつております。身体というのは要するに健康の問題であります。そういう御懸念は別に抱く必要はないのでありますが、私はさきに申し上げました理由によつて、せつかく設けるならば、これはいわば医学的適應症と優生学的適應症は世界各国異論のないところでありますから、それはなるべく廣くここで認めてやるという立法形式をおとりになつてやつた方がよろしい、こういうように考えます。それはその程度にしておきまして、問題は第三号の経済的適應症の問題であります。この経済的適應症を認めることについての大きな難点は、法律というものはひとり貧乏人のためのみではない、すべて法の前には平等であるという考え方から見まして、富者と貧者によつて適用の違いができるという法律はそもそも法の一般性、普遍性に反するものであるということから、実はそういうような特に貧困を理由とするような経済的理由によるような法というものは、本来これは歓迎されない建前になつておるのであります。從つて貧乏とかあるいは生活苦ということを特に理由として、特別な法律をつくるという場合には、よくこれを愼重にしてやらなければならぬ。法の性格からしてさように考えて行かなければならぬというのが一般の建前になつております。これは立法の理想という面から見て、そういうことがこれはもうきまり切つた文句になつておるのであります。そこで堕胎を、貧乏あるいは生活苦を理由として特に認める法律をつくろうというのは、今申しました原則に反するということから、これはなかなかつくろうとしても國会や学会で今まで世界各國とも認められなかつたことになつておる。それから次にそういう難関を突落して、特に現在は経済問題あるいは失業問題等これから起る社会、経済不安の上に立つてかような法律が必要であるということに一歩譲つてみましても、はたしてかような経済的事由によつて例外法を認めるということが、その結果において立法の目的を達することができるかどうか。いわば実益論に立つてみて、やはり疑わしいものがあるのではないかというのが、従来一般に問題とされて來た、かかる立法が簡単に許されなかつた大きな理由となつておるのであります。言いかえるならば、経済的理由で、貧乏とか、生活苦とか、失業ということによつて生ずる問題を解決するのは、かような堕胎を公認するとか、人工的に妊娠を中絶する方法を講ずるとかいうような末節的なことではこれは不可能である。もつと根本的な生活保護法、あるいは母子保護法とかいろいろ社会的立法とその実行によつて初めてそれはまかない切れるものであるということが大きな理由になつておるのであります。私どもは現在堕胎なり人工中絶をする事例について、いわば実証的にその理由が何に基づいておつたかということを実は明らかにしたいのでありますが、これはおそらく当局においてもさようなものを統計的にお調べになつておるとは私も思いませんので、ここでただちにその資料を出していただきたいというむりな注文はいたしませんが、少くとも私どもの研究調査しておりまする結果から言うと、実はそういう経済的理由で堕胎をしたいというのは、これはパーセンテージから言うと少い。むしろその次の四号にありますいわば社会的事由による堕胎という理由の方がむしろ多いというふうに確信を持つておるのでありますが、要するに経済的理由によるものが少いのにかかわらず、法律をもつてそれを堂々と認めるということは、実益的に見てもこれはあまり意味のないことではないか。むしろそれを認めることによつて生ずる弊害の方がきわめて多いのだ。もちろん私どもは生めよふやせよというような古い観念的なもので臨むことが許されずして、現在の経済生活の実態を把握して、それに基いて家庭あるいは親子というような問題も処理して行かなければならぬ必要性は十分認めるのでありまするけれども、しかし今言つたような理由から、これを刑法の堕胎罪をも制限するような、経済的な理由に基いてかような堕胎を公認するという例外法をここに特に設けるだけの積極的理由がどこにあるかということ、実は今までのかかる立法に対する根拠、それに対する私どもの見解から、ここにあらためてその点をお伺いしておきたいと、かように思うのであります。
○谷口参議院議員 佐瀬議員のお尋ねに対しましてお答え申し上げます。実は先刻、これはすでにお話の済んでおつたところでございますが、十三條第二号におきまして、「妊娠の継続又は分娩が母体の健康を著しく害するもの」というので、「虞れのあるもの」というのがないということに対しましては、私どもはこれは医学的の立場から申しまして「虞れのある」と言わなくても、すでにそれを医学的に判断をいたしまして、そして著しく害するというふうに思う方がよかろうというので、「虞れのある」という言葉を特にとつておいたのでございます。 その次に三号の「妊娠の継続又は分娩によつて生活が窮迫状態に陥るもの」、この経済的の理由を言うのは非常に進み過ぎた、あまりむりではなかろうかというようなお話をいただきましたが、私どもも実はかなりこれはむりをしておるということは考えておるのでございます。先刻も申しましたように、第二国会におきましてもこれを入れたいと思つたけれども、どうもそこまで入れるのは少し行き過ぎだろうと思つて、第二国会に優生保護法を提案しました当時までは、そこまで断行しきれずにおつたところが、その後の情勢からいたしまして、先刻も申し上げましたように、どうしても今の日本の現状といたしましては、経済的適應症を入れるということがきわめて必要である。これは見解の相違かもしれませんが、佐瀬議員のお話では、これはやつてもほんのわずかなものであろう、数は少なかろうというように仰せられたのでありますが、私どもといたしましては、実地にこういう方面を見ておりますと、これはかなり多いように思つておるのでございます。かえつて第四号の「暴行若しくは脅迫によつて」とか、強姦的のものは比較的少ないけれども、この方はかなり多くはなかろうかというように思つておるのであります。現在におきましてもいろいろと産児制限などをやつた例とか、あるい受胎調節の調査などを見ると、ことに東京附近の模様を見たり、あるいは英国の例を見ましても、経済的理由というのが七〇%ないし八〇%くらいも出ておる。経済的理由をもつて産児制限をしたとか、受胎調節をやつたという統計が出ております。第三号というのは非常に多いように考えておりますので、この際はどうしてもこの三号を改正案の中に入れませんと、どうも目的を達せぬというような関係からいたしまして、特にこれを入れることにいたしたような次第であります。
○堀川委員長 ちよつと佐瀬君に申し上げておきますが、法務廳の調査意見第二局の川上説明員が参りましたから、その方に御用事がありましたらどうぞ。
○佐瀬昌三君 私どもも各国の統計は見ております。しかしその統計の表で経済的理由というものが多いようだというのは、それ一番口実としてやりやすいのだというふうになつております。優生学的な理由、医学的理由、社会的理由というものは、非常に限定されておる。いわば生活といつてもみな各人が相対的な問題で、どの程度の生活を維持できるか。どの程度の生活によつて享楽しようかという、生活問題は大抵各環境に應じた相対的なものです。そのためにこれは享樂のため、あるいはその他の美貌を保持するとか、いろいろな理由のために堕胎するものにこれが認められる。そういう経済的な貧乏だということで行くのが一番入りやすい。そのために医者に訴えるものが相当ある。そういうことからして、実は統計の表の上では第三号による堕胎の希望が多いことになつております。この内容を見るとそういうふうな実情に基いたのであつて、真に経済的な生きんがための堕胎だというのは少くなつておるということが、犯罪科学者なんかの一般の観察になつております。しかしそういうことはしばらくおいて、私はここで考えなければならぬのは、やはり何と申しましても人口問題であります。日本の狭い領土と比較的多産な日本において、土地と人口と食糧問題をにらみ合せた場合、これ以上の人口増加を放任しておいてよいかどうかということは、まことに深刻な問題である。移民が認められない限り、この四つの狭いところで、しかもマルサスの言うように食糧は算術級数的にしかできない。人口は幾何級数的にふえるというようなあの主張がもしそのまま行われておるというならば、これは何としても人口制限ということは、まじめに考えなければならぬ。マルサスの本にもありますように、世界で一番人口制限をやつたのは琉球である。日本がマルサスの人口論の発祥地である。そういうことが明らかにされておるくらいに日本は昔から人口問題には悩んで來ておるのであります。従つててわれわれは真剣に考えなければならぬのでありますけれども、しかし経済的理由というようなことで公認することになると、これは非常に弊害が多いというところに私どもは、否ひとり日本ばかりでなく、世界各國の経法学者や、立法家が非常に躊躇して今日まで來ておるという実情であります。ロシヤでさえも一時はこういう理由で堕胎を認めてみたけれども、一九三〇何年かに、また元へもどして、堕胎は認めないということにすらなつておる。私どもはそういう点から見ましても、もちろんこれは大いに敬意を表すべき進歩的な立法でありますけれども、簡単にこれを認めるということには、なかなか躊躇せざるを得ない、かように考えるのであります。しかしこれから先は意見になりますからその程度にとどめまして、第四号の社会的適應症の問題であります。これはすでにでき上つておる法律であつて、この点に改正を加えようという意思は別にないように拝察するのですが、その点はいかがになつておりますか。
○谷口参議院議員 ただいまの第四号に対しまして、これはこのままでよくはないかと思いまして、改正する意思を持つておりません。なおつけ加えて申し上げますが、この第三号と第四号、ことに第三号あたりにおきまして民生委員の意見を聞くことにいたしております。從つて、民生委員は比較的その患者と申しますか、被手術者の方の実情を知つておりますので、経済的関係が七〇%ないし八〇%と申し上げましたのは、これはむろん民生委員が認定してやつて参るのでありますから、これは意見の相異かもわかりませんが、私どもとしては第三号のいわゆる経済的患者というものは非常に多いように思つておるのであります。
○佐瀬昌三君 四号に該当する具体的な事例としては、たしか私の記憶では昭和五、六年ごろに、ある婦人が病人を看護して非常に疲れておる間に、どろぼうか何かに姦せられて受胎した、それを堕胎したがいいかどうかということが新聞相談か何かに出て、それをきつかけに当時の裁判官、学界の間に非常に大きな話題を投げ出したケースがあつたのであります。その当時刑法学者の多数説と申しましようか、多くのものは、そういう場合には、こういう法律がなくとも刑法の一般原則から認めていいのだというふうに、大体意見が一致しておりました。ただ穗積さんとかその他宗教的な色彩の強い人たちは、道義心というもので真向から反対して、やはりそれは生めよ、ふやせの原則から見ても、中絶は許されないということになつておつたが、刑法学者は大体これは妊娠中絶しても、緊急非常手段として違法性を阻却するのだという議論も出たくらいであります。であるから、私はこれはすでにできた法律でありますから、あえてこれを削れとまでは申し上げませんが、しかしそういう刑法の一般原則からあまり進み過ぎた疑いを受けるようなものは、やはり法制全体の均衡性という上から見まして、あまり飛び離れたものはつくらぬでも、原則でまかなつて行けるのだから、それで行つていいじやないかという意味において、四号は別にそれほど必要性はないじやないか、かように考えるのでありますが、その点何か今まで問題になつたかどうか、ここで一應関係者からお伺いしたいと思います。
○谷口参議院議員 四号におきまして、むろん強姦によつて妊娠されたというような事例はあまり私どもも存じませんけれども、ここに特に抵抗、拒絶することのできない間に姦淫されて妊娠したという場合……速記をやめてください。
○堀川委員長 速記をやめて…… 〔速記中止〕
○堀川委員長 速記を始めて……
○佐瀬昌三君 今の谷口議員から言われたような理由によりましてこれを存置するということでありますならば、これをもつと徹底させていいのではないか。たとえば刑法では姦通罪というものは廃止されております。法律的な意味の姦通罪は最近なくなつておる。しかし社会的な観念における姦通というものはあるのであります。暴行、脅迫、抵抗、拒絶というようなものがあるならば、私はそういうものを入れても社会的適應としても見る理由が立つと思うのであります。今お話の抵抗や拒絶のできなかつたというのは、やはり刑法で言うならば、これは強姦罪の観念の中に入つておりますから、それは刑法の一般原則でも行ける。しかし刑法の一般原則で行けないのは、むしろ姦通に基いた堕胎が許されるかどうか。これは刑法の緊急避難ではまかないきれないから、そこでこういう特別立法でそれを許すということで初めてこの規定の存在の意義があるということになるので、そういう点ももし他の点を改正するならば、しかしてすることに異議がないならば徹底させてそういう点を修正されるのも一つの行き方ではないかと思うので、この際御意見を伺いたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまのお話は十分考えておきたいと思います。先刻申しましたように今回の改正に加えるというふうには考えておりませんが、今後どうせこういうものは次々といろいろ情勢がかわつて参りますので、そういう場合においていろいろ考えまして、またそういうお話を十分聞いて研究してみたいと思います。
○佐瀬昌三君 この法律でいう人工中絶の定義を簡単に伺つておきたい。堕胎、中絶というのは要するに自然の分娩期に先だつて母体から人工的に胎児を遊離させるというのが一つ、それから体内において胎児の生命を絶つ施術をするというのが一つ。これがいわゆる堕胎の観念の中に含まれておるのでありますが、この法律でいう人工妊娠中絶というのはこの二つを含まずに、その一つだけに限定してるのかどうか。その点を刑法との関係において明確にしておく必要があるのでこの際承つておきたい。
○谷口参議院議員 人工妊娠中絶の定義ということでございますが、この法案では人工妊娠中絶はむろん妊娠が継続しておりますのを人工的にその胎児とかあるいは附属物を母体外に出してしまう。それもできるならば、普通流産は医学的には七箇月、二十八週をもつて流産の限度といたしておりますが、この法律ではできればなるべくもつと早い時期に、六箇月くらいまでに人工的に出してしまうようにというふうにいたしておるのであります。むろん流産という定義から申しますと七箇月末までが流産になりますけれども、できれば少し早目に流産させるようにということを指定医の方面には話をしておるのでございます。なお十三條の四号の所で大いに研究もいたしますが、これまでの強姦というのはほとんどないので、あるいは和姦と申しますか、そういうものであろうというように考えておるのであります。 〔堀川委員長退席、松永委員長代理着席〕
○佐瀬昌三君 今の人工中絶の中には早産を含むことに結局なるんですか。
○谷口参議院議員 早産は含みません。
○佐瀬昌三君 その点非常にはつきりしております。なお私は十五條の二でありますが、先ほど丸山委員から質問があつたようですが、あれはやはり削除された方がより法律的であり、また実際的であると考えております。私の質問はこれで終ります。
○床次委員 先ほどの質問に関連いたしまして、これは現行法の解釈でありますので、法務廳の方にお聞きいたしたいと思つておるのです。実は十三條の中にただいまも佐瀬議員から御指摘になりましたが、「虞れのあるもの」という字がなくなりましたために範囲が狭くなつたのじやないかという点を感じますが、現在もそう解釈しているのじやないかと思いますが、法務廳の現行法に対する解釈を伺いたいと思います。
○野木説明員 現行法十三條の第一項第二号で、「母体の健康を著しく害する慮れのあるもの」となつておるのを、今度の改正案で「母体の健康を著しく害するもの」と改めますと、法文の解釈論といたしましては、改正案の方が狭くなるものと思います。すなわち「慮れのあるもの」とすると、解釈のときはそういう法文の方が廣いものと思います。しかし実際の運用を考えますと、現行法のもとにおいてもこの改正案と同じような運用をしておるもののようであります。
○床次委員 実は現行法の第二号、第三号が入つておりますのは、単なる母性保護というよりも、実は相当人口問題を加味してこの当時も立案されておつたのではないかということを私推測するのであります。從つてここにありまする二号、三号の適用は、單なる医学的の適用よりも範囲が廣いのだと私は思うのですが、この点はいかがでしようか。 なお違法性阻却の問題であります。今日まで堕胎に対する違法性の阻却の問題は、従来医学上の違法性阻却もあり、さらに優生法ができましてから優生法の立場から違法性の阻却の問題が新しくできた、かように考えます。なお若干私の今御質問申し上げました点が関連しておるのでありますが、昨年実施されました優生保護法によりまして、医学上の違法性阻却あるいは優生学上の違法性の阻却以外に人口問題的立場、母性保護的の立場—母性保護の立場と申しますと、医学上と同じかもしれませんが、人口問題的立場から違法性の阻却の新しい事実が若干加わつておるのじやないかということを私考えるのであります。なお今後今日のごとき時代におきましては、人口問題上の立場がら違法性の阻却ということを考えられるのじやないかと思うのです。これは今後の立法問題でありまするが、今回国会においてそういう立法をしようといたしますればそういう立法ができるのじやないか、そういう立場から今後議論をしなければならないと思うのです。今回の優生法の改正は、そういう人口問題的立場から改正の企てが含まれておるのだと私は推測する。從つて違法性阻却の問題も今までの刑法上の違法性阻却の問題に新しい人口問題的立場からこれを見るべき必要がある。先ほど佐瀬議員から、第四号の問題について範囲を広く考えたらどうかとおつしやつたのでありまするが、これはやはり人口問題的立場から考えまして、新しい違法性阻却の理由の一つに見ることができるのだと思うのです。こういう立場から見ますると、先ほどもちよつと申し上げたのでありますが、人口問題はいわゆる妊娠、受胎の調節という問題に対して新しい方針を聞いております。従来違法でありましたところの受胎調節ということを合法化しておるのでありまして、從つて受胎調節に漏れましたところの妊娠中絶ということに対しまして、受胎調節に失敗しました妊娠に対しまして、人工妊娠中絶をいたしますることに対しましても、ある程度違法性の阻却が加わつていいのではないかと思うのです。かような見地から見ますると、この違法性の阻却は單なる生活に困難だというような経済上の立場からばかりでなしに、ほかの意味も加えて違法性の阻却の理由とすることができるのじやないかと思う。この点に関しまして法務廳の御見解を伺つて見たいというのが私の質問の要旨手あります。これは本日でなくて、次の機会でけつこうですがこれはひとつ法務廳で研究していただきたいと思います。私は一應これで打切りまして、また次の機会にもう少し質問させていただきたいと思います。
○青柳委員 各委員からいろいろ御質問がありますので、私の質問は非常に簡単にいたします。まづ第一にお尋ねいたしますのは、この人工妊娠中絶を行い得る範囲が廣くなつたか狭くなつたかいろいろお話がありましたが、起案者の方におかれましては、相当広くする御意向のように承るのであります。しからばその対象者を一体どのくらいに見ておられますかという点につきましてまず承りたいと思います。
○谷口参議院議員 ただいまのお尋ねにお答えを申し上げまするが、今回の優生保護法の一部改正によりまして、かなり人工妊娠中絶のでき得る範囲が廣まつたと存じておるわけであります。これまでの成績がはつきりした統計がまだできませんのは、実は御承知のように昨年の九月十一日から本法が実施はされておつたのでございますが、施行規則がようやく本年の一月二十日に出まして、その後各地区の保険所内に優生保護委員会ができたのであります、またできましてから後も非常に日にちが少いのと、また十分整備されておりませんために、第十三條による人工妊娠中絶というのはまだ行われておるのはごく少いのであります。それでほとんど現在やつておりますのは十二條が多いのであります。十二條で全国幾らかということははつきりわかりませんが、私の熊本縣における状況から申しますと、熊本縣は日本の人口の約五十分の一ほどあるのですが、それから計算いたしますと、人工妊娠中絶を第十二條でやつておるのは、一箇年に計算して約五万くらいではないかと思います。それに今度第十三條が加わつて、今までの程度であつたらほんの一、二万くらいでなかろうかと思うのですが、今度これが十分に徹底されるようになつたら、あるいは十数万というように進んで行きはしないかと思つておるのです。まだ多数の統計ができておりませんので、せつかくのお尋ねでありますけれども、はつきりした返事ができないことを遺憾に思います。
○青柳委員 人工妊娠中絶を行いましたに要しました費用は、たしか國庫が負担し得ることになつておつたと思います。しからば国庫の財政上における準備をどの程度しておるかということについて承りたいと思います。
○谷口参議院議員 この第十二條は全部自分の負担になつております。第十三條の方におきましては、生活保護法によりますものは、全部生活保護法によることになるのであります。それからまた社会保険によつてやるのがかなりあると思います。國庫の関係から申しますと、生活保護法によりますものがあるいは一箇年にはどのくらいございますか、まず二万人以上と見ますと、一件につきまして手術料並びに入院料として約四千円くらいの金の給付がいります。そうすると四千円の二万人ですから八千万円でございますが、あるいはまた五千円なら一億円ということになりますが、しかし人工流産がやられるおかげで出産の方が減りますから、出産手当の方、助産の給付がやはり減つて参りますから、その方であるいは半分くらいのものは補うことができるのではないか。言いかえますと、まず一億いると申しましても、五千万円程度で國庫補助は済みはしないか。しかるに御承知のように生活保護法には百億からの金が出ておるのでありますから、そういう生活保護法によつてやつていただけば、そう特別に予算を組んでいただかなくても十分行きはしないかと考えております。
○青柳委員 ただいま生活保護法あるいは社会保険でやるというお話がありましたが、現実に事務的にそちらの方面との連絡ができておるかどうかという点につきまして少しく疑いを持つのであります。社会保険にいたしましても、たとえば十三條の三号を適用いたしまする場合に、医療給付はでき得ないと存ずるのであります。その点につきまして御意見はいかがでしようか。
○谷口参議院議員 社会保険におきましては、御承知のように、これまでは治療方面のみで、予防方面はできませず、治療方面のみを社会保険で給與いたしておつたのでありますが、昨年優生保護法ができた当時から、これは社会保険でも、たとえば優生手術または人工妊娠中絶は給付されることになつておると思います。
○青柳委員 くどいようでありまするが、十二條の関係だけでありましようか、十三條の関係につきましても社会保険の適用を受けることになつておるのでございましようか。
○谷口参議院議員 社会保険の關係は、ただいま申しましたように手術とかいうような方面もありますので、十二條、十三條という区別はないと思います。
○青柳委員 ただいまお答えでありましたが、厚生省方面におきましてもこの点ははつきりいたしております問題でありましようかどうかお尋ねいたします。—ただいまお答えができませんならば、よくお調べ願いまして次回にお答えを願います。 次にお尋ねいたしますのは、今回新しく設けられました十三條三号に関してであります。これによりますと、妊娠の継続又は分娩によつて生活が著しく窮迫するものとありますが、この生活が著しく窮迫するものというのは、どの程度以下のものを言うのであるかという点につきまして明白にお答えを願いたい。
○谷口参議院議員 十三條三号にあります生活が著しく窮迫するものといいますのは、この線をきめることはなかなか困難でございますが、まず生活保護法、あるいはそれの少し上くらいの線をもつてこれに適用しておるのでございます。言いかえれば現に生活が窮迫しておる者、生活保護法によつておる者、あるいは妊娠の継続とか分娩したためにその生活が生活保護法の適用を受ける状態に陥るものというふうにいたしております。
○青柳委員 私が覚えておりまする点によりますと、生活保護法によりますと生活困難なる者とあります。著しく困難である者はそれ以下の者と思います。從いましてこの條文からのみ申しますれば、生活保護法を適用されておる者の一部分に適用があるように存ぜられるのでありますが、いかがでしようか。—これもお調べの上お答えを願います。 次に私のお尋ねしたかつたのは十三條の三号でありますが、これを読みまして、法の感じが非常に極貧者に対して冷酷な感じがするのでございます。この点につきましては先ほど佐瀬議員から明快に法務廳にお尋ねがありましてお答えがありましたので、あまり触れたくないのでありますが、この條文からのみ申しますと、著しく窮迫しておる者は子供を持たなくてもいいというような悲惨な文面のようにとり得るのでございます。持ちたくない者は持たなくてもかまわないというふうな政府の冷淡さを國民に示すような感じがするのであります。私は、非常にわびしい生活をしておりながらも、子供を持たして、あたたかい家庭を持たして、將來の楽しみになるはりのある生活をやつて行くことが人間の当然行くべき道であると存ずるのであります。ことに厚生行政の面から見ますならば、將來におきまして社会保障制度ができ、従つて出産手当、育兒手当、さらにひいては教育手当、そういうふうなものができるはずであります。こういう方面に向うてこそ厚生行政の立場であろうと思います。この点につきましてやや疑点を抱くものであります。しかしながらこの点につきましては先ほどもお答えがありましたから、今回は私の意見を申し上げておくだけにいたします。 次にお願いいたしたい点があります。実は先ほど提案者の方からお話がありまして、最近実施されたばかりであるということもよくわかつておりますが、実はこの改正法案につきまして十分資料がないのであります。実施早早でありますから資料がないのはあたりまえでありますが、せめて法案全部についての検討もいたしたいのであります。次の機会にはでき得る限りの資料を整えていただきたいことを切望いたします。先ほど苅田委員からも労働省関係の方の意見も聞きたいということがありましたが、私はここに資料を要求いたします。
○松永委員長代理 本案は各方面から見ましてきわめて重要なるものでございますから、委員各位におかれましても十分御研究を願いたいと存じます。次会は明後日十八日午前十時より開会いたします。 本日はこれにて散会いたします。 午後三時五十一分散会