司法委員会 第16号
- 発言数
- 93 件
- 登壇者
- 7 名
- 会派数
- 3
- 開催日
- 1947/08/08
会議録
○松永委員長 會議を開きます。 刑法の一部を改正する法律案について質疑を進めます。榊原千代君。
○榊原(千)委員 私は第百八十三條削除の問題につきましてちよつとお伺いしたいと思います。現行の刑法や民法を見ますと、あまりに女性の地位を低く見ておりまして片手落ちな、差別的な待遇をしておりますので、條文を見ただけでも公憤を感ずるほどでございますが、それでも戰時中日本女性は默々として國家のために働き通しましたし、政府に對しても、男子側に對しても不平も言わず、ひたすら日本民族のために忍從と犠牲の限りを盡してきたのであります。終戰後思いがけない事情によりまして、女性の前に自由な途が豁然として開けてまいりました。言いたいこと、實行したいことは、法律の改正や制定に向つても、全日本の女性の關心が集中しておると申してもよいのであります。今にして國家は女性の聲なき要求と、沈默の期待とを進んで讀み取るのでなければ、平和國家の建設ということも、足もとから崩れていくと思うのであります。なぜならば、女性は國民の半數を占めておりまして、本來平和的なのでありますから、これらの女性の大きな期待の一つは、實に姦通罪の問題なのであります。私は女性の立場から、冷靜に兩性の本質的平等を考え、憲法の眞の精神から、姦通罪を取り扱つてみたいと思うのであります。思うに、男女の生活において基礎となるものは婚姻であります。婚姻は夫婦の性的生活の秩序であるとともに、親子生活の基礎であり、また同時に社會公共生活の組織單位でもあります。從つて婚姻によつて成立した夫婦は、生理生活においては純潔でなくてはなりませんし、心理においては愛情をもととして、また經濟においては協力しなくてはならないと思うのであります。これを一括して、婚姻は神聖であることは皆樣御存じの通りでありますし、この前も佐藤政府委員がおつしやいましたように、この婚姻の神聖は人類不變の、古今東西において變ることのない原理なのであります。しかるにこの婚姻の神聖を蹂躙する最も惡質の行為は、實に姦通なのであります。進んで憲法精神を考えてみましても、第二十四條には次の通り規定しております。「婚姻は兩性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の權利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定されてあります。大抵の人たちは、この條文は男尊女卑という封建的な遺物を清算し、封建的な思想を解消して、そうして夫婦同權に向つて女性の解放を定めたものと見ているようであります。けれども私たち女性の立場から見ますと、條文の中央に書いてあります通り、兩性は相互に協力して健全な家庭を維持しなければならないという理想に向つての努力を、最も強く規定しておるものと解釋されるのであります。つまり姦通も犯罪として處罰するか否かということが問題であるばかりでなく、婚姻神聖の目的に向つて、姦通がこれをじやまする手段と見るのであります。そうしますと、姦通をなくしようと努力し、あるいは少くしようと努力することを妨げ、あるいはこの努力を怠るというようなことは、憲法の精神に違反するものだと考えるのであります。少くとも憲法を忠實に遵守することとは考えられませんが、政府はどういうふうにお考えになつておりますか。
○佐藤(藤)政府委員 仰せのように、夫婦は婚姻によつて、その性的生活においては純潔を維持しなければならぬという原理を基調とするものであると存じます。この夫婦間の性的純潔を維持するという原理は、これはその性質上、夫婦間の愛情と道義とによつて維持せられなければならぬものでありまして、これを刑罰によつて維持することは、そこに無理があるのではないかというふうに私どもは考えておるのであります。從つて刑罰法規において貞操義務を守らない夫婦の違法に對して、他方が刑罰をもつてこれを強制するということは、もうすでに夫婦間において愛情がないのであるから、將來夫婦の關係を維持しようという氣持が全然なくなつた二人の間柄でありまして、刑罰をもつてその愛情をとりもどすということは、もはやできないのではないかと思うのであります。また他面姦通という罪惡を犯したことによつて、一旦夫婦間において愛情がさめたとしても、また再び夫婦間の関係を繼續しようという氣持があるならば、その間において相手方を訴えて刑罰に處するということは、これもどうも道理に合わないことなのでありまして、かれこれ考えますると、どうも夫婦間において性的純潔を維持しなければならぬというその原理を維持するためには、どうしても夫婦間の愛情と道義にまたなければならないのであつて、刑罰をもつてこれを強制するということに、いくらか無理があるのではないかというふうに考えましたので、刑法において姦通罪の規定を削除いたしましても、何ら道理に反するものではないと考えるのであります。また新憲法におきましては、夫婦平等の原則を規定しておりまするので、なるほど現行刑法のように、夫婦の一方の姦通を責めて他方を責めないという規定は、憲法の精神に反するのであり、また夫婦平等の原理に副わないものでありまするので、さような意味合いにおいて、現行刑法の姦通罪の規定を廢止することが、むしろ新憲法の精神に副うことになりはしないかというふうに考えたのであります。しかしながら仰せのように、刑罰法規から姦通罪の規定を削除するということは、現在のわが國の社會情勞に鑑みてあるいは適當でない、その時期にあらずという御意見もありまするので、贊否——兩論で行くべきか、あるいは全然削除すべきか、この二つの意見に對しましては、私どもは虚心坦懷、皆樣の御意見を拜廳して、善處いたしたいと考えておるのであります。
○榊原(千)委員 ただいま佐藤政府委員のお話を伺つておりますと、姦通によつて告訴しようというような場合においては、すでに夫婦間の愛情が失われておるものであるから、こういうようなことを刑罰によつて斷じてもしかたがないというふうに聞えるのでございますけれども、實はそこへ行くまでの生活を護りますためにも、姦通罪というような規定を置くことは、必要なことではないかというふうに考えられるのであります。たとえば必ずしも夫婦間において愛情がないわけではなく、ふと人間の弱さのために、いわゆる浮氣というようなことで、そうしてほんとうに健全な、神聖な家庭を維持しなければならない場合に、その姦通罪というような赤信號がないために、割合に容易にそれを犯してしまうというようなことがあるのじやないかということを恐れるのでありますけれども、いかがでございますか。
○佐藤(藤)政府委員 お尋ねの點は、これはまつたく人によつて見方が違うのかも存じませんが、私どもの見るところによりますれば、たとえば現行刑法のように、妻の姦通罪のみを認めておる法規は不合理であると考えております。しかしながらこういう法制のもとにおいても、妻が姦通をしないのは刑罰法規があるから、やむを得ず姦通しないというのではないのであります。日本古來の道徳として夫婦間の貞操を守らなければならぬという、その義務を傳統的に國民一般が強く體得しておるので、姦通の事實があまり多くないのでないかと考えております。從つてこの規定を削除したからといつて、急に姦通はしほうだいという氣持になつて、道義頽廢の風潮になるとはみておらないのであります。また夫の方におきましては、今までも姦通を刑罰をもつて取締つておらないのでありますから、夫の姦通はこの規定の削除によつて何ら影響はないことになるのでありますが、妻の姦通が將來多くなるか、少くなるか、あるいは現状のままであろうかということは、いろいろ見透しがあるだろうと思います。私どもの考えておるところでは、この規定を削除しても姦通罪が殖えるものとは考えておらないのであります。
○榊原(千)委員 佐藤政府委員のお答えですと、今まで姦通事件、殊に裁判に上つた姦通事件というものは非常に少かつた。それは日本の貞操觀念がしつかりしていたからというふうに伺われますけれども、表面に浮び上つたところの姦通事件というものは、きわめて少かつたと思います。殊に一方的に妻の姦通のみに罰していたのであり、一方においては女の貞操というものを非常に強壓してまいりましたから、そこに浮かんでいるものは少いのでありますけれども、新憲法下におきましては、今の規定を削除するのみならず、これは兩罰、あるいは兩方罰しないとか、平等に行くものと考えますけれども、もしも平等に罰するような場合においては、また今までもし平等に罰せられていたとしますならば、これは決してそういうような安易な考え方はできないものと思うのであります。表面に浮び上つたのはちようど氷山が頭を出したその面だけのようなものでありまして、しかも殊に惡質なものだけが裁判沙汰になつておるのでありますけれども、底に沈んでおるところの、殊に一方的な待遇を受けたために苦しんでおりました女性の數は著しいのではないかと思います。先日佐瀬委員が、性態的に現われた實數を知りたいとおつしやいましたけれども、それはおそらくむずかしいとしても、新聞紙上あるいは雑誌上の身上相談あるいは施設としての身上相談所に現れたいろいろな苦悶の大半は、姦通事件に基くものではないかと私は見ておりますが、どうお考えになりますか。
○佐藤(藤)政府委員 姦通の事件が裁判上問題になりました事件はごく少いのでありますが、實際社會において姦通行為の行われておる事實は、それ以上のかなりの數に上つておるだろうということは、私どもも想像しておるのであります。この事實上行われておる姦通行為が、しからば夫婦平等にこれを處罰する規定を設けることによつて解決するのが相當であるか、どうかということに歸著するのであります。その點は先ほども申し上げましたように、夫婦間の性的純潔を維持するためには、どうしても事の性質上、夫婦間の愛情と道義とにまたなければ、その原理を維持することはできないものと私どもは考えておりますので、もし夫婦の一方に姦通という罪惡が起りました際に、一時は相手方が憤慨して離婚しよう、あるいは姦通の告訴をしようというところまでいきましても、それは一時の過ちである、將來許してやろうという氣持であるならば、もう姦通の事件は刑事事件としては取扱うのに不適當なのであります。しかるに逆に夫婦の一方に一旦姦通行為が行われた場合に、他方がどうしてもこれは許せない。離婚してしまおう。あるいは姦通の告訴をしようという決心をしました場合には、もう夫婦間の愛情がないのでありまして、これは相手方を刑罰で脅かしても、夫婦の關係を取りもどすことは實際上できないのではないかと考えられますので、さような夫婦間の関係を持續することができないような姦通行為が行われた場合には、やはり夫婦間の道義の問題、愛情の問題として解決するのが相當ではなかろうか。もしそれによつて損害賠償あるいは慰藉料の請求、あるいは離婚する場合の離婚原因とするようなことは、何ら差支えないと思いますけれども、刑罰をもつて規定することはいかにもそこに無理があるのではなかろうかと考えますから、少し理想に走るかもしれませんけれども、これは刑法上の問題としない。夫婦間の愛情道義の問題として解決する方が望ましいのではないかというような考えをもつておるのであります。
○榊原(千)委員 どうもお答えを廳いておりますと、夫婦間の問題をもつて、プライベートな、私的な行為のもとに、夫婦間のことは夫婦間で、愛情と道義によつて解決すべしというふに考えられますけれども、私は夫婦というものはそのような私的な行動であり、個人的生活であるとしてのみは考えられないような面が多いのじやないかと思うのであります。つまり夫婦同權と申しましても、男女の生理的自然状態が違いますから、その働きも自然に違い、女性は女性の特徴をもつて、男性は男性の特徴をもつて、協力して家庭を營み、その家庭が社會活動の單位となり、ひいては種族保存の重大機能を營んでおるものでありまして、これは決して夫婦だけの個人的な問題でなくして、公共の取扱いを定める刑法や民法によつて、十分に擁護されるだけの價があるものだと私は信ずるのでありますけれども、いかがでございますか。
○佐藤(藤)政府委員 その點はまことに御説ごもつともでありまして、私どももこの姦通という事件を取扱うのに、單に夫婦間の私的行為とのみは見ておらないのでありまして、社會公共のために、また善良なる風俗を維持するために、姦通罪を刑法上取扱うということも、相當意味のあることとは存じておるのであります。實はこの問題を右にすべきか、左にすべきかということについては非常に迷つたのであります。いろいろ比較檢討いたし、また國内の事情等も考慮いたしまして、結局この削除の結論に到達したのでありまするけれども、この結論に到達するまでの間は、他國の立法も研究し、この結論に到達したのでありまするが、しかしこれは重大な問題でありまして、現にある規定を廢止するのでありますから、廢止することによつて生ずる影響というものも考えなければなりませんので、そこは國民の健全なる輿論の代表であらせらるる議員において、いかようとも御決定くだされば、その決定に從つて私どもは善處したいというふうに考えておるのであります。
○榊原(千)委員 ちよつと質問をかえまして、夫婦でない第三者との、いわゆる姦通によつて生れました子供の問題についてお伺いいたしたいと思います。もしも妻ある夫が第三者的女性との間に子供を生みましたときには、その子供の籍はどこにはいるのでございますか。
○佐藤(藤)政府委員 現行法のもとにおきましては、お尋ねのように夫が妻以外の女と關係して子供を生んだ場合には、その子供はその母親たる女の子供として取扱われるのであります。夫が認知するまでは單に父のない母親の子として取扱われるのであります。
○榊原(千)委員 今度新しくつくられようとしている民法においては、どういう關係になりますか。
○佐藤(藤)政府委員 民法の改正案におきましても同樣の解釋となると思います。ただ從來のような私生子とか、庶子というような名稱はなくなることになつております。
○榊原(千)委員 もしも婚姻生活中の妻が、第三者たる男子との間に子供をもうけましたときは、その子供の籍はどこへはいるのでございますか。
○佐藤(藤)政府委員 夫婦關係の繼續している間に妻が子供を出生した場合には、その子供は一應夫の子供と推定されるのでありまして、夫の否定がない以上はやはり夫の子、妻の子として取扱われるのであります。
○榊原(千)委員 姦通の問題は、單に夫婦だけの問題ではございませんで、將來生れ出ますところの多くの不幸な子供の運命をも考えなくてはなりませんので、輕々に、ただ男女平等に罰則を廢止するというようなことは、よほど考慮しなければならないことだと思うのでございます。こういう子供がすくすくと伸びていくか。あるいはこういう子供が社會にいろいろな精神的な、病的なものをふりまく原因となつて、かえつて文化國家を築こうとする日本の國に、脅威を與えるような結果がもたらされないとも限らないのであります。ことに政府委員は現下の日本の事情を考え、また諸外國の例を考えてこうおきめになつたようにおつしやつていらつしやいますけれども、英國などは、英國の歴史は協會の歴史を研究するのでなければ理解されないというほどキリスト教的な、宗教的な要素が國民生活に滲透しているのであります。そしてしかもこのキリスト教というものは、一夫一婦を實にストリクトに守るところの龜鑑を與えておるものでありまして、日本のように、殊に現下の事情を考慮なされてとおつしやいますが、現に戰後においては道徳の頽廢がはなはだしく、從つて猥褻罪なども大幅に引上げられたというような御答辯をなさつていらしやるときでありますし、殊に日本は、家族制度のもとにおいて、平氣で蓄妾というようなことが行われてきたので、サテイテイとかピユーリテイとかいう思想は少いのだと思います。これを今この規定が削除されたことによつて、このような問題は私的な、個人的な問題であるというように考えられますと、この道徳頽廢の傾向にかてて加えて食糧不足というような經濟事情もございまして、私は憂うべき状態が生れ出るのではないかと思つているのであります。實地に日本はいま民族として政治的危機に立つていると言つてもよいのであつて、一般社會の、ただいままで陰然たる力となつていると姦通憎惡の感情というものが、これによつて薄らいで、そうして重大な事情が發生するのじやないかということを恐れるのでございますけれども、どうお考えでございましようか。
○佐藤(藤)政府委員 現行刑法の百八十三條を削除いたしました結果として、從來よりも姦通の行為が増加する。しかして風紀頽廢の傾向を助長することになりはしないかという御意見に對しましては私どももその點は非常に憂えておるのであります。もしさような傾向が見えますならば、これを削除することは時期尚早と言わなければならぬのであります。しかしこれまで研究したところでは、これを削除しても從來よりも姦通行為が殖えるだろうという見透しには至りませんので、削除という結論に到達いたしたのであります。
○榊原(千)委員 戰後の情勢におきましては、女と男の比率が、その差が大きいのではないかと考えられるのでありまして、結婚できない女の人の數を考え、そうしてまた現下の道義の問題を考えますと、もしもそこに刑罰としての姦通罪がございませんと、非常に危險じやないかと思うのでございます。その刑罰の規定があることによつて、相手の人をもその赤信號の前に警戒をさせるのじやないかというふうに私どもは考えられるのであります。刑罰を置いても置かなくても同じだとは考えられないのであります。もちろん窃盗罪にしても、罰則を置こうが置くまいが、しない者はしないし、するものはするのでありますけれども、それにしても、ちよつとした勤機でというようなものは、刑罰があることによつて、十分防がれる率が多いのではないかと考えられるのでございますけれども、いかがでございましようか。
○佐藤(藤)政府委員 普通の一般の犯罪でありまするならば、刑罰法規を置くと置かないとによつて、その犯罪の數に増減があるということは、まことに御説の通りと存ずるのであります。しかしながら姦通という行為は、まつたく夫婦間の性的純潔を維持しなければならぬというその義務を破るところの、夫婦間の愛情、道義を破るところの、夫婦間の愛情、道義を破る最も重い惡罪ではありますが、しかしその罪惡を解決する方法としては、これは刑罰をもつて解決するよりも、やはり夫婦間の愛情と道義とによつて解決する方が妥當であらう、こういう見方から姦通罪の規定を取扱おうといたすのでありまして、この規定を削除することによつて、當然罪惡視されておる姦通行為が、將來多くなる、あるいは多くならない、あつてもなくてもその數には増減なかろうというその見方が、そこに相違があるのではないかと考えられるのであります。
○榊原(千)委員 そうなりますと、見方の相違で、もうここに至りますと議論になりますから、私の質問はこれで一應やめておきます。
○花村委員 私は實は他の委員會に出ておりましたので、刑法の質問ができませなかつたので、あるいは重複する點もあらうかと存じますが、名譽毀損に關しまする最後の二百三十二條中に、同條の次へ一項を加えてあります皇室の名譽毀損罪、竝びに外國君主、大統領に關するこの種の犯罪のこの條章に牽連いたしまして、第一章として、皇室に關する犯罪が削除に相なつておりますが、これと牽連をいたしまして、少しく政府委員の御所見を承りたいと思うのであります。まず第一にお伺いいたしたいのは天皇に關する刑法適用との關係でありますが、ここに改正せられましたこの二百三十二條に追加せられました名譽毀損に對しては、内閣總理大臣が代つてその告訴權を行うということに相なつておるのでございますが、わが國の天皇がわが國の刑法の上から見ていかなる關係に置かれてありますか、それをまず第一にお伺いいたしたい。
○佐藤(藤)政府委員 二百三十二條に一項を附け加えまして、天皇が名譽毀損罪の對象になつた場合には、名譽毀損罪が親告罪たる性質に鑑みまして、被害者たる天皇が本來告訴すべき場合でありまするけれども、天皇は新憲法の冒頭に明記されてありまするように、日本國の象徴であり、日本國統合の象徴であらせられる特別な地位に立たせられておりますので、事實上天皇が國民のある者に對して、犯罪の訴追を求めるという告訴の意思表示をされるということは、とうてい期待しがたい事實であろうと考えられるのであります。そういたしますると天皇に對する名譽毀損罪は、被害者たる天皇に告訴を期待することができないとすると相手方は告訴されない。從つてその犯人は不當に處罰を免れるという不當な結果を生ずるのでありますので、天皇に對する名譽毀損罪に限つて、その告訴は内閣總理大臣が代つてこれを行うという特例を認めたのであります。この天皇に代つてこれを行うという規定の解釋でありまするが、内閣總理大臣が天皇に代つてこれを行うというのは、内閣總理大臣の獨自の考えで告訴するのでありまして、天皇の意思いかんにかかわらず告訴權を行使する、こういう解釋のもとに立案いたしたのであります。
○花村委員 その點は大體わかつておるのであります。私のお尋ねいたしたいことは、天皇はもちろん刑事裁判から除外をせらるべきものであることは疑いないと思うのでありますが、現行刑法の適用の上からどういう關係になるか、現行刑法がすべて適用されるというのであるか、あるいは全然適用されぬというのであるか、その點をお尋ねいたしたい。
○佐藤(藤)政府委員 天皇は日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であらせられる特別なる地位に立たせられておりますので、刑法の適用はないものと解釋いたしております。
○花村委員 そうしますると、刑法の一部を改正する法律案の提案理由で、もちろんただいま政府委員が言われたような、特別の地位を有せられており、しかも法律上特殊の身分を有せられるのであるということをおつしやられておるのでありますが、そのあとへ續いて「他面これらの地位と矛盾せざる範圍において、一般國民と平等な個人としての立場も有せられることになつたのでありまして、その限りにおいて法的に異なつた取扱いをすることは、新憲法の趣旨に合致しないとの思想に基き、この改正を行わんとするものでありまして云々。」こうなつております。しかもそのあとで「要するに個人の尊嚴かつ平等の趣旨を、これによつて徹底せんとするものであります云々。」こう述べておる。そうすると他面にこれらの地位と矛盾せざる範圍において、一般國民と平等な個人としての立場において、法的に異なつた扱いをしないのが適當であると述べられておる。その趣旨はどういう意味になりましようか。
○佐藤(藤)政府委員 天皇が、ただいま申し上げましたように、特別なる地位に立たせられておりまするその特別なる地位を保護するがために、刑法上何らかの規定を設ける必要があるかどうかという點については、御議論のあるところだと存ずるのであります。言いかえれば現行刑法にある皇室に對する罪という一章をそのまま存置すべきか、あるいはこれを削除すべきかという論に歸著することと存ずるのであります。なお他面天皇は個人たる地位として、國法上これを保護しなければならぬのであるから、その個人たる地位における天皇を保護する規定は、これは一般國民を保護する規定と同じでよろしい。同じ地位において個人たる天皇を保護する。こういう建前のもとにおいて名譽毀損罪についても、あるいは危害罪についても一般國民と同樣な取扱いをしよう、そういう趣旨で第一章の削除の理由として、その趣旨を説明したつもりであります。
○花村委員 そこで天皇の特別の地位ということを言われたのでありますが、しかしわれわれが今日考えてみますのに、天皇の特別の地位というものはほとんど變りがない。今日も古も少しも變つておらぬ、こう申してよかろうと思うのでありますが、この特別の地位ということをどうお考えになつておりますか、天皇の特別の地位というものの根據をどこにおかれますか、これを私はお尋ねいたしたいと思うのであります。
○佐藤(藤)政府委員 その點は前囘にも私の考えを申し述べたのでありますが、新憲法の第一條に、「天皇は、日本國の象徴であり日本國民統合の象徴であつて」という特別な地位を認められておるのでありまして、この特別なる地位は、お説のように、歴史の示すところ、何千年前からわが國民の傳統的に確信しておる特別な地位であろう、こういうふうに考えておるのであります。
○花村委員 大體私もさような意味に考えるのであります。要するに天皇の特別の地位ということは、國體というものから私は出發せんければならぬと思うのであります。日本の國體というものは國の根本的の特色である。いろいろ議論はありまするが、こう大體に認められており、しかも新憲法制定の質問應答の中でも、そのように申し述べられておるのでございますが、その國體觀念、國の基本的な特色、それはわが國において何であるかと言えば、日本國民がその心の奧深く根を張つているところの、天皇との繋りであるということで、それが憲法の條章に現われて、日本國の象徴であると言い、あるいは日本國民統合の象徴であると言われておるのでございますが、新憲法の改正によつて、國體觀念には、微動だも影響を及ぼさないということは、周知の事實であります。ただ變つたものは何であるかと言えば、要するに政體であります。天皇が政治的方面に關係をもつことができなくなつたというのである。かような關係からわが國の政體は變つてはおるのでございますけれども、この日本の根本的特色であります天皇と國民の心の奧深く根を張つております天皇とのつながりというものは、少しも變つていない。でありまするから、これを極言すれば、天皇の特殊的地位に對しては何らかの變りがないという結論に到達しなければなりません。政治の面から天皇が離れましたことは、わが國の歴史を通じてたびたびありますることは、ここで私がくどく申し上ぐることはないのでございまして、さような意味において政體に變更はありましても、國體觀念においては今日まで何らの變りがない。はたしてしかりとするならば、天皇の特殊的地位に對しては、何らの變りをもち來しておらぬと申さなければならぬのであります。もしそういうことであるといたしますならば、やはりこの刑法改正の場合においても、天皇の特殊的地位を護つた規定を存置するということは、當然の結論になるのではないでしようか。しかるにこの特殊的地位として、今日までわれわれの刑法が指定しておりまするところのこの條章を削るという理由は、一體どこにありましよう。それをお尋ねします。
○佐藤(藤)政府委員 新憲法によりましてわが國の國體が變革されたのであるかどうか。國體の觀念いかんということについては、昨年の憲法議會においても非常に長い間論議せられたところでありまして、學者間において今なお議論のあるところと思うのでありまするが、大體において私の考えは、ただいまの花村委員のおつしやるところと同じであります。しかして天皇の特別なる地位、國民とのつながりというこの特色においては、今も昔も全然變りのないものと私も確信いたしておるのであります。この特別なる地位を從來現行刑法において「第一章皇室に對する罪」としてこれを保護しておつたのが、この保護すべき規定を削除する理由いかんというお尋ねでございます。天皇の特別なる地位は憲法が變つても微動だにしない。しかに刑法においてその特別なる地位を保護するがための規定を今日改正するということにつきましては、立案の局に當りました私どもといたしましては昨年以來非常に苦心して研究を重ねたのであります。その經過から申し上げますると最初は私どもも花村委員とまつたく同じ考えでありまして、天皇の變らざる特別なる地位を保護するがための、特別なる保護規定を刑法に存置するということは、何ら新憲法のもとにおいても差支えないものであろうという考えのもとにおいて立案を進めておつたのであります。ところがその後いろいろ各方面の意向を徴し、また國際情勢をつらつら考えますると、かような天皇の特別なる地位を保護するがための特別なる規定を刑法上置くか、あるいは削るかということに對しては、國際間において非常な關心をもつておるということが看取されたのであります。しかして各國においては日本國が眞に民主的國家として今後發足し、成長することができるかどうかということは、天皇の特別なる地位に對して保護すべき規定を存置するか、あるいは削除するかということも、またそれを見究める一つの資料になつておるやに想像せられるのであります。かような國際情勢のもとにおいては、むしろかような特別な規定を削除する方が適當ではなかろうかというふうに考えが變つてきたのであります。しかしてこの特別な保護規定を削除しても、天皇の特別な地位に對する國民の考え方、天皇に對する敬愛の念において、何ら影響をきたさないものでありという考えに到達いたしましたので、遂に削除の結論に到達したのでありまするが、ここにこの結論に到達するまでには、立案當局といたしましては、非常に苦心いたしたのでありまして、最初のうちは花村委員の仰せのごとく、まつたく同じような考えのもとに立案を進めておつたのであります。しかしその後國際情勢の見透しについて、今申し上げたような考え方の變遷の結果、かような結論に到達した次第であります。
○花村委員 ただいまの説明ではどうもピンとまいりませんが、國際情勢とにらみ合わせてこういう規定にしたとおつしやられるのであり、しかも天皇を保護する規定を刑法にどうもるかということは、列國注目の的であるというお言葉であつたのでありますけれども、他國の立法例を見てみまするならば、いずれも君主、大統領に對しては、特別なる法律によつてこれを保護している。それはアメリカの大統領においても、あるいはイタリーの君主に對しても、あるいはまたフランス、ドイツ、英國、その他の外國の諸立法によりましても、こういう君主もしくは大統領のごとき特殊的地位をもつた方方に對しては、やはり特別法によつて保護を與えている。ひとりわが國が、いかに敗戰したりとは申しながら、各國で設けてあるその規定をわが國に設けるということに對して、どうして列國に氣がねをしなければならぬ必要があるのか、むしろ外國の諸立法がそういう立法をしているのであるから、日本でもやはり外國の多くの文明諸國の法令にならつて設けるのは當然であろう。むしろ設けないのが、妙な眼で見られるということも私は考えられると思う。しかも民主主義を實行していく。民主的に國家を切りかえていくというような建前からみましても、日本のこの種規定が世界で注目しておるというような關係もあり、考慮したのであるということでございますけれども、しかしこれは天皇の特殊的地位を認めるということを憲法で規定いたしましても、決してこれは民主主義の實行には何らの妨げともならぬ。英國におきましてもやはり君主を持つておられますところの民主國家である。君主があるということによつて、また君主に特殊的な地位を與えることによつて、國家の民主化、國民の民主主義の實現に對しては毫も妨げがない。これはきわめてはつきりしたことであり、わが国の憲法の中でも、天皇を國家の象徴とし、國民あこがれの的として立つていくということによつて、民主主義の實行に何らの妨げもないものであるという結論に到達いたしておりますことは、憲法の質疑應答を見ても明瞭であります。かような關係から申しまして、ただいま申された二點は、何らわれわれを承服する理由とは相ならぬと存じますが、そのほかに何らかの理由がありましようか。それをなお進んでお尋ねいたします。
○佐藤(藤)政府委員 第一章、皇室に對する罪の章條を削除するに至りました理由につきましては、ただいま申し述べました要點で盡きておると思います。
○花村委員 ただいまおつしやいました理由は何ら私は理由なきものと斷定をいたすのであります。殊に憲法の審議にあたりまして、國務大臣の答辯を見まする場合に、速記の中で二、三箇所出ておつたのを私は讀んだのでございますが、これは憲法に對する質疑應答をごらんになればはつきりいたすのであります。金森國務大臣の、天皇の特殊的な地位を認めておる結果として、天皇に對する名譽毀損その他の行為に對しては、特別なる法律を設けて重き處罰をもつて望むべきである、こういう答辯をいたしております。大體文句も私は今のように記憶いたしておるのであります。實はその速記録をもつてくるとよかつたのでありますが、大部になつておりますので…。とにかくそういう應答が二、三箇所にあつたように見受けておるのでありまして、これは間違いのないところであります。既に憲法制定の當時において、天皇の特殊的地位に對しては微動だもせぬものであり、しかも天皇に對する危害その他の誹毀、毀損罪も對しては、特別なる法律を設けて重く罰すべきである。こういう説明を政府がしておる。しかるに今日政府が迭つてこの案を出されたとは申しながら、わが國の根本法を規定いたします憲法において、そういうことをはつきり申されておりますのにかかわらず、この刑法の改正にあたつて、ただいまのような、何ら理由なき理由をもつてこれを削つたことは、大なる誤りであろうと私は存じまするが、政府委員はいかがお考えになりますか。やはりこれで適當なものであるとお考えになられましようか。憲法の質疑應答で、國務大臣がそういうことまで明言をいたしておるのでありまするが、これでよろしいとおつしやいますか。それをお尋ねいたします。
○佐藤(藤)政府委員 昨年の憲法議會において、政府のある國務大臣が、ただいま花村委員のおしやいましたように、天皇の特別なる地位を保護するがための刑法の規定には、手を觸れないという趣旨の發言をなされたことは、私も記憶いたしております。またその當時の政府の考えといたしましては、まつたくその通りに考えておつたのであります。先ほど申し述べましたように、立案の局にあたりました私どもとしても。さように考えておつてのであります。なお昨年の秋設けられました司法法制審議會においても、大體そういうような結論であつたのであります。ところがその後の國際情勢をつらつらみますると、かような特別な規定を設けなくとも、天皇の特別なる地位を保護するために十分であるならば、むしろ國際情勢に鑑みて、これを削除する方が適當ではないか、簡單に申し上げればそういう結論に到達したのであります。法律論としては、仰せまことにごもつともと存ずるのでありますが、いささかその所見を異にするために、結論において違うところが生じてきたのであります。
○花村委員 むしろ國内事情等から申しまして、こういう規定を削る方がいいというような意味に考えるのは、これは私は大なる誤りであり、時局をありのままに認識せざるものであるとまで申し上げても、過言ではなかろうかと思います。御承知のごとく今日わが國の治安ですらも、十分に維持されておらない。御承知のごとく日々の新聞紙上は、その三面記事をにぎわし、しかも惨酷なる犯罪がいたるところに起り、道義はほどんどすたれており、従いまして現政府は道義頽廢を憂うるのあまり、精神運動まで起さんといたしております。この混沌たる、この複雜せる、この危險極まる世相に鑑みますならば、むしろこの特別法規を存置するのみならず、より強化せしめるということこそ望ましいことでありまして、これを削るというがごときことは、時局に鑑み、むしろ冒險ではないかとまで申し上げてもいいのではなかろうかと思うのであります。しかしこの點は要するに政府委員との見解の相違でありますから、あまりこれ以上は追求はいたしませんが、そういたすのが妥當であると信ずるのであります。 そこで次にお伺いしたいのは、私はただに天皇のそうした特殊的地位を認めた特別立法をせんければならぬというばかりでなくして、これは外國の君主竝びに大統領、あるいは公使、大使等の外國使節等の特殊的地位も認めて、これまた特別に保護する法律をつくるということが適當であり、否むしろこれらの人々に對する保護規定を抹消する必要は、毫もないと考えておる一人でございます。多分國際聯盟の規約か何かに、こういう世界各國の特殊的地位をもつておる人々の地位は、保護をすべき義務を課せられておるような規約があるように考えまするが、この點はいかがでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 外國に滯在する一國の君主、大統領または外交使節が、特別な保護を受けることにつきましては、國際法上傳統的に認められておる慣習でありまして、おそらくこれは國際法の一部をなしておると申しても差支えないと思うのであります、しかしながらこの外國の君主、大統領及び外交使節を保護するための特別なる規定としては、國内法において、必ず一般國民に對するよりも重い刑罰をもつて、これを保護しなければならぬかという點につきましては、國際法上さような原則は確立されまおるものとは考えておらないのであります。
○花村委員 國際法上も認められておるようでありますし、かかる保護については國際法規の上でそういう規定があろうと思いまするがそれはいかがでしようか。國際法の上で、あるいは各國の條約において、そういう規定があるはずです。
○佐藤(藤)政府委員 各國間の條約において、いわゆる相互主義をとつて、甲の國において乙の國の君主、大統領、または使節に對して特別なる保護規定を設けるから、乙の國においても甲の國の君主、大統領または外交使節に對して、特別なる保護規定を設けようということを約束をした條約はあると思います。しかしながら國際法においてどこの國においても外國の君主、大統領、外交使節に對しては、一般國民よりも特別に思い刑罰を規定して、これを保護すべしという原則は、確立せられておるものとは存じておりません。
○花村委員 重い刑を科する法規があるかどうかは別問題で、私はそれはあえて問うどころではございません。要するにそういう條約あるいは國際法規に、この種特殊の地位をもつた人を保護する規定のありまする場合にこれを削るということは、結局憲法第九十八條末項の「日本國が締結した條約及び確立された國際法規は、これを誠實に遵守することを必要とする。」こういう規定がありまして、この憲法の條章に反する結果に相なろうと思いますが、その點はいかがでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 もし日本國が他國に對してその他國の君主、大統領、外交使節に對して特別に保護するがために、刑法上特別なる規定を設けるということを約束した條約があるとしますれば、その條約に牴觸することになりまするので、憲法九十八條第二項に違反するこの削除の改正案は、論議されなければならぬものと思うのでありまするけれども、私どもの調査したところでは、さような條約はいまだ存在しておらないというふうに見ております。
○花村委員 司法省の方から資料としてお渡しくださつた中にも、外國使節に對する侵害を處罰する各國の立法例というものがありまして、これはほとんど世界の有力なる多くの國に、そうした立法例があるようであります。いずれの國も元首あるいは大統領、もしくは外交使節等に對しまする特別なる保護規定というものを設けておるのでありまするが、ひとりわが國のみが、今日まであつたこの規定を特に削らなければならぬ——天皇に對する特別法として刑法から削つた理由はよくわかりました。しかしそれは理由のないものと認める意味においてよくわかりましたが、しかしこの外國の君主竝びに大統領、あるいは外交使節に對しましては、何ら國際情勢を考慮の中に入れる必要はない。むしろこういう規定を入れることが外國各國では喜ぶ。また入れるかどうかということも、外國がむしろ注目して見ておるところでしよう。でありまするが、こういう規定もともに削つたというのはどういう意味になるわけですか。その點をお伺いいたしたい。
○佐藤(藤)政府委員 各國の立法例を見ますると、外交使節に對して暴行、傷害あるいは名譽毀損等の罪を犯した者に對しては、特別なる規定を設けて刑法上これを保護しておるのであります。ところがその規定を詳しく檢討いたしますると、國々によつてその規定がまちまちなのであります。暴行についてのみ規定をしておる國もあります。あるいは侮辱についてのみ規定しておる國もあるのであります。しかしてその刑罰を見ますると、今度改正いたしまするわが國の刑法の刑罰よりは、むしろ輕いくらいなのであります。でありますから刑法において今度改正いたしまして暴行、脅迫、名譽毀損の刑を引き上げて、それらの行為に對して重く處罰するという態度をもつて臨む以上は、外交使節に對する場合も、一般國民に對する場合も、天皇に對する場合も同じように考えて、それを刑法上厚く保護することができるであろうというところから、つまりわざわざ特別な規定を設ける必要がなかろうというところから削除いたしたのであります。
○花村委員 これはどうも政府委員の御説明はちよつと間違つておるように考えられます。わが國の現行刑法の皇室に對する罰、あるいはまた外國の君主、大統領その他外國使節に關しまする罪等は、外國の例に比較をしてむしろ輕いと申さなければならぬ。多分イタリーでありましたか、イタリーは一年以上五年以下になつております。英國でしたか二年以上四年以下になつております。その他の國々の規定もやはり重く處罰しておる。むしろ日本の現行刑法——まだこれは改正になりませんから、現行刑法では、諸外國の例に比較して輕くなつておるのではありませんか。これは輕いからいいとか惡とかいうのではありませんが、輕い規定を設けてある。ところがそれより重くするのだという話ですが、重くなつておらぬのではないですか。これは一年以下が三年以下になつておる。前の刑法は五年以下とありました。危害を加えた場合は死刑ですが、不敬罪の場合は三月以上五年以下の懲役になつておる。それですから、これではちつとも重くなつておらぬじやないですか。皇室に關する罪を削除をしたから、この名譽毀損の意味を改正して重くしてそれで補うのだ、いいか惡いかは別としてこれも一つの理窟でしよう。しかしながらこの削つた刑法よりも輕くなつておるのじやありませんか。これではちつとも政府委員の言われた理由が通つておらぬじやないですか。重くなつておらない。一年以下が三年以下になつておる。不敬罪にあたるものは三年以上五年以下の懲役になつておる。これより輕くなつておるじやありませんか。外國の例より日本の刑法の方が輕い。この輕い刑法の皇室に關する罪を廢してしまつて、それより輕くして名譽毀損の方にもつていくということは、ちつとも筋道が立つておらぬじやないですか。
○佐藤(藤)政府委員 私は先ほど外交使節に對する規定の御質問のように伺つたのでありまするが、ただいまは皇室に對する罪の、不敬罪の罪と改正案との比較のように伺つたのであります。不敬罪の規定を廢止したから、現行刑法の名譽毀損罪の刑を高めて、そうしてそれで賄おう、そういうような考えは毛頭ないのであります。これを誤解されては非常に迷惑をいたすのであります。名譽毀損は新憲法において固くこれを禁ずるところである。いかに言論の自由を認められた今日においても、不公正な、不當な言論をもつて人の名譽を毀損することは、從來にもましてこれを重く處罰しなければならぬ。こういう考えから名譽毀損罪の刑を高めたのであります。そうしてそれと別に、皇室に對する罪の一環として不敬罪の刑を廢止いたしましたのは、先ほど申し述べましたようないろいろな理由から、特別な保護規定を設くる必要がなかろうというところから削除いたしたのでありまして、名譽毀損の刑を高めたから、從來の不敬罪にあたる行為は、すべて名譽毀損罪をもつて賄おうというような考えをもつておらないのであります。
○花村委員 この改正法案では、天皇に對します特殊的な地位というものを考えておられない。前に特別法として認めておつた刑法の皇室あるいは國交に對する犯罪も全部削り、しかも改正刑法においても何らこの種特別地位に對する顧慮を拂われないというようなことは、これはどうも憲法における日本の象徴であり、日本國民結合の象徴であらせられる天皇に對する特別なる御地位を、少しも顧慮せぬという結論に相なるのでありまするが、これでは私はたいへんなことであろうと思います。のみならず、外國の君主、大統領、もしくは外交使節に對しましても、その國々の特質的な地位を考えてやりまして、そうしてやはりそれらの人々に保護を與えることは、これは當然なすべき義務ではないでしようか。進んでこれはそういう規定を設くべきである。ほかの國においても、やはり外國のこうした特殊的地位におつた人に對する特別なる保護を與えておるというのに、日本だけは、外國へ行つて保護だけは受けるが、向うから來た人は來つぱなしで、保護はちつともせぬということでありましたのでは、これはどうも外國との國交を圓滿にやつていく意味においても缺くるところがある。また日本としても、敗戰はいたいましても、文化國家として世界の列強と伍していかなければならぬという場合において、日本がそういう義務的方面の措置を缺くようなことをやつておつて、はたして世界の舞臺で、文化國家であるということを、聲を大にして言い得るでありましようか。その點はどうお考えになりますか。
○佐藤(藤)政府委員 皇室に對する罪の章條を削除する理由といたしまして、先ほど國際情勢、また国内情勢等を引用いたしたのでありますが、その間見るところが異なりまするので、自然改正案に對する反對の御意見が出てくるであろうと思われるでのあります。國内情勢に對する見方といたしましては、仰せのように現在の國内情勢から見て、皇室に對する特別な保護規定を削除することは、國内情勢上好ましからざる結果が生ずるのではないかという見方もありましようけれども、私どもの見るところでは、刑法において天皇の特別なる地位を保護するがための特別な規定を設けても、設けなくとも、何ら變りはないと見ておるのであります。それは御承知のように、敗戰後天皇が國内の各地を御巡幸なされましたが、あの行幸の際における國民の歡迎ぶり、熱狂ぶりを見ましても、これは憲法が變つたから天皇に對する國民の見方が違つたとは思えないのであります。また以前は、護衞は非常に寛大になつておる。しかしながらそれにもかかわえらず——天皇に對する不逞の徒の犯罪ということも、以前と今日とは變りはない。むしろ見方によつては、天皇に對する國民の敬愛の念が、以前よりも増したのではないかとさえ見るものがあるように思われるのでありまして、この特別なる規定を削除いたしましても、私は國内情勢としては、國民の天皇に對するつながりと言いましようか、この天皇の特別なる地位に對する敬愛の精神に、何ら影響はないものと考えておるのであります。 次に外國の使節に對する特別なる係護規定を削除することは、今後の國際間におけるわが國の立場としてよろしくないのではないかという御意見であります。この點は私どもも、最も懸念されるところであります。今まであつた特別なる保護規定を削除することは、いかにも特別なる保護を與えないかのごとく誤解されるおそれがあるのであります。しかしながらこの點が、先ほど申しましたように、刑法が改正せられまして、暴行、脅迫、名譽毀損等についての保護規定が、刑が非常に高められましたので、たとえ一般國民と同樣な保護という建前をとりましても、この外交使節の生命、身體、自由、名譽に對する保護においては、何ら缺けるところがないものであろうと考えまするので、その點は國際間において、よく削除した理由——削除した曉においても、外交使節に對しては改正刑法をもつて十分に保護することができるのであるということを宣傳し、徹底せしめましたならば、その間の事情がよく國際間においても理解していただけるのではないかというふうに考えておるのであります。
○花村委員 ただいま政府委員の御説明の中で、天皇に對しまする國民感情と申しまするか、國民の氣持についてはその通りで、ごもつともであろうと思います。また今日まで危害等を加えた犯罪はないのでありまするけれども、しかしこの皇室に對する犯罪事件調べの表によつて見ますれば、やはりこの不敬罪というものは相當ある。しかも年々歳々殖えつつある傾向をもつている。殊に最近は御承知のごとく思想混亂の時代に相なつてまいりまして、昨年でしたか、あるいは米よこせ事件で、皇室に對して不當なる行為をあえてし、あるいはまたプラカード事件というようなものもある。この皇室に對して侮蔑、罵詈、讒謗その他誹謗等の幾多の行為等が繰返されておりまするのみならず、さらに今日の情勢をもつてしてはなおその件數は殖えるべき傾向をもつている世相であるとみるのが當然であり、そうみて萬全の規定を設けていくべきであろうと存ずるのであります。そこでこの天皇に對しましては、少くとも特別の處置として、不敬罪に對しては特別法規を設け、それから外國の君主、大統領もしくは使節に對しては、名譽竝びに侮辱に關する犯罪についての保護規定を設けるという程度に、この現行の改正法規を考えたらばどうかと思うのであります。私はその點を目指して本改正がむしろ修正されなければならぬ。修正せらるべきであると信じておりまするが、政府委員はその考えに對してそれをお認めになりましようか。全然否認をされるのでありましようか。そのお心持を承りたいと思います。
○佐藤(藤)政府委員 外交使の名譽を保全するために、保護規定を設けなければならぬことはまつたく御説の通りであります。しかして改正刑法におきましては一般の名譽毀損罪の刑が高められましたので、公然事實を摘示して名譽を毀損する場合の保護規定としては十分であろうと思いますけれども、なお二百三十一條の事實を摘示しないで、人を侮辱した場合の規定を削除いたしますと、名譽毀損の程度にはいかないが、單純な侮辱行為をなした場合に、外交使節に對する保護規定が缺けるのであります。この點は一擧に二百三十一條を削除することによつて、外交使節に對する名譽の保護が十分でないということは、私どもも認めるところでありますから、この點につきましても、もし御修正の御意見がありますれば、私どももそれに對して善處しなければならぬというふうに考えておるのであります。しかしながらその他の外交使節に對する特別な保護規定を設くべきか、また皇室に對する特別なる規定を設くべきかという點につきましては、これまで申しましたようにこの改正案をもつて御贊同を願いたいと存じております。
○花村委員 大體質問は終ることに相なつてきましたが、最後に一點附加えてお伺いいたしておきたいことは、天皇に關しますところの名譽に對する保護規定を、ここに不備ながらも改正せられたのでありますけれども、この皇室に對する不敬罪の罪質等よりみまして、むしろ通常の誹毀、侮辱、罵詈、讒誹とかいうような行為が相當あるのではないか。名譽毀損の程度に至らない不敬の行為、あるいは言語、形容もしくは書畫等が頒布されるというようなおそれが多分にあると思うのでありまするが、こういつた點は事實を摘示して、そうして皇室の名譽を毀損するに至らなければ、いかなることをやつてもかまわない、こういう意味ですか。そういうことになるのでありましようか。この罵詈讒謗、誹毀、侮辱等の行為は、そのいかなる方法手段を講じてもよろしいというのであるかどうか。その點をお尋ねしておきます。
○佐藤(藤)政府委員 この改正案におきましては、二百三十一條の單純な侮辱罪の規定を削除いたしております。これを削除いたしますると、事實を摘示しないで公然人を侮辱したような場合、ただいま御説例のような罵詈、讒謗たとえば、ばか、あるいは畜生というようなことで人を侮辱した場合には、刑法上何らこれを取締ることができなくなるのであります。その結果侮辱せられた相手方が、皇室に對する場合でありましても、一般國民と同樣に侮辱罪は成立しないということになりまするので、現在よりも名譽に對する保護が、その點において缺けるのではないかという御心配はごもつともに存ずるのであります。しかしながら事實を摘示しないで公然侮辱するというような行為は、名譽毀損といつてもごく輕微なものでありまして、さようなささいな行為については、英米法においてもこれを處罰しておらない例を參照いたしまして、一應これを削除いたしたのでありますが、この點につきましては、皆さんの御意見——刑法において二百三十一條を削除することは、名譽を保護しようとする改正案の趣旨に副わない、現行法通り存置すべし、あるいは場合によつては刑を高むべしというような御意見が大多數でありますならば、その點に對しましては虚心坦懐に、私どもも再考いたしたいと存じております。
○石川委員 ごく常識的なことでありましてわかり切つたことでありますけれども、二百三十二條に附加せられました一項につきましてお伺いしたい。ここには外國の君主と大統領の名譽毀損の場合でありますが、その國の代表者が告訴權を行うということになつておるのであります。これはどういう理由に基きますかということをお尋ねしたいのであります。天皇、皇后その他に對する名譽毀損につきましては、内閣總理大臣が告訴權の行使を代行するということがありますが、外國の君主、大統領の場合はどういうことに基きますかを明らかにしておきたいと存じます。
○佐藤(藤)政府委員 外國政府においてその告訴權を行う代表者として指定されるのは、おそらくわが國に駐在する外交使節であることが普通であろうと思われまするが、もし外交使節がおらない場合には、他國の外交使節に代表者として告訴權を行使せしめるというようなことも考えられるのでありまして、ここで告訴權を行使する者がその外國の何人であるかということを、具體的に示すのは不適當でありまするので、「代表者」といたしまして、外國政府の具體的な指示によつて代表者がきまるものと解釋いたしております。
○石川委員 そういたしますと、大統領とか外國の君主が自國におられるのであるから、便宜的に代表者というものに告訴權を行わしめる、こういう御意味でございますか。特に天皇の場合のように、告訴權を行使しないであろうことを豫見せられて、代理權を設けたという趣旨ではないかということをお伺いしたいのであります。
○佐藤(藤)政府委員 その點はまつたく御説の通りでありまして、わが國に滯在する外國の君主、大統領が犯罪の對象になつたような場合、その名譽毀損について告訴權を行使するということは、やはり期待しがたのでありまするから。代表者をもつて行使せしめようというふうな制度にいたしたのであります。
○石川委員 しかしこの條文によりますと、わが國に滯在するばかりではなくて、外國に在る君主、大統領の名譽毀損をいたしました場合には、これは告訴せられるとみなければならぬような條文の規定であるまするが、そうではないでしようか。これは日本國に滯在する場合のみに限るのでありますか。
○佐藤(藤)政府委員 その點は日本に滯在する外國の君主、大統領に限つてはおりません。國交に關する罪におきましては、現行刑法において、わが國に滯在する外國の君主、大統領というふうに限りましたけれども、名譽毀損罪についてはわが國に滯在する者には限らぬ。本國におられましても、その者に對して名譽毀損の行為があれば、その國の代表者が代つて告訴權を行使するという制度にいたしたのであります。
○石川委員 そういたしましとこの二百三十條の「公然事實ヲ示シ人の名譽ヲ毀損」とありますのは、世界に存在するすべての人、こう理解しなければならぬことに相なるかと存じますが、さようでございますか。
○佐藤(藤)政府委員 その點は刑法第三條の十二號において、第二百三十條の罪については帝國外において罪を犯した日本國民に適用されておりますので、日本國外において名譽毀損の犯罪を行つた場合も適用されるのであります。
○石川委員 要するに二百三十條の人と申しますのは、世界のいずれの國の人をも、私たちがもし名譽毀損をいたしましたならば、その人から告訴される。こういうことに一應解しておきまして、そうして何らか法令か規則ができましたときには、それに從わなければならないか。それをお伺いしたいのであります。
○佐藤(藤)政府委員 ただいま申し上げましたように、その犯罪の行われる場所が、日本國内であると國外であるとは問わないのでありまして、名譽を毀損せらるる被害者は、その人種いかんを問わないものと解釋いたす次第であります。
○石川委員 もし少しお聽きいたしたい。君主、大統領、この二つを限つてここに書いてあるのでありますが、私の見るところによりますれば、君主であるか、大統領であるか。大統領も君主も、獨立國家としてないような國が現在ではあるではないかと存じます。そこで君主の意味と大統領の意味とをお聽きしておきたいと思うのであります。
○佐藤(藤)政府委員 外國の君主または大統領であるかどうかということは、その外國の國内法なり、また國際法上の解釋によつてきまつてくると思うのでありますが、具體的な問題、たとえば中華民國の蒋介石氏が、君主なりや大統領なりやというようなことになりますと、これはいろいろ學者間によつて解釋も違いますので、一に裁判所によつて判斷してもらうよりほかはないだろうと存ずるのであります。
○石川委員 そういたしますと、ここにありますところの大統領、それから君主、こういうもののラインの中には、世界に存在する獨立國家のすべての、何と言いましようか、國内法上もしくは國際法上、その國を代表している者、こう解釋すべきでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 さように存じております。
○石川委員 ここに明らかにしておきたいのでありますが、ソヴィエトの場合におきましては、私詳しくは知りませんけれども、代表者と相なりますものが必ずしも明らかでありませんで、國權行使をいたすものが、數人の委員によつて決定されるかのごとく承知しておりますが、その場合において、その執行委員長という名前が、やはりその場合における君主もしくは大統領とみなされるのでありましようか。
○佐藤(藤)政府委員 ただいま申し上げましたように、そういう具體的な例になりますと、私どもの行政解釋をもつてかえつて誤解を生ずるおそれもありまするので、具體的な例については裁判所の判斷によつて行われるよりほかないものと解しております。
○石川委員 よく了承いたしました。
○花村委員 ただいまの問題にちよつと牽連してお尋ねしたいのですが、今政府委員の御説明によると、「外國ノ君主又ハ大統領ナルトキハ其國ノ代表者代リテ之ヲ行フ」という規定は、要するに國内、國外を問わず、日本國民に適用されるという御説明であつたのでありますが、外國でこの種犯罪を犯した場合においては、外國の法律によつて處斷せられるのでありますから、從つてこの刑法の適用は、日本國民にして日本國内でこの種犯罪を犯した場合に適用されるということになるのじやないですか。外國で外國の君主または大統領に對する犯罪を犯した場合においては、それぞれの國の法律で適用されるので、その適用された法律に對して刑の執行が終つた場合においては、日本の法律によつて再び罰することはできぬという規定があつたように思うのでありますが、それはいかがでしようか。
○佐藤(藤)政府委員 刑法に規定せられております普通の犯罪は、日本國内において犯罪を犯した日本國民に適用されるのが普通でありまするけれども、比較的重い犯罪につきましては、日本國外において罪を犯した日本國民に、なおわが刑法を適用するということが、刑法第三條に明記いたしておりまするので、第三條の第十二號に照らしましても、ただいまお示しの名譽毀損罪については、日本國内において名譽毀損罪を犯しても、また日本國外において名譽毀損罪を犯しても、その日本國民には刑法が適用されるというふうに解釋されるのであります。さらに、お示しのように、外國においても、もちろん外國において名譽毀損を犯した日本國民を處罰するでありましようけれども、その處罰された日本人がわが國に歸つてまいりますれば、さらに日本國においてこれを裁判し、處罰することができるのであります。但し、同じ行為について、すでに外國において裁判を受け、刑の執行を終えておる場合には、日本國において裁判せられて、刑を執行する際に、その勤めただけの刑は、日本國において刑の執行を免除するという趣旨に今囘規定を改めたのであります。
○花村委員 この二百三十二條の皇室に對する罪については、内閣總理大臣が告訴するのであるが、その告訴は内閣總理大臣の固有の權利である代理權ではないというお話であつたのであります。そうすると、「外國ノ君主又ハ大統領ナルトキハ其國ノ代表者之ニ代リテ行フ」というのでありまするから、これは代理權限に基くものですか。いわゆる代表者の固有の權利によつてやるわけでしようか。それはどうでしよう。
○佐藤(藤)政府委員 さように解釋いたしております。
○花村委員 そうしますと、こういう場合は實際にはあり得ないと思いますけれども、しかし理窟としては考えられる。内閣總理大臣もしくは代表者の固有の權利であるということになりますと、その名譽を毀損された本人が告訴する意思がない。告訴の意思を抛棄した場合でも、これまたどうにもならぬということになるのでございまして、その邊が親告罪の本質から考えまして、相反することになるのではないでしようか。親告罪は要するに本人がその告訴をするかしないかということを、その本人の意思に任せるというのが親告罪の本質であるのでありますが、本人は告訴をしたくないという場合、告訴をしまいといたしておる場合でも、それを他の者が強いて告訴するということは、親告罪の性質に反することに相なとうかと思いますが、その點はいかがですか。
○佐藤(藤)政府委員 親告罪は、被害者たる本人の意思を重んじて、その被害者が犯人を處罰せられたいという意思を表示する、すなわち告訴を待つてこれを論ずるのがその本質であります。従つて法律論といたしましては、お説のように、被害者の意思にかかわらず、代表者が代つてこれを行うということは、まことに理論が一貫しないようにみえるのでありますけれども、ここに列擧せられましたものは、とうていみずから告訴をすることを期待しがたい人たちなのでありますから、かような告訴をなすことのできない人が、名譽を毀損せられた場合には、その人に代つて、内閣總理大臣またはその國の代表者が、獨立してその告訴權を代つてこれを行うという制度にいたしたのであります。
○花村委員 そうすると、これは、内閣總理大臣もしくは代表者が告訴が告訴をした場合に、その被害者本人が、告訴をやめてもらいたいという意思があつても、内閣總理大臣もしくはその代表者がやめぬということであれば、それはどうにもならぬという結論になるわけですが、そういうことは不合理じやないでしようか。あるいは内閣總理大臣が天皇の名譽毀損に對して告訴した場合に、天皇が告訴の意思なしという場合でも、内閣總理大臣がたつてその告訴をどこまでも遂行するということになりますと、非常に本人の意思に反することに相なるのでありますが、やはり希望せざることまでも、いやが應でも押しつけて保護をしなければならぬという必要を認めるのでしようか。その點はどうしようか。
○佐藤(藤)政府委員 被害者の意思を尊重して、被害者の意思に從つて告訴をするということになりますれば、その告訴權を行使する者が、どこまでも責任を負わなければならぬということは理の當然なのであります。ところがここに掲げられたものは、みずから告訴することが期待しがたい。とうてい告訴しない人たちを掲げたのでありまして、そういう人に代つて告訴權行う以上は、その本人の意思いかんにかかわらず告訴權を行使する。從つてその告訴の成行き、結果については本人に何ら責任を負わせないという仕組にいたしたのであります。しかしながらかような代表者が本人に代つての告訴權を行う、しかも本人の意思いかんにかかわらず、自己の責任において告訴をするのでありますから、この重大なる告訴權を行使するにつきましては、相當愼重な態度をもつて臨むだろうと思いまするので、實際上はかような制度にすることによつて、何ら不都合は生じないだろうというふうに考えられるのであります。
○松永委員長 大島多藏君。
○大島(多)委員 私は内亂に關する罪について簡單にお尋ねしたいのであります。今囘の改正におきまして、憲法改正に伴つて必要であるところはほとんど漏らさず改正になられたことだろうと思うわけでありますが、第二章の「内亂ニ関スル罪」のところで七十七條「政府ヲ頴覆シ又ハ邦土ヲ僭竊シ其他朝憲ヲ紊亂スルコトヲ目的トシテ暴動ヲ為シタル者ハ内亂ノ罪ト為シ」云云とありますが、政府を頴覆し、朝憲を紊亂することを目的として暴動をなしたる者、この條文に昨年行われました一種の食糧デモと申しますか、ああいうものが、私などの考えるところでは相當關連するやうな感じがいたす次第であります。この暴動というものをいかに解釋するというところに違いができてくるかもしれまんが、この七十七條は今囘の改正の對象になつておりませんが、この七十七條を讀みますときに、何だかこれもやはりもう少し何とか書きかえなくてはならぬというような感じをもつのでありまして、政府當局としてはこの點は御考慮になりましたでしようか、ちよつとその點をお伺いいたします。
○佐藤(藤)政府委員 刑法の内亂に關する罪でありますが、これは御承知のように、わが國の基本組織を變更しようという目的で暴動をなした場合に、内亂罪が成立するのでありまするから、ただいま御引例になりました示威運動のようなものは、内亂に關する罪というよりも、場合によつては騒擾の罪として疑いをかけられる恐れがあるだろうと思うのであります。なお新憲法の精神に副うて、この刑法改正案を立案いたしまするについて、もちろん内亂に關する罪の檢討をいたしたのでありますけれども、今までのところ現行刑法をもつて十分であろうという考えから、内亂に關する罪は何ら規定を加えなかつたのであります。
○大島(多)委員 この場合七十七條に書いてあるところの暴動ということは、私はそういうことは知りませんが、慣例上どれくらいのところを暴動と申すものでありましようか、その點をお伺いしたいと思います。
○佐藤(藤)政府委員 内亂罪の構成要件でありまする暴動というがためには、大勢の者が暴行、強迫、殺傷、器物毀棄等の行為を、つまり集團的に行う場合に暴動というふうに認定されるだろうと思います。
○大島(多)委員 そこのところは大體御説明でわかりました。このたび外患に關する罪のところで八十二條にこれは新たにと申し上げた方がいいような規定ができております。八十二條におきまして「軍事上ノ利益ヲ與ヘタル者ハ死刑又ハ無期若クハ二年以上ノ懲役ニ處ス」、こういうのでありますが、この軍事上の利益と言うのは、私は言葉として非常に漠然としたものと思うわけであります。この中には國内にありまして、そうして國内の混亂を來すような一部急進分子の思想的運動というようなものも、この軍事上の利益の中へはいるものであるかどうか。その點を御説明願いたいと思います。
○佐藤(藤)政府委員 従来軍事上の利益というのは非常に廣く解釋せられておりまして、直接武力でなく、金品を與える、あるいは食糧を與える、あるいは輸送の便を與えるというようなことを例示せられておるのでありますが、ただいまお尋ねの思想の混亂を起さしめるというようなこと、單なる思想運動に止まると申しまするならば、あるいは問題はないだろうと思います。けれどもそれが直接實行に關連しておる場合には、やはり軍事上の利益を與えたものと認定される場合が多いだろうと思うのであります。
○大島(多)委員 それからもう一つこれは別のことでありますが、お伺いしておきたいことは、この間戰爭中國外にありまして、そうしてわが國に對して非常な、日本人でありながらわが國の敗戰を希望し、あるいは希望するような方面に努力した人が遺憾ながらあつたわけであります。そういう人たちが終戰後わが國に歸りまして、そうしてあたかも凱旋将軍のごとくふるまつておるということは、私たちとしては非常ににがにがしく思つておるわけであります。前の刑法というものが有效であるとすれば、もちろんこの外患に關するところの罪に相當するわけでありますが、そういう人たちがなぜ處罰の對象にならなかつたかということは、これはいかなる法的根據によるものであるか、その點をお伺いしたい。
○佐藤(藤)政府委員 過去の戰爭中外國においてある行動に出た者が、わが國に終戰後歸つて來てから、何ら処罰を受けないのはどういう理由に基くかというお尋ねのように拜承いたしたのでありますが、その外國に滯在中の行動が直接刑法その他の刑罰法令に觸れる場合は、もちろん犯罪が成立しておるのでありまして、時效にかからない以上は、わが國に歸つて來てからもこれを處罰することができるのであります。ただ御承知のように敗戰の結果、ポツダム宣言を受諾することにいたしまして、また連合國最高司令部の覺書によりまして、過去の思想犯は一切これを釋放しなければならぬ。またすでに刑を受けた者、また刑を受けない者でも、みな過去における二囘の恩赦令により、大赦の恩典に浴しておる次第なのであります。具體的には存じませんが、お尋ねのようなものは、大抵この大赦によつて赦免せられた結果、處罰を免れておるものと解釋いたされるのであります。
○岡井委員 姦通罪につきましてお伺いいたします。私は男女の關係は天地の關係のごときものであつて、天が上から雨を降らしてくる。土地がそれを受けて萬物を成長せしめる。そこで夫のある妻はそういう作付豫定地である。また植物が繁茂しつつある土地でございます。尊貴無比の寶物なのでございます。そこでこれを犯そうとする他の男子、これは不都合なことは言うまでもございません。すでに作付豫定地になつているし、また植物が繁茂しつつあるにかかわらず、とんでもない天の一角から雨の降らんことを望む土地のごときは、實は不都合でございます。そこでこの尊貴なる夫ある妻の地位でございます。その妻の無限に貴いということを認めましての上の姦通罪であろうと思います。しかるに今これを削除なさいますことは、これは男女同權であつて、女の劣等感から來ている。その姦通罪を削除するということは、私の懐いている理論とまつたく違つているのでありまして、これは姦通することが權利であるという思想に基いているのではないかと思うのでありますが、姦通することが權利ならば、權利と同時に義務がございますから、姦通する義務もあるのでございますが、われわれは姦通する義務はないのであります。私は私の理論から言いますと、姦通罪を認めることが、かえつて妻の地位を無限に高めるゆえんである、かように思うのでございますが政府委員なり、また一般世人は、これは妻を劣等視する觀念の現われである。そういうぐあいに私どもとまつたく正反對でございますが、いかがでございましようか。
○佐藤(藤)政府委員 刑法百八十三條において妻の姦通を處罰しておる現行刑法を削除いたそうとしますのは、この規定が夫婦平等の原則に反するものであるからこれを削除しようというのも一つの理由であります。なお夫婦間は先ほど申し述べましたように、私どもの考えるところでは性的純潔を保たないければならぬという義務をお互いに負うておるのである。その義務の上に夫婦の愛情があり、また道義が立てられなければならぬものであるというふうに理解いたしておるのであります。決して姦通罪の規定を廢したからといつて、姦通は許さるべきものである、あるいはただいまおつしやつたように權利であるというようなことは毛頭考えておらないのみか、姦通はどこまでも罪惡である。夫婦間の貞操義務に違反する罪であるというふうに考えておるのであります。この罪を解決するのに事の性質上、夫婦間の愛情と道義によつて解決することが妥當であろう。刑罰をもつてこれを解決するのは無理があるのではないかという考えから、これを削除いたしたのであります。
○岡井委員 一たび姦通が行われましたならば、法律ではとうてい解決する力はないのでございます。これをよく認識しなければいけません。すでに姦通があつた以上は、それを姦通罪で罰してみたところが、法律の手の届かない世界でございますので、私どもは古來から姦通罪を犯罪の中でも王樣と認めておる。つまり妻が關係しておる從來の姦通罪は、犯罪の中でも王樣となつております大犯罪でございます。これは一家にとつても重大な犯罪でございますが、これはやはり掲げておく方が法律政策としては相當である。掲げることだけが必要であるというのでございます。一たび姦通が起きて罰してみたところがどうにもなるものではないのであります。實にばかばかしい話であります。それをよく認識しなければいけません。ただ掲げるということが大事なのではないかと思います。 それから次に皇室に對する罪も一括してお伺い申し上げますが、憲法に象徴という言葉が使つてございますが、この言葉一つ、それからただいま花村委員もおつしやいました外國君主に對する危害罪、名譽毀損ぐらいはどうでもいいが、危害罪は相當考えて、日本の天皇に對する罪と外國君主に對する罪とを、一括して規定を設けられたならば、外國に對する思惑も同時に解決する問題ではないかと思うのでございます。また理論から申しましても、まさにしかあるべきであつて、憲法に象徴という文字を使つてあるのは、だてに使つておるのではないと思います。 それからもう一つの理由は、日本で被害者が即死を遂げておる場合、わきばらへ穴をあけられて即死を遂げたる事件、これはことごとく殺人罪である。つまり人が死ぬということに向つて死んでもどうでもよろしいということに向つて認識がある殺人罪であると思うのでございます。私は統計をとりかけたこともございますけれども、まず八割までは傷害致死で終つておるようであります。そこで不良少年仲間では、眠らせてもとにかく五六年で濟むということが常識になつております。それで人をやつておいて、五六年したら歸つてくるよと言つて出かけるのであります。これは今までの天皇に對する危害罪を除くということになりますと、この邊のことも考えなければならぬのであります。今では謀殺とかなんとかなればともかく、その場でやつたような場合は、ことごとく五六年經つたら歸つてくるのです。罪名は殺人罪にあらずして傷害致死なんです。不名譽でもなんでもない。そういうのが今の裁判の状態であります。それでは一國の象徴たる天皇に向つての加害者たる場合に、そういうことになると妙なことになりますので、これはやはり今までの刑法のごとくに、法律を設ける以上は、法文でもつてうたつておくのが至當ではないでございましようか。刑は刑なきを期するというのが私どもの建前である。私どもも政治家の末輩でありますが、ここでこういうような小議論をしておるのは大嫌いでありまして、性分に合わないのであります。しかし法案を出されれば審議しないわけにいかぬので、やむを得ず審議しておるのでございますが、いやしくも刑法を設ける以上は、やはり大義名分を明らかにして、道徳にも宗教にも合致するような法律をつくらなければならない。しかるに今まで承つておりますと、姦通罪と過失に對する罪は、法律などはどうでもいいのだ、實際に任しておいて心配はないのだ、安心したまえというような御議論に承れるのでございます。 それから時間をとりますから一括して申し上げますが、こちらは遠慮したつもりでも、向うはかえつてばかにしておるようなことがよくあるようでございますが、それでは何にもならない。かえつて外國では、議會などでかような立法をしますと、日本民族は今までもさように聞いておつたが、はたしてさようである。實に腹黒き人種である。油斷はならないということを彼らは必ず覺るであろうと思います。そこで關係方面の眞の腹をお聽きになつたかどうか承りたいと思います。またかような大問題について日本の權威者の説をお聽きになつたでしようか。そこらにおるようなへなちよこ連中はどうでもいい。大體日本における權威ある言論が一つも出ないことが、國家今日の悲況に陷つた原因であります。私のお聽きしたいのはそれだけでございますが、ただいま民法の相續の方で大いにお惱みのように拜見しております。私は農地調整法などという、ばかばかしい法律をどうしてつくつたかと思つたが、はたせるかな、これは數十年經ちますと、今の耕作者は小作人の地位に轉落する。共有者の持分のみいたずらに殖えてきて、それに對する小作人の地位に轉落するのです。二十七分の一くらいの地主になりまして、二十七分の二十六の地主が後に控えておるというようなことは、わかり切つたことです。これはいやしくも數學を學ぶ者のわかりきつた理論であります。それからまた一反の田がわずかに八百圓、これも農村は、ばかにされておる。農村問題は農村部内にあらずして、農村以外の階級のものであるということを知らないから、貧弱なる農村を相鬪わしめておる。一反の田が今だつたら靴一足にも足らない、三分一足しか買えない。かようなばかげ切つた法律をつくるようになるのであります。かような重大なることは、去年の議會でも何ら審議されませんでした。そこでこういう姦通罪とか、皇室に對する罪とかいうようなものを廢止するという御議論になつてきますと、法案を出されたが、他にも法案があるから、これをわずか十日や二十日間でやらぬと、後がつかえてやれぬというようなことではならぬ。後から後からこういうものが出てくるということは、官僚と政治家の仕事が殖えて、われわれ飯の食いあげにならないから、結構ではございますけれども、私はこんなことではしようがないじやないか、こういうような感じを懷いておるのでありまして、重大なる事柄に對しましては、前もつて方法もあつたと思いますが、何とかお考えおきを願いたいものと思つております。雜駁なことをお伺いしましたが、私の申し上げる點は以上のような點であります。
○佐藤(藤)政府委員 皇室に對する罪を削除する改正案を立案するにあたりましては、最も重大な問題でありますので、昨年以來、この一年間、私どもは非常に苦心に苦心を重ね、また愼重にこれを取扱つたつもりでございます。司法法制審議會において朝野の學識經驗者の意見も十分に徴しました。また法律案については、刑法に限らないのでありますが、すべての法律案は一應連合國最高指令部の審議をも經ておるのであります。この點の取扱いについては十分遺憾なきを期したつもりでございます。 なお刑は刑なきを期すという御意見でありますが、理想としては、まつたくそうでなければならぬと存ずるのであります。從つて刑法の現存する規定におきましても、もし刑罰なしで濟むものならば、その規定を削除したいという氣持においては、ただいまのお議論とまつたく異るところはないのであります。
○岡井委員 この姦通罪、皇室に對する罪のみを、天下大平であるというふうな御議論のように承つたのでありまして、これは法律審議をやつておりまするこの席上には不足はないように考えられるのでありまして、一つの法律をつくる以上は大義名分を明らかにしなければいかぬじやないか、心配がなさそうだからこれで放つておくという考え方は、よくないでございましようということをお伺いするのでございます。
○佐藤(藤)政府委員 皇室に對する罪と姦通罪の規定は、ともにこれを削除いたしましたが、その他の規定においては、刑を高めてこれを整備いたしたものもあるのであります。それはもつつぱら新憲法の精神に副うて整備いたしたのでありまして、いかに刑は刑なきを期すという理想を貫徹しようとしましても、新憲法の精神に副うように規定を整備しなければ、とうてい治安の維持も保てない。また公共の福祉を増進することもできないという考えから、自然現存の規定を整備するという程度にいたしたのであります。
○岡井委員 今の御説明でまだ承服申し上げかねるのでございますが、これで終ります。 それからここでちよつとお伺い申し上げたいのでありますが、失火罪の刑を高めましたならば、今の國家の寶である最も缺乏している家屋なり、材木なりの燒失が防げるでございましようかどうかということを、次會までで結構でございますから、お考えを承りたいのでございます。もしこれが防げるならば、私はこれはもう數年前から絶叫しておるところでありますが、失火罪に向つて懲役刑でも何でも課するがよろしい。今の東北の大水害のごときも濫伐の結果でございますから、可法省はもう既にとくとお考えになつておられるのではないか。私昔から思つて進言したこともあつたのですが、何ら顧みられないのです。もし今の罰金とか何とかなつておるのを、思い切つて懲役刑にして、日本の森林なり、家屋なりが、多少なりとも防げるものならば、そうやつていただきたい。これはひとつ御考慮願いたいのでございます。われわれ議員の方から出してもよいのでございますけれども、一刻を爭う問題だと思いますので、御考慮願う次第であります。
○佐藤(藤)政府委員 失火によりまして、非常に大切な國の財寶を烏有に歸する。また公共に非常に危險を感ぜしめておる事實につきましては、私どもも同樣に憂えておるのでありまして、もし失火罪の規定を改正して、現行刑法の刑を高めることによつて、いくらかでも失火の憂えを防げることができまするならば、この點の改正についても、十分考慮いたしたいと考えておるのであります。
○松永委員長 本日はこれにて散會いたします。 午後四時三十八分散會