司法委員会 第40号
- 発言数
- 172 件
- 登壇者
- 10 名
- 会派数
- 3
- 開催日
- 1948/06/24
会議録
○井伊委員長 会議を開きます。 刑事訴訟法を改正する法律案を議題といたします。
○鍛冶委員 昨日中途でやめたのですが、引続いて聽きたいのは、昨日の御説明で身柄を拘束せられた者に対して救済の手続を認めたことが、本法のいわゆる基本的人権を保障するゆえんであるというお答えでありましたが、私らは根本的に違つた考えをもつておるのであります。人身保護の根本は、不必要なる拘束をしないということが大原則でなければならない。しかるに拘束はするが救済はしてやるのだから基本的人権を保護したという御説明には、何としても承服することはできないのでありますが、この点はいかがにお考えになつておられるか、まずそれから聽いてかかりましよう。
○野木政府委員 その点につきましては、本案におきましては、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき、こういう條件を積極的に設けておりますので、全然罪を犯したことを疑うに足りる理由のないような場合には勾留される。そういうことがありませんので、その意味で現行法よりもはるかに実質的な担保は強くなつておるものと信ずるものであります。
○鍛冶委員 はなはだわが意に充たぬ御答弁でありますが、現行刑法では八十七條において、「被告人定リタル住居を有セサルトキ」「被告人罪証を湮滅スル虞アルトキ」「被告人逃亡シタルトキ又ハ逃亡スル虞アルトキ」この條件があつて初めて勾引し、この條件があつたときに初めて被告人を勾留することができるということは九十條において決定してありまして、いかに犯罪を犯したる嫌疑があつたからと言つて、この條件がなかつたら勾留することはできないという建前になつておるのであります。しかるに改正法案はこれをずいぶん狹いものにいたしまして、現在のこの規定よりも狹くしておる。しかるにかかわらずこの九十條によつて、前よりも人身保護を盡しておると言われることは、これは何としても私は了解がいきませんが、それでも特別な理由があるのでありますか。
○野木政府委員 なるほど現行法第八十七條には一号ないし三号に掲げる理由のある場合のみ勾引し、從つてまたこれを勾留することができるというようになつておるのでありまして、本案ではその点は明記してない次第でありますが、実際の運用を考えますと、ほとんど大差ないことになろうと思います。それよりもむしろあとの方の担保をしつかりしておいた方が、実際問題としては被告人の人権の保障を厚くするゆえんになるものと考えておる次第であります。
○鍛冶委員 どうも私は納得がいきません。それよりも私は根本的に承りたいことは、この六十條は犯罪の嫌疑があればなぜ勾留しなければならぬのか。ここに私らの最大の疑問があるのであります。犯罪の嫌疑があるというだけで勾留しなければならぬというその理由が根本になるのですか。これは立案の際にどうお考えになつておりますか。
○野木政府委員 英米法と申しましようか、あちらの方の考え方では、私どもが一応取調べ、あるいは聞いたところから考えてみますと、被告人というものはとにかく一旦身柄を拘束されてしまつて、それから保釈という形になつていくというように、むしろ大陸法系的の立て方と逆のようになつておるようでありまして、本案の方はむしろそちらのような考え方に從つた部分が多いのでございます。
○鍛冶委員 そうすれば罪を犯した嫌疑がある以上は、ふんづかまえるのがほんとうだということになると思うのですが、なぜふんづかまえなくちやいかぬのか、拘束しておかなければいかぬのかという、その根本の理由がなくちやいかぬと思う。
○野木政府委員 技術的に申しますと、起訴をすると一応身柄が裁判所の管理下にはいり、裁判所がその身柄にひもをつけておく。しかし実際に身体の拘束をしておく必要がなければ、保釈して外へ放してしまう。しかし保釈ということでひもをつけておくというふうに考えます。
○鍛冶委員 はなはだくどいようですが、それでは取調べるために必要だから、裁判をするために必要だからというのではありませんね。犯罪を犯した嫌疑がある以上は縛らるべきものだという思想に聞えるのでありますが、そうなりますか。そうだとすればわれわれの今まで考えておつたこととは根本的に違うのです。これはあとの拘束開示の理由その他からも、どうもそういうふうに考えられる点があるのでありまして、私は本法において論点の焦点となるのはこの点じやないかと思うのでありますが、これは今言う通りに犯罪の嫌疑があつた以上は縛られるものだという思想から出てきておると解釈してよろしいでしようか。
○野木政府委員 その点につきましては、この案はまだ必ずしも純粋にアメリカ式に徹底したというところまでは至つていないのではないかと思います。罪を犯したることを疑うに足る相当な理由があるとき、こういうものを一応勾留原因にした。そうして他方保釈というものを現行法よりも廣く活用していこうという点において、非常にアメリカ法的思想を取入れておるわけであります。しかしなお運用によりましては、身柄不拘束のまま起訴するということも考えておるのでありまして、その点在來法の考え方も残つておるわけであります。
○鍛冶委員 私の根本的に聽かんとするところにまだいきませんが、これはどうせ法務総裁か長官が見えたら聽かなければならぬ重大問題であります。私の聽くのは、六十條の精神は罪を犯したことを疑うに足る事由があれば、縛らなくてはいかぬものだ、こういう思想から出ておると思います。犯罪の嫌疑があつた、しかも身柄を勾束しておかなければ取調べに困るという、この理由がなかつたら人の身柄を拘束しないという思想から出ておるのかというこの点なのです。六十條を読めば、犯罪の嫌疑さえあれば縛つてよろしいと聞えるのでありますが、これは根本的に身柄拘束に対する思想の相違が出てきております。いわんや基本的人権の保護をもつて本法の目的とするこの改正案において、さようなことであるというならば、われわれはこれは重大な問題が起るものと思う。こう考えるから申し上げるのでありますが、あなたの方でそれ以上の答弁ができないならば、後で聽いてもよろしゆうございます。
○野木政府委員 ただいまの点につきましては、檢務長官の総括的説明のうち、第八章被告人の召喚、勾引及び勾篤の項の第一項で、ただいま私がるる申し上げた点をとりまとめて説明してある次第であります。いま一度これを繰り返しますと、御指摘のように本案におきましては、勾留につきましては現行法の考えをまつたく変えまして、英米法的考えを導き入れまして、勾留の原由としては、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由あることを條件といたしまして、全然嫌疑のない者は拘束を受けることがないように、裁判官に対して、疑うに足る相当の理由があるかどうかという審査の義務を負わせ、逆に住居不定とか何とか、そういう理由は必ずしも勾留するに当つては必要としない、そういう建前であります。
○鍛冶委員 それではあとで法務総裁なり檢務長官に、われわれの考えていること並びに本改正案の趣旨についてお聽きすることにいたします。 次いで私のお聽きしたいのは、逮捕と勾留との関係であります。この逮捕についても、犯罪の嫌疑がありさえすれば、いつでも逮捕できるという建前のようでありますが、やはりそうでありますか。
○野木政府委員 第百九十九條の規定によりまして、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときには、裁判官のあらかじめ発する逮捕状によつてこれを逮捕することができる。そういうことになつております。
○鍛冶委員 二百四條だと思いますが、逮捕をしたら六十八時間以内に被疑者の勾留を請求いなければならないとありますが、これはやはり勾留の要否を考えることなく、逮捕の原因があれば当然勾留ができる、かように解釈するほかはないのでありますが……。
○野木政府委員 第百九十九條の規定によりまして、裁判官が檢察官等の請求によつて逮捕状を出す場合には、被疑者がはたして罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかということを取調べまして、相当の理由があると認めた場合に、初めて裁判官は逮捕状を出すわけであります。それからその逮捕状に基いて檢察官は被疑者を逮捕し、あるいは警察官が逮捕したときには、二百三條の規定によりまして四十八時間以内に檢察官に送致の手続をする。檢察官がこれを受取つた場合には、二百五條の規定によりまして、二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。被疑者の勾留の請求を受けた被判官は、総則の規定にもどりまして、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときにはこれを勾留することができる。これは起訴前の被疑者の勾留についてもこれが準用になつておりますので、やはり勾留状を発するためには、再び被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるかどうかをさらにそこで審査をして、相当な理由がある場合に限つて勾留状を発する。しこうして勾留状を発するにつきましては、被疑者の意見弁解を聽いてからこれをする、そういう高前になつている次第であります。
○鍛冶委員 そこで私の聽くのは、再び勾留のときに理由を調べると言われるその理由の内容でありますが、これはやはり犯罪の嫌疑ありや否やというだけなのでありますか。勾留の要ありということもですか。その点が私の聽く要点なのであります。
○野木政府委員 ただいまの点につきましては、捜査段階における勾留と、公訴を提起と同時の勾留と区別して考えたいと思います。檢察官が警察から逮捕された被疑者を受取つて、二十四時間以内に取調べをして、一応勾留の請求をするときに、なお起訴するか起訴しないかを決定するだけの調べができていない場合には、起訴しないでただ勾留の請求だけをいたすことになるわけであります。そうしてその勾留の請求は、どつちかと言えば捜査のための勾留でありまして、この場合におきましては、総則の勾留の規定も準用になるわけでありますけれども、ただ保釈に関する規定は準用になつておりません。從いまして裁判官は犯罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があると認めるときには勾留状を発し、勾留状を発した後に、もし勾留の必要がなかつたという場合には、檢察官の方で、起訴前でありますならばこれを釈放することができるという建前であります。起訴御でありましたならば、もし裁判官の方で犯罪を犯した相当の理由はあつても、現実に拘禁しておく必要がないと重う場合は、勾留をするとともに、ただちに職権保釈手続きによつて保釈する。そういう運用になつておることを申したいと思います。
○鍛冶委員 手続の方はそういうことと思いますが、私の言うのは逮捕状をもらうときには、罪を犯したと認めるべき相当の理由のあるときに逮捕状が出される。そこで逮捕状が出て檢事が取調べをすると、二百四條によつて四十八時間以内に勾留の請求をすると、こうなつております。そこで先ほど言つたように六十條の規定から見れば、犯罪を犯したということを疑うに足る相当の理由があれば勾留できる。こういうのだから、この場合には勾留の要否ということを眼中におかないで、犯罪の嫌疑ありや否やということだけをもう一遍調べるのか。それとも進んで勾留の要否をも調べるのか。こういうことを私は聽きたいのです。
○野木政府委員 その点につきましては、やはり捜査と起訴後の場合を一応区別して考えてみたいと思います。捜査の場合においては捜査の必要上、勾留状の請求がなされるわけでありますので、犯罪嫌疑があるならば、捜査のため身柄を拘束することが必要であるかどうかという判断は、裁判官がそこまですべきではないものと存じます。公訴提起と同時の勾留につきましては、そこで身柄が裁判所の管理に移るという関係になりますので、もし裁判官があらゆる事情から見て、現実に身体の拘束をする必要もないし、また保釈というひもで被告人を裁判所と強く繋いでおく。そこまでの必要もないということを確信したならば、勾留状を出さなくてもよい場合があり得ると思うのであります。
○鍛冶委員 そうしますると二百四條の場合も、裁判官は、犯罪の嫌疑がありや否やだけを調べるということになりますと、これは裁判官が違えば別でありますが、逮捕状を出した裁判官であれば、もう調べぬでもいいということになるのでしような。犯罪の嫌疑があるときに、疑うに足る相当な理由があれば逮捕状を出す。逮捕状を出した通りだから勾留します。こう言えばいいということになりますか。
○野木政府委員 逮捕状を出すにつきましては、被疑者に全然当つておらずに、捜査官側の証拠によつて出すわけでありまして、勾留状を出すについては、さらに被疑者自体の弁解を聽いたりして出すのでありますので、理論的に申しますとその弁解を聽くことによつて、犯罪の嫌疑が全然なくなるということも考え得るものと思うのであります。
○鍛冶委員 この点はたいへんよくわかりました。その次にそこに書いてありまする「公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。」これは先ほどから公訴の提起の場合と、こういう御説明ですが、これはどういうのですか。勾留の請求をすることを要しないのだから、しなくても控訴を提起した以上は、当然に勾留という意味ですか。それともどういう意味ですか。ここでは私はわからないのですが
○野木政府委員 その点につきましては條文が少し離れておりましたので、多少御理解しにくかつたと存じますが、第二百八十條第二項におきまして、「第百九十九條若しくは第二百十條の規定により逮捕され、又は現行犯人として逮捕された被疑者でまだ勾留されていないものについて第二百四條又は第二百五條の徳間が制限内に公訴の提起があつた場合には、裁判官は、速やかに、被告事件を告げ、これに関する陳述を聽き、勾留状を発しないときは、直ちにその釈放を命じなければならない。」こういう規定でありまして、裁判官は速やかに被告事件の要旨を告げて意見弁解を聽き、そのままもう現実に身柄を拘束しておく必要も、保釈というひもによつて身柄を繋いでおく必要もないという場合には、その釈放を命じなければならいな。こういう規定を置いておる次第でございます。
○鍛冶委員 わかりました。そうするとこの場合もいずれも勾留の要旨ということは、ひとえに犯罪の嫌疑濃厚なりや否やといふことだけで、ここにも書いてありますが、いづれの場合も勾留状を発しない——まず勾留状を発しないときと読んでよいと思いますが、その要旨はひとえに犯罪の嫌疑濃厚なりや否やということだ、かように解釈するほかないのでありましようか。
○野木政府委員 勾留の條件といたしましては、第六十條に規定してありますように、「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」ということでありまして、逆に申しまして被告人の罪を犯したことを疑うに足る相当な理由がある場合に、裁判所は必ずこれを勾留しなければならないという点まで、必ずしも六十條は言つておるわけではありません。
○鍛冶委員 今のお答えがさつきの点とちよつと違つてきましたが、六十條のときの説明では、罪を犯したということを疑うに足る相当の理由があれば勾留できるのだとこう聽いたのです。そこで私はしつこくお聽きするのですが、今のお話ではそのほかにもなお繋いでおかなくちやいかぬという理由が必要だというようにも聞えますが、その点を私は今まですべて聽きたかつたのです。
○野木政府委員 六十條を御覽いただきますと、被告が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、これを勾留しなければならない、そうは規定してございませんで、「勾留することができる。」とあつて、ここで勾留のために必要な絶対的な條件を規定しておるのでありまして、それ以外、以外と申しましようか、はたして公訴を提起した具体的な場合に被告人を勾留するかどうかということは、ある意味で裁判所の裁量権に任す、そういう趣旨でございます。
○鍛冶委員 それでは木内檢務長官にお伺いいたしますが、ただいまお聽きの通り、勾留の要件について先ほど來、質疑応答をしておるのでありますが、問題は、六十條から出てくるのであります。罪を犯したと疑うに足りる相当の理由があれば勾留できる、そうして現行刑事訴訟法のように、勾留するについての特別の理由を要しないのだ、こういう御説明であります。そこでわれわれ考えておる身柄の拘束というものと、たいへんな大変革を及ぼす法案であるということで、しつこくお聽きしておるのでありますが、あなたから出ておる説明の第八章の第一のあとの答弁から見ましても、さように読めるのであります。そこで改めて承りたいのは、犯罪の嫌疑が濃厚であれば必ず拘束ができるか、こういうことからまずお尋ねいたします。
○木内政府委員 お答えいたします。先ほど來野木政府委員からるる御説明申し上げました通りでありまして、なるほど仰せのように現行法とは勾留原因が変つておりますけれども、ただ犯罪を犯したことを疑うに足る相当の理由のあるときはこれを勾留することができるとなつておりまして、当然かような場合において勾留するというのではないのであります。私どもの考えとしても、その趣旨で解釈しておるのでありまして、こういう理由があつたら当然勾留するというのではなくして、勾留するか否かは裁判所の裁量権に任してあるわけであります。
○鍛冶委員 今野木さんから最初に私が聽いたときには、そういうのではなくやるのだ、なぜそういうことをやらなければならぬのだというと、公訴の提起された以上は裁判所は被告人とつながりをもつておかなければならぬから、身柄を拘束する必要がある。こういうことであつた。それでだんだん進んできた。そうだとするとわれわれの今までの観念からいうと、たいへんな相違があります。ただいまの御説明ならば非常にゆとりのあることになりますが、しからばこの犯罪の嫌疑ある以外に理由ということも考慮すべきものだ、こうなればどういうことが考慮の中にはいりますか。
○木内政府委員 私どもはこの法案の全体の趣旨からもまた、なるべく勾留ということをせずに公判を進行していくということが最も望ましいことでありまして、從つて八十九條の場合におきましても、被告人を勾留いたしましても、一号から五号までの條件がなければ、当然保釈の請求があればこれを釈放しなければならぬということにいたしまして、権利保釈の建前をとつているのであります。その趣旨も先ほど申し上げました通り、つとめて不拘束のまま公判の審理を進めていくのが、当事者訴訟主義にも適うものであるし、それがいいと考えているのであります。しかしながらそのためにかえつて公判の進行に影響を与えるとか、あるいは証拠隠滅等のおそれがあるような場合には、これを拘束しておかなければならないという必要も起きてくるのでありまして、結局八十九條と六十條とをにらみ合せまして、裁判所においては被告人を勾留する場合には、これらが八十九條の一号ないし五号に定められたるようなことが決定される資料になると思うのであります。
○鍛冶委員 ちよつとわかりませんね、今の御説明では。八十九條というものはこういう場合は保釈せぬでもいいという規定なのですが、今の御説明から言えば、八十九條のようなことがなかつたら勾留せんでもいいのだ、これなら大変いいのだが、そうでもなかろうと思います。その理由さえあれば保釈するということは要らない。勾留した以上は、これをもつてやるならば保釈せんでもいいのだから、保釈ということは要らないことになる。この理由以外にそうでなくみな留めておくものだから、この理由があるならば留めておいてもいい、それでなかつたら放せということになる。
○木内政府委員 私の御説明の言葉が足りなかつたと思いますが、今鍛冶委員の仰せになつた話はまことにごもつともと思うのでありますが、要するに一号ないし五号だけが六十條のいわゆる勾留する場合の資料だと申し上げたわけではなくして、少くともそういうようなこと、ないしこれに類したようなことが勾留するかしないかの裁判所の判断の資料になるだろうと申し上げたわけであります。
○鍛冶委員 先ほどの説明の中にありましたが、六十條に規定してあるこの理由が、これはなくちやいけません。これを前提としてですよ。そこで証拠隠滅とか、あるいは今後の取調べに拘束しておかなければいかぬということがあればとおつしやつた。私はそれが根本だろうと思うのです。それがなくては私は人を拘束すべきものでないと思うのでありますが、八十九條のは留めておいてもいいことであります。こんなものはいいと思うけれども、後に至つてこれがよくない。しかしこれがあるから留めておくのだ。こういうことになるのでありますから、その証拠隠滅とか、なお拘束しておかなければ都合の悪いという、これの理由でなくてはいかぬと思うが、やはりその点は六十條においても要求せられるのでありますか、それさえ聽けばいいのです。
○木内政府委員 先ほども申し上げました通り、公判においては、とにかくの当事者訴訟主義の建前から、不拘束のまま公判を進行していくのが、私どもの原則であると思うわけであります。たとえて申しますと、六十條の勾留の場合に、この、八十九條の一号ないし五号に書いてあるような理由がかりにあるのして、初め四号の証拠隠滅の疑があると思つて勾留したが、その後になつてそういうおそれがないという場合も起り得ると考えるのであります。しかしながら大体の目安は、八十九條の一号ないし五号というものに置いておるとかように考える。もししからざれば八十九條の一名権利保釈という建前をとつた趣旨にも合致しない。かように考えます。
○鍛冶委員 先ほどからずいぶんやつたのですが、どうも政府委員の御説明を聽くと、不拘束で調べるということを原則とする考えだ、これはよろしいのですが、一旦拘束したものを八十九條その他によつて不拘束にして調べるという考えのように先ほどもずいぶん聽いておりますが、それでは私の考えとよほど違うのです。一旦拘束したものを放すならば、初めから拘束せんでもいいものは拘束しなければ、一番私は基本的人権の保障の根本だと思う。それを聽いておるのです。そこで最初にやるときにそういう條件が要るのか要らぬのか、これを言うのです。一方抑えてから放すということと、私の聽くのとは、根本的な違いがあるのです。
○木内政府委員 なお先ほどの説明で言葉が多少足らなかつた点もあると思いますから、補足して御説明申し上げたいと思うのであります。 一面被告を勾留しておるということは、公判の進行ということも考慮に入れてあるのでありまして、たとえて申しますると、今度は現行法のような逃亡のおそれがあるときと、そういう点は除かれましたが、しかしながら建前は先ほども申しました通りに、罪を犯したことを疑うに足る相当な理由ということでありますが、そのうちには理由ということが勾留する一つの理由となつておりますが、勾留するかしないかの裁判所の判断のうちには、公判の進行等も考慮して、被告がもし逃亡するとかいうようなことがあつては、公判の進行上差支えが生ずる場合もあり得る。さような点もこの勾留か否かを決定する場合には資料にされる、かように考えた次第であります。
○鍛冶委員 そうすると逃亡のおそれなしという確信があれば、勾留せぬでもいいということになるのですか。
○木内政府委員 しかし結局もとにかえつて、それだけが勾留するかしないかを決定するのではなくて、やはり根本は犯罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があるかないかということが、その勾留をするかしないかを決定する重大なる点である。こう考える次第であります。
○鍛冶委員 ぐるぐるまわりますが、もちろん大前提としてとの犯罪を犯した嫌疑がなければ、これをやらんことは申すまでもありません。これがあつて、そのほかに逃亡のおそれがあるとか、証拠隠滅のおそれがあるというものでなかつたら、勾留できないのじやないかと私は聽いた。先ほどからもあなたがおつしやる。そうすればこのほかに逃亡のおそれがあるとかないとか、証拠隠滅のおそれがあるとかないとか、こういうことを前提にきめなくてはならぬのではありませんか。それともそういうことはなくてもいいんだ。犯罪の嫌疑さえあればいいんだ、こう言われるか。そこなんです。
○野木政府委員 この六十條の考え方と、現行法の八十七條を内容とする九十條の考え方と、根本的に違います点は、六十條の場合には裁判所としては勾留するかどうかにつきましては、罪を犯したことを疑うに足る相当な理由があるかないかという点を調べまして、なぜそのようにしたかと申しますと、罪を犯したことを疑うに足る相当な理由がある場合には、むしろ一応身柄を勾留しておく必要があると、推定すると申しましようか、一応推定されるというような考え方でありまして、現行法のように定まりたる住居を有せず、罪証を隠滅する虞があると書きますと、勾留に際して裁判官側で積極的にこういうことまでも調べ上げて勾留するかどうかをきめなければならない。そういうことになりまして、その点が非常な差異があると思うのであります。從いましてもし逆にすでに勾留のときから、全然身体の拘束をしておく必要がないということが積極的にあれば、あるいは被告人側も、立証なりあるいは何なりにまつて、積極町にわかつた場合には裁判所は勾留しない、そういうことになつていくと思う次第であります。
○鍛冶委員 一つの所にあまり止まつていてもしようがありませんから、結論だけ申しておきたいと思います。 先ほど長官のおつしやつたようなことが、当然考慮せらるべきものとは思うが、しかし考慮せんで勾留の言渡しをしてもやむを得ないと思う。こういうことになりますが、結論は犯罪の嫌疑さえあればそれで差支えないとおつしやる。先ほどから長官のおつしやつたのは、長官としての希望、意見に止まつて、法律論としてはそんなことはやらぬのだ、こう聞く以外にはないと思いますが、いかがでしようか。
○木内政府委員 そういう場合もあり得ると考えます。そのために八十九條による権判保釈の問題が起きてくると思うのであります。
○鍛冶委員 そこで私は長官にぜひ聽いてもらいたい。先ほどから野木さんとはずいぶん議論したが、そうであるとすれば、本法の第一條には基本的人権の保障をもつて眼目とすることを規定しておる。しかるに現行刑事訴訟法よりも、人身をたやすく拘束ができるということになつて、それで一体人権の保障ということが言い得るものでしようか。本法を改正せられる根本趣旨に逆行するものと私は考えざるを得ない。なるほど先ほど來の御答弁で聽きますと、その代り八十九條以下の保釈の制度、もしくは身柄拘束の理由開示の制度等があつて、十分保障しておる。こう言われるが、それは消極的の保障である。何と言つても最初から必要のないものは留めぬということほど大きな保障はない。それを何でもかんでも犯罪の嫌疑さえあれば、あとはどんなことがあろうと留めておく。その代りあとでやるからいいのだということは、基本的人権の保障ということとはたいへんな逆行である。かように私は考えるのでありますが、長官その他この立案に当られたる法務廳の根本方針として、これをどうお考えになつたかを承りたい。
○木内政府委員 御心配の点はまことにもつともと私も考えます。しかしながら現行法には勾留するについて三つの條件を規定しております。つまり、改正案においてはこれを除いてありますが、一応犯罪の嫌疑があつて、一号ないし三号の都合は勾留できるわけであります。改正案におきましては、ただちよつと嫌疑があるということだけではだめでありまして、いわゆる「疑うに足る相当な理由」というわくがかかつておるのであります。実際の裁判所の判断といたしましては、從來のような勾留のいたしかたとは非常に変つてくると私どもは確信しておるのであります。從つてこの六十條については、現行刑訴より、人権の保障について退歩しておるとは考えない次第であります。なお、これが実施される暁には、政府当局としても、この点については御心配のないように、十分通牒等を出してやるつもりでおる次第であります。
○鍛冶委員 議論がましくなりますけれども、現行法のもとにおいては犯罪の嫌疑のない者も、八十七條の要件さえあればひつぱるということでありますが、どこへ行つたつて犯罪の嫌疑の濃厚な者でなければひつぱらない…。
○木内政府委員 そんなことは言わない。嫌疑があつてのことであります。
○鍛冶委員 それは当然だと思います。そこで今長官は、実施にあたつてはわれわれの憂えておるようなことをなくすると言われましたが、それならばいつそのこと、明文に表わしておくほどいいことはないのでありますが、何か明文に表わしていかぬ根本的な理由があるのでありますか。
○木内政府委員 改正案は大体英米法を参照してでき上つたものでありまして、英米法には御質問のような條項がないために、本改正案においてはそれを採用しなかつたわけであります。
○鍛冶委員 われわれはただいまの答弁では、本法改正の根本趣旨は入れられてはおらぬというように考えます。基本的人権を保護するということを建前とする以上は、現行刑事訴訟法より簡單に身柄の拘束ができるということでは、法律の系統が変るからとおつしやつても、さようなことではそういう系統の法律をとつてこられることが、かえつて退歩になると言わざるを得ないのでありまして、これはこれ以上議論してもやむを得ませんから、十分御考慮願い、また私も研究することにしたい、かように考えます。 そこで、同じことになるのでありますが、六十一條を見ますと「被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聽いた後でなければ、これをすることができない。」こうなつております。これが勾留理由の開示の規定であろうと思うのであります。そこで憲法第三十四條には「正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」ということが規定されておりますが、この「正当な理由」ということは、これだけではこの六十一條に現われておらぬように思うのでありますが、いかがですか。
○木内政府委員 御趣旨のことは六十條と八十二條の二つの條文にわけて書いてあるわけであります。
○鍛冶委員 私の言うのは「被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聽いた後」こういうことです。これだけでは憲法三十四條が要求しておる「理由を直ちに告げ」とか「正当な理由がなければ」というこの理由が欠けておるように思うのでありますが、いかがです。こういう質問なんです。これだけでよいのでしようか。
○野木政府委員 憲法第三十四條前段の「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」この條文を受けたものは、抑留に相当する勾引につきましては第七十六條、拘禁に相当する勾留につきましては第七十七條の規定をもつて受けておる次第であります。それから第三十四條後段の前の方の分「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、」という点につきましては第六十條で「被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、これを勾留することができる。」その條文で受け、憲法三十四條後段のあとの方の分「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」この條文は本案の第八十二條ないし第八十六條の規定で受けておる次第であります。
○鍛冶委員 私の聽かんとする意味があなた方の方によく通ぜない。結局は先ほどからの議論と同じなのですが、六十一條に「被告人件を告げ」と書いてある。それから七十六條には「公訴事件の要旨」こう書いてあります。この被告事件を告げまたは公訴事実の要旨を告げるということが、拘禁することについては正当な理由だ、かように解釈しておられるのであるか。われわれはこれだけではさように思えぬがどうであります。こういつて聽いておる。
○野木政府委員 憲法第三十四條には、理由という文字がたしか三箇所出てきておりますが、この最初の「理由を直ちに告げられ、」というこの理由は、英文によりますとたしかチャージということになつておりまして、これはいわゆる控訴事実、それでまさしく足りるものと信じておる次第であります。あとの、「正当な理由がなければ、拘禁されず、」これはたしかコーズという言葉になつていると思います。そうしますとこの点は單に控訴事実というのとは多少ニュアンスがありまして、從いまして八十二條におきましても、「拘留の理由の開示を請求する」だけということにして、控訴理由の開示を請求するという点と使いわけておる次第であります。
○鍛冶委員 これはまた議論が先にもどりますが、先ほどから言つているように、犯罪の事実があつてもこれを拘束するにあらざれば捜査ができぬとか、公判がやれぬ、理由がなかつたらやらぬのだという建前であれば、これだけでは足らぬということになります。今のあなたの御説明からいうと、なおさらそんなことはどうでもいいのだ、犯罪の嫌疑さえあればいいのだから、嫌疑の事実だけを告げてやればいいということに聞えますので、そのあとは議論になりますが、私らとしてはそれだけでは足らぬ。殊に現行法から見ますならば、たいへん退歩の規定になつておる、こう言わざるを得ないのであります。これは意見の相違ですから、そのくらいにしておきます。
○井伊委員長 休憩いたします。 午後零時五分休憩 ————————————— 午後二時三十分開議
○井伊委員長 休憩前に引続き、会議を開きます。 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。本案について各党の協同提案になる修正案が提出せられております。これを朗読いたします。 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案の一部を次のように修正する。 第一項のうち『「專任二百五十二人」を「專任三百七人」に改める』を『判事補專任二百五十二人」を「判事補專任三百七人」に改める』と改める。 第二項のうち『「專任一人」を「專任十人」に改め』を『專任一人一級」を「專任十三人一級」に改め』と改める。 第二項の次に左の一項を加える。 第三條第二項中「十人」を「二十人」に改める。 第三項を第四項とし、同項のうち、『「專任三百二十一人」「專任三千六百九十五人」を「專任三百六十九人」「專任三千九百三十六人」に改める』を『「專任四人一級」「專任二百五十九人二級」「專任三千百五十七人三級」を「專任五人一級」「專任六百九十七人二級」「專任四千七十一人三級」に改める』と改める。 第四項の次に左の一項を加える。 第五條中「專任二人二級」「專任十一人三級」を「專任四人二級」「專任二十五人三級」に改める。 修正案の提案理由を説明願います。
○石川(金)委員 ただいまの修正の理由を申し上げます。 裁判所職員の定員に関する法律の一部を改正する法律案として、さきに政府より提案したものは、昭和二十三年度五、六月分の暫定予算により認められた(一)判事補五十五人、(二)司法研修所一級教官九人、(三)二級裁判所事務官四十八人、(四)三級裁判所事務官二百四十一人の増員を理由とするものであり、しかもこの法案は、これよりさき國会に提出され、現在審議中の檢察審査会法案の附則第三項に檢察審査会事務官に指名せらるべき裁判所事務官として二級六十二人、三級五百三十八人、合計六百人の増員に伴う裁判所職員の定員に関する法律の一部改正の規定が挿入せられたので、同法律案が本法律案より先に成立することを予想して、起案されたものであつた。しかるに檢察審査会法案の成立の見込が目下のところ確定しないので、本法案中の第三項、裁判所事務官関係の第四條の改正の数字を檢察審査会事務官の増員をないものとして修正する必要がある。なお昭和二十三年度本予算において裁判所職員の増員が予定されているので、これを本法案の修正の形で取り入れることにする。その増員の内訳は左の通りである。(一)判事補の増員は暫定予算の相違なし。(二)司法研修所一級教官十二人増員(内五人は二級より昇格)(三)調査官十人を二級より一級に昇格(四)裁判所事務官一級一人、二級四百三十八人、三級九百十四人増員(五)裁判所技官二級二人、三級十四人増員、以上が修正案を提案いたしました理由でありまして、御賛成を願います。
○井伊委員長 本案について御質疑はありませんか。
○鍛冶委員 この判事補の増員は、どういうものから判事補をとろうという計画でありますか。その点お聽きいたしたいと思います。
○岡咲政府委員 お答え申し上げます。判事補は裁判所法の規定によりまして、司補修習を完了いたした者から任命いたすことになつておるのでございまして、すでに裁判所におきまして司補修習を終り、高試を経て判事補に任用し得る資格を有する者が、相当数現在その任命を待つておる次第でございまして、この法律案によりまして、五十五人新しく人員が認められますならば、その司補修習を終りました者は、判事補に任命になる予定でございます。
○鍛冶委員 そうするともつと平たく言えば、今年の修習を終えておる者のうちからという意味になりますね。そうすると今年は修習を終えた者がいくらあつて、そこで五十五人とるとすると、あとどれだけ残つておるでしようか。
○岡咲政府委員 現在修習を終りました判事補の数が何人おりますか、それは正確に今存じておりませんが、五十五人の増員が認められますならば、先般高試を経ました修習生は全部任用される関係になつております。それから今年中に修習をいたしております司補修習生の増員は、たしか昨年採用されました者と、今年採用されました者とを加えて、四百人に近い人数であつたかと思います。
○鍛冶委員 そうすると判事としては、その中から五十五人だけということになりますか。
○岡咲政府委員 これは速記を中止していただきたいと思います。
○井伊委員長 速記を止めて……。 〔速記中止〕
○井伊委員長 速記を始めて……。 —————————————
○井伊委員長 それでは本案を討論に付します。鍛冶良作君。
○鍛冶委員 ただいまの修正案に賛成し、さらに修正を除いた点については原案に賛成いたします。
○井伊委員長 大島多藏君。
○大島(多)委員 本法案は目下の裁判所事務繁忙の折、緊急やむを得ないものと考えまして、修正点を除く政府原案並びに修正意見に賛成をいたします。
○井伊委員長 榊原千代君。
○榊原(千)委員 社会党を代表いたしまして、本修正案並びに修正部分を除いた政府原案に賛成いたします。
○井伊委員長 討論は終局いたしました。 これより採決いたします。まず修正案について採決いたします。提案のごとく修正するに賛成の諸君の御起立を願います。 〔総員起立〕
○井伊委員長 起立総員。よつて全会一致をもつて提案のごとく修正に決しました。 次に、ただいま修正に決しました部分を除いた他の部分について採決いたします。ただいま修正と決した部分を除いては、原案の通り決するに賛成の諸君の御起立を願います。 〔総員起立〕
○井伊委員長 起立総員。よつて修正部分以外は原案の通り全会一致をもつて決しましたので、ここに本案は全会一致で提案のごとく修正議決いたしました。 なお本案に対する委員会報告書の作成並びに爾後の取扱い方は委員長の御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。 〔「異議なしと」呼ぶ者あり〕
○井伊委員長 御異議ないものと認めてさよういたします。 —————————————
○井伊委員長 次に刑事訴訟法を改正する法律案を議題といたします。鍛冶良作君。
○鍛冶委員 この改正案では拘留の開示手続という新制度を認められたので、この点、よほど割期的のものと考えるのでありますが、これと拘留に対する異議申立てというものとは別個にあるのでありますか。同一に見ておいでになるか。その点がよくわからなかつたのでありますが、いかがでしようか。
○野木政府委員 拘留に対する異議の制度は本案には取上げておりません。その代りに八十二條以下の理由開示の手続を入れた次第でございます。
○鍛冶委員 そこで八十七條との関係でありますが、八十七條は一旦勾留をして、そのあとで勾留の欄由がなくなつた、または必要がなくなつたときに勾留を取消す、こう見えるのでありますが、頭から勾留の理由はなかつたのだという場合は、本條によつて救済されるのであるか、それとも開示の手続のみによつて救済されるのであるか。
○野木政府委員 八十二條以下の開示の手続は、それ自体は必ずしも勾留取消とかいうことには結びつきませんので、開示の手続などをいたして、その結果勾留の理由がないということがわかつてきたような場合には、八十七條で勾留を取消す、そういうことになるわけであります。なおまた八十七條は、開示の手続とは関係なく、これだけでも働き得ることになつております。
○鍛冶委員 私疑問をもちますのは、八十七條を見ますと、勾留の理由または勾留の必要がなくなつたときというのです。だから勾留の理由がなくなつたとき、次は勾留の必要がなくなつたとき、こう二つに分けられる。しかしいずれも前に理由があつたのだが、その理由がなくなつた。以前には必要があつたのだが、現在必要がなくなつた。こう読まざるを得ないと思うのであります。そこで頭からこれは勾留したことがそもそもの間違いだ。こういうような場合はこの規定にはいるとは認められないのでありますが、そうするとそこで開示だけか。こういう私の質問ですが、いかがですか。
○野木政府委員 八十七條は、なくなつたときという表現になつておりますが、この解釈と申しましようか、初めからない場合は、もちろんこの規定によつて勾留を取消さねばならない、そういう趣意に解釈しております。
○鍛冶委員 そうするとここで承りたいのは、それじや開示の手続というのは、初めから勾留の理由のないときだけであろうと思うのです。勾留の理由を聽いて、そうしてそれはどうも理由がありません。こう言うのですから、初めから勾留の理由がなかつたときだと解釈しなければなりません。そこで八十七條は、これも初めからなかつたものがはいるのだ、こういうことになりますと、この規定の方はすこぶる簡便で、新法律として定められた開示の手続によつてこれを決定してもらうということは、非常に複雜をきわめておるのでありますが、開示の理由を聽いて、それはいかぬというときに、まずひとつ八十二條で取消してもらいたい、こう請求したとすれば、その方は違法ではありませんか。
○野木政府委員 八十二條以下の、いわゆる勾留の理由開示の手続は、それ自体といたしましては、勾留の理由を公開の法廷で開示するというだけのことでありまして、理由がなかつた場合に、取消すとか、あるいは保釈してやる、そういうような点は、第八十七條以下の規定によることになるわけであります。
○鍛冶委員 それじや私はたいへん考え違いをしておりましたが、そうすると開示はただ聽くだけなんですか。聽くだけに、こんな会議裁判所でやるとか、いろいろなこういうむずかしい手続を書いてあるのでありますか。これはそれこそもちろん解釈で解消して、それは違います、こう言うた場合には、勾留すべからざるものという決定をすることが前提だろうと思うのですが、どうですか、私の考えは間違いですか。
○野木政府委員 この勾留開示の規定を設けました趣旨といたしましては、憲法第三十四條のあとの部分「要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」この点を受けた規定でありまして、しかしながら実際のこの動きを見ますと、御指摘のように、勾留の開示の請求をする、その結果勾留の理由がないということは一層はつきりする、そういう場合もあり、從つて以下の八十七條の勾留取消とか、そういうような手続に結びつくという点が多かろうと存ずる次第であります。
○鍛冶委員 そうすると開示の手続を終つて、八十七條でこういう決定をする、こういうことになると心得なければならませんが、そうすると開示の手続で知られた裁判官と、この取消をする裁判官とは違つた人がやることになると思いますが、やはりそう考えるほかはありませんですか。
○野木政府委員 八十七條は八十七條として、開示の手続とは無関係に弁護人等の請求、または裁判所の職権で本條に規定しておるような場合には勾留を取消すことができる。そういうことになつておりまして、八十七條はそれ自体としても独立に働き得るとともに、また実際の運用の面から見ますと、八十七條以下の開示の手続と相結びついて、たとえば開示の手続を請求する。それから引続いて弁護人側から勾留の取消を請求するというように、結びついて働き得ることも考えられる次第であります。
○鍛冶委員 どうもこれは、私今まで考えておつたこととたいへんな違いなんでありますが、そうすると今の御説明でいくと、開示の手続で調べた裁判官が、そのまま八十七條でこういうふうに取消もできる。こう今承つたんですが、そうでしたね。
○野木政府委員 そういう場合もあります。
○鍛冶委員 そうだとすれば、開示の手続をやつて、そうして理由がないことがわかつたら、今度は八十七條によつて改めて取消の請求をする、こういうことになるのでありますか。
○野木政府委員 八十七條によつて請求する場合もありますし、また理由がないということがわかつた場合には、裁判所としては職権で勾留を取消さなけれずならないということになつておりますので、その方でいく場合が多かろうと思います。
○鍛冶委員 なるほどそうですか。するとやはり職権でやる場合も八十七條でやるのですね。
○野木政府委員 さようでございます。
○鍛冶委員 そんな必要はありますかな。それでは先ほどからの説明で憲法三十四條の第一の理由、第二の理由、第三の理由として御説明はありましたが、この三十四條を読んでみますと、第二のところが「又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」こうなつておるから正当な理由がなければ拘禁されぬ。そこで理由を聽く、理由を聽いて正当でなかつたら拘禁されぬものだということの決定があるということをこれは当然含むものじやないかと思うのですが、しからざればただいまおつしやつたように、理由だけを明示するだけに、どうも公開の法廷というようなことは必要はないんじやないかと思いますが、これは当然明示したら、第二番目に書いてある正当な理由があつたかなかつたか、なかつたら拘禁されないのだということ、これを調べるという意味でなくちや無意味に関るように思いますが、それともそういうふうにいろいろ幾段にもお考えにならなければならぬのでしようか。
○野木政府委員 憲法第三十四條の御指摘の箇所は、英文等を参照して考えてみますと、何人からでも要求があつたならば、ただちに拘禁されておる本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で、拘禁の理由を示さなければならぬという趣旨でありまして、これによりまして身体の拘禁というものが、拘禁する官憲と被告人との相対ずくだけの理由をつければ何とかなるということでなくて、公開の場所でも堂々と言つて、批判を仰げるような理由でのみ拘禁できる、そういう点を担保しておる。ここにこの規定の重点があるものと解して、八十八條以下の規定を設けた次第であります。しかしながらもとより八十七條以下あたりの規定と制度的に結びつきまして、御指摘のような作用を営み得るような仕組にいたしておる次第であります。
○鍛冶委員 大体わかりましたが、するとただ最後の点は、開示をした裁判所がただちに開示の理由がなかつたといつて勾留取消の決定をそのままやつたといたしますれば、開示の手続によつて取消されたものではなくて、八十七條により特別の手続で取消されたとこう解釈すべきか、それとも開示をやつてみて、なるほど理由がなかつたということがわかつたから、開示の手続によつて取消したということが、そこできまると思うのです。議論のわかれはそれだけだと思うが、私は開示の手続で理由がなかつたということが明瞭になれば、取消すということがかえつて穏当ではないか。それだけのことです。
○野木政府委員 その点は八十七條が、請求と職権と両方合せて規定しており、また一応開示の手続とわかれて独立にその條文が働き得るような形で規定してあるわけでありますが、しかしながら御指摘のような場合には、職権で勾留を取消すということになろうかと思いますから、開示の手続と結びつけて考えてみても、考え方としては必ずしも不穏当ではないと思う次第であります。
○岡井委員 私は檢務長官に一点だけお伺いしたいと思います。 新法は被告人に黙秘権を与えたり、弁護人との自由なる接見を許したりしております。そこでこれは奸智にたけたる者とか、大事件の被告人であるとかいうものがますます免れるようになりまして、つまり弱者の犯罪はおおむね証拠が目に見えて転がつておる、証拠隠滅というような器用なこともよういたしません。弱者の犯罪、愚直なる者の犯罪、可憐なる者の犯罪、かようなもののみ檢挙されるということに相なることを私は非常に恐れるものでございます。それで新法ははたしてさような憂うべき傾向に向つて進んでおるのであるかないかという点についてお伺いしたいと思います。
○木内政府委員 お答えいたします。ただいまの御質問のように犯罪が次第に激増いたしており、しかも相当大物なども免れておるというような状態ではないかという点につきまして、私どももその感を深くするのであります。理想といたしまして、いやしくも犯罪あれば全部これを檢挙するということが一番いいことでありますけれども、現下の司法警察並びに檢察官の手薄の状態と、しかもその犯罪の激増との関係を見ますると、どうしても理想通り全部これを檢挙し、そうして処罰すべき者はすべて処罰するということにいかないことは、まことに私ども遺憾に思つております。しかしながら、一方かりに百の犯罪者を逃したといたしましても、一人の冤罪者を刑務所に繋ぐというようなことになりますならば、その結果はかえつて恐るべき社会不安を起す原因になると考えます。それでこの改正案も憲法の趣旨に從いまして、一人の冤罪者を刑務所に繋ぐということのないようにしようということが、根本理念になつております。從つて先ほど御質問のように、被告人に黙秘権を認めておくために、一層犯罪者を逃してしまうというようなことになるのではないかという御心配につきましては、私も同感であります。しかしながら憲法第三十八條には「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」ということを明記しており、それに関連いたしまして、この刑訴法第三百十一條の規定ができておるわけであります。しかしてこの改正案の建前が、公判において当事者訴訟主義の建前をとつておるのでありますから、被告人がかりに默秘いたしておりましても、原告官である檢察官があらゆる証拠を蒐集いたしまして、これを法廷に檢出いたしまして、そうして罪を犯しておる者をつとめて逃さないように努力するのは当然でありまして、それは檢察官に課せられた責務と考えるのであります。なお小さいものばかりを挙げて、大きいものを逃しておるのではないかという御質問の点につきましては、あるいは結果においてさようなふうにお考えになられるのも御無理のないことと思うのであります。しかしながら檢察当局といたしましては、決して大きいものをわざわざ知らぬ顔をして、小さいものばかりを檢挙いたしておるというのではないのであります。しかしていわゆる複雜な事件、あるいはその他知能犯事件というようなものは、やはり関係人が極力その犯罪の現われないように、いろいろの方法を事前に講じておるのでありますが、檢察官もやはり人である。しかもさきほど申し上げました通りに、その数も十分でない。しかも一方幾多の事件が激増、続出しておるという状態では、さようなことはまことに遺憾ではありますけれども、時において、結果においてさようなふうに考えられるようなことになるということは、私どももこれは、はなはだ遺憾と思つておるのであります。しかし御趣旨の点につきましては、私どももつとめて御趣旨に副うように一段の努力をする考えでおります。
○岡井委員 やはり私は黙秘権、あるいは弁護人と自由な交通を許すというようなことは、これは、悪い者のみ巧みにこれを利用することができる。ばかな者はこれあるがために、かえつて禍いをこうむるというようなことに相なるのではないかということを、非常に恐れるものでございます。議論をしておりましてもしようがありませんが、この法律は実は劃期的の大法律でございまするが、至急にどうしても通過させなければ相ならぬという理由がございましたら、その要点だけ簡單で結構でございますから、伺いたいのであります。
○木内政府委員 お答えいたします。新憲法は基本的人権の保障ということを強く要望いたしておるのであります。しこうしてその基本的人権を尊重するということを、実際面においてどういうふうに実現していくかということになりますると、いろいろの方法があるでありましようが、中でも刑事手続が最も重要なものであろうと考えるのであります。從つて、これに憲法の趣旨を体して刑事訴訟法というものが実施されなければ、結局この憲法の要請しておる基本的人権の保障ということを実現することは困難であります。從つて刑事訴訟法は、憲法に次いで最も重要な法典であると考えておるのであります。しこうして先ほども申し上げました通りに、今回の改正案は、この憲法の趣旨を受けまして、つとめて基本的人権を最も擁護するように、各規定を設けたのでありまするが、結局これを一日も早く実施するということが、一面私どもは憲法の要請しておるところであろうと、かように考えるのであります。そこで前のこの委員会の席上でも、私からこの刑訴の改正案を御審議願うに至つた経過についてるる御説明申し上げた次第であります。この法案ができますにつきましては、その筋とも十分なる折衝を遂げ、そうして從來日本に行われておる現行法のような、いわゆる大陸系統の訴訟手続では、十分基本的人権の保障を完了することができないというので、英米法系を採用いたした次第であります。しかしながら一から十まで全部英米法系を取入れたものではないのでありまして、わが國にはわが國のまた國情もありまするので、なお大陸法系のいい点を加味いたしまして、この改正案ができ上つた次第であります。しかも先ほど申しました通り、どうしても急いで実施しなければならないという理由は、この刑訴が実施されなければ、源法の要請する基本的人権の保障を完うすることができない、かように考えたからであります。
○岡井委員 私はこの法律によりまして、日本の善良なる大多数の國民の基本的人権が脅かされたり、幸福が奪われたり、正義心の満足ができなかつたりするような点を憂うるものでございまするが、どうも條文を眺めてみましても、さような点に対する御配慮ははなはだ薄いように思われるのでございます。この法律の実施後、結果が非常に思わしくなきときは、また旧に返られるとか、新しい工夫をされるとかいうようなこともお考えになつておられるのでございましようか。この点もごく簡單でよろしゆうございますから、ひとつ伺いたいと思います。
○木内政府委員 もちろん改正案の趣旨は悪いことをしておる者の人権だけを尊重しよう、かように言うのではありませんので、ここでやはり第一條に掲げておきました通り、この公共の福祉というわくの中において、基本的人権の保障をしようとするものであります。しかして一面法廷に現われた者のみの手続が、結局刑事手続になるわけでありますが、一面悪いことをした者のみに関係する法律手続のように見えますけれども、さようなことでなくて、先ほども申しました通りに、罪なき者が法廷に立つというようなことをしないようにしようというために、ここに至れり盡せりの規定を設けた次第であります。 それからこの実施後、実施に不便とか、あるいは不都合な点が起きた場合には、あるいは改正ということも考慮しておるかという御質問に対しましては、今のところさように考えておりません。しかしながら実際これをやつていつて、そうして憲法の要請する線に沿わないという点がもし起つてくるといたしますならば、もちろん改正しなければならない、かように考えております。
○榊原(千)委員 ちよつと二、三点お伺いいたしたいと思います。被告人の召喚勾引及び勾留の章、第八章の第五十八條第二号にこういうことがございます。「被告人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じない虞があるとき。」ということが書かれておりますけれども、「応じない虞があるとき」というのは、どういう点から判断されるのでございますか、ちよつとお伺いしたいと思います。
○野木政府委員 たとえばほかの関係人の口から、あの被告人は逃げようと準備しておるというような情報がはいつたとか、そういうような場合などがまさにこれに当ることになると存じます。
○榊原(千)委員 そういうようなことは割合に根拠が薄弱じやないかと思いますけれども、人権尊重を建前といたします今度の新刑法から見ましたら、応じないときだけでよろしいのではないかと考えられますけれども、いかがでございましようか。召喚というような場合には、ただ「召喚に応じないとき」だけで、あとの「応じない虞のあるとき」というような言葉は必要ないじやないかと思いますけれども、どうお考えになりますか。
○野木政府委員 一応ごもつとものようにも考えられますけれども、なおただいま例にあげたような場合におきましては、そのままにしておきますと逃げてしまう。そうなりますと手数が非常にかかりますので、やはり適用は非常に愼重にしなければならないことはもちろんでありますが、やはり法文としてはこのような形にして存置した方がよいと考えた次第であります。
○榊原(千)委員 次に第六十條、これは先ほどから鍛冶委員と政府委員の間に幾度か繰返された点でございますけれども、また私はあらためてお伺いしたいと思います。「裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、これを勾留することができる」というのでありますけれども、これを勾留することができるというのは、むしろ基本的人権保障の意味から申しますと例外であつて、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときであつても、第八十九條の一号ないし五号までの証拠を隠滅するおそれがあるとか、あるいは住居がわからないとかいうような場合を除くのほかは、原則として勾留しないということに解釈してよろしいでございましようか。
○木内政府委員 お答えいたします。仰せのごとくこの訴訟法は当事者訴訟主義をとつておるのでありまして、法廷において被告人が自由な立場から、十分自分の犯罪事実につきまして防禦させるということが根本的な建前になつておるわけでございます。從つて身柄を拘束せずに公判を進行するということが原則と考えられております。しかしどうしても勾留をしておく必要が起る場合がありますので、第六十條のような規定を設けたのであります。そして六十條の規定の犯罪を犯したと疑うに足る相当な理由がかりにあつたといたしましても、これは裁判所がそれを勾留するか否かは、裁判所の裁量にあるわけでありまして、こういう理由があつたからといつて必ずしも勾留をしなければならない、かような建前ではないのでございます。それから勾留するにつきましても、たまたま犯罪の疑いがあつたから勾留できるというのではないのでありまして、そこに相当な理由というわくをかけまして、できるだけ勾留というような形をとらないようにしたいという方針でこれができておるわけでございます。
○榊原(千)委員 ただいまのお答えの、どうしても身柄を拘束しておいて取調べなければならないような場合があるというお話でありますが、たとえばどういうふうな場合でありましようか。例をあげていただきたいと思います。
○木内政府委員 たとえば八十九條に列記してあります一号から五号の場合のごときものは、その中にはいると存じます。
○榊原(千)委員 ではこの一号から五号以外の場合というものもあり得るのでありましようか。
○木内政府委員 あり得ると考えます。それは一面公判に被告人が出廷するということも予想しておるのでありまして、その場合に逃走してしまうというようなことを予想されるような場合なども、場合によつては裁判所がこの犯罪を犯したと疑うに足る相当の理由があつて、しかもさような場合が予想される場合は勾留しておくというようなことに相なるのではなかろうかと考える次第であります。
○榊原(千)委員 たとえばそういう場合は非常に限られておるのではないかと思いますけれども、逃亡するおそれがあるとか、そういうようなことを具体的にここに示していただきましたならば、人権の尊重という建前から非常にしあわせだと思います。
○木内政府委員 まことにごもつともな御質問であると思いますが、しかしながらそういうふうにいろいろ具体的に列挙するということは非常に困難な次第であります。なお裁判所が勾留するのでありまして、少くとも事件の起訴を受けたからといつて、すぐこの訴訟法の建前では訴訟記録もまいつておらないわけでありますし、被告人がどういう被告人であるかということも、少くとも第一回の公判までいかなければわからないわけでありますから、そこでたとえていうと、かりに條件といたしまして被告人が逃亡するおそれがあるというようなことを明記いたしておきますと、はたしてその点も十分裁判所が認定するということは困難であります。そのために八十九條によりまして権利保釈の規定を設けまして、その辺のところの食違いのないように動かしていこうというので、御質問のような細かい規定は設けなかつた次第でございます。
○榊原(千)委員 ただいまのお答えで了承いたしましたけれども、ただこれが濫用されますと、非常に困ることになると思いましたのでお伺いいたしました。 次に七十三條の三項でございます。「勾引状又は勾留状を所持しない場合においても、急速を要するときは、前二項の規定にかかわらず、被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる。」という規定でありますけれども、これがもし誤つて用いられますと、眞偽がわからないで國民がたいへん迷惑するような場合があるのではないかということをおそれるのでございます。たとえば未亡人などで生活に非常に困つている方が、食糧管理法に触れたような行為をしておるような場合に、にせ警察官のようなものが現われまして、こういうことをされますと、誘拐というようなとんだ憂き目に遇うのではないかと思いますから、こういう場合にどうして眞偽を國民は判断すべきかということを伺いたいと思います。
○野木政府委員 御心配のことはまことにもつともな点があると存じますが、にせ警察官等の場合につきましては、まず警察手帳とかその他で一つは確保してあります。なお七十三條の三項の規定は英米法系の國にある立法例にならつた次第でありまして、こういう規定がございませんと、勾留の場合は実際として少かろうと存じますが、これが逮捕状に準用されておりますので、その辺を考えますと、被告人が逃げておるような場合には、リュックサック一ぱい令状を発しなければならないというようなことになりますので、それらの問題を考えまして、令状はすでに出ておる、しかしそうむやみにたくさん出すわけにはいかない、逃走中の被告人に警察官が指名手配などにぶつかつた場合には、この規定によりまして、その者に公訴事実の要旨、それからすでに令状が出ておるということを告げて、つかまえて警察署に連れていくと、警察署には令状がある、そこで令状を示す、そういうことになるわけであります。そこで今言つたような濫用されるようなことが起れば、これまた別個の損害賠償とか、あるいは不法監禁、そういう規定で担保される次第でありまして、法律体系を全体として考えますと、國民に対する保障が非常に薄くなるということにも必ずしも考えられないと思つておる次第であります。
○榊原(千)委員 これは警察官などによつて行われた場合には、あとで損害賠償というようなこともしていただけますけれども、にせ警察官などの場合には、迷惑をこうむるのは國民だけであろうと思いますから、その場合にはよくよく眞偽のほどがわかるように、必ず警察官なら警察手帳というようなものを示すということにしていただきたいと思います。 次にお伺いしたいのは第八十九條の第四号「被告人が罪証を隠滅する虞があるとき。」という規定でございますが、これは裁判官の主観的な判断によるものでございましようか。お伺いいたします。
○野木政府委員 判断は主観的と申しましようか、裁判官が判断することになるわけでありますけれども、その判断は少くとも合理的でなければならない。その資料とするところのものは、だれが見てもその資料に基けば大体罪証を隠滅すると認められる場合というような場合でありまして、そういう場合においてはある意味で客観的と申せるかと思います。
○榊原(千)委員 それは保釈が許されません場合、そういうような罪証を隠滅するおそれがあるというようなことが理由でありますときには、その根拠を示していただきたいということは請求できるのでございますか。
○野木政府委員 保釈の請求を却下する決定があつた場合に不服であるときには、後の第四百十九條以下の抗告の規定によりまして上級裁判所に抗告をする。そうして爭う途が開けておる次第であります。
○榊原(千)委員 次に第九十一條の「勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八條に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。」という規定がござすますけれども、これは第八十九條に示されているような理由があるときにも保釈を許さなければならないのでありましようか。ちよつとお伺いしたい。
○野木政府委員 第九十一條の規定は第八十九條の規定とは別個にあるものでありまして、いやしくも勾留による拘禁が不当に長くなつたと認められる場合におきましては、八十九條各号に揚げるような場合でも、あるいは勾留を取消し、保釈を許さなければならない。そういうことになる次第であります。
○榊原(千)委員 不当に長いということの範囲及び程度についてはどうお考えでございますか。
○野木政府委員 この不当に長いということは、その罪の性質あるいはそのときの裁判所全体の人員の関係、その他いろいろの事情から判断いたさなければなりませんので、抽象的にたとえば窃盗事件ならばどのくらいがいいとかいうことはなかなか断定できませず、結局は最高裁判所の判例によつて、順次大体の目安がきまつていくものと思つておる次第であります。
○石井委員 これは法文の解釈上ちよつと誤解があると思いますので質問するのであります。第百五十條、第百五十一條でありますが、「召喚を受けた証人が正当な理由がなく出頭しないときは、決定で、五千円以下の過料に処し、且つ、出頭しないために生じた費用の賠償を命ずることができる。」百五十一條では「証人として召喚を受け正当な理由がなく出頭しない者は、五千円以下の罰金又は勾留に処する。」こういう規定があります。百五十條の方は裁判所が行う秩序罰、つまり檢事の起訴をまたずになす処分であろうと思うのであります。百五十一條は檢事の起訴をまつてなすところの罰金または拘留の処分であると思われるのでありますが、念のために伺いたい。
○野木政府委員 ただいまの御質問は御説の通りであります。
○石井委員 そこで一遍裁判所で秩序罰として五千円以下の過料に処したあとで、檢事局から起訴がある。そうするとまた百五十一條によるところの五千円以下の罰金または勾留と二重に処罰をされるような形態ができると思いますが、この点についてはいかがでありましようか。
○木内政府委員 仰せのごとく一方は刑罰であり、一方はいわゆる不出頭による手数料というような一種の秩序罰である過料でありまして、全然性質が違いますので、同じ一つの事実についた両方科することもできるという建前であります。しかしながら実際の運用といたしましては、さようなことは起り得ないだろうと考えておるわけであります。
○石井委員 二百七條の規定でありますが、檢察官の勾留に対しましては、勾留理由の開示その他いろいろと勾留に伴うところの被疑者の防禦手段というようなものが規定されておらないように思われるのであります。この二百七條の「前三條の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」この規定の趣旨は、被疑者に対する勾留理由の開示を求める、あるいはまた被疑者に対する勾留に関するいろいろの防禦的処置を講ずる趣旨を含んでいる、かように解してよろしゆうございましようか。
○野木政府委員 第二百七條の書き方がきわめて技術的な書き方になつておりますので、一見不明瞭のように見えて恐縮でございますが、立案の趣旨といたしましては、まつたくお説の通りでございます。その文字的に申しますと、但書に「保釈については、この限りでない。」という文字が加わつておりますので、この反面保釈その他勾留開示、こういう勾留に関するもろもろの被告に関する規定は、全部被疑者にとつてもいわば準用されてくるという建前でありまして、ただ保釈については捜査中の勾留という性質上、これを適用しないという建前でございます。從いまして、勾留執行停止の規定は準用と同様な関係になつてくるものと思います。
○石井委員 二百二十六條と二百二十七條についてお尋ねしたいのでありますが、起訴前において二百二十六條の理由があるわけであります。「犯罪の捜査に次くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第二百二十三條第一項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合」こういう規定がありますが、犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる、これはどのような趣旨であるか承りたい。
○野木政府委員 この案におきましては、裁判所または裁判官が取調べるものにも証人尋問、証人という言葉を使つておりまして、檢察官とか警察官が調べる場合には証人という言葉を用いておらないわけでありますが、二百二十六條の御指摘の「犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者」というのは、いわば証人に相当するものでありまして、しかも捜査に欠くことのできない知識という点で相当重要な証人、しかもその証人が知識を有するということが明ららに認められるという場合だけが、二百二十六條の適用になつてくる次第であります。
○石井委員 そういたしますと、この犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有するというこの証人は、被告人側にとつても非常に重大なる証人であろうと思われるのであります。そうしますと、公訴の提起前ならばいざ知らず、公訴の提起後において裁判官がさような被告人にも利害のある証人を調べるときにおいては、被告人の防禦権というものを行使する建前上、当然弁護人がその証人の尋問に立会うということが必要ではなかろうかと考えるのでありますが、この点伺いたい。
○野木政府委員 第二百二十八條第二項におきまして、ただいま問題となつております第二百二十六條の証人尋問の場合には、捜査に支障を生ずるおそれがないと認めるときには弁護人を立会わせることができるということになつているのであります。そして捜査に支障を生ずるおそれというのは、公訴を提起する前と後とは非常に違いがありまして、公訴提起後第一回公判開廷前の場合におきましては、捜査に支障を生ずるおそれがある場合は非常にまれでありまして、從つて裁判官か弁護人に立会わせるという機会が非常に多いことと思います。それから仮に立会わなかつたといたしましても、この裁判官がとつた証人尋問調書というものは、三百二十一條第一項第一号の規定によりまして、その証人が死んだ場合、あるにはその証人が公判期日に出て來て違つた供述をした場合のみ証拠となる。しかもこういう場合におきましても、弁護人側は三百八條の規定によりまして、その調書の証明力というものを爭うために、いろいろの機会を与えられている。そういうことになつておりますので、現行法の場合と質的には非常に変つて來て、被告人側の担保は十分達しているのではないかと思つている次第であります。
○石井委員 公訴の提起後は一応捜査段階をすぎて公判の段階に入つたものと解すべきが適当ではないかと思われる。捜査に支障を生ずるということはこれは公訴提起前というふうに一応解釈すべきが適当ではなかろうかと思われるのでありますが、その点について念のためにもう一度お尋ねしておきたい。
○野木政府委員 第二百二十八條第二項の捜査に支障を生ずるおそれというのは、おおむねこういうおそれがあるのは公訴提起前が多いものと思います。ただ、ときに追起訴などの関係になりますと、場合によつては公訴提起後においても、ときとしてこれに該当する場合が出てくる可能性はあると思います。
○石井委員 それは追起訴とその他の理由によつて一応公訴された、その理由によつて公判が開かれるというふうな場合においては、公訴提起後の証人調べというものは、この捜査に支障を生ずるおそれがない、こういうふうに大体解釈しておいて差支えないと思いますが、その点伺いたいと思いまか。
○野木政府委員 ただいま申し上げました追起訴、そういう特異の場合以外におきましては、大体捜査に支障を生ずるおそれがあるというのは、公訴提起までの場合と御理解くださつて結構に存じます。
○石井委員 これは前回野木政府委員にいろいろこまかに尋ねたのですけれども、今後におけるところの公判進行上に非常に問題があろうと思われるので、木内長官に特にお尋ねしておきたい。それは第二百九十九條の問題であります。今度の訴訟法上の建前は、檢事の公訴は起訴状一本ということになつておるのであります。そういたしますと、弁護人はその後において裁判所に檢事局がいろいろな記録を逐次出されるのを待つて、そうして訴訟を進行しなければならない。こういうようなことが起ろう。そうしますと裁判というものは延引に延引を重ねるようになろうと思うのであります。その点を防禦するためには、どうしても檢察官側において調べたところのいろいろな聽取書、あるいは尋問調書、あるいは鑑定、これら檢察官側において整えたところの一件書類というものを、あらかじめ見る機会がなければならないと思われるのであります。そうしてこの二百九十九條は大体條文の上からは「あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えらければならない。」かように漫然とも書かれておりますけれども、この立法趣旨は、檢察官が調べたところの聽取書、その他一件書類は、裁判前に弁護人側の請求があるときは、一切その手のうちを見せるというところの趣旨を表わしておるものだ、かように了解してよろしゆうございましようか。お伺いしたいと思います。
○木内政府委員 お答えいたします。これは條文は起訴後の問題でありまして、要するに檢察官の捜査記録が全部公判廷において、証拠になるのではないのでありまして、とにかくまず一定の條件のもとし、証拠書類または証拠物の取調べを裁判所に請求しなければならないのであります。その請求をするについては、あらかじめ被告人または弁護人にこれを閲覧する機会を与えなければ出せないということになつておるわけであります。その閲覧の方法につきましては、つとめて御便宜の方法を考慮いたしまして、檢察廳において閲覧を願うというような方法を講じたいと思つております。起訴前の場合につきましては、この規定は適用されないわけであります。
○石井委員 大体本改正刑事訴訟法においても、檢察官は公益の代表者である。こういう場面を相当貫いておると考えられるのであります。そういたしますと一応檢察官側において調べたところの一件記録で、証拠物として裁判所へ出すものは被告人に不利益なものが多かろう。しかし調べたものの中においては、逆に被告人に非常に有利なものもあろうと思います。かようなものは檢事は証拠物として裁判所に出さない、裁判に提出しない、かような考えをもつようになるかもしれないと存じますが、檢事が公益の代表者である限りは、一応捜査段階において調べた証拠物、つまり一件記録のすべては、あらかじめ相手方にこれを閲覧する機会を与える。これが檢事局側が公益代表者としての現在の立場からは当然であろうと思われますが、これらの点についてもちよつと承りたいと思います。
○木内政府委員 法律の建前からは、御質問のような書類は、被告人または弁護人に閲覧させることができないわけでありますが、実際の運用においては、つとめて御趣旨のような機会を与えるようにいたしたい。かように考えております。
○石井委員 この点につきましては裁判所側においても、本規定の解釈についてはいろいろと疑義がある。むしろこれは檢察官側は本規定に基くというと、公判になるまでは弁護人あるいは被告人に、その取調べの証拠物等を見せなくても差支えないという解釈が成り立つ、こういうふうに言われておるのであります。もしさようなことになりますと、裁判の遅延並びに檢事が公益の代表者の立場という点も、すべて没却させるのでありますから、この点は公訴の提起後におきましては、一件の記録というものは、被告人に有利であろうとあるいはまた不利であろうと、すべて被告人あるいは弁護人に閲覧の機会をもたしてもらう、こういうことが本法の全体的の趣旨、檢事が公益の代表者という立場から、おのずからこの規定に現われておる。かように解釈をする。この方向においてお進みをいただきたいと思うのでありますが、念のために申し上げておく次第であります。
○木内政府委員 お説の点は私どもも、ごもつともと思うのでありますが、とにかく建前が当事者訴訟主義になつておつて、公判廷に出すものはあらかじめ弁護人等に閲覧をせしめなければならないということになつておりまして、公判廷へ出さないものは見せなければならないという規定にはなつておりませんから、條文の建前からはそういう解釈をするということは困難と思うのであります。しかしながら先ほど申しました通り、檢察官は同時に公益の代表者でもあります立場もあり、また御質問の御趣旨もごもつともと考えますので、実際の運用におきまして、つとめて御趣旨に副うようにいたしたいと考えております。
○石川委員 ただいまの石井委員の御質問に関連してお伺いしたい。まず第一に、二百九十三條によりますと、「檢察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。」こう言つております。これは当然の規定でありまして、ここで事実すなわち犯罪の構成がどうかということと、その行為が該当すべき法律が何か、刑の量がどれほど見るべきものであるか、つまり求刑であると存じます。この刑の量、求刑がどういう標準によつてなされるのか、その標準を示す規定がございませんが、もしありましたならばお聽かせ願いたい。またこれは檢察官の個々の考えによるのであるか、そうでなく二百四十八條がこれの原則になるのか、その点をお伺いいたしたい。
○木内政府委員 求刑の標準を特に規定した規定はございません。しかしながら大体御説の通り、二百四十八條の不起訴の場合の規定の趣旨を総合いたしまして、その犯罪事実について求刑の標準をきめて求刑する、こういう考えでおるわけであります。
○石川委員 そこで進んでまいりますと、檢察官が求刑なさる場合には、二百四十八條によつて性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状、犯罪後の情況、こういうような被告の利益の点はもとより考えなければならないのであります。そこでこれらの事実を調査しなければ、求刑の量が公平であるかどうかはわからなくなるのであります。そこでこれらの事実は二百九十六條に、「証拠調のはじめに、檢察官は、証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない。」と言つておるのでありますから、二百四十八條に掲げてあるところの事柄、事実は、やはり求刑する以上証明すべき一つの事実となつて現われてくるのではないかと存じますが、いかがでしよう。なお続きますが、そのことが先ほども石井委員から問題になりましたように、檢事の職責は公益の代表者という檢察廳法第四條に書いてあるところの職責からも当然かと存じます。
○野木政府委員 この案におきましては公判の手続は当事者訴訟主義的色彩が現行法よりも非常に濃くなつております。しかしながら檢察官はるる申し上げておるように、純然たる攻撃者一方に徹するというところまではいつておりません。なお公益の代表者という面ももつておる次第であります。それがどの程度まで調和されておるかと申しますと、やはり檢察官側としては一応公訴事実を立証し、しかもその立証する際には、もとより被告人側の一部の有利な証拠をも考えつつなお公訴事実が発生するという事実を立証するわけであります。それに対して被告人側は、公訴事実を消極ならしむるような点を立証していく、あるいは檢察官側の立証と爭つてその証明力を奪つていく、そういうことになるわけであります。裁判所はその結果、なおこの点を調べてみなければ有罪であると断定できないというような場合には、職権で補充的に取調をする。そういうような考え方になつております。從いまして檢察官が公益の代表者として被告人のためをもはかるという程度は、起訴、不起訴を決定する等の場合におきまして、被告人側の不利な情報のみならず、有利な情報も斟酌して起訴、不起訴を決定する。また刑の量定をする場合においても、一応被告人側の立場も考えて求刑をする。しかしながら何もかも全部被告人側の有利な点を積極的に全部拾い上げる、そこに主力を注ぐという、そういう意味では二つの公判におきましては、檢察官は行動いたすことはこの訴訟法は予定いたしておりません。それはむしろ弁護人側の任務になる、そういう考え方に從つておる次第であります。
○石川委員 さらにお聽きしたいのでありますが、二百九十六條の「証拠により証明すべき事実」この実事はもとより犯罪事実がその主たる対象であることは申すまでもありません。しかし刑の量定になつたときに公然たる事実、たとえば二百四十八條に書いておるようなことも、刑の量を定めるについて事実として檢察官が証明してくれまるかどうかというのであります。
○野木政府委員 この三百十七條の「事実の認定は、証拠による。」この文字は現行刑事訴訟法と同じ文字を使つておるわけであります。現行法のもとにおきましても、この点につきましては解釈論が若干わかれておる次第であります。現行刑事訴訟法の立案に関係されました林博士、あるいは学者としては宮本博士などは、大体これは犯罪事実のほかにただいま御指摘の刑の量定に関する事実も含むというように解釈になつておるようであります。ところがその後小野先生などが、判決の書き方のところと関連いたしまして、罪となるべき事実のみが嚴格な証拠を必要とする、その他の刑の量定に関する事実は、もちろん何らかの資料に基くことは当然であるが、必ずしもここに言う嚴格な意味の証拠ということには必要ないという説も出ておるようであります。ところで、この案ではどちらの考え方に從うかと申しますと、本案が当事者主義なる点、それから刑の量定という点も非常に重大であるという点、しかも日本の刑法が刑の量定の裁量の範囲が非常に廣いという点などを考慮いたしますと、やはり林博士、宮本博士などの言うように、事実の認定は証拠によるということは、犯罪事実のみならず、刑の量定に関する事実もこれにはいるものである、そういう趣旨に解した方が妥当であり、また考え方としてもこの案におきましてはそつちの方になつてくるものと考える次第であります。
○石川委員 そこでひとつお聽きしなければならぬのは、証拠により証明すべき事実を檢察官は証拠調べの初めにまず明らかにしなければならぬというのですが、これは檢察官がそのときまでに蒐集しました一切をこのときに出させてしまうという御趣旨ででき上つておるのでありましようか。それとも、いつでも檢察官が公判が続いておる限り任意のときに出させる、こういう意味でありましようか。おそらく二百九十六條の御趣旨は、從來捜査によつて得た一切の証拠をまずもつて現出しなければならぬ。いわゆる原告官たる檢察官の証拠は全部ここで出すべきものであろうと考えますが、どうでしようか。もう少し補足して申し上げますが、今申し上げましたことは、あとで証拠方法の証明力についての爭いは別である。証明力の爭いは、原告官の檢察官で出してまいりました証拠について、また被告側ではそれに証明力を爭う、それに対して原告官がまた爭う、そうして爭うことは別でありますが、ここに犯罪事実について必要な自己の証明しなければならぬと思う事実に対する一切の証拠をまずここで出させる。これが御趣旨でないかと思いますが、それをはつきりしておきたいと思います。
○野木政府委員 二百九十六條の趣旨は、この案の考え方におきましては、起訴状は起訴状だけで別にそれに捜査書類を添付しないで裁判所にいきますので、裁判所といたしましては、起訴状だけではいきなり証拠調べにはいるということはなかなかむずかしいことが多いと想像されるわけであります。それで檢察側といたしまてしは、公訴事実について立証しなければなりません。そのためには各種の証拠方法を出すわけでありますが、その証拠方法のうち、証人の取調は、この案におきましては、まず裁判官がその任にあたつて、その基礎的なわくを裁判官が聽いておく、それから檢察官側なり弁護人蘇が尋問していくという建前にしてあります関係上、檢察官は裁判官の証拠調べのできるように、まずこの二百九十六條の規定によりまして、証拠調べの初めにあたつて、裁判官は、これからどういう証拠を出してどういう点を明らかにし、爾後の裁判所の証拠調べが適切に行われるようにするというのがこの規定の趣旨であります。從いまして檢察官は、自分が今まで調べたところの全部の聽取書とか何とかいうようなものををここで全部示さなければならないというところまで、この規定は言つておる趣旨ではございません。のみならば、檢察官の聽取書というようなものは、もし弁護人側の方で異議があれば、これは証拠とすることができない次第でありまして、これを法廷に出すことができないわけであります。そういう意味におきまして、ここでは、檢察官が今まで調べ上げた聽取書等は全部さらけ出すということは考えていない次第であります。
○石川委員 二百九十六條の趣旨とするところは、檢察官は起訴状によつて犯罪事実等を明らかにいたしまして、それを証明するところの証拠は、証拠調べの初めにおいて証拠方法はそのときまでに蒐集しましたものを全部ここに現わしておくという御趣旨であるかどうかを明らかにしておきたいのであります。
○木内政府委員 御質問の通りこの改正案の立て方は、冒頭陳述において一応檢察官の手もとにあつて、法廷に提出すべき証拠を一応そこに明らかにするという建前をとつております。
○石川委員 四百八十二條でございますが、刑の執行を停止することができるということになつておりますが、停止せられましたものが、また取消されるということがございましようか。どの條文によつてこれが取消されるのでありましようか。お伺いいたしたいと思います。
○野木政府委員 四百八十二條によりまして、執行を停止した場合におきましても、これは檢察官の処分でございますが、初めから一定の期限をつけておくような場合にはもちろん、その期限が経過したときには停止の効力はなくなるわけでありますけれども、そういうような場合でなくても、たとえばこの條文の「受胎後百五十日以上であるとき」などという場合には、すでに分娩してしまつて、出産後六十日を経過してしまつた後などにおきましては、停止の原因はなくなるわけでありますから、格段の規定がなくても檢察官は刑の執行停止の取消しを指揮することができる。そう解している次第でございます。
○石川委員 四百八十條でございますが、懲役、禁錮、拘留の言渡しを受けました者が心身喪失の状態にあるときは、回復するまで執行を停止するということになつております。ところでただいま問題になりました四百八十二條で野木さんが御設例になりました以外の例、刑の執行によつて著しく健康を害するとき、または生命を保つことのできないおそれがあるとき、五号の、刑の執行によつて回復することのできない不利益を生ずるおそれがあるとき、こういう場合において執行停止の期間をつけなければならぬということでございます。執行停止の処分をやればそれでよろしいのでありますが、執行停止をやりましたあとに刑の執行をやるという場合には、どういう手続になつてまいりますか、ここに明らかになつておらないかに思われますので、その点をお聽きしておきたいのであります。慣例がございますれば慣例でよろしい。
○野木政府委員 四百八十二條各号に掲げてあるような事項がなくなつてしまつてような場合になりましたならば、檢察官は改めて刑の執行を指摘する、そういうことによつて賄い得るものと考えます。
○石川委員 了承いたしました。
○井伊委員長 この際委員長から一点お伺いしておきたいと思います。第五十三條の訴訟記録のところで、閲覧手数料のところが正誤されまして、訴訟記録の保管ということも手数料のことも別に法律でこれを定めるというふうになつておるのでありますが、この法律では、この訴訟記録の保管や手数料のことについてはどういう構想をおもちでありましようか。
○野木政府委員 実は確定訴訟記録を裁判所で保管すべきであるか、あるいは檢察官ないし檢察廳で保管すべきであるかにつきましては、いろいろ議論があり、まだ解決に難つていない次第でありまして、法務廳といたしましては、なお裁判所、檢察廳、法務廳よく懇談いたしまして、いま少しよく話し合つてみたい。そういう考えをもつておつた次第でありまして、きまりますならばその案を法律という形で國会に出しまして、なおどうしても話合いがつかなかつた場合におきましても、一応法律という形にして國会に出せば、國会の御批評によつてきまり得る、そういう考えのもとで、時間の関係上今度のこの案におきまして、いずれかにきめますことを出しますのはいろいろ錯雜もいたしますし、なお先ほど申し上げたようにいま少しいろいろ話し合つてみたいという点もありますので、一応別に法律で定めるということにいたしておる次第であります。
○木内政府委員 野木政府委員のただいま申されたことについて、一言附加して申し上げたいと思うのであります。この確定訴訟記録が裁判所側で保管すべきものか、從來のように檢察廳で保管するのが適当かということにつきまして、いろいろの論議が現在もあるのであります。そこで裁判所側の意向といたしまして、もちろん中にはこれは檢察廳に保管するのが相当だという意見をもつておられる人もあるのでありまするが、また他方、これは裁判所が裁判をした訴訟記録であるからその裁判所に保管しておくのが本筋である。こういう主張があるのであります。檢察廳則といたしましては、なるほど記録は裁判所が作成したものであるけれども、その後裁判の執行は檢察官がこれを指揮しなければならない。それからまた恩赦法によつて恩赦の手続を檢察廳において責任をもつていたさなければならない。そのためには判決原本及び訴訟記録が必要である。ただ自分のところで裁判をしたのだから自分のところのものだという考え方は、私どもちよつと納得いき兼ねるのでありまして、もつと大所高所から見たならば、訴訟法上の判決が確定したという後も、執行という問題の責任がある。なお恩赦の問題がある。さような点から見ましても確定記録は檢察廳に置かねばならぬ。裁判所の一部のおつしやることには、そのときには貸してやる、こうおつしやる。それもごもつともでありまするが、私どもの方も裁判所の必要な場合はいつでもお貸しする。大体において確定記録は裁判所では自分のところで保存されるだけで、われわれはその記録に基いていろいろ法律の命ずるところの手続をいたさなければならないわけであります。だからこれは理論上また実際上、檢察廳が保管すべきものだという意見でおるのでございます。そうしてなるべくこの問題を改正案を提出する前に解決いたしたいと思いましたのでありますけれども、解決いたさないものでありますので、かような一時規定を設けたような次第でございます。
○井伊委員長 なお訴訟記録の手数料のことについてはどういう構想をもつておられるか。
○野木政府委員 この点につきましては、全然費用なしで閲覧を許すということは、整理等の関係につきましても非常に困る点がありますので、やはり整理のため若干の手数料をきめた方がいいじやないか、そういう考えでございます。もちろんこの手数料は閲覧を禁止する、狹めるという意味の制限的な手数料を考えておる次第ではございません。
○井伊委員長 これにて散会いたします。 午後五時一分散会