司法委員会 第19号
- 発言数
- 73 件
- 登壇者
- 5 名
- 会派数
- 2
- 開催日
- 1947/08/12
会議録
○松永委員長 會議を開きます。刑法の一部を改正する法律案につきまして質疑を進めます。佐瀬委員。
○佐瀬委員 二百三十條の二に關して提案の説明を求めたいのでありますが、この第一項の意味は結局事實の眞否を判断して眞實であることが證明されれば犯罪にならないという趣旨になるのでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 二百三十條の名誉毀損罪の成立についてさらに二百三十條の二を新たに設けまして、二百三十條に規定してあるような名誉毀損の行為が公共の利害に關する事實であり、しかもこの目的がもつぱら公益をはかるに出でたものである。しかも事實が眞實であるということが證明された場合には犯罪が成立しないという除外規定を設けてあるのであります。
○佐瀬委員 罪を構成せずという刑法的な法理關係はどういうことになるのでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 二百三十條の二に規定してあるような構成要件、すなわち消極的な構成要件が完備すれば犯罪が成立しない。この要件が具備しなければ、二百三十條の名誉毀損罪が成立するというふうに考えております。
○佐瀬委員 結局かかる場合は正常な行為である。言いかえるならば、刑法三十五條によつて違法性を阻却するから犯罪にならないという意味ではないでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 そういうやうな、考えではございませんので、どこまでも二百三十條の二に掲げてあるような消極的な構成要件が具備すれば犯罪が成立しないし、具備しなければ犯罪が成立する、こういう建前で立案いたしたのであります。
○佐瀬委員 その點は了解いたしました。それではその特別構成要件の點についてお伺いしたいのでありますが、ここに言う「眞實ナルコトノ證明」という場合のいわゆる眞實という意味は、主觀的眞實を言うのか、客觀的眞實を言うのか、この點に對する御意見を承りたいと思います。
○佐藤(藤)政府委員 「眞實ナルコトノ證明」と言いまするのは、客觀的な證明であるというふうに解釋しております。
○佐瀬委員 しからば行為者が主觀的眞實と誤認して犯したという場合は、どういう結果になるか、この點の御説明を承つておきたいと思います。
○佐藤(藤)政府委員 消極的な構成要件と申しましたために、ただいまのような御質問が出ますることは、ごもつともに存ずるのでありまするが、眞實なる證明というのは、どこまでも客觀的な證明でなければなりませんので、たとい犯人が自分はほんとうだと思つて發表したのだというよう辯解がありましても、それが客觀的に眞實であるということの證明が出ない以上は、犯人の主觀の有無にかかわらず客觀的な證明の有無によつて犯罪の成否が判斷されるものと解釋いたしております。しかしながら、さような解釋は私ども立案當局者のいわゆる行政的な見解でありますから、將來裁判所において具體的な事件についてどういう見解をもたれるか存じませんけれども、おそらくこの二百三十條の規定のほかに、二百三十二條の規定をなし、また文理から申しましても、「前條第一項ノ行為公共ノ利害ニ關スル事實ニ係リ其目的等ヲ公益ヲ圖ルニ出テタルモノト認ムルトキハ事實ノ眞否ヲ判斷シ眞實ナルコトノ證明アリタルトキハ之ヲ罰セス」、こういう文理から解釋いたしましても、おそらく將來の裁判所の判斷も、われわれと同じような見解になるのではないかというふうに考えております。
○佐瀬委員 その點ほその程度に止めて、ただもう一點これについてお伺いしたいのは、本犯罪ももちろん故意犯と解釋されておると思うのでありますが、いかがでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 名誉毀損罪は全部故意犯罪であると解釋いたしております。
○佐瀬委員 すると先ほどの問題にも關連するのですが、消極的構成要件としてのこの眞實という點について、主觀的眞實を誤認して犯したという場合には、犯意の成立を阻却するという結論になるのではないでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 犯罪の構成要件につきまして、故意犯においてはその消構的な要件については、もちろん故意がなければ犯罪は成立しないのでありまするが、消極的な成立要件についても、すべて故意を必要とするものかどうかという點については、相當疑問があるだろうと思いまするので、なお第二百三十二條の二の文理解釋から申しましても、先ほど申しましたように、眞實なることの證明、それが客觀的に證明あればよろしいのであつて、本人の認識いかんにかかわらないものというふうに解釋いたしておるのであります。
○佐瀬委員 名誉毀損罪を悔辱罪以外に親告罪とするということは、前にも述べました通り、改正刑法の草案が採用したところにも反することになるのでありますが、本改正案において名誉毀損罪は親告罪としないというふうに提案するに至らなかつた最大な理由は、どこにあつたかということを簡單にお伺いいたします。
○佐藤(藤)政府委員 立案の經過から申しますと、名誉毀損罪について、そのうち特に重い場合、たとえば文章、ラジオ等によつて名誉毀損をするような場合は、これを非親告罪に取扱つたらどうかという意見もあつたのでありますが、名誉毀損罪というのは、その個人の社會的な評價を毀損せらるるという罪であるから、その個人の名誉を毀損せられるその個人の意思といものを尊重しなければならぬという意見が非常に強いのでありまして、いろいろ研究した結果、またさらに外國の立法例等も参照して、やはり名誉毀損罪はすべて本人の意思を重んじて訴追するという親告罪の取扱いをするのが適當であろうという結論に到達いたしたのであります。
○佐瀬委員 社會の一般常識から申し上げますと、非親告罪とされておる現在の刑法の上に立つて見ましても、名誉の侵害を受けた被害者が、いわゆる泣寝入りになるということを豫定して、名誉毀損をもつて、むしろ全員の恐喝だとかいつたふうに惡用されておる感が強いのであります。從つて弱き被害者を擁護するためには、その告訴のできないような弱點を利用する惡質な犯罪を防退するがためには、むしろ刑事政策的にも、本罪をもつて非親告罪とした方が適切であろうというふうに、私どもは考えておるのでありますが、この點に對する御意見はいかがでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 從來名誉毀損罪を親告罪としておりますために、被害者が相手方の脅迫あるいは恐喝等に恐れて告訴をしない、泣き寝入りになるという實例もあつたことを承知いたしておりますので、御意見のほどはまことにごもつともに存ずるのであります。しかしながら、名誉毀損罪そのものの本質を飜つて考えますると、先ほど申し上げましたように、その個人の名誉が毀損せられるのでありまして、大體において他に影響は少ないのであります。その被害者たる個人の意思を尊重するという意味において、やはり親告罪として取扱う方が適當であろうという結論に到達したのであります。
○佐瀬委員 私はなお本罪をもつて非親告罪とする方を可とする理由として、皇室に對する名誉毀損罪の場合の告訴をいかに取扱うかという二百三十二條一項の問題も、自然解消するのではないかと思うのであります。あるいは名誉毀損を親告罪とするのは、かえつて皇室に對する名誉毀損罪を一般の名誉毀損罪に繰込んだために親告罪とし、これを内閣總理大臣が皇室に代つて告訴をするという制度に改めるために、親告罪にしたのではないかというふうに、世間からもむしろ誤解をされるのではなかろうかとさえ考えるのでありますが、とにもかくにも名誉毀損罪を全面的に非親告罪とすれば、皇室に對する場合も、告訴問題という困難な事態を避けていけるのではないかと思うのでありますが、この點はいかがでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 仰せのように、名誉毀損罪を非親告罪として取扱いますれば、たとえ被害者が天皇その他の皇族でありましても、取扱いを異にすることもなく、また第二百三十二條に告訴の特例を設けるようなこともなく、非常に簡單に條文の體裁は整うのでありますけれども、先ほど申し上げましたように、名誉毀損罪の本質に鑑みて、名誉毀損罪はどこまでも親告罪として取扱う方が適當である。また名誉毀損罪についても、一般の國民と天皇その他の皇族との間に取扱いを異にすべきものではない。法の前にすべて平等に取扱うべきであるという考え方から申しますると、告訴すべきものの取扱いとして第二百三十二條に特例を設けて、そうして名誉毀損罪は一様に親告罪として取扱うという方針を一貫いたしたのであります。
○佐瀬委員 問題を轉じまして、百八十三條姦通罪の廢止の點でありますが、この廢止の理由は先般一應政府委員の御説明を承つて諒とするものではありますが、しかし功利主義的な經湾政策というものよりかは、社會の道義を維持するという刑法の本質的目的からすると、むしろ存置した方がいいように思われるのであります。これを削除して他の民事賠償の問題だとか、離婚の原因だとかすることによつて、間接に姦通罪を豫防するというのは、これは別個の法律制度でありまして、刑法の本質的使命からすると、刑法もまたおのずからこれに對する規定がなければならぬと思うのであります。政府においてもしこれを廢止せんとするならば、刑法においてなおよつて來る弊害を豫防するような、他に別個の法規を刑法典の上に規定していくということも同時に考えていなければならぬと思うのでありますが、いかがでございましようか。
○佐藤(藤)政府委員 刑法第百八十三條の姦通罪の規定を廢止しようとするその理由は、前回も申し上げましたように、姦通は夫婦間の道義及び愛情の問題であつて、夫婦間の道義及び愛情をもつて解決すべきものを刑法の規定をもつて解決せんとすることが、そこに無理があるのではないかというふうに考えておるのであります。しかも姦通罪は事の性質上、夫婦の一方の告訴をまつてこれを論ずることになりまするので、その告訴が從來適當に行使せられておらないのでります。告訴をめぐつていろいろな犯罪、また犯罪とまでは行かないでも、いろいろな紛議がその間にまつわるのであります。從つて姦通罪の規定を設けておるということによつて、告訴をめぐつていろいろな紛議が起り、また國民道義の上からしてもおもしろくない結果も豫想せられるのであります。ゆえに姦通罪の規定を廢止することによつて、國民の風数に及ぼす影響いかんということは、非常に心配されるのでありますけれども、また存置することによつて、國民の道義に及ぼす影響も考えなければなりませんので、いろいろ研究いたしました結果、廢止するという結論に達したのであります。しかしながら廢止することによつて、國民の風儀に及ぼす影響を豫防するために、特別なる規定を設くる用意はないかというお尋ねでございますが、その點については、まだ何ら考えておりません。
○佐瀬委員 民法の改正によつて家族制度が廢止されんとしつつあります。從來の封建的な家族制度を打破すべきことは、現代においては當然でありますが、しかし氏を尊び、血統を正しく保存するということは、人類社會の道でなければならぬと考えるのであります。姦通罪において、その犯罪性が否定され、あるいはその處罰が解放せられるということになりますると、民法のさような傾向にかてて加えて、刑法の上からもまた道義的に名を保存きるべき家庭制度を、血統の上から實體的に潰滅へ導くおそれもなしとしないのであります。そういう意味において、私は姦通罪を簡單に抹殺すべきではないと考えておる一人であります。そこで正統な血統を保持するという角度から見まして、もし強いて姦通罪の規定を削除せんとするならば、誤つた受胎者については、むしろその社會的理由をもつて堕胎罪を認めるということにまで徹底しなければ、姦通罪の廢止はその弊害が、今申し上げました點においても多いのではないかと思うのであります。堕胎罪の廢止については、近代各國刑法の上にも、いろいろな理由から相當議論されておりますが、私は姦通罪の廢止という點から見ましても、堕胎罪はなお考うべき問題ではないかと思うのであります。この點の御意見はいかがでありますか。
○佐藤(藤)政府委員 改正案におきまして、姦通罪の規定を削除するというのは、姦通行為が道義上で許さるべきものである、法律上不問に付すべきものであるという趣旨ではないのでありまして、姦通はどこまでも夫婦が性的純潔を保たなければならぬという人倫の道を破つた罪惡であるという見方については、姦通罪の規定の存否いかんにかかわらず、嚴然として存在しておるのであります。ただかような規定をおいて刑法上保護するということは、それは無理があるのではないか。どこまでも夫婦間の愛情と道義とによつて解決する方が理想的ではないかという見方からして、百八十三條を削除せんとするものであります。ただ心配になりますのは、この規定を削除することによつて、現在の日本の社會情勢の上から見て、善良なる風俗を維持するという風儀の上に何らか惡い影響を及ぼしはしないかということを、私ども心配いたしておるのであります。しかしながら、この見透しといたしましては、いろいろ研究した結果、この規定の存否いかんによつて風儀に影響があるものではないという結論に達したのであります。もしこの規定を削除した結果として、われわれの豫期せざる惡い影響が現實に現われる、あるいは現われる傾向がありましたならば、これは近き將來の刑法の全面的改正の際に、もう一度考え直さなければならぬ問題だろうと思うのであります。また姦通によつて生れる子供、受胎したその胎兒をいかにするか、さらに強姦によつて被害者が受胎した場合に、その子供をどうするかというような問題は、これは刑法の全面的改正の際に、堕胎罪の規定について一定の條件のもとにおいて當然許さるべき場合があるのではないかという問題として残る問題なのであります。今回の改正案においては、その點を取上げなかつたのであります。將來の問題に譲りたいと存ずるのであります。
○佐瀬委員 姦通罪を廢止しても、法律上不問に付する考えではないという御意見でありますが、少くとも刑法上は不問にされるわけであります。すべて道徳で賄いきれるならば、法律は大部分なくてもいいのであります。特に刑法は最下低の道徳なりという格言すらあるくらいでありまして、道徳に任し得ないものを刑罰法規によつて押えていくというところに、刑法の存在價値があるわけであります。從つて將來この姦通罪を廢止したためにどういう社會的弊害ができるか、それを持つて、また姦通罪を規定し直すかどうか、あるいは他の法律制度をもつて臨むか、御研究をされるということは、結構でありますけれども、私は時期を失した制度というものは、何ら社會的機能を發揮し得ないものであつて、およそ意味のないものであると考えるのであります。終戰後の今日の世相を見ましても、犯罪社會學は、なるべく制裁法規をもつて臨まなければ、人倫、人道を正し得ないような状態にあるのであります。從つて姦通罪の廢止ということも、よほど愼重を要する問題ではないかと考えるのであります。これは私の意見でありますけれども、なお政府が堕胎罪を近き將來の問題として考えていきたいという點は了承するものでありますが、私の考え方からするならば、今日その堕胎罪の規定をどうするかということも、姦通罪の廢止や何かと同じように、あるいはそれより以上に社會的意義を有するものではないかということを思わざるを得ないのであります。フランスは、第一次欧州大戰直後、たしか一九二四年に特別法を出して、アルサス・ローレン地方においてドイツの軍隊や何かのために受胎したフランス婦人に對し、堕胎を認めるという例外法を規定したことがあります。從つて、これは愼重に御考慮を願いたいと思うのであります。私の質問はこれをもつて一應終わります。
○松永委員長 明禮輝三郎君。
○明禮委員 皇室に對する罪、これをお伺いしておきます。天皇の新憲法上の地位をどういうふうに大臣は考えていらつしやるか、お伺いいたします。
○鈴木國務大臣 どういうふうにと抑せられると、質問の趣意がよくわかりませんが、國の象徴として、また國民統合の象徴として考えておると申し上げるほかはないのであります。その意味はどういう意味でであるかといえば、人によつて見解を異にするかもしれませんが、私は主としてこれを道義的な意味における象徴、そう考えております。
○明禮委員 政府において私どもに示されております、刑務の一部を改正する法律案の提案理由の中に、新憲法において天皇は日本國の象徴、日本國民統合の象徴たる特別の地位を有せられ、皇族もまたこれに伴い法律上特殊の身分を有せられるのでありますけれども、他面これらの地位と矛盾せざる範圍において、一般國民と平等な個人としての立場をも有せられることとなつたのでありまして、その限りにおいて法的に異なつた取扱いをすることは、新憲法の趣旨に合致しないとの思想に基き云々とあるのであります。私どもは、天皇は由來誉憲法においては元首、こういうふうに考えていたのでありますけれども、新憲法によつてその地位は、今大臣の述べられましたことく、日本國民統合の象徴、日本國の象徴というようになつておりますが、個人としての立場ということは、あるいは君主政體ということは、あるいは共和政體というふうな、今のそういつたような面から、一般の國民というお考えでいられるのでありましようか。その點を伺いたいのであります。
○鈴木國務大臣 その問題は憲法改正の際にも繰返された問題でありますが、天皇が象徴であられるということは、憲法上必要な範圍内においてでありまして、また自然人とせられましては、われわれと同じように國民の一人であらせられる。從つていろいろ私どもと同じような法律上のお地位にお立ちになることもあり得る、こういうふうに解しております。
○明禮委員 誉憲法によると、不可侵權というものがあつて、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラズス」という規定があつたのでありますが、このたびはそれがないのでありますけれども、こういう面においては、どういうふうにお考えになつておるのでありましようか。
○鈴木國務大臣 「神聖ニシテ侵スヘカラス」ということも、解釋がいろいろありますが、通常の解釋によれば、法律上無責任であるということに相なるのでありますが、進んでは、天皇は神である。私どもの學んだ憲法學説においてすら、天皇は神であるがゆえに、神聖にして侵すべからざるものであるというふうにすら説明されたことがあるのでありまして、そういうことは、いわゆる民主主義の原理に合わず、また新憲法の精神に副わないというところから、そういう規定を設けることは避けたのでありまして、從つて天皇を神格化して考えることは避けなければならぬ。もしこれを政治上の無責任という意味に解するならば、御承知のごとく新憲法は、天皇は初めから政治に關與したまわないのでありますから、そういうことを論ずる必要もなく、規定する必要もないことと存ずるのであります。
○明禮委員 憲法の第二條によりまするならば、「皇位は、世襲のものであつて、國會の議決した皇室典範の定めるところにより、これを繼承する。」こうなつております。皇位の繼承というものがここに定められておりまする以上、不可侵權はいずれにいたしましても、皇位という特別なる御地位があらせられるものであると、私は考えておりますが、いかがでありましようか。
○鈴木國務大臣 やはり御説の通り國家の象徴としての立場に立つことを皇位につくというのでありますから、そういう意味において存在することは御説の通りであります。
○明禮委員 憲法の第四條から七條までの間にこれを見ますると、天皇は國事に關する行為を行い遊ばして、國政に關する機能を有せられないというのでありまして、國事という點においては、第四條から七條までに至る廣範圍なる象徴である御地位に基いて、この法的地位にいらせられるということも間違いがないと存じますが、その點もお伺いしたい。
○鈴木國務大臣 御説の通りであります。
○明禮委員 ポツダム宣言——一九四五年七月二十六日、合衆國大統領、中華民國政府主席、グレートブリテン國務大臣の間にできましたこの宣言によりますと、十三項目できておりまして、この十三項目の中に「八 カイロ宣言の條項は履行せらるべく、また日本國の主權は本州・北海道・九州・および四國竝に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし。」「一〇 吾等は日本人を民族として奴隷化せんとし、または國民として滅亡せしめんとするの意圖を有するものに非るも、吾等の俘虜を虐待せる者を含む一切の戰争犯罪人に對しては關重なる處罰を加へらるべし。日本國政府は、日本國國民の間における民主主義的傾向の復活強化に對する一切の障碍を除去すべし。」「一三 吾等は、日本國政府が直に全日本國軍隊の無條件降伏を宣言し、且つ右行動における同政府の誠意につき適當且つ充分なる保障を提供せんことを同政府に要求す。」とありまして、政府の誠意について保障しておることは、今日日本帝國が独立國として法律の制定に十分なる民主的意向を取入れることを認めておるものであると思いますが、いかがでありましようか。
○鈴木國務大臣 それもその通りであると思います。ただポツダム宣言竝びに實際に日本に進駐をいたしまするときの宣言等に基きまして、若干の制限が加えられておることは御承知の通りでありまして、その範圍外においては御説の通りであると信じております。
○明禮委員 しかもこのポツダム宣言によりまして、天皇に對する何らの制限がないということもはつきりしていると思いまするが、いかがでありましようか。
○鈴木國務大臣 天皇に對すると仰せられるとちよつと言葉があまり廣過ぎるように思うのでありますが、たとえば天皇の政治的の支配力、統治權、そういうものに何ら制限がないか、こういう御質問の御趣旨でありましようか。
○明禮委員 いや、これは失禮しました。その點はそういう意味でなく、獨立國としてその範圍内において天皇の地位を保持せられるということでありますね。天皇の地位を保持せられるということについて何らの制限がない
○鈴木國務大臣 天皇の御地位を保存せられるということは、御承知のごとく、公にも約束せられ現在も結果として何らの變化がなかつたわけであリまして、そのことは御承知を願いたいと思います。
○明禮委員 そこで外國の立法例によりましても、英國、米國、オランダ、ドイツその他あリまするが、やはり天皇に對する犯罪については取締規定が一般国民の規定以外にあると存じておりますが、この點はいかがでありますか。
○鈴木國務大臣 天皇というものは日本にしかないものでありまして、他の國の最高位にありまするものは、あるいは皇帝、あるいは君主等申すように存じておりますが、そういうものに特別な保護規定があることは、御承知の通りでありす。
○明禮委員 天皇という言棄は惡かつたですが、大統領その他君主ですね。そこで私はいただいておるこの資料を拝見しますると、この資料の中に、皇室に對する罪及び皇居または神宮進入罪につき、昭和二十二年六月十八日の統計表を拝見してみますると、皇室に對する不敬罪が昭和十七年までの間に二百二十五件、人員が四〇九、神宮の不敬がが六、人員が六、皇族に對する不敬が十五、人員二十二、皇居侵入が一、神宮侵入が一と、こういうふうに相當な事件が起きておりまするが、この點も御承知でありましようか。
○鈴木國務大臣 承知いたしております。
○明禮委員 それから外國の君主、大統領その他の使節に對する刑法九十條、九十一條の規定を削除されるというのでありますが、この點についてこれを削除する理由を伺いたいのであります。
○鈴木國務大臣 それは次官の方から詳細ご説明申し上げたと思いますが、大體次官の説明の通りと御承知を願いたいと思います。一言で申しますれば、わが國の皇室に對する罪を削除いたしましたために、これと均衡をとること、また國際法上當然豫定されていることでありまして、必ずしも國内法における規定を必要としない。特別の規定をしなくとも十分に保護される、そういう見地から廢止いたしたわけであります。
○明禮委員 特別の法規をおかなくても保護されるということは、一般の人民と同じ取扱いをするということなのでありましようか。それとも何か別に法規をつくられるのでありましようか。
○鈴木國務大臣 つまり侮辱をいたしました場合には侮辱罪によつて虚罰されるので、名誉を毀損した場合には名誉毀損罪で虚罰できる。暴行、殺人、傷害等をいたしましたならば、それぞれの規定で虚罰することができる、こういう意味であります。
○明禮委員 それはやはり一般の規定でいくのですか。
○鈴木國務大臣 そうです。
○明禮委員 各國には君主、大統領に對する犯罪の特別の規定があるようでありまして、日本の使節が行つてもしやられたときには、その適用があることになると思いますが、向うの方がいらつして、もし大津事件のようなことがあつたときに、これはやはり一般取扱いにすることはいかにも手落ちではないかと思われるのでありますが、いかがでありますか。
○鈴木國務大臣 そういう點はやはり次官からお答えになつと思いますが、たしかに若干の心配はあるわけで、こちらが保護をしておらなければ、相互主義によつて相手方の國でもこちらの使節をそれらの法域にあいて保護しないというようなことがあり得るわけであります。そういう點から議會において必要であるとお考えでありますならば、それらの點については、十分御考慮くだされ御審議になつて、そういうことのために特にわが使節を侮辱する、傷害を與えるとか名誉を毀損するということがあろうとは考えられないのであります。しかししいて考えれば考えられないことはないと思うのであります。
○明禮委員 今のお答えによると、外國の君主あるいは大統領使節に對して、今までの國交に關する罪のような規定をおいてもよろしいというお考えですね。
○鈴木國務大臣 私はそう廣く申し上げたつもりはないのでありまして、わが國の使節が外國に行つた場合に、暴行とか脅迫とか名誉毀損等の法定刑の範圍内で保護されるということは申すまでもないのでありまするが、しかし不可侵權を保護するのに十分でない場合、こちらも廢止しているのだからそちらも保護しないということがあり得る。そういう場合も考えられるのではないかという御質問の趣旨に解したのでありまして、たとえば殺人に及ぶとか、あるいはいろいろなことがありましても、それは一般人に對する罪の重きをもつて處斷することにならうと思うのでありまして、そのために特別の規定は要らない、こう考えていることは原則として變りはないのであります。
○明禮委員 わが國の尊屬殺傷の罪は二百條、二百五條にあるようでありますが、父母、あるいは年長者に對する殺傷は、忠孝の道からいつて、普通の規定で罰するということではいけないというのでこの規定ができていると解しますが、二百條から二百五條は今提出されている法律案の形からいくと、抹消されるお氣持でありますか。まだ削除は出ておりませんが、將來どうする御氣持でありましようか。
○鈴木國務大臣 その點はある個人を特に重く保護しようという趣旨からきているのではなくして、わが國における尊屬尊重、敬愛の國民感情というものを認めまして、いわゆる尊屬に對する傷害の罪を重く罰するということにいたしているのでありまして、これは理由あることと存じますから、改正しようという氣持はないのであります。
○明禮委員 今まで私がお尋ねいたしましたことによつて考えていただきたいことは、刑法の七十三條以下の皇室に對する罪をこのたび削除されたことについて、まことに私は遺憾の意を表するものであります。今のお話によりますと、尊屬殺傷というものに對する觀念も、國民の感情として重く罰することが社會上必要だから罰することになつたというのであります。もちろんそうでありますが、これは一個人の問題であります。ところがこの七十三條以下の問題は、こと皇室に關する問題でありまして、もちろん今までも法律の制定はあつたのでありますが、國民の感情としては、ほとんど一致して動かすべからざるものがあると私は考えます。殊に日本國統合の象徴でいらせられる天皇に對しては、なるほど個人と申しますか、一般社會人のような立場で野球をごらんになるようなこともありましようけれども、通常國事その他公務に、從事せられていられることが多いのであります。一面において國民であるということも私どもは言い得ないこともないと存じますけれども、とにもかくにも、憲法において象徴として特別の地位がおありになるにかかわらず、その地位に對する大君に對して危害その他の侮辱があつた場合に、何ら特別規定がないということは、私はどうしても片手落ちである。何とかしてこれはこういう規定の、たとえば不敬罪という、その不敬罪と言う言葉はよくないかもしれませんが、今日の民主的と言います立場から、不敬という言葉は、これは訂正してもいいけれども、誹毀罪といいますか、あるいは侮辱罪といいますか。要するに特別の規定を設けて、そうして今統計に申し上げましたような犯罪に對する防止、あるいはそういうことはめつたにないことでありますから、いわゆる社會政策といいますか、刑事政策の上からいつても、あるいは國民の感情の上からいつてもまた法律論からいつても、どうしてもかような規定がなければならぬと私は考えるものであります。その點についての御意見を伺います。
○鈴木國務大臣 ただいま政府委員からもお答えいたしまして、結局繰返す問題に相なると存ずるのでありますが、明禮委員のような主張なり考えをもつておる方があるということは、十分に了承いたすのであります。政府と致しましては、先ほど來申し上げます通り、國の象徴であらせられますことは、政治上の意味においてそうでありますが、個人としてのお立場をもつておられることも否定できないのでありまして、主として刑法上の犯罪に該當することは、個人としての地位に對して行われるものとみなければならぬと思うのでありまして、その場合他のものと異なつた規定を特におく必要はない。その感情を尊重せよという點は同感でありまして、おそらく實際の裁判等にあたりましては、重きに從つて處斷する、その許されておる刑のうちの重きものを適用するということに相なるであろうと思いますが、それをもつて必要にして十分であるとすべきであつて、特に天皇竝びに皇族に對して特別の規定を設けるべきではない、かように解しておる次第であります。
○明禮委員 罰するのは個人としての天皇でなく、個人としてのお一方に危害があつた、そういうふうに見られておると申しますか、公務執行妨害罪のようなものはいかがでありましようか。やはり公務を妨害したもの、その制裁を特別に規定しておるのでありますが、そういう地位、國事に從事せられるそのうちに犯罪が起つた場合に、一般の公務執行者のようなわけにはいかぬのでありますが、この點はいかがでありますか。
○鈴木國務大臣 たとえば天皇が國事を執行遊ばされるときに妨害したときは、これは立派な公務執行妨害ででありまして、それはあるいは身體に對する柳制が加わり、あるいは名誉に對する侵害が加わるということがあれば併合せられる罪でありまして、結局それぞれの法規によつて重く處斷されるということでありまして、一向差支えないかと存じております。
○明禮委員 私の申し上げましたのは、公務という地位に對する犯罪が認められておるのでありますから、陛下が國事に從事せられておるときに起こるものは、やはり一般の公務という考えでなく、そういう公務の執行妨害罪があるのでありますから、公務につかれておるときの陛下のそういう立場に對する特別の規定がなければならぬと申し上げたのであります。公務執行妨害罪でもいいかもしれませんが、そういう今までの法制ではなかつたはずであります。いまただちにこれがなくなつてしまうと、一般の國民と同じように、公務執行妨害、あるいは殺人で少し重くすればよいではないかという考えがあるようでありますが、私はそこに大きな矛盾がある。そこを何とかしなければならぬと申し上げるのであります。
○鈴木國務大臣 御質問の趣旨がよく了解いたし兼ねるのでありますが、御意見としては承つておくのでありますけれども、結局見解の相違ということになるのではないかと思うのでありまして、私どもの立場においては、やはり國の象徴としてはあくまでも道義上の尊敬を申し上げる。國民もこれを道義上のまた國民感情上のものとして尊敬申し上げる。強いて象徴であるからその意味の公務員であるから、刑法で特別の規定を設けて一般の人よりも別な保護を與えなければならぬとこう考えますことは結局我が國の實際の國情に適切でない考え方である。かように考えておるわけであります。
○明禮委員 私は象徴であられるということも一つの國民の考え方、國民の感情道義でありまして、そういう立場の天皇を保護する特別規定がなければ、私どもはどうしてもいけないと思うのであります。しかしこれはおそらく私一人の考え方ではなく、先ほど申しましたが、國民全般といつてもよろしいほど、この七十三條以下を削除されることについては反對であると、私は思います。これについて、今後この問題が審理されるについて、十分なる御理解と、十分なる御援助を求めたい。しかもこれは司法大臣において提出されておりますから、これを先ほど申しましたように、その不刑敬罪ということは別といたしまして、立法をある程度変更いたしまして、そうしてこの精神を存置するというお気持ちはございませんでしようか、お伺いいたします。
○鈴木國務大臣 政府は新憲法の精神に鑑みまして、この七十三條以下を削除することを決意いたして提案をいたしたのでありまして、新憲法の精神をかく解釋いたしまする限り、どうもこれを變更するということは申し上げかねるのであります。
○明禮委員 わかりました。もう一つお尋ねいたしたいと思います。二百三十一條の名誉毀損罪が削除されるようでありますが、いかなる理由でありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 名誉毀損罪につきましては、言論の自由に名をかりて人の名誉を毀損することを異としない徒輩が多く生ずる傾向に鑑みまして、名誉毀損罪の刑を高めて、新憲法の精神に副いたいという趣旨で、二百三十條を改正いたしたのでありまするが、と同時に二百三十一條の事實を摘示しないで名誉を毀損した場合、すなわち悔辱罪についても、あるいは刑を高めてこれを強く取締らなければならないのではないかという意見もあつたのでありまするけれども、事實を摘示しないで名誉を毀損するというような場合は、ごく輕微な事例でありまして、英米の立法例などでは、單なる悔辱罪はこれを刑法上の問題としておらないというような例をも参照いたしまして、この際は二百三十條の刑は高めて名誉毀損罪を強く取締るけれども、二百三十一條の單純な悔辱罪は、これを刑法上の犯罪にしないという結論に到達して、かような改正案になつたのであります。
○明禮委員 百八十三條の姦通罪の點でありますが、これは今まで何遍も伺つたのであります。私どもは日本の國情がまだそこまでいつてないと思う。姦通罪は私どもはむしろ男女兩方とも責任を負わせる規定をおくのがほんとうである。これを解放してしまつて道義に訴えるということは、なかなかむつかしくもあり、かつ土地の事情を私どもはよく知つておりますが、こういうことは道義なんかではなかなかいけない點があるのであります。また政策上においても、こういうものは男女兩方とも本質的平等の立場において取締るというのがほんとうで、積極的におくという方がよろしいと思うのであります。この點はいかがでありますか。
○佐藤(藤)政府委員 姦通罪の規定を削除することによりまして、わが國の善良なる風俗に影響がありはしないかということは、われわれ最も愛慮いたした點でありまして、その點については、慎重に各方面の意見も徴して研究いたしたつもりであります。その研究の結果、この規定の有無にかかわらず、從來と違いはあるまいという結論に到達したのであります。もし御意見のように夫婦の一方が姦通をした場合に、他方が告訴によつてこれを刑事上の問題にするということになれば、その告訴權をめぐつて單なる家庭内の問題がさらに輪に輪をかけて相當紛議の種となり、かえつて道義上、風数上おもしろくない結果が生ずるのではないかというような心配も生ずるのでありまして、從來告訴種をめぐつていろいろな犯罪や紛議の起つた實例に徴して考えましても、今度は夫婦お互いに告訴し合うというような制度にしますれば、かえつて家庭内の紛議が一層はなはだしくなつておもしろくない結果が生ずるのではないか。結局姦通という問題は、しばしば申し上げましたように、夫婦間の道義と愛情をもつて解決すべき問題であるのを刑法で取上げるというのは、そこに無理があるから、かえつて弊害が生ずるのではないかというような考えに落ちつきましたので、廢止する案に到達したのであります。
○明禮委員 しかしこれは議論になるかもしれませんけれども、そういう事態が起つた場合に、圓滿に私どもは濟むことはないと思います。また事件として實際取扱つてみた私どもからすると、そういう事件が起つて圓滿に濟んでおる事態はほとんどないのであります。これをおかないために起る障害というものがどれくらいあるかということを考えてもらいたい。この點については参議院の方で公聴會を開かれておりますけれども、私どもはそれを兩方におくことが一つの刑事政策というか、隱れたる大きな役割をするものであると考へますので、これは私の意見でありますが、これで私の質問を終わります。
○松永委員長 本日はこれにて散會いたします。 午後三時五十五分散會